りん酸イオンの発色方法および定量方法
【課題】保存可能な薬剤を用いて、検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させる。
【解決手段】検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法は、検査水に対し、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、酒石酸アンチモニルカリウム等のアンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解によりこれらの単糖の一つを生成可能なオリゴ糖や配糖体のような単糖生成化合物からなる群から選ばれた糖類化合物を含む第二水溶液を添加する工程と、第一水溶液および第二水溶液を添加した検査水を60℃以上に加熱する工程とを含んでいる。
【解決手段】検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法は、検査水に対し、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、酒石酸アンチモニルカリウム等のアンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解によりこれらの単糖の一つを生成可能なオリゴ糖や配糖体のような単糖生成化合物からなる群から選ばれた糖類化合物を含む第二水溶液を添加する工程と、第一水溶液および第二水溶液を添加した検査水を60℃以上に加熱する工程とを含んでいる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、りん酸イオンの発色方法および定量方法、特に、モリブデン青の生成による、検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法および定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
りんは海洋水、湖沼水、河川水および地下水等の富栄養化に関わる原因物質の一つであることから、工場排水等での排出規制が設けられている。このため、工場排水等は、環境への排出前にりんの定量、特に、りん酸イオンの定量が求められる。
【0003】
水中に含まれるりん酸イオンの公的な定量方法として、非特許文献1に記載のモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法が知られている。この定量方法は、りん酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウムおよび酒石酸アンチモニルカリウム(ビス[(+)−タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム)と反応して生成するヘテロポリ化合物をL(+)−アスコルビン酸で還元し、それにより生成するモリブデン青により発色した検査水の吸光度を測定することでりん酸イオンを定量するものである。この定量方法の基本的操作では、所定量の検査水に対して所定量のモリブデン酸アンモニウム−アスコルビン酸混合溶液を加えて振り混ぜた後、20〜40℃で約15分間放置する。そして、この溶液について波長880nm付近の吸光度を測定し、この測定値から予め作成しておいた検量線に基づいて検査水のりん酸イオン濃度(mgPO43−/L)を算出する。
【0004】
この定量方法において用いられるモリブデン酸アンモニウム−アスコルビン酸混合溶液は、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物と酒石酸アンチモニルカリウム三水和物(モリブデン青の生成反応促進剤)とを水に溶かし、これに硫酸とアミド硫酸アンモニウム(モリブデン青の生成を妨害する亜硝酸イオンの分解剤)とをさらに溶かすことで調製したモリブデン酸アンモニウム溶液と、L(+)−アスコルビン酸溶液とを所定割合で混合したものであり、使用時にモリブデン酸アンモニウム溶液とL(+)−アスコルビン酸溶液とを混合して調製する必要がある。
【0005】
ここで、L(+)−アスコルビン酸溶液は、L(+)−アスコルビン酸を水に溶解して調製した水溶液であるが、調製後にL(+)−アスコルビン酸の劣化が速やかに進行し、変質(外観的には黄色に変色)する。このため、非特許文献1は、L(+)−アスコルビン酸溶液を0〜10℃の暗所に保存するよう指示し、また、着色したものの使用を禁止している。
【0006】
ところで、環境保全の機運の高まりにより、工場排水等におけるりん酸イオンの定量頻度は増加の一途であるため、その定量操作の自動化装置が望まれている。この自動化装置では、所要の分析用薬剤、すなわち、モリブデン酸アンモニウム溶液とL(+)−アスコルビン酸溶液とを保存し、定量時にこれらを使用する必要がある。しかし、L(+)−アスコルビン酸溶液は、上述のとおり保存環境に制約があり、また、使用時に着色の有無を確認する必要もあることから、自動化装置において保存しながら用いるのが実質的に困難である。
【0007】
また、上記定量方法は、非特許文献1に記載のように、定量範囲が2.5〜75μgという微量範囲であるため、検査水について、溶存しているりん酸イオンおよび有機物等に由来のりん酸イオン等の総量である全りんを定量する場合において、結果的に定量の上限が1mg[P]/L程度に制限され、検査水によっては全りんの定量に用いることができないという不具合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS K 0102、工場排水試験方法(2008)46.1.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、保存可能な薬剤を用いて、検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、モリブデン青の生成による、検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法に関するものであり、この発色方法は、検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、当該発色試薬を存在させた検査水を60℃以上に加熱する工程とを含んでいる。
【0011】
また、他の観点に係る本発明は、検査水に含まれるりん酸イオンの定量方法に関するものであり、この定量方法は、検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、当該発色試薬を存在させた検査水を60℃以上に加熱する工程と、加熱後の検査水について、600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度を測定する工程とを含んでいる。
【0012】
このような発色方法または定量方法において用いられる単糖生成化合物は、例えば、スクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースである。また、発色試薬は、例えば、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液と、糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたもの、或いは、硫酸を含む第一水溶液と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものであり、かつ、糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である。
【0013】
さらに他の観点に係る本発明は、検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させるための試薬に関する。この発色試薬の一形態は、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤とを含む。また、この発色試薬の他の形態は、硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤とを含み、糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るりん酸イオンの発色方法および定量方法は、りん酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩およびアンチモンの価数が3であるアンチモン化合物と反応して生成するヘテロポリ化合物を炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを用いて還元しており、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースの水溶液および分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物の水溶液は安定であって保存可能であるため、自動化に適している。
【0015】
本発明に係るりん酸イオンの発色試薬は、所定の第一剤と第二剤とからなるものであり、第一剤および第二剤はいずれも安定であって保存可能であるため、りん酸イオンを定量する場合などにおいてりん酸イオンの発色を自動化するために適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で作成した検量線を示す図。
【図2】実施例2で作成した検量線を示す図。
【図3】実施例3で作成した検量線を示す図。
【図4】実施例4で作成した検量線を示す図。
【図5】実施例5で作成した検量線を示す図。
【図6】比較例1の結果を示す図。
【図7】実験例1で測定した、実施例1で用いた第二水溶液の吸収スペクトルを示す図。
【図8】実験例1で測定した、実施例4で用いた第二水溶液の吸収スペクトルを示す図。
【図9】実験例1で測定したアスコルビン酸溶液の吸収スペクトルを示す図。
【図10】実施例6の結果を示す図。
【図11】実施例7の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法によりりん酸イオンを定量可能な検査水は、特に限定されるものではないが、通常は工場排水や生活排水等のりんの排出規制が設けられている排水の他、海洋水、湖沼水、河川水および地下水等の天然水である。
【0018】
