説明

めっき材料および前記めっき材料が用いられた電気電子部品

【課題】接続端子の摺動部などに好適なめっき材料、および前記めっき材料を用いて挿抜性を改善した、嵌合型多極コネクタなどの電気電子部品を提供する。
【解決手段】導電性基体1上にNiなどの下地層2が設けられ、その上にCuまたはCu合金の銅系層3、Cu−Sn金属間化合物からなる中間層4、SnまたはSn合金からなる錫系層5がこの順に設けられ、さらにその上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層6が設けられためっき材料7。このめっき材料7を、端子などの摺動面に用いたとき、最外層6が硬質のCu−Sn金属間化合物からなるため、端子間の接触圧力を小さくしても、フレッティング現象が起き難いので端子の挿抜性改善に有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続端子の摺動部などに好適なめっき材料、および前記めっき材料を用いて挿抜性を改善した、嵌合型多極コネクタなどの電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
銅(Cu)、銅合金などの導電性基体(以下、適宜、基体と記す。)上に錫(Sn)、錫合金などのめっき層を設けためっき材料は、基体の優れた導電性と強度、およびめっき層の優れた電気接続性、耐食性およびはんだ付け性を備えた高性能導体として知られており、各種の端子やコネクタなどに広く用いられている。このめっき材料は、通常、亜鉛(Zn)などの基体の合金成分(以下、適宜、基体成分と記す。)が前記めっき層に拡散するのを防止するため、基体上にバリア機能を有するニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)などが下地めっきされる。
【0003】
自動車のエンジンルーム内などの高温環境下では、端子表面のSnめっき層はSnが易酸化性のため表面に酸化皮膜が形成されるが、この酸化皮膜は脆いため端子接続時に破れ、その下の未酸化Snめっき層が露出して良好な電気接続性が得られる。
【0004】
ところで近年、電子制御化が進む中で嵌合型コネクタが多極化したため、オス端子群とメス端子群を挿抜する際に多大な力が必要になり、特に、自動車のエンジンルーム内などの狭い空間では挿抜作業が困難なため前記挿抜力の低減が強く求められている。
【0005】
前記挿抜力を低減する方法として、コネクタ端子表面のSnめっき層を薄くして端子間の接触圧力を弱める方法が考えられるが、この方法はSnめっき層が軟質のため端子の接触面間にフレッティング現象が起きて端子間が導通不良になることがある。
【0006】
前記フレッティング現象とは、振動や温度変化などが原因で端子の接触面間に起きる微摺動により、端子表面の軟質のSnめっき層が摩耗し酸化して、比抵抗の大きい摩耗粉になる現象で、この現象が端子間に発生すると接続不良が起きる。そして、この現象は端子間の接触圧力が低いほど起き易い。
【0007】
前記フレッティング現象を防止するため、基材上に、フレッティング現象が起き難い硬質のCuSnなどのCu−Sn金属間化合物層を形成する方法(特許文献1、2)が提案されたが、この方法はCu−Sn金属間化合物層にCuなどの基材成分が大量に拡散してCu−Sn金属間化合物層が脆化するという問題があった。
【0008】
前記基体とCu−Sn金属間化合物層間にNi層を設けて基体成分の拡散を防止しためっき材料(特許文献3)はNi層とCu−Sn金属間化合物層間にSn層もCu層も存在しないため、この材料を、基体上にNi、Cu、Snをこの順に層状にめっきし、これを熱処理して製造する際に、めっき積層体のめっき厚みをCuとSnの化学量論比を踏まえて厳密に設計し、かつその熱処理を徹底した管理の基で行う必要があり、製造に多大な労力を要した。
【0009】
【特許文献1】特開2000−212720号公報
【特許文献2】特開2000−226645号公報
【特許文献3】特開2004−68026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、接続端子の摺動部などに好適なめっき材料、および前記めっき材料を用いて挿抜性を改善した嵌合型多極コネクタなどの電気電子部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載した発明は、導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上に銅または銅合金からなる銅系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる中間層、その上に錫または錫合金からなる錫系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられていることを特徴とするめっき材料である。
