説明

めっき液、めっき膜、装飾品および時計

【課題】金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を、長期間にわたって安定的に形成することができるめっき液を提供すること。
【解決手段】本発明のめっき液は、金イオンおよび銅イオンを含むものであって、さらに、テルルのオキソ酸化合物を含むことを特徴とする。めっき液中における金イオンの含有率が8g/L以上10g/L以下であり、めっき液中における銅イオンの含有率が30g/L以上40g/L以下であるのが好ましい。また、めっき液中におけるテルルの含有率が10ppm以上220ppm以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液、めっき膜、装飾品および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計用外装部品のような装飾品には、優れた美的外観が要求される。従来、このような目的を達成するために、一般に、装飾品の構成材料として、Au、Pt、Ag等の金属材料を用いてきた。特に、単体金属では表現することのできない色調、外観を有する装飾品を得る目的で、合金、例えば、金属光沢のあるピンク色を呈するピンクゴールド等が用いられている。このようなピンク色を呈するAu合金めっき膜を備えた装飾品を製造するのに、特許文献1に開示されているようなめっき液が用いられてきた。
【0003】
しかし、このようなめっき液を用いた場合、形成されるめっき膜の色調のばらつきが大きく、安定的に優れた外観の装飾品を得るのが困難であった。また、従来のめっき液では、くもり等の外観不良を生じ易く、これを防止するために、めっき液中に、ベンゼンスルフォン酸、ベンゼンスルフォンアミド、フェノールスルフォン酸、1,3,5−ナフタレンスルフォン酸、p−トルエンスフォンアミド、サッカリン、サッカリンナトリウム、ホルムアルデヒド、クロラールハイドレート、クマリン、2−プチン1,4−ジオール、プロパーギルアルコール、チオ尿素、2−ピリジンカルボン酸、L−グルタミン酸、ポリエチレン、ポリアミン、ベンズアルデヒド−O−ナトリウムスルホネート、2−ブテン−1,4−ジオール、アリルスルホネート、ピロリン酸塩、クエン酸塩等を添加する試みがあった。しかし、このような添加剤は、電解による分解・劣化や経時的な分解・劣化を生じ易く、長期間にわたって上記のような問題を確実に防止することができなかった。また、上記のような添加剤の分解・劣化は、めっき液中に含まれた状態では、識別が困難である(複数種の添加剤を併用した場合は、識別が特に困難となる)ため、めっき膜の品質を確保するためには、めっき液中における添加剤の分解・劣化の程度にかかわらず、定期的にめっき液を廃棄・交換する必要があり、省資源、環境保護の観点からも好ましくなく、装飾品の生産性を低下させる要因にもなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−80787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を提供すること、前記めっき膜を、長期間にわたって安定的に形成することができるめっき液を提供すること、前記めっき膜を備えた装飾品を提供すること、また、前記装飾品を備えた時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のめっき液は、金イオンおよび銅イオンを含むめっき液であって、
テルルのオキソ酸化合物を含むことを特徴とする。
これにより、金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を、長期間にわたって安定的に形成することができるめっき液を提供することができる。
【0007】
本発明のめっき液では、めっき液中における金の含有率が8.0g/L以上10.0g/L以下であり、
めっき液中における銅の含有率が30g/L以上40g/L以下であることが好ましい。
これにより、特に優れた外観を有する、ピンク色で光沢感があるめっき膜が得られる。また、従来においては、ピンク色のめっき膜を形成する際に、くもり等の問題を特に生じ易かったが、本発明ではこのようなピンク色のめっき膜を形成する場合においても、上記のような問題を確実に防止することができる。すなわち、ピンク色のめっき膜を得ることができる上記のような組成とすることにより、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0008】
本発明のめっき液では、めっき液中におけるテルルの含有率が10ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。
