説明

みりん風調味料

【目的】本発明は、従来から存在する発酵調味料、みりん、みりん風調味料などとは全く異なった、まろやかな苦味とコクのある芳醇な風味を持つみりん風調味料の提供を目的とする。
【構成】本発明のみりん風調味料は液体紅麹に蒸煮米を加え、これを糖化酵素により糖化して得た紅麹糖化液あるいは液体紅麹を醸造用アルコールで色素抽出して得た紅麹抽出液を苦味剤とすることにより得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の目的】
【産業上の利用分野】本発明は家庭用、業務用又は各種食品の加工用等々として好適なみりん風調味料に関する。即ち、本発明のみりん風調味料は紅麹由来の苦味剤を成分とすることが特徴で、呈味としてまろやかな苦味とコクのある芳醇な風味をもつもので、家庭用における利用を始め、かまぼこ、竹輪、揚げかま等の水産練製品、佃煮、味付のり、みりん干、塩辛、珍味などの水産加工品、餃子、シューマイなどの中華惣菜、煮物、和え物などの和風惣菜、ハンバーグなどの洋風惣菜等の惣菜類、めんつゆ、天つゆなどのつゆ類、コーンスープ、ポタージュスープなどのスープ類、焼肉のタレ、蒲焼きのタレなどのタレ類、ハンバーグソース、デミグラスソース、パスタソースなどのソース類、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの畜肉加工品、醤油漬、酢漬、粕漬、浅漬などの漬物、生中華麺、生うどん、餃子の皮などの小麦粉加工品、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシングなどの洋風酸味調味品、ポン酢、すし酢、サラダ酢などの和風酸味調味品、飲料、酒類、米飯、パン、米菓、和菓子、洋菓子、冷菓、缶詰、びん詰、チューブ詰、乳製品、ペースト類、ジャム、カレー及び調味済食品、即席飲食品、粉末タイプ食品等の各種食物用としての利用、更には、健康食品、機能性食品用としての利用、口中清涼剤、うがい薬、内服薬等の医薬用としての利用、或いは、タバコ等々の各種の多分野に利用できる新規なみりん風調味料に関する。
【従来の技術】みりんは我が国独特の高糖分のアルコール調味料である。みりんは酒税法における酒類に分類され、その本みりんに該当するものは次のように定義されている。■米及び米麹に焼酎又はアルコールを加えて濾したもの。■米、米麹及び焼酎又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて濾したもの、である。即ち、みりんは主原料として米(もち米、うるち米)、焼酎又はアルコールを用いるが、その他酒税法で許可されているとうもろこし、ぶどう糖、水あめ、たんぱく質分解物、有機酸類、アミノ酸塩などを用いてアルコール存在下での熟成工程により作られているアルコール調味料である。一方、みりんの代替品として酒税法の酒類には含まれない「みりん類似調味料」が相当量利用されている。これには食塩を含んでいる塩みりん系の「発酵調味料」と甘味系の「みりん風調味料」とがある。前記発酵調味料は酒類の醸造形式を基本とするもので、一般には米、米麹を主原料として、食塩の存在下でのアルコール発酵工程と発酵液に種々の糖質などの原料を加えて消化熟成させる熟成工程によりつくられているアルコール系調味料である。前記みりん風調味料は発酵形式を伴わず、アルコール存在下での熟成工程もなく、主原料の水あめ、ぶどう糖に有機酸類、アミノ酸類、香料、香味などを混合してつくられるアルコール1%未満の甘味調味料である。これら調味料等を分類すると、酒類の「みりん」と非酒類の「発酵調味料」と「みりん風調味料」に大別されるが、一般的にはその主成分は次の通りである。即ち、みりんはアルコール分13.5〜14.4%、糖分43〜48%である。