説明

れんが覆工の目地切れ打音検査方法

【課題】れんが覆工の目地切れを迅速、かつ的確に診断することができるれんが覆工の目地切れ打音検査方法を提供する。
【解決手段】一定の打撃力で打撃可能な打撃装置を有し、打撃箇所近傍でフード付きマイクロホンを壁面に押し当て、打撃によって発生する壁面の振動を音波として収録し、その音波をウェーブレット変換し、その周波数特性、振幅特性に着目した分析を行う打音検査方法であって、打撃装置によってれんが覆工の壁面から得られる打撃音の最大強度、最大ピーク周波数を、れんが覆工の目地切れの程度を評価する指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルなどのれんが覆工の目地切れ打音検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既に、本願発明者は、コンクリート覆工を打撃し、その打撃音を収録、分析することで、覆工の厚さを評価する手法を提案している(下記特許文献1参照)。
【0003】
ここで、ブロック覆工(殆どはれんが覆工)とは、図15に示すようにトンネルの円周方向,覆工の厚さ方向にブロックを互い違いに配置し、モルタルや漆喰を材料とする目地で間を埋めてアーチ状に組み上げた構造である。ブロック覆工において発生する変状には、目地切れ(れんがの間に詰められているモルタル、漆喰が欠落すること)や剥離、漏水、バクテリアスライムといった事象があるが、直接的に列車の運行に影響があるのは、目地部が欠損する目地切れやブロックの一部が剥離したりして発生するブロック片の落下である。
【特許文献1】特開2002−296251号公報
【非特許文献1】榎本秀明他(2005),「トンネル覆工コンクリートを対象とした打音検査装置の最適仕様の検討」,土木学会論文集,No.784/VI−66,pp.87−97
【非特許文献2】小野田滋(1997),「鉄道トンネルにおける覆工材料とその変遷」,鉄道総研報告,11,7,pp.7−12
【非特許文献3】大久保誠介他(1997),「鋼繊維補強吹付けモルタルの力学特性,トンネルと地下」,28,10,pp.49−53
【非特許文献4】鈴木文大他(2001),「トンネル覆工コンクリートを対象とした打音評価手法」,物理探査,54,6,pp.374−387
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、れんが覆工の目地切れの診断には有効な装置が存在していないのが現状である。そこで、本願発明者は、上記したコンクリート覆工の打音検査を発展させて、れんが覆工を打撃し、れんが覆工の目地切れの状態を判定する研究を進めた。
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みて、れんが覆工の目地切れを迅速、かつ的確に診断することができるれんが覆工の目地切れ打音検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕一定の打撃力で打撃可能な打撃装置を有し、打撃箇所近傍でフード付きマイクロホンを壁面に押し当て、打撃によって発生する壁面の振動を音波として収録し、その音波をウェーブレット変換し、その周波数特性、振幅特性に着目した分析を行う打音検査方法であって、打撃装置によってれんが覆工の壁面から得られる打撃音の最大強度、最大ピーク周波数を、れんが覆工の目地切れの程度を評価する指標とすることを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載のれんが覆工の目地切れ打音検査方法において、(a)前記最大ピーク周波数が10kHz以上で、前記最大強度が5000未満である場合、(b)前記最大ピーク周波数が10kHz以上で、前記最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)前記最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、前記最大強度が5000未満である場合、のいずれにおいても、れんがの落下はなく健全であると判定することを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔1〕記載のれんが覆工の目地切れ打音検査方法において、(a)前記最大ピーク周波数が10kHz以上で、前記最大強度が10000以上である場合、(b)前記最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、前記最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)前記最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、前記最大強度が5000未満である場合、のいずれにおいても、目地切れの疑いがあると判定することを特徴とする。