検査水のりん酸イオンを定量する際には、先ず、所定量の検査水を採取し、この検査水において発色試薬を存在させる。ここで、検査水の全りんを測定する場合は、発色試薬を存在させる前にりんの発生源となる有機物などのりん化合物を分解し、りん元素をりん酸イオンに変換するための前処理をする。りん化合物の分解方法としては、日本工業規格 JIS K0102 「工場排水試験方法(2008)」の「46.3 全りん」に挙げられたペルオキソ二硫酸カリウム分解法、硝酸−過塩素酸分解法および硝酸−硫酸分解法などを採用することができる。
【0019】
検査水に存在させる発色試薬は、モリブデン化合物、アンチモン化合物、硫酸並びに糖類化合物を含む水溶液からなるものである。
【0020】
モリブデン化合物としては、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩若しくは重金属塩が用いられる。このうち、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩を用いるのが好ましい。モリブデン酸のアルカリ金属塩の例としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムおよびモリブデン酸リチウムを挙げることができる。モリブデン酸のアルカリ土類金属塩の例としては、モリブデン酸カルシウムおよびモリブデン酸マグネシウムを挙げることができる。モリブデン酸の重金属塩の例としては、モリブデン酸亜鉛およびモリブデン酸アルミニウムを挙げることができる。
【0021】
アンチモン化合物としては、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物が用いられる。アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物の例としては、酒石酸アンチモニルカリウム、三酸化アンチモン(すなわち、酸化アンチモン(III))およびアンチモンのハロゲン化物塩などを挙げることができる。アンチモンのハロゲン化物塩としては、加水分解により有害な物質を生成しにくい三塩化アンチモン(すなわち、塩化アンチモン(III))などを用いるのが好ましい。
【0022】
なお、アンチモン化合物としては、アンチモンの価数が5のアンチモン化合物を用いることもできる。このアンチモン化合物は、水溶液中において自然にアンチモンの価数が3のアンチモン化合物に変換されるため、アンチモンの価数が3のアンチモン化合物の供給源として用いることができる。ここで利用可能なアンチモンの価数が5のアンチモン化合物の例としては、五酸化アンチモン(すなわち、酸化アンチモン(V))および価数が5のアンチモンのハロゲン化物塩などを挙げることができる。価数が5のアンチモンのハロゲン化物塩としては、加水分解により有害な物質を生成しにくい五塩化アンチモン(すなわち、塩化アンチモン(V))などを用いるのが好ましい。
【0023】
糖類化合物としては、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれたものが用いられる。炭素数5のアルドースの例としては、リボース、アラビノース、キシロースおよびリキソースを挙げることができる。炭素数6のアルドースの例としては、アロース、アルトロース、グルコース、マンノースおよびガラクトースを挙げることができる。炭素数6のケトースの例としては、プシコース、フルクトース、ソルボースおよびタガトースを挙げることができる。
【0024】
また、単糖生成化合物としては、分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能なオリゴ糖または配糖体が用いられる。オリゴ糖としては、例えば、二糖類のスクロース、マルトース、ラクトース、イソマルツロース、マルツロース、ラクツロース、ガラクトスクロース、プリメベロースおよびビシアノース、三糖類のラフィノース、ケストース、ゲンチアノース、プランテオースおよびウンベリフェロース、四糖類のスタキオース並びに五糖類のベルバスコースを挙げることができる。これらの例示のオリゴ糖は、分解により、キシロース(炭素数5のアルドース)、グルコース(炭素数6のアルドース)、ガラクトース(炭素数6のアルドース)またはフルクトース(炭素数6のケトース)を生成することができる。また、配糖体としては、例えば、アルブチンおよびサリシンを挙げることができる。これらの例示の配糖体は、分解によりグルコースを生成することができる。
【0025】
なお、単糖生成化合物としては、通常、安価に入手可能なスクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースを用いるのが好ましい。
【0026】
発色試薬は、例えば、モリブデン化合物、アンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液(第一剤)と、糖類化合物を含む第二水溶液(第二剤)とを別々に調製し、これらの水溶液を混合することで調製することができる(第1の形態)。或いは、硫酸を含む第一水溶液(第一剤)と、モリブデン化合物、アンチモン化合物および糖類化合物を含む第二水溶液(第二剤)とを別々に調製し、これらの水溶液を混合することで調製することもできる(第2の形態)。
【0027】
<第1の形態>
この形態の発色試薬において、第一水溶液は、精製水、例えば、純水、蒸留水またはイオン交換水等にモリブデン化合物、アンチモン化合物および硫酸を溶解することで調製することができる。ここで、アンチモン化合物として三酸化アンチモン(酸化アンチモン(III))または三塩化アンチモン(塩化アンチモン(III))を用いる場合は、第一水溶液の調製時に三酸化アンチモンまたは三塩化アンチモンの溶解を促進させるために、適量の塩酸を添加することができる。
【0028】
第一水溶液におけるモリブデン化合物の濃度(モリブデン化合物の水和物を用いる場合は、水和水を除いた濃度)は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときのモリブデン化合物の濃度が、通常、0.3〜3.0g/Lになるよう設定するのが好ましく、0.5〜2.0g/Lになるよう設定するのがより好ましい。また、第一水溶液におけるアンチモン化合物の濃度(アンチモン化合物の水和物を用いる場合は、水和水を除いた濃度)は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときのアンチモン化合物の濃度が、通常、0.01〜0.2g/Lになるよう設定するのが好ましく、0.03〜0.12g/Lになるよう設定するのがより好ましい。一方、第一水溶液における硫酸の濃度は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときの硫酸の濃度が、通常、0.08〜0.4Mになるよう設定するのが好ましく、0.12〜0.3Mになるよう設定するのがより好ましい。
【0029】
第一水溶液は、その溶存成分であるモリブデン化合物、アンチモン化合物および硫酸が相互に反応して変性するものではなく、精製水中において安定に存在し得るため、室温或いは3〜60℃程度の広い温度環境において安定に保存することができる。
【0030】
第二水溶液は、精製水に糖類化合物を溶解することで調製することができる。第二水溶液における糖類化合物の濃度は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときの糖類化合物の濃度が、通常、1〜50g/Lになるよう設定するのが好ましく、3〜40g/Lになるよう設定するのがより好ましい。ここで、糖類化合物として単糖生成化合物を用いる場合、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときの糖類化合物の濃度は、単糖生成化合物の分解により生成する単糖類の濃度、すなわち、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースの濃度を意味する。
【0031】
第二水溶液は、糖類化合物が変性せずに安定に存在し得るため、室温或いは3〜60℃程度の広い温度環境において安定に保存することができる。
【0032】
<第2の形態>
この形態の発色試薬において、第一水溶液は、精製水に硫酸を溶解することで調製することができる。また、第二水溶液は、精製水にモリブデン化合物、アンチモン化合物および糖類化合物を溶解することで調製することができる。但し、第二水溶液において用いる糖類化合物は、分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な非還元性のオリゴ糖、例えば、スクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれたものである。非還元性のオリゴ糖以外の糖類化合物を用いた場合、保存中の第二水溶液において、溶質間で反応が進行してしまう可能性がある。
【0033】
第二水溶液は、糖類化合物、すなわち、非還元性のオリゴ糖を安定化するために、例えば水酸化ナトリウム水溶液を添加することでアルカリ性に調整するのが好ましい。また、アンチモン化合物として三酸化アンチモンまたは三塩化アンチモンを用いる場合は、三酸化アンチモンまたは三塩化アンチモンの溶解を促進させるために、第二水溶液の調製時に適量の塩酸を添加することができる。
【0034】
この形態の発色試薬において、第一水溶液における硫酸の濃度、第二水溶液におけるモリブデン化合物、アンチモン化合物および糖類化合物は、いずれも、第1の形態の場合と同様に設定するのが好ましい。
【0035】
この形態の発色試薬における第一水溶液および第二水溶液は、いずれも、溶質が変性せずに安定に存在し得るため、室温或いは3〜60℃程度の広い温度環境において安定に保存することができる。
【0036】
発色試薬は、使用時、すなわち、検査水への添加の直前に第一水溶液と第二水溶液とを混合することで調製してもよいし、検査水へ第一水溶液と第二水溶液とを別々に添加することで検査水中で調製されるようにしてもよい。前者の場合、検査水に対して発色試薬を添加することにより、検査水において発色試薬を存在させることができる。後者の場合、検査水に対して第一水溶液と第二水溶液とを別々に添加することにより、検査水において発色試薬を存在させることができる。
【0037】
第1の形態の発色試薬を用いる場合、検査水における発色試薬の存在量は、検査水における第一水溶液の存在量が、通常、40〜100mL/Lになるよう設定するのが好ましく、60〜80mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。また、第二水溶液の存在量が、通常、10〜150mL/Lになるよう設定するのが好ましく、20〜100mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。但し、検査水において、第一水溶液(A)と第二水溶液(B)との容積比(A:B)が、通常、1:2〜2:1になるよう設定するのが好ましく、3:4〜4:3になるよう設定するのがより好ましい。
