説明

めっき方法及びその方法に用いられるめっき前処理液。

【課題】 めっき層が形成される面にニッケル下地層が設けられた配線、端子、電極部材等の被めっき素材表面に所望とする金属のめっきを施す場合、得られた該金属めっき層の剥離や該金属めっき層面のふくれ等の欠陥部分が生じないめっき方法、及びそのために使用されるめっき前処理液を提供すること。
【解決手段】 被めっき素材上に形成されたニッケル下地層の表面を、亜硝酸イオンを含有する少なくとも1種類の無機酸または有機酸からなるめっき前処理液に接触させた後に該下地層の上に金属めっきを施す。特に、前記無機酸または有機酸としてその組成中にハロゲン元素を含まない酸を用い、また、該めっき前処理液中には界面活性剤を含有させるのが好ましい。
【効果】 所望とする金属めっき層との密着性が極めて良好で、該金属めっき層の剥離や金属めっき層表面のふくれ等の欠陥の発生頻度が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線、端子あるいは電極部材等の素材(以下被めっき素材という)のめっき方法、及び該方法に用いるめっき前処理液に関し、より詳細にはニッケルめっき皮膜等のニッケル下地層が形成された被めっき素材の上にニッケルめっきや半田めっき、金めっき等の金属めっきを施す前に、該下地層の表面に形成されている酸化物皮膜(以下、酸化皮膜ともいう)を前処理液により前処理して除去するめっき方法、及び該めっき方法に用いられる前処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
配線、端子あるいは電極部材等の被めっき素材の表面に特定金属のめっきをする場合は、該素材の表面に予め電解めっき、又は無電解めっきにより形成したニッケルめっき皮膜の下地層を形成し、このニッケル下地層の上にニッケルめっき、半田めっき、金めっき等の金属めっきを施すことが行われている。
ところで、被めっき素材上に金属めっきを施す際に、このニッケル下地層の表面が酸化され酸化皮膜が形成されている等、該下地層の表面状態によってその上に形成された金属めっき層との密着性が低下する場合がある。
【0003】
そのため、被めっき素材に金属めっきする場合、被めっき素材上に最初に形成されたニッケル下地層を、所望とする金属のめっきを施す前に硫酸、ほう酸、塩酸等の酸を希釈した水溶液に浸漬する方法、ニッケル下地層の表面を過酸化水素と硫酸との混合液で前処理する方法(特許文献1参照)、ニッケル下地層が形成された基板に水素ガスの気泡が散気した水酸化カリウムの水溶液に浸漬する方法(特許文献2参照)等の前処理を行うことによって、ニッケル下地層表面を表面改質する工程が取り入れられている。
【0004】
さらに金属のめっき方法において、酸を使用する例として亜硝酸イオンを含有させた溶液をNiを含む下地層の上に所望とする金属を所定のパターンにめっきしてからめっきをする必要のない部分の下地層をエッチングして除去するために使用されるエッチング液として亜硝酸イオンを含有させた酸の溶液を用い、所望とするパターンの部分を過剰に溶解することなく不所望とするパターンを選択的に溶解できるエッチング液が記載されている(特許文献3、特許文献4等参照)が、所望とする金属めっきが施される前のニッケル下地層の表面に形成された酸化皮膜の除去等、ニッケル下地層に対する前処理液としての、このエッチング液の適用可能性については記載されていない。
【0005】
また製造工程上、ニッケル下地層形成後に熱処理が施される等の理由により、ニッケル下地層の表面に強固な酸化皮膜が形成されているような場合には、硫酸、ほう酸、塩酸等の酸を希釈した水溶液により前処理する方法に加えてさらにニッケル下地層の電解洗浄を行う方法や、ニッケル下地層の表面にパラジウムなどの触媒を付着させて無電解ニッケルめっきを行う方法等も採用されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−104556号公報
【特許文献2】特開平9−235692号公報
【特許文献3】特開2005−350708号公報
【特許文献4】特開2006−229196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、硫酸、ほう酸、塩酸等の酸を希釈した水溶液を前処理液とする方法をはじめとする前記のような従来のめっき方法によれば、これらの水溶液をニッケル下地層に短時間浸漬して前処理した場合ではニッケル下地層の表面改質が不十分であり、得られる金属めっき層とニッケル下地層との接着強度が不足して金属めっき層の剥離が起こりやすく、逆に長時間に及ぶとニッケル下地層のニッケルが溶出し、めっき層の厚みが減少する場合がある。
【0008】
