説明

めっき皮膜及びその形成方法並びに電子部品

【課題】錫または錫合金からなる錫めっき層を含むめっき皮膜において、ウィスカの発生及び成長を極力抑制することができるようにする。
【解決手段】Sn(錫)またはSn合金からなるSnめっき層2を形成し、Snめっき層2の表面にSnより高い融点の金属からなる中間層3を形成し、中間層3の表面に、めっき皮膜の最表面に配置され、Snめっき層2よりも膜厚の小さいSnまたはSn合金からなるSnめっき層4を形成する。めっき皮膜の最表面に配置されるSnめっき層4は薄膜化されるため、ウィスカの発生が抑制され、中間層3はSnめっき層2からのSnめっき層4へのSn原子の供給を断つのでウィスカの成長を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的な接続を必要とする電極部のめっき皮膜、特に、錫または錫合金からなる錫めっき層を含むめっき皮膜及びその形成方法並びにそのめっき皮膜を電極部に有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の外部端子やコネクタ基材の表面には、はんだ接続を行うためのSn(錫)またはSnを主成分とするSn合金からなる金属薄膜がめっき皮膜として設けられている。このめっき皮膜は、従来ウィスカ(Whisker)対策でSnにPb(鉛)を入れたSn−Pbめっきで形成されていたが、近年ではPbの弊害を考慮し、Pbフリーの代替めっきとしてSnめっきや、Sn−Cu(銅)、Sn−Bi(ビスマス)、Sn−Ag(銀)などのSn合金めっきが採用されてきている。特に、Snめっきは価格やめっきの作業性などから、総合的にPbフリーめっきとして有力なものとなっている。
【0003】
図5はこのようなPbフリーの従来のめっき皮膜の構造を示す断面図である。同図の(A)は基材101上にSnBi、SnAgなどのSnまたはSn合金からなるSnめっき層102を設けたものである。また、同図の(B)は基材101とSnめっき層102との間にNi(ニッケル)などの下地層103を設けたものである。
【0004】
上記のPbフリーのSnまたはSn合金のめっき皮膜では、Snのウィスカが発生することがある。このウィスカは、金属めっき皮膜表面に発生するヒゲ状の結晶生成物であるが、電子部品の端子間距離などが狭くなっている現状では、電子部品の使用中にウィスカが発生、成長した場合に、隣接する電極間での電気的な短絡障害が発生する。また、ウィスカは直径が1μm程度で、長さは1mm以上も成長することがあり、電子部品を搭載した装置の内外でウィスカの飛散に伴う短絡障害も懸念される。
【0005】
このSnウィスカの発生原因の一つとして、めっき皮膜の内部応力を駆動力とするSnの再結晶化が挙げられる。めっき皮膜の内部応力は、下地金属との格子不整合やめっき液の添加剤共析に伴う歪み、光沢剤によるめっき結晶粒の微細化による歪みなどによってめっき処理後にめっき皮膜内に蓄えられる応力である。Snウィスカの成長の原因であるSnの再結晶は、めっき皮膜の内部応力、つまりめっき皮膜中の歪みが大きい場合、短時間で再結晶する。
【0006】
この対策として、めっき皮膜の内部歪みを極力抑えるために、添加する光沢剤の量を極端に減らしためっき液を使用する無光沢めっきが提案されている。また、約150℃での熱処理によりめっき皮膜の応力緩和(歪み開放)を行うことも知られている。更に、下地にNiめっきを施すことで、ある程度のSnウィスカの発生を抑制することも提案されている(図5の(B)参照)。
【0007】
また、Niめっき層とSnめっき層との間に、CuとSnを主成分とする拡散層やNiを主成分とする拡散層を設けることで、めっき材料としてのはんだ付け性、耐ウィスカ性及び耐熱性を保持させることも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−293187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような従来のめっき皮膜にあっては、いずれにおいても、長期に亘ってSnウィスカの再結晶を抑制することはできず、ウィスカが発生するまでの時間を長くするだけに止まり、完全なウィスカレスには至っていない。