説明

より高いデューティサイクルのための強化された勾配多重極衝突セル

【課題】飛行時間質量分析においてイオンを処理する改良された方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、細長い空間(21)にRF電界を適用し、細長いセグメント化ロッド(20、22、24、26)のセグメント(30)にDC電圧を適用し、異なるDC電圧がセグメント(30)に選択的に適用され、それによって細長い空間(21)内で個別の電位を有する複数の電位領域が形成され、複数の電位領域のうちの第1の電位領域内に被分析物イオンを提供し、複数の電位領域のうちの第1の電位領域内で、被分析物イオンの少なくとも一部を処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的にイオン分析に関し、より詳細には、質量分析におけるイオン分析に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、化学物質を特徴付け、及び/又は定量化するのに非常に有益である。多くの形態の質量分析と質量分析器が存在する。たとえば、飛行時間質量分析では、分析器は、通常、無電界の飛行管である。
【0003】
飛行時間質量分析計は、初期運動エネルギーが同じであるが、質量の異なるイオンが、無電界領域、たとえば従来の飛行時間質量分析計の飛行管の全長を下流に流されると、分離されるという基本原理に基づく。イオンは、イオンの質量電荷比にしたがって異なる速度を得る。したがって、より小さな質量のイオンは、質量のより大きなイオンが到達する前に、飛行管の端部に配置されている検出器に到達することになる。検出器は、試料についての質量スペクトルをもたらすデータを収集するイオンを検出する。従来、検出システムは、イオンが生成される飛行管の端部とは反対の、線形飛行時間質量分析計の飛行管の端部に配置されている。
【0004】
異なる質量電荷比を有するイオンが、異なる時刻に検出器に到達するので、より小さな質量のイオンが、早期に放出され、ゆっくり移動するより大きな質量のイオンに追いつく場合があるため、イオン源から飛行管内へのイオンの連続放出には問題がある。したがって、従来の飛行時間質量分析計では、所与の時刻に放出された全てのイオンが、分析のためのさらなるイオンを放出する前に検出器に達することを可能にすることが必要である。
【0005】
従来、飛行管内を通過する試料は、連続したイオンビームではない。通常、イオンビームは、イオン源においてイオンのパケットに分割される。イオンパケットは、パルス及び待機手法を利用して、飛行管の一端にあるイオン源から飛行管内へ発射される。従来のパルス及び待機手法を利用する場合、後続のパケットの質量が小さく速いイオンが、先行するパケットの質量が大きくて遅いイオンを追い越さないこと、及び先行するパケットのイオンが、いかなる重なりも起こらないうちに検出器に達することを確実にするために、イオン源からのイオンパケットの放出のタイミングがとられる。したがって、パケットの放出と放出の間の期間は、放出のための総時間と比較して比較的長い。これにより、デューティサイクルが低くなる。イオン源は、通常、イオン源内で試料からのイオンを連続して生成するため、イオン源内で生成されるイオンのわずかの部分のみが、イオンパケットとしてイオン源から放出され、検出を受ける。こうして、試料物質のかなりの量が浪費され、感度が低下する。
【0006】
被分析物イオンが、飛行時間分析器内に導入される前に、タンデム質量分析法を受ける場合、分析のための被分析物イオンの非効率的な捕獲は、特に問題となる場合がある。
【0007】
衝突誘起解離のために、質量分析計システムにおける線形イオントラップ要素の使用が開示されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1は、勾配を形成するためのセグメント化ロッドを使用して、衝突セルを介してイオンを移動させることを開示している。
