説明

めっき下地層を形成する下地塗料、それを用いる筐体の製造方法及びそれにより製造される筐体

【課題】めっき下地層を形成する下地塗料、それを用いる筐体の製造方法及びそれにより製造される筐体を提供する。
【解決手段】無電解めっき法により基材表面に、黒色とは異なる色調を有するめっき下地層を形成する下地塗料であって、
前記下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子、バインダー、着色剤及び溶媒を含み、前記着色剤は、耐薬品性を有する黒色とは異なる色調の平均粒径0.1ないし1μmの粒子又は厚さ0.1ないし1μmの金属フレークであり且つ前記下地塗料中の全固形分に対して5ないし50体積%(v/v)の範囲で添加され、前記溶媒は、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒を含むものである下地塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー塗工においても、溶媒の乾燥性に優れ、黒色と区別できる色目を有し、レベリング性が高く且つ密着性及びめっき析出性に優れるめっき下地層が得られる下地塗料、それを用いるシールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法及びそれにより製造される筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、携帯電話等の筐体における電磁波シールドに関する技術としては、特開2005−240073号公報に開示されているような、銀等の触媒を含むプライマ塗料から形成される被膜上に、無電解めっき法により銅めっき膜を形成させる方法が代表的である。
また、パラジウム等の触媒含有プライマ塗膜上に、無電解めっき法により金属層を形成する方法が、特開2001−11643号公報に開示されている。
【0003】
上記のような触媒を含むプライマ塗膜を介して金属めっき膜を形成する方法では、プライマ塗料中に含まれる銀やパラジウム等の触媒が塗膜全体に均一に存在するが、塗膜表面に存在する触媒のみが無電解めっき触媒として働き、塗膜内部に存在する触媒は使用されず、そのため、高価な銀やパラジウム等の触媒を、本来必要とされる量よりも遥かに多い量を使用しなければならないという点で問題がある。
加えて、特開2005−240073号公報のように、触媒粒子としてある程度の大きさを有する銀等を用いた場合、プライマ塗膜表面には数μm程度の凹凸が生じることとなるが、該凹凸に起因して金属めっき膜表面にも凹凸が発生することになり、そして金属めっき膜表面に凹凸が発生すると表面抵抗値が上がる傾向にあるため、結果として電磁波シールド性能が低下しやすいという問題があった。そのため、上記触媒を含むプライマ塗膜を用いる方法では、金属めっき膜表面の凹凸の問題を解消するために、金属めっき膜を厚くしてその表面を平坦にする必要があった。
【0004】
一方、特開2007−270180号公報には、還元性のポリピロールのような還元性の高分子微粒子(導電率0.01S/cm未満のポリマー微粒子)を用いて形成された塗膜上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成する方法が記載されているが、この方法においては、高分子微粒子が有する還元性によりパラジウム等の触媒金属を脱ドープ(還元)処理を用いることなく塗膜表面上に吸着させることができ、またこれにより、触媒金属は全て膜表面に存在するため該触媒を効率的に働かせることが可能となるため触媒の使用量を少なくすることができ、加えて、上記塗膜は、表面平滑性が高く、これにより、薄い金属めっき膜でも表面の平滑性を維持でき、結果として薄い金属めっき膜でも所定の低い表面抵抗値が得られるという点で優れた方法といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−240073号公報
【特許文献2】特開2001−11643号公報
【特許文献3】特開2007−270180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載の還元性のポリピロールを含む塗料を、筐体シールド形成用の下地塗
料として、スプレー塗工したところ、溶剤の揮発性により、吐出から着弾までに溶剤が乾燥してしまい、下地層が均一にならない場合があることが判った。
下地層が均一にならないと、下地層は斑点状となり、該層上に金属めっき膜を形成した場合、膜厚の均一性が低下し、結果として密着性が低下する。
上記を解消するために上記塗料中に低揮発性溶媒やレベリング剤を添加したところ、下地層は均一となるものの、揮発性の低下により下地層中に溶剤が残留し、それにより、該層上に金属めっき膜を形成した後、熱をかけると残留した溶剤が揮発して、めっき膜が浮き、結果として密着性が低下する場合があることが判った。
この下地層中に残留した溶剤を加熱で除去することは、筐体が熱可塑性樹脂等から形成される場合、高い温度で乾燥処理することはできず、また低い温度での長時間の乾燥は作業効率を低下させるため好ましくなく、また、筐体は必ずしも単純な形状ではないため、全体を均一に加熱乾燥すること自体が必ずしも容易でない。
上記の問題に加え、ノートパソコン等の筐体は成型時の傷の確認等の理由から、通常、黒色である場合が多いが、上記の還元性のポリピロールを含む塗料も黒色であるため、塗工部と未塗工部の区別がつきにくく、塗工量及び塗工厚みの管理が難しいという問題もあった。
【0007】
従って、本発明は、上記の問題を解決し得る、即ち、スプレー塗工においても、溶媒の乾燥性に優れ、黒色と区別できる色目を有し、レベリング性が高く且つ密着性及びめっき析出性に優れるめっき下地層が得られる下地塗料、それを用いるシールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法及びそれにより製造される筐体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、下地塗料に特定の大きさの粒子又は金属フレークを添加すると、下地層の乾燥効率が上がり、該層中における溶媒の残留を抑制できることを見出した。加えて、該粒子又は金属フレークを耐薬品性を有する黒色とは異なる色調の粒子又は金属フレークとし且つ特定の添加量とすることにより、粒子含量増加による密着性の低下を抑えたまま、黒色とは異なる色調を有する下地層とできること、溶剤に低揮発性溶媒を添加することで、密着性とレベリング性の両方において要求される特性を満たし得ること、並びに、該下地層はめっき析出性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)無電解めっき法により基材表面に、黒色とは異なる色調を有するめっき下地層を形成する下地塗料であって、