【0038】
一方、第2の形態の発色試薬を用いる場合、検査水における発色試薬の存在量は、検査水における第一水溶液の存在量が、通常、50〜120mL/Lになるよう設定するのが好ましく、60〜100mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。また、第二水溶液の存在量が、通常、50〜180mL/Lになるよう設定するのが好ましく、60〜150mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。但し、検査水において、第一水溶液(A)と第二水溶液(B)との容積比(A:B)が、通常、1:1〜1:3になるよう設定するのが好ましく、4:5〜2:3になるよう設定するのがより好ましい。
【0039】
なお、発色試薬は、モリブデン化合物、アンチモン化合物、硫酸および糖類化合物のそれぞれの水溶液を別々に調製し、これらの水溶液を検査水への添加直前に混合することにより調製することもでき、また、これらの水溶液を検査水へ別々に添加することで検査水中で調製されるようにすることもできる。
【0040】
発色試薬を添加する検査水が予め硫酸を含む場合、例えば、検査水に含まれるりん化合物を分解してりん酸イオンへ変換することで検査水の全りんを定量するときに、りん化合物を分解するための検査水の前処理において硫酸水溶液を用いた場合、この硫酸水溶液を発色試薬のための硫酸として用いることができる。この場合、検査水における硫酸濃度が十分であれば、硫酸以外の成分を含む水溶液を検査水へ添加することで、検査水に発色試薬を存在させることができる。例えば、第2の形態の発色試薬を用いる場合、前処理において検査水へ添加する硫酸水溶液を第一水溶液と見なすことができ、前処理後のりん酸イオンの発色工程では検査水に対して第二水溶液のみを添加することができる。
【0041】
次に、発色試薬が存在する検査水を加熱する。この際、検査水を適宜攪拌するのが好ましい。加熱温度は、60℃以上で検査水の沸騰温度までの範囲に設定する。また、加熱時間は、通常、2〜60分に設定する。発色試薬の糖類化合物として単糖生成化合物を用いた場合、単糖生成化合物は、この加熱により加水分解され、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成する。
【0042】
加熱された検査水中のりん酸イオンは、発色試薬のモリブデン化合物およびアンチン化合物と反応してヘテロポリ化合物を生成し、また、生成したヘテロポリ化合物は硫酸による酸性環境下で炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースにより還元される。この還元によりモリブデン青が生成し(りん酸イオンの発色)、このモリブデン青により検査水が変色する。
【0043】
次に、モリブデン青により変色した検査水について、600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度を測定する。そして、当該吸光度とりん酸イオン濃度との関係を予め調べて作成しておいた検量線に基づいて、吸光度の測定値から検査水のりん酸イオン量を判定する。
【0044】
本発明に係るりん酸イオンの発色方法および定量方法は、モリブデン青を生成させるヘテロポリ化合物の還元剤として水溶液中で安定な単糖類または分解により当該単糖類を生成可能な単糖生成化合物を用いており、これらの糖類化合物の水溶液は安定に保存することができるため、自動化に適している。また、本発明に係るりん酸イオンの定量方法においては、検量線を作成したときに、りん酸イオン濃度と600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度との間の直線関係が比較的高濃度のりん酸イオン濃度の範囲まで良好に成立することから、検査水中に含まれるりん酸イオンの定量上限が4mg[P]/L若しくはそれ以上の範囲まで拡大する。このため、この定量方法は、検査水の全りんを定量する場合において、特に有効である。
【実施例】
【0045】
試薬
以下の実施例等で用いた試薬および分光光度計は次のものである。
りん標準液(水質試験用):和光純薬工業株式会社 コード160−19241
硫酸(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード192−04696
水酸化ナトリウム(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード198−13765
塩酸(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード080−01066
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード018−06901
モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード190−02475
モリブデン酸カリウム:和光純薬工業株式会社 コード165−04002
酒石酸アンチモニルカリウム三水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード020−12832
塩化アンチモン(III)(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード011−04492
酸化アンチモン(III)(化学用):和光純薬工業株式会社 コード018−04402
D−リボース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード182−01052
D−アラビノース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード013−04572
L−アラビノース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード010−04582
D−キシロース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード244−00302
D−リキソース:東京化成株式会社 コードL0073
D−アロース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード017−22591
D−アルトロース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード012−22421
D−グルコース(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード047−00592
D−マンノース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード130−00872
D−ガラクトース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード071−00032
D−プシコース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード165−23841
D−フルクトース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード127−02765
L−フルクトース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード067−05491
D−ソルボース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード195−15291
L−ソルボース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード191−03762
D−タガトース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード208−17511
スクロース(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード196−00015
D−ラフィノース五水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード180−00012
D−マルトース一水和物:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード130−00615
ラクトース一水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード128−00095
アスコルビン酸(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード014−04801
分光光度計:株式会社島津製作所の商品名「UV−1600PC」
【0046】
検査水
以下の実施例等で用いた検査水は次のものである。
りん酸イオン濃度が0、0.5、1.0、2.0、3.0および4.0mg[P]/Lの六種類の検査水を用意した。mg[P]/Lの単位は、1Lの検査水に含まれるりんのmg数を示したものである。りん酸イオン濃度が0mg[P]/Lの検査水は蒸留水をそのまま用い、また、他の検査水はりん標準液を蒸留水で希釈することでりん酸イオン濃度を調整した。
【0047】
実施例1
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を20g/L、酒石酸アンチモニルカリウム三水和物を0.8g/Lおよび硫酸を3M含む第一水溶液と、D−フルクトースを400g/L含む第二水溶液とを調製した。
【0048】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.1mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図1に示す。図1によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0049】
実施例2
実施例1で用いたものと同じ第一水溶液と、スクロースを400g/L含む第二水溶液とを調製した。