また、ニッケル下地層の表面に強固な酸化皮膜が形成されている場合には、電解洗浄やパラジウムなどの触媒を付着させて無電解ニッケルめっきを行う方法を用いても、下地層表面の酸化皮膜を十分に除去することが困難で、ニッケル下地層に所望とする金属のめっきを施した際に、被覆のふくれや剥離が生じる場合があるところから、被めっき素材上にニッケル下地層を設けてその上に所望とする金属めっきを施した場合、該金属めっき層の剥離やめっき層面のふくれ等の欠陥が生じることのない、より優れためっき方法の開発が望まれている。
【0009】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、めっき層が形成される面にニッケル下地層が設けられた配線、端子、電極部材等の被めっき素材表面に金属めっきを施す場合、得られた金属めっき層の剥離や該金属めっき層面のふくれ等の欠陥部分が生じないめっき方法、及びそのためのニッケル下地層の前処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は被めっき素材の表面にニッケル下地層を形成し、前処理液を用いて該ニッケル下地層を前処理してから該ニッケル下地層の上に所望とする金属をめっきするめっき方法において、特に前記前処理液の組成について鋭意検討の結果、予めその表面にニッケル下地層が形成された被めっき素材の該下地層を亜硝酸イオンを含有する無機酸又は有機酸に接触させて前処理してから該ニッケル下地層の表面に所望とする金属のめっきを施すことによって該下地層の表面に形成されるニッケル酸化物の皮膜が取り除かれる結果、前記目的が達成できることを見いだし本発明に到った。
【0011】
(1) 本発明のめっき方法は、素材上に形成されたニッケル下地層の表面に亜硝酸イオンを含有する少なくとも1種類の無機酸または有機酸からなる前処理液に接触させた後に、該下地層の上に金属めっきを施すことを特徴とする。
(2) また本発明のめっき方法は、前記無機酸または有機酸がその組成中にハロゲン元素を含まない酸であることを特徴とする。
【0012】
(3) また本発明のめっき方法は、前記無機酸が硫酸であることを特徴とする。
(4) さらにまた本発明のめっき方法は、前記ニッケル下地層に接触させる前記前処理液の液温が10〜70℃であることを特徴とする。
【0013】
(5) また本発明のめっき方法は、前記前処理液が界面活性剤を含有することを特徴とする。
(6) さらにまた本発明のめっき方法は、前記前処理液に前記ニッケル下地層を接触させている間に、逐次亜硝酸イオンを該前処理液中に添加して補給することを特徴とする。
【0014】
(7) 本発明のめっき前処理液は、亜硝酸イオンを含有する少なくとも1種類の無機酸または有機酸からなり、素材上の被めっき層面に予め形成されたニッケル下地層の酸化物皮膜を除去するためのものであることを特徴とする。
(8) また本発明のめっき前処理液は、前記無機酸または有機酸がその組成中にハロゲン元素を含まない酸であることを特徴とする。
(9) さらに本発明のめっき前処理液は、前記亜硝酸イオンの濃度が0.005〜10重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
前記構成を有する本発明のめっき方法によれば、所望とする金属めっきを施す前に予め被めっき素材に形成されるニッケル下地層の表面に生じた酸化皮膜が除去されるため、所望とする金属めっき層の密着性が極めて良好で、該金属めっき層の剥離や金属めっき層表面のふくれ等の欠陥の発生頻度を著しく低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のめっき方法は、被めっき素材にニッケルめっき皮膜からなるニッケル下地層を形成し、次いで該下地層の上に所望とする金属のめっきを施す前に、該下地層を亜硝酸イオンを含有する少なくとも1種類の無機酸または有機酸からなる前処理液に接触させて前処理してから所望とする金属めっきを施す以外は従来のニッケル下地層を設けてその上に所望とする金属のめっきを施すめっき方法と同様である。なお、本発明のめっき方法において、所望とする金属めっきが施される被めっき素材上に予め形成されるニッケル下地層は100%のNiからなるものでなくとも、例えばNiの合金(Ni−P)など主成分がNiである下地層であってもよく、本発明では主成分がNiからなる下地層も含めてニッケル下地層ということにする。
【0017】
本発明のめっき方法が適用されるめっき品の用途は、主として電子部品のLSIやICチップ、あるいはこれらを搭載するプリント配線基板に用いられる配線、端子あるいは電極部材等である。その被めっき素材には、アルミナ等のセラミック系の絶縁基板、基材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸し硬化して得られる絶縁基板等の各種基板、銅箔などの導電体が挙げられる。