【特許文献1】Campbellらによる米国特許第6,833,544号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、飛行時間質量分析においてイオンを処理する改良された装置及び方法についての必要性が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、イオン処理セル内でイオンを処理する方法であって、イオン処理セルが、組をなす細長いセグメント化ロッドであり、各ロッドが、長手方向の軸を有する細長い空間を画定する複数のセグメントを有し、細長いセグメント化ロッドにRF電圧を適用して、空間内にRF電界をもたらす回路と、セグメントにDC電圧を適用する回路とを有し、異なるDC電圧を異なるセグメントに印加することができ、所与のセグメントに対するDC電圧を選択的に変更することができるイオン処理セル内でイオンを処理する方法に関する。
【0010】
本発明の方法は、細長い空間にRF電界を適用し、及び細長いセグメント化ロッドのセグメントにDC電圧を適用することを含む。異なるDC電圧がセグメントに選択的に適用され、それによって離散的な電位を有する複数の領域を有する空間内にDC電界が形成される。
【0011】
被分析物イオンは、細長い空間内の少なくとも1つの電位領域に供給され、被分析物イオンの少なくとも一部が、少なくとも1つの電位領域内で処理される。
【0012】
電位領域の1つ又は複数がポテンシャル井戸からなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、質量分析においてイオンを処理する方法を提供する。この方法は、細長いセグメント化ロッド20、22、24、26、RF電圧を適用するための回路、細長いセグメント化ロッド20、22、24、26のセグメント30に選択的にDC電圧を適用するための回路を有するイオン処理セル10内で被分析物イオン110、112、114を処理する方法を提供する。本発明の方法は、細長い空間21にRF電界を適用し、セグメント30に選択的にDC電圧を適用して別個の電位を有する複数の電位領域120、150、160を形成し、被分析物イオン110、112、114を複数の電位領域120、150、160の第1の電位領域に提供し、第1の電位領域内の分析物イオン110、112、114の少なくとも部分を処理することを含む。一実施形態において、複数の電位領域120、150、160の少なくとも1つの電位領域はポテンシャル井戸である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書に記載する方法は、質量分析においてイオンを処理することを可能にする。より詳細には、本方法は、処理セルから質量分析器にイオンを放出する前に、イオン処理セルにおいて、ある電界内にある離散領域内でイオンを処理する装置を利用する。随意的に、イオンを捕捉すること、又は収集することに加えて、処理は、分析器内へ放出する前に、処理セルの離散領域内でイオンを反応させ、及び/又は断片化することを含む。処理セルは、イオンを収容する単一の離散領域、イオンを収容する複数の離散領域、イオンを収容しない離散領域、それらの組み合わせを含む。
【0015】
処理セルは、セグメント化ロッド、及び処理セルに対して反応試薬イオンを導入する手段を備えている。セグメント化ロッドを、四重極構造、六重極構造、他の多重極構造として構成することができる。処理セルは、イオン源から被分析物イオンを受容する。イオンの処理は、イオンを捕捉すること、イオンを収集すること、被分析物イオンを衝突活性化、イオン-イオン反応、イオン-分子反応、電子移動解離、交流勾配断片化、電荷還元、陽子移動反応、電子移動反応、光解離、イオン選択、イオン移送、それらの組み合せ等にかけることを含む。処理後、処理されたイオンは、任意の質量分析器に移送される。しかしながら、処理セルは、飛行時間質量分析器と共に使用するのに特によく適している。
【0016】
通常、処理セルは、被分析物イオン源、処理セル、質量分析器を備えている質量分析計システム内で使用される。被分析物イオンは、被分析物イオン源内で形成される。たとえば、被分析物イオンは、電子衝撃、化学イオン化、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)、エレクトロスプレー、高速原子衝撃等によって、被分析物イオン源内で生成される。こうして形成された被分析物イオンは、処理セルに直に渡される。随意的に、システムは、選択されたイオンだけを処理セルに伝達する質量フィルタをさらに備えている。
【0017】
