説明

めっき助材、めっき液およびめっき材料

【課題】表面めっき皮膜に潤滑性を付与することにより摺動性を高め、耐磨耗性が良好で、かつ接触信頼性が良好であるめっき材料を提供する。
【解決手段】40℃における動粘度が100mm/s以下の潤滑油を内包し、樹脂または無機材料の外壁からなるカプセルであって、該カプセルの平均粒径が1μm以下であるとともに、該カプセルの直径をdおよび外壁の厚さをtとしたとき、直径に対する壁の厚さt/dが1/100以上1/2未満であるカプセルを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑性を付与するめっき助材、そのめっき助材を用いためっき材料およびそれに用いるめっき液に関する。更に詳しくは、摺動性や耐磨耗性に優れ、例えば摺動型や回転型の接点・スイッチの材料として好適なめっき助材、めっき液、そのめっき液を用いためっき材料に関する。
【背景技術】
【0002】
銅(Cu)やCu合金、ステンレス(SUS)、鉄合金などからなる導電性基材の上に、銀(Ag)をはじめとする貴金属類や錫(Sn)などからなるめっき層を設けた材料は、基材の優れた導電性や強度と、めっき金属の良好な電気接触特性とを兼ね備えた高性能導体として各種の接点やスイッチ、端子などに広く用いられている。
【0003】
めっき材料のめっき厚は、使用環境、通電状態、コストなどによって決まることが多く、構造材などでは耐環境性を向上させるため、厚くめっきをするといったことが行われている。しかし、摺動を伴う箇所に用いられている接点用めっき材料は、摺動時における削れが摺動抵抗となってしまうため、摺動抵抗を低く抑えるために、めっき厚が比較的薄く設定されている場合が多い。
【0004】
また、摺動抵抗を低く抑える目的でめっき皮膜中に炭素や珪素からなる微粒子をめっきしている例が報告されている(特許文献1、2)。加えて、車のエンジンや機構部品には、比較的厚めの無電解ニッケルめっき中に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を初めとする樹脂粒子が共存していることがある。
【0005】
同様にマイクロカプセルがめっき皮膜中に共存している例も挙げられる(特許文献3、4)。ここで問題となるのはマイクロカプセルの粒径である。マイクロカプセルの粒径が大きくなると、共存しているめっき皮膜も厚くならざるを得ない。しかし、電気接点として用いられる場合、めっき厚は10μm以下に制限される場合があり、従来の製法で作成されたマイクロカプセルでは大きすぎて、電気接点として用いるめっき材料には使用できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−101919号公報
【特許文献2】特表2000−508379号公報
【特許文献3】特開2008−249394号公報
【特許文献4】特開2008−249395号公報
【特許文献5】特開2009−179715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、表面めっき皮膜に潤滑性を付与することにより摺動性を高め、耐磨耗性が良好で、しかも接触信頼性が良好であるめっき材料を提供することを課題とする。また本発明は、このようなめっき材料に使用するのが好適なめっき助材を提供することを課題とする。さらに本発明は、めっき助材及びめっき液とめっき材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は下記の手段により達成される。
(1)40℃における動粘度が100mm/s以下の潤滑油を内包し、樹脂の外壁からなるカプセルであって、平均粒径が1μm以下であるとともに、直径をdおよび外壁の厚さをtとしたとき、直径に対する壁の厚さt/dが1/100以上1/2未満であるカプセルを含有することを特徴とするめっき助材。
(2)イオン系界面活性剤10〜50質量%含む界面活性剤で処理したカプセルを含有することを特徴とする(1)に記載のめっき助材。
(3)40℃における動粘度が100mm/s以下の潤滑油を内包し、無機材料の外壁からなるカプセルであって、最大粒径が1μm以下あるとともに、直径をdおよび外壁の厚さをtとしたとき、直径に対する壁の厚さt/dが1/100以上1/2未満であるカプセルを含有することを特徴とするめっき助材。
(4)増粘剤を含むカプセルを共存させてなる(1)〜(3)のいずれかに記載のめっき助材。