前記下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子、バインダー、着色剤及び溶媒を含み、前記着色剤は、耐薬品性を有する黒色とは異なる色調の平均粒径0.1ないし1μmの粒子又は厚さ0.1ないし1μmの金属フレークであり且つ前記下地塗料中の全固形分に対して5ないし50体積%(v/v)の範囲で添加され、前記溶媒は、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒を含むものである下地塗料、
(2)前記溶媒は、前記低揮発性有機溶媒のほか、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30より大きい高揮発性有機溶媒をも含み、該高揮発性有機溶媒と前記低揮発性有機溶媒とを体積比(v/v)100:1ないし100:20の割合で混合してなる前記(1)記載の下地塗料、
(3)前記高分子微粒子が還元性高分子微粒子である前記(1)又は(2)記載の下地塗料、
(4)前記高分子微粒子が導電性高分子微粒子である前記(1)又は(2)記載の下地塗料、
(5)筐体表面上に、前記(3)に記載の下地塗料をスプレー塗工し、これにより形成さ
れた塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによる、シールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法、
(6)筐体表面上に、前記(4)に記載の下地塗料をスプレー塗工し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによる、シールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法、
(7)前記(5)又は(6)に記載の製造方法により製造されたシールド用の金属膜が形成された筐体、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、スプレー塗工においても、溶媒の乾燥性に優れ、黒色と区別できる色目を有し、レベリング性が高く且つ密着性及びめっき析出性に優れるめっき下地層が得られる下地塗料が提供される。
【0011】
本発明は、下地塗料に特定の大きさの粒子又は金属フレーク(着色剤)を添加することを1つの特徴とするものであるが、特定の大きさの粒子又は金属フレーク(着色剤)を添加することにより、下地層の乾燥効率が上がり、該層中における溶媒の残留を抑制できる理由については、必ずしも明確ではないが、例えば、以下のようなことが考えられる。
1)粒子又は金属フレークの添加により、下地層上に微小な凹凸が発生し、下地層表面の表面積が実質的に増え、それにより乾燥効率が上がった。
2)下地層表面に形成される膜と該膜から部分的に突出した粒子又は金属フレークの間から層内に存在する溶媒分子が放出され、それにより溶媒の残留が抑制された。
【0012】
また、本発明により、上記下地塗料を用いるシールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法が提供される。
該製造方法により、スプレー塗工という簡易な操作を用いて、レベリング性が高く均一で且つ密着性に優れるシールド用の金属膜が形成された筐体が得られる。
また、本発明の製造方法においては、還元性高分子微粒子だけでなく、導電性高分子微粒子を用いた下地塗料を用いても同様に行うことができる。
また、本発明の製造方法により得られる筐体は、ノートパソコンや携帯電話の筐体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で作成した下地塗料を用いて作成しためっき物の表面(左)と参考例で作成しためっき物(右)の表面の状態を比較するレーザー顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子、バインダー、着色剤及び溶媒を含み、前記着色剤は、耐薬品性を有する黒色とは異なる色調の平均粒径0.1ないし1μmの粒子又は厚さ0.1ないし1μmの金属フレークであり且つ前記下地塗料中の全固形分に対して5ないし50体積%(v/v)の範囲で添加され、前記溶媒は、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒を含むものである。
【0015】
本発明に使用する着色剤は、耐薬品性を有する黒色とは異なる色調の平均粒径0.1ないし1μmの粒子又は厚さ0.1ないし1μmの金属フレークである。
耐薬品性を有する粒子としては、黒色とは異なる色調の無機系顔料等が挙げられ、好ましくは酸化チタンや炭酸カルシウム等が挙げられる。
耐薬品性を有する金属フレークとしては、例えば、耐薬品性を有する高分子化合物、例えば、アクリル樹脂等で被覆された、アルミペースト、ステンレスフレーク等が挙げられ、アルミペーストが好ましい。
【0016】
前記耐薬品性を有する粒子又は金属フレーク(着色剤)は、下地塗料中の全固形分に対して5ないし50体積%(v/v)の範囲で添加される。
上記添加量が5体積%(v/v)未満では、色目が薄くなり、塗工部と未塗工部の色目判別が困難となり、50体積%(v/v)を超えると、結果として、導電性又は還元性の高分子微粒子及びバインダーの相対的な割合が少なくなり、めっき析出性及び密着性が低下する傾向にあるため好ましくない。
上記添加量が50体積%(v/v)を超える場合であっても、優れためっき析出性及び密着性が維持されることもあるが、塗工時に色目判別が付いた箇所に、確実にめっきを析出させるという観点から上記添加量を50体積%(v/v)以下とするのが好ましい。
【0017】
本発明に使用する溶媒は、少なくとも酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒を含むものであり、該揮発速度が30より大きい高揮発性有機溶媒と該揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒とを体積比(v/v)100:1ないし100:20の割合で混合されたものが好ましい。
【0018】