被分析物イオンは、イオン処理セルに、より詳細には、多重極を備えている組をなすセグメント化ロッドによって画定されるイオン処理セル内の細長い空間に導入される。RF電圧が、全てのロッドに適用され、ロッド間の細長い領域内にRF電界がもたらされ、DC電圧が、選択的に、かつ制御可能にセグメントに適用され、したがって、離散領域内にイオンを捕捉し、イオンの移動及び移送を制御することが可能となる。試薬が、イオン処理セルに導入され、被分析物イオンの少なくとも一部と反応する。試薬を、被分析物イオンと反応する反応試薬、被分析物イオンと衝突してエネルギー吸収を引き起こすか、又は衝突エネルギーに応じて断片化を引き起こす不活性ガス、あるいは被分析物イオンと相互作用する電子、陽子、光子とすることができる。処理は、タイミングシーケンスでDC電圧及び/又はRF電圧を操作し、処理セル内で電界又は電界の一部を修正して電位領域を作ることを含む。通常、電位領域は、イオンを捕捉するための、1つ又は複数のポテンシャル井戸である。DC電圧が操作されて、所与の時点で複数のポテンシャル井戸を作ることができる。随意的に、DC電圧及び/又はRF電圧を操作して、1つ又は複数の井戸を形成して移動させ、被分析物イオンと試薬との反応を容易にする条件をもたらすことができ、及び/又は1つ又は複数の付加的な処理ステップをもたらすことができ、及び/又はセルからのイオンの移送を容易にすることができる。随意的に、イオンの断片化又は選択的な排出を引き起こすために、補助AC電圧が適用され調整される。イオン処理セル内で処理した後、処理されたイオンは、分析し、質量スペクトルを取得するため、又は他のデータを収集するために、質量分析器に移送される。質量分析器は、飛行時間質量分析器、四重極質量分析器、モーメント質量分析器等を含む。
【0018】
図1は、イオンが離散領域内で捕捉されるイオン処理セル10の例示的な一実施形態の概略斜視図を示す。セルは、それぞれ、イオン処理セル10内にイオンを導入する入口開口部12、及びイオン処理セル10からイオンを移送する出口開口部14を有する。
【0019】
図1は、イオン処理セルの四重極の実施形態を示す。図1に示すように、イオン処理セル10は、4つのセグメント化ロッド20、22、24、26を有する。ロッド20、22、24、26は、細長いトラップ用の空間21の周囲に配置されている。各セグメント化ロッド20、22、24、26は、複数のセグメント30に分割されている。通常、セグメント化ロッドは全て同じようにセグメント化されている。たとえば、例示的な一実施形態では、それぞれ、15cmの長さで、12.5mmの直径であり、それぞれ12の同じセグメントに分割されている4つのセグメント化ロッドが使用される。この実施例は、例示であり、他の寸法のロッド及び/又は他の数のセグメントが、同様に適している場合がある。セグメント30は、ギャップ40によって分離されている。例示的な一実施形態では、0.3mmのギャップ40を有する10 mmのセグメント30が使用される。セグメント30は、導電性材料又は、導電性材料で被覆されている基材から製造され、支持体を利用して整列されている別個の部分とすることができる。ある実施形態では、非導電性ロッドの被覆されていない領域間に存在する別個の位置において、非導電性ロッドを導電性材料で被覆することによって形成されているセグメント化ロッド30を使用する。たとえば、各ロッドは、たとえば、セラミックのような絶縁材料から形成されているロッド上に金属化層を適用し、次に、金属被覆の部分を除去することによって形成される。金属被覆の一部を除去するために、ロッドの円周にわたって金属に帯状の切り込みを入れ、切り込まれた金属の帯状の部分が、円周から除去される。切り込まれた金属の帯状の部分の除去によって、ギャップ40が形成される。工程が繰り返され、複数のセグメントが形成される。セグメント化ロッド30は、別個の個々のセグメント、非導電性材料の被覆されていない領域間に存在する金属被覆されているロッド領域を与えるように導電性材料で選択的に被覆されているロッド、それらの組み合わせのいずれかを意味するものと考えられるべきである。
【0020】