これにより、くもり等の問題の発生をより効果的に防止することができ、得られるめっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。また、めっき液の保存安定性を特に優れたものとすることができ、より長期間にわたって、めっき膜の形成に用いることができる。
【0009】
本発明のめっき液では、水素イオン指数(pH)が9.7以上11.0以下であることが好ましい。
これにより、くもり等の問題の発生をより効果的に防止することができ、得られるめっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。また、めっき液の保存安定性を特に優れたものとすることができ、より長期間にわたって、めっき膜の形成に用いることができる。
本発明のめっき膜は、本発明のめっき液を用いて形成されたことを特徴とする。
これにより、金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を提供することができる。
【0010】
本発明の装飾品は、本発明のめっき膜を備えたことを特徴とする。
これにより、金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を備えた装飾品を提供することができる。
本発明の装飾品は、時計用外装部品であることが好ましい。
時計は、実用品としての機能が求められるとともに、装飾品として優れた美的外観も求められる。また、時計は、装身具として、様々な環境下で用いられることが一般的であり、このような異なる環境下においても、安定的に優れた外観を呈するものであることが求められるが、本発明によれば、装飾品を、様々な環境下においても安定的に優れた外観を呈するものとすることができる。すなわち、時計用外装部品に適用した場合に、本発明の効果がより顕著に発揮される。
本発明の時計は、本発明の装飾品を備えたことを特徴とする。
これにより、金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を備えた時計を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金および銅を含み、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有するめっき膜を提供すること、前記めっき膜を、長期間にわたって安定的に形成することができるめっき液を提供すること、前記めっき膜を備えた装飾品を提供すること、また、前記装飾品を備えた時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の時計(携帯時計)の好適な実施形態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
<めっき液>
まず、本発明のめっき液の好適な実施形態について説明する。
本発明のめっき液は、金イオンおよび銅イオンを含むものである。これにより、金色〜ピンク色の色調の外観のめっき膜を形成することができる。
【0014】
特に、本発明では、金イオンおよび銅イオンに加え、さらに、テルルのオキソ酸化合物を含むことを特徴とする。このように、金イオンおよび銅イオンとともに、テルルのオキソ酸化合物を含むことにより、当該めっき液を用いて形成されるめっき膜の色調のばらつきを抑制し、安定的に優れた外観を得ることができる。特に、くもり等の問題の発生を長期間にわたって効果的に防止し、光沢感のある高級感に溢れた外観のめっき膜を形成することができる。また、テルルのオキソ酸化合物は、有機材料に比べて、耐久性に優れるとともに、めっき液中における含有率の測定も容易であるため、めっき液の品質管理が容易であり、めっき液の交換時期の判断を適切に行うことができる。このため、不必要なタイミングでのめっき液の交換・廃棄を行うことなく、めっき膜の形成、当該めっき膜を備えた装飾品の製造を行うことができ、省資源で、環境にも優しい。また、全体として、装飾品の生産性を向上させることができる。
【0015】
本発明において、「テルルのオキソ酸化合物」とは、テルルのオキソ酸(例えば、HTeO、HTeOや、これらが縮合したポリ酸等)およびテルルのオキソ酸の塩(例えば、NaTeO、KTeO、PbTeO、NaTeO、KTeO、NaHTeO、KHTeO、NaTeO等)の総称のことを指し、めっき液中において、解離(電離)した状態ものであっても、解離していない状態のものであってもよい。
【0016】
めっき液中におけるテルル(Te)の含有率は、10ppm以上1000ppm以下であるのが好ましく、12ppm以上700ppm以下であるのがより好ましく、15ppm以上220ppm以下であるのがさらに好ましい。テルル(Te)の含有率が前記範囲内の値であると、くもり等の問題の発生をより効果的に防止することができ、得られるめっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。また、めっき液の保存安定性を特に優れたものとすることができ、より長期間にわたって、めっき膜の形成に用いることができる。なお、めっき液中におけるテルルの含有率は、原子吸光光度計、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いた測定により求めることができる。
