説明

やわらか食材の製造方法及びその食品

【課題】咀嚼・嚥下が困難な者も摂取する食品が何であるかを認識し満足感をもって摂取することができ、食欲を増進する効果を有し、かつ、食材の本来の形状を保持して軟化させた軟らか食品を特別な装置を使用せずに、安価で簡易な操作で製造することができる形状を保持した軟らか食品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】食材表面層に付着または付着させた分解酵素を、冷凍庫での冷凍による氷結晶生成させ、溶質移動の原理を利用して、食材内部に分解酵素を移動させ、食材の組織全体に酵素反応を行なわせることで、食材の元の形状を保持したまま硬さ調節や食感改良、呈味性の改良、カロリー強化を行なう技術に関する。本発明は、食品の食感を変えることが可能で硬い食材を食べやすく加工することが可能となる。また、元の食材形状は変らないので、見た目のおいしさを損なわず、高齢者や要介護者にも食べやすい食品を提供できることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材表面層に付着または付着させた分解酵素または酵素液を、凍結による氷結晶生成による溶質移動の原理を利用して、食材内部に分解酵素を移動させ、食材の組織全体に酵素反応を行なわせることで、特別な装置を使用せずに食材の元の形状を保持したまま硬さ調節や食感改良、呈味性の改良を行なう技術に関する。本発明は、食品の食感を変えることが可能で硬い食材を食べやすく加工することが可能となる。また、元の食材形状は変らないので、見た目のおいしさを損なわず、高齢者や要介護者にも食べやすい食品を提供できることが可能となる。
【背景技術】
【0002】
食材の内部に酵素を導入する発明として、食材を凍結して食材に緩みを与えた後、減圧または加圧操作により酵素を急速に含浸させる方法、加熱した食材を圧力により酵素を含浸させる方法、または動物食材にあっては予め蒸気加熱などを行い緩みを与えた後、減圧操作により酵素を急速に含浸させる方法がある。また、タンブリングやインジェクション法など専用装置を使用して酵素を導入する方法である。いずれも、圧力処理などの力学的な手法で食材内部に酵素を導入する方法であって、専用の機械装置が必須であるため、イニシャルコスト、ランニングコスト等製造コストが高くなるという欠点があった。また、調理場や家庭で軟化処理する習得する技術が複雑で、一般的な調理法とはいえない方法であった。
【先行技術文献】
【0003】
これまでに、植物性食品素材の組織内へ酵素を導入し、元の食品素材の形状を保ったまま、軟化する食材の製造方法(特許文献1)や、調味液の塩分濃度等を調整し凍結及び解凍した植物性食品を酵素液に浸漬して減圧操作して酵素を組織に導入し、型崩れなく調味及び加圧加熱殺菌する方法(特許文献2)がある。また、この酵素導入技術を厨房施設等の現場で簡便に実施でき、また軟化させた食品素材の製造工程・搬送・流通過程での型崩れが防止でき、あるいは衛生面の配慮から、食品素材への酵素導入、酵素反応、加熱工程を同一の包装容器の中で実施できる調理食品の製造方法(特許文献3)がある。さらに、飽和水蒸気で加熱した後、酵素液中で減圧処理する方法(特許文献4)などもある。
【0004】
動物性食品素材では、食品素材を酵素液に浸漬する方法(特許文献5)や、食品素材に酵素含有液をインジェクションしてタンブリングする方法(特許文献6)、食品素材に酵素液を塗布・浸漬して真空包装または加圧処理して酵素を浸透させる方法(特許文献7)等が提案されている。
【0005】
これらはいずれも減圧装置や加圧装置、インジェクション装置、タンブリング装置など酵素液や調味料を食材内部に導入するために、物理的な機械装置を利用しており、形状を保持し要介護者の健康維持と生活の質を高めるための、咀嚼・嚥下困難者用食品を低コストで工業生産する場合、装置コストとランニングコストが問題となる。また、病院や介護施設の厨房、または各家庭においてこれらの介護食を調理する場合も装置導入コストがネックとなる。
【特許文献1】特許第3686912号公報
【特許文献2】特開2006−223122号公報
【特許文献3】特開2008−11794号公報
【特許文献4】特開2010−115164号公報
【特許文献5】特開平7−31421号公報
【特許文献6】特開2005−503172号公報
