説明

めっき処理用治具

【課題】 外径65mm以下の小径アルミニウム製の磁気ディスク用基板を処理対象物として、その多数個を安定的に保持して均一な無電解Ni−Pめっき処理を施しうるめっき処理用治具を提供する。
【解決手段】 左右1対のフランジ2、2間に、同一円周線上において等間隔に4本の外周保持シャフト3を横架状に取付けたものとする。各シャフト3には、被処理基板10の外周縁部が嵌まり込む保持溝6を形成する。また1本の外周保持シャフト3Aは、これを移動変位可能なものとし、移動させることによって隣接するシャフト3との間の間隔を拡げ、基板10の出し入れ口を形成しうるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はめっき処理用治具、特に情報記録媒体としての磁気ディスク用のアルミニウム基板に対して、無電解Ni−Pめっき処理を施すのに用いられるめっき処理用治具に関する。
【0002】
尚、本発明において、アルミニウムの語は、その合金を含む意味で用いるものとする。
【背景技術】
【0003】
磁気ディスク基板としては、従来ガラス製の基板とアルミニウム製の基板とがあり、一般に直径が2.5インチを超える基板にあっては主にアルミニウム製の基板が用いられ、それ以下の小径サイズの基板にあっては、主にガラス製基板が用いられている。
【0004】
アルミニウム製基板は、素材から打抜いたサブストレートに所要の前処理を施したのち、Ni−Pめっき液浴による無電解めっき処理を施して表面にNi−P合金被膜を形成し、これを非磁性の基体として該基体上に磁性層(記録層)である強磁性の金属薄膜を積層形成している。
【0005】
従来、上記のアルミニウム製基板のめっき処理は、下記特許文献1〜4に示されるようなめっき処理用治具を用いて、次のような方法で行われている。
【特許文献1】特開平7−90596号公報
【特許文献2】特開平7−243050号公報
【特許文献3】特開平11−209877号公報
【特許文献4】特開平11−335857号公報
【0006】
即ち、アルミニウム製基板は、中心に円形の貫通孔を有するドーナツ形のものであることから、めっき処理用治具として、図9に示すように外周面に多数個の基板保持用の環状溝(図示略)を形成した吊持用シャフト(30)を用い、これを上記貫通孔に通して多数個の基板(10)を並列状に保持するものとしている。そして、上記基板(10)を保持したシャフト(30)をカローセルと呼称される回転胴(31)の左右1対の回転盤(31a)(31a)の周縁部間に横架状に取付け、めっき処理槽(32)内に浸潰した状態で上記回転盤(31)をギヤ駆動機構(33)を介してゆっくりと回転させ、基板(30)に公自転を与えながらNi−Pめっき液を隈無く接触させるものとしている。図9中、(34)は回転駆動用モーター、(35)は回転胴(31)のハンガー装置を示す。
【0007】
上記のようなめっき処理用治具(30)を用いためっき処理は、被処理対象物であるアルミニウム基板(10)が、直径65mm以上の比較的大径の基板である場合には、好適に採用しうる。
【0008】
ところが、近時、外径が65mm未満であるような1インチディスクや0.85インチディスク等の極めて小径の磁気ディスク用基板についても、従来のガラス製基板に代えて、コストダウンの要請からアルミニウム製基板の供給が求められるようになってきており、このような小径の基板の場合には、従来の前記のような内周吊持方式のめっき処理用治具(30)では、これを用いてめっき処理を行うことが実際上困難であった。その1つの理由は、基板自体が小径であることにより、その中心の貫通孔も小さく、これに挿通しうるような細い吊持用シャフトでは、多数個の基板の吊持荷重に耐えることができず、撓みを生じて安定的に基板を保持できないこと、また、基板が軽量のものであることにより、カローセルの回転によって起きるめっき液の流れで、基板が浮遊して吊持用シャフトの保持溝から外れる現象、つまり溝跳びを起こし易いこと等による。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の背景下において、特に直径が65mm未満であるような小径あるいは超小径のアルミニウム製基板を被処理対象物として、これに安定的に効率良くめっき処理を施すことを可能にするめっき処理用治具を提供することを目的とする。そしてまた、このようなめっき処理用治具を用いた好適なめっき処理装置および処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題に対して、被処理基板を複数本の保持用シャフトで外周側からこれを把持するようにしためっき処理用治具を提供するものであって、具体的には下記の解決手段を提示するものである。