【0017】
また、めっき液中における金(Au)の含有率が8.0g/L以上10.0g/L以下であり、かつ、めっき液中における銅(Cu)の含有率が30g/L以上40g/L以下であるのが好ましい。これにより、特に優れた外観を有する、ピンク色で光沢感があるめっき膜が得られる。また、従来においては、ピンク色のめっき膜を形成する際に、くもり等の問題を特に生じ易かったが、本発明ではこのようなピンク色のめっき膜を形成する場合においても、上記のような問題を確実に防止することができる。すなわち、ピンク色のめっき膜を得ることができる上記のような組成とすることにより、本発明の効果がより顕著に発揮される。なお、めっき液中における金、銅の含有率は、原子吸光光度計、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いた測定により求めることができる。
【0018】
上記のように、めっき液中における金の含有率は、8.0g/L以上10.0g/L以下であるのが好ましいが、8.2g/L以上9.7g/L以下であるのがより好ましく、8.5g/L以上9.4g/L以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述した効果がさらに顕著に発揮される。
また、上記のように、めっき液中における銅の含有率は、30g/L以上40g/L以下であるのが好ましいが、32g/L以上38g/L以下であるのがより好ましく、34g/L以上36g/L以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述した効果がさらに顕著に発揮される。
【0019】
また、めっき液の水素イオン指数(pH)は、9.7以上11.0以下であるのが好ましく、9.9以上10.8以下であるのがより好ましく、10.0以上10.6以下であるのがさらに好ましい。めっき液の水素イオン指数(pH)が前記範囲内の値であると、くもり等の問題の発生をより効果的に防止することができ、得られるめっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。また、めっき液の保存安定性を特に優れたものとすることができ、より長期間にわたって、めっき膜の形成に用いることができる。
【0020】
また、めっき液中におけるCNの含有率(遊離シアン濃度)は、5.0g/L以上10.0g/L以下であるのが好ましいが、6.0g/L以上9.5g/L以下であるのがより好ましく、7.0g/L以上9.2g/L以下であるのがさらに好ましい。これにより、後述するような条件で、電解めっきを好適に行うことができる。なお、CNの含有率(遊離シアン濃度)は、滴定分析により容易に求めることができる。
【0021】
<めっき膜、めっき膜の形成方法、装飾品の製造方法>
本発明のめっき膜は、上述したようなめっき液を用いた湿式めっきにより形成することができる。本発明のめっき膜を用いて形成されるめっき膜は、くもり等の不都合の発生が確実に防止され、優れた外観を有する。また、本発明のめっき膜は、めっき液を用いた湿式めっきにより形成されるものであるため、乾式めっきでは対応するのが困難な複雑な形状を有するめっき膜であっても好適に形成することができる。
【0022】
本発明のめっき液を用いた湿式めっきでは、一般に、電解めっきにより、形成すべきめっき膜の形状に対応した表面形状を有する基材上にめっき膜を形成するようにして行う。
本発明のめっき液を用いて形成されるめっき膜は、基材上に形成された後、前記基材とともに装飾品を構成するものであってもよいし、基材から剥離して用いられるものであってもよい。すなわち、本発明のめっき液は、電鋳に用いられるものであってもよい。
【0023】
めっき膜が形成されるべき基材は、少なくとも、めっき膜が形成される部位の表面付近が、導電性を有する材料で構成されたものである。
また、基材は、本発明のめっき膜が形成されるべき部位が、金を含む材料で構成されたものであるのが好ましい。これにより、本発明のめっき膜と基材との密着性を特に優れたものとすることができ、基材およびめっき膜を備えた装飾品の耐久性、信頼性を特に優れたものとすることができる。なお、基材本体が金以外の材料で構成されたものである場合、フラッシュめっきにより、24Kの金めっき層を形成し、これを基材として用いるのが好ましい。フラッシュめっきに用いるめっき液中における金の含有率は、5g/L以上10g/L以下であるのが好ましい。
【0024】