【特許文献7】特開2004−89181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、食品の元の形状を変えないで、分解酵素及び調味料、油脂、アミノ酸など呈味成分及び嚥下食に必要なトロミ剤を食材内部に導入することで、食感や呈味性を変え、安価で食べやすく、おいしい食品を製造することにある。また、要介護者や高齢者に摂取する食品が何であるかを認識し満足感をもって摂取することができるように、食材中心部まで均一に分解酵素を導入し、食材の本来の形状を保持して軟化させた食品を低コストで誰でも容易に製造することができる食材の製造方法を提供することにある。さらに、要介護者や高齢者に必須の栄養成分やカロリーを強化した食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来の圧力によるエネルギーを利用して酵素を食材内部へ導入する方法に代わり、給食厨房、レストラン、家庭など一般の調理現場において専用の装置を使用せず、簡易にかつ安価に食材の内部に均一に分解酵素を導入し、分解酵素の作用により、食材に含まれる酵素基質を分解し、高齢者や咀嚼・嚥下困難者であっても容易に摂取することができる食品または硬い食材を軟化することで新しい食感を有する食品を製造する技術の発明に際し、調理現場であれば必ず設置してある冷凍庫を利用し食材表面から中心部に氷結晶を冷凍速度を制御しながら生成させることで酵素や調味料などの溶質を食材内部に導入できることを見出した。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、食材の表面に付着させた分解酵素や調味料を氷結晶の生成を利用して、食材の内部に均一に含有させ、氷点以上に食材温度を上げることで、分解酵素の作用により食材の形状を保持したまま食材に含まれる酵素基質を分解させる。目的の硬さに達したら加熱処理を行い酵素を失活させる。酵素を失活させるまでの時間、温度、酵素濃度によって硬さを自由に調整できる。
【0009】
食材表面付近に付着させた酵素または酵素液は、酵素や調味料などの溶質を含んでいる。氷結晶は食材表面から食材内部に向かって生成されるが、氷結晶は純水に近く、酵素や調味料などの溶質をほとんど含んでいない。したがって、氷結晶の生成に伴い、酵素や調味料などの溶質を含む水は、氷結晶に押され、次第に食材内部に浸透していく。ここで、食材を冷凍する場合、氷結晶を生成させる速度が酵素や調味料などの溶質を均一に食材内部に浸透させるために重要である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は次のような効果を奏する。
本発明は、普通の食事と変わらない見た目の介護食を提供することができる技術で、食のバリアフリー化をもたらす。しかも,これまでの形状保持軟化食材の製造方法と異なり、必要な装置は冷凍庫のみで、その他特別な加工機械や調理器械を必要としないため、食品製造業のみならず、病院・介護施設の厨房、レストラン、家庭でも安価かつ簡単に加工や調理することができる。その結果、咀嚼困難者や嚥下困難者にとって食欲増進効果が高く、購入または調理加工しやすくなるため、社会的貢献度においても高い効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の形状保持軟らか食品の製造方法は、食材の表面に付着させた分解酵素を氷結晶の生成エネルギーを利用して食材の内部に均一に含有させる分解酵素導入工程、分解酵素の作用により食材の形状を保持したまま食材に含まれる酵素基質を分解させる工程、目的の硬さに達したら直ちに酵素を失活させることを特徴とする。ただし、冷凍食品を製造する場合、酵素を失活させる工程は必ずしも必要でない。また、酵素を食材表面層の付着または付着させる場合、酵素粉末、酵素液いずれでも良く、厚い食材を調理する場合、酵素液に好ましくは30秒以上浸漬させるか、予め酵素を付着させた食材を減圧または加圧して食材表面から少し内部に酵素を浸透させておいても良い。
【0012】