発酵調味料はアルコール分7〜13%、糖分10〜30%、食塩2%程度である。みりん風調味料はアルコール分0.5〜0.9%、糖分40〜60%である。以上説明した如く、従来における発酵調味料、みりん、みりん風調味料等は原料、製法、品質は異なるものであるが、基本的には澱粉質原料からの糖化物を最大限利用する原理に基づくため、糖分としてはいずれも澱粉の構成単位であるグルコースを高濃度に含有するもので、グルコースはおだやかな甘味特性を有し、発酵調味料、みりん、みりん風調味料等のきわめてデリケートな香味を生かすのに最適であり、このグルコースの甘味特性による調味効果が、上述した調味料の風味の骨格である。これに対して更に紅麹由来の苦味剤による苦味付加を基本的呈味成分とした調味料類は従来の技術にはなかったものである。
【発明が解決しようとする課題】我が国では生活が豊かになって食生活が多様化し、加工食品、調理済み食品やファーストフードなどの利用が急激に増加してきており、食生活に対する考え方、加工食品等に対する要求も益々多様化している。このような背景のもと、調味料においても目的に応じた品質設計が求められているが、みりんは酒類に属し、酒税が課せられていると同時に、酒税法によって製造法、原料等が厳しく規定されており、調理用や加工食品用に適した品質に改良しようとしても限界があった。このために、従来において酒類ではなく食品として製造される発酵調味料およびみりん風調味料が開発されてきたが、これらもみりんを意識した代替品としての性格からその構成糖分はグルコースを主体とするもので、グルコースの甘味特性による調味効果を期待するものであった。本発明は、上述した従来からある調味料等とは異なり、紅麹由来の苦味剤を含有することが特徴で、呈味としてまろやかな苦味とコクのある芳醇な風味により、従来の調味料と比較して、呈味改善効果の優れた新規なみりん風調味料を提供することを目的とするものである。
【発明の構成】
【課題を解決するための手段】以下に本発明を詳しく説明する。食物の味は、甘味、酸味、塩味、苦味という四つの味、即ち四原味が基本になり、これにうま味、辛味などの味が加わって、更に堅さ、温度、弾力、粘りなどの物理性と、形、色、香り、食べる環境や体の条件などの生理的、心理的条件が総合されておいしさが決定されるといわれている。また、甘味、塩味は生理的な味、酸味、苦味は心理的な味とも言われている。例えば、疲れたような時甘味がおいしく感じられたり、あるいは激しい発汗がある時は塩味を求めたりするのは、血液中の糖分、塩分を一定に保持しようとするからだの生理作用に基づくものである。これに対して酸味、苦味が心理的な味と言われるのは、例えば、ストレスが高まった時など酸味が気分をやわらげたり、感情が昂じたときなど苦みを強く感じたりするからである。この四原味のうちで、甘味、塩味、酸味の三つの味は、それぞれ砂糖、塩、酢という原味と同じ味を持つ単独の食品が存在し、これらは基礎調味料として広く利用されている。これに対して四原味のうちで、苦味ついては単独で広く利用されている食品はほとんどなく、たとえ存在するものがあったとしても苦味はそのままでは決してよい味ではなく、苦味物質単独では風味的に価値がないとされている。しかしながら例えば、コーヒーの苦味、コーラ飲料の苦味、日本茶の苦味、ココアやチョコレートの苦味、ビールの苦味、八丁味噌の苦味、柑橘類やマーマレードの苦味などは、これら飲食品の独特な味を構成する上で重要な役割を持ち、嗜好上重要なものとなっている。即ち、適量の調味された中で適量の苦味は、味に複雑さをもたせて飲食品にしまりと力を与え、食品の味に大きな影響を与える風味増強物質である。有用な苦味物質としては、上述の飲食品に関係するものであるが、コーヒーやコーラ飲料及び日本茶の苦味はカフェイン、ココアやチョコレートの苦味はテオブロミン、ビールに利用されるホップ中の苦味はフムロンとルプロン、柑橘類である夏みかんやグレープフルーツの苦味はナリンギン等であり、苦味が風味の大きな特徴となっている。