説明

めっき処理方法

【課題】被処理面でのシールの不完全に起因する処理液の漏洩を確実に防止できること。
【解決手段】シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導き、シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理方法において、シール部材がシリンダ内周面に接触して当該シリンダ内周面をシールするシール工程(S3〜S6)と、シリンダ内周面へ送液ポンプの駆動により処理液を導く送液工程(S7、S8)と、シリンダ内周面を含む空間に処理液が満たされた状態で、電極及びシリンダブロックへ所定の電荷を印加して、めっき前処理またはめっき処理を実施する処理工程(S9〜S11)とを順次実施し、シール部材がシリンダ内周面に接触して実施されるシール工程によるシールを確認した後に、送液ポンプを駆動して送液工程を実施するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導き、このシリンダ内周面にめっき前処理またはめっき処理を実施するめっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面にめっき処理などの表面処理を実施する際に、このシリンダ内周面をシールした後、このシリンダ内周面に処理液を導いて流動させ、当該シリンダ内周面を表面処理するものが特許文献1及び2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−199390号公報
【特許文献2】特開平8−144082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載のシール方法では、シリンダ内周面のシールが確実になされたか否かを確認できないため、処理液を導いた際にこの処理液が漏洩する恐れがある。
【0005】
また、特許文献2に記載の表面処理方法では、エアチューブの膨張、収縮を検知していないため、損傷等でエアチューブが適正に膨張せず、このエアチューブによるシリンダ内周面のシールが不完全な状態で処理液が導かれたときには、この処理液が漏洩する恐れがある。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、被処理面でのシールの不完全に起因する処理液の漏洩を確実に防止できるめっき処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導き、前記シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理方法において、シール部材が前記シリンダ内周面に接触して当該シリンダ内周面をシールするシール工程と、前記シリンダ内周面へ送液ポンプの駆動により前記処理液を導く送液工程と、前記シリンダ内周面を含む空間に被処理液が満たされた状態で、電極及び前記シリンダブロックへ所定の電荷を印加して、めっき前処理またはめっき処理を実施する処理工程と、を順次実施し、前記シール部材が前記シリンダ内周面に接触して実施される前記シール工程によるシールを確認した後に、前記送液ポンプを駆動して前記送液工程を実施することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シール工程における、シール部材によるシリンダ内周面のシールを確認した後に、このシリンダ内周面へ処理液を導く送液工程を実施するので、被処理面であるシリンダ内周面でのシールの不完全に起因する処理液の漏洩を確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るめっき処理方法の一実施の形態が適用されためっき処理装置を示す全体正面図。
【図2】図1のめっき処理装置における電極及びエアジョイント周りを示す断面図。
【図3】図2のシール治具を示し、(A)がシール部材の拡張状態を示す断面図、(B)がシール部材の収縮状態を示す断面図。
【図4】図3のシール部材を示す平面図。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図。
【図6】図3のシール支持部材としてのシール下板を示す平面図。
【図7】図6のVII−VII線に沿う断面図。
【図8】図3のシールベースを示す平面図。
【図9】図8のIX−IX線に沿う断面図。
【図10】図3の絶縁部材としてのシール治具取付板を示す平面図。
【図11】図10のXI−XI線に沿う断面図。
【図12】図1のめっき処理装置が実施するめっき処理方法の一実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[A]第1の実施の形態(図1〜図11)
図1は、本発明に係るめっき処理装置の第1の実施の形態を示す全体正面図である。図2は、図1のめっき処理装置における電極及びエアジョイント周りを示す断面図である。
【0011】
