説明

めっき層及びその形成方法

【課題】はんだ性及び接触信頼性を損なうことなく、内部応力に起因するウイスカの発生を抑制するとともに、外部応力に起因するウイスカの発生をも抑制するめっき層及びその形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】めっき層に厚みが必要なリード部には、めっきを厚めに皮膜し、めっき層の厚みがリード部ほど必要でなく、むしろ外部応力に起因するウイスカの抑制効果を重視する必要のある接点部のめっき層は薄くする。めっき液浸漬処理後に高温処理をおこなうが、このときめっき層に供給する熱量は、リード部ははんだ性を確保するのを第一義にし、ウイスカ対策は内部応力の除去が達成できる溶融状態未満の熱処理をおこない、接点部は、溶融しためっき材料の表面張力による形状変化はむしろ利点として作用するので、一旦めっき層を溶融させて内部応力の除去を完璧にできるリフロー処理をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫又は錫合金でめっきされた接続端子のウイスカの発生を抑制するめっき層及びその形成方法に関し、とりわけFPC(Flexible Print Circuit)用コネクタの接続端子のめっき層及びその形成方法に関する。又このめっき層を具えたコンタクトピン、更にはこのコンタクトピンを装着したコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
〈鉛フリー化〉
電子部品やコネクタの回路基板への実装は、はんだ(錫と鉛を主成分とした合金:Sn−Pb合金)が多く使われている。はんだは、融点が低く、濡れ性が良く、また価格も低廉で電子機器の接合材料として優れた特性を具えている。
【0003】
しかし、地球規模の環境保全の問題に絡んで環境負荷物質を含む構成部材の見直しが進む中で、電子部品の接合材料として鉛を含有する、はんだの使用に制限が加えられるようになってきた。現在、はんだに替わる接合材料として次のような金属(合金を含む)、Sn(錫)、Sn(錫)−Cu(銅)、Sn(錫)−Ag(銀)、Sn(錫)−Bi(ビスマス)があげられるが、いずれもがウイスカの問題を含み、錫−鉛合金に置き換わる有望なはんだ材料は、まだ存在しないのが現状である。
【0004】
〈ウイスカ〉
ウイスカは、錫の単結晶が成長した針状のもので、直径1μ長さ1mmに成長するものも報告されている。この針状結晶は導電性で、隣接する接続端子と短絡したり、折損物が飛散したりして、電子機器の動作に支障をきたす問題がおきている。錫−鉛はんだを使用していたときには、含有する鉛の作用によってウイスカの発生及び成長は抑制されていた。鉛フリー化による錫単体、或いは錫と鉛以外の他の金属との合金の使用によって、にわかにウイスカの問題が顕在化してきた。
【0005】
ウイスカ現象は、「錫の再結晶中に取りこまれた異物や転位等の欠陥がウイスカ発生の芽となり、結晶内部の残留圧縮応力や、外部からの圧縮応力の集中が駆動力としてはたらいて、その芽が成長する現象である」と説明されている。しかしその詳細な発生、成長の原理及び機構については、現在解明途上である。
【0006】
〈ウイスカの抑制〉
ウイスカの抑制技術は、その開発の基礎となる発生のメカニズムが現在解明途上であることから、未だ方向性は定まっていない。鉛を含有する、はんだめっきに代替する材料の組成の候補にしても数多くがあがっていて、上述した種類の合金のほかにも別種金属との合金や更に3元合金についての組成も報告されている。
【0007】
このような背景の下、ウイスカに関する技術については、多岐に亘って報告されており、合金組成についても多様である。また、その抑制方法は幾つもの技術が報告されているが、それぞれが問題を含んでいる。主な技術と問題点は次のようなものである。
(1)めっき後に熱処理をすることによって金属間化合物の形成等によって生じた内部応力を緩和するもの。内部応力によって発生及び成長するウイスカの抑制に有効であるが、コネクタの嵌合部に作用するような外部応力を起因とするウイスカの抑制には効果が望めない。