【0009】
〔4〕上記〔1〕記載のれんが覆工の目地切れ打音検査方法において、(a)前記最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、前記最大強度が10000以上である場合、(b)前記最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、前記最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)前記最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、前記最大強度が10000以上である場合、のいずれにおいても、目地切れがあり、れんがの落下の危険があると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、れんが覆工の目地切れを迅速、かつ的確に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のれんが覆工の目地切れ打音検査方法は、一定の打撃力で打撃可能な打撃装置を有し、打撃箇所近傍でフード付きマイクロホンを壁面に押し当て、打撃によって発生する壁面の振動を音波として収録し、その音波をウェーブレット変換し、その周波数特性、振幅特性に着目した分析を行う打音検査方法であって、打撃装置によってれんが覆工の壁面から得られる打撃音の最大強度、最大ピーク周波数を、れんが覆工の目地切れの程度を評価する指標とする。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明のれんが覆工の目地切れ打音検査に用いる打音検査装置を示す図面代行の写真である。
【0014】
この図において、1は打撃装置、2は特別な耐ノイズフード付きマイクロホン、3は打撃の音波の分析装置である。
【0015】
この打音検査装置の特徴は、〔1〕一定の打撃力で打撃可能なゴムの張力を利用した打撃装置1を有する。〔2〕打撃箇所近傍で耐ノイズフード付きマイクロホン2を壁面に押し当て、打撃によって発生する壁面の振動を音波として収録する。〔3〕この音波の初動部約20ms(サンプリング間隔0.02ms、サンプル数1024個)を分析装置3でウェーブレット変換し、その周波数特性、振幅特性に着目した分析を行い、厚さや空洞、浮きといった欠陥の程度を現場で瞬時に判定する。
【0016】
図2は本発明にかかる打音検査装置によって得られた音のウェーブレット変換によって得られるスカログラムの例を示す図であり、横軸は時間で20.5ms間を1024分割、縦軸は周波数で166Hz〜20kHz間を57分割、両軸に直交する方向に信号の大きさ(振幅)をコンター(等高線)表示している。最大強度とはこの振幅に関する行列中での最大値のことで、その振幅が得られる周波数を最大ピーク周波数と定義している。
【0017】
以下、れんが覆工の模型実験について説明する。
【0018】
れんが覆工の変状現象に関する実態調査結果から、目地切れの種類を整理した。その結果を受けて、代表的な目地切れパターンを設定したれんが覆工模型を作製し、打撃実験を行った。
【0019】
設定した目地切れの主な条件は、目地切れの〔1〕深さ(表面かられんが1個の厚さの1/3、1/2、1/1)、〔2〕広がり(れんが単体、4個分、7個分)、〔3〕連続性(表面に階段状、深さ方向に階段状)である。これら以外に背面空洞を模擬し、れんが層間の目地を無くした2つの条件も含めた。設定した目地切れ条件を図3に模式的に示す。図中、網かけで表現された部分が目地切れ部を示している。
【0020】
