説明

ろう付け後の強度に優れた高強度銅管

【課題】高温のろう付け処理後の強度に優れた高強度銅管を提供する。
【解決手段】Co:0.13〜0.30質量%、P:0.03〜0.10質量%を含有し、前記Coの含有量が前記Pの含有量の2.5倍以上であって、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物として、S:0.005質量%以下、O:0.005質量%以下、H:0.0002質量%以下に規制された銅合金を押出成形してなる高強度銅管であって、平均結晶粒径が30μm以下であって、比抵抗値から算出される析出物が0.20〜0.30質量%であって、前記析出物のすべてに対して円相当径3〜50nmの析出物が面積率50%以上であることを特徴とする。CoとPとの化合物からなる析出物が、適切な大きさかつ量で析出していることで、ろう付け処理において結晶粒の粗大化を抑制し、強度が保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機や給湯器等の熱交換器に用いられる銅管に関し、特に高温でのろう付け処理後においても高強度を有する銅管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱交換器の熱媒体を流通させる管には、熱伝導率および加工性に優れる、銅管(銅または銅合金からなる管をいう)が適用される。例えば空調機の熱交換器は、板状のアルミニウムフィンを多数重ねて、これに蛇行する銅管を貫通させた構造である。このような熱交換器を製造するためには、まず、銅管をヘアピン状に曲げ加工してU字形銅管とし、両端共にアルミニウムフィンに形成した貫通孔に通し、内側から治具により拡管してアルミニウムフィンの貫通孔の縁に形成されているフィンカラーに密着させる。アルミニウムフィンに貫通させた複数のU字形銅管は、端(開放端)を拡管して、別のU字形銅管(リターンベンド銅管)の端を挿入されることで互いに連結され、連結部をりん銅ろう等のろう材でろう付けされることにより接合される。
【0003】
また、エコキュート(関西電力株式会社の登録商標)の愛称で知られる自然冷媒ヒートポンプ給湯機は、水を流通させる配管(水配管)に、冷媒とするCO2を流通させるための銅管(CO2冷媒管)を螺旋状に巻き付けた構造である。したがって、まず、銅管を螺旋状に加工してこれに水配管を通し、CO2冷媒管が巻き付けられた状態の水配管をコの字型に加工した後、りん銅ろう(例えばJISZ3264、BCuP−2)による炉中ろう付けで一括ろう付けすることにより、水配管とCO2冷媒管とが密着される。さらに、水配管、CO2冷媒管等を同じく銅管の機内配管を用いて、アキュームレーターおよびコンプレッサー等とろう付けすることにより接続して製造される。
【0004】
このように、熱交換器に用いられる銅管は、熱伝導率や曲げ加工性の他に、ろう付け性が良好であることが要求される。したがって、これらの特性が良好であり、適切な強度を有するりん脱酸銅が広く使用されている。一方、近年は、省資源化の観点から、銅管の薄肉化および長寿命化が求められ、これらの要求を満足するために、過酷な内圧に長期間耐え得る強度を有する銅管が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1〜3には、Pの他にCo,Sn,Zn,Ni等を所定量含有し、不可避的不純物であるO,H等を規制した銅合金で形成されることで強度、特にろう付け後の強度を向上させた銅管が開示されている。さらに特許文献1〜3は、組織についても制御した銅管としている。すなわち特許文献1,2においては、結晶粒径を所定値以下として曲げ加工性を向上させ、特許文献3においては、微細析出物の分散した所定の粒径の再結晶粒を有して疲労強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3794971号公報
【特許文献2】特開2008−255379号公報
【特許文献3】特許第4228166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、近年では、ろう付けにおいて、作業性を向上させるために従来よりも高温で行われるようになっている。しかしながら、耐熱性に優れるCu−Co−P系の銅合金からなる銅管においても、特に800℃以上の高温でのろう付け処理を行うと強度が大きく低下するという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、薄肉化され、さらに800℃以上の高温でのろう付け処理後であっても、十分な強度を有する高強度銅管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係るろう付け後の強度に優れた高強度銅管は、Co:0.13〜0.30質量%、P:0.03〜0.10質量%を含有し、前記Coの含有量が前記Pの含有量の2.5倍以上であって、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物として、S:0.005質量%以下、O:0.005質量%以下、H:0.0002質量%以下に規制された銅合金を押出成形してなる。そして、管軸に沿った断面における平均結晶粒径が30μm以下であり、比抵抗から算出される析出物が0.20〜0.30質量%であって、前記析出物のすべてに対して前記断面の肉厚方向中心部における円相当径3〜50nmの析出物が面積率で50%以上であることを特徴とする。さらに、前記銅合金は、Ni:0.005〜0.20質量%を含有してもよく、この場合は、前記Niの含有量は前記Coの含有量以下とし、前記Coと前記Niの合計の含有量が前記Pの含有量の2.5倍以上であればよい。