上記酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30より大きい高揮発性有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類等及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0019】
また、前記酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒としては、例えば、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロン、カルビトール、ミネラルスピリット、イソパラフィン、テレピン油、オレンジ油のリモネン、P−メンタン、α−ピネン、β−ピネン、ターピノーレン、イソボルニルアセテート、ターピニルアセテート、ターピネオール、α−ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のターペンティン系溶媒及びこれらの2種以上の混合物が挙げられ、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロン、リモネン、カルビトール等が好ましく、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール等がより好ましい。
【0020】
上記溶媒として、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30より大きい高揮発性有機溶媒のみを用いると、溶媒の揮発性が高すぎて、スプレー着弾時に下地層のレベリングが低下するため、均一になり難い。
添加する酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒の混合量が、前記高揮発性有機溶媒の量に対して1体積%(100:1(v/v))未満の場合、高いレベリングを達成するのが困難となり易い傾向にあり、20体積%(100:20(v/v))を超える場合には、下地層中に残存し易く、それにより、めっき膜の密着性が低下し易くなる傾向にある。
【0021】
本発明に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。
還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
還元性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該還元性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の5質量%以下(固形分比)となるようにする。
還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30より大きい高揮発性有機溶媒、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0022】
本発明に使用する導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
導電性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該導電性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の5質量%以下(固形分比)となるようにする。
導電性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒と同様のものを用いることができる。
【0023】
本発明に使用するバインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、
酢酸ビニル、ABS樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステ
ル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
使用するバインダー量は、還元性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1質量部ないし10質量部である。バインダーが10質量部を超えると金属めっきが析出せず、バインダーが0.1質量部未満であると、基材への密着性が弱くなる。
更に、前記塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0024】
本発明はまた、筐体表面上に、上記で製造される下地塗料をスプレー塗工し、これにより形成された塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによる、シールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法に関する。
【0025】
本発明に使用することができる筐体としては、種々の電子機器、例えば、ノートパソコンや携帯電話等の筐体が挙げられ、その大きさや形状は内部に収納される電子機器によって種々の形態を取り得る。
筐体を構成する材質としては、特に限定されないが、例えば、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフタルアミド樹脂、PC/ABS(ポリカーボネート−アクリロニトリルスチ
レン)樹脂、PC/ASA(ポリカーボネート−アクリロニトリル スチレンアクリレート)樹脂等が挙げられる。
【0026】
スプレー塗工は、上記下地塗料を通常用いられるスプレー塗工の条件、例えば、吹き付け空気圧力0.1ないし0.4MPa程度で、汎用されているスプレーガンを使用して行うことができる。
塗工後は、必要に応じて加熱乾燥を行うことができる。
加熱乾燥を行う場合の温度は、使用する筐体の材質により変化するものであるが、例えば、30ないし70℃程度が好ましい。また、乾燥時間は、乾燥温度により変化するため、一概には決定できないが、例えば、10分ないし2時間程度である。
上記の塗工操作により、筐体上にめっき下地層が形成される。
上記めっき下地層の膜厚は、好ましくは、0.5ないし2.0μmである。
上記操作により得られるめっき下地層は、溶媒の乾燥性に優れ、黒色と区別できる色目を有し、レベリング性が高く且つ密着性及びめっき析出性に優れるものである。
【0027】
