説明

めっき物

【課題】無電解めっき法により形成される金属めっき膜の厚みを従来よりも厚く設けても無電解めっき浴中で金属めっき膜が膨れ、或いは剥がれるのを防止することができ、電気めっき法を併用することなく無電解めっき法により厚膜化された金属めっき膜を有するめっき物を提供する。
【解決手段】基材1と、該基材1の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層2と、該塗膜層2上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜3とからなるめっき物であって、該金属めっき膜が銅からなる場合には、その厚みが2.0μm以上であり、該金属めっき膜がニッケルからなる場合には、その厚みが0.2μm以上であり、該塗膜層の表面粗さ:Raが0.05〜2.0μmであり、前記バインダーは、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1〜60質量部であるめっき物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、該基材の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材との密着性に優れる金属めっき膜を有し、且つ金属めっき膜の表面には露出部(ムラ)がない均一である、無電解めっき法により製造されるめっき物について記載がされている。
このめっき物は、基材と、該基材の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物である。また、銅からなる金属めっき膜の厚みは0.1〜0.5μmのものが記載されている。
【特許文献1】特開2008−190026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電気回路などにおいて、送電性能を十分なものにするためには、例えば銅からなる金属めっき膜の場合、その金属めっき膜の厚みを2.0μm以上にする必要がある。また、ニッケルからなる金属めっき膜の場合には、その金属めっき膜の厚みを0.2μm以上にする必要がある。
【0004】
そして、特許文献1に記載されためっき物において、例えば銅からなる金属めっき膜の膜厚を2.0μm以上にしようとすると、塗膜層の表面が平滑性に優れるため、無電解めっき法により金属めっき膜を形成時、その無電解めっき浴中において金属めっき膜の応力の緩和が出来ず、図2に示すように金属めっき膜が膨れ、或いは図3に示すように剥がれが生じてしまう。また、特許文献1に記載されためっき物において、ニッケルからなる金属めっき膜の膜厚を0.2μm以上にすると、上記同様無電解めっき浴中において金属めっき膜の膨れ、或いは剥がれが生じてしまう。
【0005】
そこで、特許文献1に記載されためっき物において、金属めっき膜を形成する際、無電解めっき浴中で膨れ、或いは剥がれが生じない膜厚で形成した後、電気回路などの送電性能を十分なものにするために、さらに電気めっき法によりめっき膜を厚膜化することが考えられる。ところが、これでは新たに電気めっきする工程が増え、煩雑な上コストも嵩んでしまう。
【0006】
本発明は、上記問題を解決し得る、即ち、無電解めっき法により形成される金属めっき膜の厚みを従来よりも厚く設けても無電解めっき浴中で金属めっき膜が膨れ、或いは剥がれるのを防止することができ、電気めっき法を併用することなく無電解めっき法により厚膜化された金属めっき膜を有するめっき物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、基材の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層において、その塗膜層の表面粗さ:Raを0.05〜2.0μmとすることにより、無電解めっき法により形成される金属めっき膜が例えば銅からなり、その金属めっき膜の厚みを2.0μm以上とした場合でも、無電解めっき浴中で膨れ、或いは剥がれが生じるのを防止することができ、図1に示すようなめっき物を得ることが出来ることを見出した。また、無電解めっき法により形成される金属めっき膜が、ニッケルからなり、その金属めっき膜の厚みを0.2μm以上とした場合でも、無電解めっき浴中で膨れ、或いは剥がれが生じるのを防止することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)基材と、該基材の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物であって、該金属めっき膜が銅からなる場合には、その厚みが2.0μm以上であり、該金属めっき膜がニッケルからなる場合には、その厚みが0.2μm以上であり、該塗膜層の表面粗さ:Raが0.05〜2.0μmであり、前記バインダーは、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1〜60質量部であるめっき物、(2)前記塗膜層中に無機系フィラーを含んでなる前記(1)記載のめっき物、
(3)該基材の表面粗さ:Raが0.05〜2.0μmである前記(1)記載のめっき物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、無電解めっき法により形成される金属めっき膜の厚みを従来よりも厚く設けても無電解めっき浴中でめっき膜が膨れ、或いは剥がれるのを防止することができ、すなわち、電気めっき法を併用することなく無電解めっき法により厚膜化された金属めっき膜からなるめっき物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のめっき物を説明する図である。
【図2】無電解めっき浴中において、金属めっき膜の膨れが生じた図である。
【図3】無電解めっき浴中において、金属めっき膜の剥がれが生じた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明のめっき物は、図1に示すように基材と、該基材の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物であって、該金属めっき膜が銅からなる場合には、その厚みが2.0μm以上であり、該金属めっき膜がニッケルからなる場合には、その厚みが0.2μm以上であり、塗膜層の表面粗さ:Raが0.05〜2.0μmであり、前記バインダーは、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1〜60質量部である。
【0012】