図3において、図3(a)はれんがの深さ方向に2つの階段状の目地切れを有するタイプを〔この図において、11は覆工表面、12は交互に配置されたれんがである〕、図3(b)はれんがの深さ方向に3つの階段状の目地切れを有するタイプを〔この図において、13は覆工表面、14は交互に配置されたれんがである〕、図3(c)はれんがの幅の方向の2/3の目地切れを有するタイプを〔この図において、15は覆工表面、16は配置されたれんがである〕、図3(d)はれんがの幅の方向の1/2の目地切れを有するタイプを〔この図において、17は覆工表面、18は配置されたれんがである〕、図3(e)はれんがの深さ方向の1/2の目地切れを有するタイプを〔この図において、19は覆工表面、20は配置されたれんがである〕、図3(f)はれんがの深さ方向の2/3の目地切れを有するタイプを〔この図において、21は覆工表面、22は配置されたれんがである〕、図3(g)は3階段状の側面の目地切れを有するタイプを〔この図において、23は覆工表面、24は配置されたれんがである〕、図3(h)は4階段状の側面の目地切れを有するタイプを〔この図において、25は覆工表面、26は配置されたれんがである〕、図3(i)は4個のれんが回りのれんがの1/2の深さの目地切れを有するタイプを〔この図において、27は覆工表面、28は配置されたれんがである〕、図3(j)は7個のれんが回りのれんがの2/3の深さの目地切れを有するタイプを〔この図において、29は覆工表面、30は配置されたれんがである〕、図3(k)は7個のれんが回りのれんがの1/2の深さの目地切れを有するタイプを〔この図において、31は覆工表面、32は配置されたれんがである〕、図3(l)は第1層の背面において高さがれんが4つ分、幅がれんが2つ分の領域に目地切れを有するタイプを〔この図において、33は覆工表面、34は交互に配置されたれんがである〕、図3(m)は第2層の背面において図3(l)と同様に高さがれんが4つ分、幅がれんが2つ分の領域に目地切れを有するタイプを〔この図において、35は覆工表面、36は交互に配置されたれんがである〕を示している。
【0021】
図4は図3(a)〜(f)までの条件の目地切れを設定した模型で(図5−1参照)、他に図3(g)〜(i)、(j)と(k)、(l)と(m)の条件を組み合わせた模型(図5−2〜5−4参照)、3体を作製した。模型の大きさは高さ15個分、または17個分、幅7.5個分、厚さ4個分。使用したれんがは普通れんが(JISR12502種)で大きさは21×10×6cm、目地切れはれんがの間に発砲スチロール(厚さ1cm)を挟んで表現した。目地モルタルの配合は容積比で砂3:セメント1とし、水は容積比で1.8とした。
【0022】
打撃は設定した目地切れの近傍や目地切れが閉合している場合はその内側のれんがでも行い、収録用マイクは打撃位置の左右どちらかで必ず打撃するれんがに押し当てて測定した。
【0023】
次に、最大強度に関する実験結果について説明する。
【0024】
図5は各打撃位置での最大強度を示す図であり、図5−1は図3(a)〜(f)のタイプのモデルで得られる最大強度を、図5−2は図3(g)〜(i)のタイプのモデルで得られる最大強度を、図5−3は図3(j)、(k)のタイプのモデルで得られる最大強度を、図5−4は図3(l)、(m)のタイプのモデルで得られる最大強度を示す図である。
【0025】
通常は複数回打撃してもほとんど同じ特性を持った打撃音が得られるが、本発明では、ここで示した最大強度はばらつきを考慮して、同じ箇所で3回打撃した平均値を用いている。最大強度が大きければ、相対的に振幅が大きいことを示している。図5−1では大小の違いはあるものの、周囲の健全なれんがの値よりもすべて大きい。特に背面に目地切れが存在する図3(a)〜(d)のケースは振幅が大きくなっていることを容易に判別できる。また、目地切れの長さ(片持ち状態の長さ)が異なる図3(c)、(d)では目地切れの長い図3(c)の方が大きく、自由度の大きさと調和的である。さらに、表面からの目地切れ深さが異なる図3(e)、(f)において、目地切れ深さが深い図3(f)の方が図3(e)より大きいことも物理条件と合致している。
【0026】
図5−2においても、図5−1と同様に目地切れに接するれんがはその周囲のれんがよりも大きな値を示している。階段状目地切れ、図3(g)、(h)のケースで、目地切れよりも上側のれんがの方が大きな値となっているが、これは模型を立てて置いてあるため模型の上側の方が構造的に揺れ易いことに起因したものと考えられる。4個のれんがが周囲の目地切れが閉合した図3(i)のケースでも、目地切れに接するれんがの値が大きい傾向がみえる。
【0027】
図5−3の7個のれんがが周囲の目地切れが閉合した図3(j)、(k)のケースでは、目地切れに接したれんがおよび閉合内部にあるれんがでやや大きな値を示している。なお、図3(j)、(k)を比較しても目地切れ深さの違いはあまり明瞭ではなかった。
【0028】
図5−4は、幅方向にれんが2個分(約40cm)、高さ方向にれんが4個分(約25cm)の大きさの目地切れを覆工表面35から1層目(m)と覆工表面33から2層目(l)の深さに設定したケースである。覆工表面33から2層目の目地切れケースでは周囲の健全部よりやや大きい値を示す程度であるが、覆工表面35から1層目のケースでは値が非常に大きいので、目地切れの平面的な広がりを容易に推定できる。
