説明

めっき関連槽中での微生物増殖抑制方法およびこれに用いる微生物の増殖抑制システム

【課題】 めっき槽の溶液成分に関わらず、また何ら物質を添加せずめっき液等の組成に影響を与えることなく、めっきシステム内の微生物増殖を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】 循環ポンプおよびろ過フィルターを含み、めっき関連槽中の高金属濃度の溶液を循環させる循環配管の少なくとも一部において、磁界と直流電流を付与することを特徴とするめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法、並びに循環ポンプおよびろ過フィルターを含む、高金属濃度の溶液の循環配管において、循環ポンプの上流側に電磁気装置を設けたことを特徴とする微生物増殖抑制システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はめっき槽、めっき液回収槽、水洗槽などめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法およびこれに利用することのできる微生物の増殖抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
めっき液の成分は多岐に渡り、金属イオンの他、酸成分、アルカリ成分や様々な添加剤を含む場合がある。そのためめっき液の色調は必ずしも無色透明ではなく、主に金属イオンなどの成分の種類により、その濃度等に比例した色調、透明度となっている。
【0003】
このめっき液中に、周辺の作業環境や使用される水や、その供給設備の影響から微生物が混入する場合があり、この混入した微生物は、状況によってはめっき槽や、めっき液回収槽、水洗槽などのめっき関連槽中で増殖することがある。そして、めっき関連槽中において、微生物が一定以上に増殖すると、微生物がめっき液や回収液あるいは水洗液中で浮遊することがある。そして、この浮遊した微生物がめっき製品に付着すると、めっき不良となる場合があり、生産性の低下につながる。そのため、めっき関連槽中での微生物の増殖を抑制することが必要となっている。
【0004】
ところで、めっき槽にはめっき液内の混入物を除去するため、ろ過フィルターを備えた循環配管が設置されている場合が多い。このフィルターは、ろ過精度1〜20μm程度のもので、そのめっきの用途に合ったものが使用される。そして、ろ過精度1μmのフィルターが使用されている場合、真菌などの一般的な微生物であればある程度は除去することは可能である。しかしこの様に十分なろ過精度を持ったフィルターで適切な交換を実施したにも関わらず、時間の経過とともに微生物が増殖することが多い。これはめっき関連槽の内壁や、これらの付帯設備である配管内壁に付着してしまった微生物がその場で増殖し、結果的にめっき関連槽内の微生物量が増加するためである。このことからめっき関連槽の微生物増殖抑制には、槽内壁面や配管内壁への微生物の付着を防ぐ対策が重要であることがわかる。
【0005】
従来、めっき関連槽での微生物付着や増殖を防止する対策としては、微生物が一定以上に増殖する前に槽内のめっき液を廃棄し、めっき関連槽壁面や循環配管内壁を清掃した後、再度建浴等する方法が一般的である。しかし前述のとおりめっき関連槽では高濃度に金属イオンなどの成分を含む場合が多く、清掃に伴い発生する廃液は処理が必要である。その際に既存の排水処理設備で処理する場合は、処理バランスの管理を確実にしないと処理不良を発生する場合がある。また処理が確実に行えたとしても、その管理と処理薬品について費用が発生するという問題がある。更に廃液を産業廃棄物処理業者に引取り依頼する場合でも、やはり処理費用が大きくなるという問題がある。どちらにしても、廃棄−再建浴では環境負荷が発生し、貴重な金属資源の廃棄につながる。
【0006】
現在、各種の溶液や、処理液等で増殖した微生物を減らす方法として、様々な滅菌処理が試されている。現在の主な滅菌処理方法としては、UV照射による殺菌力を利用する方法(特許文献1)、光触媒などやオゾンの酸化力を利用する方法(特許文献2、特許文献3および特許文献4)、酸化力や殺菌作用のある薬品(次亜塩素酸やホルマリンなど)を添加する方法などが知られている。
【0007】
しかしながら、めっき液は、その成分により着色していることが多く、このような着色して透明度が低い溶液の場合、上述の滅菌処理方法の内でUV照射を利用する方法(UV照射を伴う光触媒利用を含む)では十分な効果が得られないことが確認されている。またそのUVの照射範囲においては効果があったとしても、UV照射範囲外のめっき槽や途中配管の壁面などに付着した微生物には効果が及ばない懸念がある。
【0008】
また、オゾンを利用する方法は、系内全体に作用させることができる有効な滅菌法である。しかし余分なオゾンが酸素へ分解されるまでの間は、めっき槽に残存することになる。そして、めっきの種類によっては、このオゾンが溶液成分やめっき素材あるいはめっき皮膜へ悪影響をおよぼし、新たな製品不良の原因となり適用できない場合がある。