(2)下地にNi、CoもしくはFeのいずれか一種のめっきを施して銅と錫とからなる金属間化合物の形成バリアとするもの(特許文献1)。Niめっき等を施せない場合もあり全ての場合に有効とは言えない。また、外部応力に起因するウイスカの抑制には効果が望めない。
(3)めっき後にリフロー処理をすることによって錫合金めっき層の完全溶融を図って応力の緩和を図るもの(非特許文献1)。めっき層の外形に変化が生じ、表面実装型では実装時の不具合の発生が懸念される。また、外部応力を起因とするウイスカの抑制には効果が望めない。
【0008】
現在報告されている技術を分析すると、内部応力を起因とするウイスカの発生を抑制する技術が大半を占め、外部応力を起因とするウイスカの発生を抑制する技術についての報告は極めて少ない。また、物理的な方法によってウイスカの伸長を抑制する技術もあるが(特許文献2)、ウイスカ伸長防止壁等の構造体の製作に技術的困難性が予測される。
【0009】
【特許文献1】特開2007−177329号公報
【特許文献2】特開2007−53039号公報
【非特許文献1】神戸製鋼技報、2004年4月、Vol.54、No1、p11−12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、内部応力に起因するウイスカの発生及び成長を抑制するとともに、外部応力を起因とするウイスカの発生及び成長をも抑制するめっき層及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために工場のめっき工程や、めっきされた製品の外観やその断面をつぶさに観察した。またコネクタの接続機構をその構成要素に分解して、個々の要素についての機能的分析を併せておこなった。その結果、めっき層に要求されるはんだ性及び接触信頼性を損なうことなく、ウイスカの発生及び成長を効果的かつ合理的に抑制するめっき技術の開発に成功した。
【0012】
〈コンタクトピンの機能分析〉
コンタクトピンは回路基板に接続するリード部と、相対するコネクタに嵌合する接点部とを含む。リード部は、はんだで回路基板に固着されるので、被覆するめっきには、接触信頼性とともに、はんだ性が要求される。一方接点部は機械的な嵌め合いで相対するコネクタに連結するところなので、接触信頼性を満たす必要はあるが、はんだ性を満たすほどのめっき厚みは要求されない。また、接点部では嵌め合い箇所で圧縮応力の集中が生じるが、リード部では実装後に外部応力の集中は生じない。そのためにリード部では、外部応力に起因するウイスカ発生の心配はないが、接点部では、外部応力を起因とするウイスカの発生が懸念される。
【0013】
〈ウイスカ現象〉
背景技術で説明したように、ウイスカ現象は、錫の再結晶時に生じた欠陥と、その欠陥に作用する圧縮応力の存在が不可欠であると考えられている。そして圧縮応力には大別して、めっき層形成時に残留した内部応力に起因するものと、コネクタ等の外部応力に起因するものとの2タイプが確認されている。また、内部応力を除去するためには、熱処理又はリフロー処理が有効であること、また錫原子の供給を断つことでウイスカの抑制が図れることは多くの文献報告や経験から認められるものである。
【0014】
〈熱処理及びリフロー処理〉
ここで熱処理及びリフロー処理のめっき層改質処理について考察する。言葉を明確にしておくために、ここでは、熱処理とは、めっき材料の溶け出す温度(溶融温度)未満の温度を最高温度とする高温処理を意味し、リフロー処理とは、めっき材料の溶融温度以上の温度を最高温度とする高温処理を意味する。熱処理は、めっき層を融解させないので、めっき層の形状に変化を生じさせることなく改質(内部応力の緩和)をおこなえるところに特徴がある。リフロー処理は、熱処理以上の改質(内部応力の緩和)が望める一方、めっき層の融解を伴うので、リフロー処理後のめっき層は、その表面が平坦性を失っている。
【0015】
〈考察1〉