【0029】
次に、最大ピーク周波数に関する実験結果について説明する。
【0030】
図6−1〜図6−4に各打撃位置での最大ピーク周波数を示す。3回の打撃とも同じ値を示すことが多かったが、異なる場合もあり、その時には3回の値を比較して最も代表的と判断される値を採用した。
【0031】
図6−1では、図3(a)〜(d)において周囲の健全部の周波数(3.0kHz前後)よりもかなり低い周波数が得られており、判別が容易である。また、背面が密着し周囲が目地切れした図3(e)、(f)では逆に周囲よりも高い値を示している。さらに目地切れ深さが浅い図3(e)が深い図3(f)よりも周波数が高いことは特徴的である。
【0032】
図6−2では、階段状の図3(g)、(h)のケースにおいて周囲よりも低い周波数を示す箇所と逆に高い周波数を示す箇所が存在するものの、周囲との違いは明瞭ではなく、最大ピーク周波数での判別は困難である。目地切れが周囲を囲む図3(i)では、目地切れの内外両側で高い周波数が現れた。
【0033】
図6−3では、目地切れ周辺で高い周波数を表す箇所がみられる。さらに、目地切れ深さが浅い図3(k)が深い図3(j)よりやや高くなっていることが特徴的である。
【0034】
図6−4では、覆工表面33から2層目が目地切れしている図3(l)において周囲の健全部より低いか逆に高い周波数を示す箇所が多くみられ、また、覆工表面35から1層目が目地切れしている図3(m)では、低い周波数のみが多くみられる。いずれにしても、図3(m)のケースは最大振幅、最大ピーク周波数どちらでも判定可能であり、図3(l)のケースでは最大ピーク周波数により判定が可能である。
【0035】
以上の模型実験の結果から、本検査装置を用いた打撃音をウェーブレット変換して得られる最大強度および最大ピーク周波数を使用すると、れんが覆工の目地切れに関連した欠陥は判定可能である。
【0036】
次に、れんが覆工模型の動的振動解析について説明する。
【0037】
上記した模型実験結果を検証する目的で、同覆工模型を数値モデル化し、3次元動的応答解析を行った。解析プログラムはMSC/NASTRANを使用し、モーダル過渡応答解析を行った。解析に使用した固有値の次数は300次までとした。
【0038】
れんがの密度および縦波弾性波速度(Vp)、横波弾性波速度(Vs)は実測し、ポアソン比(ν)は数式(1)を用いて算出した。解析に使用した材料定数を表1に示す。なお、目地モルタルは、既往の研究資料(非特許文献3参照)を参考にして決定した。
【0039】
【表1】

ν=〔0.5(Vp /Vs 2 −1〕/〔(Vp /Vs 2 −1〕 …(1)
その他の条件は以下の通りである。
【0040】
(1)境界条件は底部完全固定とした。
【0041】
(2)荷重は単位荷重を0.0001(s)で載荷し、0.0001(s)で除荷した。
【0042】
(3)構造減衰2.0(%)を周波数5.0(kHz)帯域に与えた。
【0043】
マイクによって測定している音圧と空気粒子の振動速度には数式(2)の関係がある。また、壁面近傍の空気粒子の振動速度は壁面の振動速度とほぼ同じとみなせる。そこで、打音と比較する解析結果としては壁面の振動速度を出力することとし、打撃点に隣接する同じれんが上の節点の打撃方向の速度を、0.02(ms)間隔で2048個抽出し、その波形をウェーブレット変換した。
【0044】
v=pt /ρc …(2)
v:空気粒子の振動速度
t :音圧
ρ:空気の密度
c:空気の伝播速度
なお、表1に示す材料定数や解析条件の妥当性を検証するため、背面が目地切れしたケース〔図3(l),(m),図5−4参照〕について応答解析を行い実験値と比較した。その結果、最大強度や最大ピーク周波数の傾向は、実験とほぼ同じ傾向を示すので、相対的な傾向は実験で再現できていると判断し、表1における定数や解析条件を用いて全ケースの解析を行った。
【0045】
模型実験の結果と数値解析結果を比較するため、最大強度の図5−1と図5−4に対応した図7−1と図7−2、最大ピーク周波数の図6−1は図6−4に対応した図8−1と図8−2を例として示す。
【0046】
図7−1では、周囲の健全なれんがよりも目地切れのれんがの方が大きい値を示すこと、図3(c)が図3(d)よりも大きいこと、図3(f)が図3(e)より大きいなど、模型実験結果(図5−1)とほとんど同じ傾向が見られる。また、図7−2でも図3(l)が周囲と差がなく、図3(m)は周囲よりも大きな値を示すなど、やはり模型実験結果(図5−4)と同じ傾向を示している。