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、SnまたはSn合金からなるSnめっき層を含むめっき皮膜において、ウィスカの発生及び成長を極力抑制することができるめっき皮膜及びその形成方法並びに電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のめっき皮膜は、錫または錫合金からなる第1の錫めっき層と、第1の錫めっき層の上に形成され、Niからなる中間層と、中間層の上に形成され、第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のめっき皮膜及びその形成方法並びに電子部品は、めっき皮膜の最表面のSnまたはSn合金からなるSnめっき層が薄膜であるとともに、中間層によって下層のSnめっき層からのSn原子の供給を断つことができるので、ウィスカの発生及び成長を極力抑制することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施の形態のめっき皮膜の構造を示す断面図である。
【図2】第2の実施の形態のめっき皮膜の構造を示す断面図である。
【図3】第3の実施の形態のめっき皮膜の構造を示す断面図である。
【図4】本実施の形態のめっき皮膜を適用可能な電子部品の例を示す図である。
【図5】従来のめっき皮膜の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は第1の実施の形態のめっき皮膜の構造を示す断面図である。第1の実施の形態のめっき皮膜は、SnまたはSn合金からなるSnめっき層を含むめっき皮膜であって、そのSnめっきから発生するウィスカの成長源となるSn原子の供給を抑制し、ウィスカが発生しないか発生しても成長しにくい構造を有している。
【0015】
すなわち、電子部品の電極部などの基材1上にSnまたはSn合金からなるSnめっき層2を有し、このSnめっき層2の表面にSnより高い融点のNiなどの金属からなる略0.5μm〜1μmの膜厚の中間層3を有するとともに、その中間層3の表面で、めっき皮膜の最表面にSnめっき層2よりも薄いSnまたはSn合金からなるSnめっき層4を有している。このような構造のめっき皮膜においては、最表面のSnめっき層4が薄膜化されるので、ウィスカの成長源となるSn原子の供給が抑制され、ウィスカの発生及び成長が極力抑制されることになる。したがって、ウィスカの発生に起因する短絡障害を防ぐことができる。特に、Snめっき層4を1μm以下とすることが好ましい。
【0016】
また、Snめっき層4の下側の中間層3は略0.5μm〜1μmの膜厚であるので、全体として十分な柔軟さを確保することができ、電気的に必要な接触面積が得られ、接触抵抗の増大を招くことはない。このため、コネクタや電極に必要な諸特性を損なわずに、ウィスカの発生を抑制することができる。
【0017】
ウィスカは再結晶による生成物として成長するものであり、再結晶は内部歪みのない新しい結晶核の成長と粒成長によって元の結晶粒と置き換わる現象である。この再結晶と相まって、周辺からのSn原子の供給も同時に起こり、針状の長いウィスカに成長する。しかし、本実施の形態のように、Niなどの中間層3が存在することにより、下層からのSn原子の供給が断たれ、ウィスカの成長が停止する。
【0018】
また、Ni層は引張応力を形成しやすいため、再結晶の駆動力となるSn層の圧縮応力を抑制することができ、それらの相乗効果により、Snウィスカの成長をより一層抑制することができる。このように、SnまたはSn合金からなるSnめっき層を含むめっき皮膜において、ウィスカの発生及び成長を極力抑制することができる。
【0019】
以下、第1の実施の形態のめっき皮膜の形成方法の具体例を説明する。
基材1となるリン青銅の試料に対し、前処理により表面を清浄化し、水洗する。ここでは、10%の硫酸に30秒間浸漬する。その後、この基材1上に膜厚4μmのSnめっきを施してSnめっき層2を形成し、水洗後、膜厚1μmのNiめっきを施して中間層3を形成する。そして、その表面に膜厚1μmのSnめっきを施してSnめっき層4を形成する。これにより、図1に示すような構造のめっき皮膜が得られる。
【0020】
次に、第2の実施の形態のめっき皮膜を説明する。
図2は第2の実施の形態のめっき皮膜の構造を示す断面図である。
第1の実施の形態のめっき皮膜と同一の構成要素については同一符号とする。
【0021】
