説明

めっき電流密度分布測定装置およびめっき電流密度分布の測定方法

【課題】陰極板におけるめっき電流密度の面内分布の精密な測定を実現する手段を提供する。
【解決手段】めっき槽;めっき槽に収容されるめっき液の液面よりも下側に少なくとも一部が配置される、アノードおよび被めっき部材;第一の絶縁体およびその一方の面上に形成された第一の測定用電極を備え、被めっき部材のめっきが施される面の一部に当該第一の絶縁体が対向するように配置される第一の電流測定体;めっき電源;めっき電源の陽極用端子とアノードとを電気的に接続する第一の配線;めっき電源の陰極用端子と被めっき部材とを電気的に接続する第二の配線;めっき電源の陰極用端子と第一の測定用電極とを、当該第一の測定用電極と被めっき部材とが並列関係をなすように電気的に接続する第三の配線;ならびに第三の配線上に配置される第一の電流測定手段を備えるめっき電流密度分布測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき電流密度分布測定装置およびめっき電流密度分布の測定方法に関する。
本発明において、めっき電流密度分布とは、めっき液中にあるアノードと被めっき部材との間に電圧を印加したときに、被めっき部材におけるめっきが施される面(以下、「被めっき面」ともいう。)におけるめっき電流密度(単位:A/dm)の、被めっき面内での分布を意味する。
【背景技術】
【0002】
新たな組成のめっきを行ったり、めっきが施される被めっき部材の形状が新たな形状であったりする場合には、そのめっきに求められる特性(具体的には、めっき厚、めっき外観、密着性、耐食性などが例示される。)を適切な範囲内に制御するために、めっき電流密度、攪拌速度、めっき液の温度などのめっき条件を最適化する必要がある。
【0003】
そのような最適なめっき条件を設定するための簡易的な試験として、ハルセル試験がよく知られている。ハルセル試験を行うための装置(ハルセル試験装置)では、アノードをなす陽極板と、この陽極板に対して斜めに傾いて配置される陰極板(被めっき部材に相当する。)との間に電圧を印加して、陰極板に析出しためっきの状態を評価して適切なめっき条件を設定する。
【0004】
ここで、陽極板と陰極板とは斜めに傾いて配置されているため、陰極板の陽極板に対向する面の各位置と陽極板との相対的な位置関係は、陰極板のめっき液の液面に平行な方向に沿って変化する。また、めっき液を攪拌しながらめっきを行う場合には、めっき槽の底面が台形となっているため、陰極板の陽極板に対向する面の各位置におけるめっき液の液流の程度は異なっていることが多い。
【0005】
このため、陽極板と陰極板との間に電圧を印加すると、陰極板の陽極板に対向する面の各位置におけるめっき電流密度は異なり、陰極板の各位置で異なるめっき条件で析出しためっきが得られる。そこで、得られた陰極板上のめっきの各位置での析出状態(めっき厚、外観など)を評価することによって、好適なめっき条件を見出すことができる。
【0006】
このハルセル試験装置は小型で簡易的なものであるから、実際の工程におけるめっき条件を再現するために、様々な改良が施されている。
例えば、特許文献1では、フープめっきや電線へのめっきなどにおいて求められる高速電気めっきを再現できるように、陰極板に代えて棒状の陰極部材を用い、その中心軸周りに回転可能とする機構を備えるめっき試験装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3185191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のハルセル試験装置やその改良装置では、陰極板におけるめっき電流密度の分布は、めっき電流密度が直接的に測定されるのではなく、めっき電流密度の変動に基づき変化するめっきの析出状態を反映して変化するめっき厚などのめっき特性を代用特性として測定することにより、評価されていた。
【0009】
しかしながら、このような評価方法では、陰極板上の被めっき面の異なる位置に析出しためっきについて、代用特性として用いた評価項目が変化していない、またはその変化量が小さい場合には、それらの位置においてめっき電流密度は実質的に同一であったと認識されてしまうという問題点を有する。すなわち、評価しためっき特性の変化としては表れないめっき電流密度の変動が評価しなかっためっき特性の変化をもたらしている場合があっても、これを認識することができない。この評価しなかっためっき特性が試験段階では認識不可能なめっき特性、例えば長期的な耐食性などであるときには、そのめっき特性が管理されていないめっきを備える製品が量産され、後日大量の不良品を市場から回収する必要に迫られる可能性がある。
このため、陰極板におけるめっき電流密度の分布を直接的に評価する手段が望まれていた。
【0010】
