説明

めっき液中から不純物を除去する方法

【課題】無電解スズめっき液から不純物、特に銅濃度を減少させることにより、めっき液を再生する方法、めっき液の管理方法、及びこれを用いためっき方法を提供する。
【解決手段】チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する無電解スズめっき液を用いて銅又は銅合金に無電解スズめっきを行った後、前記無電解スズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加して析出物を生成させることにより、めっき液中から不純物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解スズめっき液中から不純物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無電解スズめっきは機械部品、フレキシブル基板やプリント配線板、電子部品の回路パターン等へのめっきとして広く利用されている。これらの無電解スズめっきは、銅又は銅合金上への置換スズめっきとして行われることが多い。銅または銅合金めっき上へ置換スズめっきを継続して行うと、置換された銅は銅イオンとなり、めっき浴中に溶解し、めっきの進行とともに銅イオンが蓄積されていく。この蓄積された銅イオンは、めっき皮膜を悪化させ、浴の性能を低下させるため、浴の更新が必要となっていた。
【0003】
めっき液の管理方法として、バッチ法及びフィードアンドブリード法が知られている。バッチ法はめっき浴が劣化した時点で新たにめっき浴を建浴し直す方法であり、無電解スズめっき浴においては、銅濃度が上昇し浴の性能が低下するたびにめっき浴を更新しなければならず、建浴工数の増加、生産性の低下、廃棄浴の処理コストの増大などの問題点があった。また、フィードアンドブリード法は、めっき液をオーバーフローさせながらめっきを連続して行う方法であり、めっき操作を停止せずにオーバーフローにより銅を系外へ取り除くことができるが、大量のめっき液の補充が必要となり、やはりコストアップの要因となる。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には浴液を一部取り出し、冷却することにより浴中の銅チオ尿素錯体を沈殿させ、濾過により銅チオ尿素錯体を取り除き、濾液を元のめっき槽に戻す方法が記載されている。特許文献2には、特許文献1とほぼ同様の操作を行い、浴液を40℃以下まで冷却することにより銅チオ尿素錯体を沈殿させ、これを濾過、除去する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、陽極・陰極・陽/陰イオン交換膜を備えた再生用セルを用い、電解セル中で銅を陽極上に電解析出させ、陽イオン交換膜を透過したスズイオンを電解後のめっき液に加え、めっき槽に戻す方法が記載されている。さらに、特許文献4には、銅チオ尿素錯体を酸化分解する方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の方法はいずれも冷却工程が必須であり、通常のめっき装置に付随して浴液の冷却設備が必要である。特許文献3に記載の方法は再生用電解セルが必要であり、装置が煩雑となる。また、特許文献4に記載の方法は、銅チオ尿素錯体を酸化分解するための薬剤及び装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−222540号公報
【特許文献2】特開2002−317275号公報
【特許文献3】特開平10−317154号公報
【特許文献4】特開平4−276082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、浴中の不純物を除去するために特別な装置を必要とせず、効率的にめっき液中の不純物を除去することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する無電解スズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加することにより、特別な装置を必要とせず、従来の方法よりもより効率的に不純物を除去することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明の第一の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液に、ベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加して析出物を生成させることにより、めっき液中から不純物を除去する方法である。
【0011】