フラッシュめっきによる金めっき層の平均厚さは、特に限定されないが、0.01μm以上0.2μm以下であるのが好ましい。これにより、上述したような金めっき層(フラッシュめっき層)を設けることによる効果がより顕著に発揮される。
上述したようなめっき液(Au−Cu系合金で構成されためっき膜の形成に用いるめっき液)を用いた湿式めっきは、以下のような条件で行うのが好ましい。
【0025】
すなわち、めっき浴温度は、40℃以上75℃以下であるのが好ましく、45℃以上70℃以下であるのがより好ましく、55℃以上65℃以下であるのがさらに好ましい。これにより、色むらやくもり等の問題の発生をより確実に防止することができ、めっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0026】
また、湿式めっき(電解めっき)時における印加電圧は、0.6V以上2.0V以下であるのが好ましく、0.8V以上1.7V以下であるのがより好ましく、1.0V以上1.5V以下であるのがさらに好ましい。これにより、めっき膜の形成効率を十分に優れたものとしつつ、色むらやくもり等の問題の発生をより確実に防止することができ、めっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0027】
また、めっき処理時間は、1分以上30分以下であるのが好ましく、3分以上20分以下であるのがより好ましく、5分以上15分以下であるのがさらに好ましい。これにより、めっき膜の形成効率を十分に優れたものとしつつ、めっき膜の美的外観を特に優れたものとすることができる。
【0028】
上記のようにして形成される本発明のめっき膜(Au−Cu系合金で構成されためっき膜)の平均厚さは、特に限定されないが、1.0μm以上5.0μm以下であるのが好ましく、2.0μm以上3.0μm以下であるのがより好ましい。めっき膜の平均厚さが前記範囲内の値であると、めっき膜の形成効率(装飾品の生産性)を十分に優れたものとしつつ、基材およびめっき膜を備えた装飾品の耐久性を特に優れたものとし、特に優れた外観を得ることができる。
【0029】
また、上記のようにして得られためっき膜(Au−Cu系合金で構成されためっき膜)に対しては、以下に詳述するような熱処理(加熱処理および冷却処理)および酸処程を施してもよい。これにより、めっき膜における色むら等の問題の発生をより効果的に防止することができ、めっき膜を、より高い光沢感を有し、特に優れた外観を有するものとすることができるとともに、めっき膜、装飾品の耐久性を特に優れたものとすることができる。
【0030】
まず、めっき膜に対して施すことのできる熱処理(加熱処理および冷却処理)について詳細に説明する。
めっき膜に対しては、300℃以上395℃以下に加熱する加熱処理を施し、その後、冷却処理を施すのが好ましい。これにより、めっき膜の構成材料の固溶体化が促進され、最終的なめっき膜の外観、耐久性を特に優れたものとすることができる。
上記のように、加熱処理時の加熱温度は、300℃以上395℃以下であるのが好ましいが、320℃以上390℃以下であるのがより好ましく、330℃以上380℃以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0031】
また、加熱処理の処理時間(300℃以上での保持時間)は、15分以上180分以下であるのが好ましく、20分以上150分以下であるのがより好ましく、30分以上90分以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
また、冷却処理の25℃までの冷却速度は、0.02℃/秒以上0.03℃/秒以下であるのが好ましく、0.022℃/秒以上0.028℃/秒以下であるのがより好ましく、0.024℃/秒以上0.026℃/秒以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0032】
次に、熱処理(加熱処理および冷却処理)が施されためっき膜に対して施すことのできる酸処理について詳細に説明する。
上記のような熱処理が施されためっき膜に対して酸処理を施すことにより、めっき膜の構成成分のうち、固溶体を構成していないものを除去することができ、めっき膜の外観の経時的安定性等を特に優れたものとすることができる。
【0033】
酸処理は、酸を用いて行うものであればよいが、めっき膜を、50wt%以上70wt%以下のHNO水溶液と、1秒以上180秒以下接触させることにより行うのが好ましい。これにより、装飾品の生産性を十分に優れたものとしつつ、上述したような効果をより顕著に発揮させることができる。上記のように、HNO水溶液とめっき膜との接触時間は、1秒以上180秒以下であるのが好ましいが、1秒以上90秒以下であるのがより好ましく、2秒以上60秒以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果をさらに顕著に発揮させることができる。