【0010】
このように、CoおよびP、あるいはさらにNiを所定範囲で含有し、さらにCo,NiをPに対して所定比以上とした銅合金で形成することにより、Co−P化合物または(Co,Ni)−P化合物を適量析出させることができ、さらに前記の析出量および析出物の大きさを制限することにより、強度、さらには高温でのろう付け後の強度を高くすることができる。そして、銅合金に不可避的に含有するS,O,Hの許容量を規制し、また結晶粒径を所定値以下に制限することにより、押出時や曲げ加工時における割れを防止することができる。
【0011】
さらに、前記銅合金は、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agから選択された1種以上を合計0.10質量%未満含有してもよい。これらの金属を合計で所定範囲含有させることで、その析出物により、Co−P化合物と同様にろう付け後も含めて強度が向上する。
【0012】
さらに、前記銅合金は、Sn:0.05〜1.0質量%、Zn:0.005〜1.0質量%の少なくとも1種を含有してもよい。このように、銅合金にSn,Znを所定範囲で含有させることで、強度や耐熱性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るろう付け後の強度に優れた高強度銅管によれば、薄肉化され、さらに800℃以上の高温でのろう付け処理後であっても、十分な強度を有するため、省資源化およびろう付け作業性が向上し、また熱交換器として長期間の使用に耐え得るので、コストが低減する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るろう付け後の強度に優れた高強度銅管について、詳細に説明する。
本発明に係るろう付け後の強度に優れた高強度銅管(以下、単に高強度銅管という)は、熱交換器、例えば空調機やヒートポンプ給湯機の熱媒体を流通させる配管に適用され、平滑管、内面溝付管等の用途に応じた形状および寸法とするが、特に限定するものではない。はじめに、本発明に係る高強度銅管を形成する銅合金について説明する。
【0015】
〔銅合金〕
本発明に係る高強度銅管を形成する銅合金は、Co:0.13〜0.30質量%、P:0.03〜0.10質量%を含有し、Coの含有量がPの含有量の2.5倍以上であって、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物として、S:0.005質量%以下、O:0.005質量%以下、H:0.0002質量%以下に規制される。以下、この銅合金を構成する各要素について説明する。
【0016】
(Co:0.13〜0.30質量%)
Coは、銅合金中でPとの化合物(適宜、Co−P化合物という)を生成、析出させる。この化合物(析出物)は、高強度銅管の引張強さ等の強度を向上させる効果を有し、また、ろう付けのための熱処理において、結晶粒の粗大化を抑制するピンニング粒子として作用するため、熱処理による強度低下を抑制し、特に800℃以上の高温でのろう付け処理後の強度を確保する。また、Co−P化合物は、熱間押出や中間焼鈍においても析出して、結晶粒の粗大化を抑制するため、ろう付け前の高強度銅管の結晶粒径を所定値以下とすることができる。これらの効果はCo−P化合物の析出量が多いほど向上し、Coの含有量が0.13質量%未満では、析出量が少なく、前記効果が十分に得られない。一方、Coの含有量が0.30質量%を超えると、Co−P化合物が過剰に析出するため、強度が過大となって、伸びが低下して加工性が不足したり、熱間押出等にて変形抵抗が過大となって割れを生じる虞がある。したがって、Coの含有量は0.13質量%以上0.30質量%以下とする。
【0017】
(P:0.03〜0.10質量%)
Pは、一般に銅合金の脱酸のために添加される。さらに本発明に係る高強度銅管においては、Pは銅合金中でCoとの化合物(Co−P化合物)を生成、析出させ、前記の通り強度を向上させる効果を有する。Pの含有量が0.03質量%未満では、Co−P化合物の析出量が少なく、前記効果が十分に得られない。一方、Pの含有量が0.10質量%を超えると、加工性が低下して、熱間加工や冷間加工において割れが生じる虞がある。したがって、Pの含有量は0.03質量%以上0.10質量%以下とする。
【0018】
(Co/P質量比:2.5以上)