コンタクトピンの機能分析と、ウイスカ現象の基礎的知見とから次のことが考察される。(1)リード部には、はんだ実装後に外部応力の集中がないので、ウイスカの抑制は、熱処理或いはリフロー処理を施すことで十分達成され得る。(2)接点部には、嵌合時に外部応力の集中があるので、熱処理或いはリフロー処理による内部応力の緩和だけでは、外部応力を起因とするウイスカの発生を抑制しきれない。(3)接点部には、リード部ほどのめっき厚みは必要としない。すなわち、(4)リード部は、接触信頼性と、はんだ性とが要求されるので、めっき層は、はんだ性を満たすための厚みが必要であるとともに、広範囲で接続するために、表面は平坦であることが望まれる。これに対して、(5)接点部は、接触信頼性が確保される程度のめっき厚みで足り、はんだ性を満たすためのめっき厚みを必要としない。また、基本的な事項であるが、(6)ウイスカは錫の単結晶であるから、錫原子の供給量の多寡によってウイスカの芽の発生、或いは成長スピードの抑制が可能である。
【0016】
〈考察2〉
本発明者は、上述した考察と幾つかの確認実験を通してウイスカの発生及び成長を抑制するための効果的且つ合理的なめっき層及びその形成方法の発明を想到するに至った。本発明は、第1ステップ:めっき厚みが必要なリード部には、めっきを厚めに皮膜し、めっき厚みがリード部ほど必要でなく、むしろ外部応力に起因するウイスカの抑制効果を重視する必要のある接点部のめっきは薄く皮膜する。このとき、リード部と接点部とのめっきの厚さは、接点部のめっき厚さの150〜370%である。好ましくは150〜230%である。めっき厚さが小さすぎる場合には高温処理条件の制御が困難になり、めっき厚さが大きすぎると接点部、リード部それぞれの機能が十分に発揮できないおそれがある。第2ステップ:めっき層形成後に高温処理をおこなうが、このとき、めっき層が到達する最高温度は、リード部では、はんだ性を確保するのを第一義にし、ウイスカ対策は内部応力の緩和が達成できることを目的とした溶融状態未満の熱処理をおこなう。接点部では、溶融しためっき材料の表面張力による形状変化はむしろ利点として作用するので、一旦めっき層を溶融させて内部応力の除去を完璧にできるリフロー処理をおこなう。
【0017】
〈接点部〉
接点部のめっき層は、リフロー処理によって内部応力が十分に除去されており、一度融解を経験したことで、コンタクトピンの四隅及び先端のテーパ部のめっき層は、表面張力によって腹部に引き込まれる。その結果、四隅及びテーパ部では薄く、腹部ではそれに比して厚くめっきが皮膜されている。接点部では、相対するコンタクトピンと嵌合したときに、外部応力を起因とするウイスカの発生及び成長を抑制することが重要である。この点について、(1)もともとのめっき層が薄いので、ウイスカを構成する錫原子の供給量が絶対的に少ない。(2)リフロー処理がなされているので内部応力が十分に除去されている。外部応力に起因するウイスカの発生を抑制するためにも、内部応力の除去は完全におこなわれていることが望ましいものと考えられる。(3)外部応力が集中してウイスカの発生しやすいコーナー部のめっき層が特に薄くなっている。これらの作用が相互に関連することで、接点部では、外部応力に起因するウイスカの発生は、最大限抑制されているものである。
【0018】
〈リード部〉
一方リード部のめっき層は、熱処理によって内部応力の除去がなされている。このとき、リフロー処理によるほど内部応力の除去はなされていない。しかし回路基板に実装されたときから、リード部には外部応力の集中は生じないので、接点部ほどの内部応力の除去は必要でない。むしろこの部分は、回路基板との接続が確実になされることに機能上最も重点を置くべきところである。したがって、めっき層が形成された当初の表面の平坦性が損なわれないことを重視すべきである。
【0019】
〈温度プロファイル〉
上述したように本発明は、要求される機能が相違するリード部と、接点部とにそれぞれの機能を奏するのに適しためっき仕様を創り出すところに特徴がある。それぞれのめっき仕様を創出するための高温処理条件は、次の如くである。すなわち接点部と、リード部とのめっき厚みの差を利用する。この厚み差から生じる、めっきの必要融解熱量の差を利用するのである。両者は母材を共通にして、接点部のめっき層は薄くリード部のめっき層は厚いことから、接点部はリード部に比べて必要融解熱量が小さいことがわかる。このような状態で、めっき層を昇温して温度と、処理時間とを制御することによって、接点部のめっき層は融解するが、リード部のめっき層は融解しない状態を創り出すことができる。この状態を創り出すことによってそれぞれの部分の機能に適しためっき仕様を具えたコンタクトピンを得ることが本発明の特徴部分である。