本発明は、このような技術背景を鑑み、陰極板におけるめっき電流密度の面内分布の直接的な測定を実現する測定装置および測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)めっき槽;前記めっき槽に収容されるめっき液の液面よりも下側に少なくとも一部が配置される、アノードおよび被めっき部材;第一の絶縁体およびその一方の面上に形成された第一の測定用電極を備え、前記被めっき部材のめっきが施される面の一部に当該第一の絶縁体が対向するように配置される第一の電流測定体;めっき電源;前記めっき電源の陽極用端子と前記アノードとを電気的に接続する第一の配線;前記めっき電源の陰極用端子と前記被めっき部材とを電気的に接続する第二の配線;前記めっき電源の陰極用端子と前記第一の測定用電極とを、当該第一の測定用電極と前記被めっき部材とが並列関係をなすように電気的に接続する第三の配線;ならびに第三の配線上に配置される第一の電流測定手段を備えることを特徴とするめっき電流密度分布測定装置。
【0012】
(2)第二の絶縁体およびその一方の面上に形成された第二の測定用電極を備え、当該第二の測定用電極と前記第一の測定用電極とを非接触としつつ、前記被めっき部材のめっきが施される面に当該第二の絶縁体が対向するように配置される第二の測定用電極;前記めっき電源の陰極用端子と前記第二の測定用電極とを、当該第二の測定用電極、前記第一の測定用電極および前記被めっき部材が並列関係をなすように電気的に接続する第四の配線;ならびに第四の配線上に配置される第二の電流測定手段をさらに備える上記(1)記載の装置。
【0013】
(3)前記めっきが施される面上の複数の位置に前記第一の電流測定体が配置されることを可能とする配置調整手段をさらに備える上記(1)または(2)に記載の装置。
【0014】
(4)めっき液中にあるアノードと被めっき部材との間に電圧を印加したときに、当該被めっき部材のめっきが施される面におけるめっき電流密度分布を測定する方法であって、前記めっきが施される面の一部に絶縁物を介して測定用電極を配置し、前記アノードとめっき電源の陽極用端子とを電気的に接続し、前記被めっき部材および前記測定用電極をこれらが並列関係を有するように前記めっき電源の陰極用端子に電気的に接続し、前記めっき電源から電圧を印加して、前記測定用電極に流れるめっき電流を測定し、当該測定されためっき電流に基づいて、前記めっきが施される面における前記測定用電極が配置された部分のめっき電流密度に係る情報を得ることを特徴とするめっき電流密度分布の測定方法。
【0015】
なお、「めっき電流密度に係る情報」は、めっき電流密度のみならず、測定された電流値をも含む。めっきが施される面における測定用電極が配置される部分の面積が一定であれば、電流値はめっき電流密度と同等に扱うことができる。
【0016】
(5)前記測定用電極を複数用意し、前記めっきが施される面の異なる部分に互い非接触として当該複数の測定用電極を配置し、当該複数の測定用電極に流れるめっき電流を個別に測定して、前記めっきが施される面の異なる部分のそれぞれにおけるめっき電流密度に係る情報を得る上記(4)記載の測定方法。
【0017】
(6)前記測定用電極の前記めっきが施される面の配置を変化させることにより、一個の前記測定用電極を用いて、前記めっきが施される面上の複数の位置におけるめっき電流を測定して、当該複数の位置のそれぞれにおけるめっき電流密度に係る情報を得る上記(4)または(5)に記載の測定方法。
【発明の効果】
【0018】
上記の発明によれば、被めっき部材のめっきが施される面におけるめっき電流の面内分布が直接的に得られる。したがって、めっき電流密度などのめっき条件を従来よりも精密に設定することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置の構成を概念的に示す図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置の構成を概念的に示す図である。
【図3】実施例1において測定されためっき電流の時間変動を示すグラフである。
【図4】実施例2において使用された被めっき部材の形状を概念的に示す正面図(a)および正面図のA−A断面での断面図(b)である。
【図5】実施例2において使用された被めっき部材に付着させた電流測定体についての、第一の座繰り側の配置(a)および第二の座繰り側の配置(a)を概念的に示す図である。
【図6】実施例1において測定されためっき電流の時間変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置について以下に説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置の構成を概念的に示す図である。
【0021】