図2は、例示的なセグメント化ロッド22を示す。図2に示すように、各ギャップ40は、チップ抵抗器50及びコンデンサ60によってブリッジ接続され、セグメント30のそれぞれに一定のRF電圧及び随意的なDC勾配を供給する手段が設けられている。随意的に、セグメント30の少なくとも一部に対する補助AC励起電圧用の回路(図示せず)を設けることができる。複数のセグメント30は、電気リード線70を有し、リード線70に接続されている特定のセグメント30に対するDC電圧が制御される。リード線70は、手動で、又は自動化システムによって制御することができる駆動電子部品に接続するために、イオン処理セル10及び低下した圧力で動作するイオン処理セル(たとえば真空チャンバ)を囲む任意の構造の外側に引き出される。一実施形態では、複数のリード線70は、十分な数のセグメント30に対するリード線を含み、イオン処理セル内部で捕捉用電界を生成する。図2の例示的なロッド22の場合、リード線70は、ロッド22の端部セグメント31、32及び中間セグメント34に対するリード線70を含む。図2に示す中間セグメント34の位置は、例示であり、端部セグメント31と32の間のセグメントの任意のセグメントを中間セグメント34として選択することができる。通常、端部セグメント31、32は、セグメント化ロッド22の終端部に位置する。端部セグメント31、32が終端セグメント30であることは必要とされず、リード線70に接続されるとともに2つのセグメントの間に存在する少なくとも1つのセグメント30を有する任意の2つのセグメント30が、端部セグメント31、32の機能を果たすこともできる。リード線70は、他のセグメント化ロッド20、24、26の全てに同じように接続され、これは、端部セグメント31、32、中間セグメント34が、図示する四重極の実施形態に対して、各セグメント化ロッド20、22、24、26の同じ相対位置にあるように選択することを含む。
【0021】
ある実施形態では、個々のリード線70が、付加的なセグメント30に取り付けられ、他の実施形態では、全てのセグメント30に取り付けられる。セグメント30に対するリード線70の接続は、こうして接続されたセグメント30に関連するDC電圧の直接制御及び/又は電位場の制御をもたらす。リード線70に取り付けられているセグメント30の数を増加させることによって、細長い空間21内の電界を細かく選択的に制御することが可能となる。こうした制御は、1つ又は複数のポテンシャル井戸を確立すること、及び/又は修正すること、並びに/あるいは細長い空間21内で、ポテンシャル井戸にもしくは電位井戸からイオンを移送することを含む。
【0022】
代替的に、処理セル10内にイオンをトラップする手段を、イオンゲート対とすることができる。図1に戻ると、イオンシールド、又は代替的に、多重極を、イオンゲートとして使用することができる。たとえば、入口開口部12と出口開口部14の近くのシールド対16、18をそれぞれ、イオンゲートとして使用することができる。代替的に、入口開口部12と出口開口部14の近くに配置されている多重極62、64をそれぞれ、イオンゲートとして利用することができる。同様に、シールド及び/又は多重極及び/又はセグメントの一部の組み合わせを、使用して、イオンを捕捉するためのゲートを形成することができる。シールド、多重極、セグメントの任意のものが、イオンゲートとして機能する以外の機能をもたらすこともできる。したがって、これらの構造の1つ又は複数の構造が、実施形態によっては、イオンゲートとして機能しない状態で存在し、イオンゲートとして機能する以外の機能をもたらすこともできる。
【0023】
図1を参照すると、試薬は、試薬開口部80を介してイオン処理セル10に導入される。試薬を、イオン、陽子、電子、光子を含む反応試薬、又は被分析物イオンの衝突活性化を誘起する不活性試薬ガスとすることができる。図1は、単一の反応試薬開口部80を示す。ある実施形態においては、複数の反応試薬開口部80を使用することができる。開口部80の位置は、イオン処理セル10の特定の領域において高い試薬濃度をもたらす。随意的に、1つのレンズ81又は複数のレンズが、試薬開口部80に、又は試薬開口部80の近くに設けられ、帯電した試薬種を、イオン処理セル10に導入する際に、集中させることができる。
【0024】
電圧を、タイミングシーケンスで、一群のセグメント及び/又は個々のセグメントに対して操作することができる。複数のリード線70を使用するため、細長い空間21内で1つ又は複数の電位領域の異なる構成を生成するように、選択されたセグメント30に対する電圧を制御及び変更することができる。すなわち、領域の数、領域の寸法、領域の性質を変更することができ、及び/又は特定の領域に対する電界電位を操作することができる。回路は、タイミングシーケンスでこのような変更を行うことを可能にする。こうして、イオンは、細長い空間21内の電位領域又はポテンシャル井戸に捕捉され、随意的に、イオン処理セル10内で電位場条件のシーケンスを受け、及び/又は質量分析器に渡される前に、処理セル10を介して選択的に移動される。イオン処理セル10を介する井戸の選択的な移動は、移動型井戸を作る。