【0011】
[1] 互いに離間して対向状に配置された左右1対のフランジと、これらの両フランジ間に、同一円周線上において所定間隔おきに横架配置された3本以上の外周保持シャフトと、少なくとも一方の前記フランジから外方に突設された支持ロッドとを備え、
前記外周保持シャフトのうち少なくとも複数本に、被処理基板の外周縁部が嵌まり込む保持溝が、軸線方向の所定間隔おきに多数個形成され、前記被処理基板を、3本以上の前記外周保持シャフトに囲まれる空間部内に、外周縁部を前記保持溝に嵌合した態様において並列状に保持しうるものとなされると共に、
少なくとも1本の外周保持シャフトが、前記両フランジに対して着脱自在または隣接する外周保持シャフトとの間の間隔を拡大しうる方向に移動変位自在に構成され、該シャフトを取外しまたは移動させることにより出し入れ口を形成して被処理基板の着脱を行い得るものとなされていることを特徴とするめっき処理用治具。
【0012】
[2] 外周保持シャフトが4本である前記[1]に記載のめっき処理用治具。
【0013】
[3] 移動変位自在な1本の前記外周保持シャフトが、左右両フランジに設けられた円弧状または直線状の長孔に沿って、周方向または半径方向と直交する方向にスライド移動可能なものとなされている前記[1]または[2]に記載のめっき処理用治具。
【0014】
[4] 移動変位自在な1本の前記外周保持シャフトのスライド移動機構が、外周保持シャフトの取付軸の両端をフランジの長孔を貫通して外方に延長させ、この延長軸部に常時フランジ方向に付勢された止着用スリーブをスライド自在に装着する一方、前記長孔の両端部に、フランジの外面側において径大の係止用凹陥部を形成し、この凹陥部に前記止着用スリーブの端部を嵌合係止せしめることによって、シャフトをフランジに位置決め固定しうるようになされている前記[3]に記載のめっき処理用治具。
【0015】
[5] 外周保持シャフトの長さ方向の中間部に、各シャフトと係合する係合部を有するシャフト間隔規制用の拘束板が配設されてなる前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【0016】
[6] 複数本の外周保持シャフトに囲まれる空間部内に、被処理基板が、半径方向及び軸線方向にいずれも遊びを有する状態に保持されるものとなされている請求項[1]〜[5]のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【0017】
[7] 外周保持シャフトの、基板方向に向いた外周面の一部のみに、前記保持溝が設けられている前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【0018】
[8] 前記保持溝が断面U字状の溝である前記[1]〜[7]のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【0019】
[9] 前記左右フランジの外周面の、前記出し入れ口と反対側の位置に切欠平面部が形成され、作業台面上に該フランジを安定載置しうるものとなされている前記[1]〜[8]のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【0020】
[10] 前記[1]〜[9]のいずれか1項に記載のめっき処理用治具が、めっき処理槽に設けられたカローセルの左右1対の回転盤間に横架状に、かつ着脱自在に装着されてなるめっき処理装置。
【0021】
[11] 前記[10]に記載のめっき処理装置を用いて行うめっき処理方法。
【0022】
[12] 被処理基板が磁気ディスク用のアルミニウム基板であり、めっき処理がNi−Pめっき液浴による無電解めっき処理である前記[11]に記載のめっき処理方法。
【0023】
[13] 請求項[12]に記載のめっき処理方法を製造工程中に含む磁気ディスク用アルミニウム基板の製造方法。
【0024】
