説明

りん酸肥料及びその製造方法

【課題】本発明は、りん酸のく溶性、及びけい酸の可溶性が高く、リンの省資源や、肥料の製造における省エネルギーに寄与することができるりん酸肥料等を提供する。
【解決手段】本発明は、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として、少なくとも、畜糞及び/又はその由来物を含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が25〜55質量%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19質量%以下であるりん酸肥料及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として畜糞及び/又はその由来物を含む原料を焼成してなる、りん酸肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、我が国では、リンは天然資源として産出されないため、そのほぼ全てを輸入に頼っていた。しかし、近年、天然のリン資源は世界的にも枯渇しつつあり、リンの価格が高騰しているため、リンの確保が難しくなっている。そこで、りん肥料の製造分野では、天然のリン資源を補完又は代替するものとして、リン鉱石とほぼ同じ20〜30%(質量)のリンを含む下水汚泥焼却灰が考えられている。また、我が国において、下水汚泥及びその焼却灰は、それぞれ、年間220万トン及び30万トンと大量に発生するため、下水汚泥等の処理は社会的要請でもあった。
【0003】
また、我が国において、畜糞は畜産の振興に伴い増加し続けた結果、現在、畜糞の排出量は産業廃棄物の中で汚泥に次いで二番目に多い。そして、多くの畜産農家は、大量の畜糞を農地や山間部に堆積して保管するため環境汚染が発生する場合があり、畜糞の早急な処理が必要である。しかし、以前から行われている発酵による有機肥料化や農地還元などの方法では時間がかかり処理量が少ないため、畜糞をすべて処理することは難しくなりつつある。そこで、畜糞を短時間で減容化するために、現在では、畜糞は焼却されているが、その結果、畜糞焼却灰が大量に発生している。ちなみに、表1に非特許文献1に掲載された鶏糞や豚糞の主な化学組成を示す。表1に示すように、畜糞の化学組成の特徴は、リン、カルシウム、マグネシウムのほかにカリウム等のアルカリ金属が多い点にある。
したがって、肥料の原料として下水汚泥焼却灰や畜糞焼却灰を活用する技術は、前記天然リン資源の枯渇問題や社会的要請に対応しうる手段として、極めて重要である。
【0004】
【表1】

【0005】
しかし、下水汚泥焼却灰中のリンは、水に難溶性のAl(POやSiP等の形態で存在するため、このままでは肥効性が低いことが知られている。そこで、該リンのく溶率を高めて肥効性を向上させる方法が、いくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、下水汚泥焼却灰等のリンを含有する焼却灰を原料とし、該原料を溶融し、その後に急冷してスラグ化する工程を含む、焼却灰を原料とする肥料の生産方法が提案されている。
また、特許文献2には、カルシウム質廃棄物、及びリン成分を含んでいる汚泥焼却灰を還元性雰囲気の溶融炉内で加熱して、溶融金属と溶融スラグを溶融炉内に二液分離状態で共存させ、当該溶融スラグを水砕処理によって粒状化させる肥料製造方法が提案されている。
しかし、いずれの方法も溶融法であるため、溶融によるエネルギー消費が大きく、また、連続生産ができないため、生産効率が低いという問題があった。
【0006】
また、りん酸肥料の製造に鶏糞を用いる方法もいくつか提案されている。
例えば、特許文献3には、下水汚泥焼却灰を原料としてマグネシウム等の添加剤を添加して溶融炉内で加熱し、溶融金属と溶融スラグとに分離して、溶融スラグを出滓させ、その後に急冷してりん酸肥料を製造する方法において、該原料焼却灰の全りん酸を測定し、該全りん酸が予め定めた目標製品の濃度よりも低い場合には溶融処理前に、鶏糞を含む高リン含有廃棄物の添加割合を求めて、原料中に添加し、製品中のく溶性りん酸を所定の値まで高めて、く溶性りん酸の安定した製品を製造するりん酸肥料製造方法が提案されている。
また、特許文献4には、リン成分を含有する汚泥焼却灰を主原料とし、マグネシウム等の成分を含む副原料と還元剤とを添加して溶融炉内で加熱溶融し、前記溶融炉で溶融金属と溶融スラグとの2層に分離して溶融スラグを流出させ、次いで前記溶融スラグを急冷してりん酸肥料を製造する方法において、前記副原料および還元剤の添加に先立ち主原料の焼却灰の全りん酸を測定し、該全りん酸が予め定めた目標製品の濃度よりも低い場合には溶融処理前に、鶏糞を含む高リン含有物の添加割合を求めて、溶融炉内に添加することにより、製品中のく溶性りん酸を6〜25%とした製品を製造するりん酸肥料の製造方法が提案されている。
しかし、これらの方法は鶏糞をりん酸肥料の原料ではなく、りん酸肥料中のリン酸濃度を調整するための補助的材料として用いるに過ぎない。これでは鶏糞の使用量が少なく、鶏糞の大量処理には適さない。また、これらの方法では溶融法を用いるため、前記と同様の問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】関戸知雄ほか、「家畜ふん焼却灰からのリン回収方法の開発と回収物性状」、土木学会論文集G、Vol.64、No.2、88−95、2008
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−80979号公報
【特許文献2】特開2003−112988号公報
【特許文献3】特開2006−1819号公報