【0047】
図8−1では、図3(a),(b),(c),(d)でピーク周波数が周囲より低く、図3(e),(f)では逆に高い。また、図3(c)が図3(d)よりもやや低くなるなど、模型実験と同じ傾向である。図8−2でも、図3(l)では周囲と差がなく、図3(m)で周囲よりも低いという模型実験と同じ傾向が見られる。ただし、模型実験結果(図7−1)で見られた図3(f)が図3(e)よりもやや低くなる現象は図7−1ではみられない。
【0048】
そこで、目地切れ深さによる卓越周波数への影響を検討するため、れんが両端の目地切れを想定し、半無限物質中に2つの空溝を設定した2次元FEMによる周波数応答解析を行った。図9がその解析結果である。
【0049】
この図から溝が浅いうちはそれほど明瞭な卓越周波数は現れないが、3cmを越えると明瞭なピークが現れ、そのピーク値は深くなるほど低い周波数に移っている。この傾向は,模型実験(図6−1)でみられた傾向と一致する。
【0050】
これらの数値結果からも模型実験結果をほぼ説明できたので、実際のれんが覆工の振動現象を概ね再現できていると判断した。
【0051】
以下、れんが覆工の現地実験について説明する。
【0052】
実際のれんが覆工トンネルで打撃実験を行い、本手法の適用性と「最大強度」、「最大ピーク周波数」のしきい値に関する検討を行った。
〔1〕打撃実験(1)
実験箇所は明治42年建設の単線の廃線トンネルである。
【0053】
側壁には一部にコンクリートが使用されているが、アーチを含め大部分がれんが構造である。覆工はトンネル延長方向のクラックが天端や右肩部に多数存在し、一部は剥落している。
【0054】
以下に、天端部にトンネル延長方向のクラックが存在する箇所での実験結果を示す。なお、打撃は作業時間の関係かられんが一個に対してほぼ中心の1箇所だけとした。
【0055】
表2は熟練者が通常のハンマで打撃して聴覚で判定した一般的打音評価の結果で、表3,表4がそれぞれ本検査装置による打撃音をウェーブレット変換して得た最大強度と最大ピーク周波数の分布状況である。表の横がトンネル延長方向で、表の縦がトンネル断面方向で0mが天端付近である。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

聴覚では縦0〜6m、横0〜8m付近に浮きの判定が多いが、表3でもこの範囲では最大強度が10,000を超えるほど大きな値を示す箇所が多く、表4でも最大ピーク周波数が1.0kHz以下の低い周波数の箇所が多く存在する。ここで浮きとは、れんが背面の目地がきれて表面のれんが群が一体となって板状に浮いた状態を呼び、模型実験の図3(l),図3(m)のケース(図5−4,図6−4)に相当する。
【0059】
表3,表4にみられる傾向と図3(l),図3(m)のケースの傾向を比較すると、浮きの箇所では他の箇所よりも最大強度が大きく最大ピーク周波数が低くなるという傾向は同じであり、本手法による浮きの判定が有効であることを示している。また、横4m,縦10mの位置において聴覚で浮きと判定していないが、本手法では最大強度が10,000を超え、最大ピーク周波数が0.9kHzとかなり低いことから、浮きと判定することが妥当である。聴覚による主観的判定では時として誤った評価をする場合があるので、本手法のような客観的判定方の必要性を示す結果となった。
〔2〕打撃実験(2)
実験箇所は大正4年建設の複線断面を単線として使用している在来線トンネルである。
【0060】
目地の劣化・欠損が多く、一部はらみ出しが見られた箇所での測定結果を示す。表5は本願発明者がハンマで打撃して聴覚で判定した一般的打音評価の結果で、表6,7が打撃音をウェーブレット変換して得た最大強度と最大ピーク周波数の分布状況である。表の見方は上記〔1〕と同様である。はらみ出しの範囲は、表では横2〜6m、縦0.5〜2.0m付近に相当する。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

図10では検証のために実施した地下レーダー探査記録(900MHz)の記録例で、縦1.0mの位置でトンネル延長方向に測定した記録である。時間深さ2.5ns付近にやや上に凸の連続した反射面がみられる。同様の反射面は他の測線でもみられ、はらみ出しの範囲をほぼ異常と判定している。一方、本検査装置の解析結果でも、この範囲は最大強度が非常に大きく、最大ピーク周波数が非常に低い値を示しており、欠陥部である特徴が顕著に捉えられている。はらみ出しの範囲において聴覚での評価で一部健全と判定した箇所があるが、本検査装置は最大ピーク周波数が低いといった欠陥と判定すべき特徴を捉えている。
