説明

めっき方法およびその装置

【課題】マスクベルトのようなマスク部材を使用して被めっき材の一部にめっきを施す場合にめっき膜厚の均一性を向上させることができる、めっき方法およびその装置を提供する。
【解決手段】搬送される被めっき材としての帯板状の条材20の両面のめっきを施さない部分(非めっき領域)に一対の無端環状マスクベルト22を順次密着させて覆いながら、連続的に条材20に向けてめっき液を流して、条材20の一部にめっきを施す際に、条材20の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けて、好ましくは条材の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾けて、条材20に向けてめっき液を流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき方法およびその装置に関し、特に、被めっき材の一部にめっきを施すめっき方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被めっき材の一部にめっきを施す方法として、予め被めっき材のめっきを施さない部分(非めっき領域)にテープを貼り、このテープによって被めっき材の一部がマスキングされた状態で被めっき材にめっきを施し、めっき後にテープを除去する方法が知られている。
【0003】
しかし、この方法では、消耗品としてテープが必要になり、また、テープを貼る工程とテープを除去する工程が必要になるので、被めっき材の全面にめっきする場合と比べてコストが高くなり、また、めっき後の被めっき材にテープの粘着剤が残留する不良が生じる場合もある。
【0004】
そのため、テープを使用しないで被めっき材の一部にめっきを施す方法として、めっき浴槽内で搬送される帯板状の条材の両面の非めっき領域に無端環状マスクベルトを順次密着させてマスクしながら、連続的にめっきを施すことにより、帯板状の条材の両面にストライプ状のめっきを施す方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−192280号公報(段落番号0034−0038)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のようにマスクベルトを使用して条材の一部にめっきを施す方法では、条材の非めっき領域に近い部分(マスクベルト近傍の部分)に施されためっきが、他の部分に施されためっきよりも薄くなり、十分に均一な厚さのめっきを施すことができないという問題がある。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、マスクベルトのようなマスク部材を使用して被めっき材の一部にめっきを施す場合にめっき膜厚の均一性を向上させることができる、めっき方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、搬送される被めっき材の一部に、マスク部材を順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流して、被めっき材の一部にめっきを施す方法において、被めっき材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けてめっき液を流すことにより、めっき膜厚の均一性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によるめっき方法は、搬送される被めっき材の一部に、マスク部材を順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流して、被めっき材の一部にめっきを施す方法において、被めっき材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けてめっき液を流すことを特徴とする。このめっき方法において、所定の角度が、被めっき材の搬送方向と逆方向から15°〜50°であるのが好ましい。また、被めっき材が帯板状の条材であり、マスク部材が一対の無端環状マスクベルトであり、被めっき材の両面の一部に無端環状マスクベルトを順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流すのが好ましい。
【0010】
また、本発明によるめっき装置は、搬送される被めっき材の一部に、マスク部材を順次密着させて覆いながら、めっき液噴出部から連続的に被めっき材に向けてめっき液を流して、被めっき材の一部にめっきを施す装置において、めっき液噴出部と被めっき材との間に、被めっき材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けてめっき液を流す整流板を設けたことを特徴とする。このめっき装置において、所定の角度が、被めっき材の搬送方向と逆方向から15°〜50°であり、整流板が、被めっき材の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾けて配置された板状部材であるのが好ましい。また、被めっき材が帯板状の条材であり、マスク部材が一対の無端環状マスクベルトであり、被めっき材の両面の一部に無端環状マスクベルトを順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流すのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マスクベルトのようなマスク部材を使用して被めっき材の一部にめっきを施す場合にめっき膜厚の均一性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明によるめっき方法の実施の形態では、搬送される被めっき材としての帯板状の条材の両面のめっきを施さない部分(非めっき領域)にマスクベルトのようなマスク部材を順次密着させて覆いながら、連続的に条材に向けてめっき液を流して、条材の一部にめっきを施す際に、条材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けて、好ましくは条材の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾けて、条材に向けてめっき液を流すようになっている。