上記のようにして製造された、めっき下地層が形成された筐体を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、前記筐体を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0028】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、100ppm塩化パラジウム−0.01M塩酸水溶液、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0029】
上記で処理された筐体は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、TSPカッパーN浴、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき物は、使用した筐体のTgより低い温度範囲において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。
【0030】
本発明はまた、筐体表面上に、前記下地塗料をスプレー塗工し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによる、シールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法にも関する。
【0031】
上記の方法において、スプレー塗工によるめっき下地層の形成は、上述の還元性高分子
微粒子を用いるめっき物の製造方法と同様に行うことができる。
【0032】
上記製造方法における脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0033】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。
特に、導電性高分子微粒子を含む下地層は薄くできるため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
【0034】
以上の様に、本発明の方法により、導電性又は還元性の高分子微粒子、バインダー、着色剤及び溶媒を含む下地塗料を用いてシールド用の金属膜が形成された筐体を製造することができる。
上記製造方法により形成されたシールド用の金属膜は、レベリング性が高く均一で且つ密着性に優れる。
また、上記製造方法により形成されたシールド用の金属膜は、高いレベリング性を有することにより、低い表面抵抗値、好ましくは、0.01Ω以下の表面抵抗値を有する。
尚、上記金属膜が形成された筐体は、形成された金属膜上に、電解めっきにより、同一又は異なる金属を更にめっきすることもできる。
【0035】
本発明はまた、上記製造方法により製造されたシールド用の金属膜が形成された筐体に関する。
シールド用の金属膜が形成された筐体は、従来のプライマ塗膜を介して金属めっき膜を形成する方法で製造された筐体に比して、金属膜のレベリング性において優れている。
また、本発明の筐体は、簡単な操作で優れた性能(レベリング性が高く均一で且つ密着性に優れる)を有するシールド用の金属膜が形成された筐体が得られるため、経済性に優れており、従って、種々の電子機器、例えば、ノートパソコン、携帯電話等に有利に使用され得る。
【0036】
以下に、塗膜層を形成するために使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法を記載する。
(1)還元性高分子微粒子の製造方法
還元性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0037】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、還元性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミ
ノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0038】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した還元性高分子微粒子が入手し易い。
疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0039】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.05mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.005mol〜0.03molである。0.05mol以上では添加したアニオン性界面活性剤がドーパントとして作用し、得られる微粒子は導電性を発現するため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープの工程が必要となる。
【0040】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。これらを一種類または複数混ぜて使用してもよい。特に安定的にO/W型エマルションを形成するものが好ましい。
【0041】
反応系中でのノニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し、アニオン系界面活性剤と足して0.2mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では重合後において、水相と有機溶媒相との分離が困難になり、有機溶媒相にある還元性高分子微粒子を得る事ができなくなる事から好ましくない。
【0042】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した還元性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0043】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい
。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0044】
前記製造で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもπ−共役二重結合を有するモノマーを重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0045】