本発明のめっき方法により被めっき素材に所望とする金属のめっきを施すには、最初に従来から知られている手順にしたがって被めっき素材の表面に電解ニッケルめっき、無電解ニッケルめっき等により所定の厚さのニッケル皮膜からなるニッケル下地層を形成する。
【0018】
次いでニッケル下地層が形成された被めっき素材を脱脂するために洗浄し、乾燥した後、本発明の前処理液に一定の時間浸漬して、さらに水洗、乾燥することにより前処理を行うことによってニッケル下地層表面に不可避的に形成される酸化皮膜の除去等の表面改質を行う。その後、前処理された被めっき素材のニッケル下地層の上に公知の方法によりニッケルめっき、半田めっき、金めっき等、所望とする金属めっきを施す。
なお、前記の所望とする金属をめっきする前に前処理液で前処理される被めっき素材(ニッケル下地層)は、銅箔などの導電体を基板としてこれにニッケルめっきした後に該基板を除去してニッケルめっき皮膜の最下層を露出させた素材であってもよい。
【0019】
本発明のめっき方法において使用される前処理液は無機酸または有機酸からなる酸性水溶液中に亜硝酸イオンを含有してなる。無機酸としては例えば、硫酸、りん酸、硝酸が用いられ、有機酸としてはクエン酸、ギ酸、酢酸、りんご酸、こはく酸が好適に用いられる。
これらの酸の中でも塩酸、フッ酸等、その組成中にハロゲン元素を含む酸よりも、組成中にハロゲン元素を含まない硫酸、硝酸、りん酸等の酸を用いた方が、所望とする金属のめっき層と素材のニッケル下地層との接着力がより向上し、より密着性の良好な金属めっきを施すことができる点でより好ましく、同様の理由から硫酸が特に推奨される。
【0020】
また、前処理液中に含有させる亜硝酸イオンの濃度は0.005〜10wt%の範囲、より好ましくは0.05〜1wt%とし、該前処理液の酸濃度は5〜30wt%とし、そのpH値が6以下となるように調整すると、より密着性の良好な金属めっきを施すことができる。
【0021】
被めっき素材上に形成したニッケル下地層は、その液温が10℃〜70℃の範囲、より好ましくは30℃〜60℃の範囲にある前処理液に浸漬して前処理される。該前処理液の温度が10℃より低いと前処理液中の亜硝酸イオンによる活性化が不十分になりニッケル下地層の表面に形成される酸化皮膜が完全には除去されず、該ニッケル下地層の表面改質が十分に行われない。反対に前処理液の液温が70℃より高いと前処理液中の亜硝酸イオンが液中に安定的に存在できる時間が短くなり亜硝酸の消耗量が激しくなってしまうのでともに好ましくない。
【0022】
ニッケル下地層を前記前処理液中に浸漬している時間は被処理物の表面積にもよるが、およそ1〜15分間で十分であり、3〜5分間行うのがより好ましい。ニッケル下地層を前記前処理液中に浸漬している時間が1分間より短いと前処理が不十分でこの上に施される所望とする金属のめっき皮膜の十分な密着性が得られず、反対に15分間以上浸漬すると最終的に得られためっき皮膜表面が粗面化され、めっき皮膜表面の凹凸が激しくなるので好ましくない。
【0023】
また、前処理中には前処理液中で亜硝酸の気泡が発生し、この亜硝酸の気泡はニッケル下地層表面に付着し残留する恐れがあるので、前処理液中には界面活性剤を含有させておくことが好ましい。前処理液中に界面活性剤を含有させておくと、前処理中に該前処理液中で発生した亜硝酸の気泡がニッケル下地層表面に付着するのを抑制する効果がある。また、界面活性剤を含有させておくと前処理液中にニッケルが溶出することを抑える効果もあるのでより好ましい。
【0024】
本発明の前処理液中に添加する界面活性剤としては、前処理工程中に前処理液の作業温度下において該前処理液を濁らせない界面活性剤であればよく、例えば、アルキルスルホン酸塩系、アルキルベンゼンスルホン酸塩系、アルファオレフィンスルホン酸塩系、アルキルナフタレンスルホン酸塩系、ジアルキルスルホコハク酸塩系、といったアニオン系、ポリオキシアルキレングリコール系、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、グリセリンエステル系、多価アルコールエステル系といったノニオン系の界面活性剤の少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
本発明のめっき方法により所望とする金属のめっきを施す際に、被めっき素材上に予め形成したニッケル下地層を前処理する工程中に、前処理液中の亜硝酸イオンがニッケル下地層の浸漬時間の経過とともに消耗されて漸減し、処理能力が低下する。そのため前処理工程において、前処理液中にニッケル下地層を浸漬している間、該前処理液中に、亜硝酸イオンを該前処理液中に逐次供給して前処理液中の亜硝酸イオンの濃度を常に一定に保持することにより、安定してニッケル下地層の前処理を行うことができるのでより好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ワット浴により山本鍍金試験器社製のハルセル陰極用銅板(表面積1.2dm、厚さ0.3mmの被めっき銅基板)に厚さ10μmのニッケルめっき皮膜(ニッケル下地層)を形成した。続いてこのニッケルめっきされた基板を300℃の熱風乾燥機中で20分間熱処理し、ニッケル下地層表面に酸化皮膜を形成させた。