【0050】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.2mLを添加し、95℃で10分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の630nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図2に示す。図2によると、この検量線は、少なくもりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0051】
実施例3
実施例1で用いたものと同じ第一水溶液と、D−ラフィノース五水和物を300g/L含む第二水溶液とを調製した。
【0052】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.4mLを添加し、95℃で10分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の890nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図3に示す。図3によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0053】
実施例4
硫酸を3M含む第一水溶液と、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物を10g/L、塩化アンチモン(III)を0.4g/Lおよびスクロースを150g/L含む第二水溶液とを調製した。第二水溶液の調製では、スクロースを安定化するために0.1Mに調整した水酸化ナトリウム水溶液を添加することでアルカリ性に調整し、また、塩化アンチモン(III)の溶解を促進するために適量の塩酸を添加した。
【0054】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.4mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図4に示す。図4によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0055】
実施例5
硫酸を3M含む第一水溶液と、モリブデン酸カリウムを10g/L、酸化アンチモン(III)を0.4g/LおよびD−ラフィノース五水和物を150g/L含む第二水溶液とを調製した。第二水溶液の調製では、D−ラフィノース五水和物を安定化するために0.1Mに調整した水酸化ナトリウム水溶液を添加することでアルカリ性に調整し、また、酸化アンチモン(III)の溶解を促進するために適量の塩酸を添加した。
【0056】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.4mLを添加し、95℃で10分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の890nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図5に示す。図5によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0057】
比較例1
日本工業規格 JIS K 0102、工場排水試験方法(2008)46.1.1(非特許文献1)に規定されたモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法に従い、六種類の各検査水2.5mLについて890nmの吸光度を測定し、同吸光度とりん酸イオン濃度との関係を調べた。結果を図6に示す。図6によると、りん酸イオン濃度2mg[P]/Lの検査水の吸光度がりん酸イオン濃度1mg[P]/Lの検査水の吸光度の2倍にならず、りん酸イオンの定量可能範囲が多くても1.5mg[P]/Lまでの低濃度の範囲に限定されることがわかる。
【0058】
実験例1
実施例1で用いた第二水溶液、実施例4で用いた第二水溶液および比較例1のモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法で用いる72g/Lのアスコルビン酸溶液について、保存試験を実施した。
【0059】
ここでは、調製直後の各第二水溶液およびアスコルビン酸溶液を個別に褐色瓶に入れ、50℃のインキュベータ内に配置した。そして、各溶液について、調製から24時間後、48時間後および96時間後の吸収スペクトルを測定し、これらの吸収スペクトルを調製直後の吸収スペクトルと比較した。結果を図7(実施例1の第二水溶液の結果)、図8(実施例4の第二水溶液の結果)および図9(アスコルビン酸溶液の結果)に示す。
【0060】
図7および図8によると、実施例1の第二水溶液および実施例4の第二水溶液は、吸収スペクトルに殆ど変化がない(調製直後、24時間後、48時間後および96時間後の各吸収スペクトルが略重なっている)ことから保存安定性が良好である。一方、図9によると、アスコルビン酸溶液は、調製から24時間後の時点で早くも吸収スペクトルの変化が見られることから、調製後の早い段階で変性が進行しており、安定な保存が困難である。
【0061】
実施例2および実施例3で用いた第二水溶液および実施例5で用いた第二水溶液についても同様の保存試験を実施したところ、吸収スペクトルに実質的な変化がなく、保存安定性は良好であった。
【0062】
実施例6
りん酸イオン濃度が2.0mg/Lの検査水について、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、実施例1で用いたものと同じ第一水溶液0.2mLおよび単糖の濃度が500g/Lの糖類水溶液0.1mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定した。
【0063】
上述の測定は、炭素数5のアルドースであるD−リボース、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロースおよびD−リキソース、炭素数6のアルドースであるD−アロース、D−アルトロース、D−グルコース、D−マンノースおよびD−ガラクトース並びに炭素数6のケトースであるD−プシコース、D−フルクトース、L−フルクトース、D−ソルボース、L−ソルボースおよびD−タガトースの各単糖の糖類水溶液について実施した。
【0064】
結果を図10に示す。図10より、各単糖は、りん酸イオンを十分に発色可能なことが確認できた。
【0065】
実施例7
りん酸イオン濃度が1.0mg/Lの検査水について、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、実施例1で用いたものと同じ第一水溶液0.2mLおよびオリゴ糖の濃度が200g/Lの糖類水溶液0.2mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定した。この測定は、スクロース、D−マルトース一水和物、ラクトース一水和物およびD−ラフィノース五水和物の各オリゴ糖の糖類水溶液について実施した。
【0066】
結果を図11に示す。図11より、各オリゴ糖は、その分解により生成する単糖によりりん酸イオンを十分に発色可能なことが確認できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、りん酸イオンの発色方法および定量方法、特に、モリブデン青の生成による、検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法および定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
りんは海洋水、湖沼水、河川水および地下水等の富栄養化に関わる原因物質の一つであることから、工場排水等での排出規制が設けられている。このため、工場排水等は、環境への排出前にりんの定量、特に、りん酸イオンの定量が求められる。
【0003】
水中に含まれるりん酸イオンの公的な定量方法として、非特許文献1に記載のモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法が知られている。この定量方法は、りん酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウムおよび酒石酸アンチモニルカリウム(ビス[(+)−タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム)と反応して生成するヘテロポリ化合物をL(+)−アスコルビン酸で還元し、それにより生成するモリブデン青により発色した検査水の吸光度を測定することでりん酸イオンを定量するものである。この定量方法の基本的操作では、所定量の検査水に対して所定量のモリブデン酸アンモニウム−アスコルビン酸混合溶液を加えて振り混ぜた後、20〜40℃で約15分間放置する。そして、この溶液について波長880nm付近の吸光度を測定し、この測定値から予め作成しておいた検量線に基づいて検査水のりん酸イオン濃度(mgPO43−/L)を算出する。
【0004】
この定量方法において用いられるモリブデン酸アンモニウム−アスコルビン酸混合溶液は、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物と酒石酸アンチモニルカリウム三水和物(モリブデン青の生成反応促進剤)とを水に溶かし、これに硫酸とアミド硫酸アンモニウム(モリブデン青の生成を妨害する亜硝酸イオンの分解剤)とをさらに溶かすことで調製したモリブデン酸アンモニウム溶液と、L(+)−アスコルビン酸溶液とを所定割合で混合したものであり、使用時にモリブデン酸アンモニウム溶液とL(+)−アスコルビン酸溶液とを混合して調製する必要がある。
【0005】
ここで、L(+)−アスコルビン酸溶液は、L(+)−アスコルビン酸を水に溶解して調製した水溶液であるが、調製後にL(+)−アスコルビン酸の劣化が速やかに進行し、変質(外観的には黄色に変色)する。このため、非特許文献1は、L(+)−アスコルビン酸溶液を0〜10℃の暗所に保存するよう指示し、また、着色したものの使用を禁止している。
【0006】
ところで、環境保全の機運の高まりにより、工場排水等におけるりん酸イオンの定量頻度は増加の一途であるため、その定量操作の自動化装置が望まれている。この自動化装置では、所要の分析用薬剤、すなわち、モリブデン酸アンモニウム溶液とL(+)−アスコルビン酸溶液とを保存し、定量時にこれらを使用する必要がある。しかし、L(+)−アスコルビン酸溶液は、上述のとおり保存環境に制約があり、また、使用時に着色の有無を確認する必要もあることから、自動化装置において保存しながら用いるのが実質的に困難である。
【0007】