【0020】
本発明は、上述したようにめっき工程及び高温処理工程を経ることで、以下のウイスカの発生及び成長を抑制するめっき層及びその形成方法を提供するものである。
(1)基板実装用コネクタの接続端子に形成された錫や錫合金のめっき層であって、前記接続端子の嵌合側のめっき層は、実装側のめっき層に比べて薄いことを特徴とするめっき層。
(2)前記嵌合側のめっき層と、前記実装側のめっき層と、の膜厚差が前記嵌合側のめっき層の厚さの150〜370%であることを特徴とする(1)に記載のめっき層。
(3)前記めっき層は高温処理によってウイスカ抑制の改質がされている(1)又は(2)に記載のめっき層。
(4)前記嵌合側のめっき層は、融点以上の高温処理でウイスカ抑制の改質がされ、前記実装側のめっき層は、融点以下の高温処理でウイスカ抑制の改質がされていることを特徴とする(1)から(3)のいずれか1項に記載のめっき層。
(5)前記嵌合側のめっき層と、前記実装側のめっき層とは同じ金属又は合金であって、前記高温処理を同時に受けることを特徴とする(4)に記載のめっき層。
(6)上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のめっき層を具えたコネクタ。
(7)基板実装用コネクタの接続端子に錫や錫合金のめっき層を形成する方法であって、前記接続端子にめっき層を形成するステップ1と、前記めっき層に高温処理をおこなって、前記めっき層のウイスカ抑制の改質をおこなうステップ2と、を含み、前記めっき層の形成は、前記嵌合側のめっき層を形成するステップ1Aと、前記実装側のめっき層を形成するステップ1Bと、を含むことを特徴とするめっき層の形成方法。
(8)前記ステップ1Aで形成されためっき層は、前記ステップ1Bで形成されためっき層に比べて薄いことを特徴とする(7)に記載のめっき層の形成方法。
(9)前記高温処理で受ける熱量によって、前記嵌合側のめっき層は溶融し、前記実装側のめっき層は溶融しないことを特徴とする(7)又は(8)に記載のめっき層の形成方法。
【発明の効果】
【0021】
コンタクトピンのリード部と、接点部とのめっき状態に差を設けることによって、基板実装時に必要なはんだ性を損なうことなく、錫又は錫合金からなるめっき層のウイスカの発生及び成長を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態について説明をおこなう。本発明はコンタクトピンの実装側の端部と、嵌合側の端部とのめっき層の状態をそれぞれの機能を奏するのに適しためっき仕様とすることで、上述した目的を達成するものである。具体的には実装側及び嵌合側のめっき厚みと、高温処理によるめっき層の改質の内容とを変えることで、それぞれの機能に適しためっき仕様を得ることである。なお特許請求の範囲で用いる「接続端子」は明細書で用いる「コンタクトピン」を含み、「接点部」は「嵌合側」を含み、「リード部」は「実装側」を含む。また、「無鉛はんだ」は「鉛を含まないはんだ」を意味する。
【0023】
〈コンタクトピン〉
図1の(A)はFPC(Flexible Print Circuit)コネクタの外観斜視図である。また図1の(B)はFPC用コネクタのコンタクトピンの外観斜視図である。FPC用コネクタ100は絶縁性のハウジング10と、ハウジング10の側面に係止する複数個のコンタクトピン20とからなる。コンタクトピン20はハウジング10内に収まって、FPC30の端部に具わる接続部31を挟持する接点部20Sと、回路基板40の接続部41に、はんだによって固着されるリード部20Lと、からなる。
【0024】
コンタクトピン20は導電性と、バネ性とを兼ね具えており、比較的廉価な銅合金を所定形状に加工したものである。表面には、これから詳しく説明するようにめっきが皮膜されている。
【0025】
〈コネクタ〉