本発明の形状保持軟らか食品の製造方法に用いる食材としては、植物性、動物性のいずれのものであってもよい。具体的には、植物性の食材としては、大根、人参、牛蒡、筍、キャベツ、白菜、セロリ、アスパラガス、ほうれん草、小松菜、青梗菜等の野菜、ジャガイモ、薩摩芋、里芋等の芋類、大豆、小豆、蚕豆、エンドウ豆等の豆類、穀類、パイナップル等の果実類、椎茸、シメジ、エノキ、ナメコ、松茸等のきのこ類、若布、昆布、ひじき等の海藻を挙げることができる。また、動物性の食材としては、牛肉、豚肉、鳥肉の他に、羊肉、馬肉、鹿肉、猪肉、山羊肉、兎肉、鯨肉、それらの内臓等の肉類や、鯵、鮎、鰯、鰹、鮭、鯖、鮪等の魚類、鮑、牡蠣、帆立、蛤等の貝類、その他エビ、カニ、イカ、タコ、ナマコ等の魚介類を例示することができる。
【0013】
これらの食材は、生の状態でも、また、煮る、焼く、蒸す、揚げるなど加熱・調理して用いてもよい。加熱する場合の温度は、65℃から125℃程度が望ましいが、それ以上の温度でも製造することは可能であるが、品質が少し劣化する場合がある。また、蒲鉾等の練製品や、漬物等の加工食品であってもよい。また、これらの食材は、凍結及び解凍処理をしたものを用いることができる。また、食材を食塩、クエン酸などの有機酸およびその塩を溶解した水溶液で茹でるなどの操作を行なっても良い。
【0014】
食材の形状は、いずれの形状であってもよいが、食材の大きさは適宜選択することができ、塊でも一口大でもよいが、元の食材の形状を保持し、かつ咀嚼・嚥下困難者の食欲をそそるものでなければならず、本発明の対象は、厚み5mm以上で体積500mm以上の食材塊が好ましいが、緑色野菜や豆類などはその限りでない。
【0015】
本発明に用いる分解酵素としては、タンパク質、炭水化物、脂肪の分解酵素であればいずれも用いることができ、摂取者の状態や、食材の種類等分解する基質等によって適宜選択することができる。主に、ペクチナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、グルカナーゼまたはセルラーゼのいずれかの酵素活性を含む酵素液が使用される。具体的にはプロテアゼ、ペプチダーゼ等タンパク質をアミノ酸及びペプタイドに分解する酵素、アミラーゼ、グルカナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ、ヘミセルラーゼ、β−グルコシダーゼ、マンナーゼ、キシラナーゼ、アルギン酸リアーゼ、キトサナーゼ、イヌリナーゼ、キチナーゼ等でんぷん、セルロース、イヌリン、グルコマンナン、キシラン、アルギン酸、フコイダン等の多糖類をオリゴ糖に分解する酵素、リパーゼ等脂肪を分解する酵素などを挙げることができる。これらは1種又は相互に阻害しないものを2種以上を組み合わせて使用することもできる。特に、食材として動物性食材を用いる場合、プロテアーゼやペプチターゼを用いることが、アミノ酸やペプチドを生成し、呈味性を向上させることができる。また、食感を改善するためにトランスグルタミナーゼも使用可能である。これら分解酵素の起源は問わず、植物由来、動物由来、微生物由来のものを使用することができる。分解酵素の形態としては、粉末状、液状、分散液に含有されていてもよい。
【0016】
上記分解酵素の食材への付着方法は、粉末状の分解酵素を食材表面に振り掛けて付着若しくは噴霧する方法、粉末状若しくは液状の分解酵素を含有する分解酵素液を食品素材表面に塗布、噴霧若しくは浸漬させる方法を使用することができる。分解酵素液としては、液状の分解酵素そのものの他、分解酵素を溶解若しくは分散する媒体を用いることができる。分解酵素液のpHは、pH3〜pH10の範囲で、特にpH4〜pH9であることが好ましく、特に、食材と同じpHに調整することが効果的である。分解酵素液のpHの調整には、有機酸類とその塩類やリン酸塩等のpH調整剤等を用いることができ、またpH調整された調味液等を使うこともできる。分解酵素液に食材を浸漬して付着させる場合は、例えば、浸漬時間は1〜20分、その温度は0〜30℃等とすることができる。また、冷凍後の衛生面や取り扱い、流通上のことを考えれば、食材に酵素液などを付着させた後、フィルムなどの軟包材で包装または真空包装して、その後冷凍処理を行う。
【0017】
分解酵素の使用量としては、冷凍後の酵素反応温度や反応時間によって変えることができる。軟化の程度や呈味成分の生成の度合いによって適宜選択することができ、分解酵素を直接使用する場合、食材100gに対して、例えば、0.001〜1.0gの範囲を挙げることができる。分解酵素液の場合、例えば、溶媒液に対して0.01〜3.0質量%の範囲で分解酵素を溶解あるいは分散させて使用することができる。
【0018】