本発明の第二の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する無電解スズめっき液を用いて銅又は銅合金に無電解スズめっきを行った後、前記無電解スズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、生成する析出物を除去する、めっき液の再生方法である。
【0012】
本発明の第三の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含むスズめっき液を用いて無電解スズめっき皮膜を形成する方法であって、前記無電解スズめっきを行うめっき槽からめっき液の一部又は全部を固液分離装置を経由して前記めっき槽に循環させるとともに、前記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、生成する析出物を前記固液分離装置により捕捉除去する、めっき皮膜の形成方法である。
【0013】
本発明の第四の方法は、無電解めっきを行う本槽、析出物を形成する析出槽、本槽と析出槽との間を無電解めっき液が循環可能となるように接続する循環配管、及び析出槽から本槽への間に設置される固液分離装置を有する複槽型めっき装置を用い、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液を用いて被めっき物に無電解めっきを行う方法であって、前記析出槽中のめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加する工程(第一の工程)、及び生成する析出物を固液分離装置を用いて捕捉する工程(第二の工程)を有する、めっき方法である。
【0014】
本発明の第五の方法は、めっき液を貯留し無電解めっきを行うめっき槽、めっき液の一部又は全部を循環可能となるようにめっき槽に接続する循環配管及びめっき液の循環経路に設置される固液分離装置を有する単槽型めっき装置を用い、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液を用いて被めっき物に無電解めっきを行う方法であって、被めっき物をめっき槽中のめっき液に浸漬する工程(第一の工程)、前記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加する工程(第二の工程)、及び生成する析出物を前記固液分離装置を用いてめっき液から除去する工程(第三の工程)を有する、めっき方法である。
【0015】
本発明の第六の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する銅又は銅合金用の無電解めっき液の管理方法であって、前記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、析出物を生成させることによりめっき液中の銅イオン濃度を減少させる、めっき液の管理方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法を用いることにより、冷却や酸化分解のための特別な装置を必要とせず、効率的にめっき液中の不純物を除去することができる。また、不純物を除去しながら連続してめっきを行うことができるため、長期にわたりめっき液を使用することができ、めっき液の廃棄や新たな建浴を行う回数が飛躍的に減少させることができる。そのため、工業的生産性の向上に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】ベンゼンスルホン酸(BSA)添加前のSEM観察の結果を示す。
【図1B】ベンゼンスルホン酸(BSA)添加後のSEM観察の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、℃は摂氏温度を示し、gはグラムを示し、Lはリットルを示し、mLはミリリットルを示し、dmはデシメートルを示し、μmはミクロンまたはマイクロメートルを示す。全ての量は別途記載しない限り重量パーセントである。本明細書において、「めっき液」及び「めっき浴」は同一の意味であり、交換可能なものとして使用される。
【0019】
本発明において、対象となるめっき液は、無電解スズめっき液又は無電解スズ合金めっき液であり、具体的には銅又は銅合金上に置換スズめっき又は置換スズ合金めっきをすることが可能なめっき液である。無電解スズめっき液には、スズ以外の他の金属成分を含有しているものも含まれる。上記無電解スズめっき液は、水溶性スズ塩又は水溶性スズ塩及び他の金属塩、並びに錯化剤としてチオ尿素もしくはチオ尿素化合物を含有する。
【0020】