前記の通り、本発明に係る高強度銅管においては、CoとPとの化合物(Co−P化合物)が十分に析出することにより、高温でのろう付け処理後も含めて強度を向上させる。特に高温でのろう付け処理後の強度が高い高強度銅管について、TEM(透過型電子顕微鏡)による観察および抽出残渣分析を詳細に行った結果、Co2P(リン化二コバルト)が析出していることが明らかとなった。Co2PにおけるPに対するCoの質量比(Co/P)は約3.8である。銅合金に含有されるCo,Pについて、質量比(Co/P)が3.8から大きく減少して2.5未満になると、CoおよびPの各含有量が前記の範囲であっても、Pに対してCoが不足して、Co2Pを十分に析出せずに前記効果が十分に得られない。したがって、Coの含有量はPの含有量の2.5倍以上とし、好ましくは3.0倍以上である。なお、後記するように、銅合金にNiを含有させる場合は、Coは、Niとの合計の含有量がPの含有量の2.5倍以上であればよい。
【0019】
(S:0.005質量%以下)
Sは、銅合金中においてCuとの化合物として母相中に存在する。Sの含有量が多くなると、銅合金の鋳造時の鋳塊割れや、熱間押出時の割れが増加する。そして、これらの割れが発生しなくても、このようなSを多く含有する銅合金の押出材を冷間圧延、抽伸すると、材料内部のCu−S化合物が管の軸方向に伸張し、Cu−S化合物界面で割れが生じ易い。これにより、加工時や加工後の製品(銅管)において、表面疵や割れ等が発生して製品の歩留りを低下させる。あるいは、銅管に曲げ加工を行う際に、割れ発生の起点となり、曲げ部で割れが発生し易い。したがって、Sの含有量は0.005質量%以下に規制し、好ましくは0.003質量%以下、さらに好ましくは0.0015質量%以下である。
【0020】
Sは、銅地金およびスクラップ等の原料やスクラップに付着する油から、また、溶解鋳造雰囲気(フラックス、溶湯と接触する雰囲気中のSOxガス、炉材等)から比較的容易に溶湯中に取り込まれる。したがって、銅合金におけるSの含有量を0.005質量%以下に抑えるためには、低品位のCu地金およびスクラップの使用量を低減し、溶解雰囲気のSOxガスを低減し、適正な炉材を選定し、MgおよびCa等のSと親和性が強い元素を溶湯に微量添加する等の対策が有効である。
【0021】
なお、S以外の不純物元素As,Bi,Sb,Pb,Se,Teも鋳塊、熱間押出材、および冷間加工材の健全性を低下させ、また銅管の曲げ加工性を損なうことから、できるだけ低減させることが好ましい。これらの元素も前記Sと同様の方法で低減させることができ、合計の含有量は、好ましくは0.0015質量%以下、より好ましくは0.0010質量%以下、さらに好ましくは0.0005質量%以下である。
【0022】
(O:0.005質量%以下)
O(酸素)が銅合金中に存在すると、Cu、あるいは含有する場合はSnの酸化物が生成して、これらの酸化物が鋳塊に巻き込まれて鋳塊の健全性が低下し、製造された銅管の曲げ加工性が低下する虞がある。したがって、Oの含有量は0.005質量%以下に規制し、高強度銅管の曲げ加工性をより向上させるために、好ましくは0.003質量%以下、さらに好ましくは0.0015質量%以下とする。銅合金へのOの取り込みを抑制するためには、原料の電気銅の溶解時に還元雰囲気とすればよい。
【0023】
(H:0.0002質量%以下)
H(水素)は銅合金の溶解鋳造時に溶湯に取り込まれ、多くなると、鋳塊中にピンホールを生じたり、Hが粒界に濃化等の状態で存在して、熱間押出時に割れを発生させる。そして、熱間押出時に割れが発生しなくても、Hを多く含有する銅合金の押出材は、焼鈍時に粒界にHの膨れが発生し易く、製品歩留が低下する。したがって、Hの含有量は0.0002質量%以下に規制し、製品歩留りをより向上させるために、好ましくは0.0001質量%以下とする。銅合金へのHの取り込みを抑制するためには、溶解鋳造時の原料を乾燥させたり、溶湯と接触する雰囲気の露点を低下させたり、P(Cu−P合金)添加前の溶湯を酸化気味にする等の対策が有効である。
【0024】
本発明に係る銅合金管を形成する銅合金は、前記成分にさらにNi:0.005〜0.20質量%を含有してもよく、このとき、NiとCoの合計の含有量はPの含有量の2.5倍以上とする。また、本発明に係る銅合金管を形成する銅合金は、前記成分にさらに、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agから選択された1種以上を合計0.10質量%未満含有してもよく、あるいは、Sn:0.05〜1.0質量%、Zn:0.005〜1.0質量%の少なくとも1種を含有してもよい。
【0025】
(Ni:0.005〜0.20質量%、かつCoの含有量以下)
((Co+Ni)/P質量比:2.5以上)
Niは、銅合金中でCo,Pとの三元化合物(適宜、(Co,Ni)−P化合物という)を生成、析出させる。この(Co,Ni)−P化合物は、Co−P化合物と同様に、高強度銅管の強度を向上させ、また熱処理においてピンニング粒子として作用してろう付け後強度を確保する効果を有する。したがって、Niは、Coの含有量を増大させることなく、強度をいっそう向上させることができる。Co,Ni,Pを含有する銅合金からなり、特に高温でのろう付け処理後の強度が高い高強度銅管について、TEM(透過型電子顕微鏡)による観察および抽出残渣分析を詳細に行った結果、(Co,Ni)2Pが析出していることが明らかとなった。すなわち、Niを含有させることで、Co2PのCoがNiに一部置換される形となる。また、NiはCoと原子量が近いので、(Co,Ni)2PにおけるPに対するCoとNiとの合計の質量比((Co+Ni)/P)は約3.8であるといえる。したがって、Co,Pを含有する銅合金と同様に、質量比((Co+Ni)/P)が3.8から大きく減少して2.5未満になると、Co,Ni,Pの各含有量が前記の範囲であっても、Pに対してCo,Niが不足して、Co2Pや(Co,Ni)2Pを十分に析出せずに前記効果が十分に得られない。