また、酸処理時の処理温度は、5℃以上50℃以下であるのが好ましく、7℃以上35℃以下であるのがより好ましく、10℃以上30℃以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
<装飾品>
次に、上述したようなめっき膜を備えた本発明の装飾品について、より詳細に説明する。
装飾品は、装飾性を備えた物品であればいかなるものでもよいが、例えば、置物等のインテリア、エクステリア用品、宝飾品、時計ケース(胴、裏蓋、胴と裏蓋とが一体化されたワンピースケース等)、時計バンド(バンド中留、バンド・バングル着脱機構等を含む)、文字盤、時計用針、ベゼル(例えば、回転ベゼル等)、りゅうず(例えば、ネジロック式りゅうず等)、ボタン、カバーガラス、ガラス縁、ダイヤルリング、見切板、パッキン等の時計用外装部品、ムーブメントの地板、歯車、輪列受け、回転錘等の時計用内装部品、メガネ(例えば、メガネフレーム)、ネクタイピン、カフスボタン、指輪、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス等の装身具、ライターまたはそのケース、自動車のホイール、ゴルフクラブ等のスポーツ用品、銘板、パネル、賞杯、その他ハウジング等を含む各種機器部品、各種容器等に適用することができる。この中でも特に、時計用外装部品がより好ましい。時計は、実用品としての機能が求められるとともに、装飾品として優れた美的外観も求められる。また、時計は、装身具として、様々な環境下で用いられることが一般的であり、このような異なる環境下においても、安定的に優れた外観を呈するものであることが求められるが、本発明によれば、装飾品を、様々な環境下においても安定的に優れた外観を呈するものとすることができる。すなわち、時計用外装部品に適用した場合に、本発明の効果がより顕著に発揮される。なお、本明細書中での「時計用外装部品」とは、外部から視認可能なものであればいかなるものであってもよく、時計の外部に露出しているものに限らず、時計の内部に内蔵されたもの(例えば、時計用文字板等)も含む。
【0035】
また、装飾品のめっき膜が設けられている部位の色調は、例えば、JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、aが7.0以上15.0以下でありかつbが15.0以上27.0以下の範囲のものであるのが好ましく、aが8.0以上13.0以下でありかつbが17.0以上25.0以下の範囲のものであるのがより好ましく、aが9.0以上11.0以下でありかつbが18.0以上23.0以下の範囲のものであるのがさらに好ましい。これにより、装飾品の美的外観は、特に優れたものとなる。
【0036】
また、装飾品のめっき膜が設けられている部位の色調は、例えば、JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、Lが75.0以上89.0以下であるのが好ましく、Lが78.0以上88.0以下であるのがより好ましく、Lが82.0以上87.0以下であるのがさらに好ましい。これにより、装飾品の美的外観は、特に優れたものとなる。
【0037】
<時計>
次に、上述したような本発明の装飾品を備えた本発明の時計について説明する。
図1は、本発明の時計(携帯時計)の好適な実施形態を示す部分断面図である。
図1に示すように、本実施形態の腕時計(携帯時計)10は、胴(ケース)22と、裏蓋23と、ベゼル(縁)24と、ガラス板25とを備えている。また、ケース22内には、図示しないムーブメント(例えば、文字盤、針付きのもの)が収納されている。
【0038】
胴22には巻真パイプ26が嵌入・固定され、この巻真パイプ26内にはりゅうず27の軸部271が回転可能に挿入されている。
胴22とベゼル24とは、プラスチックパッキン28により固定され、ベゼル24とガラス板25とはプラスチックパッキン29により固定されている。
また、胴22に対し裏蓋23が嵌合(または螺合)されており、これらの接合部(シール部)50には、リング状のゴムパッキン(裏蓋パッキン)40が圧縮状態で介挿されている。この構成によりシール部50が液密に封止され、防水機能が得られる。
【0039】
りゅうず27の軸部271の途中の外周には溝272が形成され、この溝272内にはリング状のゴムパッキン(りゅうずパッキン)30が嵌合されている。ゴムパッキン30は巻真パイプ26の内周面に密着し、該内周面と溝272の内面との間で圧縮される。この構成により、りゅうず27と巻真パイプ26との間が液密に封止され防水機能が得られる。なお、りゅうず27を回転操作したとき、ゴムパッキン30は軸部271と共に回転し、巻真パイプ26の内周面に密着しながら周方向に摺動する。