【0013】
搬送される帯板状の条材の両面のめっきを施さない部分にマスクベルトを順次密着させて覆いながら、連続的に条材に向けてめっき液を流して、条材の一部にめっきを施す場合には、マスクベルトの存在によりめっき液の流れが阻害されたり、めっき液の流れが遅い場合にマスクベルトが条材の両面に押し付けされる部分の近傍へのめっき液の供給が不十分になったり、めっき液の流れが速い場合にマスクベルトが条材の両面に押し付けられる部分の近傍にめっき液が滞留し、条材の表面の近傍の金属イオン濃度が低下して条材の表面にめっき層を形成するのに必要なイオンの供給が不十分になる場合がある。しかし、本実施の形態のめっき方法では、条材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けて、好ましくは条材の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾けて、条材に向けてめっき液を流すことによって、めっき液の流れを調整して、マスクベルトが条材の両面に押し付けされる部分の近傍へのめっき液の供給が不十分になったり、マスクベルトが条材の両面に押し付けられる部分の近傍にめっき液が滞留するのを防止しているので、めっきの膜厚をより均一することができる。
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明によるめっき装置の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明によるめっき装置の実施の形態の長手方向の縦断面を模式的に示す図であり、図2は、図1のめっき装置の横断面を模式的に示す図である。
【0016】
図1および図2に示すように、本実施の形態のめっき装置10は、めっき液を貯留するめっき槽12と、このめっき槽12内に収容されためっきセル14と、このめっきセル14内に設けられた複数のノズル16と、めっきセル14内のノズル16の上方に配置された整流板支持体18によって支持された複数の整流板18aと、めっきセル14内に導入された被めっき材としての帯板状の条材20の一部を両側から挟み込んで条材20の一部を非めっき領域として覆うために、めっきセル14内の上部に対向して配置された一対の無端環状マスクベルト22と、これらのマスクベルト22を条材20に押し付ける一対の押圧部材24とを備えている。なお、めっきセル14の長手方向両端の側壁の上部には、それぞれ条材20の導入口および導出口としての一対のスリット12aが側壁を貫通して形成されており、これらのスリット12aは、帯板状の条材20の幅方向が鉛直方向になるように鉛直方向に延びている。
【0017】
めっき槽12内のめっき液は、(図示しない)ポンプによってめっきセル14内のノズル16に汲み上げられた後、ノズル16から各整流板18aの間を通過して条材20の非めっき領域に向けて噴出され、めっきセル14からオーバーフローしためっき液がめっき槽12内に流れ出して循環するようになっている。
【0018】
整流板支持体18は、めっきセル14の長手方向に延びる略矩形の帯体状の部材からなり、所定の間隔、好ましくは等間隔で離間して配置された複数の略矩形の整流板18aを支持している。これらの整流板18aは、整流板支持体18の幅方向に延びるとともに、図1において矢印Aで示す条材20の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾斜、好ましくは条材20の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾斜するように、整流板支持体18の長手方向から傾斜して配置されている。したがって、ノズル16から各整流板18aの間を通過して条材20の非めっき領域に向けて噴出されるめっき液の流れの方向は、条材20の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾斜するようになっている。
【0019】
本実施の形態のめっき装置によりめっきを行う場合には、一対の無端環状マスクベルト22を駆動させると同時に、帯板状の条材20をマスクベルト22と同じ速度で搬送し、条材20をマスクベルト22で挟み込んで、帯板状の条材20の両面のめっきを施さない部分(非めっき領域)にマスクベルト22を順次密着させて覆いながら、条材20の両面のめっきを施す部分である露出部分(めっき領域)をめっき液に浸してめっき層を形成する。
【0020】
本実施の形態のめっき装置では、条材20の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けて、好ましくは条材20の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾けて配置された複数の整流板18aによって、めっき液の流れを所定の方向(条材20の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けた方向、好ましくは条材20の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾いた方向)に制御して、マスクベルト22が条材20の両面に押し付けされる部分の近傍へのめっき液の供給が不十分になったり、マスクベルト22が条材20の両面に押し付けられる部分の近傍にめっき液が滞留するのを防止しているので、めっきの膜厚をより均一することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明によるめっき方法およびその装置の実施例について詳細に説明する。
【0022】
[実施例1]