【0009】
更に次亜塩素酸やホルマリンなどの薬品を添加する方法も、系内全体に作用させられるが、溶液成分やめっき皮膜への影響により製品不良の原因となり適用出来ない場合が多い。更にまた、めっき製品不良の原因にならない薬品であっても、その薬品自身の生物への有害性により作業者や環境へあらたな負荷と管理費用を発生させる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3741491号
【特許文献2】特開2003−175333
【特許文献3】特開2001−327974
【特許文献4】特開平10−295784
【特許文献5】特開2003−14189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は上に述べた課題について、めっき関連槽の溶液成分に関わらず、また何ら物質を添加せずめっき液等の組成に影響を与えることなく、めっき関連槽及び付帯設備である配管内の微生物増殖を抑制する方法を提供し、建替え清掃の際に発生する金属イオンを含むめっき廃液を減らし、廃液処理の管理費用と環境負荷の削減と貴重な金属資源節約を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、めっき関連槽での微生物の成育を観察し、その成育抑制法に関し、鋭意検討を行っていたところ、めっき関連槽の循環配管中に電磁気装置を取り付けることにより、微生物が配管に付着し、ここでコロニーを形成することを防ぐことができ、更に、遊離した微生物はフィルターなどで簡単に系内から除去しうることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、循環ポンプおよびろ過フィルターを含み、めっき関連槽中の高金属濃度の溶液を循環させる循環配管中において、当該配管の少なくとも一部に磁界と直流電流を付与することで微生物の付着を防止することを特徴とするめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法である。
【0014】
また本発明は、循環ポンプおよびろ過フィルターを含む、高金属濃度の溶液の循環配管において、循環ポンプの上流側に電磁気装置を設けたことを特徴とする微生物増殖抑制システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、めっき槽中のめっき液や、めっき液回収槽中の回収液など、金属イオンを高濃度に含む溶液中での微生物の増殖を有効に抑制することができる。
【0016】
従って、微生物の増殖により必要となる、めっき槽内の洗浄回数を減らすことができ、これによって生じる金属イオンを高濃度で含む廃液の発生を大幅に抑制することができる。そしてこの結果、廃液処理の管理費用と環境負荷の削減や貴重な金属資源節約が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の微生物増殖抑制システムの、めっき関連槽への取り付け状態を示す模式図である。
【図2】めっき配管への電磁気装置の取り付け状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「めっき関連槽」とは、めっき装置におけるめっき槽、めっき液回収槽、水洗槽等の金属を高濃度に含有する溶液が存在する槽を意味する。
【0019】
また、本発明の、「めっき液」には、微生物が発生しうる全ての電気めっき液および無電解めっき液を含み、このめっき液は、金属イオン、酸成分またはアルカリ成分、光沢剤、キレート剤等の公知の添加剤を含むものである。特に本発明を好ましく採用しうるめっき液としては、硫酸銅めっき浴等の酸性銅めっき浴、半光沢ニッケルめっき浴、光沢ニッケルめっき浴等のニッケルめっき浴が挙げられる。
【0020】
本発明のめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法は、循環ポンプおよびろ過フィルターを含むめっき関連槽中の高金属濃度の溶液を循環させる循環配管の少なくとも一部で磁界および直流電流を付与することを特徴とするものである。
【0021】
一般に、めっき装置のめっき関連槽には、循環ポンプおよびろ過フィルターを含む循環ろ過装置が循環配管を介して設置されていることが多いため、本発明方法はそれを利用し、新たにこの循環配管の一部に、電磁気装置を装着することで本発明方法が実施可能である。
【0022】
また、めっき液回収槽、水洗槽等で循環配管が無い場合であっても、その槽容量に対応した、循環ポンプ、ろ過フィルターと電磁気装置を組み合わせた、本発明の微生物増殖抑制システムを設置、稼動することで微生物増殖防止効果を得ることができる。
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明方法で用いられる微生物増殖抑制システムについて説明を行う。
