説明

めっき方法及びめっき装置

【課題】 めっき効率の低下やめっき品質の低下をより効果的に抑制することができるめっき方法を提供すること。
【解決手段】 このめっき方法は、被処理物にめっきを施すめっき方法であって、めっき液が入れられためっき槽10と、めっき液に浸漬されたアノード電極22及びカソード電極20と、を準備する準備工程と、カソード電極周りに被処理物Wを配し、アノード電極及びカソード電極へ給電する給電工程と、被処理物が配されている領域に酸性めっき液を供給する液供給工程と、を備える。カソード電極の近傍では、H+が減少してOH−が増加し、pHが上昇する。、一方、アノード電極の近傍ではOH−が減少してH+が増加し、pHが下降する。ポンプ40を作動させてアノード電極近傍の酸性めっき液Fをカソード電極近傍に供給することでpHの上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物にめっきを施すめっき方法及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき槽内にめっき液を入れて、被めっき物にめっき処理を施す場合、めっき液の金属イオン濃度が徐々に低下する。金属イオン濃度の低下が起こると、めっき効率が低下すると共にめっき焼けが発生する。このような事象に対して、金属イオン濃度を調整しためっき液を加えていくことが提案されている。
【特許文献1】特開平10−195698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1によれば、金属イオン濃度を調整しためっき液を加えても、めっき効率の低下やめっき焼けといった不具合事象に対して一定の効果があるように記載されている。
【0004】
しかしながら、本発明者らのより詳細な検討によれば、金属イオン濃度を調整しためっき液を加えるだけでは、めっき効率の低下やめっき品質の低下といった事象に対して十分な効果を挙げられないことが判明した。
【0005】
そこで本発明では、めっき効率の低下やめっき品質の低下をより効果的に抑制することができるめっき方法及びめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のめっき方法は、被処理物にめっきを施すめっき方法であって、めっき液が入れられためっき槽と、めっき液に浸漬されたアノード電極及びカソード電極と、を準備する準備工程と、カソード電極周りに被処理物を配し、アノード電極及びカソード電極へ給電する給電工程と、被処理物が配されている領域に酸性めっき液を供給する液供給工程と、を備える。
【0007】
本発明によれば、カソード電極周りに配した被処理物のめっき処理の進行に伴ってアルカリ性を呈する領域に酸性めっき液を供給するので、被処理物が配されている領域の液性変化を抑制することができ、被処理物への析出量の減少やめっき不良の発生を抑制できる。
【0008】
また本発明のめっき方法では、被処理物はめっき槽内に配されたバレル内に収められていることも好ましい。
【0009】
また本発明のめっき方法では、液供給工程においては、アノード電極周りのめっき液を、カソード電極周りへと供給することも好ましい。被処理物のめっき処理の進行に伴って酸性を呈するアノード電極周りのめっき液を、カソード電極周りに供給するので、めっき槽内のめっき液を効果的に利用できる。
【0010】
また本発明のめっき方法では、液供給工程において、アノード電極周りのめっき液に含まれるスラッジを除去した後に、カソード電極周りへと供給することも好ましい。めっき液に含まれるスラッジを除去してからカソード電極周りへと供給するので、めっき不良の発生をより効果的に抑制できる。
【0011】
また本発明のめっき方法では、液供給工程においては、めっき槽外から酸性めっき液を供給することも好ましい。めっき槽外から新たに酸性めっき液を供給するので、その酸性めっき液の液性を容易に制御することが可能となる。
【0012】
本発明のめっき装置は、めっき液が入れられためっき槽と、当該めっき液に浸漬されたアノード電極及びカソード電極とを備えるめっき装置であって、アノード電極及びカソード電極に給電する給電手段と、カソード電極周りに酸性めっき液を供給する液供給手段と、を備える。
【0013】
本発明によれば、カソード電極周りに酸性めっき液を供給する液供給手段を備えるので、カソード電極周りに配した被処理物のめっき処理の進行に伴ってアルカリ性を呈する領域に酸性めっき液を供給することが可能となる。従って、被処理物が配される領域の液性変化を抑制することができ、被処理物への析出量の減少やめっき不良の発生を抑制できる。
【0014】
また本発明のめっき装置では、めっきを施す対象である被処理物を収めるバレルを備えることも好ましい。
【0015】