第2の実施の形態のめっき皮膜は、中間層3a,3bを2層設けている。これは、めっき皮膜の損傷を防止するためである。すなわち、コネクタは挟んだり押し当てたりするので、外部からの力がかかる。その際の膜の損傷は通常最表面だけであるが、万一中間層のNi層を突き破った場合、下層からSn原子が供給される危険性がある。そこで、中間層を2層ないし複数層にすることで、上記の危険性を回避することができる。また、通常引張応力を有するNi層を複数層にすることで、ウィスカ発生の主要因であるSn層の圧縮応力は更に減少し、ウィスカ抑制効果が増大する。なお、複数の中間層の間のSnめっき層2aは下層ほど膜厚が大きいようにする。そして、最表面のSnめっき層4の膜厚が最も薄く形成され、基材1上のSnめっき層が最も厚く形成される。
【0022】
以下、第2の実施の形態のめっき皮膜の形成方法を具体的に説明する。
第1の実施の形態のめっき皮膜の形成の際と同様に、基材1となるリン青銅の試料に対し、10%の硫酸に30秒間浸漬処理して表面を清浄化し、水洗する。その後、この基材1上に電解めっきにより膜厚3μmのSn皮膜を形成してSnめっき層2を形成し、水洗後、連続してスルファミン酸浴を用いて0.5μmのNi皮膜を形成し中間層3aを形成する。水洗後、引き続いて膜厚2μmのSn皮膜を形成してSnめっき層2aを形成し、更に、水洗後、連続して0.5μmのNi皮膜を形成し中間層3bを形成する。続いて水洗後、膜厚1μmのSn皮膜を形成してSnめっき層4を形成する。これにより、図2に示すような構造のめっき皮膜が得られる。
【0023】
次に、第3の実施の形態のめっき皮膜を説明する。
図3は第3の実施の形態のめっき皮膜の構造を示す断面図である。
第1の実施の形態のめっき皮膜と同一の構成要素については同一符号とする。
【0024】
第3の実施の形態のめっき皮膜は、基材1とSnめっき層2間にNiなどの下地層5を設けている。これは、基材1からのCuの拡散を抑制して、応力発生源となる化合物層の発生を抑えるためである。これに加えて、表面側に中間層3を設けることで、より確実にウィスカの発生を抑制することができる。
【0025】
以下、第3の実施の形態のめっき皮膜の形成方法を具体的に説明する。
第1の実施の形態のめっき皮膜の形成の際と同様に、基材1となるリン青銅の試料に対し、10%の硫酸に30秒間浸漬処理して表面を清浄化し、水洗する。その後、この基材1上にスルファミン酸浴を用いて1μmのNi皮膜を形成し下地層5を形成する。水洗後、引き続いて膜厚4μmのSn皮膜を形成してSnめっき層2を形成し、更に、水洗後、連続して0.5μmのNi皮膜を形成し中間層3を形成する。更に水洗後、最表面に膜厚1μmのSn皮膜を形成してSnめっき層4を形成する。これにより、図3に示すような構造のめっき皮膜が得られる。
【0026】
図1〜図3で示したような本実施の形態のめっき皮膜を上記の条件で形成した試料と、リファレンスとして5μmのSn単層の試料について、ウィスカ発生評価を行った。評価方法として、上記のめっき皮膜を作製した試験片を常温及び50℃、50%の条件下で2000時間放置し、ウィスカ発生の有無を観察した。観察には100倍の顕微鏡を用い、ウィスカ発生を確認した時点で、適時より高倍の顕微鏡で詳細な長さを観察した。その結果、Sn単層の試料では常温放置で500μm以上、50℃、50%で200μm程度のウィスカの発生が確認されたのに対し、図1〜図3で示したような、本実施の形態のめっき皮膜を形成した試料では20μm以上に成長したウィスカは皆無であった。
【0027】
以上のようなめっき皮膜を電子部品の電極部に設けることで、短絡障害のない信頼性の高い電子部品を実現することができる。
図4は、本実施の形態のめっき皮膜を適用可能な電子部品の例を示す図である。
【0028】
本実施の形態のめっき皮膜は、例えばFPC(Flexible Printed Circuit)(またはFFC(Flexible Flat Cable))10の電極部11など、コネクタなどとの結合部(パット部)の表面に適用することができる。
【0029】
その他にも、電気的な接続を必要とする電極部として、ケーブル配線の圧着部材など様々な形状のものに適用可能である。
(付記1) 錫または錫合金を含むめっき皮膜であって、少なくとも、
錫または錫合金からなる第1の錫めっき層と、
