説明

めっき装置

【課題】 ワイヤ表面のめっきの成長速度を向上させることができるめっき装置を提供する。
【解決手段】 めっき液3内を走行するワイヤ4の表面にめっきを施すものであって、めっき液3を収容するめっき液槽5と、該めっき液槽5内に縦向きに配置される柱状体6と、めっき液槽5の内周面51と柱状体6の外周面61の間に形成されるリング状流路Xを縦方向に走行するワイヤ4に対して、リング状流路Xでめっき液3を流動させる流動機構9と、を備えるめっき装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤの表面にめっきを施すめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、めっき液内を走行するワイヤの表面にめっきを施すための種々のめっき装置が知られている。このようなめっき装置としては、例えば、めっき液に対して超音波振動を与えることによって、めっき液内を走行する被めっき線材に対するめっき液の相対流速を30〜100m/分として、被めっき線材表面にめっきを施すめっき装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、シリコンインゴット等から半導体用ウェーハを切り出すために、ピアノ線等のワイヤ芯材の外周面にダイヤモンド等の砥粒を固着させたワイヤ工具を用いることが知られている。このようなワイヤ工具は、切断能力が高く、カーフロスが少ないので、大口径のウェーハを効率良く加工することができる。そのため、半導体デバイスの単価を低減するために、シリコンインゴットが大口径化の傾向にある近年においては、その需要が増してきている。
【0004】
このようなワイヤ工具を製造する方式の1つとして、ワイヤ外周面にめっきを施して砥粒を固着させるものがある。このワイヤ外周面にめっきを施して砥粒を固着させるためのめっき装置としては、例えば、砥粒を含有する複合めっき液を一方向に流し、その流れと同一又は逆方向にワイヤを走行させることにより、砥粒を含有する複合めっき被膜をワイヤの表面に形成するものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−107776号公報
【特許文献2】特開2008−019456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のめっき装置では、めっき液内を走行する被めっき線材は、めっき液内を水平に走行するため、必ずしも効率的にめっきの成長速度を速めることはできない。また、特許文献2のめっき装置においては、ワイヤの走行方向とめっき液の流れが同一方向の場合には、ワイヤとめっき液の相対的な速度差が生じ難いため、めっきの成長速度が遅くなり、砥粒がワイヤに固着され難い。また、ワイヤの走行方向とめっき液の流れが逆方向の場合には、ワイヤとめっき液の相対的な速度差が大きくなるため、複合めっきは行われ難くなる。そのため、いずれの場合にも、砥粒の電析は少なくなり、砥粒を効率的にワイヤ表面に固着させることが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みてなされたものであって、ワイヤ表面のめっきの成長速度を向上させることができるめっき装置、及びワイヤ表面のめっきの成長速度を向上させるとともに、ワイヤ表面に砥粒を均一且つ効率的に固着させることができるめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載のめっき装置は、めっき液内を走行するワイヤの表面にめっきを施すめっき装置であって、前記めっき液を収容するめっき液槽と、該めっき液槽内に縦向きに配置される柱状体と、前記めっき液槽の内周面と前記柱状体の外周面の間に形成されるリング状流路を縦方向に走行するワイヤに対して、前記リング状流路で前記めっき液を流動させる流動機構と、を備えることを特徴としている。
【0009】
請求項2記載のめっき装置は、前記めっき液に砥粒が分散されており、前記流動機構は、前記リング状流路を縦方向に走行するワイヤに対して、前記砥粒を供給するように前記リング状流路で前記めっき液を流動させることを特徴としている。
【0010】
請求項3記載のめっき装置は、前記柱状体又は/及び前記めっき液槽が、縦方向の回転軸回りに回転するものであり、前記流動機構は、前記柱状体又は/及び前記めっき液槽の回転に伴って前記めっき液を流動させるための複数のフィン部材を前記柱状体の外周面又は/及び前記めっき液槽の内周面に有することを特徴としている。
【0011】
請求項4記載のめっき装置は、前記柱状体の外周面から前記めっき液槽の内周面までの距離である前記リング状流路の流路幅は、5mm以上50mm以内であることを特徴としている。
【0012】