無電解スズめっき液に用いる水溶性スズ塩は、めっき液とした際に水に溶解するものであれば任意のものであってよく、例えば、硫酸第一スズ、塩化第一スズ、ホウフッ化スズ、アルカンスルホン酸スズ、アルカノールスルホン酸スズ等を用いることができる。
【0021】
また、水溶性スズ塩とともに使用することのできる他の金属塩としては鉛、銅、銀、ビスマス、コバルト等の塩を挙げることができ、具体的には塩化鉛、酢酸鉛、アルカンスルホン酸鉛、塩化銅、硝酸銀、塩化ビスマス、硫酸コバルト等を挙げることができる。
【0022】
めっき液中のスズ及びスズ以外の金属成分の合計含有量は、金属として通常10〜100g/L、好ましくは30〜50g/Lである。
【0023】
無電解スズめっき液は、スズまたはスズ以外の金属成分を溶解させる目的で酸を加えてもよい。用いる酸としては、例えば硫酸、塩酸、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、芳香族スルホン酸等を挙げることができ、これらの酸は一種又は二種以上用いることができる。めっき液に加える酸の量は、合計で通常1〜300g/L、好ましくは50〜100g/Lである。
【0024】
本発明に用いる無電解スズめっき液は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する。これらは銅の錯化剤として働くものであり、電気化学的見地から、理論上は標準電極電位の関係から不可能である銅又は銅合金上の置換スズめっきを可能にするための成分として当業者には良く知られている。チオ尿素は通常入手し得るものを使用することができ、市販のものも用いることができる。
【0025】
チオ尿素化合物は、チオ尿素の誘導体であり、例えば、1−メチルチオ尿素、1,3−ジメチル−2−チオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、N,N−ジイソプロピルチオ尿素、1−(3−ヒドロキシプロピル)−2-チオ尿素、1−メチルー3−(3−ヒドロキシプロピル)−2−チオ尿素、1−メチル−3−(3−メトキシプロピル)−2−チオ尿素、1,3−ビス(3−ヒドロキシプロピル)−2−チオ尿素、アリルチオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、1−フェニル−3−(2−チアゾリル)チオ尿素、塩酸ベンジルイソチオ尿素、1−アリル−2−チオ尿素、1−ベンゾイル−2−チオ尿素等が挙げられる。これらのチオ尿素又はチオ尿素化合物は一種又は二種以上用いることができる。これらのチオ尿素又はチオ尿素化合物の使用量は、通常50〜250g/Lであり、好ましくは100〜200g/Lである。
【0026】
無電解スズめっき液は、上記成分の他、必要に応じて酸化防止剤、界面活性剤、等を含有することができる。酸化防止剤としては、カテコール、ハイドロキノン、次亜燐酸等を用いることができ、界面活性剤としては、例えば、カチオン、アニオン、ノニオン及び両性界面活性剤から一種又は二種以上用いることができる。
【0027】
置換スズめっき(無電解スズめっき)は、通常めっき液を建浴し、温度を50〜75℃に調整した後、銅又は銅合金を表面に有する被めっき物を120〜300秒間めっき液中に浸漬することにより行う。スズは被めっき物の表面で銅と置換してスズ皮膜となり、代わりに銅がめっき液中に溶解する。このため、めっき液中のスズはめっきの進行とともに減少する。また、錯化剤であるチオ尿素又はチオ尿素化合物は、めっき液中で銅と錯体を形成すると考えられ、これらのチオ尿素又はチオ尿素化合物もめっきの進行とともに減少する。また、酸やその他の成分は、被めっき物の引き上げとともに減少し(汲み出され)、やはりめっきの進行とともに減少する。めっきの進行とともにめっき液中から減少するこれらの成分は、適宜補充される。しかし、銅はめっきの進行とともに増加し、浴中に蓄積されていくため、めっき皮膜の悪化や浴の性能低下が生じる。
【0028】
本発明は、無電解スズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩(以下、単にベンゼンスルホン酸ともいう)を添加し、銅を含む沈殿を生成させ、めっき液中の銅の蓄積を抑制することを特徴とする。めっき液にベンゼンスルホン酸を添加することにより、めっき液中に溶解している銅イオン錯体が沈殿するため、めっき液中の銅イオン濃度を減少させることができる。本発明の方法は、沈殿を生成させる際に、めっき液の温度を下げる必要がない点で従来技術に比べはるかに優れている。詳細な反応機構は不明であるが、めっき液中では銅イオンはチオ尿素又はチオ尿素化合物錯体として存在していると考えられ、ベンゼンスルホン酸を添加することによりチオ尿素又はチオ尿素化合物錯体の溶解度が低下し、それにより冷却操作を必要とすることなく析出物を形成すると考えられる。