本実施形態の腕時計10は、ベゼル24、胴22、りゅうず27、裏蓋23、時計バンド等の装飾品(特に、時計用外装部品)のうち少なくとも1つが前述したような本発明の装飾品で構成されたものである。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、装飾品の表面の少なくとも一部には、耐食性、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐変色性等を付与し、防錆、防汚、防曇、防傷等の効果を向上するコート層(保護層)等が形成されていてもよい。このようなコート層は、装飾品の使用時等において除去されるものであってもよい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.Au−Cu系合金で構成されためっき膜の形成に用いるめっき液の調製
(実施例1)
KAu(CN)、KCu(CN)、KCN、NaTeOを用意し、これらを用いて、金の含有率が9.0g/L、銅の含有率が35.0g/L、テルルの含有率が22ppm、CNの含有率(遊離シアン濃度)が8.0g/Lで、pHが10.2のめっき液を調製した。
(実施例2〜6)
表1に示すように、組成を変更した以外は、前記実施例1と同様にしてめっき液を調製した。
【0042】
(比較例1)
テルルのオキソ酸化合物を用いず、テルルを含まないものとして調製した用いた以外は、前記実施例6と同様にしてめっき液を調製した。
(比較例2)
テルルのオキソ酸化合物の代わりにサッカリンを用いた以外は、前記実施例6と同様にしてめっき液を調製した。
【0043】
(比較例3)
テルルのオキソ酸化合物の代わりにサッカリン、L−グルタミン酸および2−ピリジンカルボン酸を用いた以外は、前記実施例6と同様にしてめっき液を調製した。
各実施例および各比較例のめっき液(Au−Cu系合金で構成されためっき膜の形成に用いためっき液)の条件を表1にまとめて示す。
【0044】
【表1】

【0045】
2.装飾品の製造
前記各実施例および各比較例について、調製直後(調製後1時間以内)のめっき液と、前記で述べたのと同様の方法を用いて調製し、30日間、35℃の環境下で保存しためっき液(長期保存後のめっき液)を用いて、以下に示すような方法により、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を製造した。
まず、ステンレス鋼(SUS444)を用いて、鋳造により、腕時計ケース(裏蓋)の形状を有する基材本体を作製し、その後、必要箇所を切削、研磨した。
【0046】
次に、この基材本体を洗浄した。基材本体の洗浄としては、まず、アルカリ電解脱脂を30秒間行い、次いで、アルカリ浸漬脱脂を30秒間行った。その後、中和を10秒間、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行った。
上記のようにして洗浄を行った基材本体に対して、KAu(CN)を用いて調製した金めっき液を用いたフラッシュめっきを施すことにより、平均厚さ0.1μmの24Kの金めっき層を形成し、基材本体と金めっき層とからなる基材を得た。なお、金めっき液中の金の含有率は、8.0g/Lであった。
【0047】
次に、前記各実施例および各比較例で調製しためっき液を用いた電解めっきにより、基材の金めっき層上に、Au−Cu系合金で構成されためっき膜を形成した。電解めっきは、めっき浴温度:60℃、印加電圧:1.2V、めっき処理時間:12分という条件で行った。
次に、オーブンを用いて、380℃(最高温度)に加熱する加熱処理を30分施し、その後、25℃までの冷却速度を0.024℃/秒とする冷却処理を施した(熱処理工程)。
【0048】
次に、熱処理工程(加熱処理および冷却処理)を施しためっき膜が設けられた基材を、25℃において、69wt%のHNO水溶液中に、3秒間浸漬した(酸処理工程)。
その後、水洗を10秒間、純水洗浄を10秒間行い、乾燥することにより、装飾品(腕時計ケース(裏蓋))を得た。このようにして得られた装飾品が有するめっき膜(Au−Cu系合金で構成されためっき膜)の平均厚さは、2.5μmであった。
【0049】
3.目視による外観評価
前記各実施例および各比較例で製造した各装飾品(調製直後のめっき液を用いて製造した装飾品、および、長期保存後のめっき液を用いて製造した装飾品)のめっき膜が設けられた部位について、目視による観察を行った。
(3−1)装飾品の色調についての評価
前記各実施例および各比較例で製造した各装飾品のめっき膜が設けられた部位の色調(光沢感を含む)を、以下の3段階の基準に従い、評価した。
A:目的とする色調(光沢感のあるピンク色)を有している。
B:目的とする色調(光沢感のあるピンク色)とはやや異なる色調を有している。
C:目的とする色調(光沢感のあるピンク色)とはまったく異なる色調を有している

【0050】