請求項5記載のめっき装置は、前記柱状体の外周面は、円形状又は多角形状に形成されており、前記めっき液槽の内周面は、円形状、多角形状、又は円形状の周方向の所定箇所が外側に膨らんだ形状されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6記載のめっき装置は、前記フィン部材は、前記柱状体の外周面又は/及び前記めっき液槽の内周面の縦方向に長尺に設けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項7記載のめっき装置は、前記リング状流路を複数のワイヤが縦方向に走行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のめっき装置によれば、めっき液槽の内周面と柱状体の外周面の間に形成されるリング状流路を縦方向にワイヤを走行させて、リング状流路でめっき液を流動させるため、ワイヤに対して垂直な流速の速いめっき液の流れを生じさせることができるので、めっきの成長速度を向上させることができる。
【0016】
請求項2記載のめっき装置によれば、前記めっき液は、砥粒が分散されており、この砥粒が分散されためっき液をリング状流路で流動させるので、めっきの成長速度を向上させるとともに、砥粒を均一且つ効率良くワイヤ表面に固着させることができる。
【0017】
請求項3記載のめっき装置によれば、柱状体の外周面又は/及びめっき液槽の内周面には複数のフィン部材が設けられており、柱状体又は/及びめっき液槽は、縦方向の回転軸回りに回転することにより、フィン部材が柱状体又は/及びめっき液槽と共に回転してリング状流路内でめっき液を高速に流動させることができるので、めっきの成長速度を向上させることができ、砥粒を効率良くワイヤ表面に固着させることができる。また、フィン部材を用いてめっき液を流動させているので、砥粒が分散されためっき液を用いた場合でも、従来から行われているブラシめっきのようにブラシに砥粒が食われてしまう恐れがないため、めっき液中に分散させる砥粒の割合を軽減することができる。
【0018】
請求項4記載のめっき装置によれば、リング状流路の流路幅が5mm以上50mm以内になるように形成されているため、リング状流路の幅方向で回転により生じるめっき液の流速の速い部分を多くすることができるので、より効率的にめっきの成長速度を速め、ワイヤ表面に対して均一且つ効率的に砥粒を固着させることができる。また、このように流路幅を狭くすることにより、めっき液槽に収容されるめっき液の量も少量に抑えることができるので、当該めっき装置によって製造されるワイヤ工具の製造コストを軽減することができる。
【0019】
請求項5記載のめっき装置によれば、柱状体の外周面又はめっき液槽の内周面が多角形状に形成されている場合には、めっき液の流れを層流状態から乱流状態にすることができるので、砥粒が分散されためっき液を用いた場合、ワイヤ表面への砥粒の均一な固着を促進することができる。また、柱状体の外周面及びめっき液槽の内周面が円形状に形成されている場合には、リング状流路の幅方向で回転により生じるめっき液の流速を効率的に速め、ワイヤ近傍において乱流を生じさせることができるので、ワイヤ表面に対して均一且つ効率的に砥粒を固着させることができる。また、めっき液槽の円形状の内周面の周方向の所定箇所が外側に膨らんだ形状の場合には、この膨らんだ部分にワイヤを走行させることにより、ワイヤ同士の距離が離れ、電源の取り合い等の干渉が少なくなるので、設定値通りのめっきを行うことができる。また、このような膨らんだ部分にワイヤを走行させた場合、リング状流路でのめっき液の流速は、ワイヤによって落ちてしまうことがないので、めっきの成長速度をより向上させることができる。また、砥粒が分散されためっき液を用いた場合には、この膨らんだ部分での砥粒の滞留性が良くなるので、砥粒密度をあげることができ、電析率を向上させることができる。
【0020】
請求項6記載のめっき装置によれば、フィン部材を柱状体の外周面又は/及びめっき液槽の内周面の縦方向に長尺に設けることによって、リング状流路の縦方向でめっき液の流速の遅い部分が生じないようにすることができるので、砥粒をより効率的にワイヤ表面に固着させることができる。
【0021】
請求項7記載のめっき装置によれば、リング状流路で複数のワイヤを縦方向に走行させることにより、複数のワイヤに対して同時に効率良くめっきを施すことができる。また、砥粒が分散されためっき液を用いた場合には、複数のワイヤ表面に対して同時に砥粒を均一且つ効率的に供給することができるので、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略平面断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略側面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るめっき装置の他の一例を示す概略平面断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略平面断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略平面断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略平面断面図である。