また本発明のめっき装置では、液供給手段は、アノード電極周りのめっき液を、カソード電極周りへと供給することも好ましい。被処理物のめっき処理の進行に伴って酸性を呈するアノード電極周りのめっき液を、カソード電極周りに供給するので、めっき槽内のめっき液を効果的に利用できる。
【0016】
また本発明のめっき装置では、液供給手段は、アノード電極周りのめっき液に含まれるスラッジを除去した後に、カソード電極周りへと供給することも好ましい。めっき液に含まれるスラッジを除去してからカソード電極周りへと供給するので、めっき不良の発生をより効果的に抑制できる。
【0017】
また本発明のめっき装置では、液供給手段は、めっき槽外から酸性めっき液を供給することも好ましい。めっき槽外から新たに酸性めっき液を供給するので、その酸性めっき液の液性を容易に制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被処理物が配されている領域の液性変化を抑制することができ、被処理物への析出量の減少やめっき不良の発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の知見は、例示のみのために示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解することができる。引き続いて、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0020】
本発明の実施形態であるめっき装置について図1を参照しながら説明する。図1は、めっき装置1の構成を示す図である。
【0021】
めっき装置1は、めっき槽10と、カソード電極20と、アノード電極22と、バレル30と、ポンプ40(液供給手段)と、整流器50(給電手段)とを備えている。
【0022】
めっき槽10にはめっき液Fが入れられている。めっき液Fは、ワットNi、中性Sn、Cuといった金属を含むめっき液である。
【0023】
めっき液Fには、カソード電極20及びアノード電極22が浸漬されている。カソード電極20とアノード電極22とは整流器50に接続されており、整流器50から給電される。
【0024】
めっき槽10内にはバレル30が配されている。バレル30は傾斜した状態で軸32を中心として回転可能なように構成されている。バレル30内にはワークW(被処理物)及びメディアMがそれぞれ複数収められている。
【0025】
ワークWは、コンデンサ、インダクタ、NTCサーミスタ、バリスタといった電子部品である。メディアMは導電性のあるボール状のものであり、カソード電極20とワークWとの間における電子の授受を中継する役割を果たす。
【0026】
上述したカソード電極20は、その先端がこのワークW及びメディアMの中に没入されている。一方、アノード電極22は、バレル30の外に配されている。
【0027】
ポンプ40には、吸入管42と排出管44とが接続されている。吸入管42の先端は、アノード電極22周りの領域に配置されている。一方、排出管44の先端は、カソード電極20周りの領域であって、ワークW及びメディアMが配されているバレル30内に配置されている。ポンプ40を作動させると、吸入管40が吸い上げためっき液Fを、排出管44が排出する。
【0028】
また、図1に明示しないが、吸入管40からポンプ40の間にはフィルタが設けられており、スラッジを除去できるように構成されている。スラッジは、NiOといった酸化物である。
【0029】
めっき装置1の変形例を図2に示す。図2に示すめっき装置1aは、めっき槽10内のバレル30aが傾斜しておらず、その回転軸32aが略水平となっている。ポンプ40に接続された排出管44aは、回転軸32aに沿うようにバレル30a内に突出している。また、カソード電極20aも、回転軸32aに沿うようにバレル30a内に突出している。
【0030】
引き続いて、めっき装置1を用いてワークWにめっきするめっき方法について図3を参照しながら説明する。尚、めっき装置1aを用いても同様である。
【0031】
本実施形態のめっき方法は、準備工程(S01)と、給電工程(S02)と、液供給工程(S03)とを備えている。
【0032】
準備工程(S01)では、めっき装置1を準備することで、めっき液Fが入れられためっき槽10と、めっき液Fに浸漬されたアノード電極22及びカソード電極20と、を準備する。
【0033】
続いて、給電工程(S02)では、バレル30内にワークW及びメディアMを配した後に整流器50で給電することで、カソード電極20周りにワークWを配し、アノード電極22及びカソード電極20へ給電する。
【0034】
続いて、液供給工程(S03)では、ポンプ40を作動させることで、ワークWが配されている領域に酸性めっき液を供給する。
【0035】
本実施形態において、めっき液FがワットNiの場合、カソード電極20の近傍では、
【化1】