【特許文献4】再表2005/123629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明はりん酸のく溶率等が高く、りん酸肥料の製造においてリンの省資源や省エネルギーに寄与することができるりん酸肥料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として畜糞及び/又はその由来物とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率等が特定の範囲にあるりん酸肥料は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[5]を提供する。
[1]下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として、少なくとも、畜糞及び/又はその由来物とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が25〜55質量%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19質量%以下であるりん酸肥料。
[2]前記りん酸肥料中の、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=59/30/11〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=40/51/9〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=29/50/21〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=35/40/25〕
で囲まれる範囲内にある、前記[1]に記載のりん酸肥料。
ここで、前記の(A)CaOとPとを除く成分として、例えば、SiO、Al、MgO、Fe、Na2O、及び、KOなどが挙げられる。また、前記(A)成分の含有率(質量比の値)は、下記式により与えられる。
(A)成分の含有率(質量%)=100−CaOの含有率(質量%)−Pの含有率(質量%)
[3]りん酸のく溶率が60%以上、及び、けい酸の可溶率が70%以上である、前記[1]又は[2]に記載のりん酸肥料。
【0012】
[4]前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のりん酸肥料の製造方法であって、
(1)下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源として、少なくとも、畜糞及び/又はその由来物を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が25〜55質量%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19質量%以下となる原料を得る混合工程と、
(2)該原料を、焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物であるりん酸肥料を得る焼成工程と
を含む、りん酸肥料の製造方法。
[5]前記焼成炉がロータリーキルンである、前記[4]に記載のりん酸肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のりん酸肥料は、(i)りん酸のく溶率、及びけい酸の可溶率が高く、(ii)下水汚泥等、及び畜糞等の再資源化により、リンの省資源に寄与することができる。
また、本発明のりん酸肥料の製造方法は、(i)溶融肥料の製造と比べて、焼成におけるエネルギー消費が少ないため、省エネルギーに寄与することができ、(ii)ロータリーキルンを用いた場合、連続生産が可能で生産効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比を示す三角線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、前記のとおり、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として、少なくとも畜糞及び/又はその由来物とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が25〜55質量%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19質量%以下であるりん酸肥料とその製造方法である。
以下に、本発明について、りん酸肥料とその製造方法に分けて説明する。なお、%は特に示さない限り、質量%である。
【0016】
1.りん酸肥料
(1)原料
本発明のりん酸肥料の原料は、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として、少なくとも畜糞及び/又はその由来物とを含むものである。
(i)下水汚泥、その由来物
下水汚泥及び/又はその由来物とは、下水汚泥、下水汚泥乾燥物、下水汚泥炭化物、下水汚泥焼却灰、及び、下水汚泥溶融スラグから選ばれる少なくとも1種以上である。
該下水汚泥は、下水道の終末処理場における下水処理や排水処理の過程において、下水や排水から沈殿やろ過等により分離して得た、有機物や無機物を含む泥状物であり、さらに、該下水汚泥は、該泥状物を遠心分離等で脱水して得られる脱水汚泥も含む。
また、前記下水汚泥乾燥物は、前記下水汚泥を天日干し又は乾燥機等により乾燥して、含水率を概ね50%以下にしたものである。
【0017】