【図7】本発明の第5の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略平面断面図である。
【図8】本発明の第6の実施形態に係るめっき装置の一例を示す概略平面断面図である
【図9】本発明の第1の実施形態に係るめっき装置の更に他の一例を示す概略平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るめっき装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明の第1の実施形態に係るめっき装置1は、図1及び図2に示すように、砥粒2が分散されためっき液3中を走行する複数のワイヤ4の表面にめっきを施して砥粒2を固着させるものであって、めっき液3を収容するめっき液槽5と、該めっき液槽5内に縦向きに配置される柱状体6と、該柱状体6を縦方向に設けられる回転軸7を介して回転させるためのモータ等からなる駆動手段8と、柱状体6の回転に伴ってめっき液3を流動させるための流動機構として機能するフィン部材9等を備えている。また、このめっき装置1には、めっき液3中にニッケルイオンを補填するための複数のニッケル棒10、該ニッケル棒10をプラスの電気に印加させて陽極とし、ワイヤ4をマイナスの電気に印加させて陰極とすることによりニッケル棒10とワイヤ4を通電させてワイヤ4表面にニッケルめっきを析出させるための通電手段(不図示)、複数のワイヤ4をそれぞれめっき液槽5内で縦方向に走行させるためのワイヤ走行手段(不図示)等が適宜設けられている。
【0024】
めっき液槽5内に収容されるめっき液3としては、例えば、塩化ニッケルやスルファミン酸ニッケル等が用いられる。また、このめっき液3中には、砥粒2が分散されている。この砥粒2としては、例えば、銅、ニッケル、チタン等で被膜して導電性を持たせたダイヤモンド砥粒等を用いることできるが、他の導電性部材で被膜しても良い。砥粒2の粒径としては、例えば、5〜50μm程度のものが用いられるが、これらは用途等に応じて適宜決められるものであり、特にこの粒径に限定されるものではい。また、めっき装置1では、フィン部材9を用いて、めっき液3を流動させているため、従来のブラシめっきのようにブラシに砥粒2が食われてしまう恐れがないので、めっき液槽5内に投入される砥粒2のめっき液3中に占める重量比を、めっき液3を1とした場合0.002〜0.02程度の割合に抑えることができる。尚、この割合は、特にこれに限定されるものではなく、目的とするワイヤ4の砥粒率等によって適宜変更することは可能である。また、めっき液槽5内を縦方向に走行させるワイヤ4の本数を増やした場合等には、砥粒2の供給量もワイヤ4の本数増加に対応するように適宜調整される。また、めっき液3中の砥粒2の投入は、詳しくは図示しないが、めっき液3中の砥粒2の密度が一定以下になった際に随時追加投入するように密度測定計と砥粒投入装置とを制御装置を用いて制御することにより、砥粒2の量を調整することができる。この場合における砥粒2の投入口は、砥粒2を効率的にワイヤ4に対して供給するために、めっき液槽5の上方側に設けておくことが好ましい。
【0025】
ワイヤ4は、導電性を有する材料からなるものであり、例えば、ピアノ線、ステンレス線、タングステン線等を用いることができる。ワイヤ4の太さとしては、シリコンインゴットから半導体用ウェーハを切り出すために使用する場合等には、直径0.04〜0.4mm程度のものが用いられるが、ワイヤ4の太さは、用途等に応じて適宜決められるものであり、特にこの値に限定されるものではない。
【0026】
このようなワイヤ4は、図1及び図2に示すように、めっき液槽5の内周面51と柱状体6の外周面61の間に形成されるリング状流路Xを上から下へと縦方向に走行するように設けられている。このようにワイヤ4を上から下へと走行させた場合、リング状流路X(めっき液槽5内)へ投入された砥粒2も自重によって徐々にめっき液3中を下方へと移動するので、より効率的にワイヤ4に砥粒2を供給することができる。また、ワイヤ4は、図1に示すように、リング状流路Xの周方向に隣同士が干渉し合わないように所定間隔あけた状態で複数設けられているので、一度に複数のワイヤ4に対して砥粒2を供給することができる。これらのワイヤ4を走行させるための走行手段としては、詳しくは図示しないが、例えば、長尺なワイヤ4を所定の速度で送り出す送り出しドラムと、この送り出されたワイヤ4をリング状流路X内で縦方向に走行するようにガイドするローラーと、リング状流路X内を通過することにより砥粒2が固着されたワイヤ(電着ワイヤ工具)を巻き取る巻き取りドラム等から構成されている。尚、走行させるワイヤ4の本数は、特に限定されるものではなく、必要に応じて走行させるワイヤ4の本数を調整しても良い。また、走行させるワイヤ4の本数を増やす場合には、めっき液槽5の内周面51の直径を大きくすれば良い。これにより、リング状流路Xの周方向の長さを長く設けることができるので、より多くのワイヤ4を走行させることができる。