本発明の塗膜層の表面粗さ:Raは、0.05〜2.0μmであり、表面粗さ:Raが0.05μm未満であると、塗膜層の表面が平滑性に優れるため、無電解めっき法により金属めっき膜を形成時、すなわち無電解めっき浴中において金属めっき膜の応力の緩和が出来ず、図2に示すように金属めっき膜が膨れ、或いは図3に示すように剥がれが生じてしまう。また、表面粗さ:Raが2.0μmを超えると、アンカー効果が不十分となるので形成された金属めっき膜と塗膜層との密着性が得られない。
【0013】
本発明の塗膜層におけるバインダーは、前記導電性高分子とバインダーとの固形分比において、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1〜60質量部であり、バインダーが0.1質量部未満であると、無電解めっき法により金属めっき膜を形成時、すなわち無電解めっき浴中において金属めっき膜の応力の緩和が出来ず、図2に示すように金属めっき膜が膨れ、或いは図3に示すように剥がれが生じてしまう。また、バインダーが60質量部を超えると、金属めっきの析出性が不十分となる。
【0014】
本発明に使用するバインダーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0015】
本発明の塗膜層中には無機系フィラーを含ませてもよく、前記バインダーと無機系フィラーとの固形分比において、前記バインダー1質量部に対して0.1〜1.5質量部を添加することが好ましい。その結果、塗膜層の表面粗さ:Raを0.05〜2.0μmに調整しやすいと共に、塗膜層自体の強度(塗膜強度)を向上させることができるので塗膜層の厚みを例えば0.5〜30μmとした場合でも、塗膜層の凝集破壊による剥離を防止しやすく出来る。
【0016】
無機系フィラーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラック、酸化チタン及びシリカ粒子等が挙げられる。
【0017】
本発明の基材は、表面が平滑性のもの、或いはその基材表面の粗さ:Raが0.05〜2.0μmのものであってもよい。基材表面の粗さ:Raが0.05〜2.0μmであることにより、その基材上に設ける塗膜層のRaを0.05〜2.0μmに調整することができる。すなわち、基材表面の粗さが所望の範囲であれば、その基材上に設ける塗膜層において、無機系フィラー等を用いなくとも該塗膜層のRaを0.05〜2.0μmに調整することができる。また、基材表面の粗さ:Raを所望の範囲に調整するためには、例えばサンドブラスト処理や、薬液による表面処理等の手段が挙げられる。
【0018】
基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
また、基材の形状は特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状が挙げられる。
他にも、基材として、例えば、射出成形などにより樹脂を成形した樹脂成形品が挙げられる。そして、この樹脂成形品に本発明のめっき物を設けることにより、例えば、自動車向けの装飾めっき品を作成することができたり、或いは、ポリイミド樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂からなるフィルム上に本発明のめっき物をパターン状で設けることにより、例えば、電気回路品を作成することができる。
【0019】
次に、本発明の塗膜層における導電性高分子微粒子について説明する。特許文献1にも記載されているように、本発明のめっき物は、基材の表面上に還元性高分子微粒子とバインダーを含む層を形成し、この層上に金属めっき膜を無電解めっき法により形成するものであるが、この層中の還元性高分子微粒子は、無電解めっき法により最終的に導電性高分子微粒子となる。その理由としては、例えば基材上に形成された還元性高分子微粒子とバインダーを含む層上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成する際、先ず、この還元性高分子微粒子を含む層上にパラジウム等の触媒金属を還元・吸着させ、該パラジウム等の触媒金属が吸着された層上に金属めっき膜を形成するが、この際の、パラジウム等の触媒金属の還元及び高分子微粒子への吸着は、例えば、ポリピロールの場合、下図で示される状態になると考えられる。
【化1】

すなわち、還元性の高分子微粒子(ポリピロール)がパラジウムイオンを還元することにより、高分子微粒子上にパラジウム(金属)が吸着されるが、これにより、高分子微粒子(ポリピロール)はイオン化される、即ち、パラジウムによりドーピングされた状態となり、結果として導電性を発現する。したがって、本発明の塗膜層における高分子微粒子も導電性となる。
【0020】
尚、本発明のめっき物は、還元性高分子微粒子だけでなく、導電性高分子微粒子を用いても同様に製造することができる。すなわち、基材上に導電性高分子微粒子を含む層を形成した場合、無電解めっきを行う前に、導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性にしておけばよい。したがって、本発明のめっき物を製造する際、少なくとも還元性高分子微粒子とバインダーとを含む下地塗料を基材上に塗布して層を形成してもよいし、少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む下地塗料を基材上に塗布して層を形成し、無電解めっきを行う前に、導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性としてから無電解めっき法により金属めっき膜を形成することができる。
【0021】
本発明に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。
還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
還元性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該還元性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の5質量%以下(固形分比)となるようにする。
還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0022】
本発明に使用する導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