図1に示すめっき処理装置10は、エンジンにおけるシリンダブロック1の被処理面であるシリンダ内周面3に処理液(めっき前処理液またはめっき液)を導いて、シリンダ内周面3を高速でめっき前処理またはめっき処理するものであり、装置本体11、電極12、シール治具13、ワーク保持治具14、エアジョイント15、クランプ用シリンダ16及び電極用シリンダ17を有して構成される。本実施の形態では、シリンダブロック1がV型エンジンのV型シリンダブロックであり、このシリンダブロック1において所定角度差を有して形成された複数のシリンダ2のシリンダ内周面3が、めっき処理装置10によって同時にめっき前処理またはめっき処理される。
【0012】
装置本体11は架台18に設置して固定され、シリンダブロック1を載置するワーク載置台19を備える。シリンダブロック1は、ヘッド面4を下方にしてワーク載置台19に載置される。装置本体11にはワーク載置台19の上方にワーク保持治具14が、クランプ用シリンダ16によって昇降可能に設置される。このワーク保持治具14には、図示しないクランプが設けられている。ワーク保持治具14は、下降位置で、ワーク載置台19に載置されたシリンダブロック1のクランクケース面5に当接する。このとき、ワーク保持治具14の前記クランプがシリンダブロック1のクランクケース面5側を把持して、シリンダブロック1がワーク載置台19とワーク保持治具14間に保持される。
【0013】
電極12は電極支持部20に支持され、この電極支持部20が装置本体11に設置された電極用シリンダ17に取り付けられる。この電極用シリンダ17の進退動作によって、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入され、また、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2から退避される。図1の左側の電極12がシリンダ2内への挿入状態を示し、図1の右側の電極12がシリンダ2からの退避状態を示す。
【0014】
電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入されたときには、電極支持部20に設置されたシリコンゴムシートなどのシールリング21(図2)がシリンダブロック1のヘッド面4に接触して、シリンダ内周面3のヘッド面4側がシールされる。
【0015】
図1に示すように、電極12の上端にシール治具13が、また、ワーク保持治具14にエアジョイント15がそれぞれ設置される。これらのシール治具13及びエアジョイント15は、後に詳説するが、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内へ挿入されたときに、図2に示すようにシール治具13がエアジョイント15に当接して、このエアジョイント15のメインエア継手22からシール治具13のシール部材33へ流体としてのエア(空気)が供給される。これにより、シール部材33が半径方向のみに拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側がシールされる。
【0016】
図1に示す電極支持部20には処理液パイプ23が接続され、この処理液パイプ23が送液ポンプ24(図2)に接続される。この送液ポンプ24は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3におけるクランクケース面5側がシール部材33によりシールされた状態において、貯留タンク25に貯溜された処理液(めっき前処理液またはめっき液)を処理液パイプ23及び電極支持部20を経て電極12内へ導く。この電極12内に導かれた処理液は、図2の矢印に示すように、シール治具13のシール下板34(後述)と電極12との間のスリット26を経て、電極12の外周面とシリンダブロック1のシリンダ内周面3とにより区画される空間27内へ導かれ、この空間27と貯留タンク25との間で循環する。
【0017】
図1及び図2に示すように、電極支持部20にはリード線28が接続され、このリード線28が電源装置30に接続される。電源装置30は、前記空間27が処理液で満たされた状態で、リード線28及び電極支持部20を経て電極12へ電気を供給する。この給電は、めっき前処理時には電極12がマイナス極、シリンダブロック1がプラス極になるように実施され、これによりシリンダブロック1のシリンダ内周面3がめっき前処理される。めっき処理時には、電極12がプラス極、シリンダブロック1がマイナス極になるように給電され、シリンダ内周面3がめっき処理されて、当該シリンダ内周面3にめっき皮膜が形成される。ここで、めっき前処理とめっき処理は、処理液と通電条件を異ならせることで実施される。
【0018】
尚、エアジョイント15は、図1に1個図示されているが、電極12の個数に対応した個数がワーク保持治具14に設置されている。また、図1中の符号31は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3にめっき前処理またはめっき処理がなされて、電極12がシリンダブロック1から退避した後に進出して、シリンダブロック1のシリンダ2内へ洗浄液を噴射し洗浄するための洗浄シャッターである。