[14] 前記[12]に記載のめっき処理方法でめっき処理された磁気ディスク用アルミニウム基板。
【0025】
[15] 外径が65mm以下である、請求項14に記載の磁気ディスク用アルミニウム基板。
【発明の効果】
【0026】
前記発明[1]に記載のめっき処理用治具によれば、従来のめっき処理用治具では処理できなかったような小径のアルミニウム製基板に対しても、これを効率良く、安定的にめっき処理することが可能となる。また、左右のフランジの少なくとも一方から突出する支持ロッドを、従来のめっき処理用治具を用いるめっき処理装置のカローセルに対して適合性を有するものとすることにより、従来の処理装置を何ら改変することなくそのまま用いて所要の無電解Ni−Pめっき処理を施すことができ、設備上の経済的有利性を享受しうる。
【0027】
また、前記[2]の発明に係るめっき処理用治具によれば、小径の被処理基板の外周を、4本の外周保持シャフトで外周把持するので、被処理基板を安定良く保持しうるほか、隣接する外周保持シャフト間の間隔を十分に広く確保することができ、ひいては被処理基板の配設空間領域内へのめっき処理液の流れ込みが上記シャフトによって阻害されるのを回避することができ、被処理基板に対して良好なめっき処理を施しうる。
【0028】
また、前記[3]の発明に係るめっき処理用治具によれば、該治具への被処理基板の出し入れ、着脱を、作業性良く行うことができる。
【0029】
また、前記[4]の発明に係るめっき処理用治具によれば、上記の着脱作業性を更に向上しうる。
【0030】
また、前記[5]の発明に係るめっき処理用治具によれば、外周保持用シャフトを長さの長いものに設定して、一度に多数個の被処理基板をセッティング保持しうるようなものとした場合においても、外周保持用シャフトの相互間隔が不均整になるのを防止でき、ひいては被処理基板のすべてを安定良く保持することができる。
【0031】
また、前記[6]の発明に係るめっき処理用治具によれば、被処理用基板が、外周保持シャフトに囲まれる空間内において遊びを有する状態に保持されることにより、基板の外周縁の定位置が常時上記シャフトに接することによるめっきむらの発生を回避して、周縁部の全周に亘って均一なめっき皮膜の生成を可能とする。
【0032】
また、前記[7]の発明のめっき処理用治具によれば、外周保持シャフトの全周に環状の保持溝を形成する場合に較べ、全体に占める溝の容積を大幅に減少することができる。その結果、溝に溜まる処理液の保水(液)量を減少することができ、前工程の処理液のめっき処理槽への持ち込みや後工程の処理槽へのめっき液の持ち込みの量を減少し、処理液の濃度管理を容易にする。
【0033】
また、前記[8]の発明に係るめっき処理用治具によれば、保持溝を断面V字状あるいはコ字状等に形成したものに較べ、被処理基板の外周縁部に発生しやすいノジュールと呼ばれるNi−P合金の小突起によるめっき欠陥の発生を効果的に抑制しうる。
【0034】
また、前記[9]の発明によれば、被処理基板の出し入れ口を上向きにして、めっき処理用治具を作業台面上に安定良く載置しうるので、該治具への被処理基板の出し入れ作業を行い易く、その作業性を向上しうる。
【0035】
また、前記[10]の発明に係るめっき処理装置によれば、前記[1]〜[9]項の発明と同等の効果を享受しうる。
【0036】
同様に、前記[11]の発明に係るめっき処理方法によっても、前記[1]〜[9]項の発明と同等の効果を享受しうる。
【0037】
また、前記[12]の発明に係るめっき処理方法によれば、小径のアルミニウム基板であっても、その全表面に均一な無電解Ni−P層を形成した磁気ディスク用のアルミニウム基板を効率よく得ることができる。
【0038】
また、前記[13]の発明によれば、品質に優れた磁気ディスク用アルミニウム基板の製造を可能とする。
【0039】
更にまた、前記[14]に係る磁気ディスク用アルミニウム基板は、均一なNi−Pめっき皮膜を有する高品質のものとなしうる。
【0040】
また、前記[15]の発明によれば、直径65mm以下の小径のアルミニウム基板について、高品質のものとなしうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に、この発明の好ましい実施形態について、図示実施例を参照して説明する。
【0042】
図1は、この発明に係るめっき処理用治具(1)の全体を示すものである。