〔3〕打撃実験(3)
実験箇所は大正6年建設の単線トンネルである。側壁,アーチともれんが構造で設計巻厚は34cm,45cmの2種類、目地材は漆喰である。目視観察と一部聴覚による打音評価によって確認した覆工の状態は、れんが間が狭く目地が施工されていない箇所や目地が表面まで存在しない「目地やせ」した箇所が比較的多く存在するものの、聴覚による打音評価は良好で背面との密着度は良いと推定された。
【0064】
図11は実験箇所の目地切れの状況を示している。全体的には下側と左上側に目地切れが多く存在する。
【0065】
図12に最大強度を示す。5000を超える箇所を太字で示しているが、概ね図11は目地切れの程度が進んだ箇所と同じ位置にあり、目地切れ状況とほぼ対応している。また、目地切れの深さが深いと最大強度が大きくなる傾向は、模型実験〔図3(e),(f)〕でみられた現象と一致する。
【0066】
しかし、図13に示す最大ピーク周波数では、模型実験でみられたような目地切れ深さによるピーク周波数の違いはみられなかった。
【0067】
これは、目地切れ深さは最大でも5cmで局所的であることから大きな違いが出なかったものと考えられる。この結果から当該箇所は多少の目地切れはあるものの、背面まで目地切れが進行した危険な状態ではないと評価できる。
【0068】
これまで行った模型実験および実トンネルでの実験結果から、目地切れによるれんが覆工の落下の危険性を判定する基準について検討した。
【0069】
基本的には、打撃音のウェーブレット変換から得られる最大強度と最大ピーク周波数を評価パラメータとして併用すれば、目地切れに関して概略の判定が可能である。
【0070】
そこで、これら2つの健全度評価パラメータのしきい値に関して、各実験で得られた値と本願発明者らの経験的判断を含めて比較検討し、表8に健全度判定基準としてまとめた。
【0071】
【表8】

健全度の分類は、目地切れがない、あるいはあっても直接落下につながるものでない(○:健全),背面等も含めて目地切れの存在が疑われる(△:欠陥の疑いあり),確実に目地切れが存在する(×:欠陥あり)の3ランクとした。
【0072】
図14は上記打撃実験(3)の測定結果(図12、図13)を表8の基準で判定した結果である。よって、目地切れ状態と対応した結果で得られており、設定した判定基準の妥当性が確認できた。
【0073】
上記から明らかなように、
(1)打音検査装置によって得られる打撃音の最大強度、最大ピーク周波数は、れんが覆工の目地切れの程度を評価する指標として有効である。
【0074】
(2)打音検査装置により表8に示す判定基準を用いれば、れんが覆工の落下に対する危険性を評価することが可能である。
【0075】
すなわち、表8に示すように、(a)最大ピーク周波数が10kHz以上で、最大強度が5000未満である場合、(b)最大ピーク周波数が10kHz以上で、最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、最大強度が5000未満である場合、のいずれにおいても、れんがの落下はなく健全であると判定することができる。
【0076】
また、(a)最大ピーク周波数が10kHz以上で、最大強度が10000以上である場合、(b)最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、最大強度が5000未満である場合、のいずれにおいても、目地切れの疑いがあると判定することができる。
【0077】
さらに、(a)最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、最大強度が10000以上である場合、(b)最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、最大強度が10000以上である場合、のいずれにおいても、目地切れがあり、れんがの落下の危険があると判定することができる。
【0078】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のれんが覆工の目地切れ打音検査方法は、トンネルに設けられたれんが覆工の診断のためのツールとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のれんが覆工の目地切れ打音検査に用いる打音検査装置を示す図面代行の写真である。
【図2】本発明にかかる打音検査装置によって得られた音のウェーブレット変換によって得られるスカログラムの例を示す図である。