まず、被めっき材としてSUS製の帯板状プレス材を用意し、このプレス材にめっきを施す前に、前処理として、アルカリ脱脂、電解脱脂、塩酸による洗浄を行った。この前処理を行った後、下地めっきの密着性を向上させるために、塩化物をベースとしたストライク浴中においてニッケルストライクを行った。その後、下地めっきとして、スルファミン酸をベースとしたニッケルめっき浴中において、電流密度10A/dmで膜厚0.5〜1.0μm程度の無光沢ニッケルめっきを施した。この下地めっきを施した後、アルカノールスルホン酸をベースとした錫めっき浴中において、電流密度30A/dmで膜厚3μmになるように幅4.0mmの錫めっきを施した。なお、下地めっきと錫めっきは、上述した実施の形態のめっき装置を使用して、整流板の角度を15°として行った。
【0023】
このようにして部分的に錫めっきが施された被めっき材について、外観を観察し、膜厚分布、めっき効率および成膜速度を求めた。外観の観察は、錫めっきが施された部分を目視で検査することによって行い、錫めっきの表面に白曇りや色むらがない場合に良好とした。膜厚分布については、錫めっきが施された部分の幅方向中央付近と、マスクベルトによって保護されて錫めっきが施されていない部分と錫めっきが施された部分との境界から0.5mmだけ離れた錫めっきが施された部分(界面近傍の部分)について、下地めっきを含むめっきの膜厚を蛍光X線によって測定し、中央付近のめっきの膜厚に対する界面近傍のめっきの膜厚の比率を膜厚分布とした(膜厚分布=界面近傍の膜厚/中央付近の膜厚)。めっき効率については、電流効率を100%としたときに所定の膜厚の錫めっきを得るために必要な理論めっき時間を算出し、その膜厚の錫めっきを得るための実際のめっき時間で除して百分率とした値をめっき効率(%)とした。成膜速度については、単位時間、単位電流密度当たりに得られる膜厚の理論値に、錫めっきを施した際の電流密度(30A/dm)とめっき効率(%)を乗じた値を成膜速度とした。これらの結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
[実施例2〜6]
整流板の角度をそれぞれ20°、25°、35°、40°、50°とした以外は、実施例1と同様の方法により錫めっきを施し、得られた被めっき材について、実施例1と同様の方法により、外観を観察し、膜厚分布、めっき効率および成膜速度を求めた。その結果を表1に示す。
【0026】
[比較例1]
整流板の角度を5°とした以外は、実施例1と同様の方法により錫めっきを施し、得られた被めっき材について、実施例1と同様の方法により、外観を観察し、膜厚分布、めっき効率および成膜速度を求めた。その結果を表1に示す。
【0027】
[比較例2]
整流板を使用しなかった以外は、実施例1と同様の方法により錫めっきを施し、得られた被めっき材について、実施例1と同様の方法により、外観を観察し、膜厚分布、めっき効率および成膜速度を求めた。その結果を表1に示す。
【0028】
表1に示すように、実施例1〜6のように、上述した実施の形態のめっき装置を使用し、整流板の角度を15°〜50°にして錫めっきを施すと、めっき効率および成膜速度の低下もなく、外観が良好で膜厚がほぼ均一な錫めっきが部分的に施された被めっき材を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるめっき装置の実施の形態の縦断面図を模式的に示す図である。
【図2】図1のめっき装置の横断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0030】
10 めっき装置
12 めっき槽
12a スリット
14 めっきセル
16 ノズル
18 整流板支持体
18a 整流板
20 条材
22 無端環状マスクベルト
24 押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被めっき材の一部に、マスク部材を順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流して、被めっき材の一部にめっきを施す方法において、被めっき材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けてめっき液を流すことを特徴とする、めっき方法。
【請求項2】
前記所定の角度が、前記被めっき材の搬送方向と逆方向から15°〜50°であることを特徴とする、請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記被めっき材が帯板状の条材であり、前記マスク部材が一対の無端環状マスクベルトであり、前記被めっき材の両面の一部に無端環状マスクベルトを順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流すことを特徴とする、請求項1又は2に記載のめっき方法。
【請求項4】
搬送される被めっき材の一部に、マスク部材を順次密着させて覆いながら、めっき液噴出部から連続的に被めっき材に向けてめっき液を流して、被めっき材の一部にめっきを施す装置において、めっき液噴出部と被めっき材との間に、被めっき材の搬送方向と逆方向に所定の角度だけ傾けてめっき液を流す整流板を設けたことを特徴とする、めっき装置。
【請求項5】
前記所定の角度が、前記被めっき材の搬送方向と逆方向から15°〜50°であり、前記整流板が、前記被めっき材の搬送方向と逆方向から15°〜50°だけ傾けて配置された板状部材であることを特徴とする、請求項4に記載のめっき装置。
【請求項6】
前記被めっき材が帯板状の条材であり、前記マスク部材が一対の無端環状マスクベルトであり、前記被めっき材の両面の一部に無端環状マスクベルトを順次密着させて覆いながら、連続的に被めっき材に向けてめっき液を流すことを特徴とする、請求項4または5に記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74126(P2009−74126A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243239(P2007−243239)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】