説明

アイアンゴルフクラブとその製造方法

【課題】新規格内で、スコアラインエッジ部の角部を鋭くすることのできるゴルフクラブを作る。
【解決手段】アイアンゴルフクラブにおいて、フェース面14及び溝15の長手方向に直交する面で切断した断面で、溝の縁の輪郭線19が、フェース面と溝の側面に接する半径が0.010インチ(0.254ミリメートル)の第1の円aと、この第1の円と同じ中心の半径が0.011インチ(0.2794ミリメートル)の第2の円bとの間に存在するようにした。溝の縁には、輪郭線と連なってフェース面に隣接する突起状の凸部18を設けた。溝形状を工具20による機械的な加工を施し正確な寸法になるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェースにスコアラインを有するアイアンゴルフクラブ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドのフェースには、スコアラインと称される複数の溝が施されている。このスコアラインは、打撃時にボールにスピンをかけ、スピン量を安定させる性能、いわゆるスピン性能を左右する。特に、アイアンの場合、ロフト角の小さい(例えば、20度乃至30度)アイアンは、ロングアイアンと称せられ、ロフト角の大きい(例えば、40度乃至60度)アイアンは、ショートアイアンと称せられ、通常ロングアイアンからショートアイアンに向かって、1、2、3、…、9、PW(ピッチングウェッジ)、SW(サンドウェッジ)等の番号や記号がつけられている。
【0003】
この中で、ロフト角が45度乃至60度のPW(ピッチングウェッジ)、AW(アプローチウェッジ、)SW(サンドウェッジ)等のウェッジと呼ばれるショートアイアンは、プロのプレイヤー、上級者等からスピン性能が高いものが好まれている。これは、ロフト角が大きくなるほどボールの飛距離が短くなり、ロフト角が大きいアイアンを用いる場面ではプレイヤーがボールの到達目標として狙うエリアも狭くなるが、この場合、余計なランを出さずに打撃したボールの着地点の近くにボールを止めた方が有利であるからである。また、プロの試合では、グリーンが硬く整備され、この上をボールが速く転がるように設定されているため、特にボールにスピンをかけてボールを着地点の近くに止める必要がある。
【0004】
ロングアイアン、ミドルアイアンにおいても、スピン性能が高いものは安定したスピン量が安定した飛距離に繋がるため望ましい。特にラフからのショットにおいては、スピンがかからず、意図した飛距離よりも飛び過ぎてしまうフライヤーという現象が起きるおそれがある。従って、様々な状況のショットにおいて、安定したスピン性能が求められる。
【0005】
このスコアラインの製造は、種々の方法が提案され知られているが、例えばプレス加工により、前記フェース面にスコアラインを設けた後、平面フライス加工によりフェース面を均一に削って平坦にすることで、スコアラインのエッジ部をフェース面上に設ける製造方法が提案されている(特許文献1参照)。また、スコアラインの溝の形状を変形した台形状に形成された突起で、鍛造することにより製造効率に優れ、且つ、高品質のゴルフクラブヘッドを製造する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
社団法人日本ゴルフ協会では、このスコアラインである溝は、この縁の丸みは半径が0.020インチ(0.508ミリメートル)以下の円形状でなければならない、幅は、30度測定法(R&Aテスト内規)で測り、0.035インチ(0.9ミリメートル)以下でなければならない、隣接する溝の端と端の間隔は、溝の幅の3倍以上、かつ0.075インチ(1.905ミリメートル)以上でなければならない、深さは0.020インチ(0.508ミリメートル)以下でなければならない、等が規定している。
【0007】
2010年の1月1日からは、ロフト角25度以上のアイアンゴルフクラブにおいて、縁の丸みが、フェース面に接する円の半径が0.010インチ(0.254ミリメートル)と、この円と同じ中心の円0.011インチ(0.2794ミリメートル)の中に納まるように規定が変えられる。
【特許文献1】特開2003−199851号公報