食材に分解酵素を付着させる際、調味料、増粘多糖類等の増粘剤、その他、栄養素等を付着させ、咀嚼時に食品からの離水を抑制することができ、好適な嚥下困難者用食材とすることもできる。更に、これらの物質の他、食材に付着させる物質として、油脂、ビタミン、ミネラルなど栄養価を高める物質が好まれる。特に、油脂はカロリー強化に有効で、乳化して利用すると導入濃度を高めることができる。
【0019】
本発明の形状保持軟らか食品の製造方法における分解酵素の食材への導入は、冷凍庫や冷媒体に漬ける方法で行うが、食材の内部に均一に酵素等を含有させるには、氷点下、好ましくは−10℃〜−30℃まで緩慢冷凍することが重要である。そのためには、食材塊の表面に付着させ、その後食材を表面から中心部まで順に−10℃/minよりも緩やかな冷凍速度で食材の温度を一定になる氷結晶生成帯まで冷凍する。好ましくは−3℃/min〜−4℃/minである。氷結晶生成帯より低い温度帯になれば、冷凍速度は−7℃/minより速くても構わない。冷凍時間は1時間から24時間の間に終了することが好ましいが、そのまま冷凍食品として−20℃以下で保管または流通させることもできる。
【0020】
通常の食材と見た目は全く変わらない食品を製造するために、冷凍後、60℃以下の品温で解凍し、目的の硬さになるまで保温する。保温温度は酵素が失活しない温度帯が必要で、微生物的な側面から10℃以下であれば6時間以上、45〜55℃であれば1時間以内に設定することが好ましい。食材を保温中の酵素反応速度すなわち軟化速度は、酵素付着量、保温時間及び保温温度で決定されるが、高齢者または咀嚼・嚥下困難者用の食品に適した硬さ、例えば1.0×10N/mから1.0×10N/m程度に軟化することが好ましい。
【0021】
上記形状保持軟らか食品は通常の食材と同様の方法で調理して摂取することができる。チルド惣菜、レトルト食品、冷凍食品、缶詰食品、乾燥食品等種々の加工食品に応用できる。特に、嚥下困難者用として利用する場合、増粘剤を冷凍した以後添加することが好ましい。
【実施例】
【0022】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
厚さ5mmで20mm×20mmに切断したタケノコ、ニンジン及び、厚さ5mmに切断したレンコン、ゴボウにビタミンCを0.1%加えた沸騰水で10分間茹でた。冷蔵庫で5℃まで冷却し、酵素(ペクトリアーゼ、新日本化学製0.3質量%)とアミノ酸調味料、食塩それぞれ3%、1%を溶かした水溶液に20分間浸漬した。その後、食材を取り出し、冷凍庫(ホシザキ電機製HRF−63ZT)で設定温度−15℃で緩慢冷凍し、その後、55℃のスチームコンベクション(三洋電機(株)製SOB−VS10)で1.5時間加温後、そのまま90℃に加熱して酵素を失活させた。得られた食材について硬さ(クリープメーターRE2−33005Bで破断強度)を測定した結果、硬さは5×10N/m以下となり、咀嚼困難者用として十分な軟らかさになった。その後、かたくり粉を溶かした増粘剤を添加したところ、形状はそのままで風味が良好で要介護者にとって食べやすい食品になった。
【実施例2】
【0024】
厚さ10mm、一口大に切断したレンコン、イカ、サトイモ、ニンジン、鶏肉、豚肉をスチームコンベクション(三洋電機(株)製SOB−VS10)を用いて95℃で加熱した。その後、食材と1.0質量%の酵素(ヘミセルラーゼ「アマノ」90及びパパイン(天野エンザイム製))及び市販調味料(2%)、PH調整剤(クエン酸0.1%及びそのナトリウム塩0.8%)、食塩(2%)を溶かした水溶液をフィルム包装し、ブラストチラー(ホシザキ電機製HBC−6TA3)を用いて−15℃で緩慢凍結(−5℃/min、冷却速度)させた。その後、55℃のスチームコンベクション(三洋電機(株)製SOB−VS10)で1.5時間加温後、そのまま90℃に加熱して酵素を失活させた。得られた食材について硬さ(破断強度)を測定した結果、咀嚼・嚥下困難者用として十分な軟らかさになった。その後、かたくり粉を溶かした増粘剤を添加したところ、形状はそのままで風味良好で要介護者にとって食べやすい食品になった。また、食塊形成能を向上させることができた。
【実施例3】
【0025】