導電性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該導電性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の5質量%以下(固形分比)となるようにする。
導電性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒と同様のものを用いることができる。
【0023】
本発明の塗膜層は、上記導電性または還元性高分子微粒子と、バインダーと、無機系フィラーとを含む下地塗料を基材に塗工し、乾燥させることで形成するものである。また、この下地塗料は、上記成分に加えて溶媒を含み得る。
溶媒としては、特に限定されるものではないが、具体的には、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。また、メチルセルソルブ等の多価アルコール誘導体溶媒、ミネラルスピリット等の炭化水素溶媒、ジヒドロターピネオール、D−リモネン等のテルペン類に分類される溶媒を用いることもできる。
【0024】
更に、前記塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0025】
本発明は、基材上に、上記で製造される還元性または導電性高分子微粒子を含む下地塗料をベタ塗り印刷(全面塗工)、或いはパターン印刷し、これにより形成された塗膜層上にのみ無電解めっき液からなる金属膜を化学めっきし、めっき物を得ることが出来る。
【0026】
還元性または導電性高分子微粒子を用いた下地塗料を用いるベタ塗り印刷、或いはパターン印刷としては、例えば、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、ドライオフセット印刷、パッド印刷等が挙げられる。これら印刷方法は、各印刷機を用いる通常の印刷法によって行うことができる。
【0027】
上記のようにベタ塗り、或いはパターン化された塗膜層が形成された基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、前記基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0028】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0029】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、スルカップELC−SP浴(上村工業(株)社製)等が挙げられる。また、無電解ニッケルめっき浴の具体例としては、トップニコロンBL浴(奥野製薬工業(株)社製)が挙げられる。
処理温度は、例えばスルカップELC−SP浴の場合、40ないし70℃、好ましくは55ないし65℃であり、処理時間は、1ないし120分、好ましくは、5ないし90分である。また、トップニコロンBL浴の場合、処理温度は、70ないし95℃、好ましくは70ないし90℃であり、処理時間は、1ないし60分、好ましくは、1ないし20分である。
得られためっき物は、使用した基材のTgより低い温度範囲において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。
【0030】
また、基材上に、導電性高分子微粒子を用いた下地塗料をベタ塗り印刷、或いはパターン印刷し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることによるめっき物の製造方法にも関する。
【0031】
上記の導電性高分子微粒子を用いる方法において、塗膜層の形成及び無電解めっき法による金属めっき膜の形成は、上述の還元性高分子微粒子を用いるめっき物の製造方法と同様に行うことができる。
【0032】
上記製造方法における脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0033】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。特に、導電性高分子微粒子を含む塗膜層は薄くできるため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
【0034】
以上のように、本発明の方法により、還元性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子を含む下地塗料を用いてベタ塗り、或いはパターン化されためっき物を製造することができる。上記製造方法により製造されためっき物は優れた密着性を有する。尚、上記めっき物は、形成された無電解めっき膜上に、電解めっきにより、同一又は異なる金属を更にめっきすることもできる。また、金属めっき膜は、基材の両面に形成されてもよい。
【0035】
また、本発明の塗膜層を形成するために使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法については、特許文献1に記載されている方法にて製造することが出来る。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
製造例1:還元性ポリピロール微粒子分散液の調製
アニオン性界面活性剤ペレックスOT−P(花王株式会社)0.42mmol、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン409P(花王株式会社)2.1mmol、トルエン10mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した還元性能を有する還元性ポリピロール微粒子を得た。尚、得られたトルエン分散液中の還元性ポリピロール微粒子の固形分は、5.0%であった。
【0037】
製造例2:還元性ポリアニリン微粒子分散液の調製
アニオン性界面活性剤ペレックスOT−P(花王株式会社)0.42mmol、ソルビタン脂肪酸エステル系ノニオン界面活性剤レオドールSP−030V(花王株式会社)0.424mmolとポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名:レオドール TW−0320V)2.12mmol、トルエン10mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌した。得られた乳化液にアニリンモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム4mmolを加えて2時間重合反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した還元性能を有する還元性ポリアニリン微粒子を得た。尚、得られたトルエン分散液中の還元性ポリアニリン微粒子の固形分は、5.0%であった。