図2の(A)は回路基板に実装されたFPC用コネクタの外観斜視図である。図2の(B)はFPCの接続部を挟持している接点部の拡大斜視図である。図2の(C)は回路基板の接続部と、はんだで固着しているリード部との拡大斜視図である。表面実装用FPCコネクタ100はハウジング10の下面を回路基板40に固定して、上面に位置する開口部でFPC30を受け入れる。
【0026】
〈接点部〉
接点部20Sは、FPC30の先端の差込部32に形成された露出状態の接続部31を挟持することで電気的機械的接続をとるところである。接点部20Sは、挟ピッチで並置されていて嵌合による圧縮応力の集中が生じるために、ウイスカが極めて発生しやすい。また接続は機械的方法をとるので、めっきはリード部20Lほどの厚みはいらない。また、リード部20Lほどの表面の平坦性は要求されない。
【0027】
〈リード部〉
リード部20Lは回路基板40の端部に形成された接続部41と、はんだ固着によって電気的機械的接続をとるところである。リード部20Lは挟ピッチで並列するが、はんだ固着後に外部から圧縮応力が加わることはなく、内部応力が除去されていればウイスカの発生するおそれは極めて小さい。また、はんだ固着方法をとるので、濡れ性を確保して良好な接続形状をとるために平坦で十分なめっき層の厚みが望ましい所である。
【0028】
〈めっき工程〉
ここで図3にしたがって、めっき工程の説明をおこなう。図3の(A)は、めっき工程のフローチャートである。図3の(B)は、めっき液浸漬条件である。めっき液浸漬条件に2段階あるが、これは接点部20Sと、リード部20Lとのめっき液浸漬条件が異なるからである。なお本発明の実施の形態では、めっき材料として錫100%を使用した。融点は232℃で融解熱は7.07KJ(キロジュール)/molである。
【0029】
〈めっき工程 洗浄〉
めっき工程のフローチャートは、(1)洗浄→(2)1槽目浸漬→(3)2層目浸漬→(4)洗浄→(5)乾燥である。最初の洗浄は被めっき部の異物や油脂分を取り除くために行なう。洗浄液はユケン社製のパクナを所定の濃度に薄めたアルカリ脱脂溶液を用いる。この溶液を加熱して、40〜60℃で使用する。洗浄時間は0.1〜0.2分である。
【0030】
〈めっき工程 めっき液浸漬〉
めっき層の形成は2段階でおこなう。接点部20Sのめっきは薄く、リード部20Lのめっきは厚く被膜するためである。めっき層の厚みは、接点部20Sでは、1.0〜2.0μ、好ましくは、1.3〜2.0μ、より好ましくは、1・5〜2.0μである。リード部20Lでは、3.0〜5.0μ、好ましくは、3.0〜4.0μ、より好ましくは、3.0〜3.5μである。どちらのめっきを先におこなってもよいが、厚めのめっき層の形成(リード部20L)から先におこなうのが合理的である(図3の(B)の1槽目)。このときリード部20L側を下向きにして所定の位置までめっき液に浸漬する(1槽目)。リード部20Lに所定厚みのめっきが皮膜されたならば、1槽目のめっき液浸漬は終了である。次にコンタクトピン20全体をめっき液に浸漬して(図3の(B)の2層目)、コンタクトピン20全体のめっき処理をおこなう(2層目)。接点部20S及びリード部20Lに所定厚みのめっきを形成して2層目のめっき液浸漬を終了する。
【0031】
〈めっき工程 陰極電流密度〉
1層目浸漬の陰極電流密度は、下地金属との組織的整合性をとるために急激な電圧の印加は避けなければならず、所定陰極電流密度まで徐々にあげていくのが望ましい。ここで所定陰極電流密度は、10〜25A/dm2である。好ましくは、10〜20A/dm2で、より好ましくは、15〜20A/dm2である。印加時間は、電流密度が10〜20A/dm2のときは、0.15〜0.25分であり、15〜20A/dm2のときは、0.1〜0.2分である。
【0032】
2層目浸漬の陰極電流密度は、5〜20A/dm2である。好ましくは、5〜15A/dm2で、より好ましくは、5〜10A/dm2である。印加時間は、電流密度が5〜15A/dm2のときは、0.15〜0.25分であり、5〜10A/dm2のときは、0.1〜0.2分である。
【0033】
〈めっき工程 洗浄〉
1槽目浸漬及び2層目浸漬のめっき液浸漬工程によって、接点部20S及びリード部20Lに予定のめっき層を形成したならば次に、めっき層表面の洗浄をおこなう。洗浄は伝道度5〜20μsの純水浴中でおこなう。水温は55〜65℃で0.1〜0.2分間おこなうのが望ましい。