【0026】
(Co,Ni)−P化合物を十分に析出させて前記効果を得るために、Niの含有量は0.005質量%以上とすることが好ましい。一方、Niの含有量が0.20質量%を超えると、(Co,Ni)−P化合物が過剰に析出するため強度が過大となって伸びが低下して、加工性が不足する。また、NiがCoを超えて多くなると、生成するPの三元化合物が、Coに対してNiが多い組成の(Ni,Co)−P化合物になり易く、析出物が固溶温度の低いNi−P化合物(Ni2P)の性質に近付き、ろう付け処理にて溶融し易いため、ピンニング粒子としての効果が小さい。したがって、Niの含有量は、0.20質量%以下、かつCoの含有量以下とし、さらに、Coの含有量との合計でPの含有量の2.5倍以上とし、好ましくは3.0倍以上である。
【0027】
(Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Ag:合計0.10質量%未満)
Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agはそれぞれ、単体で、またはFe2P,Mn32等のPとの化合物として析出することで、前記のCo−P化合物等と同様に、高強度銅管の強度およびろう付け後の強度を向上させる効果がある。一方、これらの元素が合計で0.10質量%以上含有されると、熱間押出における熱間変形抵抗が高くなり、当該元素を含有しない銅合金と同一の押出圧力とするためには熱間押出温度を高くする必要があり、高温で押出材の表面酸化が増加し、生産性の低下や銅管の表面欠陥が増加する。したがって、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agから選択された1種以上の含有量は合計で0.10質量%未満とする。
【0028】
(Sn:0.05〜1.0質量%)
Snは、銅合金中で固溶硬化によって引張強さを向上させ、また、高強度銅管の焼鈍やろう付けによる熱影響に対して結晶粒度の粗大化が抑制されて耐熱性が向上する。これらの効果を得るために、Snの含有量は0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Snの含有量が1.0質量%を超えると、鋳塊における凝固偏析が激しくなって、通常の熱間押出や加工熱処理において偏析が完全に解消しないことがあり、銅管の組織、機械的性質、曲げ加工性、ろう付け後の組織および機械的性質の不均一が生じる。また、熱間押出における熱間変形抵抗が高くなり、Snの含有量が1.0質量%以下の銅合金と同一の押出圧力とするためには熱間押出温度を高くする必要があり、高温で押出材の表面酸化が増加し、生産性の低下や銅管の表面欠陥が増加する。したがって、Snの含有量は1.0質量%以下とする。
【0029】
(Zn:0.005〜1.0質量%)
Znは、銅合金の強度、耐熱性、および疲労強度を向上させる効果を有する。また、Znを含有することにより、高強度銅管のろう付けにおいてりん銅ろう等のろう材の濡れ性を向上させる。さらに、Znを含有することにより、冷間圧延、抽伸、転造等に用いる工具の磨耗を低減させて、抽伸プラグや溝付プラグ等を長寿命化する効果があり、生産コストの低減に寄与する。また、高強度銅管の熱交換器への組立てにおいても、曲げ加工時のマンドレルの磨耗を低減し、さらにアルミニウムフィンの貫通孔のフィンカラーに密着させる際の拡管加工時の拡管ビュレットの磨耗も低減することができる。これらの効果を得るために、Znの含有量は0.005質量%以上とすることが好ましい。一方、Znの含有量が1.0質量%を超えると、応力腐食割れ感受性が高くなる。したがって、Znの含有量は1.0質量%以下とする。
【0030】
〔高強度銅管の組織〕
本発明に係る高強度銅管は、管軸に沿った断面における平均結晶粒径が30μm以下である。また、比抵抗から算出される析出物の析出量が0.20〜0.30質量%であって、析出物のすべてに対して前記断面の肉厚方向中心部における円相当径3〜50nmの析出物が面積率で50%以上である。
【0031】
(平均結晶粒径:30μm以下)