【0012】
請求項2に記載した発明は、導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる中間層、その上に錫または錫合金からなる錫系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられていることを特徴とするめっき材料である。
【0013】
請求項3に記載した発明は、前記中間層および最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料である。
【0014】
請求項4に記載した発明は、前記中間層および最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料である。
【0015】
請求項5に記載した発明は、前記中間層が上下2層からなり、下側(基体側)の中間層がCuSn化合物を主体とし、上側の中間層がCuSn化合物を主体とし、前記最外層が上下2層からなり、下側(基体側)の最外層がCuSn化合物を主体とし、上側の最外層がCuSn化合物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料である。
【0016】
請求項6に記載した発明は、前記CuSn化合物にSn相またはSn合金相が分散していることを特徴とする請求項4または5に記載のめっき材料である。
【0017】
請求項7に記載した発明は、導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上に銅または銅合金からなる銅系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられており、前記最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とし、前記CuSn化合物にSn相またはSn合金相が分散していることを特徴とするめっき材料である。
【0018】
請求項8に記載した発明は、導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられており、前記最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とし、前記CuSn化合物にSn相またはSn合金相が分散していることを特徴とするめっき材料である。
【0019】
請求項9に記載した発明は、前記導電性基体上に、下地層が少なくとも2層設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のめっき材料である。
【0020】
請求項10に記載した発明は、電気電子部品の少なくとも摺動部が請求項1乃至9のいずれかに記載のめっき材料からなることを特徴とする電気電子部品である。
【0021】
請求項11に記載した発明は、嵌合型コネクタまたは接触子に用いられることを特徴とする請求項10に記載の電気電子部品である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のめっき材料は最外層が硬質のCu−Sn金属間化合物からなるため、めっき層を薄くして端子間の接触圧力を小さくしても、フレッティング現象が起き難い。従って本発明のめっき材料を摺動部に用いた端子などの電気電子部品は良好な挿抜性および電気接続性が安定して得られる。
【0023】
本発明のめっき材料は、導電性基体上にNiなどからなる下地層が設けられるので基体成分が最外層に拡散するのが防止される。
請求項1に記載した発明では前記下地層上にCuなどからなる銅系層、Cu−Sn金属間化合物層からなる中間層、Snなどからなる錫系層が設けられているので、また請求項2に記載した発明では前記下地層上にCu−Sn金属間化合物層からなる中間層およびSnなどからなる錫系層が設けられているので、請求項7に記載した発明では前記下地層上にCuなどからなる銅系層が設けられているので、いずれもNiなどの下地層成分が最外層に拡散するのが防止される。従って、良好な電気接続性がより安定して得られる。
【0024】
本発明のめっき材料を、基体上に、例えば、Ni、Cu(内)、Sn、Cu(外)をこの順に層状にめっきしてめっき積層体とし、このめっき積層体を熱処理して製造する際に、前記積層体のCu(内)層とSn層、或いはSn層のみを残存させるので、または前記めっき材料の最外層または中間層にSn相またはSn合金相が分散した状態にするので、めっき積層体の設計および前記めっき積層体の熱処理が容易に行える。