また、前記下水汚泥炭化物は、下水汚泥を加熱して、下水汚泥に含まれる有機物の一部又は全部を炭化物としたものである。該加熱温度は300〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましい。加熱温度が300℃未満では炭化に時間がかかり、800℃を超えると炭化物が燃焼するおそれがある。該燃焼を抑制するために、無酸素又は低酸素状態で加熱するのが好ましい。該炭化物は、本発明のりん酸肥料の製造(焼成)において燃料の一部にもなるため、その分、焼成に要するエネルギーを節約することができる。
また、前記下水汚泥焼却灰は、下水汚泥を焼却して得られる残渣である。該焼却灰の化学組成(単位は%)は、一例として、SiO:28、P:25、Al:15、CaO:11、Fe:7、Cr:0.02、Ni:0.02、Pb:0.009、As:0.001、Cd:0.001等である。一般に、該焼却灰は、リン鉱石と比べSiOが多く、また、重金属を含むという違いがある。
また、前記下水汚泥溶融スラグは、前記下水汚泥焼却灰を1350℃以上で溶融したものである。
【0018】
(ii)カルシウム源
該カルシウム源は、りん酸肥料の化学組成等が、前記範囲内になるように調整するため、下水汚泥及び/又はその由来物に添加するものであり、少なくとも畜糞及び/又はその由来物を用いる。
ここで、畜糞及び/又はその由来物とは、畜糞、発酵畜糞、乾燥畜糞、畜糞炭化物、畜糞焼却灰、及び、畜糞溶融スラグから選ばれる少なくとも1種以上である。
前記畜糞は、産卵鶏、育成鶏、ブロイラー等の家禽や、豚、牛、馬、羊、ヤギ等の家畜の糞であって、その含水率は、通常、60〜85%程度である。
また、前記発酵畜糞は、畜糞を自然に発酵させたものか、又は畜糞に発酵菌等を添加して人為的に発酵させたものである。前記乾燥畜糞は、乾燥機等を用いて含水率が10〜30%程度に乾燥させたものである。前記畜糞炭化物は、畜糞を800〜1100℃で加熱して炭化したものである。
【0019】
また、前記畜糞焼却灰は、畜糞等を焼却して得られる残渣である。該焼却灰の化学組成(単位は%)は、一例として、CaO:34、KO:24、P:15、SO:12、Cl:5、MgO:4等である。このように、畜糞焼却灰はCaOとKOを多く含むほか、Pを下水汚泥焼却灰と同等程度に含むという特徴がある。したがって、カルシウム源として、畜糞焼却灰を大量に用いても、りん酸肥料中のリンの含有率を低下させることなく、肥料の他の重要成分である加里も補充できるという利点があり、く溶性りん酸が高いりん酸肥料を製造することができる。
前記畜糞溶融スラグは、前記畜糞焼却灰を1350℃以上で溶融したものである。
また、畜糞及び/又はその由来物は、カルシウム源として単独で用いるほか、その他のカルシウム源と併用することができる。ここで、その他のカルシウム源としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、セメント、鉄鋼スラグ、及び、石膏等から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
一般に、下水汚泥やその由来物はSiOを多く含むため、通常、シリカ源を添加する場合は少ないが、SiOの含有率が少ない場合は、適宜、珪石やケイ酸カルシウムなどのシリカ源を添加してもよい。
【0020】
(2)化学組成
本発明のりん酸肥料のCaOの含有率は25〜55%であり、好ましくは38〜52%であり、より好ましくは40〜50%である。本発明のりん酸肥料のCa/Pのモル比は2.0〜7.5であり、好ましくは2.5〜6.0、より好ましくは3.0〜5.0である。また、本発明のりん酸肥料のAlの含有率は19%以下であり、好ましくは17%以下であり、より好ましくは15%以下である。CaOの含有率、Ca/Pのモル比、及びAlの含有率が、それぞれ、25〜55%、2.0〜7.5、及び19%以下の範囲にあれば、後掲の表3、表4に示すように、りん酸肥料中のりん酸のく溶率は60%以上、及び、けい酸の可溶率は70%以上と高くなる。
ここで、りん酸のく溶率とは、りん酸肥料中の全りん酸に対する、く溶性りん酸の質量比(%)であり、けい酸の可溶率とは、りん酸肥料中の全けい酸に対する、可溶性けい酸の質量比(%)である。また、く溶性りん酸は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により、可溶性けい酸は、同法に規定されている過塩素酸法により、定量することができる。
なお、原料やりん酸肥料中の酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。
【0021】
また、本発明のりん酸肥料は、三角線図上で示すと、好ましくは、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=59/30/11〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=40/51/9〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=29/50/21〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=35/40/25〕
で囲まれる範囲内にある。前記質量比が前記範囲内にあれば、りん酸のく溶率やけい酸の可溶率はより高くなる。
なお、前記(A)、(B)及び(C)の合計は100である。また、前記「囲まれる範囲内」には、境界線上も含まれる。
【0022】
本発明のりん酸肥料は、より好ましくは、SiO/Alのモル比が2.5以上である。該モル比が2.5以上であれば、焼成がより容易になる。
また、本発明のりん酸肥料は、さらに好ましくは、前記(A)、(B)及び(C)の質量比が前記範囲内にあって、かつ、りん酸肥料中のCa/Pのモル比が、2.0〜2.9、又は、5.1〜7.5である。これらの範囲内にあれば、りん酸のく溶性がより高まる。
【0023】
2.りん酸肥料の製造方法