【0019】
次に、前記シール治具13とエアジョイント15などの構成を、図2〜図11を用いて詳説する。
【0020】
シール治具13は、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に処理液を導く際に、このシリンダ内周面3に接触して当該シリンダ内周面3をシールするものであり、シール部材33、シール下板34及びシールベース35を有して構成される。
【0021】
シール部材33は、図3、図4及び図5に示すように、伸縮自在な材料(例えばゴムなどの弾性部材)にて構成され、浮き輪形状に形成される。このシール部材33の内周側部分は開口されて開口部49が設けられると共に、この開口部49近傍の両側に係合突起36が形成される。このシール部材33の外周部33Aが、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触可能とされる。
【0022】
シール下板34は、図3、図6及び図7に示すように、円板部32の中央に膨出部37が一体成形されて構成される。膨出部37の外周に、周溝38が形成されたリング部材39が配置される。また、膨出部37にはメインエア流路40C及び40Dが連通して形成される。このうちメインエア流路40Dは、シール下板34の周方向に複数本、例えば3本等間隔に形成される。このメインエア流路40Dは、リング部材39の周溝38に連通し、このリング部材39の周方向複数箇所(例えば3箇所)に周溝38に連通して形成されたメインエア流路40Eと連通する。
【0023】
また、シール下板34の円板部32には、膨出部37との境界部分に係合溝41がリング形状に形成される。この係合溝41に、シール部材33の係合突起36が係合される。また、円板部32及び膨出部37には、締結用の雌ねじ部42と、ボルト43挿入用のボルト貫通穴44が設けられる。このように構成されたシール下板34は、図3に示すように、リング部材39にシール部材33の開口部49を嵌合させ、係合溝41にシール部材33の係合突起36が係合した状態で、円板部32がシール部材33の一方の片側面(図3の下側面33C)を支持する。
【0024】
シールベース35は、図3、図8及び図9に示すように、円板部45の中央に膨出部46が一体成形されて構成され、膨出部46にシート座47及びメインエア流路40Bが形成される。シート座47にシールシート48が装着され、このシールシート48に、メインエア流路40Bに連通するメインエア流路40Aが形成される。メインエア流路40Bは、シール下板34のメインエア流路40Cに連通可能に設けられる。
【0025】
また、円板部45には、シート座47と反対位置に、シール下板34の膨出部37を嵌合可能な凹部50が形成され、この凹部50の外周側に係合溝51がリング状に形成される。円板部45のシート座47の反対側に形成される多段状で同心状の凹部50,51に、シール下板34の膨出部37とシール部材33の係合突起36がそれぞれ係合している。この係合溝51にシール部材33の係合突部36が係合される。円板部45及び膨出部46には、ボルト43螺挿用のボルトねじ穴52が形成される。
【0026】
図3に示すように、シール下板34の膨出部37がシールベース35の凹部50に嵌合し、シール部材33の開口部49がシール下板34のリング部材39に嵌合し、シール部材33の係合突起36がシール下板34の係合溝41及びシールベース35の係合溝51に係合した状態で、シール下板34のボルトねじ穴44とシールベース35のボルトねじ穴52にボルト43が螺合され、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化されてシール治具13が構成される。
【0027】
この状態で、シール下板34とシールベース35とが互いに対向配置され、シール下板34の円板部32がシール部材33の一方の片側面(図3の下側面33C)を、シールベース35の円板部45がシール部材33の他方の片側面(図3の上側面33B)をそれぞれ面接触により支持する。更に、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化された状態で、互いに連通するメインエア流路40A、40B、40C、40D及び40Eが、シール部材33の内部に連通する。
【0028】
図2に示すように、シール治具13は、絶縁部材としてのシール治具取付板53を介して電極12の上端に取り付けられる。このシール治具取付板53は、図2、図10及び図11に示すように、4方向が切り欠かれた略十字形状に形成され、中央部に締結用の雄ねじ部54が形成される。この略十字形状のシール治具取付板53の先端部がボルト55により電極12に固定される。そして、シール治具取付板53の雄ねじ部54がシール治具13のシール下板34における雌ねじ部42に螺合して、シール部材33、シール下板34及びシールベース35が一体化されたシール治具13がシール治具取付板53に取り付けられる。