本実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100は、めっき槽1および使用時においてめっき槽1に収容されるめっき液の液面よりも下側に少なくとも一部が配置されるアノード2および被めっき部材3を備える。アノード2の材質は導電性を有している限り任意であり、その形状も任意である。被めっき部材3の材質も導電性を有している限り任意であり、その形状も任意である。アノード2と被めっき部材3との相対配置も任意である。図1ではアノード2と被めっき部材3とはその間隔も一定となるように対向して配置されているが、ハルセル試験装置のように、アノード2が被めっき部材3に対して斜めに傾いた状態で配置されてもよい。
【0022】
本実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100は、めっき電流を測定する部材として、第一の絶縁体5およびその一方の面上に形成された第一の測定用電極6を備える積層体からなる第一の電流測定体7を備える。そして、この第一の電流測定体7は、第一の絶縁体5が被めっき部材3のめっきが施される面(被めっき面)4に第一の絶縁体5が対向するように配置される。好ましい一態様では、第一の絶縁体5は直接的にまたは粘着手段などにより間接的に被めっき面4に付着される。第一の絶縁体5を被めっき面4に直接的に付着させる場合には、第一の絶縁体5が粘着剤からなっていることが好ましい。
【0023】
第一の絶縁体5の材質は絶縁性材料であれば限定されない。第一の測定用電極6の材質は導電性材料であれば限定されないが、被めっき面4を構成する材料と同一の材料からなることが好ましい。
【0024】
第一の電流測定体7の厚さは限定されないが、薄ければ薄いほど好ましい。過度に厚い場合には、その第一の電流測定体7の第一の絶縁体5が対向する部分の被めっき面4における電流密度と第一の電流測定体7の第一の測定用電極6におけるめっき電流密度との相違が顕著となり、第一の電流測定体7によるめっき電流の測定精度が低下する。
【0025】
第一の電流測定体7の被めっき面への投影面積も限定されないが、この投影面積がめっき電流密度分布のグリッドサイズとなるため、その面積での測定精度が確保される限り小さいことが好ましい。
【0026】
本実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100は、第一の電流測定体7と同様の構成で被めっき面4に配置される第二の電流測定体8をも備える。この第二の電流測定体8が備える第二の測定用電極は第一の測定用電極6と非接触とされる。これらの電極が接触してしまうと、アノードに対する互いの電位が同一となり、めっき電流密度分布を測定することができなくなってしまう。
【0027】
以上のめっき槽1内の配置を備えるめっき電流密度分布測定装置100は、めっき電源9を備える。このめっき電源は、正電圧を出力するための陽極用端子10と負電圧を出力するための陰極用端子11とを備え、少なくとも直流での電圧印加が可能とされる。その定格電流および定格電圧は任意であり、試験条件に応じて設定されるべきものである。
【0028】
上記のめっき電源9の陽極用端子10は、導電体からなる第一の配線12によってアノード2と電気的に接続されている。一方、陰極用端子11は、導電体からなる第二の配線13によって被めっき部材3と電気的に接続されている。さらに、陰極用端子11は、導電体からなる第三の配線14によって、第一の電流測定体7が備える第一の測定用電極6と、被めっき部材3と第一の測定用電極6とが並列関係をなすように電気的に接続される。
【0029】
かかる構成を備えることにより、被めっき面4における第一の絶縁体5に対向する部分に流れるべきめっき電流は、第一の測定用電極6および第三の配線14を通じて流れることになる。したがって、第三の配線14に配置される第一の電流測定手段15により、被めっき面4における第一の絶縁体5に対向する部分に流れるべきめっき電流を測定することが実現される。第一の電流測定体7の被めっき面4への投影面積は既知であるから、この測定されためっき電流を上記の投影面積で除することにより、被めっき面4における第一の絶縁体5に対向する部分におけるめっき電流密度を直接的に求めることができる。なお、上記の投影面積は既知であるから、第一の電流測定手段15により測定された電流値をめっき電流密度の代用値としてもよい。
【0030】
また、本実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100は、めっき電源9の陰極用端子11と第二の電流測定体8が備える第二の測定用電極とを、第二の測定用電極、第一の測定用電極6および被めっき部材3が並列関係をなすように電気的に接続する第四の配線16を備える。そして、第四の配線16上には第二の電流測定手段17が配置されており、この第二の電流測定手段17によって、被めっき面4における第二の電流測定体8が備える第二の絶縁体に対向する部分に流れるべきめっき電流を第一の電流測定体7とは独立に測定することが実現される。第二の電流測定体8の被めっき面4への投影面積も既知であるから、第二の電流測定手段17により測定しためっき電流から、被めっき面4における第二の絶縁体に対向する部分のめっき電流密度を直接的に求めることができる。なお、第一および第二の電流測定体7、8の被めっき面4への投影面積を同一にしておけば、第一および第二の電流測定手段15、17により測定された二つの電流値の比はそれぞれの電流測定体の絶縁体が対向する部分のめっき電流密度の比に等しくなる。