また、上記定量方法は、非特許文献1に記載のように、定量範囲が2.5〜75μgという微量範囲であるため、検査水について、溶存しているりん酸イオンおよび有機物等に由来のりん酸イオン等の総量である全りんを定量する場合において、結果的に定量の上限が1mg[P]/L程度に制限され、検査水によっては全りんの定量に用いることができないという不具合もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS K 0102、工場排水試験方法(2008)46.1.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、保存可能な薬剤を用いて、検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、モリブデン青の生成による、検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法に関するものであり、この発色方法は、検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、当該発色試薬を存在させた検査水を60℃以上に加熱する工程とを含んでいる。
【0011】
また、他の観点に係る本発明は、検査水に含まれるりん酸イオンの定量方法に関するものであり、この定量方法は、検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、当該発色試薬を存在させた検査水を60℃以上に加熱する工程と、加熱後の検査水について、600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度を測定する工程とを含んでいる。
【0012】
このような発色方法または定量方法において用いられる単糖生成化合物は、例えば、スクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースである。また、発色試薬は、例えば、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液と、糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたもの、或いは、硫酸を含む第一水溶液と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものであり、かつ、糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である。
【0013】
さらに他の観点に係る本発明は、検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させるための試薬に関する。この発色試薬の一形態は、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤とを含む。また、この発色試薬の他の形態は、硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤とを含み、糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るりん酸イオンの発色方法および定量方法は、りん酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩およびアンチモンの価数が3であるアンチモン化合物と反応して生成するヘテロポリ化合物を炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを用いて還元しており、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースの水溶液および分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物の水溶液は安定であって保存可能であるため、自動化に適している。
【0015】
本発明に係るりん酸イオンの発色試薬は、所定の第一剤と第二剤とからなるものであり、第一剤および第二剤はいずれも安定であって保存可能であるため、りん酸イオンを定量する場合などにおいてりん酸イオンの発色を自動化するために適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で作成した検量線を示す図。
【図2】実施例2で作成した検量線を示す図。
【図3】実施例3で作成した検量線を示す図。
【図4】実施例4で作成した検量線を示す図。
【図5】実施例5で作成した検量線を示す図。
【図6】比較例1の結果を示す図。
【図7】実験例1で測定した、実施例1で用いた第二水溶液の吸収スペクトルを示す図。
【図8】実験例1で測定した、実施例4で用いた第二水溶液の吸収スペクトルを示す図。
【図9】実験例1で測定したアスコルビン酸溶液の吸収スペクトルを示す図。
【図10】実施例6の結果を示す図。
【図11】実施例7の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の方法によりりん酸イオンを定量可能な検査水は、特に限定されるものではないが、通常は工場排水や生活排水等のりんの排出規制が設けられている排水の他、海洋水、湖沼水、河川水および地下水等の天然水である。
【0018】
検査水のりん酸イオンを定量する際には、先ず、所定量の検査水を採取し、この検査水において発色試薬を存在させる。ここで、検査水の全りんを測定する場合は、発色試薬を存在させる前にりんの発生源となる有機物などのりん化合物を分解し、りん元素をりん酸イオンに変換するための前処理をする。りん化合物の分解方法としては、日本工業規格 JIS K0102 「工場排水試験方法(2008)」の「46.3 全りん」に挙げられたペルオキソ二硫酸カリウム分解法、硝酸−過塩素酸分解法および硝酸−硫酸分解法などを採用することができる。
【0019】
検査水に存在させる発色試薬は、モリブデン化合物、アンチモン化合物、硫酸並びに糖類化合物を含む水溶液からなるものである。
【0020】
モリブデン化合物としては、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩若しくは重金属塩が用いられる。このうち、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩を用いるのが好ましい。モリブデン酸のアルカリ金属塩の例としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムおよびモリブデン酸リチウムを挙げることができる。モリブデン酸のアルカリ土類金属塩の例としては、モリブデン酸カルシウムおよびモリブデン酸マグネシウムを挙げることができる。モリブデン酸の重金属塩の例としては、モリブデン酸亜鉛およびモリブデン酸アルミニウムを挙げることができる。
【0021】
アンチモン化合物としては、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物が用いられる。アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物の例としては、酒石酸アンチモニルカリウム、三酸化アンチモン(すなわち、酸化アンチモン(III))およびアンチモンのハロゲン化物塩などを挙げることができる。アンチモンのハロゲン化物塩としては、加水分解により有害な物質を生成しにくい三塩化アンチモン(すなわち、塩化アンチモン(III))などを用いるのが好ましい。
【0022】
なお、アンチモン化合物としては、アンチモンの価数が5のアンチモン化合物を用いることもできる。このアンチモン化合物は、水溶液中において自然にアンチモンの価数が3のアンチモン化合物に変換されるため、アンチモンの価数が3のアンチモン化合物の供給源として用いることができる。ここで利用可能なアンチモンの価数が5のアンチモン化合物の例としては、五酸化アンチモン(すなわち、酸化アンチモン(V))および価数が5のアンチモンのハロゲン化物塩などを挙げることができる。価数が5のアンチモンのハロゲン化物塩としては、加水分解により有害な物質を生成しにくい五塩化アンチモン(すなわち、塩化アンチモン(V))などを用いるのが好ましい。
【0023】
糖類化合物としては、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれたものが用いられる。炭素数5のアルドースの例としては、リボース、アラビノース、キシロースおよびリキソースを挙げることができる。炭素数6のアルドースの例としては、アロース、アルトロース、グルコース、マンノースおよびガラクトースを挙げることができる。炭素数6のケトースの例としては、プシコース、フルクトース、ソルボースおよびタガトースを挙げることができる。
【0024】
また、単糖生成化合物としては、分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能なオリゴ糖または配糖体が用いられる。オリゴ糖としては、例えば、二糖類のスクロース、マルトース、ラクトース、イソマルツロース、マルツロース、ラクツロース、ガラクトスクロース、プリメベロースおよびビシアノース、三糖類のラフィノース、ケストース、ゲンチアノース、プランテオースおよびウンベリフェロース、四糖類のスタキオース並びに五糖類のベルバスコースを挙げることができる。これらの例示のオリゴ糖は、分解により、キシロース(炭素数5のアルドース)、グルコース(炭素数6のアルドース)、ガラクトース(炭素数6のアルドース)またはフルクトース(炭素数6のケトース)を生成することができる。また、配糖体としては、例えば、アルブチンおよびサリシンを挙げることができる。これらの例示の配糖体は、分解によりグルコースを生成することができる。
【0025】
なお、単糖生成化合物としては、通常、安価に入手可能なスクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースを用いるのが好ましい。
【0026】
発色試薬は、例えば、モリブデン化合物、アンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液(第一剤)と、糖類化合物を含む第二水溶液(第二剤)とを別々に調製し、これらの水溶液を混合することで調製することができる(第1の形態)。或いは、硫酸を含む第一水溶液(第一剤)と、モリブデン化合物、アンチモン化合物および糖類化合物を含む第二水溶液(第二剤)とを別々に調製し、これらの水溶液を混合することで調製することもできる(第2の形態)。
【0027】