【0029】
ベンゼンスルホン酸水和物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸1水和物、ベンゼンスルホン酸1.5水和物、ベンゼンスルホン酸2水和物等が挙げられる。ベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸水和物の塩は任意の塩であってよく、具体的にはこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。ベンゼンスルホン酸は市販のものを用いることができる。ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩は混合物として用いてもよく、その使用量は、通常5〜200g/L、好ましくは20〜100g/L、さらに好ましくは50〜100g/Lである。使用量が少ないと沈殿が生成しない。充分な沈殿を得るためには、20g/L以上使用することが好ましい。使用量が多過ぎると、スズの析出状態の悪化、析出速度の低下等の浴性能の低下が生じる。
【0030】
本発明の第一の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、めっき液中から不純物を除去する方法である。ここで、ベンゼンスルホン酸を添加するスズめっき液は、既に無電解スズめっきに使用されたものであることが好ましい。この場合、既に無電解スズめっきに使用された液であれば、無電解スズめっき処理が完全に終了した後のめっき液であるか、無電解スズめっき処理が途中の段階であるかは問わない。不純物としては被めっき物から溶出する銅及び他の金属種(ニッケル、亜鉛、クロム、モリブデン、タングステン等)である。不純物は特に銅であり、めっき液中から銅を効果的に除去することができる。前述のように、めっきに使用され銅濃度が増加しためっき液中にベンゼンスルホン酸を添加すると、銅を含む不溶性成分が析出する。この不溶性成分を除去することにより、めっき液中から銅を除去することができる。不溶性分の除去には任意の方法を用いることができ、例えば、フィルターを用いた濾過、沈殿分離、遠心分離等の方法を用いることができる。
【0031】
本発明の第二の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する無電解スズめっき液を用いて銅又は銅合金に無電解スズめっきを行った後、上記無電解スズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、生成する析出物を除去することを特徴とする、めっき液の再生方法である。前述のように、ベンゼンスルホン酸を添加し、析出物を除去することによってめっき液中から不純物、特に銅を除去することができる。析出物を除去した後のめっき液は再利用可能であり、消費され又は減少した他の成分を補充することによりめっき液として継続して使用することができる。このため、老化しためっき液を廃棄する必要がなくなり、工業的生産性を向上させることができる。
【0032】
本発明の第三の方法は、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含むスズめっき液を用いて無電解スズめっき皮膜を形成する方法であって、上記無電解スズめっきを行うめっき槽からめっき液の一部又は全部を固液分離装置を経由して上記めっき槽に循環させるとともに、上記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、生成する析出物を上記固液分離装置により捕捉除去することを特徴とする、めっき皮膜の形成方法である。この方法においては、無電解スズめっき液の循環は、被めっき物に対してめっきを継続し、めっき皮膜を形成している途中に行っても、めっき操作を一旦休止して行ってもよい。また、ベンゼンスルホン酸の添加も、被めっき物に対してめっきを継続しめっき皮膜を形成している途中に行っても、めっき操作を一旦休止して行ってもよい。なお、めっき皮膜を形成している途中にベンゼンスルホン酸を添加しても、めっき槽中に存在するめっき液の量が充分であれば、めっき皮膜の特性に影響はない。めっきを継続しめっき皮膜を形成している途中にベンゼンスルホン酸の添加及びめっき液の循環を行うと、めっき操作を休止する必要がないため、生産性の観点から好ましい。固液分離装置はめっき液と生成した析出物を分離できるものであれば任意のものを用いることができ、フィルターを用いた濾過、沈殿分離、遠心分離等の装置を用いることができる。ここで、ベンゼンスルホン酸の添加は、めっき操作により劣化しためっき液に対して、すなわち、被めっき物に対してめっきする過程で、被めっき物から銅、ニッケル、亜鉛、クロム、モリブデン、タングステン等の金属イオンが溶出し、浴性能が低下しためっき液に対して行うのが好ましい。めっき皮膜の形成は、前述のように、スズめっき液を建浴し、例えば、めっき液の温度を50〜75℃に調整した後、銅又は銅合金を表面に有する被めっき物を120〜300秒間めっき液中に浸漬することにより行う。めっきの進行に伴い銅イオンがめっき液中に溶出してくるので、必要なタイミングでベンゼンスルホン酸の添加及びめっき液の循環、析出物の捕捉除去操作を行えばよい。また、めっき液中で消費され又は減少した成分は適宜補充することができる。
