説明

めっき被膜部材およびめっき処理方法

【課題】 ウィスカの発生を抑制するとともに、良好なはんだ濡れ性を有するめっき被膜部材を提供する。
【解決手段】 めっき被膜部材は、銅を主成分とする基材(10)と、前記基材を被覆する錫を主成分とするめっき皮膜(13)と、前記基材と、めっき皮膜の界面に位置する錫と銅の化合物バリア層(12)とを備え、前記化合物バリア層の密度は、銅の密度よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫(Sn)を主成分とする皮膜が形成された部材に関し、特に、錫鉛めっきの代替品として用いられるめっきが施された部材と、そのような皮膜を形成するめっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コネクタ用端子、半導体集積回路用のリードフレーム等に、錫−鉛(Sn−Pb)はんだめっきが施されていた。しかし、近年、環境保護の観点から、錫−鉛はんだめっきに代わって、鉛を含まない錫めっきや、錫−銅(Sn−Cu)合金めっき、錫−ビスマス(Sn−Bi)合金めっき、錫−銀(Sn−Ag)合金めっき等の使用が検討されている。特に、銅が0.01〜10重量%の錫−銅合金めっき皮膜を形成することのできる錫−銅合金めっき方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところが、鉛(Pb)を含まない上述の合金で皮膜を形成すると、めっき合金の種類によっては、ウィスカと呼ばれる錫のひげ状結晶を発生しやすくなる。ウィスカが発生し、成長すると、隣接する電極間で電気的な短絡障害を起こすことがある。また、ウィスカは直径が約1μm程度と細く、長さは1000μm以上に達することもあるため、ウィスカが皮膜から脱離して飛散することもあり得る。飛散したウィスカは、装置内外で短絡障害を引き起こす原因になる。
【0004】
ウィスカの発生原因のひとつとして、めっき皮膜の内部応力が挙げられる。この内部応力を駆動力として錫が再結晶化する際に、ウィスカが成長する。
【0005】
すなわち、図1に示すように、リードフレーム等の下地の銅(Cu)膜100上に、錫めっきまたは錫合金めっき101を施すと、銅膜100と錫(錫合金)めっき皮膜101の界面に、Cu6Sn5の銅−錫金属間化合物102が形成される。このCu6Sn5化合物102が、錫めっき結晶粒界に大きく成長してめっき皮膜に圧縮応力を加えることにより、内部応力が発生する。
【0006】
Cu6Sn5の密度は8.3と小さいため、体積膨張することは知られている。つまり、下地銅膜100を構成する銅原子が、錫めっき101の結晶粒界をより速く拡散して、体積膨張を引き起こすCu6Sn5化合物102が錫めっき結晶粒界に形成されるため、錫めっき皮膜101が圧縮応力を受けるのである。このめっき内部に加わる圧縮応力はウィスカ発生の駆動力として作用し、長い針状のウィスカ発生に繋がる。
【0007】
ウィスカ発生の抑制方法として、一般には光沢剤を極端に減らしためっき液を用いて無光沢めっきあるいは半光沢めっきを行うことにより、内部応力を緩和させることが考えられる。また、めっき後に150℃程度で熱処理を行うことによって、応力を緩和させることによって、ウィスカの発生を抑制することも考えられる。
【0008】
また、Cu6Sn5の成長を抑制してウィスカを防止する方法として、下地(銅または銅合金の母材)にニッケル(Ni)などの拡散バリア層をめっきする方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−26898号公報
【非特許文献1】毛利謙作、竹内宏太郎、尾本義典、「鉛フリーはんだめっきの開発」、高知県工業技術センター研究報告 No.34、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、ニッケルめっきは錫めっき中に拡散しやすく、粒界を伝ってめっき表面に拡散析出する。拡散析出したニッケルは、めっき表面でニッケル酸化物を形成し、はんだ濡れ性を著しく低下させるという新たな問題を生じさせる。
【0010】
また、無光沢あるいは半光沢めっきの採用や、めっき後の熱処理により内部応力を緩和させる方法はでは、ウィスカの発生はある程度抑制できるが、その抑制効果は十分ではない。
【0011】
そこで本発明は、これらの問題点を解決し、ウィスカの発生を十分に抑制することのできるめっき皮膜が施された部材を提供することを課題とする。また、そのようなめっき皮膜の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために、本発明では、銅を主成分とする基材と、この基材の表面に形成された錫または錫合金で構成されるめっき膜との界面に、銅(密度8.9)よりも密度の大きい化合物、すなわち、体積膨張しない安定な化合物を形成することで、内部応力の発生を防止し、ウィスカの発生を抑制する。