【0027】
めっき液槽5は、めっき液3を収容するものであり、その内周面51は略円筒状に形成されている。また、めっき液槽5内には、図1に示すように、隣り合うワイヤ4の間にめっきの際に陽極となるニッケル棒10が設けられている。尚、本実施形態では、陽極としてこのような複数のニッケル棒10を用いているが、めっき液槽5の内周面51側又は柱状体6の外周面61側に不溶性電極やニッケル箔を設けておいたり、或いは不溶金属であるチタンバスケットにニッケルを入れた状態でめっき液槽5内に格納しておいたりしても良い。
【0028】
柱状体6は、図2に示すように、回転可能な程度に下端側がめっき液槽5の底部、上端側がめっき液槽5の天井部と略接するように、めっき液槽5内の中央で縦方向に配置されている。また、図1に示すように、本実施形態では、柱状体6の外周面61は、六角形状に形成されているが、その他の多角形状又は円形状に形成されていても良い。このように外周面61が多角形状又は円形状で縦方向に長尺な柱状体6が、めっき液槽5内に配置されることにより、めっき液槽5の内周面51と外周面61の間にはリング状流路Xが形成される。このリング状流路Xの流路幅Wは、リング状流路Xの周方向にめっき液3を高速に流動させた場合に、めっき液3全体の流速が速くなる(半径方向での速度差を小さくする)ように、なるべく狭く形成することが好ましく、本実施形態では、5mm以上50mm以下程度となるように形成されている。また、このように流路幅Wを狭く形成することにより、めっき液槽5に収容されるめっき液3の量も少量に抑えることができるので、その分コストを軽減することができると共に、めっき液槽5の小型化も図ることができる。
【0029】
また、柱状体6は、図2に示すように、上端が駆動手段8に連結され、下端がめっき液槽5の土台11に設けられた軸受12に連結された回転軸7に取り付けられており、この回転軸7の回転に伴って柱状体6も回転するようになっている。尚、本実施形態では、回転軸7に柱状体6を取り付けた例を示しているが、回転軸7を柱状体として用いることも可能である。また、回転軸7の下端側を駆動手段8と連結するように構成しても良い。
【0030】
フィン部材9は、図1及び図2に示すように、リング状流路Xでめっき液3をその周方向に流動させるためのものであって、柱状体6の外周面61に取付治具13を介してねじ14等により固定されている。また、フィン部材9は、柱状体6の外周面61の縦方向に沿うように長尺に設けられており、この外周面61からめっき液槽5の内周面51に向かうように突出している。フィン部材9の材質としては、省電力化を図るために、軽量、且つ、ある程度の剛性を有するものが好ましく、例えば、樹脂部材やセラミックス部材、表面に耐酸性塗装を施した中空の金属部材等を用いることができる。
【0031】
このようなフィン部材9は、柱状体6の回転に伴って回転して、リング状流路Xでめっき液3を高速に流動させることにより、めっきの成長速度を速めるとともに、砥粒2をワイヤ4に対して供給する。この際、柱状体6は、めっき液槽5内のめっき液3に浸漬されているので、空気の巻き込みを防止することができる。また、柱状体6の回転に伴うフィン部材9の回転速度を調整することにより、リング状流路Xでのめっき液3の流速を調整することができる。このように、めっき装置1では、回転体となる柱状体6は1つだけであるため、駆動手段8の有するモータ等も1つ設けるだけで良いので、消費電力を軽減することができるとともに、小型化を図ることができる。尚、本実施形態では、図2に示すように、1個のフィン部材9が柱状体6の外周面61の縦方向に沿うように長尺に設けられているが、2個以上のフィン部材9が縦方向に所定の間隔をあけて連続して設けられていても良く、また、外周面61の縦方向に対して若干傾いた状態で取り付けられていても良い。また、フィン部材9は、図1に示すように、柱状体6の外周面61の周方向に等間隔で6個設けられているが、柱状体6の回転に伴ってリング状流路Xでめっき液3を流動させることができる構成であれば、この個数は特に限定されるものではない。また、フィン部材9は、柱状体6の外周面61に取付治具13を介して固定されているが、柱状体6の外周面61から突出するように柱状体6と一体形成されていても良い。
【0032】