<第1の形態>
この形態の発色試薬において、第一水溶液は、精製水、例えば、純水、蒸留水またはイオン交換水等にモリブデン化合物、アンチモン化合物および硫酸を溶解することで調製することができる。ここで、アンチモン化合物として三酸化アンチモン(酸化アンチモン(III))または三塩化アンチモン(塩化アンチモン(III))を用いる場合は、第一水溶液の調製時に三酸化アンチモンまたは三塩化アンチモンの溶解を促進させるために、適量の塩酸を添加することができる。
【0028】
第一水溶液におけるモリブデン化合物の濃度(モリブデン化合物の水和物を用いる場合は、水和水を除いた濃度)は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときのモリブデン化合物の濃度が、通常、0.3〜3.0g/Lになるよう設定するのが好ましく、0.5〜2.0g/Lになるよう設定するのがより好ましい。また、第一水溶液におけるアンチモン化合物の濃度(アンチモン化合物の水和物を用いる場合は、水和水を除いた濃度)は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときのアンチモン化合物の濃度が、通常、0.01〜0.2g/Lになるよう設定するのが好ましく、0.03〜0.12g/Lになるよう設定するのがより好ましい。一方、第一水溶液における硫酸の濃度は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときの硫酸の濃度が、通常、0.08〜0.4Mになるよう設定するのが好ましく、0.12〜0.3Mになるよう設定するのがより好ましい。
【0029】
第一水溶液は、その溶存成分であるモリブデン化合物、アンチモン化合物および硫酸が相互に反応して変性するものではなく、精製水中において安定に存在し得るため、室温或いは3〜60℃程度の広い温度環境において安定に保存することができる。
【0030】
第二水溶液は、精製水に糖類化合物を溶解することで調製することができる。第二水溶液における糖類化合物の濃度は、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときの糖類化合物の濃度が、通常、1〜50g/Lになるよう設定するのが好ましく、3〜40g/Lになるよう設定するのがより好ましい。ここで、糖類化合物として単糖生成化合物を用いる場合、検査水へ所定量の第一水溶液と第二水溶液とを添加したときの糖類化合物の濃度は、単糖生成化合物の分解により生成する単糖類の濃度、すなわち、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースの濃度を意味する。
【0031】
第二水溶液は、糖類化合物が変性せずに安定に存在し得るため、室温或いは3〜60℃程度の広い温度環境において安定に保存することができる。
【0032】
<第2の形態>
この形態の発色試薬において、第一水溶液は、精製水に硫酸を溶解することで調製することができる。また、第二水溶液は、精製水にモリブデン化合物、アンチモン化合物および糖類化合物を溶解することで調製することができる。但し、第二水溶液において用いる糖類化合物は、分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な非還元性のオリゴ糖、例えば、スクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれたものである。非還元性のオリゴ糖以外の糖類化合物を用いた場合、保存中の第二水溶液において、溶質間で反応が進行してしまう可能性がある。
【0033】
第二水溶液は、糖類化合物、すなわち、非還元性のオリゴ糖を安定化するために、例えば水酸化ナトリウム水溶液を添加することでアルカリ性に調整するのが好ましい。また、アンチモン化合物として三酸化アンチモンまたは三塩化アンチモンを用いる場合は、三酸化アンチモンまたは三塩化アンチモンの溶解を促進させるために、第二水溶液の調製時に適量の塩酸を添加することができる。
【0034】
この形態の発色試薬において、第一水溶液における硫酸の濃度、第二水溶液におけるモリブデン化合物、アンチモン化合物および糖類化合物は、いずれも、第1の形態の場合と同様に設定するのが好ましい。
【0035】
この形態の発色試薬における第一水溶液および第二水溶液は、いずれも、溶質が変性せずに安定に存在し得るため、室温或いは3〜60℃程度の広い温度環境において安定に保存することができる。
【0036】
発色試薬は、使用時、すなわち、検査水への添加の直前に第一水溶液と第二水溶液とを混合することで調製してもよいし、検査水へ第一水溶液と第二水溶液とを別々に添加することで検査水中で調製されるようにしてもよい。前者の場合、検査水に対して発色試薬を添加することにより、検査水において発色試薬を存在させることができる。後者の場合、検査水に対して第一水溶液と第二水溶液とを別々に添加することにより、検査水において発色試薬を存在させることができる。
【0037】
第1の形態の発色試薬を用いる場合、検査水における発色試薬の存在量は、検査水における第一水溶液の存在量が、通常、40〜100mL/Lになるよう設定するのが好ましく、60〜80mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。また、第二水溶液の存在量が、通常、10〜150mL/Lになるよう設定するのが好ましく、20〜100mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。但し、検査水において、第一水溶液(A)と第二水溶液(B)との容積比(A:B)が、通常、1:2〜2:1になるよう設定するのが好ましく、3:4〜4:3になるよう設定するのがより好ましい。
【0038】
一方、第2の形態の発色試薬を用いる場合、検査水における発色試薬の存在量は、検査水における第一水溶液の存在量が、通常、50〜120mL/Lになるよう設定するのが好ましく、60〜100mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。また、第二水溶液の存在量が、通常、50〜180mL/Lになるよう設定するのが好ましく、60〜150mL/Lになるよう設定するのがより好ましい。但し、検査水において、第一水溶液(A)と第二水溶液(B)との容積比(A:B)が、通常、1:1〜1:3になるよう設定するのが好ましく、4:5〜2:3になるよう設定するのがより好ましい。
【0039】
なお、発色試薬は、モリブデン化合物、アンチモン化合物、硫酸および糖類化合物のそれぞれの水溶液を別々に調製し、これらの水溶液を検査水への添加直前に混合することにより調製することもでき、また、これらの水溶液を検査水へ別々に添加することで検査水中で調製されるようにすることもできる。
【0040】
発色試薬を添加する検査水が予め硫酸を含む場合、例えば、検査水に含まれるりん化合物を分解してりん酸イオンへ変換することで検査水の全りんを定量するときに、りん化合物を分解するための検査水の前処理において硫酸水溶液を用いた場合、この硫酸水溶液を発色試薬のための硫酸として用いることができる。この場合、検査水における硫酸濃度が十分であれば、硫酸以外の成分を含む水溶液を検査水へ添加することで、検査水に発色試薬を存在させることができる。例えば、第2の形態の発色試薬を用いる場合、前処理において検査水へ添加する硫酸水溶液を第一水溶液と見なすことができ、前処理後のりん酸イオンの発色工程では検査水に対して第二水溶液のみを添加することができる。
【0041】
次に、発色試薬が存在する検査水を加熱する。この際、検査水を適宜攪拌するのが好ましい。加熱温度は、60℃以上で検査水の沸騰温度までの範囲に設定する。また、加熱時間は、通常、2〜60分に設定する。発色試薬の糖類化合物として単糖生成化合物を用いた場合、単糖生成化合物は、この加熱により加水分解され、炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成する。
【0042】
加熱された検査水中のりん酸イオンは、発色試薬のモリブデン化合物およびアンチン化合物と反応してヘテロポリ化合物を生成し、また、生成したヘテロポリ化合物は硫酸による酸性環境下で炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースにより還元される。この還元によりモリブデン青が生成し(りん酸イオンの発色)、このモリブデン青により検査水が変色する。
【0043】
次に、モリブデン青により変色した検査水について、600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度を測定する。そして、当該吸光度とりん酸イオン濃度との関係を予め調べて作成しておいた検量線に基づいて、吸光度の測定値から検査水のりん酸イオン量を判定する。
【0044】
本発明に係るりん酸イオンの発色方法および定量方法は、モリブデン青を生成させるヘテロポリ化合物の還元剤として水溶液中で安定な単糖類または分解により当該単糖類を生成可能な単糖生成化合物を用いており、これらの糖類化合物の水溶液は安定に保存することができるため、自動化に適している。また、本発明に係るりん酸イオンの定量方法においては、検量線を作成したときに、りん酸イオン濃度と600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度との間の直線関係が比較的高濃度のりん酸イオン濃度の範囲まで良好に成立することから、検査水中に含まれるりん酸イオンの定量上限が4mg[P]/L若しくはそれ以上の範囲まで拡大する。このため、この定量方法は、検査水の全りんを定量する場合において、特に有効である。
【実施例】
【0045】
試薬
以下の実施例等で用いた試薬および分光光度計は次のものである。
りん標準液(水質試験用):和光純薬工業株式会社 コード160−19241
硫酸(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード192−04696
水酸化ナトリウム(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード198−13765
塩酸(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード080−01066
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード018−06901
モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード190−02475