(5)前記増粘剤の量が、潤滑油と増粘剤の総量に対して0.1〜5.0質量%であることを特徴とする(4)に記載のめっき助材。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のめっき助材を分散させてなるめっき液。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載のめっき助材を、めっき皮膜中またはめっき皮膜上に分散してなることを特徴とするめっき材料。
(8)Ag、Snまたはそれらの合金を含む表面めっき層を有し、該表面めっき層に(1)〜(5)のいずれかに記載のめっき助材を、界面活性剤で分散してなることを特徴とするめっき材料。
(9)前記表面めっき層に、前記樹脂または無機材料からなるカプセルを1〜30体積%含んでなることを特徴とする(8)に記載のめっき材料。
(10)前記表面めっき層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする(8)または(9)に記載のめっき材料。
(11)Ag、Snまたはそれらを含む合金からなる表面めっき層を有し、該表面めっき層に(1)〜(5)のいずれかに記載のめっき助材を、界面活性剤で分散させることを特徴とするめっき材料の製造方法。
(12)前記表面めっき層が、前記樹脂または無機材料からなるカプセルを1〜30体積%含むことを特徴とする(11)に記載のめっき材料の製造方法。
(13)前記表面めっき層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする(11)または(12)に記載のめっき材料の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のめっき助材は、内部に潤滑油を内包したカプセルであり、AgやSn、またはそれらを含む合金からなる表面めっき層の表層部または内部に共存させることにより、表面めっき層に潤滑性を付与して摺動性を高め、耐磨耗性が良好であり、かつ接触信頼性が良好なめっき材料を提供できる。増粘剤を含むカプセルを同時に共存させることにより潤滑性能の向上も図れる。
このような特性を有しているため、例えば電気・電子部品の摺動型や回転型の接点・スイッチの材料用途として好適なめっき材料およびめっき助材である。
【0010】
本発明では、核となる潤滑油の動粘度を下げることによりマイクロカプセルが小径化でき、安定的に小さなサブミクロンサイズのカプセルを作成することが可能となる。また、動粘度の低い潤滑油を使用したときに問題となりやすい、潤滑油切れなどの問題を避けるため、増粘剤を内包するカプセルを同時にめっき皮膜中にめっき材料として取り込む方式を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のめっき助材に用いられるカプセルの一実施形態の説明図である。
【図2】本発明のめっき助材の一実施形態を用い形成した、潤滑油を内包したカプセルを有するめっき材料の断面図である。
【図3】増粘剤を内包するカプセルと潤滑油を内包するカプセルを表面めっき層中に共存させた、めっき材料の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(めっき助材)
本発明のめっき助材は、樹脂または無機材料からなる外壁中に潤滑油を内包したカプセルを主成分とする。
【0013】
本発明で用いる潤滑油は、40℃における動粘度が100mm/s以下、好ましくは20mm/s以下である。40℃における動粘度が100mm/sより大きくなると、得られるカプセルの平均粒径が1μm以上になり、カプセルをめっき皮膜中に取込むに当り、めっき膜厚を厚くする必要が生じ、さらに得られるめっき材料の耐磨耗性と電気接触性が低下する。また40℃における動粘度が20mm/s以下である場合、平均粒径が小さいカプセルを得やすい傾向がある。動粘度の下限は、特に限定されるものではなく、物理的な限界値が下限となる。
【0014】
上記潤滑油は、一般に使用されている物質を使用することができるが、電気的接続を図る用途で用いられることを考えると、接触抵抗への影響が少ない薬剤を用いることが好ましい。潤滑油の例としては、パラフィン系やオレフィン系の鉱物油や合成油、高級アルコールや多価アルコールやエーテル類、高級脂肪酸やそのエステル類などから選ぶことができる。
【0015】
本発明のめっき助材に含まれるカプセルの外壁を構成する樹脂または無機材料は、特に限定されないが、めっき液中で安定して使用できるものとして、耐酸、耐アルカリ性に優れ、めっき液温度(例えば、20〜90℃)以上の融点を有する有機高分子または無機粒子を用いることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリスチレン系などの樹脂や、シリカやチタニアをはじめとする金属酸化物などの無機材料が好適である。
【0016】