従って本発明のめっき材料は生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のめっき材料7は、図1(イ)に示すように、導電性基体1上に、Niなどからなる下地層2、その上にCuなどからなる銅系層3、その上にCu−Sn金属間化合物からなる中間層4、その上にSnなどからなる錫系層5、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層6を設けたもの(請求項1)、図1(ロ)に示すように、導電性基体1上に、Niなどからなる下地層2、その上にCu−Sn金属間化合物からなる中間層4、その上にSnなどからなる錫系層5、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層6を設けたもの(請求項2)、前記請求項1または2に記載しためっき材料のCu−Sn金属間化合物からなる最外層または/および中間層にSn相またはSn合金相が分散したもの(請求項6)、図1(ハ)に示すように、導電性基体1上に、Niなどからなる下地層2、その上にCuなどからなる銅系層3、その上にCuSn化合物を主体としSn相またはSn合金相9が分散したCu−Sn金属間化合物からなる最外層6を設けたもの(請求項7)、図1(ニ)に示すように、導電性基体1上に、Niなどからなる下地層2、その上にCuSn化合物を主体としSn相またはSn合金相9が分散したCu−Sn金属間化合物からなる最外層6を設けたもの(請求項8)などである。
【0026】
請求項1に記載した発明のめっき材料は、例えば、図2に示すように、導電性基体1上にNi層2’、Cu層3’、Sn層4’、Cu層5’をこの順にめっきしてめっき積層体8を作製し、これを熱処理して、前記Cu層3’とSn層4’をCu−Sn金属間化合物層(中間層)に反応させ、さらにSn層4’とCu層5’をCu−Sn金属間化合物層(最外層)に反応させて製造される。この反応の間、基体の合金成分の熱拡散はNi層2’により阻止される。
【0027】
めっき積層体8のCu層3’、Sn層4’、Cu層5’の体積比は、請求項1に記載した発明ではめっき材料7の最外層6のCu−Sn金属間化合物層の必要厚みを考慮し、さらに熱処理後のめっき材料7に銅系層3と錫系層5が形成されるように決める。また請求項2に記載した発明では錫系層が形成されるように決める。前記熱処理後のめっき材料7に形成される銅系層3や錫系層5の厚みは特に厳密に規定する必要がないため、めっき積層体8の設計およびその熱処理が容易に行える。従って本発明のめっき材料は生産性に優れる。
【0028】
めっき積層体8のCu層(内)3’の厚みは通常0.01μm以上とする。上限は実用面、材料費、製造コストなどを考慮して5.0μm程度が望ましい。なおCu層(内)3’がCuのとき、その厚みが薄いと熱処理後のめっき材料7の銅系層3に微細孔が多数存在しバリア機能が失われることがあるので、めっき積層体8のCu層(内)3’の厚みはCu合金の場合より若干厚めにする。
【0029】
本発明において、Cu層(外)5’が熱処理で完全にCu−Sn金属間化合物に反応するのには長時間を要するため、熱処理後に、めっき材料7の最外層6の表面にCuまたはCu化合物が若干残存することがあるが、このことでめっき材料7の機能が低下することは殆どなく、従ってめっき材料7の最外層6の表面にCuまたはCu合金が残存するものも本発明のめっき材料である。前記CuまたはCu化合物は薬品などを用いて除去するのが望ましい。
【0030】
本請求項2、8に記載した発明のめっき材料は、前記熱処理後のめっき材料7の下地層2上に銅系層3が存在しないものであるが、銅系層3が存在しないからといって、このめっき材料の端子挿抜性などの特性が低下することは殆どない。
【0031】
本発明において、最外層をCu−Sn金属間化合物層とする端子摺動部と、最外層をSn層とする電線圧着部を含むめっき材料は、例えば自動車用端子として使用されるが、このようなめっき材料は、前記電線圧着部となる箇所のみCu層(外)のめっき時にマスキングを施したうえで、熱処理することにより電線圧着部にのみ最表面にSn層を残しためっき材料を製造できる。この方法によれば、最外層の材質が部位ごとに異なるめっき材料を容易に製造できる。
【0032】
前記めっき積層体8の熱処理をリフロー処理(連続処理)により施す場合は、めっき積層体の実体温度を好ましくは232〜500℃にして0.1秒以上10分以下、より好ましくは100秒以下、さらに好ましくは10秒以下加熱して施す。このリフロー処理は、たとえばリフロー炉内の温度を500℃〜900℃に保ち10分以下、好ましくは100秒以下、より好ましくは10秒以下で加熱を施すことで実現される。実際には実体温度による温度よりリフロー炉内の温度のほうが計測しやすいため、リフロー炉内の温度管理を行うことによりリフロー処理を施すことが望ましい。なお、熱処理をバッチ処理により施す場合は前記めっき積層体8を好ましくは50〜250℃の炉内に数10分乃至数時間保持して施す。なお、熱処理をリフロー処理により施す場合の温度や加熱時間は、めっき積層体の厚みなどに適合した条件に設定する必要があるが、後述する実施例において説明するように、個々の具体的条件は、適宜設定することができる。