【0038】
製造例3:下地塗料の調製
バインダー:VYLON23CS:ポリエステル系(東洋紡績株式会社製)と無機系フィラー:AEROSIL200:シリカ粒子(日本エアロジル株式会社製)とを質量比がバインダー:無機系フィラー=4:1.15となるように配合し、プレ撹拌後、3本ロールミルにて無機系フィラーをバインダー中に分散させた。
次に、製造例1で調製した還元性ポリピロール微粒子分散液(固形分5%)に、前記で調製したバインダー及び無機フィラーを含む分散液を、還元性微粒子:バインダー:無機系フィラーの質量比が1:4:1.15となるように配合し、撹拌、脱泡を行い、さらに最終固形分が25%となるように、シクロヘキサノンを混合することにより下地塗料を得た。
【0039】
製造例4:無機系フィラー無しの下地塗料の調製
製造例1で調製した還元性ポリピロール微粒子分散液(固形分5%)に、バインダー:VYLON23CS:ポリエステル系(東洋紡績株式会社製)を、還元性微粒子:バインダーの質量比が1:4となるように配合し、撹拌、脱泡を行い、さらに最終固形分が2%となるように、MEK(メチルエチルケトン)を混合することにより無機系フィラー無しの下地塗料を得た。
【0040】
実施例1
基材として、厚み100μmの易接着処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100:東洋紡績株式会社製)を用い、該基材上に、製造例3で得られた下地塗料を、表1に示す膜厚となるようにスクリーン印刷機にてパターン印刷を行い、印刷後、100℃の熱風オーブンで10分間加熱乾燥を行って塗膜層を形成した。
尚、L(ライン)/S(スペース)=1.0mm/1.0mmのストレートラインを形成する版にてパターン印刷を行った。
また、得られた塗膜層表面の凹凸の算術平均粗さRaは、レーザー顕微鏡(商品名「VK−8500」、KEYENCE社製)を用い、電極表面を走査して得られた画像について「VK形状解析アプリケーションソフト Version 1.06」を用いて算出した。その結果、表1に示すように実施例1における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0041】
続いて、塗膜層が形成されたフィルムを0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、洗浄水で水洗した。次に、該フィルムを無電解銅めっき浴:スルカップELC−SP浴(上村工業(株)社製)に60℃で30分間浸漬することにより、塗膜層が設けられた部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
【0042】
実施例2
表1に示す配合比にてバインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例2における塗膜層表面の算術平均粗さRaは2.0μmであった。
【0043】
実施例3
表1に示す配合比にてバインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例3における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.05μmであった。
【0044】
実施例4
基材として、厚み100μmの易接着処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100:東洋紡績株式会社製)にサンドブラスト処理したもの(基材の表面粗さ:Raは0.4μm)を用い、該基材上に、製造例4で得られた無機系フィラー無しの下地塗料を、表1に示す膜厚となるようにグラビア印刷機にてベタ塗り印刷(全面塗工)を行い、印刷後、100℃の熱風オーブンで10分間加熱乾燥を行って塗膜層形成した。
尚、表1に示すように実施例4における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.3μmであった。
【0045】
続いて、塗膜層が形成されたフィルムを0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、洗浄水で水洗した。次に、該フィルムを無電解銅めっき浴:スルカップELC−SP浴(上村工業(株)社製)に60℃で30分間浸漬することにより、塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
【0046】
実施例5
表1に示す配合比にてバインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を設け、その塗膜層が設けられた部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例5における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0047】
実施例6
表1に示す配合比にてバインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例6における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0048】
実施例7
製造例2で調製した還元性アニリン微粒子分散液(固形分5%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例7における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0049】
実施例8
無電解銅めっき浴:スルカップELC−SP浴(上村工業(株)社製)の代わりに、無電解ニッケルめっき浴:トップニコロンBL浴(奥野製薬工業(株)社製)に90℃で3分間浸漬させて0.2μmの金属めっき膜を得た以外は、実施例1と同様の方法にて、その塗膜層が形成された部分にのみニッケルめっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例8における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0050】
実施例9
無電解銅めっき浴:スルカップELC−SP浴(上村工業(株)社製)に60℃で60分間浸漬させて4μmの金属めっき膜を得た以外は、実施例1と同様の方法にて、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例9における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0051】