【0033】
本発明の第四の方法は、無電解めっきを行う本槽、析出物を形成する析出槽、本槽と析出槽との間を無電解めっき液が循環可能となるように接続する循環配管、及び析出槽から本槽への間に設置される固液分離装置を有する複槽型めっき装置を用い、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液を用いて被めっき物に無電解めっきを行う方法であって、上記析出槽中のめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加する工程(第一の工程)、及び生成する析出物を固液分離装置を用いて捕捉する工程(第二の工程)を有することを特徴とする、めっき方法である。本発明の第四の方法では、無電解めっきを行う本槽の他に析出を形成するための析出槽を備えた、複槽型の装置を用いることが特徴である。槽は少なくとも二つ必要であるが、必要に応じて三槽以上としてもよい。本槽及び析出槽は、それぞれめっき処理及び析出物の生成ができるのであれば任意の大きさ及び形状のものが使用可能である。本槽及び析出槽は、両槽の間を無電解めっき液が循環可能となるように配管で接続されている。配管は、めっき液を循環させることができるものであれば、任意の形態が可能である。また、析出槽から本槽へめっき液が流れる途中に固液分離装置が設置され、ベンゼンスルホン酸の添加により生成する析出物を分離することができる。固液分離装置は、前述の通り、任意のものを用いることができる。
【0034】
第一の工程において、ベンゼンスルホン酸を析出槽中のめっき液に添加する。本発明の方法では、めっき液を循環している最中にベンゼンスルホン酸を添加しても、めっき液の循環を休止してベンゼンスルホン酸を添加をしてもよい。また、ベンゼンスルホン酸を添加する際に、本槽でのめっき操作を継続して行ってもよいし、めっき操作を一時休止してもよい。めっき操作を継続しながらベンゼンスルホン酸を添加した方が、めっきを休止する必要がないため、生産性の観点から好ましい。また、本槽のめっき液の温度は50〜75℃が好ましく、析出槽のめっき液の温度は本槽のめっき液の温度と同じであるか、本槽の液温から上下10℃の範囲内が好ましい。析出槽のめっき液の温度がこれらの範囲内であると、析出槽から本槽へ戻しためっき液の温度をめっきに適した温度に調整するための温度制御が容易となる。第二の工程において、生成する析出物を固液分離装置を用いて捕捉する方法については、前述の通りである。
【0035】
本発明の第五の方法は、めっき液を貯留し無電解めっきを行うめっき槽、めっき液の一部又は全部を循環可能となるようにめっき槽に接続する循環配管及びめっき液の循環経路に設置される固液分離装置を有する単槽型めっき装置を用い、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液を用いて被めっき物に無電解めっきを行う方法であって、被めっき物をめっき槽中のめっき液に浸漬する工程(第一の工程)、上記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加する工程(第二の工程)、及び生成する析出物を上記固液分離装置を用いてめっき液から析出物を除去する工程(第三の工程)を有する、めっき方法である。本発明の第五の方法では、無電解めっきを行うめっき槽にベンゼンスルホン酸を添加し沈殿を生成させるため、単槽型のめっき装置を用いることが特徴である。めっき槽は、めっき処理及び析出物の生成ができる大きさ及び形状のものを用いることができるが、双方の操作を同時に行う場合には、複槽型の装置で用いたものよりも容量の大きいものを用いることが好ましい。循環配管及び固液分離装置は前述のように任意の形態のものを用いることができる。
【0036】