【0013】
銅よりも密度の大きい化合物は、たとえばCu3Snであり、その密度は11.3である。Cu3Snは銅濃度の高い化合物であり、銅または銅合金の上に、0.05μm〜3μmの錫または錫合金のめっき薄膜を形成することで、実質的にめっき薄膜のほとんどすべてをCu3Snに変えることができる。
【0014】
めっき薄膜は、電解めっき、無電解めっきのいずれを用いてもよいが、めっき薄膜を均一に形成するという点で、無電解めっきが好ましい。
【0015】
また、上記の膜厚の範囲内で錫または錫合金のめっき薄膜を形成して後、100℃以上の熱処理を加えると、いっそう速く、安定したCu3Snバリア層を形成することができる。加熱処理温度と処理時間は、Cu3Snの形成速度から適宜選択可能である。
【0016】
いったん、Cu3Snバリア層が形成されると、この化合物は安定であるため、その上に厚い錫めっき処理を施しても、Cu6Sn3の形成を抑制あるいは防止することができる。
【0017】
また、ニッケルなどの他元素を入れないため、単純な膜構成でウィスカを抑制することができる。
【0018】
具体的には、第1の側面では、めっき被膜部材は、
(a)銅を主成分とする基材と、
(b)前記基材を被覆する錫を主成分とするめっき皮膜と、
(c)前記基材と、めっき皮膜の界面に位置する錫−銅化合物バリア層と
を備え、前記化合物バリア層の密度は、銅の密度よりも大きいことを特徴とする。
【0019】
良好な実施例では、前記化合物バリア層の膜厚は0.05μm〜3.0μmである。また、前記化合物バリア層は、Cu3Snで構成される。
【0020】
第2の側面では、めっき処理方法は、
(a)銅を主成分とする基材上に、錫を主成分とする第1のめっき薄膜を形成し、
(b)前記第1のめっき薄膜から、銅よりも密度の大きい錫−銅化合物バリア層を形成し、
(c)前記錫−銅化合物バリア層上に、錫を主成分とする第2のめっき厚膜を形成する
工程を含むことを特徴とする。
【0021】
好ましい実施例では、
(d)前記第1のめっき薄膜を、100℃〜150℃で熱処理する工程
をさらに含む。
ことを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。
【0022】
好ましくは、第1のめっき薄膜から前記化合物バリア層を形成する工程において、第1のめっき薄膜のほぼ全体を、銅より密度の高い銅と錫の化合物に変化させる。
【発明の効果】
【0023】
上記めっき被膜部材およびめっき処理方法によれば、簡単な膜構成でめっき皮膜のウィスカ発生を防止できるとともに、はんだ濡れ性を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係るめっき処理方法を示す概略断面図である。まず、図2(a)に示すよう、銅または銅合金の基材10上に、錫または錫合金のめっき薄膜11を形成する。実際に用いた基材は、リン青銅製の40ピンのリード端子である。めっきの前処理として、基材10に対して陰極電解脱脂処理を行う。電解脱脂剤として、例えばメルテックス株式会社製のクリーナ160を用いることができる。一例として、処理温度を65℃、電流密度を2.5A/dm、処理時間を30秒とする。電解脱脂処理後、基材10を水洗する。
【0025】
次に、基材10を化学研磨する。研磨用薬剤として、三菱ガス化学株式会社製の50%CPB40を用いることができる。一例として、薬剤の温度をほぼ室温とし、浸漬時間を20秒とする。化学研磨後、基材10を水洗する。
【0026】
基材10の表面に、無電解めっきにより、錫(Sn)から成るめっき薄膜11を形成する。めっき液として、石原薬品株式会社製580MZ−05溶液を用いることができる。一例として、めっき液の温度を70℃に設定し、膜厚3.0μmのめっき薄膜11を形成する。
【0027】
めっき薄膜11を形成した後、水洗し、酸活性処理を行う。酸活性処理は、濃度10%の硫酸からなる処理液に、室温で30秒間浸漬させることにより行われる。酸活性処理の後、水洗する。
【0028】
次に、図2(b)に示すように、100℃で1時間の熱処理を施し、めっき薄膜11からCu3Snバリア層12を形成する。Cu3Snバリア層12の膜厚は、Snめっき薄膜11の膜厚とほぼ等しく、Snめっき薄膜11のほとんどすべてがCu3Snに変化したことがわかる。
【0029】