これとは別に、10wt%の硫酸(純正化学社製)に亜硝酸イオンに換算して0.2wt%の亜硝酸ナトリウム(純正化学社製)を添加し、スターラーで攪拌して亜硝酸イオンを含む酸性水溶液からなる実施例1のめっき前処理液を調製した。
【0027】
次いで、前記のようにしてニッケル下地層が形成された基板をニッケルブーマーMD−3152(日本化学産業社製、脱脂薬品)に浸してニッケル下地層を脱脂し、水洗した後、このニッケル下地層が形成された基板を50℃に加温された前記のめっき前処理液中に3分間浸漬し、該前処理液中から取り出して水洗した後、日本化学産業社製のニッケルブーマー5023(無電解ニッケルめっき薬品)を使用し、pH4.8、温度90℃のめっき浴中に10分間投入して、このニッケル下地層の表面に無電解ニッケルめっきを施すことによって基板(銅板)上にニッケルめっきが施された実施例1の試験片を作製した。
表1に実施例1の試験片を得た時のニッケル下地層の前処理条件である、めっき前処理液の組成、めっき前処理液の温度(処理温度)、及びめっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)を示す。
【0028】
(実施例2〜7)
それぞれ表1に示す組成のめっき前処理液(実施例2〜7の前処理液)を調製し、それぞれ表1に示すめっき前処理液の温度(処理温度)、及びめっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)とした以外は実施例1の試験片と同様にして基板(銅板)上にニッケルめっきが施された実施例2〜7の試験片を作製した。
なお、実施例4は実施例1のめっき前処理液で用いた硫酸をりん酸に代えためっき前処理液(実施例4の前処理液)を用いた場合について、実施例5はさらに硝酸を併用しためっき前処理液(実施例5のめっき前処理液)を用いた場合について例示するものであり、実施例6、7は界面活性剤を含有するめっき前処理液(実施例6、7のめっき前処理液)で前処理した例である。
【0029】
(実施例8)
実施例1と同様にして基板(銅板)上の表面に酸化皮膜が形成されたニッケル下地層を実施例1と同様にして50℃に保たれた実施例1のめっき前処理液に3分間浸漬した後、該前処理液から引き上げて空気中で30分間放置するというサイクルを10回反復する(10サイクル繰り返す)と共に、2回目以降の各サイクル毎にニッケル下地層をめっき前処理液に浸漬する5分前に亜硝酸イオンの濃度が低下した該前処理液中の亜硝酸イオンの濃度が0.2wt%となるまで該処理液中に亜硝酸ナトリウムを添加する前処理を施した以外は実施例1の試験片と同様にして実施例8の試験片を作製した。
【0030】
(比較例1)
実施例1と同様にして得た、表面に酸化皮膜が形成されたニッケル下地層を実施例1と同様にして脱脂し水洗した後、10wt%の硫酸水溶液(比較例1のめっき前処理液)をスターラーで攪拌しながら該硫酸水溶液中に1分間浸漬して前処理した。
この硫酸水溶液(比較例1のめっき前処理液)から取り出して水洗した後、実施例1と同様にしてこのニッケル下地層の表面に無電解めっきを施すことによって比較例1の試験片を得た。
表2に比較例1の試験片を得る際に使用しためっき前処理条件{めっき前処理液の組成、めっき前処理液の温度(処理温度)、及びめっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)}を示す。
【0031】
(比較例2)
実施例1と同様にして得た、表面に酸化皮膜が形成されたニッケル下地層を実施例1と同様にして脱脂し水洗した後、電解洗浄薬品としてP3 EL 100(ヘンケルジャパン社製)を用い、室温下、電流密度3A/dmで2分間、陽極電解洗浄した。
次いで陽極電解洗浄したニッケル下地層を水洗した後、5wt%の硫酸水溶液(比較例2の前処理液)に30秒間浸漬して中和し、比較例2の試験片を作製した。
表2に比較例2の試験片を得る際に使用しためっき前処理条件{めっき前処理液の組成、めっき前処理液の温度(処理温度)、めっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)}を示す。
【0032】
(比較例3)
実施例1と同様にして得た、表面に酸化皮膜が形成されたニッケル下地層を実施例1と同様にして脱脂し水洗した後、電流密度3A/dmで陰極電解洗浄した以外は比較例2と同様にして比較例3の試験片を作製した。表2に比較例3の試験片を得る際に使用しためっき前処理条件{前処理液の組成、めっき前処理液の温度(処理温度)、めっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)}を示す。