銅管をU字形にする曲げ加工においては、U字の外周側に負荷される塑性歪みは、曲げ半径が小さいほど、また薄肉化された銅管ほど大きくなる。銅管は、前記外周に該当する部位に大きな結晶粒が存在すると、結晶粒界が破壊の起点となって割れが発生し易い。また、銅管は熱交換器に組み立てられて内部に静水圧を作用させると、管軸直交断面における周方向に、すなわち肉厚と直交する方向に力が加わる。これにより、薄肉化された銅管においては、内側表面の疵や微細な割れ、または内部の微細な割れ等の欠陥、あるいは硫化物等の介在物を起点にして割れが発生し得て、結晶粒が大きいと亀裂が伝播して破壊に至る。銅管の管軸方向と肉厚方向とを含む断面、すなわち管軸に沿った断面における平均結晶粒径が30μmを超えていると、特に大きな結晶粒により、曲げ加工時に割れを生じたり、あるいはろう付け処理時にさらに大きくなって、熱交換器に組み立てられた後に破壊の原因となる虞がある。したがって、高強度銅管は、管軸に沿った断面における平均結晶粒径を30μm以下とし、好ましくは20μm以下である。結晶粒径は、銅合金の成分を前記の範囲とし、さらに後記の高強度銅管の製造方法によって制御することができる。平均結晶粒径は、肉厚方向における全体の結晶粒の粒径の平均であり、例えば、管軸を含む面で高強度銅管を切断して断面を研磨して観察面とし、肉厚方向に沿って複数視野を選んで光学顕微鏡で観察して、JISH0501に記載されている比較法で結晶粒径を測定し、平均値を算出して得られる。
【0032】
(析出物:比抵抗に基づく算出値0.20〜0.30質量%)
本発明に係る高強度銅管における析出物は、主にCo−P化合物を指し、銅合金がNiを含有する場合はさらに(Co,Ni)−P化合物を、銅合金がFe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agを含有する場合はさらにこれらの元素の単体またはPとの化合物を指し、析出物の量(析出量)とはこれらすべての合計量を指す。これらの析出物は、前記の通り、析出量が多いほど高強度銅管の強度、特にろう付け後の強度を向上させる。銅合金の鋳造時に調整したCo,Ni等のすべてが析出すると限らないことから、本発明においては、銅合金の成分のみならず、高強度銅管における析出量を、後記するように比抵抗に基づいて算出し、管理することにより、十分な強度の高強度銅管とする。析出量が0.20質量%未満では、ろう付け後強度向上の効果が十分に得られない。一方、析出量が0.30質量%を超えると、強度が過大となって伸びが低下して、加工性が不足する。したがって、高強度銅管における析出物は、0.20質量%以上0.30質量%以下とする。析出物は、銅合金の成分、特にCo,Ni,Pの各含有量を質量比も含めて前記の範囲とし、さらに後記の高強度銅管の製造条件によって制御することができる。
【0033】
Lindeらによって銅合金の比抵抗と銅合金中の固溶元素の関係が報告されており、固溶している元素の濃度による銅の比抵抗(単位:Ω・cm)の変化量(増加量)Δρは、下式(1)で表すことができる。
Δρ=Σ(Ci・Δρi) ・・・(1)
Ciはi番目の固溶元素の濃度(質量%)である。Δρiはi番目の固溶元素の電気抵抗に及ぼす寄与度で、Co,Ni,P,Sn,Zn,Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Agについて、ΔρCo=6.0、ΔρNi=1.1、ΔρP=7.0、ΔρSn=3.1、ΔρZn=0.3、ΔρFe=9.3、ΔρMn=2.9、ΔρMg=0.8、ΔρCr=4.0、ΔρTi=16.0、ΔρAg=0.6(単位:×10-6Ω・cm/質量%)である。なお、Zrについては、本発明に係る高強度銅管を形成する銅合金の成分の範囲では、導電率にほとんど影響しないため、比抵抗の変化量Δρの算出において無視することができる。
【0034】
ここで、本発明に係る高強度銅管を形成する銅合金の成分の範囲では、Sn,Znは化合物を生成しないため、銅合金におけるSn,Znの含有量(鋳造時の添加量)が、そのまま固溶Sn量(CSn)、固溶Zn量(CZn)となる。一方、化合物(析出物)を生成するCo,Ni,Pは、それぞれ銅合金における含有量から析出量を減じた値が固溶量(CCo,CNi,CP)となる。また、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agは、それぞれ一部が固溶するが、本発明に係る高強度銅管を形成する銅合金の成分の範囲では含有量が少ないため、いずれも含有量の20%が固溶すると近似して計算することができる。したがって、本発明に係る高強度銅管において、比抵抗の変化量Δρは下式(2)で表すことができる。
Δρ=(Co含有量−Co析出量)・ΔρCo+(Ni含有量−Ni析出量)・ΔρNi+(P含有量−P析出量)・ΔρP+CSn・ΔρSn+CZn・ΔρZn+0.2×[(Fe含有量)・ΔρFe+(Mn含有量)・ΔρMn+(Mg含有量)・ΔρMg+(Cr含有量)・ΔρCr+(Ti含有量)・ΔρTi+(Ag含有量)・ΔρAg] ・・・(2)
【0035】
比抵抗の変化量Δρは、純銅の比抵抗と、銅合金からなる銅管を測定した比抵抗との差として得られる。Δρiは既知の定数である。Co,Ni,Pの各含有量およびSn,Zn,Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Agの各固溶量は、銅合金の成分より明らかである。そして、前記の通り、析出物Co2P、(Co,Ni)2Pの組成より、これらの化合物におけるCo,Ni,Pの質量比について、Co/Pまたは(Co+Ni)/Pを3.8であると仮定することができ、さらに(Co,Ni)2PにおけるNi/Coを1/8であると仮定することができる。以上より、Co,Ni,Pのそれぞれの固溶量および析出量を算出して、析出量の和を銅管におけるCo−P化合物や(Co,Ni)−P化合物の析出量として得ることができる。さらに、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agは、含有量の80%が析出すると仮定することができるので、これらの含有量に0.8を乗ずることで析出量が近似される。なお、これらの元素は、Pとの化合物を生成するものは比較的少ないため、前記化合物に含まれるPは無視することができる。以上、得られた析出量を加算すれば、すべての析出物の析出量が算出される。