【特許文献2】特開2003−93560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この新たな規定でプロのプレイヤー、上級者等からスピン性能が落ちるのではという懸念が出ている。そこで、規定に合致した範囲で、スピン性能が落ちないアイアンゴルフクラブが求められている。スピン性能は、前述したようにスコアラインの形状に左右される。また、このスコアラインの縁部の形状もスピンをかける性能に影響する。この形状は、機械加工の方法によっても左右される。新規格においては、さらに形状の制限が加えられているので、一層その解決手段が求められる。
【0009】
本発明は、上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。本発明の目的は、前記問題を解決し、新規格に則ったスコアラインにおいても、スコアラインのエッジ部に微小な凸部を形成することでスピン量が安定しスピン性能を高めることのできる、アイアンゴルフクラブとその製造方法を提供することを目的とする。又、本発明の他の目的は、安定し確実性のある形状のスコアラインを構成できる、アイアンゴルフクラブとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明1のアイアンゴルフクラブは、
前面にトウヒール方向を長手方向とする数条の溝(10、15)が形成されたフェース(3)を有し、一側にシャフト取付部を設けたヘッド本体と、前記シャフト取付部に連結したシャフトとを備えたアイアンゴルフクラブにおいて、
前記フェース(3)のフェース面(14)及び前記溝(15)の長手方向に直交する面で切断した断面で、前記溝(15)の縁の輪郭線(19)は、前記フェース面(14)と前記溝(15)の側面に接する半径が0.010インチ(0.254ミリメートル)の第1の円(a)と、
この第1の円(a)と同じ中心の半径が0.011インチ(0.2794ミリメートル)の第2の円(b)との間に存在し、
前記溝(15)の縁の近傍には、突起した凸部(18)が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明2のアイアンゴルフクラブは、本発明1において、前記凸部(18)は、前記フェース面(14)に隣接して形成されていることを特徴とする。
本発明3のアイアンゴルフクラブは、本発明1において、前記凸部(18)は、二直線が交わってできる1以上からなる角であり、その角度Bが、90度≦B≦120度であることを特徴とする。
【0012】
本発明4のアイアンゴルフクラブの製造方法は、本発明1から3のアイアンゴルフクラブの製造方法であって、前記凸部(18)は、バイトによる形削り加工、又は回転工具(20)によるフライス加工によるみぞ削り、又は研削工具(20)による研削加工で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のアイアンゴルフクラブとその製造方法は、スコアラインエッジ部に凸部を設けて、さらにその凸部の角度を有する端部を規定の範囲内で鋭くするようにしたので、新規定においてもボールが打撃時に引っ掛りやすくなり、様々な状況のショットでも凸部が無いものに比べてスピン量が安定することでスピン効果を高めることが可能になった。又、この凸部とそれに連なる輪郭線の部位に機械的な加工を施すことにより、凸部等を確実、正確で安定した形状にすることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にもとづき、アイアン型ゴルフクラブヘッドを例にとって説明する。先ず、本実施の形態のベースになるアイアンゴルフクラブの構成は、以下のとおりである。図1から図3に示すように、ヘッド1とシャフト2によりゴルフクラブが形成される。ヘッド1は、S20Cなどの低炭素鋼、ステンレス鋼、チタン系合金などの金属材料からなり、正面には打球面たるフェース3、下部にはソール4、一側にはヒール5が設けられるとともに、このヒール5の上部にはシャフト2を連結するシャフト取付部6、上部にはトップ7、さらに他側にはトウ8がそれぞれ形成されている。さらに、ヘッド1の背面には、フェース3にほぼ対向するようにキャビティ9が形成されている。また、凹部の無いマッスルバック形状でも良い。