以下、めっき装置1を用いた複合めっきの処理動作について図1及び図2を参照しつつ説明する。めっき装置1では、通電手段(不図示)によってめっき材料であるニッケル棒10とワイヤ4を通電した状態で、リング状流路X内のめっき液3中を上から下へと縦方向に複数のワイヤ4を走行させると共に、駆動手段8によって回転軸7を介して柱状体6を回転させることによりフィン部材9を回転させて、リング状流路Xでめっき液3を流動させる。これにより、砥粒2をワイヤ4の表面へと供給することができると共に、ワイヤ4の表面にニッケルめっきを析出させ、このニッケルめっきによって砥粒2をワイヤ4に均一且つ効率良く固着させることができる。また、フィン部材9は、めっき液3中に浸漬されており、めっき液3は、めっき液槽5内に密封状態で収容されているので、リング状流路X内でフィン部材9を回転させてめっき液3を流動させた場合でも、空気の巻き込みを防止することができる。また、フィン部材9の回転によってめっき液3は、高速に流動されるため、めっき液3内に発生する水素を散らして、めっき皮膜に気泡が発生するのを防止することができるので、品質の高い電着ワイヤ工具を製造することができる。
【0033】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るめっき装置1の他の一例について示すものである。このめっき装置1aは、図3に示すように、柱状体6の外周面61が円形状に形成され、外周面61の周方向には所定間隔で凹部62が形成されているものである。この凹部62は、外周面61の縦方向に長尺に形成されており、フィン部材9を取り付けるための取付治具13の厚みと略同一の深さになっている。従って、取付治具13を介してフィン部材9を柱状体6に固定した場合には、柱状体6の外周面61と取付治具13の表面は、段差がほとんどない状態になる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態に係るめっき装置1bについて、図4を参照しつつ説明する。尚、第1の実施形態に係るめっき装置1と同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0035】
めっき装置1bは、図4に示すように、めっき液槽5aが縦方向の回転軸回りに回転するよう構成され、柱状体6aは、めっき液槽5a内に縦向きに配置された状態で固定されている。めっき液槽5aの内周面51aには、該めっき液槽5aの回転に伴って、リング状流路Xでめっき液3を流動させるための流動機構として機能するフィン部材9aが設けられている。このフィン部材9aは、めっき液槽5aの内周面51aの縦方向に沿うように長尺に設けられており、この内周面51aから柱状体6aの外周面61aに向かうように突出している。
【0036】
このめっき装置1bを用いて複合めっきを行う場合には、通電手段(不図示)によってめっき材料であるニッケル棒10とワイヤ4を通電した状態で、リング状流路X内のめっき液3中を上から下へと縦方向に複数のワイヤ4を走行させると共に、駆動手段(不図示)によってめっき液槽5aを回転させることによりフィン部材9aを回転させて、リング状流路Xでめっき液3を流動させる。これにより、砥粒2をワイヤ4の表面へと供給することができると共に、ワイヤ4の表面にニッケルめっきを析出させ、このニッケルめっきによって砥粒2をワイヤ4に均一且つ効率良く固着させることができる。
【0037】
次に、本発明の第3の実施形態に係るめっき装置1cについて、図5を参照しつつ説明する。尚、第1及び第2の実施形態に係るめっき装置1、1bと同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0038】
めっき装置1cは、図5に示すように、柱状体6が縦方向の回転軸7回りに回転すると共に、めっき液槽5aが柱状体6の回転方向と逆方向に回転するものである。また、めっき液槽5aの内周面51aには、該めっき液槽5aの回転に伴って、リング状流路Xでめっき液3を流動させるための流動機構として機能するフィン部材9aが設けられ、柱状体6の外周面61には、該柱状体6の回転に伴ってめっき液3を流動させるための流動機構として機能するフィン部材9が設けられている。尚、めっき液槽5a及び柱状体6の回転速度は、ワイヤ4周辺でめっき液3が滞留するのを防止するために、異なる回転速度に調整することが好ましい。
【0039】
このめっき装置1cを用いて複合めっきを行う場合には、通電手段(不図示)によってめっき材料であるニッケル棒10とワイヤ4を通電した状態で、リング状流路X内のめっき液3中を上から下へと縦方向に複数のワイヤ4を走行させると共に、めっき液槽5aを回転させることによりフィン部材9aを回転させ、且つめっき液槽5aと逆方向に異なる回転速度で柱状体6を回転させることによりフィン部材9を回転させて、リング状流路Xで乱流を発生させてめっき液3を流動させる。これにより、砥粒2をワイヤ4の表面へと供給することができると共に、ワイヤ4の表面にニッケルめっきを析出させ、このニッケルめっきによって砥粒2をワイヤ4に均一且つ効率良く固着させることができる。尚、このようなめっき装置1cの構成において、めっき液槽5a又は柱状体6のいずれか一方のみを回転させることによってリング状流路Xでめっき液3を流動させるようにしても良い。また、本実施形態では、めっき液槽5aと柱状体6とが異なる回転方向に回転する例を示したが、それぞれ同方向に回転させることにより、リング状流路Xでめっき液3を流動させるようにしても良い。