インゲン、ほうれんそう、豚肉(厚さ1cm)、大豆、サケ(切り身)をスチームコンベクション(三洋電機(株)製SOB−VS10)で80℃で加熱した。その後、食材と0.5質量%の酵素(ペクチナーゼ(ヤクルト薬品製)及びパパイン(天野エンザイム製)及び市販調味料小さじ1、酸味料(米酢0.1%)、食塩(1%)、重曹(0.02%)を水に溶いたもの、そしてキサンタンガムを主成分とするとろみ剤0.2質量%を加え,真空フィルム包装し、ブラストチラー(ホシザキ電機製HBC−6TA3)を用いて−15℃で緩慢凍結(−5℃/min、冷却速度)させた。その後、5℃の冷蔵庫で22時間保管後、90℃に加熱して酵素を失活させた。得られた食材について硬さ(破断強度)を測定した結果、咀嚼・嚥下困難者用として十分な軟らかさになった。その後、加熱殺菌し、冷凍食品を製造した。家庭用電子レンジで加温して食したところ、形状はそのままで風味良好で要介護者にとって食べやすい食品になった。また、食塊形成能を向上させることができた。
【実施例4】
【0026】
イカ(皮を剥いだもの)、タコ(厚さ1cm)、サトイモを沸騰水で10分間加熱した。その後、食材に0.5質量%の酵素(ペクトリアーゼ(新日本化学)及びパパイン(天野エンザイム製)及び市販調味料小さじ1、乳化油脂(30%)、食塩(1%)、を水に溶いたものをクエン酸緩衝液でpH6.0に調整した酵素液に5分間漬けた。その後酵素剤から取り出し、家庭用冷蔵庫を用いて−10℃で緩慢凍結させた。その後、5℃の冷蔵庫で22時間保管後、沸騰水で加熱して酵素を失活させた。得られた食材について硬さ(破断強度)を可能で測定した結果、咀嚼・嚥下困難者用として十分な軟らかさになった。その後3℃で冷却保存した。家庭用電子レンジで加温し,キサンタンガムを含むとろみ剤をかけて食したところ、形状はそのままで風味が良好で要介護者にとって食べやすい食品になった。また、食塊形成能を向上させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生または65℃以上で加熱処理した食材の塊の内部に酵素剤または酵素液を均一に導入し、食材内部での酵素反応を利用して、元の食材の形状を保持したまま食材の食感や呈味性を改良した食品の製造方法であって、酵素剤または酵素液の導入方法として、食材表面から食材内部に向けて徐々に氷結晶を生成させ、氷結晶生成に伴う酵素剤または酵素液の溶質移動を利用して食材の中心部まで酵素を導入することを特徴とする形状保持軟らか食材または食品の製造方法。
【請求項2】
酵素剤または0.01質量%〜3質量%の酵素液を、食材の塊の表面層に付着させ、その後食材を表面から中心部まで順に緩やかな冷凍速度で食材の氷点下まで冷却し冷凍する。この時食品表面から素材内部に向けて順に生成する氷結晶を利用して酵素剤または酵素液を浸透させた後、−5℃〜60℃の温度で加温を行うことにより、食材内部で酵素反応を行なわせる[請求項1]記載の食材または食品の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の酵素液として、炭水化物、タンパク質、脂質のいずれかの基質を分解する酵素活性を含む酵素液を使用することで、食材の元の形状を保持したまま食材の硬さを調節することを特徴とする食材または食品の製造方法。
【請求項4】
有機酸及びその塩を用いてpH3〜pH10の範囲に調整し、食塩、アミノ酸、油脂、増粘剤、ビタミンやミネラルなどの栄養成分のいずれかまたは2種類以上を含む酵素液を使用することを特徴とする請求項1記載の食材または食品の製造方法。
【請求項6】
食材と酵素剤または酵素液を軟包装材中に収納して、冷凍することで衛生的に食材表面から食材内部に向けて氷結晶を生成させることを特徴とする請求項1記載の食材または食品の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の食材または食品の製造方法により得られる形状保持やわらか食材を80℃以上で1分以上加熱処理して酵素失活を行い、そのまま食事に供する食品または形状保持やわらか食材を乾燥、レトルトまたは冷凍した食品。

【公開番号】特開2013−34467(P2013−34467A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183115(P2011−183115)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(501000949)有限会社クリスターコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】