【0043】
この治具(1)は、互いに離間して対向状に配置された左右に1対の円盤状のフランジ(2)(2)と、これらの両フランジ(2)(2)間に、外周縁部近くの同一円周線上において所定間隔おきに横架状に連結配置された4本の外周保持シャフト(3)と、前記両フランジ(2)(2)の各中心から、外方に同軸上に突設された左右1対の支持ロッド(4)(4)とを備える。
【0044】
上記左右の両フランジ(2)(2)は、硬質合成樹脂製のものであり、外周縁部どおしがステンレス等の不錆性金属からなる複数本の連結シャフト(5)(5)で相互に一体的に連結されている。
【0045】
外周保持シャフト(3)は、これも硬質合成樹脂製のもので、例えば直径12mmの太さを有する丸棒からなり、両端部と中央部の所定長さ領域部分を除く他の領域の全体に亘って、外周面に環状の保持溝(6)が軸線方向に所定間隔おきに多数個刻設形成されている。
【0046】
上記保持溝(6)は、被処理基板(10)の外周縁部を嵌め込むためのものであり、図2に示すように各外周保持シャフト(3)において同じ位置に整合状態に設けられている。かつその溝形状は断面U字状のものとなされ、かつ被処理基板(10)の厚さに対して3倍を超える十分に広い溝幅を有するものとなされている。
【0047】
そこで、被処理対象物たる小径のアルミニウム製の磁気ディスク用基板(10)は、4本の上記外周保持シャフト(3)によって囲まれるそれらの内側の空間(7)内に、外周縁部を上記保持溝(6)に嵌合した状態で、図1に領線で示すように多数個が並列状に保持されるものとなされている。アルミニウム製の磁気ディスク基板は、直径65mm以下のものが、本治具の使用に適している。
【0048】
この保持状態において、被処理用基板(10)は、外周保持シャフト(3)によって固定的な拘束状態に保持されるのではなく、軸線方向及び半径方向に若干の遊びを有するルーズな状態の保持されるものとなされている。つまり、4本の外周保持シャフト(3)の保持溝(6)の溝底面上の基板との当接点を結ぶ円の直径が、基板(10)の直径より僅かに大きく設定され、これによって基板(10)は半径線方向に若干の遊びを有する状態で保持されるものとなされている。上記の直径差は、例えば1mmから2mm程度に設定される。また、基板(10)は、前記のように保持溝(6)の溝幅が相対的に十分に大きいものとなされていることにより、保持溝(6)内でシャフトの軸線方向にも若干遊動可能な状態で保持されるものとなされている。
【0049】
被処理用基板(10)のこのような遊びを有する状態での保持は、めっき処理中にシャフト(3)に当接する基板(10)の外周縁の当接位置が常時一定であると、その部分においてめっき処理液の接触が阻害され、全面に均一なめっき処理が行われなくなる事態の発生を回避するためである。
【0050】
上記の4本の外周保持シャフト(3)は、そのいずれもがフランジ(2)(2)に対して不動状態に固定されたものである場合には、前記空間(7)に対して被処理基板(10)の出し入れ、即ち着脱を行うことができない。このため、上記4本のシャフト(3)のうちの1本(3A)は、これを隣接する他の1本のシャフトとの間の間隔を拡大しうる方向に移動変位させることができるものとなされている。この移動変位可能な1本のシャフト(3A)は、その両端の取付軸が、左右両フランジ(2)(2)に形成された、半径方向と直交する方向の直線状の長孔(8)に貫通されており、この長孔(8)の長さ範囲内でスライド移動させ得るものとなされている。そして、当該長孔(8)の一端側の基板保持位置で、上記取付軸をフランジ(2)の外面側から固定ねじ(9)で固定しうるものとなされている。
【0051】
従って、治具(1)への基板(10)の出し入れに際しては、図3の(イ)に示す定常の基板保持位置から上記固定ねじ(9)を緩めて図3の(ロ)に示すように、シャフト(3A)を長孔(8)の他端側の退避位置に移動し、これによって隣接する他のシャフト(3)との間に大きく開放された出し入れ口(11)を形成して前記空間部(7)への基板(10)の出し入れを行いうるものとなされている。
【0052】