【0033】
本発明において、導電性基体1には、端子に要求される導電性、機械的強度および耐熱性を有する銅、リン青銅、黄銅、洋白、ベリリウム銅、コルソン合金などの銅系材料、鉄、ステンレス鋼などの鉄系材料、銅被覆鉄材やニッケル被覆鉄材などの複合材料、各種のニッケル合金やアルミニウム合金などの金属材料が適宜用いられる。
【0034】
前記導電性基体1に用いられる各種金属材料のうち、特に銅、銅合金などの銅系材料は導電性と機械的強度のバランスに優れ好適である。前記導電性基体が銅系材料以外の場合は、その表面に銅または銅合金を被覆しておくと耐食性および下地めっき層との密着性が向上する。
【0035】
前記導電性基体1上に設ける下地層2は、基体1の成分が最外層6に熱拡散するのを防止するバリア機能を有するNi、Co、Feなどの金属、これらを主成分とするNi−P系、Ni−Sn系、Co−P系、Ni−Co系、Ni−Co−P系、Ni−Cu系、Ni−Cr系、Ni−Zn系、Ni−Fe系などの合金が好適に用いられる。これら金属および合金は、めっき処理性が良好で、価格的にも問題がない。中でも、NiおよびNi合金はバリア機能が高温環境下にあっても衰えないため推奨される。
【0036】
前記下地層2に用いるNiなどの金属(合金)は、融点が1000℃以上と高く、接続コネクタの使用環境温度は200℃以下と低いため、下地層はそれ自身熱拡散を起こし難いうえ、そのバリア機能が有効に発現される。下地層2には、導電性基体1の材質によっては導電性基体1と銅系層3との(銅系層3が存在しない場合には導電性基体1と中間層4との)密着性を高める機能もある。
【0037】
下地層2の厚みは、0.05μm未満ではそのバリア機能が十分に発揮されなくなり、3μmを超えるとめっき歪みが大きくなって基体1から剥離し易くなる。従って0.05〜3μmが望ましい。下地層の厚みの上限は端子加工性を考慮すると1.5μm、さらには0.5μmが望ましい。
【0038】
前記めっき積層体8のCu層(内、外)には、Cuの他、Cu−Sn系などの銅合金が適用できる。銅合金のCu濃度は50質量%以上が望ましい。
【0039】
前記めっき積層体8のSn層4’がSnでCu層(内、外)3’、 5’がCuの場合のSn層4’とCu層(内+外)の体積比(Sn層/Cu層)が1.9以上のめっき積層体に所定の熱処理を施すことにより、基体1上に下地層2、その上に銅系層3、その上にCu−Sn金属間化合物層(中間層)4、その上に錫系層5、その上にCu−Sn金属間化合物層(最外層)6が形成された請求項1に記載した発明のめっき材料7が得られる。めっき積層体8のCu層(内)3’を薄くするか、設けないことにより前記銅系層3の存在しない請求項2に記載した発明のめっき材料7が得られる。
めっき積層体8のSn層4’の厚みは0.038〜4.0μmが望ましく、その上限は3.0μmであることがさらに望ましい。
【0040】
前記めっき積層体8のNi層2’、Cu層(内、外)3’、 5’およびSn層4’はPVD法などによっても形成できるが、湿式めっき法が簡便かつ低コストで望ましい。
【0041】
本発明において、最外層のCu−Sn金属間化合物層6としてはCuSn、CuSn、CuSnなどが挙げられる。CuSnはCuの1体積に対しSnの1.90体積が反応して生成される。CuSnはCuの1体積に対しSnの0.76体積が反応して生成される。CuSnはCuの1体積に対しSnの0.57体積が反応して生成される。
【0042】
従って、Sn層4’とCu層(内+外)の体積比(Sn層/Cu層)が、例えば1.90を超えるめっき積層体8を長時間熱処理するとCuSnが主体の中間層4或いは最外層6が形成される。
熱処理時間が短いときは、めっき積層体8のCu層(内、外)3’、 5’のSn層4’から離れた箇所にはCuSn或いはCuSnが主体のCu−Sn金属間化合物が形成される。このようなめっき材料(請求項5に記載した発明)によってもフレッティング現象が起き難い端子などが得られる。
【0043】
本発明において、最外層のCu−Sn金属間化合物層6をCuSn層とCuSn層の2層で構成する場合(請求項5に記載した発明)の各層の厚みは特に規定しないが、CuSnは0.01〜5.0μm、CuSnは0.008〜4.0μmが望ましい。中間層(Cu−Sn金属間化合物層)についても同様である。
【0044】
前記めっき積層体8のSn層4’の体積比が大きく、かつ熱処理を高温側または長時間側に設定して施す場合は、めっき積層体8のSn層4’を形成していたSnまたはSn合金が、中間層4または最外層6にSn相またはSn合金相(9)が分散することがある。この場合もフレッティング現象が起き難い端子などが得られる点、めっき積層体8の設計およびその熱処理が容易に行える点については他の実施形態と変わるところはない。
【0045】