前記第1の錫めっき層の表面に形成される錫より高い融点の金属からなる中間層と、
前記中間層の表面に形成され、前記めっき皮膜の最表面に配置され、前記第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層と、
の3つの層を有することを特徴とするめっき皮膜。
【0030】
(付記2) 前記第2の錫めっき層は、略1μm以下の膜厚であることを特徴とする付記1記載のめっき皮膜。
(付記3) 前記中間層は、略0.5μm〜1μmの膜厚であることを特徴とする付記1記載のめっき皮膜。
【0031】
(付記4) 前記中間層はニッケルにより構成されていることを特徴とする付記1記載のめっき皮膜。
(付記5) 前記中間層を複数層有し、前記中間層間に錫または錫合金からなる第3の錫めっき層を有し、前記第3の錫めっき層は下層ほど膜厚が大きく、かつ、前記第2の錫めっき層よりも膜厚が大きいことを特徴とする付記1記載のめっき皮膜。
【0032】
(付記6) 前記基材と前記第1の錫めっき層との間にニッケルにより構成される下地層を有することを特徴とする付記1記載のめっき皮膜。
(付記7) 錫または錫合金を含むめっき皮膜の形成方法において、
錫または錫合金からなる第1の錫めっき層を形成し、
前記第1の錫めっき層の表面に、錫より高い融点の金属からなる中間層を形成し、
前記中間層の表面に、前記めっき皮膜の最表面に配置され、前記第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層を形成する工程を含むことを特徴とするめっき皮膜の形成方法。
【0033】
(付記8) 基材表面または基材に施された下地層表面に形成される錫または錫合金からなる第1の錫めっき層と、
前記第1の錫めっき層の表面に形成される錫より高い融点の金属からなる中間層と、
前記中間層の表面に形成され、めっき皮膜の最表面に配置され、前記第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層と、
を有するめっき皮膜を電極部に有することを特徴とする電子部品。
【符号の説明】
【0034】
1 基材
2,2a,4 Snめっき層
3,3a,3b 中間層
5 下地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫または錫合金からなる第1の錫めっき層と、
前記第1の錫めっき層の上に形成され、Niからなる中間層と、
前記中間層の上に形成され、前記第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層と、
を有することを特徴とするめっき皮膜。
【請求項2】
前記第2の錫めっき層は、前記めっき皮膜の最上層に配置され、前記第2の錫めっき層の膜厚は1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のめっき皮膜。
【請求項3】
錫または錫合金からなる第1の錫めっき層を形成し、
前記第1の錫めっき層の表面に、Niからなる中間層を形成し、
前記中間層の表面に、前記第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層を形成することを特徴とするめっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
基材表面または基材に施された下地層表面に形成される錫または錫合金からなる第1の錫めっき層と、
前記第1の錫めっき層の表面に形成され、Niからなる中間層と、
前記中間層の表面に形成され、前記第1の錫めっき層よりも膜厚の小さい錫または錫合金からなる第2の錫めっき層と、
を含むめっき皮膜を電極部に有することを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46827(P2012−46827A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252474(P2011−252474)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【分割の表示】特願2005−379250(P2005−379250)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】