モリブデン酸カリウム:和光純薬工業株式会社 コード165−04002
酒石酸アンチモニルカリウム三水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード020−12832
塩化アンチモン(III)(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード011−04492
酸化アンチモン(III)(化学用):和光純薬工業株式会社 コード018−04402
D−リボース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード182−01052
D−アラビノース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード013−04572
L−アラビノース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード010−04582
D−キシロース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード244−00302
D−リキソース:東京化成株式会社 コードL0073
D−アロース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード017−22591
D−アルトロース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード012−22421
D−グルコース(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード047−00592
D−マンノース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード130−00872
D−ガラクトース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード071−00032
D−プシコース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード165−23841
D−フルクトース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード127−02765
L−フルクトース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード067−05491
D−ソルボース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード195−15291
L−ソルボース:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード191−03762
D−タガトース(生化学用):和光純薬工業株式会社 コード208−17511
スクロース(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード196−00015
D−ラフィノース五水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード180−00012
D−マルトース一水和物:和光純薬工業株式会社の和光特級 コード130−00615
ラクトース一水和物(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード128−00095
アスコルビン酸(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード014−04801
分光光度計:株式会社島津製作所の商品名「UV−1600PC」
【0046】
検査水
以下の実施例等で用いた検査水は次のものである。
りん酸イオン濃度が0、0.5、1.0、2.0、3.0および4.0mg[P]/Lの六種類の検査水を用意した。mg[P]/Lの単位は、1Lの検査水に含まれるりんのmg数を示したものである。りん酸イオン濃度が0mg[P]/Lの検査水は蒸留水をそのまま用い、また、他の検査水はりん標準液を蒸留水で希釈することでりん酸イオン濃度を調整した。
【0047】
実施例1
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物を20g/L、酒石酸アンチモニルカリウム三水和物を0.8g/Lおよび硫酸を3M含む第一水溶液と、D−フルクトースを400g/L含む第二水溶液とを調製した。
【0048】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.1mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図1に示す。図1によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0049】
実施例2
実施例1で用いたものと同じ第一水溶液と、スクロースを400g/L含む第二水溶液とを調製した。
【0050】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.2mLを添加し、95℃で10分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の630nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図2に示す。図2によると、この検量線は、少なくもりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0051】
実施例3
実施例1で用いたものと同じ第一水溶液と、D−ラフィノース五水和物を300g/L含む第二水溶液とを調製した。
【0052】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.4mLを添加し、95℃で10分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の890nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図3に示す。図3によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0053】
実施例4
硫酸を3M含む第一水溶液と、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物を10g/L、塩化アンチモン(III)を0.4g/Lおよびスクロースを150g/L含む第二水溶液とを調製した。第二水溶液の調製では、スクロースを安定化するために0.1Mに調整した水酸化ナトリウム水溶液を添加することでアルカリ性に調整し、また、塩化アンチモン(III)の溶解を促進するために適量の塩酸を添加した。
【0054】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.4mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図4に示す。図4によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0055】
実施例5
硫酸を3M含む第一水溶液と、モリブデン酸カリウムを10g/L、酸化アンチモン(III)を0.4g/LおよびD−ラフィノース五水和物を150g/L含む第二水溶液とを調製した。第二水溶液の調製では、D−ラフィノース五水和物を安定化するために0.1Mに調整した水酸化ナトリウム水溶液を添加することでアルカリ性に調整し、また、酸化アンチモン(III)の溶解を促進するために適量の塩酸を添加した。
【0056】
六種類の各検査水2.5mLについて、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、第一水溶液0.2mLおよび第二水溶液0.4mLを添加し、95℃で10分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の890nmの吸光度を測定し、同吸光度に基づくりん酸イオン濃度の検量線を作成した。結果を図5に示す。図5によると、この検量線は、少なくともりん酸イオン濃度が0〜4mg[P]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0057】
比較例1
日本工業規格 JIS K 0102、工場排水試験方法(2008)46.1.1(非特許文献1)に規定されたモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法に従い、六種類の各検査水2.5mLについて890nmの吸光度を測定し、同吸光度とりん酸イオン濃度との関係を調べた。結果を図6に示す。図6によると、りん酸イオン濃度2mg[P]/Lの検査水の吸光度がりん酸イオン濃度1mg[P]/Lの検査水の吸光度の2倍にならず、りん酸イオンの定量可能範囲が多くても1.5mg[P]/Lまでの低濃度の範囲に限定されることがわかる。
【0058】
実験例1
実施例1で用いた第二水溶液、実施例4で用いた第二水溶液および比較例1のモリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法で用いる72g/Lのアスコルビン酸溶液について、保存試験を実施した。
【0059】
ここでは、調製直後の各第二水溶液およびアスコルビン酸溶液を個別に褐色瓶に入れ、50℃のインキュベータ内に配置した。そして、各溶液について、調製から24時間後、48時間後および96時間後の吸収スペクトルを測定し、これらの吸収スペクトルを調製直後の吸収スペクトルと比較した。結果を図7(実施例1の第二水溶液の結果)、図8(実施例4の第二水溶液の結果)および図9(アスコルビン酸溶液の結果)に示す。
【0060】
図7および図8によると、実施例1の第二水溶液および実施例4の第二水溶液は、吸収スペクトルに殆ど変化がない(調製直後、24時間後、48時間後および96時間後の各吸収スペクトルが略重なっている)ことから保存安定性が良好である。一方、図9によると、アスコルビン酸溶液は、調製から24時間後の時点で早くも吸収スペクトルの変化が見られることから、調製後の早い段階で変性が進行しており、安定な保存が困難である。
【0061】
実施例2および実施例3で用いた第二水溶液および実施例5で用いた第二水溶液についても同様の保存試験を実施したところ、吸収スペクトルに実質的な変化がなく、保存安定性は良好であった。