【0029】
このシール治具取付板53は、非導電性の樹脂などにて構成され、導電性の金属にて構成されたシール下板34及びシールベース35を電極12に対して絶縁する。また、略十字形状のシール治具取付板53の切り欠かれた部分を通って処理液が、図2の矢印に示すように前記スリット26へ向かって流動する。
【0030】
図1及び図2に示すエアジョイント15は、前述の如くメインエア継手22を備えると共に、メインエア供給流路56が形成されている。メインエア継手22は、メインエア供給配管57を介して図示しないエア供給バルブ及びコンプレッサに接続される。また、エアジョイント15は、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2内に挿入されたときに、電極12に取り付けられたシール治具13のシールシート48に当接し、この状態でメインエア供給流路56がシールシート48のメインエア流路40Aに連通する。メインエア供給流路56からメインエア流路40Aへエアが供給されるが、この際のエアの漏洩がシールシート48により防止される。
【0031】
メインエア供給流路56からメインエア流路40Aへ供給されたエアは、図3に示すように、メインエア流路40B、40C、40D及び40Eを経てシール部材33内へ導入される。このシール部材33は、上側面33Bがシールベース35により、下側面33Cがシール下板34によりそれぞれ支持されて膨張が規制されるので、図3(A)に示すように半径方向のみに拡張され、シール部材33の外周部33Aがシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触して、このシリンダ内周面3のクランクケース面5側をシールする。これにより、シリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27(図2)からクランクケース面5側へ、めっき前処理液またはめっき液が液漏れすることが防止される。
【0032】
メインエア継手22からシール部材33内へのエアの供給が遮断されたときには、図3(B)に示すように、シール部材33は半径方向に収縮して、その外周部33Aがシリンダ内周面3から離反する。
【0033】
このシール部材33の拡張、収縮を確認する確認手段が、図2に示すようにシール治具13及びエアジョイント15に設けられている。この確認手段は、エアジョイント15側のサブエア継手58及びサブエア供給流路59と、シール治具13側のサブエア流路60と、エア圧センサ61及び制御回路62とである。
【0034】
サブエア継手58は、エアジョイント15に複数個、例えば3個配置されている。サブエア供給流路59は、サブエア継手58に対応してエアジョイント15に複数本、例えば3本形成され、それぞれがサブエア継手58に連通して設けられる。
【0035】
サブエア流路60は、シール治具13のシールベース35に形成される。このシールベース35には、図8及び図9に示すように、膨出部46の天面に同心円状のリング溝63が、サブエア供給流路59の本数に対応して複数個(例えば3個)形成されており、それぞれが各サブエア供給流路59に連通可能とされる。シールベース35には、更に、各リング溝63の個数に対応して複数本(例えば3本)のサブエア流路60が放射状に等間隔に形成される。それぞれのサブエア流路60が各リング溝63に連通して設けられる。これらのサブエア流路60のそれぞれには、シールベース35の外周端部において吹出口64が形成される。この吹出口64は、図3に示すように、シール部材33の拡張時にこのシール部材33によって閉塞され、シール部材33の収縮時に開放される位置に設けられる。
【0036】
図2に示すエアジョイント15に備えられたサブエア継手58から導入される流体としてのエアは、サブエア供給流路59を通り、シール治具13(図3)のリング溝63及びサブエア流路60を経て吹出口64から吹き出し可能に設けられる。この吹出口64からのエアの吹き出しは、図3(B)に示すように、シール部材33の収縮時に吹出口64が当該シール部材33により閉塞されず開放されているときに実施される。このときには、サブエア流路60、サブエア供給流路59及びサブエア継手58のエア圧が低くなる。これに対し、シール部材33の拡張時には、図3(A)に示すように、吹出口64がシール部材33により閉塞されてエアが吹出口64から吹き出されず、サブエア流路60、サブエア供給流路59及びサブエア継手58内のエア圧が上昇する。
【0037】