【0034】
〈めっき工程 乾燥〉
めっき層表面の洗浄を終えたならば、次に表面に付着している水滴の除去をおこなう。水滴の除去は乾燥炉でおこなう。乾燥炉の方式は熱風循環型で、乾燥の条件は炉内温度70〜100℃で0.1〜0.2分であるのが望ましい。
【0035】
〈めっき層の状態〉
次に図4にしたがって、めっき層の状態について詳細に説明をおこなう。図4はめっき液浸漬処理後のコンタクトピンのめっき層の状態を示す図である。上段は接点部の断面拡大図である。下段はリード部の断面拡大図である。
【0036】
コンタクトピン20は全体が錫めっきされている。接点部20Sは2層目浸漬だけなのでめっき層はリード部20Lに比べて薄く(図4の上段)、リード部20Lは1槽目浸漬及び2層目浸漬をおこなっているので接点部20Sに比べてめっきは厚めに形成されている(図4の下段)。
【0037】
この段階で接点部20Sのめっきが厚すぎる場合には、ウイスカの抑制効果が減殺される。めっき層が薄すぎる場合には、下地金属が露出し耐候性や耐久性の劣化又は接続信頼性の低下につながるおそれがあるので留意を要する。
【0038】
この段階でリード部20Lのめっきが厚すぎる場合には、隣接リード部20Lとの短絡のおそれが生じる。めっき層が薄すぎる場合には、はんだによる回路基板への実装の際、適切な接続がなされないおそれがあるので留意を要する。
【0039】
〈高温処理〉
次に図5にしたがって高温処理条件について詳細に説明をおこなう。図5は温度プロファイルを示す図である。図5の(A)は熱処理条件の温度プロファイルである。図5の(B)はリフロー条件の温度プロファイルである。なおここで温度プロファイルは課題部位の温度プロファイルである。
【0040】
本実施の形態の場合では、接点部20Sのめっき層の全重量Wsと、リード部20Lのめっき層の全重量Wlとの間に生じている重量差dW(dW=Wl−Ws>0)を利用することによって、同じ高温条件でも接点部20Sでは熱処理条件となり、リード部20Lではリフロー条件となるような相違した条件を創り出すところに本発明の特徴部分がある。なお、この節で用いる重量及び熱量は、単位面積当たりのものである。
【0041】
接点部20Sに形成されためっき層の全重量Wsを溶融するために必要な熱量をQsとし、リード部20Lに形成されためっき層の全重量Wlを溶融するために必要な熱量をQlとすれば、
Qs=Ws×dQa
Ql=Wl×dQbと表わされる。
ここでdQa及びdQbは比熱容量であって両者は同一金属であるから同じ値をとる。
すなわち、dQa=dQbである。
また、Wl−Ws>0であるから、
Ql−Qs>0であることがわかる。
【0042】
すなわち、リード部20Lのめっきを完全に溶融させるために必要な熱量Qlは、接点部20Sのめっきを完全に溶融させるために必要な熱量Qsに比べて、その値は重量差に相当した分大きく、DQ=Ql−Qs>0の関係がある。この両者に熱量の差DQが生じていることを利用して接点部20Sのめっき層は溶融するが、リード部20Lのめっき層は溶融しない状態を創り出すところが本発明の特徴部分である。
【0043】
ここで、本実施の形態では、両者の熱量の差DQは、5〜25calである。好ましくは、10〜20calである。さらに好ましくは、14〜17calである。熱量の差DQはある程度大きい値であることが目的に応じた高温処理を的確におこなう上で好ましい。小さすぎる場合には、高温処理時の制御が大変精度を要することとなる。
【0044】
〈熱処理 リード部〉
熱処理では、リード部20Lのめっき層はその溶融温度に達しないので融解することなく熱処理前の形状を保っている。その温度プロファイルは図5の(A)に示すように両端になだらかな裾野をもった山形である。山形の頂点であるリード部20Lが到達する最高温度は、めっき材料である錫の溶融温度である232℃よりも低い温度の200℃付近である。熱処理時間は0.2分で、その内最高温度付近にさらされる時間は0・1分である。
【0045】