該製造方法は、(1)下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源として、少なくとも、畜糞及び/又はその由来物を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が25〜55%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19%以下となる原料を得る混合工程と、(2)前記原料を、焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物であるりん酸肥料を得る焼成工程を含む。また、肥料の粒度等を調整する必要がある場合は、さらに、(3)該焼成物を粉砕して造粒する、粉砕および造粒工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0024】
(1)混合工程
該工程は、りん酸肥料中のCaOの含有率が25〜55%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19%以下となるように、下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源として、少なくとも畜糞及び/又はその由来物を混合して原料を得る必須の工程である。下水汚泥等やカルシウム源は、混合し易い粒度になるように、必要に応じてボールミル、ローラミル又はロッドミル等で粉砕する。
前記カルシウム源の混合方法は、例えば、以下の態様が挙げられる。
(i)下水処理場において、流入してくる下水、それを貯める沈殿池、又は、脱水前の汚泥スラリーに対し、カルシウム源を添加し混合する。この場合、混合物は水を多く含み粘性が低いため、混合作業が容易で、均一に混合された原料が得られ易い。
(ii)脱水汚泥、又は、それを乾燥した汚泥乾燥物に対し、カルシウム源を添加し、粉砕して混合する。また、該乾燥物に水を添加し、再度スラリーにした後に、カルシウム源を添加し混合してもよい。
(iii)下水汚泥炭化物、下水汚泥焼却灰、又は、下水汚泥溶融スラグに対し、カルシウム源を添加し、粉砕して混合するか、又は、該炭化物等を粉砕した後に、既に粉砕したカルシウム源を添加し混合する。
前記混合は、ミキサー、混練機、気流混合機等の混合機を用いて行なうことができる。
【0025】
各原料の配合方法として、例えば、各原料の一部を電気炉等で焼成した後、該焼成灰中の酸化物を定量し、該定量値と所定の配合に基づき、各原料を混合する方法が挙げられる。該酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。後記の実施例に示すように、焼成前の原料の化学組成は、通常、焼成物の化学組成とほぼ同一であるから、CaOの含有率、Ca/Pのモル比、及び、Alの含有率(以下「CaOの含有率等」という。)が前記範囲にあるりん酸肥料(焼成物)を得るためには、通常、該CaOの含有率等が前記範囲を満たす原料を用いれば十分である。ただし、正確を期すためには、該原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中のCaOの含有率等と、該焼成物中のCaOの含有率等との相関を事前に把握しておき、該相関に基づき、原料の混合割合を、目的とするりん酸肥料中のCaOの含有率等になるように修正することが好ましい。
【0026】
(2)焼成工程
該工程は、前記原料を、焼成炉を用いて焼成する必須の工程である。前記原料は、粉末のままで、該粉末に水を添加してスラリーにした状態で、若しくは、脱水ケーキの状態で焼成するか、又は、該粉末、若しくは、該粉末とセメントと水の混練物等を、パンペレタイザー等の造粒機や、ブリケットマシン、ロールプレス機等の成形機で、それぞれ造粒や成形してから焼成する。
該焼成温度は、前記原料が溶融する温度未満であり、具体的には、1150〜1350℃であり、好ましくは、1200〜1300℃である。1150〜1350℃の温度範囲内で焼成したりん酸肥料は、りん酸のく溶率やけい酸の可溶率が高い。また、焼成時間は、10〜60分が好ましく、20〜40分がより好ましい。該時間が10分未満では焼成が不十分であり、60分を超えると生産効率が低下する。
【0027】
(3)粉砕および造粒工程
該工程は、前記焼成物の粒度を調整する工程であり、施肥中の粉塵の発生を抑制して、肥料の取り扱いを容易にするためや、肥効性を十分に発揮させるために、肥料の粒度を調整する必要がある場合に、必要に応じて選択される任意の工程である。該粒度は0.1〜10mmが好ましく、0.5〜5mmがより好ましい。
粉砕手段として、例えば、ジョークラッシャー、ローラーミル、ボールミル又はロッドミル等を用いることができる。また、造粒手段として、例えば、パン型ミキサー、パンペレタイザー、ブリケットマシン、ロールプレス機、又は、押出成形機等を用いることができる。さらに、粉砕や造粒の後、必要に応じて分級を行うこともでき、分級手段として、振動ふるい、回転ふるい、エアーセパレータ等を用いることができる。
また、該工程において、ベントナイトや増粘剤などの造粒助剤を添加したり、肥料の用途に応じて、適宜、けい酸やりん酸の成分を追加したり、窒素、加里、苦土等のその他の肥料成分を、新たに添加することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.りん酸肥料の製造
(1)ロータリーキルンによる焼成