これら苦味物質を含有する飲食品または、その苦味成分単体を風味増強物質として、例えば、本発明の如くその文字の通り、味を調える目的で使用されるみりん風調味料に対して利用することは特に効果的であり、理にかなっている。本発明に係わるみりん風調味料は、紅麹由来の苦味剤を含有するものである。紅麹は古くから中国、台湾等において酒類や食肉加工、漬物などの食品あるいは消化剤、血行促進剤などの薬剤として利用されてきた。日本においても紅色清酒(特公昭50−2760号)や赤い水飴(特公昭52−4611号)をはじめとして食酢、醤油(濃口醤油)、味噌などの伝統的醸造食品を主体に利用されている。また紅麹から抽出した紅色系色素は天然着色剤として水産練製品(カニ、エビの模造品等)、ジャム、トマトケチャップ、練アン、煮ダコ、すじこ等の着色に広く用いられている。この他に紅麹はアルコール生産能が他の麹に比べて強く、甘い香りを付加させる着香料としての利用や、紅麹には殺菌作用または静菌作用があり、雑菌汚染による変敗を防止する公菌活性剤としての利用もある。更には、コレステロール低下効果、血糖低下効果、高血圧降圧及び昇圧抑制効果、ガン予防効果などの薬理作用を具備した機能性食品としての用途も研究されている。ここで一般に紅麹と呼ばれるのは分類学上のMonascus(モナスカス)属のカビであり、現在約20種、菌株としては約70種が分類されている。例えば、モナスカス・パキシー、モナスカス・ピロウサス、モナスカス・プビゲルス、モナスカス・ルーベル、モナスカス・ビトレウス、モナスカス・パープレウス、モナスカス・ルブロパンクタタス、モナスカス・アンカなどの菌種またはその変異株が使用される。紅麹色素の主成分はモナスコルビン、アンカフラビン等であり、色調による紅麹のグループの大別も行われているが、その目的とするところは色調と香味の関係である。即ち、紅麹には若干強い苦味を有するものが多いが、従来、この苦味は渋味と共に異味として敬遠され、日本人の嗜好には合わないものと評価されたため、紅麹を苦味剤として積極的に食品に利用する試みは、過去、ほとんど見当たらなかった。紅麹の苦味成分は色素区分に顕著であり、少なくとも一部は色素(着色物質)と考えられるが、詳細は今のところ不明である。紅麹の色素生産は通気液体培養法(液体紅麹の製造)または固体麹法により色素生産をした後アルコール等で色素を抽出、濃縮する工程等で製造される。本発明においては苦味成分を有効に利用するため、特に液体紅麹に蒸煮米を加え、これを糖化酵素により糖化して得た紅麹糖化液あるいは液体紅麹を醸造用アルコールで色素を抽出して得た紅麹抽出液を苦味剤とするものである。苦味剤の配合割合は、紅麹糖化液の場合は発酵調味料製品に対して1〜20%、望ましくは5〜10%とする。紅麹抽出液の場合は同じ条件において0.1〜10%、望ましくは1〜5%とする。かくして紅麹由来の苦味剤により、従来からある発酵調味料とは異なって、著しく風味の増強されたみりん風調味料を得ることが出来る。
【実施例】以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)紅麹(モナスカス・アンカIFO 6540)を常法により滅菌培地に接種し、30℃、4日間振盪した後、この培養液を好気的に30℃、8日間通気液体培養法により拡大培養して液体紅麹を得た。
(2)液体紅麹10lに蒸煮米3Kgと糖化酵素(天野製薬製:グルク100)2gを加え、55℃、20時間糖化後、圧搾濾過して紅麹糖化液を調製した。このものは、アミノ酸等のうま味を基本的呈味成分としながら、赤紅色の外観を呈し、グルコースによる甘味に加えて紅麹より由来する強い苦味を有していた。