リード部20Lのめっき層は、このように自身を形成するめっき材料の重量Wlを融解させるために必要な熱量Qlに対して、高温処理で受け取る熱量Qaが自身を融解させるために必要な熱量Qlには足らないために、めっき層は溶融しない。その結果めっき層は、めっき層形成時の平坦な表面を保ちつつ、一方で溶融温度付近まで昇温されているので、めっき層形成時に生じた内部応力の除去は十分になされている。
【0046】
〈リフロー処理 接点部〉
リフロー条件では、接点部20Sのめっき層はその溶融温度以上に達して融解し、リフロー前後の形状は変化する。その温度プロファイルは図5の(B)に示すように両端に裾野をもった山形であるところは前記の熱処理の場合と同じであるが、被処理物の最高到達温度が熱処理の場合に比べて高いところに特徴がある。接点部20Sが到達する最高温度は、めっき材料である錫の溶融温度である232℃よりも高く240〜350℃である。リフロー処理時間は、0.1〜0.2分で、その内最高温度付近にさらされる時間は、0.05〜0.1分である。
【0047】
接点部20Sのめっき層は薄くその重量Wsは,上述したリード部20Lのそれに比べて小さい。リフロー処理によって受け取る熱量Qaは自身を融解させるために必要な熱量Qsを越えており、処理中に接点部20Sのめっき層は一度溶融することとなる。その結果めっき層の形成によって内部に蓄積された残留応力は除去されて、ほぼ完璧な改質がなされている。一方その表面は一度溶融したものが再度固化したものなので、リフロー処理前の一様平坦な形状とは相違している。
【0048】
〈めっき層の状態〉
次に図6にしたがって、熱処理若しくはリフロー処理によって形成されためっき層の状態について詳細に説明をおこなう。図6はめっき処理及び高温処理をおこなったコンタクトピンのめっき層の状態を示す写真である。上段はリフロー処理をおこなった接点部20Sの断面拡大写真である。下段は熱処理をおこなったリード部20Lの断面拡大写真である。
【0049】
〈接点部〉
接点部20Sのめっき層は、全体的に薄めであるが、四隅で特に薄く腹部でやや盛り上がっているのが特徴である。これはリフロー処理で一度溶融しためっきが再度固化する際に表面張力によって隅部のめっき材料が腹部に引っ張られた結果である。前述したようにウイスカは錫の単結晶から成るもので、結晶の芽の発生や芽の成長のスピードを制御する条件として錫原子の供給量の多寡が当然影響するものであるから、めっきの絶対量が少ない上に、外部応力が集中してその芽が発生しやすい隅部のめっきの厚みが極めて薄い状態の接点部20Sは、ウイスカの発生及び成長の根本的要因を取り除けている。また融点以上のリフロー処理を経ているので、ウイスカの成長の駆動力である内部応力が十分に除去されている。すなわち接点部20Sは接触信頼性を損なうことなくウイスカの発生及び成長に対して十分にその抑制対策がとられている。
【0050】
図2の(B)に示したように、接点部20SはFPC30の接続部31を挟持して電気的機械的に接続するところである。このとき接点部20Sには、外部からの圧縮応力が継続して加わり、ウイスカが発生しやすく、挟ピッチで並列していることもあってウイスカによる問題が生じやすいところである。本発明の実施の形態に係る接点部20Sは、ウイスカの発生原因のひとつひとつに対策を講じたものであって、ウイスカの発生及び成長を効果的に抑制しうるものであることが解る。
【0051】
〈リード部〉
リード部20Lのめっき層は、コンタクトピン20の外周面に沿って一様にほぼ均一な厚みを具えている。四面の腹部のみならず四隅にも十分な量のめっき層が皮膜されている。また、結晶内部に蓄積されていた内部応力も熱処理によって除去されている。
【0052】
図2の(C)に示すようにリード部20Lは回路基板40の接続部41に、はんだで固着されるところである。接続部41も表面は、めっきされており、両者の固着は、はんだの溶融を介しておこり、その濡れ性によって信頼性を担保している。はんだの濡れ性を確保するために、リード部20Lの表面はめっきが厚めに皮膜されていることが望ましく、はんだ固着を一様に安定的におこなうためには、両者は広い範囲で接触することが望ましい。本実施の形態では、これらの条件を充足していて十分に望ましい状態が実現されていることが解る。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の態様で実施可能である。上記実施形態では、めっき材料に錫を用いたが錫−銅、錫−銀、錫−ビスマス等の錫合金を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1の(A)はFPC用コネクタの外観斜視図である。図1の(B)はFPC用コネクタのコンタクトピンの側面図である。