【0062】
実施例6
りん酸イオン濃度が2.0mg/Lの検査水について、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、実施例1で用いたものと同じ第一水溶液0.2mLおよび単糖の濃度が500g/Lの糖類水溶液0.1mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定した。
【0063】
上述の測定は、炭素数5のアルドースであるD−リボース、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロースおよびD−リキソース、炭素数6のアルドースであるD−アロース、D−アルトロース、D−グルコース、D−マンノースおよびD−ガラクトース並びに炭素数6のケトースであるD−プシコース、D−フルクトース、L−フルクトース、D−ソルボース、L−ソルボースおよびD−タガトースの各単糖の糖類水溶液について実施した。
【0064】
結果を図10に示す。図10より、各単糖は、りん酸イオンを十分に発色可能なことが確認できた。
【0065】
実施例7
りん酸イオン濃度が1.0mg/Lの検査水について、95℃に加熱されたブロックヒータを用いて3分間予熱した後、実施例1で用いたものと同じ第一水溶液0.2mLおよびオリゴ糖の濃度が200g/Lの糖類水溶液0.2mLを添加し、95℃で7分間加熱した。加熱終了後、分光光度計を用いて各検査水の850nmの吸光度を測定した。この測定は、スクロース、D−マルトース一水和物、ラクトース一水和物およびD−ラフィノース五水和物の各オリゴ糖の糖類水溶液について実施した。
【0066】
結果を図11に示す。図11より、各オリゴ糖は、その分解により生成する単糖によりりん酸イオンを十分に発色可能なことが確認できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン青の生成による、検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法であって、
前記検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、
前記発色試薬を存在させた前記検査水を60℃以上に加熱する工程と、
を含むりん酸イオンの発色方法。
【請求項2】
前記単糖生成化合物がスクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースである、請求項1に記載のりん酸イオンの発色方法。
【請求項3】
前記発色試薬は、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液と、前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものである、請求項1または2に記載のりん酸イオンの発色方法。
【請求項4】
前記発色試薬は、硫酸を含む第一水溶液と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものであり、かつ、前記糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である、請求項1に記載のりん酸イオンの発色方法。
【請求項5】
検査水に含まれるりん酸イオンの定量方法であって、
前記検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、
前記発色試薬を存在させた前記検査水を60℃以上に加熱する工程と、
加熱後の前記検査水について、600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度を測定する工程と、
を含むりん酸イオンの定量方法。
【請求項6】
前記単糖生成化合物がスクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースである、請求項5に記載のりん酸イオンの定量方法。
【請求項7】
前記発色試薬は、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液と、前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものである、請求項5または6に記載のりん酸イオンの定量方法。
【請求項8】
前記発色試薬は、硫酸を含む第一水溶液と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものであり、かつ、前記糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である、請求項5に記載のりん酸イオンの定量方法。
【請求項9】
検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させるための試薬であって、
七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、
炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤と、
を含むりん酸イオンの発色試薬。
【請求項10】
検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させるための試薬であって、
硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、
七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤とを含み、
前記糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である、
りん酸イオンの発色試薬。
【請求項1】
モリブデン青の生成による、検査水に含まれるりん酸イオンの発色方法であって、
前記検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、
前記発色試薬を存在させた前記検査水を60℃以上に加熱する工程と、
を含むりん酸イオンの発色方法。
【請求項2】
前記単糖生成化合物がスクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースである、請求項1に記載のりん酸イオンの発色方法。
【請求項3】
前記発色試薬は、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液と、前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものである、請求項1または2に記載のりん酸イオンの発色方法。
【請求項4】
前記発色試薬は、硫酸を含む第一水溶液と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものであり、かつ、前記糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である、請求項1に記載のりん酸イオンの発色方法。
【請求項5】
検査水に含まれるりん酸イオンの定量方法であって、
前記検査水において、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物、硫酸並びに炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる発色試薬を存在させる工程と、
前記発色試薬を存在させた前記検査水を60℃以上に加熱する工程と、
加熱後の前記検査水について、600から950nmの範囲における任意の波長の吸光度を測定する工程と、
を含むりん酸イオンの定量方法。
【請求項6】
前記単糖生成化合物がスクロース、マルトース、ラクトース、ラフィノース、ケストース、スタキオース、イソマルツロースまたはラクツロースである、請求項5に記載のりん酸イオンの定量方法。
【請求項7】
前記発色試薬は、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む第一水溶液と、前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものである、請求項5または6に記載のりん酸イオンの定量方法。
【請求項8】
前記発色試薬は、硫酸を含む第一水溶液と、七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および前記糖類化合物を含む第二水溶液とを混合することで調製されたものであり、かつ、前記糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である、請求項5に記載のりん酸イオンの定量方法。
【請求項9】
検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させるための試薬であって、
七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、
炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドース、炭素数6のケトースおよび分解により炭素数5のアルドース、炭素数6のアルドースまたは炭素数6のケトースを生成可能な単糖生成化合物からなる糖類化合物群から選ばれた糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤と、
を含むりん酸イオンの発色試薬。
【請求項10】
検査水に含まれるりん酸イオンをモリブデン青の生成により発色させるための試薬であって、
硫酸を含む水溶液からなる第一剤と、
七モリブデン酸六アンモニウムまたはモリブデン酸のアルカリ金属塩、アンチモンの価数が3であるアンチモン化合物および糖類化合物を含む水溶液からなる第二剤とを含み、
前記糖類化合物がスクロース、ラフィノース、ケストースおよびスタキオースからなる群から選ばれた非還元性オリゴ糖である、
りん酸イオンの発色試薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−227040(P2011−227040A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206293(P2010−206293)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】
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