【0040】
図6に示す本発明の第4の実施形態に係るめっき装置1dは、めっき液槽5bの内周面51bを多角形状に形成したものである。このめっき装置1では、内周面51bの多角形状の角にニッケル棒10の代わりに、陽極としてニッケル箔15が取り付けられており、この角付近を通るようにワイヤ4がそれぞれリング状流路Xを縦方向に走行するよう構成されている。これにより、フィン部材9を回転させてリング状流路Xでめっき液3を流動させた際に、内周面51bの角付近で乱流を発生させることができるので、ワイヤ4の表面に砥粒2を均一且つ効率良く固着させることができる。尚、本実施形態では、めっき液槽5bの内周面51bは、六角形状に形成されているが、その他の多角形状であっても良い。
【0041】
図7に示す本発明の第5の実施形態に係るめっき装置1eでは、めっき液槽5cの円形状の内周面51cに、外側に膨らむように略半円形状の凹条部52が形成されている。この凹条部52は、図7に示すように、内周面51cの周方向に所定間隔あけて形成されている。めっき装置1eでは、凹条部52は、内周面51cの縦方向全長に渡って形成されており、この凹条部52に陽極としてニッケル箔15が取り付けられている。また、めっき装置1eでは、この凹条部52をワイヤ4がそれぞれ走行するように構成されている。これにより、フィン部材9を回転させてリング状流路Xでめっき液3を流動させた際に、ワイヤ4によって流速が落ちることがないので、めっきの成長速度をより向上させることができる。また、凹条部52での砥粒2の滞留性が良くなるので、砥粒密度をあげることができ、電析率を向上させることができる。このようなめっき液槽5c内の内周面51cは、走行させるワイヤ4の本数に応じて凹条部52を形成することにより容易に装置の形態を変更することができるので、拡張性を高めることができる。尚、本実施形態では、内周面51cの周方向に凹条部52が6箇所形成されているが、凹条部52の数はこれに限定されるものではない。また、本実施形態では、凹条部52にニッケル箔15が取り付けられているが、ニッケル箔15の代わりにチタンバスケット等を陽極としてフィン部材9の間に設けるようにしても良い。
【0042】
次に、本発明の第6の実施形態に係るめっき装置1fについて、図8を参照しつつ説明する、尚、めっき装置1〜1eと同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0043】
めっき装置1fは、図8に示すように、フィン部材9、9aの代わりに、リング状流路Xでめっき液3を流動させるための流動機構として機能する吹出ノズル16を備えるものである。この吹出ノズル16は、例えば、めっき液3が格納された不図示のめっき液供給源等からめっき液3をリング状流路Xへと吹き出すものであり、めっき液槽5の内周面51の上方側等に設けられている。このように、吹出ノズル16では、吹出口からめっき液3を吹き出すことによってリング状流路Xでめっき液3を流動させることができる。また、不図示の調整バルブ等によってこの吹出ノズル16から吹き出すめっき液3の流量を調節することによってリング状流路Xでのめっき液3の流速を調整することもできる。尚、本実施形態では、吹出ノズル16は、図8に示すように、めっき液槽5の内周面51の周方向に等間隔で3個設けられている例を示しているが、吹出ノズル16の数は、特にこれに限定されるものではなく、リング状流路Xの大きさ等に応じて適宜変更しても良い。また、本実施形態では、吹出ノズル16の吹出口は、内周面51からリング状流路Xに突出するように設けられているが、内周面51に埋め込まれるように構成しても良い。また、吹出ノズル16の設置位置もめっき液槽5の内周面51に限定されるものではなく、柱状体6aの内周面61aに設けるように構成しても良い。
【0044】
以上の実施形態では、1台のめっき装置1〜1fを用いて複合めっきを行う場合について説明したが、このめっき装置1〜1fを複数台用いて複合めっきを行うことも当然可能である。
【0045】
また、以上の実施形態におけるめっき装置1〜1fでは、主に砥粒2が分散されためっき液3を用いた所謂複合めっき槽として利用した場合を例に説明したが、本発明に係るめっき装置は、砥粒2を分散しない下地めっきのストライクめっき槽や後めっき槽として用いることも当然可能である。
【0046】