【0025】
イオンの捕捉及び移動は、イオン処理セル10を介するイオンの選択的移動をもたらすように、及び/又は電位領域で収集されたイオンについて付加的な処理ステップをもたらすように制御される。複数のポテンシャル井戸及び/又は複数の個別の処理領域又はそれらの組み合わせが、同時に処理セル10内に存在してもよく、処理領域の1つ又は複数が、捕捉されたイオンを収容する。捕捉されたイオンは、処理セルの個別の領域内に選択的に閉じ込められたイオンである。
【0026】
例示的な一実施形態では、被分析物イオン源と飛行時間質量分析器の間にイオン処理セル10を介在させることによって、飛行時間分析器におけるイオンのパルス間に生成されるイオンを収集し、収集したイオンを後続のパルスで収集されたイオンが分析器内に放出される前に、蓄積することを可能にする。収集及び蓄積によって、被分析物イオン源によって生成された被分析物イオンのより多くの部分を飛行時間システム内で分析することが可能になる。ある実施形態では、被分析物イオン源内で形成されたイオンのほとんどを収集、蓄積、分析することが可能である場合がある。イオンの収集及び蓄積によって、飛行時間機器のデューティサイクルを増加させることができる。
【0027】
イオンは、通常、イオンを減速させ、収集を容易にするために、不活性ガスの存在下のイオン処理セル10内で収集される。ガス圧は、イオンの断片化を誘起するほどは高くないが、イオンを減速させるには十分であるべきである。0.1333〜2.666パスカル(1〜20ミリトル)のガス圧で、通常、十分である。最適圧力は、被分析イオン及び使用される不活性ガスの種類に依存する。多くの用途に対して、0.6666〜1.333パスカル(5〜10ミリトル)の圧力が利用され、0.6666パスカル(5ミリトル)の圧力を利用することが一般的である。
【0028】
被分析物イオンを処理するための例示的な概略シーケンスを、図3A〜図3Fに示す。図3A〜図3Fに図示するシーケンスの場合、シーケンス全体を通して、イオン処理セル10内で不活性ガスが使用される。不活性ガスは、通常、0.6666パスカル(5ミリトル)であり、特に指示しなければ、不活性ガスによって、イオンは、非断片化衝突によってイオン処理セル10内に滞留する間にエネルギーを失う。概略シーケンスに示す変化は、DC電圧及びRF電圧を修正することによって達成される。随意的に、DC電圧及びRF電圧の修正は、タイミングシーケンスで行われる。図3A〜図3Fの概略シーケンスの場合、垂直軸は、イオン処理セル10内の電界電位を示し、電位は、垂直軸に沿って、水平軸から離れる方向で増加する。水平軸は、イオン処理セル10の長手方向軸を表す。したがって、水平軸上の位置は、イオン処理セル10内の位置に相当する。説明のために、図3A〜図3Fでは、被分析物イオンが、イオン処理セル10を通過して分析器内に入る時に、左から右の一般的な方向に移動するものと仮定する。しかしながら、実際のやり方では、被分析物イオンは、概して、左、右のいずれにも移動することができ、イオン処理セル10を通過する時に種々の動きをする場合がある。
【0029】
概略図3Aに示すように、電界電位100は、イオン110をイオン処理セル10内に導入するために、イオン処理セル10の入口12の近くで十分に低く、イオン110がイオン処理セル10を出ることを禁止するために、イオン処理セル10の出口14の近くで十分に高い。
【0030】
概略図3Bが示すように、第1のイオン群110がイオン処理セル10に導入されると、電界電位100は、イオン処理セルの入口12の近くで上昇し、第1のイオン群110がセル内の電位領域120内に捕捉される。電位領域120の両側の電位は、第1のイオン群110が電位領域120を出ることができず、第2のイオン群112が電位領域120に入ることができないようにされている(たとえば電位領域120の両側に、エネルギー障壁が形成されている)。イオン処理セルの入口12に最も近い電位領域120の縁部におけるエネルギー障壁122を、イオン処理セルの入口12と整列するように配置することができる。エネルギー障壁122がイオン処理セルの入口12と整列するように配置されると、第2のイオン群112が、イオン処理セル10に入ることを禁止される。代替的に、概略図3Dに示すように、エネルギー障壁122は、イオン処理セル10の軸に沿って配置され、第2のイオン群112が、別個の領域内のイオン処理セル10に入ることを可能とし、第2のイオン群112が、第1のイオン群110と混合することが禁止される。勾配132が電位領域120に適用され、イオン110が電位領域120内の特定の位置に送られる。