図2に示すエア圧センサ61は、例えば複数本のサブエア継手58へそれぞれエアを導く複数本、例えば3本のサブエア供給配管65に配置されて、上述のサブエア流路60のエア圧を検出する。このエア圧の検出値によって、シール治具13のシール部材33の拡張または収縮を確認することが可能となる。つまり、シール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3を液密にシールしている状態であるか、またはシール部材33が収縮して、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触せず、このシリンダ内周面3がシールされていない状態であるかを確認することが可能となる。
【0038】
エア圧によるシール確認の具体例を次に示す。サブエア継手58からの供給エア圧を、例えば、0.10MPaとしてサブエア流路60へエアを供給した場合、シール部材33の拡張状態ではサブエア流路60内のエア圧は0.09〜0.10MPaとなる。このサブエア流路60内のエア圧は、シール部材33の動作不具合や劣化により低下することがあるが、このエア圧が0.06〜0.10MPaの範囲内であれば、シール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシール部材33によりシリンダ内周面3がシールされていることが確認される。これに対し、サブエア流路60内のエア圧が0.05MPa以下の場合には、シール部材33が収縮してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触していず、このシール部材33によってシリンダ内周面3がシールされていないことが確認され、液漏れの恐れがあると確認される。
【0039】
シール部材33の拡張、収縮によるシリンダブロック1のシリンダ内周面3のシールの確認は、サブエア流路60がシールベース35(つまりシール部材33)の周方向に複数本等間隔に、例えばシール部材33の周方向に120度の等間隔で3本形成されているので、シール部材33の全周に亘ってなされる。これにより、シール部材33の周方向の一部に劣化や亀裂、破損が発生して、その箇所以外ではシール部材33の拡張が正常になされるが、亀裂等が発生した箇所ではシール部材33の拡張が不充分となって、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触していない場合にも、このシール部材33の周方向の拡張、収縮状況を確認して、シリンダ内周面3のシールを確認することが可能となる。
【0040】
図2に示す制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値を取り込んで、送液ポンプ24及び電源装置30の駆動を制御する。つまり、制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値が所定値よりも高い場合に、シール治具13のシール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、当該シリンダ内周面3のシールが良好になされていると判断する。このとき、制御回路62は、送液ポンプ64を起動して処理液を、シリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27へ供給し、その後、電源装置30を駆動して電極12へ給電し、シリンダ内周面3にめっき前処理またはめっき処理を実施させる。
【0041】
制御回路62は、エア圧センサ61からの検出値が所定値以下の場合には、シール治具13のシール部材33が適正に拡張せずまたは収縮して、シリンダ内周面3に接触していず、当該シリンダ内周面3のシールが不完全であると判断して、送液ポンプ24及び電源装置30を駆動せず、またはこれらの駆動中にはこれらの駆動を中止する。
【0042】
次に、シリンダブロック1のシリンダ内周面3に処理液(めっき前処理液またはめっき液)を導き、当該シリンダ内周面3をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理方法について、図1〜図3、図12を参照して以下に説明する。
【0043】
このめっき処理方法は、シール治具13のシール部材33がシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触して、当該シリンダ内周面3をシールするシール工程(S3〜S6)と、シリンダ内周面3へ送液ポンプ24の駆動により処理液を導く送液工程(S7及びS8)と、この送液工程の実施により、シリンダブロック1のシリンダ内周面3を含む空間27に処理液が循環して満たされた状態で、電極12及びシリンダブロック1へ所定の電荷を印加してめっき前処理またはめっき処理を実施する処理工程(S9〜S11)と、シリンダブロック1のシリンダ2内でシリンダ内周面3に対向して配置された電極12をシリンダブロック1から引き抜く電極引抜工程(S12〜S14)とを有し、これらの工程を順次実施するものである。
【0044】