本発明において、Sn相またはSn合金相(9)が分散した中間層4または最外層6のCu−Sn金属間化合物は、通常CuSn化合物が主体となる。
【0046】
本発明において、最外層6のCu−Sn金属間化合物(CuSn)によるフレッティング現象の防止効果はSn相またはSn合金相(9)の有無に関係なく良好に得られる。
【0047】
本発明において、めっき材料7の各層間(導電性基体と下地層間を含む)に、隣接する層より薄い異種材料のめっき層を介在させてもよい。まためっき材料7の形状は、条、丸線、角線など任意である。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
厚み0.25mmの銅合金(黄銅)条に脱脂および酸洗をこの順に施し、次いで前記銅合金条にNi、Cu、Sn、Cuをこの順に層状に電気めっきしてめっき積層体を作製し、次いでこのめっき積層体8に熱処理をリフロー処理法により施して図1(イ)に示す構成のめっき材料7を製造した。熱処理条件は、リフロー炉内の温度を740℃、サンプルの実体温度を285℃とした。めっき積層体8のNi層2’の厚みは0.4μmとし、Cu層(内)3’、Sn層4’、Cu層(外)5’の厚み(体積)は種々に変化させた。Sn層4’とCu層(内+外)の厚み(体積)比(Sn層/Cu層)は1.95〜2.20の範囲で種々に変化させた。
各金属のめっき条件を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
得られた各々のめっき材料について、下記の微摺動試験を摺動往復回数1000回まで行い、接触抵抗値の変化を連続的に測定した。
【0051】
前記微摺動試験は次のようにして行った。
即ち、図3に示すように各2枚のめっき材料11、12を用意し、各々脱脂洗浄後に、めっき材料11に設けた曲率半径1.05mmの半球状張出部(凸部外面が最外層面)11aに、めっき材料12の最外層面12aを、接触圧力3Nで接触させ、この状態で両者を、温度20℃、湿度65%の環境下で、摺動距離30μmで往復摺動させ、両めっき材料11、12間に開放電圧20mVを負荷して定電流5mAを流し、摺動中の電圧降下を4端子法により測定して電気抵抗の変化を1秒ごとに求めた。往復運動の周波数は約3.3Hzで行った。微摺動試験前の接触抵抗値と微摺動試験中の最大接触抵抗値を表2に示す。
【0052】
各めっき材料7について、(1)最外層6と中間層4のCu−Sn金属間化合物層の厚み、および錫系層5の厚みをコクール社製のR50溶液を用いたアノード溶解法により測定した。(2)銅系層3および最外層6の表面に残存するCuの厚みをコクール社製のR52の溶液を用いたアノード溶解法により測定した。(3)下地層(Ni層)2の厚みを、蛍光X線膜厚計を用いて測定した。測定面積はいずれも1cmとした。各厚みの測定結果を表2に併記した。
【0053】
[実施例2]
熱処理をバッチ処理法により施した他は、実施例1と同じ方法により図1(イ)または(ロ)に示す構成のめっき材料7を製造し、実施例1と同じ試験、調査を行った。
【0054】
[比較例1]
めっき積層体のSn層とCu層(内+外)の体積比(Sn層/Cu層)を1.90とした他は、実施例1または2と同じ方法によりめっき材料を製造し、実施例1と同じ試験、調査を行った。
【0055】
[比較例2]
めっき積層体のSn層とCu層(内+外)の体積比(Sn層/Cu層)を1.80とした他は、実施例1または2と同じ方法によりめっき材料を製造し、実施例1と同じ試験、調査を行った。
【0056】
[比較例3]
銅合金基体上にNi下地層とSn最外層をこの順に電気めっきしためっき材料について実施例1と同じ試験、調査を行った。Snの厚みは2通りに変えた。
【0057】
実施例1、2および比較例1〜3の調査結果を表2に示す。なお、表2における熱処理条件は、サンプルの実体温度を記載している。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかなように、本発明例のめっき材料7(実施例1、2)は、いずれも微摺動試験中の最大接触抵抗値が低かった。これは本発明例のめっき材料7は、最外層6が硬質のCu−Sn金属間化合物からなるためフレッティング現象が起き難く、しかも最外層6の下に錫系層5および中間層4が存在してNiなどの下地成分の熱拡散が防止され、さらに下地層2により基体1の成分の熱拡散が防止されて、最外層6が汚染されずその機能が良好に保持されたためである。
【0060】
これに対し、比較例1は銅系層も錫系層も存在しないため製造が困難であった。また比較例2は前記体積比が1.80のため最外層表面にCu層が残存し、また比較例3は最外層がSn層のためフレッティング現象が起きて、いずれも接触抵抗が大幅に増加した。
【0061】
前記微摺動試験で接触抵抗が10mΩを超えると自動車用端子への使用が困難とされているが、本発明のめっき材料7(実施例1、2)はいずれも10mΩを大幅に下回っており自動車用端子として十分使用できるものである。