本発明のめっき助材に含まれるカプセルの平均粒径は1μm以下であり、好ましくは0.2〜1μmである。平均粒径が1μmより大きい場合、カプセルをめっき皮膜中に取込むに当り、めっき膜厚を厚くする必要が生じ、さらに良好な耐磨耗性や電気接触性が得られなくなる。また、平均粒径が0.2μmより小さい場合、カプセルに内包される潤滑油量が少なくなり、カプセルを用いて作製しためっき材料に、十分な耐磨耗性が得られなくなるおそれがある。製造工程におけるカプセル粒径のばらつきを考慮すると、平均粒径が0.4〜0.8μmのカプセルを用いることがより好ましい。
【0017】
図1に本発明のめっき助材に用いられるカプセルの一実施形態の説明図で示すように、上記カプセルの外壁の厚さtは、その外径dに対して、1/100以上1/2未満とする。
t/dが1/100が小さすぎると、製造工程において外壁が崩壊し、カプセル形状を維持できない。またt/dが大きすぎることはと、カプセルを得るに当り、物理的に困難を伴う。製造時のt/dのばらつきを考慮すると、耐磨耗性を得るのに十分な潤滑油内包量と、カプセル形状を維持するのに十分な外壁強度を両立するためには、t/dを1/20以上1/3以下とすることがより好ましい。
【0018】
樹脂製の外壁を有するカプセルを製造する際、カプセルの内包物となる液滴を処理液内で均一に分散させ、その表面で外壁を形成させる。液滴の均一分散には、処理液内に界面活性剤を混合することが有効であり、この界面活性剤は10〜50質量%でイオン性界面活性剤を含むことが好ましい。これにより、電気的な反発力により液滴同士の合一を防ぎ、得られるカプセルの平均粒径を小さくすることができる。
イオン性界面活性剤の量が10質量%よりも小さいと、液滴同士の合一を防ぐための十分な電気的反発力を得られず、平均粒径の小さなカプセルを得づらくなるおそれがある。またイオン性界面活性剤の量が50質量%より大きくなると、カプセル同士の電気的反発力は大きくなるが、物理的な反発力が小さくなり、液滴同士の合一が促進され、平均粒径の小さなカプセルを得づらくなるおそれがある。イオン性界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤のいずれを用いても良い。
【0019】
上記カプセルの形状は、例えば、球状、楕円体状のカプセルなど任意の形が挙げられる。また、上記のカプセルの粒径は、球状以外の形状のもの、例えば、楕円体状のものでは長径を意味することができる。
【0020】
上記カプセルは、めっき助材に10〜50質量%で含むことが好ましい。この範囲では、めっき液と高濃度で混合する際も混合し易く、また凝集によるカプセル濃度偏差も生じづらい。
【0021】
本発明のめっき助材に含まれるカプセルの製造は、特に限定されるものではなく、一般に知られている方法を用いることができる。樹脂製の外壁を有するカプセルの製造は、例えば界面重合法、懸濁重合法、分散重合法、液中乾燥法やコアセルベーション法等が挙げられる。このうち、微細なカプセルが比較的得やすい、界面重合法や液中乾燥法が好適である。また、無機材料の外壁を有するカプセルの製造は、例えばゾル−ゲル法などの一般的方法が挙げられる。
【0022】
(めっき液)
めっき液は、上記めっき助材、及びめっき金属源、例えばシアン化銀、硫酸第一錫などを含む以外は、特に限定されるものではなく、通常のものを用いることができ、さらに上記に加え、例えばイオン系界面活性剤、光沢剤などを含むことができる。めっき液の媒体は水である。めっき助材の含有量は、めっき液中のカプセル濃度が0.1〜10質量%となるような含有量が好ましい。
【0023】
(めっき材料)
本発明のめっき材料の好ましい実施態様は、図2の概略断面図で示したように、導電性基材1の上に下地めっき層2が少なくとも1層(同図では1層)と表面めっき層3を形成したものである。当該表面めっき層中には、樹脂または無機材料からなる外壁中に潤滑油を内包したカプセル4が分散する。
当該めっき材料は、使用で摺動させるまでは潤滑油がカプセル4内で安定に保時されており、摺動時に表面めっき層3が削れ、カプセル4が表層に露出し、さらにカプセル4が押し潰されて潤滑油が放出されることにより、はじめて摺動部に潤滑油が供給される。このため、表面めっき層3の表面に潤滑油を塗布する場合と比べて、潤滑油の経時的な品質劣化が抑制されるとともに、潤滑油の供給量を制御して、必要量の潤滑油を摺動時にのみ放出することができる。
【0024】
導電性基材1の材料は特に限定されるものではなく、例えば接続コネクタとしての用途を考慮し、要求される機械的強度、耐熱性、導電性に応じて、例えば、純銅;リン青銅、黄銅、洋白、ベリリウム銅、コルソン合金のような銅合金;純鉄;ステンレス鋼のような鉄合金;各種のニッケル合金;Cu被覆材料やNi被覆材料のような複合材料などから適宜に選定すればよい。