(3−2)装飾品におけるくもりについての評価
前記各実施例および各比較例で製造した各装飾品のめっき膜が設けられた部位におけるくもりの発生を、以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:くもりの発生がまったく認められない。
B:くもりの発生がほとんど認められない。
C:くもりの発生がわずかに認められる。
D:くもりの発生がはっきりと認められる。
E:くもりの発生が顕著に認められる。
【0051】
(3−3)装飾品における色むらについての評価
前記各実施例および各比較例で製造した各装飾品のめっき膜が設けられた部位における色むらの発生を、以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:色むらの発生がまったく認められない。
B:色むらの発生がほとんど認められない。
C:色むらの発生がわずかに認められる。
D:色むらの発生がはっきりと認められる。
E:色むらの発生が顕著に認められる。
【0052】
(3−4)外観の総合評価
前記各実施例および各比較例で製造した各装飾品のめっき膜が設けられた部位の外観を以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:外観優良。
B:外観良。
C:外観やや不良。
D:外観不良。
E:外観極めて不良。
【0053】
4.色度計による外観評価
(4−1)aおよびbについての評価
前記各実施例および各比較例で製造した装飾品(調製直後のめっき液を用いて製造した装飾品、および、長期保存後のめっき液を用いて製造した装飾品)について、めっき膜が形成された部位の色度を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、以下の4段階の基準に従い、評価した。
【0054】
A:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、a
9.0以上11.0以下でありかつbが18.0以上23.0以下の範囲内で
ある。
B:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、a
8.0以上13.0以下でありかつbが17.0以上25.0以下の範囲内で
ある(ただし、Aの範囲を除く)。
C:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、a
7.0以上15.0以下でありかつbが15.0以上27.0以下の範囲内で
ある(ただし、AおよびBの範囲を除く)。
D:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、a
7.0以上15.0以下でありかつbが15.0以上27.0以下の範囲外で
ある。
なお、色度計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
【0055】
(4−2)Lについての評価
前記各実施例および各比較例で製造した装飾品(調製直後のめっき液を用いて製造した装飾品、および、長期保存後のめっき液を用いて製造した装飾品)について、めっき膜が形成された部位の色度を、色度計(ミノルタ社製、CM−2022)を用いて測定し、以下の4段階の基準に従い、評価した。
【0056】
A:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、L
82.0以上87.0以下の範囲内である。
B:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、L
78.0以上88.0以下の範囲内である(ただし、Aの範囲を除く)。
C:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、L
75.0以上89.0以下の範囲内である(ただし、AおよびBの範囲を
除く)。
D:JIS Z 8729で規定されるL表示の色度図において、L
75.0以上89.0以下の範囲外である。
なお、色度計の光源としては、JIS Z 8720で規定されるD65のものを用い、視野角:2°で測定した。
【0057】
5.めっき膜、装飾品についての長期安定性評価
前記各実施例および各比較例で製造した装飾品(調製直後のめっき液を用いて製造した装飾品、および、長期保存後のめっき液を用いて製造した装飾品)を、常温(25℃)、常圧、湿度75%RHの環境下に、80日間放置した後の、装飾品のめっき膜が形成された部位について、目視による観察を行い、くもり、色むらの発生を、以下の5段階の基準に従い、評価した。
【0058】
A:くもり、色むらの発生がまったく認められない。
B:くもり、色むらの発生がほとんど認められない。
C:くもり、色むらの発生がわずかに認められる。
D:くもり、色むらの発生がはっきりと認められる。