【0024】
図1は、本発明の微生物増殖抑制システムを、めっき関連槽へ取り付けた状態を示す図面である。図中、1は微生物増殖抑制システム、2は電磁気装置、3は循環ポンプ、4はろ過フィルター、5はめっき関連槽、6は循環配管を示す。
【0025】
本発明の微生物増殖抑制システム1は、図1に示されるように、電磁気装置2、循環ポンプ3およびろ過フィルター4を含んで構成される。このうち、2は、循環配管6中のめっき液等に磁界と直流電流を与えるものである。
【0026】
上記電磁気装置2は、図2に示すように、配管外側から磁界を付与する磁気装置2aと、電源から直流電流を提供する電気整流調節装置2bとで構成されており、直流電流は、+側リード線7aおよび−側リード線7bを介して循環配管6に流される。そして、循環配管6が塩化ビニル管や外側がライニングされた管のような絶縁体である場合は、2本のリード線7aおよび7bを取り付ける箇所の間の配管表面全体を、例えば薄鋼板のような導電体9で被覆することにより、所定の効果を得ることが出来る(特許文献1)。図2中、8aおよび8bは、それぞれ+側リード線7aおよび−側リード線7bを止めるための固定バンドである。上記のような磁界と直流電流を同時に供給できる電磁気装置は、例えば、アリオレス電磁気装置(アネス株式会社製)等として既に市販されているので、これを利用することができる。
【0027】
以上のように電磁気装置を利用することにより、磁界による剥離および付着防止効果と、配管外側に装着した2本のリードから直流電流が溶液の流れる方向に沿って作用することにより、磁界の作用に指向性が付与されて相乗効果が得られる。この電磁気装置によって付与される磁界は、配管の太さによっても変化するが、0.01〜10テスラ程度である。また、付与される直流電流も、配管の太さによって変化するが、10mA(2V)ないし1000mA(10V)程度で所定の微生物増殖抑制効果が得られる。
【0028】
一方、微生物増殖抑制システム1において利用される循環ポンプ3には、特に制約はないが、例えば配管内での流速が1.0m/秒以上と十分なものであることが好ましい。また、ろ過フィルター4のろ過精度は、微生物をろ過しうる程度のもの、例えば、0.5〜1μm程度であることが好ましい。このろ過フィルターとしては、そのめっき槽あるいは回収槽等のめっき液等に合わせたものが使用できる。
【0029】
以上説明した本発明の微生物増殖抑制システム1は、めっき関連槽5の側部、底部あるいは上部に設けた吸込部でめっき液等と連通し、利用することができる。また、微生物増殖抑制システム1で処理しためっき液等は、循環配管6を通じ、めっき関連槽5に戻される。
【0030】
なお、図1では、循環ポンプ3の上流側に電磁気装置2を装着しているが、現場の状況に応じて、循環ポンプ6の下流側や、ろ過フィルター4の下流側に装着することも可能である。
【0031】
従来より、水道水やボイラ水などの配管に、磁気装置や電磁気装置を設置し、磁気等を配管内に作用させることで、配管内付着物を剥離したり、付着を防止できることはよく知られている。しかしながら、めっき浴等の金属イオンが高い溶液について、しかもその中で生育する微生物の増殖を抑制することについては、全く報告がない。
【0032】
本発明のめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法によれば、磁界および直流電流を与える部位は一部であるが、めっき関連槽内の溶液を循環処理することで、そのめっき関連槽と循環配管内全体にその効果が及ぼされる。そして本発明方法は、微生物増殖の抑制効果を少しでも高めるに、常時循環処理することが望ましいが、循環処理を再開すればその効果は直ちに発揮されるので、めっきライン操業等の関係で夜間や休日などに装置が停止しても良い。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0034】
実 施 例 1
図1に示すような、電磁気装置、循環ポンプおよびろ過フィルターより構成される微生物増殖抑制システムを、清掃済みの75L容めっき槽に、めっき液が循環可能(約30L/分)なように取り付けた。電磁気装置としては、アリオレス電磁気装置S型(アネス株式会社製)を用いた。このめっき槽に、下記組成の硫酸銅めっき液を100L準備し、この中に硫酸銅めっき液で増殖しうる微生物(真菌類)を0.5g程度加えた。このめっき液を2つにわけ、一方は本発明の試験用に、他方は対照用に使用した
【0035】
[ 硫酸銅めっき液 ]
硫酸銅・5水和物200g/L、硫酸30g/L、塩素イオン40mg/Lからなる基本浴組成に対し、荏原ユージライト社製硫酸銅めっき用添加剤(CU−BRITE VFII−A20ml/L、CU−BRITE VFII−B1ml/L)を添加して調製した。
【0036】