【0031】
第一の電流測定手段15および第二の電流測定手段17は電流計であってもよいし、シャント抵抗と電圧測定手段とからなっていてもよい。
【0032】
本実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100は上記のように2つの電流測定体を備えるが、電流測定体が1つであってもよいし、3個以上であってもよい。電流測定体が複数ある場合には、一度のめっきにより被めっき面4のめっき電流密度分布を測定することができるため、好ましい。
【0033】
また、複数の電流測定体を用いて測定すれば、被めっき面4における異なる位置のめっき電流の時間変動を同時に計測することができる。従来技術に係る被めっき面の電流密度分布の評価手段(例えばハルセル試験)では、前述のように、析出しためっきにおける特性(膜厚、外観など)を測定することによりめっき電流密度分布を評価するため、得られるめっき電流密度分布に関する情報は限定的である。例えば、得られためっきの厚さや外観に基づいてめっき電流密度分布を評価する場合には、めっき初期におけるめっき電流密度の影響は、その後に析出するめっきによってほとんど消されてしまう。これに対し、上記のように被めっき面4上の複数の電流測定体を用いてめっき電流の時間変動を同時に計測すれば、被めっき面4上のある位置におけるめっき初期のめっき電流密度の変動を他の位置と対比可能に評価することができる。したがって、例えば、ある位置においてめっき初期にめっき電流密度が過度に高い状態を経由している場合には、その後に析出しためっきのめっき状態は適切であるためめっき厚や外観の観点からは他の位置と変化がないときでも、その位置に係るめっき条件でめっきすればめっきの密着性が低下する可能性があることなどを知ることができる。
【0034】
続いて、本発明の第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置について説明する。
図2は、本発明の第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置の構成を概念的に示す図である。
【0035】
本発明の第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置200の基本的な構成は本発明の第一の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100と同一であるから、相違点を中心に説明する。
【0036】
本発明の第一の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置100は第一および第二の電流測定体7、8を備えるが、第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置200は第一の電流測定体7のみを備え第二の電流測定8を備えない。
【0037】
一方、第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置200は、第一の電流測定体7が被めっき面上の異なる位置に第一の電流測定体7が配置されることを可能とする配置調整手段20を備える。図2では、第一の電流測定体7がその先端に取り付けられたアームと、そのアームをめっき槽におけるめっき液の液面と平行な方向に移動させる駆動手段(モーターなど)とからなる配置調整手段20が例示的に示されている。配置調整手段20は、第一の電流測定体7が配置される位置を二次元的または三次元的に変動させることができることが好ましい。そのようにすることで被めっき面の任意の位置に第一の電流測定体7を配置することが実現される。
【0038】
第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置200が備える配置調整手段20を用いて第一の電流測定体7を被めっき面上で移動させ、各位置において第一の電流測定手段により電流を測定すれば、めっき電流密度分布測定装置200が備える第一の電流測定体7が一つだけであっても、被めっき面のめっき電流密度分布を測定することが実現される。
【0039】
第二の実施形態に係るめっき電流密度分布測定装置200では、第一の電流測定体7は被めっき面上に付着することなく、配置調整手段20によって保持されていることによって被めっき面に対する相対的な配置が固定されていることが好ましい。この場合においても、第一の電流測定体7における第一の測定用電極7は被めっき面との間に第一の絶縁体を有することとして、第一の測定用電極におけるめっき電流の全量が第三の配線14に流れ、第一の電流測定手段15により計測されるようにするべきである。