(3)イソマルトオリゴ糖(群栄化学工業製:グンエイオリゴS)85g、紅麹糖化液12ml、水28mlを混合してみりん風調味料約100mlを調製した。このみりん風調味料は外観は赤紅色、Brix度59.9、pH5.9、アルコール分0.1%、塩分0%で、固形当りの糖組成はイソマルトオリゴ糖とグルコースが主成分であるが、まろやかな苦味とコクのある芳醇な風味が特徴であった。
[実施例2]
(1)紅麹(モナスカス・アンカIFO 6540)を常法により滅菌培地に接種し、30℃、4日間振盪した後、この培養液を好気的に30℃、8日間通気液体培養法により拡大培養して液体紅麹を得た。
(2)液体紅麹10lを遠心分離して沈澱区分(ケーキ)約0.5Kgを得た。このケーキを50%醸造用アルコール5lで色素抽出後、濾過して紅麹抽出液を得た。このものは濃い赤紅色で紅麹より由来するかなり強い苦味を有していた。
(3)酵素糖化水飴(群栄化学工業製:マルトフレッシュSM)62g、全糖ぶどう糖(群栄化学工業製:コーソグル群栄)21.4g、米糖化液10ml、紅麹抽出液1ml、水29mlを混合してみりん風調味料約100mlを調製した。このみりん風調味料は外観は赤紅色、Brix度55.3、pH5.8、アルコール分0.4%、塩分0%で、固形当りの糖組成はグルコースが主成分であるが、まろやかな苦味とコクのある芳醇な風味が特徴であった。
[比較例1]本発明の発酵調味料と成分を比較するため、市販の発酵調味料(料理酒)の分析を行ったところ、当該発酵調味料(料理酒)は、Brix度13.5、pH3.8、アルコール分10%、食塩分1.6%で固形当りの糖組成はグルコースが主成分であるが、紅麹由来の色素成分は含まず苦味は認められなかった。
[比較例2]本発明の発酵調味料と成分を比較するため、市販のみりん(本みりん)の分析を行ったところ、該みりん(本みりん)はBrix度44.5、pH5.3、アルコール分14%、食塩分0%で、固形当りの糖組成はグルコースが主成分であるが、紅麹由来の色素成分は含まず苦味は認められなかった。
[比較例3]本発明の発酵調味料と成分を比較するため、市販のみりん風調味料の分析を行ったところ、当該みりん風調味料はBrix度54.7、pH4.7、アルコール分0.8%、食塩0%で、固形当りの糖組成はグルコースが主成分であるが、紅麹由来の色素成分は含まず、苦味は認められなかった。
実施例1〜2の本発明の発酵調味料と比較例1〜3の従来からある調味料類との使用比較を行った。魚の照り焼き用のタレを調合して比較した。ぶりの切身をタレに3時間浸した後、焼いて味見を行い評価した。
【表1】魚の照り焼き用のタレの配合割合(重量比)


(評価基準=○良好、△やや劣る、×不良)
表1に示した結果の如く、実施例1〜3の本発明のみりん風調味料を使用したタレ(No.1、No.2)は従来からある調味料類を使用したタレ(No.3、No.4、No.5)と比較すると、醤油の塩分カドがとれて味がまろやかになる効果が高かった。本発明のみりん風調味料は苦味による風味増強効果が高いので、従来からある調味料類に比較して使用量は少なくて済む。
【発明の効果】本発明によれば、紅麹由来の苦味剤を成分とすることにより、従来から存在する発酵調味料、みりん、みりん風調味料などとは全く異なって、まろやかな苦味とコクのある芳醇な風味を持つ新規なみりん風調味料を提供することが出来る。即ち、本発明の発酵調味料は、従来の調味料類に比較して、呈味改善効果の優れたものであり、家庭用、業務用または各種食品の加工用等々として多分野において有利に用いられる新規なみりん風調味料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】紅麹由来の生成物を苦味剤成分として含有することを特徴とするみりん風調味料。
【請求項2】紅麹由来の生成物が紅麹糖化液あるいは紅麹抽出液である請求項1記載のみりん風調味料。