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、ポリマー微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集してポリマー微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0046】
前記ポリマー微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液しポリマー微粒子を回収する工程。
【0047】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0048】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子を入手することができる。
【0049】
上記の製造法により得られるポリマー微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
得られたポリマー微粒子の導電率は0.01S/cm未満であり、好ましくは、0.005S/cm以下である。
【0050】
こうして得られた有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子は、そのままで、下地塗料の還元性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0051】
(2)導電性高分子微粒子の製造方法
使用する導電性高分子微粒子は、例えば、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0052】
π−共役二重結合を有するモノマー及びアニオン系界面活性剤としては還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0053】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0054】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0055】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0056】
前記製造で使用する酸化剤としては、還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0057】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0058】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0059】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手する
ことができる。
【0060】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、脱ドープ処理して還元性とした際に、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0061】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、下地塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1:下地塗料(導電性ポリピロール)の作成
アニオン性界面活性剤ペレックスOT−P(花王株式会社)1.5mmol、トルエン25mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した平均粒径0.05μmの導電性ポリピロール分散液を得た。ここで得られたトルエン分散液中にブチルセルソルブを10%(v/v)添加し、導電性ポリピロール微粒子の固形分を約2.0%とした。ここにバインダーとしてソルバインMFK(塩化ビニル−酢酸ビニルアセテートの共重合体、日信化学株式会社製)をポリピロール1質量部に対して5質量部の配合比で添加した。更に、ビーズミルを使用してIPA中に平均粒径0.5μmで分散した酸化チタン分散液(JR−600A、テイカ株式会社製)を固形分の割合で全固形分に対して体積比で30%加えて下地塗料を得た。
【0063】
実施例2ないし10:下地塗料(導電性ポリピロール)の作成
ブチルセルソルブの添加量を1%(v/v)とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例2)。
ブチルセルソルブの添加量を20%(v/v)とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例3)。
酸化チタンの添加量を全固形分に対して体積比で5%とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例4)。
酸化チタンの添加量を全固形分に対して体積比で50%とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例5)。
使用する酸化チタンの平均粒径を1μmとした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例6)。
ブチルセルソルブをジアセトンアルコールとした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例7)。
酸化チタンを厚さ0.1μmの耐薬品性のアルミペースト(BP−6360:東洋アルミニウム株式会社製)にした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例8)。
ブチルセルソルブの添加量を0.5%(v/v)とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(実施例9)。
ブチルセルソルブの添加量を25%(v/v)とした以外は実施例1と同様の操作を行
い下地塗料を得た(実施例10)。
【0064】
比較例1ないし6:下地塗料の作成
酸化チタンの添加量を全固形分に対して体積比で60%とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(比較例1)。
酸化チタンの添加量を全固形分に対して体積比で3%とした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(比較例2)。