【0062】
[実施例3]
下地層2をNi層(0.2μm)とNi−Co−P系合金層(0.2μm)の2層に設けた他は、実施例1のNo.1と同じ方法によりめっき材料を作製し、実施例1と同じ方法により微摺動試験を行った。その結果、接触抵抗は初期値が1.7mΩ、微摺動試験中の最大値が3.2mΩといずれも極めて低い値を示した。これは基体1の成分の拡散が熱処理時および使用中において、より確実に防止されたためである。
【0063】
[実施例4]
めっき積層体8の熱処理時間を短くした(熱処理時間:12h)他は、実施例2のNo.4と同じ方法によりめっき材料7を作製し、実施例1と同じ方法により微摺動試験を行った。このめっき材料7は、中間層4の下側(基体側)がCuSn化合物を主体とし、上側がCuSn化合物を主体とし、最外層6の下側(基体側)がCuSn化合物を主体とし、上側がCuSn化合物を主体とするめっき材料であったが、接触抵抗は、初期値が2.1mΩ、微摺動試験中の最大値が4.6mΩであり、中間層4および最外層6の全体がCuSn化合物を主体とするめっき材料(実施例2のNo.4)と同等の低い接触抵抗値を示した。
【0064】
[実施例5]
実施例1のNo.3のめっき積層体8を用い、リフロー処理を実施例1No.3の場合より高めの温度(リフロー炉内の温度:770℃)で施した他は、実施例1と同じ方法によりめっき材料7を製造した。
得られためっき材料7は、構成が図1(イ)に示したものとほぼ同じであるが、錫系層5の厚みが減少し、最外層6および中間層4はCuSnを主体とするCu−Sn金属間化合物にSn相またはSn合金相9が分散し、図1(イ)と図1(ハ)の中間の構成を有するものであった。
このめっき材料7について実施例1と同じ摺動試験を行い、接触抵抗値の変化を連続的に測定した。その結果は、接触抵抗は初期値が1.8mΩ、最大値が3.6mΩであり、実施例1のNo.3の結果と同等であった。
【0065】
[実施例6]
実施例2のNo.6の積層体を用い、熱処理を実施例2No.6の場合より高めの温度(サンプルの実体温度:180℃)で施した他は、実施例1と同じ方法によりめっき材料を製造した。
得られためっき材料は、構成が図1(ロ)に示したものとほぼ同じであるが、錫系層5の厚みが減少し、最外層6および中間層4はCuSnを主体とするCu−Sn金属間化合物にSn相またはSn合金相9が分散し、図1(ロ)と図1(ハ)の中間の構成を有するものであった。
このめっき材料7について実施例1と同じ摺動試験を行い、接触抵抗値の変化を連続的に測定した。その結果、接触抵抗は初期値が1.8mΩ、最大値が3.8mΩであり、実施例1のNo.3の結果と同等であった。
【0066】
[実施例7]
厚み0.25mmの銅合金(黄銅)条に脱脂および酸洗をこの順に施し、次いで前記銅合金条にNi、Cu、Sn、Cuをこの順に層状に表1に示す条件で電気めっきしてめっき積層体8を作製し、次いでこのめっき積層体8に熱処理をリフロー処理法により実施例5と同じ条件で施してめっき材料7を製造し、実施例1と同じ試験、調査を行った。ここでは、めっき積層体8のNi層2’の厚みは0.4μmとし、Cu層(内)3’とCu層(外)5’の厚み(体積)比(内/外)は3.0とし、Sn層4’とCu層(内+外)の厚み(体積)比(Sn層/Cu層)は2.60とした。なお、Sn層4’の厚みは1.0μmとした。
【0067】
得られためっき材料7は、構成が図1(ハ)に示すような、下地層2上に銅系層3が、その上に最外層6が形成されたものであり、最外層6はCuSnを主体とするCu−Sn金属間化合物にSn相またはSn合金相9が分散したものであった。
このめっき材料7について実施例1と同じ摺動試験を行い、接触抵抗値の変化を連続的に測定した。その結果、接触抵抗は初期値が1.8mΩ、最大値が3.9mΩであり、実施例1のNo.3の結果と同等であった。
【0068】
[実施例8]
実施例7において、Cu層(内)3’とCu層(外)5’の厚み(体積)比(内/外)を1.0とし、Sn層とCu層(内+外)の厚み(体積)比(Sn層/Cu層)を2.60とした他は、実施例7と同じ方法によりめっき材料7を製造し、実施例7と同じ試験、調査を行った。
【0069】
得られためっき材料7は、構成が図1(ニ)に示すような、下地層2上に最外層6が形成されたものであり、最外層6はCuSnを主体とするCu−Sn金属間化合物にSn相またはSn合金相9が分散したものであった。このめっき材料は、接触抵抗が初期値1.9mΩ、最大値4.0mΩであり実施例1のNo.3の結果と同等であった。
【0070】
実施例5〜8の試験結果から、中間層4および最外層6、または最外層6のCu−Sn金属間化合物にSn相またはSn合金相9が分散しためっき材料7においても低い接触抵抗値が得られることがわかる。このめっき材料7は中間層4或いは最外層6にSn相およびSn合金相9が分散されたものであり、実施例1〜4と同様、めっき積層体8の設計および熱処理が容易に行え、生産性に優れる。