【0036】
(析出物サイズ分布:円相当径3〜50nmの析出物が面積率50%以上)
Co−P化合物や(Co,Ni)−P化合物等の析出物は、前記の通り、ろう付けのための熱処理において、結晶粒の粗大化を抑制するピンニング粒子として作用することで熱処理による強度低下を抑制し、ろう付け後の強度を向上させる。しかし、微小な析出物、具体的には、管軸に沿った断面(管軸方向と肉厚方向とを含む断面)において円相当径3nm未満の析出物、すなわち直径3nmの円の面積よりも断面積の小さい析出物は、ろう付け処理にて溶融するのでピンニング粒子として作用しない。一方、直径50nmを超える析出物が多い場合、個数としては少なく、分布が不十分であるため、結晶粒の粗大化を抑制する効果が低下する。したがって、肉厚方向中心部の前記析出物において、円相当径3〜50nmのものが半分以上、すなわち断面の肉厚方向中心部における面積率で50%以上とし、好ましくは60%以上である。肉厚方向中心部とは、具体的には、肉厚方向1/2の部位を中心として肉厚の55〜70%に相当する範囲を指す。このような析出物のサイズ分布は、後記の高強度銅管の製造条件によって制御することができる。
【0037】
析出物のサイズ分布は、管軸を含む面で高強度銅管を切断して断面を研磨し、肉厚方向における前記中心部の範囲から、好ましくは複数視野を選んでTEM(透過型電子顕微鏡)で観察することができる。そして、TEM画像を画像解析ソフトにて解析して、析出物のそれぞれの面積を測定し、面積から円換算にて直径(円相当径)を導出して、解析範囲におけるすべての析出物の総面積に対して、円相当径3nm以上50nm以下の析出物の合計面積の割合を算出すればよい。
【0038】
〔高強度銅管の製造方法〕
次に、本発明に係る高強度銅管の製造方法の一例を示す。本発明に係る高強度銅管は、公知の銅管と同様に、鋳造、熱間押出、圧延、抽伸、最終焼鈍にて製造することができるが、結晶粒や析出物を制御するため、さらに以下の条件とすることが好ましい。
【0039】
はじめに、原料の電気銅を溶解し、銅が溶解した後、Co、さらにNi,Sn,Zn等をそれぞれ所定量添加し、さらに脱酸のために15質量%程度のPを含有する銅合金を添加し、溶湯を成分調整した後、半連続鋳造により所定の寸法のビレットを製造する。次に、ビレットを680〜800℃に加熱し、必要に応じて偏析改善のために0.1〜2時間程度保持して均質化処理を行う。
【0040】
加熱されたビレットに穿孔加工を行い、750〜980℃で熱間押出により押出素管とし、水冷等により急速冷却する。本発明に係る高強度銅管は、押出後にCoを固溶させ、また再結晶による結晶粒の粗大化を防止するために、押出素管の表面温度が300℃になるまで冷却速度10℃/秒以上で急速冷却することが好ましい。前記冷却速度は、好ましくは15℃/秒以上、さらに好ましくは20℃/秒以上である。また、熱間押出の加工率すなわち、(穿孔されたビレットの断面積−押出素管の断面積)/穿孔されたビレットの断面積×100(%)は、80%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがさらに好ましい。
【0041】
押出素管を圧延加工して圧延素管とする。このときの加工率は、加工時の製品不良を低減するために、断面減少率で95%以下とすることが好ましく、90%以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
圧延素管を抽伸加工して所定の寸法の抽伸管(平滑管)とする。ここで、まず粗抽伸加工を行って、400〜700℃にて5分間〜1時間保持して中間焼鈍を行うことにより、析出物を分散させる。中間焼鈍温度が400℃未満では析出量が不足し、一方、700℃を超えると析出物が粗大化して個数が不足する。さらにその後に抽伸加工を行って抽伸管とする。ここで、通常、抽伸加工は何台かの抽伸機を用いるが、各抽伸機による加工率(断面減少率)を40%以下にすることにより、表面欠陥や内部割れを低減することができる。そして、抽伸管を500〜750℃で5分間〜1時間程度保持して最終焼鈍を行うことにより、加工硬化した抽伸管を軟質化させて曲げ加工等を可能とすることに加え、さらに析出物を分散させる。なお、中間焼鈍後の抽伸加工に代えて、溝付転造加工を行って内面溝付管としてもよい。
【0043】
このように、2回の焼鈍を行うことにより、所望の析出状態とすることができる。特に抽伸加工における中間焼鈍は、通常の製造方法においては行わなかったり、あるいは抽伸し易くするために歪みを減少させる目的で行うため、析出物を分散させるためには温度や時間が不十分な場合がある。圧延素管や抽伸管を連続的に焼鈍するには、銅管コイル等の焼鈍に通常使用されるローラーハース炉、または高周波誘導コイルに通電しながら、抽伸管等を前記コイル内に通す、高周波誘導コイルによる加熱を利用することができる。