【0025】
これらの導電性基材1の材料のうち、純銅または銅合金が好ましい。なお、導電性基材1がCu系材料でない場合も、銅、ニッケル、コバルト、鉄などが含まれる下地めっきを施してから実使用に供することにより、表面めっき層の密着性や耐食性の向上が期待できる。
また、導電性基材1の形状は、特に制限はない。条材や線材、板材などのいずれの形状でもよい。
【0026】
導電性基材1の上に形成される下地めっき層2は、導電性基材1と表面めっき層3の密着性を向上させるとともに、基材成分が表層側に熱拡散することを防止するバリア層としても機能する。この下地めっき層2に融点が1000℃以上の高融点金属を用いた場合、200℃以下の熱履歴においては、下地めっき層2は、基材成分が表層側に熱拡散することを有効に防止する。高融点金属のうち、価格の点やめっき処理が行いやすい点から、Cu、Ni、コバルト(Co)、鉄(Fe)が好適である。またこれらの元素を含む合金めっき層やめっき後に熱処理して合金化した化合物層も同様に有効であり、例えば、Cu−Sn、Ni−Sn、Ni−P、Co−P、Ni−Co、Ni−Co−P、Ni−Cu、Ni−Feなどを挙げることができる。
【0027】
また下地めっき層2は、必要に応じて成分や特性の異なる層を2層以上積層しても良い。例えば基材1の上部に第一の下地めっき層としてNi層を設け、その上部に第二の下地めっき層としてCuを設け、さらにその上に表面めっき層3を設けることができる。このようなめっき材料では、下地層と表面めっき層の密着性のさらなる向上が得られる。特に表面めっき層がAgである場合、導電性基材上に通常の下地めっきを施し、更にその上に、Agストライクめっきを第二の下地めっきとして施すことで、下地めっき層と表面めっき層の密着性が、著しく向上する。
【0028】
下地めっき層2の厚さは、0.05〜2μmとすることが好ましい。下地めっき層2の厚さが0.05μmより薄くなると、上記した基材成分の表層側への熱拡散防止効果が、十分に発揮されないおそれがある。また表面めっき層2の厚さが2.0μmより大きくなると、上記熱拡散防止効果が飽和し、さらに成形加工時に加工割れを起こす可能性が高くなるおそれがある。
【0029】
表面めっき層3は、Ag、Snまたはそれらの合金からなり、カプセル4を分散させためっき液を用いて、電解めっきまたは無電解めっきにより形成され、めっき材料としての電気接触特性、耐食性、はんだ付け性を確保するために設けられる。
【0030】
カプセル4を表面めっき層3中に分散させるためには、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性などの界面活性剤が使用されるが、めっき液中にカプセル4を分散して、表面めっき層3中に分散させ得るものであれば、いずれの界面活性剤を使用してもよい。
【0031】
本発明においては、表面めっき層3中に含まれるカプセル4の量は、めっき液中のカプセル濃度の他に、電流密度、撹拌速度、界面活性剤の種類、界面活性剤の濃度により調節することができる。
【0032】
Ag合金としては、例えば、AgにPd、Cu、Snの少なくとも1種の金属を含有しているものが好適であり、耐磨耗性を向上させることができる。またSn合金としては、例えば、SnにAg、Bi、Cu、Zn、In、Pb、Biの中から少なくとも1種を含有しているものが好適であり、挿抜性をさらに向上させることができるうえ、はんだ付け性が良好になり、さらに、ウィスカの発生を抑えることができる。
【0033】
表面めっき層の厚さは0.5μm以上であることが好ましく、寿命と生産性の観点から1〜5μmであることがさらに好ましい。表面めっき層が0.5μmより小さい場合、熱処理時の接触抵抗上昇が著しく、まためっき材料の寿命が短くなるおそれがある。
【0034】
表面めっき層3に含まれるカプセル4は、1〜30体積%の範囲内に設定されていることが好ましい。表面めっき層3に含まれるカプセル4が1体積%より少ない場合、十分な耐磨耗性が得られなくなり、また30体積%より多い場合、良好な電気接触性を得られなくなるおそれがある。製造時に表面めっき層3中に存在するカプセル4の共存量のばらつきを考慮すると、表面めっき層3中に含まれるカプセル4の量は、5〜15体積%であることがより好ましい。
【0035】
(表面めっき材料の製造方法)
本発明のめっき材料の製造方法は上記めっき液を用いて行われる。その方法は上記のめっき液を用いる以外は特に制限はなく、通常の電気めっき法、無電解めっき法を用いておこなうことができる。
【0036】