使用する酸化チタンの平均粒径を2.5μmとした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(比較例3)。
酸化チタンを青色有機染料(OIL BLUE 613:オリエント化学工業株式会社製)にした以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(比較例4)。
酸化チタンを用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(比較例5)。
低揮発性溶媒を用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行い下地塗料を得た(比較例6)。
【0065】
・スプレー塗工
上記で得られた下地塗料(実施例1ないし10及び比較例1ないし6)を小型スプレーガン W−101−102P(アネスト岩田株式会社製、口径:1.0mm)を用いて吹き付け空気圧力0.3MPaで10cm×10cmのPC/ABS樹脂プレート(TN3712B、帝人化成)に1μmの厚みで塗工した。
得られた膜を50℃で30分間乾燥して、塗膜が形成されたPC/ABS樹脂を得た。
形成されたポリピロール塗膜は、エレクトロニックマイクロメーター K402B(アンリツ株式会社製)を用いて測定した。
【0066】
・無電解めっき
上記で作成した、塗膜が形成されたPC/ABS樹脂を1M水酸化ナトリウム水溶液中に35℃で5分間浸漬して表面処理を行った。次に、100ppm塩化パラジウム−0.01M塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。次に、無電解めっき浴TSPカッパーN浴(奥野製薬工業株式会社製)に、40℃で30分間浸漬し、銅めっきを施した。
【0067】
参考例
特開2005−240073号公報に記載の方法に準じて10cm×10cmのPC/ABS樹脂プレート(TN3712B、帝人化成)に銀触媒を含むプライマ塗膜を介して銅めっきを施した。
上記参考例で作成しためっき物の表面と実施例1で作成した下地塗料を用いて作成しためっき物の表面の状態を比較したレーザー顕微鏡の写真を図1として示した。
本発明の方法により作成されためっき物(左)の表面は、銀触媒を含むプライマ塗膜を介して作成された参考例のめっき物(右)の表面に比して、高い均一性及びレベリング性を有していることが、図1から判る。
【0068】
評価試験
実施例1ないし10、比較例1ないし6及び参考例で作成した下地塗料を用いて作成された下地層の塗膜色目、無電解めっきによるめっき析出性、めっき物の密着性(テープ試験:形成直後及び加熱試験後)・密着強度及び表面抵抗値を評価して表1に示した。
尚、評価方法は以下に示した通りである。
<塗膜色目>
目視による評価
○:塗工部と未塗工部の判別が瞬時に可能である。
△:塗工部と未塗工部の判別が可能であるが、時間を要する。
×:塗工部と未塗工部の判別が不可能である。
<めっき析出性>
目視による評価
○:全面にめっきが析出している。
△:部分的にめっきが析出していない。
×:めっきが析出していない。
<テープ試験>
JIS H8504に基づいてテープ試験により引き剥がし試験を実施した。
尚、評価基準は以下の通りとした。
◎:剥離無し
○:剥離部10%未満
△:剥離部10%以上30%以下
×:30%を超える剥離有り
<密着強度>
得られためっき膜を硫酸銅めっきで40μmに厚付けし、JIS C6471に基づいて、ピール強度の測定を行った。
<表面抵抗値>
得られためっき膜を抵抗率試験器(商品名:Loresta HP(MCP−T410)、三菱化学株式会社製)を用い、20×25mmに切り出した膜を測定することにより、導電率を測定した。
<加熱試験後テープ試験>
70℃で168時間加熱後に、JIS H8504に基づいてテープ試験により引き剥がし試験を実施した。
尚、評価基準は以下の通りとした。
◎:剥離無し
○:剥離部10%未満
△:剥離部10%以上30%以下
×:30%を超える剥離有り
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき法により基材表面に、黒色とは異なる色調を有するめっき下地層を形成する下地塗料であって、
前記下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子、バインダー、着色剤及び溶媒を含み、前記着色剤は、耐薬品性を有する黒色とは異なる色調の平均粒径0.1ないし1μmの粒子又は厚さ0.1ないし1μmの金属フレークであり且つ前記下地塗料中の全固形分に対して5ないし50体積%(v/v)の範囲で添加され、前記溶媒は、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30以下である低揮発性有機溶媒を含むものである下地塗料。
【請求項2】
前記溶媒は、前記低揮発性有機溶媒のほか、酢酸ブチルの揮発速度を100とした場合の揮発速度が30より大きい高揮発性有機溶媒をも含み、該高揮発性有機溶媒と前記低揮発性有機溶媒とを体積比(v/v)100:1ないし100:20の割合で混合してなる請求項1記載の下地塗料。
【請求項3】
前記高分子微粒子が還元性高分子微粒子である請求項1又は2記載の下地塗料。
【請求項4】
前記高分子微粒子が導電性高分子微粒子である請求項1又は2記載の下地塗料。
【請求項5】
筐体表面上に、請求項3に記載の下地塗料をスプレー塗工し、これにより形成された塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによる、シールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法。
【請求項6】
筐体表面上に、請求項4に記載の下地塗料をスプレー塗工し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによる、シールド用の金属膜が形成された筐体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法により製造されたシールド用の金属膜が形成された筐体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−209424(P2010−209424A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58150(P2009−58150)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】