次に、図2(c)に示すように、Cu3Snバリア層12の表面に、錫(Sn)から成るめっき厚膜(第2のめっき膜)13を形成する。めっき液として、例えば石原薬品株式会社製の濃度5%のPF−ACIDを用いる。実施例では、処理温度を室温とし、処理時間を80秒とする。この条件で、厚さ約10μmのめっき皮膜13が形成される。
Cu3Snバリア層12は安定であるため、その上にSnめっき厚膜13を施しても、Cu6Sn3の形成は抑止される。
【0030】
こうして作製されためっき被膜部材は、銅(Cu)を主成分とする基材10と、錫を含むめっき皮膜13の界面に、銅よりも密度の大きいCu3Snバリア層12を有し、反応性化合物の体積膨張に起因する内部応力を防止することができる。この結果、めっき皮膜13におけるウィスカの発生を抑制できる。
【0031】
図2の例では、めっき薄膜(第1のめっき膜)11およびめっき厚膜(第2のめっき膜)13を構成する結晶粒を、錫(Sn)で形成したが、その他錫(Sn)を主成分とする錫合金で形成してもよい。例えば、錫−銅(Sn−Cu)合金(Cu含有量2%)、錫−ビスマス(Sn−Bi)合金(Bi含有量2%)等で形成してもよい。錫−銅(Sn−Cu)合金からなるめっき膜は、例えば、上村工業株式会社製のめっき液ソフトアロイGTC−21を用い、温度30℃、電流密度3A/dmの条件で形成することができる。錫−ビスマス(Sn−Bi)合金からなるめっき膜は、例えば、石原薬品株式会社製のめっき液PF−TIN15、PF−BI15、及びPF−ACIDの混合液を用い、温度25℃、電流密度2A/dmの条件で形成することができる。
【0032】
図3は、図2(b)における熱処理温度と、Cu3Snバリア層12の成長速度との関係を示すグラフである。図2の処理工程と同様に、基材10上に膜厚3μmのSnめっき薄膜11を形成し、加熱温度を、100℃、120℃、150℃と変化させたときの、Cu3Snバリア層12の膜厚を、時間の関数として示す。
【0033】
グラフから、第1のSnめっき薄膜11を形成した後に、100℃〜150℃で加熱処理することにより、Cu3Snバリア層12の形成が促進されることがわかる。
【0034】
図4は、Cu3Snバリア層12の膜厚とウィスカ発生の関係を示すグラフである。リン青銅の基材10上に形成する第1のSnめっき薄膜11の膜厚を、無電解めっき処理時間を10〜500秒で変化させることにより、0.03μm〜4μmの範囲で変化させて異なる膜厚のサンプルを作製し、Cu3Snバリア層12形成後のめっき被膜13に生じる単位面積あたりのウィスカ発生状態を観察した結果である。サンプルの作製条件は、めっき処理時間と第1のSnめっき薄膜11の膜厚以外は、すべて図2の実施形態と同様である。また、比較例として、従来の方法と同様に、第1のSnめっき薄膜11を形成することなく、リン青銅の基材10上に直接めっき皮膜13を形成したサンプルも用意した。なお、グラフ横軸のCu3Sn膜厚は、3μmを超える領域では、厳密にはCu3Snを構成していないが、便宜上、Cu3Sn膜厚とした。
【0035】
作製したサンプルを、60℃/93%RHの条件で500時間放置した後、サンプルの表面をまず倍率100倍の顕微鏡で観察し、ウィスカを発見した時点で、より高倍率の顕微鏡で詳細な観察を行った。図5は、各サンプルにおける第1のSnめっき薄膜11およびCu3Snバリア層12の膜厚と、ウィスカ発生状態の評価結果である。単位面積あたりのウィスカ発生数として、5×5mmの領域での長さ5μm以上のウィスカをカウントした。
【0036】
図4および図5から、Cu基材10上に、第1のSnめっき薄膜11を膜厚0.05μm〜3.0μmの範囲で形成したときに、第1のSnめっき薄膜11のほぼすべてが安定したCu3Snバリア層12に変化し、ウィスカの発生が効果的に抑制されることがわかる。0.05μmよりも薄い場合、Cu3Snバリア機能が十分に発揮されず、3μmよりも厚くなると、Cu6Sn5の形成が見受けられる。
【0037】
より具体的には、従来技術である比較例では、50本以上のウィスカが発生しており、その長さは1000μmと長い。これは、Cu基材10と、膜厚10μmのめっき皮膜13との界面に、体積膨張性のCu6Sn5が形成され、めっき皮膜13に内部応力を発生させることに起因するものと思われる。
【0038】
基材10上に形成する第1のSnめっき薄膜11が0.03μmの膜厚では、ウィスカの発生数は激減するものの、皆無とすることはできない。
【0039】
他方、第1のSnめっき薄膜11の膜厚が3.5μmでは、第1のSnめっき薄膜11のすべてをCu3Snに変えることができず、残りのSnめっき薄膜部分でCu6Sn5が生成され、ウィスカが発生する。
【0040】