【0031】
概略図3Cでは、イオン処理セル10の電位領域120は、電位領域120がポテンシャル井戸であり、第1のイオン群110がポテンシャル井戸内に捕捉されるように、さらに変更されている。ポテンシャル井戸内に捕捉されると、イオン110は、パケットとして質量分析器に移動し、一方第2のイオン群112は、イオン処理セル10内に収集される。一実施形態では、イオンを処理することが、イオン110をイオン処理セル10の電位領域120(又はポテンシャル井戸)内に捕捉し、及び第2のイオンパケット112をイオン処理セル10の別の部分に収集しながら、イオン110を分析器に移動させることを含む。このような実施形態では、イオンパケットを、質量分析器に移送することができ、分析器への送出のためのイオンパケットの収集はほぼ連続である。この実施形態は、飛行時間分析器のデューティサイクルを高めるのに特に役立つ。
【0032】
ある実施形態では、処理することが、電位領域120内でイオン110を反応試薬と反応させることをさらに含む。反応試薬は、反応試薬のイオン、陽子、電子、光子を含む。反応は、化学反応及び電荷移動反応を含むイオン-イオン反応又はイオン-分子反応、断片化、又はそれらの組合せ等を誘起することを含む。ある実施形態では、補助AC電圧が、セグメント30の少なくとも一部に適用され、電位領域120内のイオン110が励起される。励起されると、さらにイオンは、不活性ガスと衝突し、衝突によって誘起された解離を受ける。随意的に、複数の種類の処理を、イオン110及び/又はイオン110から生成される収集された生成物に関して実施することができる。また随意的に、同様に、所与の種類の処理を、イオン110又はイオン110から収集された生成物に繰り返すこともできる。
【0033】
概略図3Dでは、電界電位100は、イオン処理セルの出口14の近くで低下し、電位領域120の周りのエネルギー障壁の一方の側がなくなる。すなわち、ポテンシャル井戸を形成するエネルギー障壁のうちの1つのエネルギー障壁がなくなり、イオン110は、イオン処理セル10を出て、質量分析器に入ることが可能になる。第2のイオン群112は、イオン110が電位領域120(井戸)内に捕捉され、イオン処理セル10を介して移動する間中、ずっと収集されてる。随意的に、イオン112は、イオン110用の処理と同様の処理又は異なる種類の処理を含む付加的な処理を受ける。通常、反応試薬イオンとの衝突活性化又は反応のような付加的な処理ステップは、イオン110、112が、それぞれの電位領域120又は井戸内に捕捉された時に行われるが、これは必須ではない。代替的に、たとえば、イオンを、たとえばエネルギー井戸内に捕捉する前に、収集時に衝突活性化又は衝突反応にかけることができる。概略図3E及び概略図3Fは、第2のイオン群112がイオン処理セル10内のポテンシャル井戸内に捕捉され、第3のイオン群114が第2のイオン群112から離れたイオン処理セル10の別個の領域内に収集されることを示す。
【0034】
図4は、イオン処理セル10内に複数のポテンシャル井戸150、160を同時に有する一実施形態を示す。2つの井戸150、160を図4に示すが、この実施形態は例示であり、複数の井戸は2つ又はそれ以上のポテンシャル井戸を含む。先に議論したように、各井戸は別個のイオン群を捕捉し、別個の群又はパケットとしてセルを介してイオンを移動させることができる。井戸150、160は、イオンの収集を容易にし、イオンを移送する移動型井戸として機能し、デューティサイクルを改善し、及び/又は、さらなる処理を容易にする。井戸150、160内でのさらなるイオン処理ステップは、順次に又は同時に起こる。
【0035】
イオンを捕捉すること、イオンを収集すること、イオンを移送することに加えて、さらなる処理ステップには、たとえば、被分析物イオンを、イオン-イオン反応、イオン-分子反応、電子移動解離、交流勾配断片化、電荷還元、陽子移動反応、電子移動反応、光解離等の1つもしくは又は複数の反応にかけること、及び/又はイオンを衝突活性化にかけること、又はそれらの組み合わせが含まれる。使用すべき1つ又は複数の処理ステップの選択は、求められる情報、使用される被分析物イオンや反応試薬の化学特性及び物理特性によって決められる。実験的な設計及びパラメータの最適化は、通常、実験的に決定される。
【0036】