上記めっき材料において、表面めっき層3の表層に存在するカプセル4が、プレス加工等の成型加工や部品加工時に破壊されぬように保護するため、カプセル4を分散した表面めっき層3を形成した後に、表面めっき層3の表層に薄い保護層を形成してもよい。保護層としては表面めっき層3と同様の金属層が好ましい。
【0037】
図3は、潤滑油を内包したカプセル4と、増粘剤を含むカプセル5を表面めっき層3中に共存させためっき材料の好ましい一実施形態を示す断面模式図である。このめっき材料を摺動した際、表面めっき層3の磨耗と共にカプセル4とカプセル5が破壊され、内包される潤滑油と増粘剤が混ざることで、磨耗部の表面が、動粘度が100mm/s以上に増粘された潤滑油により被覆される。これにより、摺動時に磨耗部表面の潤滑油が取払われる、油切れを抑制することができ、良好な耐摩耗性を長期に渡って継続的に得ることができる。
【0038】
上記増粘剤は、特に限定されたものではなく、潤滑油と混合した際に、潤滑油の動粘度を増粘できるものであれば、何を用いても良い。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの合成系増粘剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのセルロース系増粘剤(半合成系増粘剤)、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、アラビアゴムなどの天然系増粘剤などを、単独使用または併用することができる。
【0039】
増粘剤としてポリアクリル酸を用いる場合には、ポリアクリル酸とアルカリとが併用されるのが好ましい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリ、アンモニア、トリエタノールアミンなどの有機アルカリなどが挙げられる。アルカリを添加することにより、ポリアクリル酸が増粘作用を発揮する。アルカリを添加する場合の増粘剤に対する配合割合は、体積比で10%以下である。
【0040】
本発明において、表面めっき層3中に共存する増粘剤と潤滑油の割合は、カプセル4、5に内包される潤滑油と増粘剤の総量に対して、増粘剤が0.1〜5.0質量%含まれるような割合が好ましい。0.1質量%より小さいと十分な増粘効果が得られず、5.0質量%より大きいと動粘度が過多となり、潤滑性能が低下するおそれがある。摺動時の潤滑油と増粘剤の混合度合にばらつきが生じることを考慮すると、0.2〜3.0質量%であることが、より好ましい。
【0041】
カプセル4、5を表面めっき層3中に共存させためっき材料は、カプセル4のみを共存させためっき材料と同様に、カプセル4、5を分散させためっき液を用いて、電気めっき法、無電解めっき法により製造できる。カプセル4、5の表面めっき層3中における共存量、及び共存量の比率は、めっき液中のカプセル濃度、界面活性剤種類、界面活性剤濃度、電流密度、撹拌速度により調整できる。
【0042】
上記のめっき材料は、電気・電子部品に用いられている従来の金属材料に代えて用いることができ、特に、摺動性や耐磨耗性に優れ、接触信頼性が高いため、摺動型や回転型の接点またはスイッチの材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について、実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
各発明例および比較例で合成した各カプセルについて、平均粒径の評価を行った。また、各発明例および比較例で作製した各めっき材料について、摩擦係数、接触抵抗、摩擦係数の持続性の評価を実施した。
【0045】
本発明例1〜36、比較例1〜26
表1−1、1−2に、動粘度の異なる潤滑油(松村石油 モレスコハイルーブ、バーレルプロセス油)を用いて合成したカプセルの平均粒径を示す。表1−1、1−2中の調整法は、カプセルの製造方法を示しており、樹脂の外壁中に潤滑油を内包したカプセルは界面重合法及び液中乾燥法により作製し、無機材料の外壁中に潤滑油を内包したカプセルはゾル―ゲル法により作製した。外壁の材料としては、樹脂にはポリアミド系樹脂を、無機材料にはシリカを用いた。また、外壁を樹脂としたカプセルは、合成時に用いる界面活性剤に、イオン性の界面活性剤であるヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成工業)を混合したものも作製した。表1−1、1−2中のイオン性界面活性剤濃度比は、カプセル作製時に用いた界面活性剤全体に対する、イオン性界面活性剤の質量比を表している。なお、合成したカプセルのt/dは、全て1/100以上1/2未満の範囲に入っていた。