【0044】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例によって制限を受けるものではなく、請求項に示した範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0045】
〔高強度銅管作製〕
供試材として銅管を以下の工程により作製した。
電気銅を原料とした溶湯中に、表1および表2に示す成分にしたがい、Ni等を添加した後、Cu−P合金を添加して、鋳造温度1200℃で、直径300mm、長さ3000mmの鋳塊を半連続鋳造した。鋳塊から長さ475mmのビレットを切り出し、均質化処理としてビレットを680〜800℃の範囲に加熱して1時間保持した後、熱間押出して、外径100mm、肉厚10mmの押出素管を作製し、水冷にて表面温度が300℃になるまで冷却速度20℃/秒以上で急速冷却した。この押出素管を圧延し、さらに粗抽伸した後、中間焼鈍として供試材No.1〜17,20〜31は600℃で、供試材No.18,19,33,34は表2に示す温度で、1時間保持した。中間焼鈍後、さらに抽伸して、外径9.52mm、肉厚0.80mmの平滑管を作製した。なお、供試材No.32については中間焼鈍を行わずに連続して抽伸し、表2の中間焼鈍温度を「−」で表す。平滑管を、最終焼鈍として600℃で30分間保持し、銅管を作製した。また、途中の工程にて不具合により作製を中断したものは、以下の測定および評価を行わず、表1の測定値等の欄を「−」で表す。また、表1の供試材No.9については、表2にも併記する。
【0046】
作製した銅管について、以下の方法で、平均結晶粒径、析出物の析出量、析出物における円相当径3nm以上50nm以下の面積率を測定し、表1および表2に示す。
【0047】
(平均結晶粒径)
銅管を、管軸を含む面で切断して断面を研磨して観察面とした。肉厚方向における全体から3視野を光学顕微鏡で観察して、JISH0501に記載されている比較法で結晶粒径を測定し、平均値を算出した。
【0048】
(比抵抗に基づく析出物の測定)
銅管について、GE Inspection Technologies社製「Hocking Autosigma 3000」にて比抵抗を測定し、純銅の比抵抗を1.68×10-6Ω・cmとして比抵抗の変化量Δρを算出した。得られた比抵抗の変化量Δρおよび銅合金の成分より、式(2)に基づいて、Co,Ni,Pの各析出量(Co−P化合物または(Co,Ni)−P化合物における量)を算出した。Co,Ni,P,Sn,Znの各固溶元素の電気抵抗に及ぼす寄与度を、ΔρCo=6.0、ΔρNi=1.1、ΔρP=7.0、ΔρSn=3.1、ΔρZn=0.3、ΔρFe=9.3、ΔρMn=2.9、ΔρMg=0.8、ΔρCr=4.0、ΔρTi=16.0、ΔρAg=0.6(単位:×10-6Ω・cm/質量%)とした。また、前記化合物におけるCo,Ni,Pの質量比について、Co/Pまたは(Co+Ni)/Pを3.8とし、さらにNiを含有する場合はNi/Coを1/8、ただしNiの含有量がCoよりも多い供試材はNi,Co各含有量の比と同値と仮定した。また、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agは含有量の80%が析出すると仮定し、これらの元素およびCo,Ni,Pの各析出量の合計を析出量とした。
【0049】
(析出物のサイズ分布)
銅管を、管軸を含む面で切断して断面を研磨して観察面とした。TEMにて倍率×150000で観察し、肉厚方向1/2の部位を中心として肉厚の70%に相当する範囲から、700nm×800nmの視野を肉厚方向に沿って3視野、画像写真を撮影した。画像写真を画像解析ソフトにて解析して、析出物のそれぞれの面積を測定し、面積から円相当径を導出して、画像におけるすべての析出物の総面積に対して、円相当径3nm以上50nm以下の析出物の合計面積の割合を算出し、さらに3視野の平均値を算出した。
【0050】
〔評価〕
作製した銅管について、曲げ加工性、強度として引張強さ、ろう付け後強度として熱処理後の引張強さ、耐応力腐食割れ性を、以下の通り評価した。
【0051】
(曲げ加工性)
銅管を、曲げピッチ25mm(管軸における曲げ半径が12.5mm)のU字形に曲げ加工し、外側表面の曲げ部を目視にて観察した。各仕様10本について行い、割れや亀裂が観察されたものが5本以下であれば合格とし、10本すべてに割れ等のないものを「○」、割れ等が観察されたものが1本以上5本以下を「△」、6本以上を不合格として「×」と表1および表2に示す。
【0052】
(強度)
銅管を切り出して、JIS11号引張試験片を各仕様2本作製した。この試験片をJISZ2241に準じて引張試験を室温にて行った。詳しくは、5882型インストロン社製万能試験機により、試験速度10.0mm/分、GL=50mmで、引張強さを測定した。2回の平均値を表1および表2に示す。合格基準は、引張強さ240MPa以上とする。
【0053】
(ろう付け後強度)
ろう付け処理を模擬して、800℃、850℃の2通りの温度で10分間の熱処理をした銅管について、前記引張試験と同様の方法で引張強さを測定した。それぞれの熱処理温度について2回の平均値を表1および表2に示す。合格基準は、引張強さ230MPa以上とする。