上記微生物増殖抑制システムを、循環処理中の周辺環境を同一にしながら、日中連続8時間は運転、夜間と週末は停止しながら微生物の増殖抑制処理を行った。上記システムでの循環配管は、2cmΦの塩化ビニル製パイプであり、電磁気装置の付与する磁力は、約0.5テスラであり、直流電流は、80mA(6V)とした。また、この本発明の微生物増殖抑制システムに組み込まれたろ過フィルターとしては、樹脂製でろ過精度1μmのものを使用し、配管内流速は約1.5m/秒とした。なお対照方法では、循環装置に電磁気装置を設置しない以外は、上記と同様なめっき槽および循環ろ過装置を使用し、本発明方法と同様運転を行った。
【0037】
連続処理開始から2週間後に微生物の増殖状況を確認した。微生物の増殖状況は、系内のめっき槽壁面や、循環配管の壁面10cmにおいて、直径1mm以上に成長した微生物コロニーの数で示した。これらの結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から明らかなように、循環ポンプの前に電磁気装置を設けた本発明方法では、微生物コロニーの発生が極めて少なかった。これに対し、電磁気装置を設けない対照方法では、極めて多くのコロニーが確認されており、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明方法は、例えば、既存や新設の循環配管の外側に電磁気装置を取り付け、従来通りめっき液等を循環処理させることにより、簡単にめっき槽等における微生物の増殖を抑制することができるものである。しかもこの方法は、めっき槽の溶液の成分によらず、またなんら物質を添加することもないのでめっき液等の組成に影響を与えることのないものである。
【0041】
従って、極めて簡単にめっき槽における微生物の増殖抑制が可能になり、微生物の増殖に伴うめっき液の廃棄などを回避し、経済的にめっき作業を行うことができる。
【0042】
また、めっき装置中のめっき液回収槽や、水洗槽等に本発明の微生物増殖システムを取り付けることで、これら槽中での微生物の増殖を防止が可能であり、更にこれらの槽で濃縮されるめっき液をめっき槽に返送することで、廃液処理のコストを下げることができる。
【0043】
このように、本発明の微生物増殖防止方法および微生物増殖抑制システムは、多くのめっき作業において、廃液処理の管理費用と環境負荷の削減、貴重な金属資源節約が可能となり、経済性を高めることが可能となるものである。
【符号の説明】
【0044】
1 … … 微生物増殖抑制システム
2 … … 電磁気装置
2a … … 磁気装置
2b … … 電気整流調節装置
3 … … 循環ポンプ
4 … … ろ過フィルター
5 … … めっき関連槽
6 … … 循環配管
7 … … リード線
7a … … +側リード線
7b … … −側リード線
8 … … 固定バンド
8a … … +側リード線用固定バンド
8b … … −側リード線用固定バンド
9 … … 導電体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環ポンプおよびろ過フィルターを含み、めっき関連槽中の高金属濃度の溶液を循環させる循環配管中において、当該配管の少なくとも一部に磁界と直流電流を付与することで微生物の付着を防止することを特徴とするめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法。
【請求項2】
更に、付着が防止され、循環配管内を浮遊する微生物を、ろ過フィルターで除去することを特徴とする請求項1記載のめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法。
【請求項3】
ろ過フィルターのろ過精度が、0.5ないし1μmである請求項1または2記載のめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法。
【請求項4】
めっき関連槽が、めっき槽、めっき液回収槽またはめっき水洗槽である請求項1ないし3の何れかの項記載のめっき関連槽中での微生物増殖抑制方法。
【請求項5】
循環ポンプおよびろ過フィルターを含む、高金属濃度の溶液の循環配管において、循環ポンプの上流側に電磁気装置を設けたことを特徴とする微生物増殖抑制システム。
【請求項6】
めっき関連槽中の高金属濃度の溶液を処理するものである請求項5記載の微生物増殖抑制システム。
【請求項7】
配管が非電導性のものであり、当該配管を導電体で被覆し、電磁装置から直流電流を流すようにした請求項5または6記載の微生物増殖抑制システム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−52309(P2011−52309A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204576(P2009−204576)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)