【0046】
潤滑油動粘度
粘度計(東機産業 TVB−10)を用いて40℃における潤滑油の粘度を測定し、それを40℃における潤滑油の密度で除することで、40℃における潤滑油の動粘度とした。
【0047】
平均粒径:
合成したカプセルの粒度分布をレーザ回折/散乱式粒子径測定装置(ホリバ製作所 LA−300)により測定し、得られる算術平均径をカプセルの平均粒径とした。またカプセルを拡大観察し、得られた平均粒径が妥当であるか確認した。合成したカプセルの平均粒径が0.2〜1μmの範囲に収まる場合を、合格と判断した。
【0048】
【表1−1】

【0049】
【表1−2】

【0050】
表1−1、1−2に示した通り、本発明の要件を満たす発明例1〜36は全て、平均粒径が1μm以下であった。これに対し、潤滑油の動粘度が100mm/sより大きい比較例1〜6、12〜17及び23〜25、イオン性界面活性剤濃度比が50質量%より大きい比較例7〜10及び18〜21、潤滑油の動粘度が100mm/sより大きく、かつイオン性界面活性剤濃度比が50質量%より大きい比較例11及び22では、どれもカプセルの平均粒径が1μmより大きくなった。
【0051】
次に得られた発明例1〜36、比較例1〜25を、AgまたはSnからなる表面めっき層中に分散させためっき材料を下記の方法で作製し、摩擦係数、接触抵抗の評価を実施した。表面めっき層中のカプセルの共存量は、全て1体積%に統一した。また、比較例51及び77はカプセルが表面めっき層中にカプセルが共存しないめっき材料として、同様の評価を実施した。これらの評価結果を表3−1〜3−4に示す。
【0052】
厚さ0.2mmの純銅(C1020)、黄銅(C2600)、リン青銅(C5210)、コルソン系合金(Cu−Ni−Si)にめっき前処理として脱脂処理および酸洗処理を順次施し、その後Ni下地めっき層の形成を行い、表面めっき層を順次施して、それぞれを乾燥させて、めっき材料を作製した。また表面めっき層がAgの場合、Ni下地めっき層と表面めっき層の間に、Agストライクめっき層を形成した。
なお、下地めっき層と表面めっき層に用いためっき浴の組成、めっき条件は、表2に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
前記脱脂処理は、クリーナー160S(メルテックス社製)を60g/L含む脱脂液中において、液温60℃で電流密度2.5A/dmの条件で30秒間カソード電解して行った。また、前記酸洗処理は、硫酸を100g/L含む酸洗液中に室温で30秒間浸漬して行った。
【0055】
表面めっき層の形成においては、表1−1、1−2に示すカプセルを添加しためっき液を用い、めっき厚が5μmとなるようにめっきを施した。なお、めっき液中においてカプセルを安定して分散させるために、イオン性の界面活性剤であるヘキサデシルトリメリルアンモニウムブロミド(東京化成工業)を0.1〜3質量%の範囲で適宜用いた。めっき液中の助材の割合は、用いるカプセルにより流動的に変化させて、めっき液中のカプセル濃度が0.1〜10質量%の範囲に収まる量とした。
【0056】
摩擦係数:
バウデン型摩擦試験機を用いて、めっき材料の表面を摺動させた際の往復100回摺動後の動摩擦係数を評価した。測定条件は、荷重0.98N(100gf)、摺動距離10mm、摺動速度100mm/分とした。相手材は3mmRの鋼球プローブを用いた。摩擦係数が0.35より小さくなった場合を、摺動時に潤滑油の効果が十分に得られたと判断した。
【0057】
接触抵抗:
定電流通電時の電圧を測定することにより評価した。先端が5mmRのAgプローブを荷重0.49N(50gf)で接触させ、10mA通電時の電圧を測定し、n=10の平均値より接触抵抗を算出した。接触抵抗が3mΩ以下の場合は○、3mΩより大きく10mΩ以下の場合には△、それ以上の場合は×とした。
【0058】
【表3−1】

【0059】
【表3−2】

【0060】
【表3−3】

【0061】
【表3−4】

【0062】
表3−1〜3−4に示した通り、発明例1〜36を用いて作製しためっき材料である発明例37〜108は、全て低い摩擦係数と良好な電気接触性を両立していた。これに対して、比較例1〜25を用いて作製しためっき材料である比較例26〜50及び52〜76、カプセルが表面めっき層中に共存していない比較例51及び77は、全て低い摩擦係数と良好な電気接触性を両立しないものとなった。
【0063】
次に得られた発明例9〜12の潤滑油を内包するカプセルと増粘剤を含むカプセルを、比率を変えてAgまたはSnからなる表面めっき層中に共存させためっき材料を作製し、摩擦係数、摩擦係数の持続性の評価を実施した。増粘剤にはポリアクリル酸を用い、表面めっき層中のカプセルの共存量は、全て30体積%に統一した。これらの評価結果を表4−1、4−2に示す。