【0015】
フェース3には、直線状の溝であるスコアライン10が、横方向に複数形成されている。このスコアライン10の断面形状は、V形、U形または台形等である。この断面は、線型と呼ばれる金型を用いたプレス加工、切削加工等によりフェース3の表面に凹部として形成された溝である。また、ソール4には、番手表示11が形成されている。この番手表示11は、刻印を用いたプレス加工によりソール4の表面に凹部として形成されたものである。さらに、ヘッド1の背面において、トップ4及びキャビティ9には、それぞれロゴマーク12、13が形成されている。これらロゴマーク12、13も刻印を用いたプレス加工により、トップ4の背面側、及びキャビティ9内部の背面側の表面に凹部として形成されたものである。
【0016】
次に、スコアライン10の構成について詳細に説明する。図4は、フェース面14に刻設されたスコアライン10である溝15(以下、単体の溝で説明する。)を、フェース面および溝15の長手方向に直交する面で切断した溝15の部分断面図である。図4に示したものは、1つの溝15の断面であるが、他の溝15も同様である。溝15は、基本的に幅Fが0.035インチ(0.9ミリメートル)以下で、深さGは0.020インチ(0.508ミリメートル)以下で、溝の中心線を中心として対称形状に構成されている。
【0017】
溝15の側壁16は、底面17側に幅Fが狭くなる傾斜面(テーパー面)を有している。この傾斜面の角度は、図示していないが、例えば、片側面の開き角度を10度としている。フェース面14の縁部は凸部18を構成し、この溝15の側壁16は、凸部18から溝15の側壁16にかけて輪郭線19を有する曲線形状部位を構成しており、この曲線形状部位は溝15の側壁16から下部の底面17に連なっている。この底面17までの溝15の深Gさは、フェース面14から0.508ミリメートル以下となるように、寸法上の制限がなされている。
【0018】
新規定においては、前述の幅Fと深さGの規定以外に、フェース面14縁部と溝15壁の丸み、即ち、曲線形状の輪郭線19の構成も規定が設けられている。本実施の形態では、この丸みの構成において、新規定の内容を損なわずスピン効果を高める構成にしたことにある。次に、その具体的形状について説明する。
【0019】
図5は、図4のH部を拡大表示した説明図である。フェース面14縁部の形状において、第1の円aは、フェース面14に接する半径0.254ミリメートルの円弧である。この第1の円aは、形状を特定するために設定された仮想円である。第2の円bは、この第1の円aの中心と一致して設定され、半径0.2794ミリメートルの円弧である。この第2の円bも仮想円弧として表示される。このフェース面14の縁部は、次のように構成される。
【0020】
フェース面14と第2の円bと交差する点をCとする。このC点を頂点とし、C点からフェース面14に直角方向に直線を設け、第1の円aと交差する点をD点とし、直線C−Dを構成する。次に、このD点を基点に輪郭線19としての曲線形状部位が、第1の円aと第2の円bの間E内で溝15の側壁16に連なり、その延長部は溝15の底面17に達し連続した溝壁を構成する。
【0021】
曲線形状部位は、図に示すように第1の円aと第2の円bとの間Eに軌跡される。このようにフェース面14縁部は、C点を頂点としフェース面14と直線C−Dとの間に囲われた角度B=90度の凸部18を構成する。この凸部18は曲線形状部位に連なっている。このような凸部18を構成することにより、エッジ部は鋭い角部になりボールの引っ掛りがよくなり効果的なスピンを与えられることになる。
【0022】
この構成における直線C−Dのフェース面14直角方向の寸法Aは、0.028ミリメートルである。このように凸部18と輪郭線19は構成されるが、必ずしも頂点Cは第2の円bに交差する点である必要はなく、図示していないが、第1の円aと第2の円bの間E内であってもよい。又、D点も第1の円aと第2の円bの間E内にあってもよい。従って、C点又はD点がE内にあれば、寸法Aは、0.028ミリメートルよりも小さくなる。従って、寸法Aの0.028ミリメートルは直線C−Dがフェース面に90度を構成する上においては、最大値となる。
【0023】