複数の処理ステップは、イオンパケット、イオンパケットからの選択されたイオン、先の処理ステップにおいてイオンパケットから形成された生成イオン又は断片化イオンの衝突活性化を含む。衝突活性化は、通常、選択されたイオンの活性化及び選択されたイオンと不活性ガスとの衝突によって実施される。活性化は、補助AC電圧をセグメント30の少なくとも一部に適用することによって達成される。選択されたイオンは、次に、イオン処理セル10内に存在する不活性ガスと衝突すると、断片化するのに十分なエネルギーを得る。通常、アルゴン又はクリプトンのような不活性ガスが、衝突ガスとして使用される。0.6666パスカル(5ミリトル)の圧力と20〜40 eVの衝突エネルギーが、衝突活性化に対する一般的なパラメータの例示である。
【0037】
ある分析では、被分析物イオン源内で生成される範囲のイオンが処理され分析され、他の分析では、一定のm/z値を有するイオンが対象となる。ある範囲のm/z値を有するイオンが分析にとって望ましいか、特定の選択されたm/z値を有するイオンが分析にとって望ましいかは、調査される試料の性質及び求められる情報に依存する。被分析物イオン源内で形成されるイオンを、事前に質量選択することなく、イオン処理セル10に導入することができる。代替的に、質量フィルタを使用して、イオン処理セル10に導入するイオンの質量又は質量範囲を前もって選択することができる。代替的に、対象となるイオンのm/zと異なるm/z値を有するイオンをイオン処理セル10から排出することによって、イオン処理セル10内でイオンを選択することができる。
【0038】
以上の議論は、本発明の多くの例示的な方法及び実施形態を開示し説明している。当業者によって理解されるように、本発明は、本発明の精神又は本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化することができる。したがって、本発明の開示は、添付の特許請求の範囲で述べる本発明の範囲を具体的に示すことを意図し、制限することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】イオン処理セルの斜視図である。
【図2】セグメント化ロッドの概略図である。
【図3】処理セル内でイオンを処理する例示的な概略シーケンスである。
【図4】複数のポテンシャル井戸を有する処理セル内でイオンを処理する例示的な概略シーケンスである。
【符号の簡単な説明】
【0040】
10 イオン処理セル
12 入口開口部
14 出口開口部
16、18 シールド対
20、22、24、26 セグメント化ロッド
21 細長い空間
30 セグメント
31、32 端部セグメント
34 中間セグメント
40 ギャップ
50 チップ抵抗
60 コンデンサ
62、64 多重極
70 電気リード線
80 試薬開口部
81 レンズ
110、112 イオン
120、150、160 電位領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン処理セル(10)内でイオンを処理する方法であって、該イオン処理セルが、その間に細長い空間(21)を画定する一組の細長いセグメント化ロッド(20、22、24、26)と、該細長いセグメント化ロッド(20、22、24、26)にRF電圧を適用して当該細長い空間(21)内にRF電界をもたらす回路と、セグメント(30)にDC電圧を適用する回路とを有し、異なるDC電圧が異なるセグメント(30)に適用可能であり、所与の前記セグメント(30)に対する前記DC電圧が選択的に変更可能であるものにおいて、
前記細長い空間(21)にRF電界を適用し、
前記細長いセグメント化ロッド(20、22、24、26)の前記セグメント(30)にDC電圧を適用し、異なるDC電圧が前記セグメント(30)に選択的に適用され、それによって前記細長い空間(21)内で個別の電位を有する複数の電位領域(120、150、160)が形成され、
前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの第1の電位領域内に被分析物イオン(110、112、114)を提供し、
前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第1の電位領域内で、前記被分析物イオン(110、112、114)の少なくとも一部を処理することを含む方法。
【請求項2】