【0040】
配置調整手段20による第一の電流測定体7の被めっき面上の配置の変更は、めっき処理中(めっき電源による電圧印加が行われている間)にも可能とされることが好ましい。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
(株)山本鍍金試験器製の水槽(B−55ハルセル(登録商標)並型水槽)を用い、70mm×65mm(厚さ2mm)の純亜鉛からなるアノード、および100mm×65mm(厚さ0.2mm)のりん脱酸銅C1220からなる被めっき部材を、いずれについても長辺の一方が水槽の底面に接するように水槽内に配置した。
【0042】
この被めっき部材にNo.1から6までの6つの電流測定体を付着させた。具体的には、被めっき部材のアノードに近位側の短片の上端を基準として、各電流測定体の中心が次の位置になるように各電流測定体を配置した。
No.1:上記の被めっき部材の基準点から垂直方向下向き(以下「下向き」と略記する。)に26mm、水平方向に上記のアノード近位側の短片から離間する向き(以下「右向き」と略記する)に6mm
No.2:上記基準点から下向きに26mm、右向きに48mm
No.3:上記基準点から下向きに26mm、右向きに90mm
No.4:上記基準点から下向きに59mm、右向きに6mm
No.5:上記基準点から下向きに59mm、右向きに48mm
No.6:上記基準点から下向きに59mm、右向きに90mm
No.1および4の電流測定体がアノードに最も近位であり、No.3および6はアノードに最も遠位であった。いずれの電流測定体も、測定用電極はりん脱酸銅C1220からなり寸法は12mm×12mm(厚さ0.3mm)であり、絶縁体は、測定用電極と同面積の粘着剤((株)ニトムズ製 T4200)であった。
【0043】
これらの電流測定体および被めっき部材について、これらが電気回路的に並列となるようにしつつ、めっき電源((株)山本鍍金試験器製 YPP−15100A、以下同じ。)の陰極用端子に接続した。アノードについてもめっき電源の陽極用端子に接続した。各電流測定体に流れるめっき電流を測定できるように、各電流測定体と陰極用端子との間には電流計を配置した。
【0044】
267mlの亜鉛めっき液(ユケン工業(株)製メタスFZ996シリーズ亜鉛めっき標準組成)を水槽内に注入した。
【0045】
水槽内の所定の位置に配置されたアノードの底辺の中心からアノードの法線方向で被めっき部材側に40mm離間した水槽の底面上の位置に、長径30mmで棒状の攪拌子を配置し、攪拌子を100rpmで回転させてめっき液を攪拌した。
【0046】
めっき液の温度が40℃に維持されていることを確認して、めっき電源から電流2Aを維持するように電圧を印加し、印加開始から180秒間のめっき電流を測定した。
【0047】
その結果を図3に示す。図3に示されるように、理論上電流値が高いと予想されるNo.1および4の電流測定体において高い電流値が測定された。また、めっき液の攪拌の影響を適切に反映して、No.4におけるめっき電流はNo.1におけるめっき電流よりも高くなった。他の位置の電流測定体においても、アノードからの距離およびめっき液攪拌の影響を適切に反映した電流値が測定された。
【0048】
(実施例2)
快削黄銅丸棒(C3604)を加工して得られたものであって図4に示される形状を有する部材を被めっき部材とした。被めっき部材の寸法は次のとおりであった。
外径:64mm
肉厚:18mm
一方の座繰り部:径42mm、深さ8mm
他方の座繰り部:径42mm、深さ4mm
貫通孔:孔径10mm
【0049】
底面が112mm×82mmのほぼ直方体のめっき槽に、上記の被めっき部材を、貫通孔の中心軸がめっき槽の底面の短径に平行になるように配置した。被めっき部材のめっき槽内の配置の詳細は次の通りであった。
貫通孔の中心軸と底面との距離:45mm
一方の座繰りが設けられた端面とこれに対向するめっき槽の側面(以下、「側面1」という。)との距離:32mm
貫通孔の中心軸とこれに平行なめっき槽の側面との距離:56mm
【0050】
ここで、被めっき部材には、一方の座繰り部側に4つ(No.5〜8)の電流測定体(外径5mmおよび厚さ0.3mmのりん脱酸銅C1220製の測定用電極と絶縁体としての粘着剤との積層体、以下同じ。)を、他方の座繰り部側に4つ(No.1〜4)の電流測定体を、図5に示されるような配置で付着させた。なお、めっき槽内において被めっき部材の貫通孔の中心線を含むめっき槽の底面に平行な平面内にNo.1〜3および5〜7の測定用電極の中心が位置するようにこれらの測定用電極は配置された。また、No.4および8の測定用電極は、めっき槽内において被めっき部材の貫通孔の中心線を含むめっき槽の底面に垂直な平面内にこれらの電極の中心が位置するように配置された。