このようなストライクめっき槽や後めっき槽として用いる場合には、めっき装置1gは、図9に示すように、めっき液槽5内に砥粒2が分散されていないめっき液3aを収容する。また、このめっき装置1gでは、陽極としてニッケル棒10の代わりに、めっき液槽5の内周面51にニッケル箔15が取り付けられている。このように、ニッケル棒10の代わりに、めっき液槽5の内周面51にニッケル箔15が取り付けることにより、フィン部材9を回転させてめっき液3をリング状流路Xで流動させた場合に、めっき液3がニッケル棒10によって乱流を生じることがなく、ワイヤ4の表面に均一なめっき皮膜を生成することができるので、好適である。尚、めっき装置1gでは、めっき液槽5の内周面51にニッケル箔15が取り付けられているが、柱状体6の外周面61にニッケル箔15を取り付けるようにしても良い。また、ニッケル箔15の代わりにチタンバスケット等を陽極として用いても良い。また、めっき装置1gでは、柱状体6の外周面61に取付治具13を介してフィン部材9を取り付けているが、めっき装置1a〜1fのように構成することも当然可能である。また、このような構成のめっき装置1eをストライクめっき工程及び後めっき工程に用いて、めっき装置1〜1fの何れかを複合めっき工程に用いることによって、より効率的に高品質な電着ワイヤ工具を製造することができる。
【0047】
尚、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るめっき装置は、ワイヤ表面のめっきの成長速度を向上させるめっき装置やシリコンインゴット等から半導体用ウェーハを切り出すためのワイヤ工具を製造するために、ワイヤ表面に砥粒を均一且つ効率的に固着させるめっき装置等として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1〜1g めっき装置
2 砥粒
3、3a めっき液
4 ワイヤ
5〜5c めっき液槽
51〜51c 内周面
6、6a 柱状体
61、61a 外周面
9、9a フィン部材
16 吹出ノズル
X リング状流路
W 流路幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液内を走行するワイヤの表面にめっきを施すめっき装置であって、
前記めっき液を収容するめっき液槽と、
該めっき液槽内に縦向きに配置される柱状体と、
前記めっき液槽の内周面と前記柱状体の外周面の間に形成されるリング状流路を縦方向に走行するワイヤに対して、前記リング状流路で前記めっき液を流動させる流動機構と、を備えることを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記めっき液には、砥粒が分散されており、
前記流動機構は、前記リング状流路を縦方向に走行するワイヤに対して、前記砥粒を供給するように前記リング状流路で前記めっき液を流動させることを特徴とする請求項1記載のめっき装置。
【請求項3】
前記柱状体又は/及び前記めっき液槽は、縦方向の回転軸回りに回転するものであり、
前記流動機構は、前記柱状体又は/及び前記めっき液槽の回転に伴って前記めっき液を流動させるための複数のフィン部材を前記柱状体の外周面又は/及び前記めっき液槽の内周面に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合めっき装置。
【請求項4】
前記柱状体の外周面から前記めっき液槽の内周面までの距離である前記リング状流路の流路幅は、5mm以上50mm以内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合めっき装置。
【請求項5】
前記柱状体の外周面は、円形状又は多角形状に形成されており、
前記めっき液槽の内周面は、円形状、多角形状、又は円形状の周方向の所定箇所が外側に膨らんだ形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の複合めっき装置。
【請求項6】
前記フィン部材は、前記柱状体の外周面又は/及び前記めっき液槽の内周面の縦方向に長尺に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の複合めっき装置。
【請求項7】
前記リング状流路を複数のワイヤが縦方向に走行することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の複合めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−36076(P2013−36076A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172139(P2011−172139)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(598031268)株式会社クリスタル光学 (11)
【出願人】(508364554)株式会社ツールバンク (7)
【Fターム(参考)】