実施例10
無電解銅めっき浴:スルカップELC−SP浴(上村工業(株)社製)に60℃で90分間浸漬させて6μmの金属めっき膜を得た以外は、実施例1と同様の方法にて、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例10における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0052】
実施例11
無電解ニッケルめっき浴:トップニコロンBL浴(奥野製薬工業(株)社製)に90℃で10分間浸漬させて0.5μmの金属めっき膜を得た以外は、実施例8と同様の方法にて、その塗膜層が形成された部分にのみニッケルめっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例11における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0053】
実施例12
無電解ニッケルめっき浴:トップニコロンBL浴(奥野製薬工業(株)社製)に90℃で20分間浸漬させて1.0μmの金属めっき膜を得た以外は、実施例8と同様の方法にて、その塗膜層が形成された部分にのみニッケルめっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように実施例12における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0054】
比較例1
表1に示す配合比にて、バインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように比較例1における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.02μmであった。
【0055】
比較例2
基材として、サンドブラスト処理をしていない厚み100μmの易接着処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100:東洋紡績株式会社製)を用いた以外は、実施例4と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように比較例2における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.01μmであった。
【0056】
比較例3
表1に示す配合比にて、バインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように比較例3における塗膜層表面の算術平均粗さRaは2.2μmであった。
【0057】
比較例4
表1に示す配合比にて、バインダーと無機系フィラーとを添加し、かつ塗膜層の膜厚を0.15μmとした以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように比較例4における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0058】
比較例5
表1に示す配合比にて、バインダーと無機系フィラーとを添加した以外は、実施例1と同様の方法にて塗膜層を形成し、その塗膜層が形成された部分にのみ銅めっきが施されたポリエチレンテレフタレートフィルムが得られた。
尚、表1に示すように比較例5における塗膜層表面の算術平均粗さRaは0.2μmであった。
【0059】
評価試験
塗膜層が設けられたフィルムにおいて、無電解めっきによるめっき析出性及びめっき物の密着性、めっき浴中の剥がれを評価して表1に示した。
尚、評価方法は以下に示した通りである。
また、表1中、aないしdは、以下に示すものを意味し、“比率A:B”は、高分子微粒子とバインダーの(固形分比)質量比を意味し、“比率B:C”は、バインダーと無機系フィラーの(固形分比)質量比を意味する。
a:還元性ポリピロール微粒子
b:還元性ポリアニリン微粒子
c:バインダー:VYLON23CS:ポリエステル系(東洋紡績株式会社製)
d:無機系フィラー:AEROSIL200:シリカ粒子(日本エアロジル株式会社製)
評価
<めっき析出性>
完全に被覆され、塗膜層露出なしのものを○、10%未満塗膜層の露出有りのものを△、10%以上塗膜層の露出有りのものを×とした。
<密着性>
無電解めっきが施された金属めっき膜上にセロハンテープを貼り付け、剥離することによりめっき膜の密着性を評価した。テープで剥離しないものを○、10%未満剥離有りを△、10%以上剥離するものを×とした。
<めっき浴中の膨れや剥がれ>
目視により、無電解めっき浴中において金属めっき膜が膨れや剥がれを生じたかについて評価した。金属めっき膜が膨れや剥がれを生じないものを○、金属めっき膜が膨れや剥がれを生じたものを×とした。
【表1】

※1:めっき浴中において、剥がれや膨れが生じたため、めっき析出性と密着性の評価は行えなかった。
※2:めっき析出性が×であったため、密着性の評価は行えなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のめっき物は、電気回路などに使用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 基材
2 塗膜層
3 金属めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面上に設けられた少なくとも導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層と、該塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属めっき膜とからなるめっき物であって、
該金属めっき膜が銅からなる場合には、その厚みが2.0μm以上であり、
該金属めっき膜がニッケルからなる場合には、その厚みが0.2μm以上であり、
該塗膜層の表面粗さ:Raが0.05〜2.0μmであり、
前記バインダーは、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1〜60質量部であるめっき物。
【請求項2】
前記塗膜層中に無機系フィラーを含んでなる請求項1記載のめっき物。
【請求項3】
該基材の表面粗さ:Raが0.05〜2.0μmである請求項1記載のめっき物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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