表2に示す化学組成を有する下水汚泥焼却灰a1及びa2と、カルシウム源として鶏糞焼却灰c1及び炭酸カルシウムc2を用いて、表3に示す実施例1〜15、及び比較例1〜9の配合に従い、気流混合機により混合して原料を調製した。次に、該原料を用いて、ロールプレス機により乾式で成形し、フレーク状の原料を調整した。次に、該フレーク状の原料を、内径450mm、長さ8.34mのロータリーキルンを用いて、表3に示す焼成温度で、キルン内の平均滞留時間として40分間かけて焼成して焼成物を得た。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて目開き212μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のりん酸肥料を製造した。
なお、焼成物の化学組成は、焼成前の原料の化学組成とほぼ同一であった。
【0029】
(2)電気炉による焼成
表2に示す化学組成を有する下水汚泥焼却灰a3及びa4と、カルシウム源として鶏糞焼却灰c1及び炭酸カルシウムc2を用いて、表4に示す実施例16〜27、及び比較例10〜21の配合に従い、気流混合機により混合して原料を調製した。次に、該原料を用いて、一軸加圧成形機により成形し、直径15mm、高さ20mmの円柱状の原料を作製した。さらに、該円柱状の原料を、電気炉内に載置した後、昇温速度20℃/分で、表4に示す焼成温度まで昇温し、該温度の下で10分間焼成して焼成物を得た。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて目開き212μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のりん酸肥料を製造した。
なお、焼成物の化学組成は、焼成前の原料の化学組成とほぼ同一であった。
【0030】
【表2】

【0031】
2.く溶性りん酸と可溶性けい酸の測定
りん酸肥料中のく溶性りん酸の測定は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により、また、りん酸肥料中の可溶性けい酸は、同法に規定されている過塩素酸法により測定した。また、これらの測定値から、りん酸のく溶率やけい酸の可溶率を算出した。これらの結果を表3及び表4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
表3及び表4に示すように、本発明のりん酸肥料(実施例1〜27)は、りん酸のく溶率が60%(実施例22)〜100%(実施例8等)で、けい酸の可溶率は77%(実施例22)〜100%(実施例2等)と、いずれも高かった。特に、表3に示すように、焼成炉としてロータリーキルンを用いて焼成したりん酸肥料(実施例1〜15)のりん酸のく溶率は69%(実施例1等)〜100%(実施例8等)で、けい酸の可溶率は95%(実施例5)〜100%(実施例2等)とより高かった。
これに対し、比較例1〜21のりん酸肥料は、りん酸のく溶率が39%(比較例17)〜78%(比較例9)で、けい酸の可溶率は6%(比較例10等)〜26%(比較例7等)であり、特に、けい酸の可溶率が低かった。
【0035】
以上の結果から、本発明のりん酸肥料は、りん酸のく溶率、及びけい酸の可溶率が高く、下水汚泥等の再資源化により、リンの省資源に寄与することができる。また、本発明のりん酸肥料の製造方法は、溶融肥料の製造と比べて、焼成におけるエネルギー消費が少ないため、省エネルギーに寄与することができるほか、ロータリーキルンを用いた場合、連続生産が可能で生産効率が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源として、少なくとも、畜糞及び/又はその由来物とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が25〜55質量%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19質量%以下であるりん酸肥料。
【請求項2】
前記りん酸肥料中の、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=59/30/11〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=40/51/9〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=29/50/21〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=35/40/25〕
で囲まれる範囲内にある、請求項1に記載のりん酸肥料。
【請求項3】
りん酸のく溶率が60%以上、及び、けい酸の可溶率が70%以上である、請求項1又は2に記載のりん酸肥料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のりん酸肥料の製造方法であって、
(1)下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源として、少なくとも、畜糞及び/又はその由来物を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が25〜55質量%、Ca/Pのモル比が2.0〜7.5、及び、Alの含有率が19質量%以下となる原料を得る混合工程と、
(2)該原料を、焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物であるりん酸肥料を得る焼成工程と
を含む、りん酸肥料の製造方法。
【請求項5】
前記焼成炉がロータリーキルンである、請求項4に記載のりん酸肥料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53061(P2013−53061A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178311(P2012−178311)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】