前記送液工程は、シール治具13のシール部材33がシリンダ内周面3に接触して実施されるシール工程によるシリンダ内周面3のシールを確認した後に、送液ポンプ24を駆動して実施する。更に、シール工程によるシリンダ内周面3のシールの確認は、送液工程中及び処理工程中においても実施する。これらの工程中にシール工程によるシリンダ内周面3のシールが不具合となった場合には、送液工程と処理工程を直ちに中止する。また、前記電極引抜工程は、シール治具13のシール部材33がシリンダブロック1のシリンダ内周面3から離反したことを確認した後に実施する。
【0045】
以下、上述の各工程を具体的に説明する。
【0046】
図1に示すめっき処理装置10にシリンダブロック1が投入されると、ワーク保持治具14が下降して、このワーク保持治具14の図示しないクランプによりシリンダブロック1が把持(クランプ)され、ワーク保持治具14とワーク載置台19間に保持される。そして、シリンダブロック1が把持(クランプ)されたか否かが、例えばシリンダブロック1のクランクケース面5とワーク保持治具14との距離(隙間)を検出することにより検知される(S1)。
【0047】
ワーク保持治具14のクランプによりシリンダブロック1が把持されていないときには、エラー信号が送信されると共に、次工程への移行が中止され、めっき処理装置10の自動運転が停止される(S2)。
【0048】
ワーク保持治具14のクランプによるシリンダブロック1の把持が適正になされた場合に、図示しないエア供給バルブを開操作し、コンプレッサ(不図示)から上記エア供給バルブを介して図2のメインエア継手22へエアを供給し、メインエア流路40A〜40E等を経てシール治具13のシール部材33へエアを導く。そして、このシール部材33へエアが供給されたか否かが、例えば前記エア供給バルブの開操作位置を確認することで判断される(S3)。
【0049】
ワーク治具13のシール部材33へエアが供給されていないときには、エラー信号が送信されると共に、次工程への移行が中止され、めっき処理装置10の自動運転が停止される(S4)。
【0050】
ワーク治具13のシール部材13へエアが供給された場合には、このシール部材33が半径方向のみに拡張するので、このシール部材33の拡張が適正になされて、シール部材33がシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触したか否かを確認する。この確認は、図2に示すサブエア継手58等を介してシール治具13のサブエア流路60へエアを供給し、このサブエア流路60内のエア圧をエア圧センサ61により検出することによって実施する(S5)。
【0051】
エア圧センサ61により検出されたエア圧が所定値以下であれば、例えば制御回路62は、シール治具13のシール部材33が拡張していず、シリンダブロック1のシリンダ内周面3が適正にシールされていないと判断して、エラー信号を送信すると共に、次工程への移行を中止し、めっき処理装置10の自動運転も停止する(S6)。
【0052】
エア圧センサ61により検出されたエア圧が所定値以上であれば、例えば制御回路62は、シール治具13のシール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3が適正にシールされていると確認する。このときには、例えば制御回路62は、送液ポンプ24を駆動して、シリンダブロック1のシリンダ内周面3と電極12の外周面とにより区画された空間27へ処理液(めっき前処理液またはめっき液)を供給し、空間27と貯溜タンク25との間で処理液を循環させる。
【0053】
空間27への処理液の供給は、例えば送液ポンプ24への電源供給の有無により判断する(S7)。送液ポンプ24へ電源が供給されていないときには、空間27へ処理液が供給されていないと判断して、エラー信号が送信されると共に、次工程の移行が中止され、めっき処理装置10の自動運転が停止される(S8)。
【0054】
送液ポンプ24へ電源が供給されているときには、シリンダ内周面3を含む空間27へ処理液が循環して供給されていると判断して、図2に示す電源装置30から電極12へ電気を供給し、めっき前処理時には電極12にマイナス電荷を、シリンダブロック1にプラス電荷をそれぞれ印加し、シリンダブロック1のシリンダ内周面3にめっき前処理を施す。めっき処理の場合は、電極12をプラス、シリンダプロック1をマイナスとなるよう電荷を印加する。
【0055】
電源装置30から電極12へ電気が供給されたか否かは、例えば電源装置30から制御回路62へフィードバックされる電流(または電圧)信号により検出される(S9)。この電流(または電圧)信号が所定範囲外の場合には、エラー信号が送信されると共に、次工程への移行が中止され、めっき処理装置10の自動運転が停止される(S9)。
【0056】
電源装置30から制御回路62へフィードバックされる電流(電圧)信号が所定範囲内の場合には、めっき前処理またはめっき処理が適正に実施されたことになる(S11)。
【0057】