4本の外周保持シャフト(3)は、前記空間部(7)内に総数50〜80枚程度の多数の被処理基板(10)を収容保持しうるものとなされ、それ故に全長300mmを超える長さを有するものとなされる。一方、該外周保持シャフト(3)は前述のように直径12mm程度の比較的細いもので構成される。このため、多数の基板(10)を収容保持した状態では、その重量によって上記外周保持シャフト(3)に撓みを生じるおそれがある。そしてこれに撓みを生じると基板(10)の保持力が部分的に不安定なものとなり、一部の基板(10)がシャフト(3)から外れて脱落してしまうおそれがある。
【0053】
このような問題点に対処するため、本発明に係るめっき処理用治具(1)においては、外周保持シャフト(3)の長さ方向の中間部に、1ないし複数個のシャフト間隔規制用の拘束板(12)を配置したものとしている。
【0054】
図示実施例における当該拘束板(12)は、硬質合成樹脂製の円板状のものであり、外周保持シャフト(3)の長さ方向の中央部に1個だけ組付けられている。該拘束板(12)は、図4に示すように外周縁に前記外周保持シャフト(3)の配置に対応して、周方向に等間隔に4個の切欠円形、つまり入口側が狭く奥部が広くなったΩの切欠係合部(13)を有し、これにそれぞれ前記シャフト(3)の中央部が緊密に嵌合され、各シャフト(3)の相互関係位置を拘束して相互間隔を一定に保ち得るものとなされている。但し、1本の前記可動の外周保持シャフト(3A)に対応する切欠係合部(13)は、該シャフト(3A)の横移動を阻害しないように図4に示すように水平方向の切欠部(13a)に連続したものとなされている。
【0055】
また、左右1対の前記フランジ(2)(2)は、その円盤状の外周面の一部に、図1及び図3に示すように直線状の切欠平面部(14)が形成されている。この切欠平面部(14)は、前記の可動の1本の外周保持シャフト(3A)を移動させることによって形成される前記出し入れ口(11)と反対側の位置に設けられたものである。従って、図3の(ロ)に示すようにこの切欠平面部(14)を下向きにして作業台面(T)上に治具(1)を載置した場合、フランジ(2)の不本意な転動を防いで常時上記出し入れ口(11)を上向きの状態に安定良く保持し、被処理基板(10)の組込み及び取出しを安易に行いうるものとなされている。
【0056】
更にまた、図1に示すように、左右フランジ(2)(2)から突設された支持ロッド(4)(4)は、その各先端の取付部(16)を、図5に示すようにカローセル(31)回転盤(31a)(31a)に設けられた治具取付用のC形軸受部材(31b)に嵌合状態に担持せしめることにより、めっき処理用治具(1)を両回転盤(31a)(31a)間に着脱可能に横架取付けしうるものとなされている。
【0057】
上記構成のめっき処理用治具(1)を用いて、小径の磁気ディスク用の基板(10)に無電解Ni−Pめっき処理を施すに際しては、一般的には50〜75枚程度の多数枚の被処理基板(10)を前述のように治具(1)に並列状態に収納配列したのち、このめっき処理治具(1)を、図5に示すようにめっき処理装置の1対の大型回転盤(31a)(31a)間に横架状に多数個取付ける。
【0058】
そして、図9に示すように、めっき処理槽(32)内のめっき液中にカローセル(31)の全体を浸漬した状態で、回転駆動機構(33)によりゆっくりと回転させる。これにより、被処理基板(10)は、めっき液浴中で回転盤(31a)の回転中心まわりに公転しながら、4本の外周保持シャフト(3)間で若干の遊動を繰返し、両面の全体にめっき液が万遍なく接触され、所要の均一なNi−Pめっき皮膜が施される。
【0059】
以上、この発明の好ましい1つの実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が許容される。
【0060】
先ず、外周保持シャフト(3)の本数に関し、これは4本に限らず、要は基板(10)を外周側から把持してその保持を可能とするものであればよいから、3本以上の設置でも実施可能である。ただ、基板(10)の安定保持のためには、4本の設置で必要かつ十分であり、最も好ましい。5本以上に設定すると、治具の製造コストの増大による不利益に加えて、基板保持空間部内へのめっき液の円滑な流入の妨げになるおそれが生じるからである。
【0061】
また、外周保持シャフト(3)に形成する保持溝(6)は、必ずしもこれをすべての保持シャフトに設けることを必要としない。しかしながら、基板(10)を安定的に保持するためには、少なくとも複数本の外周保持シャフト(3)は保持溝(6)を有するものとすべきである。