【0054】
(耐応力腐食割れ性)
以下の方法で応力腐食割れ試験を実施した。銅管を長さ75mmに切り出して試験片とし、この試験片を脱脂、乾燥した後、JISK8085に規定するアンモニア水を等量の純水で希釈した11.8%以上のアンモニア水を入れたデシケーターに、液面から50mmの距離を空けた高さ位置に固定して収容し、アンモニア雰囲気中に常温で2時間保持した。その後、試験片を銅管の元の外径の50%まで径方向に押しつぶした。この試験片を目視で観察して外周面の割れの有無を判定した。割れのないものを合格として「○」、割れの発生したものを「×」で、表1および表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1および表2に示すように、供試材No.1〜19は、銅合金の成分、結晶粒径、および析出物の分布がいずれも本発明の範囲の実施例であり、強度、曲げ加工性、耐応力腐食割れ性がいずれも良好で、特に850℃の高温でのろう付け処理による強度の低下が抑制された。
【0058】
これに対して、供試材No.20〜31は、銅合金の成分が本発明の範囲外の比較例である。供試材No.20,22は、Co,Pがそれぞれ不足したため、Co−P化合物が不足し、さらに円相当径3nm未満の小さな析出物が多かった。特に析出量が少ない供試材No.22は、強度が低く、熱処理によりいっそう低下し、さらに熱間押出や中間焼鈍においてもピンニング粒子となる析出物も少ないために結晶粒が粗大化した。供試材No.20も、850℃の熱処理により強度が大きく低下した。反対に、供試材No.21はCoが過剰であるために高温下でもCo−P化合物が析出し、熱間押出にて変形抵抗が過大となって割れを生じた。供試材No.23はPが過剰であるため、熱間押出にて割れを生じた。
【0059】
供試材No.24,25は、NiがCoを超えて含有されるため、Coが本発明の範囲である供試材No.25も含めて、析出量は本発明の範囲であっても析出した(Co,Ni)−P化合物がNi過剰となって、850℃の熱処理においてピンニング粒子として作用せず、その後の強度が大きく低下した。供試材No.26はSnが過剰であるため、熱間変形抵抗が高くなって熱間押出をすることができなかった。供試材No.27はZnが過剰であるため、応力腐食割れ感受性が高くなった。供試材No.28はCrが過剰であるため、過剰な析出物により強度が過大となって、曲げ加工性が低下した。
【0060】
供試材No.29,31は不可避的不純物S,Hがそれぞれ規定を超えて含有されるため、熱間押出にて割れを生じた。供試材No.30は不可避的不純物Oが規定を超えて含有されるため、曲げ加工性が低下した。
【0061】
供試材No.32〜34は、銅合金の成分は供試材No.9と同一で本発明の範囲であるが、析出物の分布、あるいはさらに結晶粒径が本発明の範囲外の比較例である。供試材No.32は抽伸加工時に中間焼鈍を行わず、また供試材No.33は抽伸加工における歪みを除去するための一般的な中間焼鈍で温度が低かったため、それぞれ(Co,Ni)−P化合物が十分に析出せず、強度が、当初は高いが850℃の熱処理により大きく低下した。一方、供試材No.34は、中間焼鈍温度が高かったため、結晶粒および析出物が粗大化して、強度が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金を押出成形してなる高強度銅管であって、
前記銅合金は、Co:0.13〜0.30質量%、P:0.03〜0.10質量%を含有し、前記Coの含有量が前記Pの含有量の2.5倍以上であって、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、前記不可避的不純物として、S:0.005質量%以下、O:0.005質量%以下、H:0.0002質量%以下に規制され、
管軸に沿った断面における平均結晶粒径が30μm以下であり、比抵抗から算出される析出物が0.20〜0.30質量%であって、前記析出物のすべてに対して前記断面の肉厚方向中心部における円相当径3〜50nmの析出物が面積率で50%以上であることを特徴とするろう付け後の強度に優れた高強度銅管。
【請求項2】
前記銅合金がさらに、Ni:0.005〜0.20質量%を含有し、前記Niの含有量が前記Coの含有量以下、前記Coと前記Niの合計の含有量が前記Pの含有量の2.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のろう付け後の強度に優れた高強度銅管。
【請求項3】
前記銅合金がさらに、Fe,Mn,Mg,Cr,Ti,Zr,Agから選択された1種以上を合計0.10質量%未満含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のろう付け後の強度に優れた高強度銅管。
【請求項4】
前記銅合金がさらに、Sn:0.05〜1.0質量%、Zn:0.005〜1.0質量%の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のろう付け後の強度に優れた高強度銅管。