シール治具13のシール部材33が拡張してシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触し、このシリンダ内周面3のシールが適正になされているか否かの確認(S5)は、送液ポンプ24の駆動により処理液を供給する送液工程中と、電源装置30からの電気の供給によりめっき前処理またはめっき処理を実施する処理工程中においても常時実行される(S6)。シール部材33がシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触せず、このシリンダ内周面3が適正にシールされていない場合には、シリンダ内周面3を含む空間27から処理液が漏洩するからである。シリンダ内周面3のシールが適正になされていない場合には、例えば制御回路62が送液工程及び処理工程を直ちに中止させる。
【0058】
めっき前処理またはめっき処理終了後、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2から引き抜かれるが、この引き抜き前に、シール治具13のシール部材33が収縮してシリンダ内周面3から離反しているか否かが、例えば制御回路62により確認される(S12)。この確認も、サブエア継手58などを介してシール治具13のサブエア流路60へエアを供給し、このサブエア流路60内のエア圧をエア圧センサ61により検出し、この検出値が所定値以下であるか否かにより確認する。
【0059】
シール治具13のシール部材33の収縮が確認されなかった場合には、例えば制御回路62によって、メインエア継手22及びメインエア流路40A〜40Eなどを経たシール部材33へのエアの供給、遮断が、シール部材33の収縮が確認されるまで1回または複数回再度実施される(S13)。そして、シール治具13のシール部材33の収縮が確認された段階で、シリンダブロック1のシリンダ2から電極12が引き抜かれる(S14)。
【0060】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(6)を奏する。
【0061】
(1)シール治具13のシール部材33は、上側面33Bがシールベース35により、下側面33Cがシール下板34によりそれぞれ支持されているので、シール部材33内へのエアの導入時に、これらのシール下板34及びシールベース35によって膨張が規制されて、半径方向のみに拡張され、外周部33Aがシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触する。この結果、シリンダ内周面3に接触するシール部材33の位置を精度よく位置決めできる。シリンダブロック1のシリンダ内周面3にめっき皮膜を施す場合、本実施の形態によってめっき範囲を高精度に制御できるので、高品質なめっき皮膜を有するシリンダブロック1を製造することができる。
【0062】
(2)シール治具13のシールベース35に、エアを吹き出し可能な吹出口64が設けられたサブエア流路60が形成され、この吹出口64が、シール部材33の半径方向への拡張時に当該シール部材33により閉塞され、シール部材33の収縮時に開放され、このサブエア流路60内のエア圧に基づきシール部材33のシリンダ内周面3への接触の有無が確認される。このため、シール工程においてシール部材33がシリンダ内周面3に接触して、このシリンダ内周面3がシール部材33によりシールされていることが確認された場合のみに、送液工程において送液ポンプ24を駆動して、シリンダ内周面3を含む空間27へ処理液を導くことで、この空間27での液漏れを防止できる。
【0063】
また、送液工程または処理工程において空間27へ処理液が導かれているときに、シール部材33によるシリンダ内周面3の接触が確認されなくなった場合には、空間27への処理液の供給を停止して、送液工程または処理工程を中止することで、空間27での液漏れを防止できる。
【0064】
(3)シール治具13のシールベース35には、シール部材33の拡張、収縮を確認するための、吹出口64を備えたサブエア流路60が、シール部材33の周方向に沿って複数本設けられたことから、シール部材33の一部に劣化や亀裂、破損などが生じて、この箇所でのシール部材33の拡張が不充分となった場合にも、このようなシール部材33の部分的な不具合を検出でき、シール部材33によるシリンダ内周面3のシール不良を正確に確認することができる。
【0065】
(4)シール部材33を拡張、収縮させるために、エアジョイント15のメインエア継手22からメインエア流路40A、40B、40C、40D及び40Eなどを経てシール治具13のシール部材33へエアを供給している。また、シール部材33の拡張、収縮を確認するために、吹出口64を備えたサブエア流路60へエアジョイント15のサブエア継手58からエアを供給している。シール部材33の拡張、収縮動作や、シール部材33の拡張、収縮の確認動作のために、電気スイッチや電気配線を備えた電動による機構を用いた場合には、電極12の影響で電気的な誤動作が生じやすく、更にリン酸や硫酸などの腐食性の高い処理液によって電気配線などが損傷を蒙り、耐久性が低下する恐れがある。シール部材33の拡張、収縮動作と、シール部材33の拡張、収縮の確認動作が上述のようにエア駆動であることから、電気的な誤動作や耐久性低下などの上述の不具合の発生を回避できる。