【0033】
(比較例4)
実施例1と同様にして得た、表面に酸化皮膜が形成されたニッケル下地層を比較例1と同様にして10wt%の硫酸水溶液(比較例1のめっき前処理液)をスターラーで攪拌しながら該硫酸水溶液中に1分間浸漬して前処理した。
次いで、50ppmの塩化パラジウムを含む塩化パラジウム水溶液と300ppmの塩酸(35%塩酸で換算)との混合水溶液からなるパラジウム溶液に、室温下で前記のニッケル下地層を1分間浸漬した後、乾燥し、実施例1と同様にしてこのニッケル下地層の表面に無電解めっきを施すことによって比較例4の試験片を得た。
表2に比較例4の試験片を得る際に使用しためっき前処理条件{めっき前処理液の組成、めっき前処理液の温度(処理温度)、及びめっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)}を示す。
【0034】
(比較例5〜7)
実施例1と同様にして得た、表面に酸化皮膜が形成されたニッケル下地層を実施例1と同様にして脱脂し水洗した後、これをめっき前処理液として10wt%の硫酸水溶液(比較例1のめっき前処理液)に代えて、それぞれ表2に示す組成のめっき前処理液の組成(比較例5〜7のめっき処理液)、めっき前処理液の温度(処理温度)、及びめっき前処理液に浸されていた時間(処理時間)とした以外は比較例1と同様にして比較例5〜7の試験片を作製した。前記比較例5〜7のめっき前処理液はその組成中に少なくとも塩酸を含有する点で各実施例のめっき前処理液、及び比較例1〜5のめっき前処理液とはその組成が異なる。
【0035】
[評価]
上記のようにして得た実施例1〜8の試験片、及び比較例1〜7の試験片について、
ニッケル下地層上に形成された無電解ニッケルめっきによるめっき皮膜の膜厚の測定と、該無電解ニッケルめっきによるめっき皮膜とニッケル下地層との密着性の評価を行った。無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は、ニッケルめっき皮膜の密度を7.9g/cmとして、重量法により無電解ニッケルめっき浴へ投入する前後の重量変化から算出した。
【0036】
また、最表面の無電解ニッケルめっき皮膜とニッケル下地層との密着性の評価は、無電解ニッケルめっき後の試験片を180°折り曲げ、折り目部分の周囲にメンディングテープを密着させてからメンディングテープを引き剥がしたとき、引き剥がされたメンディングテープに付着したニッケルめっき皮膜の有無により評価する、折り曲げテープ剥離試験を用いて評価した。
折り曲げテープ剥離試験において剥離を生じなかった試験片は、試験片の表面にナイフでニッケル下地層に達する切り込みを入れ、1cm×1cmの正方形の範囲内を1mm×1mmの升目100目に区切った後、切り込み部分の周囲にメンディングテープを密着させて引き剥がしたとき、引き剥がされたメンディングテープに付着してくる升目(ニッケルめっき皮膜の剥離が生じた升目)の数から密着性を評価する、碁盤目切り込み試験を用いてより詳細に評価した。
表1に実施例1〜8の試験片について、また、表2に比較例1〜7の試験片について、それぞれ各被めっき素材(銅板)のニッケル下地層上に形成された無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚、及び無電解ニッケルめっき皮膜とニッケル下地層との密着性(剥離の有無)に関して評価した結果を示す。
【0037】
また、前記の折り曲げテープ剥離試験を行った後の各実施例及び各比較例の試験片の表面を実体顕微鏡写真により観察した。
図1、2はそれぞれ折り曲げテープ剥離試験を行った後の実施例1の試験片の実体顕微鏡写真(図1)、及び実施例2の試験片の実体顕微鏡写真(図2)であり、図3〜5はそれぞれ比較例5の試験片の実体顕微鏡写真(図3)、比較例6の試験片の実体顕微鏡写真(図4)、及び比較例7の試験片の実体顕微鏡写真(図5)である。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1と表2の比較からわかるように、被めっき素材上にニッケル下地層を形成してからその表面に無電解ニッケルめっきを施す前にニッケル下地層の前処理を施すめっき方法の場合、亜硝酸イオンを含有する酸の水溶液からなる本発明のめっき前処理剤を用いて前処理すると、所定の厚さの無電解ニッケル皮膜が形成され、しかもニッケル下地層との密着性が良好で、無電解めっき皮膜のニッケル下地層からの剥離が全く認められなかった(各実施例)。
【0041】
これに対して硫酸あるいは電解洗浄で前処理しただけ(比較例1〜3)では、無電解ニッケルめっきが開始せず、ニッケル下地層上には無電解めっき皮膜が形成されなかった。