タイミングシーケンスで前記DC電圧及び前記RF電圧を制御することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被分析物イオン(110、112、114)を、前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第1の電位領域内に捕捉することによって、前記被分析物イオン(110、112、114)を処理することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(a)前記第1の電位領域内の当該被分析物イオンを反応試薬と結合させること、又は(b)当該被分析物イオンを不活性ガスと混合し、補助AC電圧を適用して当該被分析物イオン(110、112、114)を励起し、衝突解離を誘起することの少なくとも一方によって、前記被分析物イオン(110、112、114)を処理することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被分析物イオン(110、112、114)の第1の部分を前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第1の電位領域内に、当該被分析物イオン(110、112、114)の第2の部分を前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第2の電位領域内に、順次収集することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記被分析物イオン(110、112、114)の前記収集された第1の部分及び第2の部分を、第2の処理ステップにかけることをさらに含み、前記被分析物イオン(110、112、114)の前記第1の部分及び前記第2の部分が、前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第1の電位領域及び前記第2の電位領域内で順次処理される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記被分析物イオン(110、112、114)の前記収集された第1の部分及び第2の部分を、第2の処理ステップにかけることをさらに含み、前記被分析物イオン(110、112、114)の前記第1の部分及び前記第2の部分が、前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第1の電位領域及び前記第2の電位領域内で同時に処理される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第1の電位領域内の被分析物イオン(110、112、114)の前記収集された第1の部分、及び前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの前記第2の電位領域内の被分析物イオン(110、112、114)の前記収集された第2の部分を、第2の処理ステップにかけることをさらに含み、この第2の処理ステップが、前記被分析物イオン(110、112、114)の前記第1の部分及び前記第2の部分に対する同じ第2の処理ステップ、及び前記被分析物イオン(110、112、114)の前記第1の部分及び前記第2の部分に対する異なる第2の処理ステップからなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項9】
処理されたイオンを質量分析器に移送すること、及び該処理された被分析物イオン(110、112、114)の質量スペクトルを取得することをさらに含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の電位領域(120、150、160)のうちの少なくとも1つがポテンシャル井戸である請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−80829(P2007−80829A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248493(P2006−248493)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】5301 Stevens Creek Boulevard Santa Clara California U.S.A.
【Fターム(参考)】