【0051】
これらの電流測定体および被めっき部材について、これら全てが電気回路的に並列となるようにしつつ、めっき電源の陰極用端子に接続した。二つのアノードについてもめっき電源の陽極用端子に接続した。各電流測定体に流れるめっき電流を測定できるように、各電流測定体と陰極用端子との間には電流計を配置した。
【0052】
めっき液の温度が40℃に維持されていることを確認して、めっき電源から電流5Aを維持するように電圧を印加し、印加開始から150秒間のめっき電流を測定した。電圧印加中はめっき液の攪拌を行わなかった。
【0053】
その結果を図6に示す。図6に示されるように、理論上電流値が高いと予想されるNo.4および8の電流測定体において高い電流値が測定された。また、理論上電流値が低いと予想されるNo.6の電流測定体において低い電流値が測定された。また、No.1および5は水槽内の配置が近似していることから、極めて近似した電流値の変動傾向が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽;
前記めっき槽に収容されるめっき液の液面よりも下側に少なくとも一部が配置される、アノードおよび被めっき部材;
第一の絶縁体およびその一方の面上に形成された第一の測定用電極を備え、前記被めっき部材のめっきが施される面の一部に当該第一の絶縁体が対向するように配置される第一の電流測定体;
めっき電源;
前記めっき電源の陽極用端子と前記アノードとを電気的に接続する第一の配線;
前記めっき電源の陰極用端子と前記被めっき部材とを電気的に接続する第二の配線;
前記めっき電源の陰極用端子と前記第一の測定用電極とを、当該第一の測定用電極と前記被めっき部材とが並列関係をなすように電気的に接続する第三の配線;ならびに
第三の配線上に配置される第一の電流測定手段
を備えることを特徴とするめっき電流密度分布測定装置。
【請求項2】
第二の絶縁体およびその一方の面上に形成された第二の測定用電極を備え、当該第二の測定用電極と前記第一の測定用電極とを非接触としつつ、前記被めっき部材のめっきが施される面に当該第二の絶縁体が対向するように配置される第二の測定用電極;
前記めっき電源の陰極用端子と前記第二の測定用電極とを、当該第二の測定用電極、前記第一の測定用電極および前記被めっき部材が並列関係をなすように電気的に接続する第四の配線;ならびに
第四の配線上に配置される第二の電流測定手段
をさらに備える請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記めっきが施される面上の複数の位置に前記第一の電流測定体が配置されることを可能とする配置調整手段をさらに備える請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
めっき液中にあるアノードと被めっき部材との間に電圧を印加したときに、当該被めっき部材のめっきが施される面におけるめっき電流密度分布を測定する方法であって、
前記めっきが施される面の一部に絶縁物を介して測定用電極を配置し、
前記アノードとめっき電源の陽極用端子とを電気的に接続し、
前記被めっき部材および前記測定用電極をこれらが並列関係を有するように前記めっき電源の陰極用端子に電気的に接続し、
前記めっき電源から電圧を印加して、前記測定用電極に流れるめっき電流を測定し、
当該測定されためっき電流に基づいて、前記めっきが施される面における前記測定用電極が配置された部分のめっき電流密度に係る情報を得ること
を特徴とするめっき電流密度分布の測定方法。
【請求項5】
前記測定用電極を複数用意し、前記めっきが施される面の異なる部分に互い非接触として当該複数の測定用電極を配置し、当該複数の測定用電極に流れるめっき電流を個別に測定して、前記めっきが施される面の異なる部分のそれぞれにおけるめっき電流密度に係る情報を得る請求項4記載の測定方法。
【請求項6】
前記測定用電極の前記めっきが施される面の配置を変化させることにより、一個の前記測定用電極を用いて、前記めっきが施される面上の複数の位置におけるめっき電流を測定して、当該複数の位置のそれぞれにおけるめっき電流密度に係る情報を得る請求項4または5に記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57098(P2013−57098A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195666(P2011−195666)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【特許番号】特許第5124756号(P5124756)
【特許公報発行日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【出願人】(000115072)ユケン工業株式会社 (33)