【図3】設定した目地切れ条件を模式的に示す図である。
【図4】図3(a)〜(f)までの条件の目地切れを設定した模型を示す図である。
【図5】各打撃位置での最大強度を示す図である。
【図6】各打撃位置での最大ピーク周波数を示す図である。
【図7】図5における各種のモデルで得られた最大強度を示す図である。
【図8】図5における各種のモデルでの力学的分析で得られた最大ピーク周波数を示す図である。
【図9】れんが両端の目地切れを想定し、半無限物質中に2つの空溝を設定した2次元FEMによる周波数応答解析結果を示す図である。
【図10】検証のために実施した地下レーダー探査記録(900MHz)の記録例を示す図である。
【図11】実験箇所の目地切れの状況を示す図である。
【図12】打撃実験(3)の最大強度を示す図である。
【図13】打撃実験(3)の最大ピーク周波数を示す図である。
【図14】打撃実験(3)の測定結果(図12、図13)を表8の基準で判定した結果を示す図である。
【図15】ブロック覆工の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 打撃装置
2 特別な耐ノイズフード付きマイクロホン
3 打撃の音波の分析装置
11,13,15,17,19,21,23,25,27,29,31,33,35 覆工表面
12,14,16,18,20,22,24,26,28,30,32,34,36 れんが

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の打撃力で打撃可能な打撃装置を有し、打撃箇所近傍でフード付きマイクロホンを壁面に押し当て、打撃によって発生する壁面の振動を音波として収録し、その音波をウェーブレット変換し、その周波数特性、振幅特性に着目した分析を行う打音検査方法であって、打撃装置によってれんが覆工の壁面から得られる打撃音の最大強度、最大ピーク周波数を、れんが覆工の目地切れの程度を評価する指標とすることを特徴とするれんが覆工の目地切れ打音検査方法。
【請求項2】
請求項1記載のれんが覆工の目地切れ打音検査方法において、(a)前記最大ピーク周波数が10kHz以上で、前記最大強度が5000未満である場合、(b)前記最大ピーク周波数が10kHz以上で、前記最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)前記最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、前記最大強度が5000未満である場合、のいずれにおいても、れんがの落下はなく健全であると判定することを特徴とするれんが覆工の目地切れ打音検査方法。
【請求項3】
請求項1記載のれんが覆工の目地切れ打音検査方法において、(a)前記最大ピーク周波数が10kHz以上で、前記最大強度が10000以上である場合、(b)前記最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、前記最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)前記最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、前記最大強度が5000未満である場合、のいずれにおいても、目地切れの疑いがあると判定することを特徴とするれんが覆工の目地切れ打音検査方法。
【請求項4】
請求項1記載のれんが覆工の目地切れ打音検査方法において、(a)前記最大ピーク周波数が2.5kHz以上で、かつ10kHz未満であり、前記最大強度が10000以上である場合、(b)前記最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、前記最大強度が5000以上で、かつ10000未満である場合、(c)前記最大ピーク周波数が2.5kHz未満であり、前記最大強度が10000以上である場合、のいずれにおいても、目地切れがあり、れんがの落下の危険があると判定することを特徴とするれんが覆工の目地切れ打音検査方法。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−240395(P2007−240395A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65159(P2006−65159)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】