E:くもり、色むらの発生が顕著に認められる。
【0059】
6.めっき膜、装飾品についての耐酸化性評価
前記各実施例および各比較例で製造した装飾品(調製直後のめっき液を用いて製造した装飾品、および、長期保存後のめっき液を用いて製造した装飾品)を、200℃、常圧の大気雰囲気下で8時間放置し、その後の装飾品のめっき膜が形成された部位について、目視による観察を行い、くもり、色むらの発生を、以下の5段階の基準に従い、評価した。
【0060】
A:くもり、色むらの発生がまったく認められない。
B:くもり、色むらの発生がほとんど認められない。
C:くもり、色むらの発生がわずかに認められる。
D:くもり、色むらの発生がはっきりと認められる。
E:くもり、色むらの発生が顕著に認められる。
【0061】
7.耐薬品性評価
デシケーター内に人工汗を入れ、45℃で12時間放置した。その後、デシケーター内に、前記各実施例および各比較例で製造した装飾品(調製直後のめっき液を用いて製造した装飾品、および、長期保存後のめっき液を用いて製造した装飾品)を入れ、さらに45℃で放置した。このとき、各装飾品は、人工汗中に浸漬しないように配置した。30時間後、各装飾品をデシケーター内から取り出し、装飾品のめっき膜が形成された部位について、目視による観察を行い、くもり、色むらの発生を、以下の5段階の基準に従い、評価した。
【0062】
A:くもり、色むらの発生がまったく認められない。
B:くもり、色むらの発生がほとんど認められない。
C:くもり、色むらの発生がわずかに認められる。
D:くもり、色むらの発生がはっきりと認められる。
E:くもり、色むらの発生が顕著に認められる。
これらの結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から明らかなように、本発明では、色むらや曇りの発生が防止され、優れた美的外観、特に、光沢感のあるピンク色の優れた外観を有する装飾品を、安定的に製造することができた。また、本発明では、製造される装飾品の長期安定性、耐酸化性、耐薬品性にも優れていた。
これに対し、比較例では満足な結果が得られなかった。
【0065】
また、前記各実施例および各比較例で製造した装飾品を用いて、図1に示すような腕時計を組み立てた。これらの腕時計について、上記と同様な評価を行ったところ、上記と同様な結果が得られた。
また、本発明にかかるめっき液を用いて長期間にわたって繰り返し装飾品の製造を行った場合、原子吸光光度計、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いた測定により、テルルの含有率等の低下の程度を容易に判断することができ、めっき液の交換、調製のタイミングを適切に決定することができたが、比較例2、3では、有機物質の低下の程度を適切に判断することができなかった。
【符号の説明】
【0066】
10…腕時計(携帯時計) 22…胴(ケース) 23…裏蓋 24…ベゼル(縁) 25…ガラス板 26…巻真パイプ 27…りゅうず 271…軸部 272…溝 28…プラスチックパッキン 29…プラスチックパッキン 30…ゴムパッキン(りゅうずパッキン) 40…ゴムパッキン(裏蓋パッキン) 50…接合部(シール部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金イオンおよび銅イオンを含むめっき液であって、
テルルのオキソ酸化合物を含むことを特徴とするめっき液。
【請求項2】
めっき液中における金の含有率が8.0g/L以上10.0g/L以下であり、
めっき液中における銅の含有率が30g/L以上40g/L以下である請求項1に記載のめっき液。
【請求項3】
めっき液中におけるテルルの含有率が10ppm以上1000ppm以下である請求項1または2に記載のめっき液。
【請求項4】
水素イオン指数(pH)が9.7以上11.0以下である請求項1ないし3のいずれかに記載のめっき液。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のめっき液を用いて形成されたことを特徴とするめっき膜。
【請求項6】
請求項5に記載のめっき膜を備えたことを特徴とする装飾品。
【請求項7】
装飾品は、時計用外装部品である請求項6に記載の装飾品。
【請求項8】
請求項6または7に記載の装飾品を備えたことを特徴とする時計。

【図1】
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【公開番号】特開2011−117022(P2011−117022A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273865(P2009−273865)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】