【0062】
また、この保持溝(6)は、シャフト(3)の全周に亘って環状形態のものとすることを必ずしも必要としない。外周保持シャフト(3)は、保持空間(7)に面する内方に向いた周面の一部で基板(10)を保持するものであるから、図6に示すように、この内方向きの部分だけに、即ち基板方向に向いた外周面の一部だけに保持溝(6a)を形成したものとしても良い。この場合、保持溝(6a)の総容積が減少する分だけ、該保持溝(6a)による保水(液)量を減少し、処理槽からの処理液の持ち出しおよび持ち込みの量を減らすことができる利点を期待できる。
【0063】
既存のめっき処理装置の種類によっては、カローセル(31)の回転盤(31a)が1個だけで、めっき処理用治具(1)をカンチレバー態様に片持ち支持して取付けるようになされたものがある。このようなめっき処理装置に適用するめっき処理用治具の場合には、支持ロッド(4)を一方のフランジ(2)側にのみ設けたものとしても良い。
【0064】
更にまた、基板(10)の出し入れ口(11)を形成するための可動の1本の外周保持シャフト(3A)は、これをフランジ(2)から一時的に取外し可能なものとし、これを取外すことによって上記出し入れ口(11)を開放しうるようなものとしても良い。
【0065】
また、上記可動の外周保持シャフトをスライド移動させるための長孔(8)は、これをフランジ(2)の周方向に長い円弧状のものに形成しても良い。
【0066】
更には、そのスライド移動操作をより簡便に行いうるように図7および図8に示すようなスライド移動機構(18)を採用しても良い。この機構(18)は外周保持シャフト(3)の取付軸の両端をフランジ(2)の長孔(8)を貫通して外方に延長させ、この延長軸部(3a)にばね(19)によって常時フランジ(2)方向に付勢された止着用スリーブ(20)をスライド自在に装着する一方、前記長孔(8)の両端部に、フランジ(2)の外面側において径大の係止用凹陥部(8a)を形成し、この凹陥部(8a)に前記止着用カラー部材(20)の端部を嵌合係止めせしめることによって、シャフト(3)をフランジ(2)に位置決め固定しうるようになされたものである。このスライド移動機構(18)による場合、基板(10)脱着を行うに際して、止着用スリーブ(20)をばね(19)に抗して外方にスライドさせ、係止用凹陥部(8a)との係合を解くことで外周保持シャフト(3)を長孔(8)に沿って移動させることができる。従って、シャフト(3)の基板保持位置と、出し入れ口(11)をつくる退避位置との間での移動操作をより簡単に行うことができ作業性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係るめっき処理用治具の全体形状を示す斜視図である。
【図2】外周保持シャフトに囲まれる基板保持空間部を示す一部破砕正面図である。
【図3】図1のIII−III線の矢視断面図であり、図(イ)は可動の外周保持シャフトを基板保持位置に設置した状態を、図(ロ)は同シャフトを出し入れ口を開放する退避位置に移動したときの状態をそれぞれ示すものである。
【図4】図1のIV−IV線の矢視断面図である。
【図5】本発明に係るめっき処理用治具をカローセルに装着した状態を示す斜視図である。
【図6】外周保持シャフトの保持溝の変形例を示す図3対応部分の断面図である。
【図7】可動の外周保持シャフトのスライド移動機構の変形例を示す要部斜視図である。
【図8】図7のVIII−VIII線の断面図である。
【図9】従来のめっき処理用治具を装着しためっき処理装置の説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1・・・・めっき処理用治具
2・・・・フランジ
3・・・・外周保持シャフト
3A・・・移動自在な外周保持シャフト
4・・・・支持ロッド
6・・・・保持溝
7・・・・基板保持用の空間部
8・・・・長孔
10・・・被処理基板
11・・・出し入れ口
12・・・拘束板
13・・・係合部
14・・・平担面
16・・・先端の取付部
18・・・スライド移動機構
19・・・ばね
20・・・止着用スリーブ
30・・・従来のめっき処理用治具
31・・・カローセル(回転胴)
31a・・回転盤
32・・・めっき処理槽