【図2】図2の(A)は回路基板に実装されたFPC用コネクタの外観斜視図である。図2の(B)はFPCの接続部を挟持している接点部の拡大斜視図である。図2の(C)は回路基板の接続部と、はんだで固着しているリード部との拡大斜視図である。
【図3】図3の(A)はめっき工程のフローチャートである。図3の(B)はめっき液浸漬条件である。
【図4】めっき液浸漬処理後のコンタクトピンのめっき層の状態を示す写真である。上段は接点部である。下段はリード部である。
【図5】。高温処理の温度プロファイルである。図5の(A)は熱処理条件の温度プロファイルである。図5の(B)はリフロー条件の温度プロファイルである。
【図6】めっき液浸漬処理及び高温処理をおこなったコンタクトピンのめっき層の状態を示す写真である。上段は接点部である。下段はリード部である。
【符号の説明】
【0055】
10 ハウジング
20 コンタクトピン
20S 接点部
20L リード部
30 FPC
31 接続部
32 差込部
40 回路基板
41 接続部
100 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板実装用コネクタの接続端子に形成された錫又は錫合金のめっき層であって、
前記接続端子の嵌合側のめっき層は、実装側のめっき層に比べて薄いことを特徴とするめっき層。
【請求項2】
前記嵌合側のめっき層と、
前記実装側のめっき層と、
の膜厚差は、前記嵌合側のめっき層の厚さの150〜370%であることを特徴とする請求項1に記載のめっき層。
【請求項3】
前記めっき層は、高温処理によってウイスカ抑制の改質がされている請求項1又は請求項2に記載のめっき層。
【請求項4】
前記嵌合側のめっき層は、融点以上の高温処理でウイスカ抑制の改質がされ、
前記実装側のめっき層は、融点以下の高温処理でウイスカ抑制の改質がされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のめっき層。
【請求項5】
前記嵌合側のめっき層と、
前記実装側のめっき層と、
は同じ金属又は合金であって、
前記高温処理を同時に受けることを特徴とする請求項4に記載のめっき層。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のめっき層を具えたコネクタ。
【請求項7】
基板実装用コネクタの接続端子に錫又は錫合金のめっき層を形成する方法であって、
前記接続端子にめっき層を形成するステップ1と、
前記めっき層に高温処理をおこなってウイスカ抑制の改質をおこなうステップ2と、
を含み、
前記めっき層の形成は、
前記嵌合側のめっき層を形成するステップ1Aと、
前記実装側のめっき層を形成するステップ1Bと、
を含むことを特徴とするめっき層の形成方法。
【請求項8】
前記ステップ1Aで形成されためっき層は、
前記ステップ1Bで形成されためっき層に比べて薄いことを特徴とする請求項7に記載のめっき層の形成方法。
【請求項9】
前記高温処理で受ける熱量によって、
前記嵌合側のめっき層は溶融し、
前記実装側のめっき層は溶融しない
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のめっき層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−161786(P2009−161786A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339241(P2007−339241)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(390033318)日本圧着端子製造株式会社 (457)
【Fターム(参考)】