【0071】
実施例1〜8で得られためっき材料7を用いて嵌合型コネクタ端子を製造し、自動車のエンジンルーム内で実用に供したところ、いずれも長期に渡り良好な挿抜性が安定して得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】(イ)〜(ニ)は本発明のめっき材料の実施形態の一例を示す斜視説明図である。
【図2】本発明のめっき材料の製造に用いるめっき積層体の実施形態を示す斜視説明図である。
【図3】微摺動試験方法の斜視説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 導電性基体
2 Niなどからなる下地層
3 CuまたはCu合金からなる銅系層
4 Cu−Sn金属間化合物からなる中間層
5 SnまたはSn合金からなる錫系層
6 Cu−Sn金属間化合物からなる最外層
7 めっき材料
2’ Ni層
3’ Cu層(内)
4’ Sn層
5’ Cu層(外)
8 めっき積層体
9 Sn相またはSn合金相
11 めっき材料
11aめっき材料に設けた半球状張出部
12 めっき材料
12aめっき材料の最外層面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上に銅または銅合金からなる銅系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる中間層、その上に錫または錫合金からなる錫系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられていることを特徴とするめっき材料。
【請求項2】
導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる中間層、その上に錫または錫合金からなる錫系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられていることを特徴とするめっき材料。
【請求項3】
前記中間層および最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料。
【請求項4】
前記中間層および最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料。
【請求項5】
前記中間層が上下2層からなり、下側(基体側)の中間層がCuSn化合物を主体とし、上側の中間層がCuSn化合物を主体とし、前記最外層が上下2層からなり、下側(基体側)の最外層がCuSn化合物を主体とし、上側の最外層がCuSn化合物を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料。
【請求項6】
前記CuSn化合物にSn相またはSn合金相が分散していることを特徴とする請求項4または5に記載のめっき材料。
【請求項7】
導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上に銅または銅合金からなる銅系層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられており、前記最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とし、前記CuSn化合物にSn相またはSn合金相が分散していることを特徴とするめっき材料。
【請求項8】
導電性基体上にニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金のいずれか1種からなる下地層、その上にCu−Sn金属間化合物からなる最外層が設けられており、前記最外層のCu−Sn金属間化合物がCuSn化合物を主体とし、前記CuSn化合物にSn相またはSn合金相が分散していることを特徴とするめっき材料。
【請求項9】
前記導電性基体上に、下地層が少なくとも2層設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のめっき材料。
【請求項10】
電気電子部品の少なくとも摺動部が請求項1乃至9のいずれかに記載のめっき材料からなることを特徴とする電気電子部品。
【請求項11】
嵌合型コネクタまたは接触子に用いられることを特徴とする請求項10に記載の電気電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−277715(P2007−277715A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68018(P2007−68018)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】