また硫酸で前処理し、さらにパラジウム触媒と接触させた場合(比較例4)や、亜硝酸イオンを含有する塩酸、もしくは塩酸と硫酸との混酸からなるめっき前処理液により前処理した場合(比較例5〜7)には、一定の厚みの無電解ニッケル皮膜が形成されたもののニッケル下地層からの剥離が認められた。
【0042】
また、折り曲げテープ剥離試験後の試験片の表面状態を示す図1〜5を比較すると、
実施例1の試験片(図1)、及び実施例2の試験片(図2)には折り曲げによりわずかにしわが発生していたものの、ともに密着性は良好で、皮膜のクラックや剥離は認められない。
【0043】
これに対して、比較例5の試験片(図3)、及び比較例6の試験片(図4)では、無電解ニッケル皮膜が密着不良で、皮膜に多数のクラックが発生しており、さらに比較例5の試験片(図3)では無電解ニッケル皮膜が一部剥離し、比較例6の試験片(図4)ではクラックの一部がニッケル下地層に達していた。さらに比較例6に比べて塩酸の濃度の高いめっき前処理液を用いて処理時間をより長くした比較例7の試験片(図5)の無電解ニッケル皮膜は著しく密着が不良で、無電解ニッケル皮膜の面に剥離した部分が多数発生し、ニッケル下地層が露出していた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のめっき前処理液を用いためっき方法は、表面の金属めっき層とその下地層との間の密着性が良好で金属めっき層表面のふくれ等の欠陥の発生がないところから、ニッケル下地層が設けられた被めっき素材の表面に所望とする金属のめっき皮膜を形成する金属めっき方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例により作製された無電解ニッケルめっき試験片の表面状態を示す実体顕微鏡写真である。
【図2】本発明の他の実施例により作製された無電解ニッケルめっき試験片の表面状態を示す実体顕微鏡写真である。
【図3】本発明の比較例により作製された無電解ニッケルめっき試験片の表面状態を示す実体顕微鏡写真である。
【図4】本発明の他の比較例により作製された無電解ニッケルめっき試験片の表面状態を示す実体顕微鏡写真である。
【図5】本発明のさらに他の比較例により作製された無電解ニッケルめっき試験片の表面状態を示す実体顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材上に形成されたニッケル下地層の表面に亜硝酸イオンを含有する少なくとも1種類の無機酸または有機酸からなる前処理液に接触させた後に、該下地層の上に金属めっきを施すことを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
前記無機酸または有機酸がその組成中にハロゲン元素を含まない酸であることを特徴とする請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記無機酸が硫酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の
めっき方法。
【請求項4】
前記ニッケル下地層に接触させる前記前処理液の液温が10〜70℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のめっき方法。
【請求項5】
前記前処理液が界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のめっき方法。
【請求項6】
前記前処理液に前記ニッケル下地層を接触させている間に、逐次亜硝酸イオンを該前処理液中に添加して補給することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき方法。
【請求項7】
亜硝酸イオンを含有する少なくとも1種類の無機酸または有機酸からなり、素材上の被めっき層面に予め形成されたニッケル下地層の酸化物皮膜を除去するためのめっき前処理液。
【請求項8】
前記無機酸または有機酸がその組成中にハロゲン元素を含まない酸であることを特徴とする請求項7に記載のめっき前処理液。
【請求項9】
前記亜硝酸イオンの濃度が0.005〜10重量%であることを特徴とする請求項7又は8に記載のめっき前処理液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−161788(P2009−161788A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339480(P2007−339480)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000230607)日本化学産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】