第一の工程において、被めっき物をめっき槽中のめっき液中に浸漬し、置換めっきを行う。めっき槽のめっき液の温度は50〜75℃が好ましい。めっき槽で置換めっきが進行すると、めっき槽中に被めっき物から溶解した銅イオンが蓄積する。第二の工程において、ベンゼンスルホン酸をめっき槽中のめっき液に添加する。本発明の第五の方法では、ベンゼンスルホン酸を添加する際に、めっき槽でのめっき操作を継続して行ってもよいし、めっき操作を一時休止してもよい。めっき操作を継続しながらベンゼンスルホン酸を添加した方が、めっきを休止する必要がないため、生産性の観点から好ましい。第三の工程において、めっき槽において生成した析出物を循環配管を経由して固液分離装置へ送り、めっき液から分離除去する。めっき液の循環は、少なくともベンゼンスルホン酸を添加した後に行う必要がある。また、上記第一から第三の工程は、順に開始すれば前の工程の終了を待たずに次の工程を行うことができる。例えば、第一の工程でめっき槽中のめっき液中に被めっき物を浸漬した後であれば、被めっき物の浸漬が継続中であっても、第二の工程であるベンゼンスルホン酸の添加を行うことができる。
【0037】
本発明の第六の方法は、銅又は銅合金用のチオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する無電解めっき液の管理方法であって、上記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、析出物を生成させることによりめっき液中の銅イオン濃度を減少させることを特徴とする、めっき液の管理方法である。上記種々の形態のめっき槽において、めっき液中の銅濃度を測定し、銅濃度がめっきに悪影響を及ぼす上限に達する前の適切な時期にめっき液にベンゼンスルホン酸を添加し、析出物を生成させることにより、めっき液中の銅イオン濃度を減少させ、無電解めっき液を最適な状態に管理することができる。めっき液中の銅イオンの測定は任意の方法を選択でき、例えば、めっき液を一部抜き出して原子吸光やICPで銅イオン濃度を測定することもできる。
【実施例】
【0038】
実施例1
以下の組成の無電解スズめっき液(基本浴1)を調製した。
【0039】
<基本浴1>
ホウフッ化スズ (Sn2+として) 30g/L
メタンスルホン酸 50g/L
次亜リン酸 15g/L
チオ尿素 100g/L
ノニオン系界面活性剤 30g/L
【0040】
上記スズめっき液に銅粉15g/Lを添加し、撹拌下、65℃で5時間加熱し、銅とスズの置換反応を完了させて、銅イオンを含有する劣化した無電解スズめっき液を模擬的に作製した。上記の模擬劣化無電解スズめっき液を65℃に保ったまま、めっき液にベンゼンスルホン酸を30g/L添加した。ベンゼンスルホン酸を添加した後、めっき液中に浮遊性物質が発生した。めっき液を65℃に保ったまま発生した浮遊性物質を沈降させ、上澄み液をサンプリングし、原子吸光によりサンプル液中の銅濃度を測定した。測定した銅濃度は9.5g/Lであった。
【0041】
実施例2
上記基本浴1にベンゼンスルホン酸を60g/L添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、銅濃度を測定した。測定した銅濃度は6.6g/Lであった。
【0042】
比較例1〜5
上記基本浴1に対し、ベンゼンスルホン酸を加えない(比較例1)か、表1に記載の化合物を30g/L加えたもの(比較例2〜5)について、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。なお、比較例1〜5はいずれも沈殿が析出しなかったため、銅濃度測定は比較例1のみ行った。
【0043】
【表1】

【0044】
以上の結果より、ベンゼンスルホン酸を添加すると沈殿が生成し、めっき液中の銅濃度が減少することがわかる。
【0045】
実施例3、4及び比較例6
めっき浴の組成を実施例1から変更し、以下の組成の無電解スズめっき液(基本浴2)を作製した。
【0046】
<基本浴2>
メタンスルホン酸スズ (Sn2+として) 30g/L
メタンスルホン酸 50g/L
次亜リン酸 15g/L
チオ尿素 100g/L
ノニオン系界面活性剤 30g/L
【0047】
上記基本浴2に表2に示す量のベンゼンスルホン酸を添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、めっき液中の銅濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
以上の結果より、めっき液の組成を変更しても、ベンゼンスルホン酸を添加すると沈殿が生成し、めっき液中の銅濃度が減少することがわかる。
【0050】
実施例5及び6
ベンゼンスルホン酸を添加し不純物を除去した後のめっき液の性能確認試験を行った。めっき浴として、実施例1で使用した基本浴1を準備した。
【0051】