これらに比べ、第1のSnめっき薄膜11の膜厚が0.05〜3.0μmの範囲では、Snめっき薄膜11のほとんどすべてがCu3Snバリア層12に変化し、ウィスカの発生も認められない。
【0041】
さらに、実施例の方法で皮膜を形成したリード端子(めっき皮膜された部材)を、温度150℃で10分間熱処理した後、その表面にはんだを載せた結果、良好なはんだ濡れ性が得られることが確認された。
【0042】
上記実施例では、リン青銅の基材を用いたが、その他の材料で形成された基材を用いることも可能である。一例として、黄銅の基材10を用いて、上記実施形態と同様の方法でめっき皮膜を形成した場合、実施例の場合と同様にウィスカの発生を抑制することができる。
【0043】
また、上記実施例では、リード端子を作製する場合を例にとって説明を行ったが、上記実施例によるめっき皮膜の形成方法は、その他の金属部材への皮膜の形成にも適用することができる。例えば、コネクタの端子めっきの作製にも適用することができる。
【0044】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、当業者にとって、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来のめっき皮膜に生じる問題を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態によるめっき皮膜形成工程を示す図である。
【図3】異なる温度での熱処理によるCu3Snバリア層の成長を示すグラフである。
【図4】Cu3Snバリア層の膜厚と、ウィスカ発生の関係を示すグラフである。
【図5】実施例および比較例でのウィスカ評価を示す表である。
【符号の説明】
【0046】
10 銅を主成分とする基材
11 Snめっき薄膜(第1のめっき膜)
12 Cu3Snバリア層
13 Snめっき厚膜(第2のめっき膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする基材と、
前記基材を被覆する錫を主成分とするめっき皮膜と、
前記基材と、めっき皮膜の界面に位置する錫−銅化合物バリア層と
を備え、前記化合物バリア層の密度は、銅の密度よりも大きいことを特徴とするめっき 被膜部材。
【請求項2】
前記化合物バリア層の膜厚は、0.05μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項1に記載のめっき被膜部材。
【請求項3】
前記化合物バリア層は、Cu3Snで構成されることを特徴とする請求項1に記載のめっき被膜部材。
【請求項4】
銅を主成分とする基材上に、錫を主成分とする第1のめっき薄膜を形成し、
前記第1のめっき薄膜から、銅よりも密度の大きい錫−銅化合物バリア層を形成し、
前記錫−銅化合物バリア層上に、錫を主成分とする第2のめっき厚膜を形成する
工程を含むことを特徴とするめっき処理方法。
【請求項5】
前記第1のめっき薄膜を、100℃〜150℃で熱処理する工程
をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。
【請求項6】
前記第1のめっき薄膜の厚さは、0.05μm〜3.0μmであることを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。
【請求項7】
前記第1のめっき薄膜から前記錫−銅化合物バリア層を形成する工程は、前記第1のめっき薄膜のほぼ全体を、前記銅より密度の高い錫と銅の化合物に変化させる工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。
【請求項8】
前記第1のめっき薄膜は、無電解めっきにより形成されることを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。
【請求項9】
前記第2のめっき厚膜は、電解めっきにより形成されることを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。
【請求項10】
前記化合物バリア層は、Cu3Snで構成されることを特徴とする請求項4に記載のめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−231393(P2007−231393A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56633(P2006−56633)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】