33・・・回転駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して対向状に配置された左右1対のフランジと、これらの両フランジ間に、同一円周線上において所定間隔おきに横架配置された3本以上の外周保持シャフトと、少なくとも一方の前記フランジから外方に突設された支持ロッドとを備え、
前記外周保持シャフトのうち少なくとも複数本に、被処理基板の外周縁部が嵌まり込む保持溝が、軸線方向の所定間隔おきに多数個形成され、前記被処理基板を、3本以上の前記外周保持シャフトに囲まれる空間部内に、外周縁部を前記保持溝に嵌合した態様において並列状に保持しうるものとなされると共に、
少なくとも1本の外周保持シャフトが、前記両フランジに対して着脱自在または隣接する外周保持シャフトとの間の間隔を拡大しうる方向に移動変位自在に構成され、該シャフトを取外しまたは移動させることにより出し入れ口を形成して被処理基板の着脱を行い得るものとなされていることを特徴とするめっき処理用治具。
【請求項2】
外周保持シャフトが4本である請求項1に記載のめっき処理用治具。
【請求項3】
移動変位自在な1本の前記外周保持シャフトが、左右両フランジに設けられた円弧状または直線状の長孔に沿って、周方向または半径方向と直交する方向にスライド移動可能なものとなされている請求項1または2に記載のめっき処理用治具。
【請求項4】
移動変位自在な1本の前記外周保持シャフトのスライド移動機構が、外周保持シャフトの取付軸の両端をフランジの長孔を貫通して外方に延長させ、この延長軸部に常時フランジ方向に付勢された止着用スリーブをスライド自在に装着する一方、前記長孔の両端部に、フランジの外面側において径大の係止用凹陥部を形成し、この凹陥部に前記止着用スリーブの端部を嵌合係止せしめることによって、シャフトをフランジに位置決め固定しうるようになされている請求項3に記載のめっき処理用治具。
【請求項5】
外周保持シャフトの長さ方向の中間部に、各シャフトと係合する係合部を有するシャフト間隔規制用の拘束板が配設されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【請求項6】
複数本の外周保持シャフトに囲まれる空間部内に、被処理基板が、半径方向及び軸線方向にいずれも遊びを有する状態に保持されるものとなされている請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【請求項7】
外周保持シャフトの、基板方向に向いた外周面の一部のみに、前記保持溝が設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【請求項8】
前記保持溝が断面U字状の溝である請求項1〜7のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【請求項9】
前記左右フランジの外周面の、前記出し入れ口と反対側の位置に切欠平面部が形成され、作業台面上に該フランジを安定載置しうるものとなされている請求項1〜8のいずれか1項に記載のめっき処理用治具。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のめっき処理用治具が、めっき処理槽に設けられたカローセルの左右1対の回転盤間に横架状に、かつ着脱自在に装着されてなるめっき処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載のめっき処理装置を用いて行うめっき処理方法。
【請求項12】
被処理基板が磁気ディスク用のアルミニウム基板であり、めっき処理がNi−Pめっき液浴による無電解めっき処理である請求項11に記載のめっき処理方法。
【請求項13】
請求項12に記載のめっき処理方法を製造工程中に含む磁気ディスク用アルミニウム基板の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載のめっき処理方法でめっき処理された磁気ディスク用アルミニウム基板。
【請求項15】
外径が65mm以下である、請求項14に記載の磁気ディスク用アルミニウム基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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