【0064】
持続性:
回転型の高速摺動試験機を用いて、導電性基材の表面を摺動させた際の動摩擦係数を評価した。測定条件は、荷重0.098N(10gf)、回転速度500rpm、相手材はAgめっき鋼線とし、5万回転以上低摩擦係数を維持した場合に◎とし、1万回転以上5万回転未満で低摩擦係数を維持した場合に○とし、それ以外を×とした。
【0065】
【表4−1】

【0066】
【表4−2】

【0067】
表4−1、4−2は請求項4、5に係る発明の試験である。同表に示した通り、発明例9〜12を用いて作製しためっき材料である実験No.1〜24は、全て低い摩擦係数を長期に渡り維持していた。これに対して、増粘剤を内包するカプセルが表面めっき層中に共存しない実験No.25、27、29、31、33、35、37及び39は、低い摩擦係数を示すものの、それを長期に維持することができないものとなった。また表面めっき層中に共存する増粘剤の量が多い実験No.26、28、30、32、34、36、38及び40は、高い摩擦係数を示すものとなった。
【符号の説明】
【0068】
1 導電性基材
2 下地めっき層
3 表面めっき層
4 潤滑油を内包したカプセル
5 増粘剤を内包したカプセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が100mm/s以下の潤滑油を内包し、樹脂の外壁からなるカプセルであって、平均粒径が1μm以下であるとともに、直径をdおよび外壁の厚さをtとしたとき、直径に対する壁の厚さt/dが1/100以上1/2未満であるカプセルを含有することを特徴とするめっき助材。
【請求項2】
イオン系界面活性剤を10〜50質量%含む界面活性剤で処理したカプセルを含有することを特徴とする請求項1に記載のめっき助材。
【請求項3】
40℃における動粘度が100mm/s以下の潤滑油を内包し、無機材料の外壁からなるカプセルであって、最大粒径が1μm以下あるとともに、直径をdおよび外壁の厚さをtとしたとき、直径に対する壁の厚さt/dが1/100以上1/2未満であるカプセルを含有することを特徴とするめっき助材。
【請求項4】
増粘剤を含むカプセルを共存させてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のめっき助材。
【請求項5】
前記増粘剤の量が、潤滑油と増粘剤の総量に対して0.1〜5.0質量%であることを特徴とする請求項4に記載のめっき助材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき助材を分散させてなるめっき液。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき助材を、めっき皮膜中またはめっき皮膜上に分散してなることを特徴とするめっき材料。
【請求項8】
Ag、Snまたはそれらの合金を含む表面めっき層を有し、該表面めっき層に請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき助材を、界面活性剤で分散してなることを特徴とするめっき材料。
【請求項9】
前記表面めっき層に、前記樹脂または無機材料からなるカプセルを1〜30体積%含んでなることを特徴とする請求項8に記載のめっき材料。
【請求項10】
前記表面めっき層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする請求項8または9に記載のめっき材料。
【請求項11】
Ag、Snまたはそれらを含む合金からなる表面めっき層を有し、該表面めっき層に請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき助材を、界面活性剤で分散させることを特徴とするめっき材料の製造方法。
【請求項12】
前記表面めっき層が、前記樹脂または無機材料からなるカプセルを1〜30体積%含むことを特徴とする請求項11に記載のめっき材料の製造方法。
【請求項13】
前記表面めっき層の厚さが0.5μm以上であることを特徴とする請求項11または12に記載のめっき材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122135(P2012−122135A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252067(P2011−252067)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】