基本浴1に銅粉をそれぞれ7g/L(実施例5)及び10g/L(実施例6)添加し、5時間加熱し銅とスズの置換反応を完了させて、銅イオンを含有する劣化した無電解スズめっき液を模擬的に作製した。上記の模擬劣化無電解スズめっき液に、銅との置換によって減少したスズを補充するためにホウフッ化スズを添加し、スズ濃度を30g/Lに調整した。このめっき液を用いてそれぞれ65℃で3分15秒間被めっき物(パターン形成された、TCP及びCOF)に置換スズめっきを行い、SEM観察と膜厚測定を行った。上記めっき液にベンゼンスルホン酸を28g/L(実施例5)及び40g/L(実施例6)それぞれ添加し、十分に攪拌した後濾過し、生成した沈殿を除去した。沈殿除去後のそれぞれの浴を用いて置換めっきを行い、SEM観察及び膜厚測定を行い、ベンゼンスルホン酸(BSA)を添加する前の状態と比較した。結果を表3に示す。また、実施例6におけるベンゼンスルホン酸を添加前後のSEM写真を図1に示す。なお、COFはチップオンフィルム(Chip On Film)を表し、TCPはテープキャリヤーパッケージ(Tape Carrier Package)を表す。表3から銅濃度の低下と、膜厚の改善を確認した。また、図1から、結晶状態の改善を確認した。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例5及び6において、ベンゼンスルホン酸を用いて銅除去を行うことによって浴性能の回復(析出速度の回復)を確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液に、ベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加して析出物を生成させることにより、めっき液中から不純物を除去する方法。
【請求項2】
チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する無電解スズめっき液を用いて銅又は銅合金に無電解スズめっきを行った後、前記無電解スズめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、生成する析出物を除去する、めっき液の再生方法。
【請求項3】
チオ尿素又はチオ尿素化合物を含むスズめっき液を用いて無電解スズめっき皮膜を形成する方法であって、前記無電解スズめっきを行うめっき槽からめっき液の一部又は全部を固液分離装置を経由して前記めっき槽に循環させるとともに、前記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、生成する析出物を前記固液分離装置により捕捉除去する、めっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
無電解めっきを行う本槽、析出物を形成する析出槽、本槽と析出槽との間を無電解めっき液が循環可能となるように接続する循環配管、及び析出槽から本槽への間に設置される固液分離装置を有する複槽型めっき装置を用い、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液を用いて被めっき物に無電解めっきを行う方法であって、前記析出槽中のめっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加する工程、及び生成する析出物を固液分離装置を用いて捕捉する工程を有する、めっき方法。
【請求項5】
めっき液を貯留し無電解めっきを行うめっき槽、めっき液の一部又は全部を循環可能となるようにめっき槽に接続する循環配管及びめっき液の循環経路に設置される固液分離装置を有する単槽型めっき装置を用い、チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有するスズめっき液を用いて被めっき物に無電解めっきを行う方法であって、被めっき物をめっき槽中のめっき液に浸漬する工程、前記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加する工程、生成する析出物を前記固液分離装置を用いてめっき液から除去する工程を有する、めっき方法。
【請求項6】
チオ尿素又はチオ尿素化合物を含有する銅又は銅合金用の無電解めっき液の管理方法であって、前記めっき液にベンゼンスルホン酸もしくはベンゼンスルホン酸水和物又はこれらの塩を添加し、析出物を生成させることによりめっき液中の銅イオン濃度を減少させる、めっき液の管理方法。

【図1A】
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【図1B】
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