との反応が起きて、ワークWにめっきがなされる。この競争反応として、
【化2】



との反応が起きて、H+が減少してOHが増加し、pHが上昇する。
【0036】
一方、アノード電極22の近傍では、
【化3】



との反応が起きる。この競争反応として、
【化4】



との反応が起きて、OHが減少してH+が増加し、pHが下降する。従って、本実施形態のようにアノード電極22近傍の酸性めっき液Fをカソード電極20近傍に供給することでpHの上昇を抑制できる。
【0037】
本実施形態によらない場合、カソード電極20の近傍におけるめっき液Fはアルカリ性を呈し、ワークWへのめっき析出量が減少するので、給電電圧を上げる必要がある。また、外部電極を有するセラミック電子部品をワークWとする場合には、セラミック素体へのめっき伸びが発生する。更に、カソード電極20のガラス成分(SiO、B系、Zn系)が溶出してしまい、カソード電極20の機械的強度の低下を招く。上述した本実施形態によれば、これらの不具合が解消できる。
【0038】
尚、本実施形態では、めっき槽10内のめっき液Fを循環させたが、めっき槽10外から酸性めっき液を供給してもよい。その場合には、めっき槽10内の異なる場所にアルカリ性めっき液を供給し、液性バランスを保つことも好ましい。
【0039】
また、本実施形態ではバレルめっきを例示したが、本発明の適用範囲はバレルめっきに限られず、種々のめっき手法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態のめっき装置の構成を示す図である。
【図2】図1のめっき装置の変形例を示す図である。
【図3】本実施形態のめっき方法を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…めっき装置、10…めっき槽、20…カソード電極、22…アノード電極、30…バレル、32…軸、40…ポンプ、42…吸入管、44…排出管、50…整流器、F…めっき液、W…ワーク、M…メディア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物にめっきを施すめっき方法であって、
めっき液が入れられためっき槽と、前記めっき液に浸漬されたアノード電極及びカソード電極と、を準備する準備工程と、
前記カソード電極周りに前記被処理物を配し、前記アノード電極及び前記カソード電極へ給電する給電工程と、
前記被処理物が配されている領域に酸性めっき液を供給する液供給工程と、
を備えるめっき方法。
【請求項2】
前記被処理物は前記めっき槽内に配されたバレル内に収められている、請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
前記液供給工程においては、前記アノード電極周りのめっき液を、前記カソード電極周りへと供給する、請求項1又は2に記載のめっき方法。
【請求項4】
前記液供給工程において、前記アノード電極周りのめっき液に含まれるスラッジを除去した後に、前記カソード電極周りへと供給する、請求項3に記載のめっき方法。
【請求項5】
前記液供給工程においては、前記めっき槽外から前記酸性めっき液を供給する、請求項1又は2に記載のめっき方法。
【請求項6】
めっき液が入れられためっき槽と、当該めっき液に浸漬されたアノード電極及びカソード電極とを備えるめっき装置であって、
前記アノード電極及び前記カソード電極に給電する給電手段と、
前記カソード電極周りに酸性めっき液を供給する液供給手段と、
を備えるめっき装置。
【請求項7】
めっきを施す対象である被処理物を収めるバレルを備える、請求項6に記載のめっき装置。
【請求項8】
前記液供給手段は、前記アノード電極周りのめっき液を、前記カソード電極周りへと供給する、請求項6又は7に記載のめっき装置。
【請求項9】
前記液供給手段は、前記アノード電極周りのめっき液に含まれるスラッジを除去した後に、前記カソード電極周りへと供給する、請求項8に記載のめっき装置。
【請求項10】
前記液供給手段は、前記めっき槽外から前記酸性めっき液を供給する、請求項6又は7に記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270268(P2007−270268A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97628(P2006−97628)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)