【0066】
(5)シール治具13が絶縁部材としてのシール治具取付板53を介して電極12の上端に取り付けられたことから、シール治具13の金属製のシール下板34及びシールベース35に、電気腐食や電析物の付着などの不具合を回避できる。
【0067】
(6)めっき前処理の終了後に、シール治具13のシール部材33が拡張された状態で電極12が引き抜かれると、めっき前処理されたシリンダ内周面3がシール部材33により損傷を受ける。このため、シリンダ内周面3のめっき前処理が不十分となり、このシリンダ内周面3に形成されるめっき皮膜の密着性が低下して、めっき皮膜剥離などの不具合が生ずる恐れがある。また、めっき前処理の終了後に、シール治具13のシール部材33の収縮が確認されないで、電極12がシリンダブロック1のシリンダ2から引き抜かれた場合には、めっき前処理の終了後に、すべてのシリンダブロック1のシリンダ内周面3を例えば目視検査しなければならず、シリンダブロック1の生産性が低下してしまう。
【0068】
更に、めっき処理終了後に、シール治具13のシール部材33が拡張された状態で電極12が引き抜かれると、硬質で鋭利な微細凹凸のめっき皮膜表面にシール部材33が接触して、このシール部材33が損傷する恐れがある。このため、シール部材33によるシリンダ内周面3のシール位置精度が低下したり、シール部材33のシール性が低下して液漏れの原因となったり、シール部材33の損傷が甚だしい場合にはシール部材33の交換が必要になる。
【0069】
本実施の形態では、シール治具13のシール部材33がシリンダブロック1のシリンダ内周面3から離反したことを、エア圧センサ61を用いて確認した後に、電極12をシリンダブロック1のシリンダ2内から引き抜くことから、上述の不具合を解消でき、シリンダブロック1のシリンダ内周面3へのめっきの密着性を確保できると共に、シリンダの生産性を向上させることができ、更に、シール部材33の耐久性を向上させることができる。
【0070】
尚、本実施の形態では、シール治具13のシールベース35にサブエア流路60が周方向に沿って3本形成されたものを述べたが、その本数は必要に応じて増減してもよい。また、このサブエア流路60は、シール治具13のシール下板34に形成してもよい。
【0071】
また、シール治具13のシール部材33がシリンダブロック1のシリンダ内周面3に接触して当該シリンダ内周面3のシールがなされたことを確認した後に、送液ポンプ24を駆動して送液工程を実施するめっき処理方法は、シール部材33がシール下板34及びシールベース35により半径方向のみに拡張するシール治具13に限らず、他のシール治具を用いた場合に対しても実施可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 シリンダブロック
3 シリンダ内周面
10 めっき処理装置
12 電極
13 シール治具
24 送液ポンプ
27 空間
33 シール部材
40A〜40E メインエア流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの被処理面であるシリンダ内周面に処理液を導き、前記シリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するめっき処理方法において、
シール部材が前記シリンダ内周面に接触して当該シリンダ内周面をシールするシール工程と、
前記シリンダ内周面へ送液ポンプの駆動により前記処理液を導く送液工程と、
前記シリンダ内周面を含む空間に被処理液が満たされた状態で、電極及び前記シリンダブロックへ所定の電荷を印加して、めっき前処理またはめっき処理を実施する処理工程と、を順次実施し、
前記シール部材が前記シリンダ内周面に接触して実施される前記シール工程によるシールを確認した後に、前記送液ポンプを駆動して前記送液工程を実施することを特徴とするめっき処理方法。
【請求項2】
前記シール部材がシリンダ内周面に接触して実施されるシール工程によるシールの確認は、送液工程中及び処理工程中にも実施し、前記シール工程によるシールが不完全となった場合に、前記送液工程と前記処理工程を直ちに中止することを特徴とする請求項1に記載のめっき処理方法。
【請求項3】
前記処理工程の後に、シリンダブロック内でシリンダ内周面に対向配置された電極を当該シリンダブロックから引き抜く電極引抜工程を有し、
シール部材が前記シリンダ内周面から離反したことを確認した後に、前記電極引抜工程を実施することを特徴とする請求項1に記載のめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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