図6は図5に準じた説明図であるが、フェース面14縁部のC点から直線部C−Dの角度を変えた例を示した図である。図6は、C点からフェース面に対し角度B=120度の直線C−Dとした場合の説明図である。この場合は、直線C−Dがフェース面14に対し傾斜した直線となり、直線C−Dの長さが長くなる。この場合のフェース面14に直角方向の寸法Aは、0.0428ミリメートルとなる。これが角度B=120度の場合の最大値となる。
【0024】
前述同様に、C点もD点もE内に設定してもよく、その場合の寸法Aは0.0428ミリメートルよりも小さくなる。図示していないが、角度B=110度の場合の寸法Aは0.0354ミリメートルである。角度Bは120度を超えると、C点の鋭さを欠いてしまうので、スピン効果は薄れる。従って、加工性を含めて考慮すると、90度から120度の範囲が好ましい。以上、スコアライン10に関わり、フェース面14縁部の形状について説明したが、次にこの形状の加工方法について説明する。
【0025】
このスコアラインの形状は小さく、寸法も小さい。本実施の形態では、この形状の製造を機械加工で施すこととした。図7は、凸部18と輪郭線19の部位をフライス加工、研削加工、或いは総形バイト等のバイト加工によるによる加工形態を示している。フライス加工の場合には、溝フライス等のフライス工具を使用した総形フライス削り、溝削り、同様に、研削加工の場合には総形形状の砥石等の研削工具を使用する。
【0026】
これらの工具20の形状は、溝15の凸部18と輪郭線19に合わせて形成されている。工具20はフライス加工であっても研削加工であっても回転工具である。溝15は、プレス加工が施されていれば、凸部18と輪郭線19の被加工部位に相当する形状の工具20で、凸部18と輪郭線19の部位を仕上げる仕上げ加工となる。プレス加工が施されていなければ、溝15の全部位の加工を工具20を用いて行う。図7は、工具20による全加工の形態を示している。
【0027】
工具20は回転しながら溝15内に位置決め制御されながら送り込まれ、長手方向に移動してスコアライン全長の加工を数条の溝15に施す。図7の場合で、溝15のうち底面17周囲の部位はプレス加工がなされていれば、工具20により凸部と輪郭線の部位のみ(二点鎖線位置まで)機械加工を施せばよい。このような加工を施すことで、凸部18と輪郭線19の部位は同時に正確な寸法に加工されることになる。
【0028】
又、工具を回転工具として説明したが、他の実施の形態としてバイトによる形削り加工であってもよい。このように凸部18と輪郭線19を重点に加工し正確な安定した形状、即ち、凸部を設け輪郭線の端部でもあるこの部位を鋭い形状にすることで、スピン効果を安定的に高めることになり、ゴルフクラブの性能を向上させることになる。
【0029】
以上、各実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されないことはいうまでもない。例えば、実施の形態の説明で凸部を単独形成にしているが、複数の凸部になる形成の構成であってもよい。又、凸部の形成は、機械加工を行うことで説明したが、精密なプレス加工を施す形成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明を適用したアイアンゴルフクラブの正面図である。
【図2】図2は、本発明を適用したアイアンゴルフクラブの背面図である。
【図3】図3は、本発明を適用したアイアンゴルフクラブの底面図である。
【図4】図4は、本発明のスコアラインの溝形状を示す部分断面図である。
【図5】図5は、図4のH部を示す拡大説明図で、角度Bが90度の場合を示す。
【図6】図6は、図4のH部を示す拡大説明図で、角度Bが120度の場合を示す。
【図7】図7は、溝の加工形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1…ヘッド
3…フェース
10…スコアライン
14…フェース面
15…溝
18…凸部
19…輪郭線
20…工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面にトウヒール方向を長手方向とする数条の溝(10、15)が形成されたフェース(3)を有し、一側にシャフト取付部を設けたヘッド本体と、前記シャフト取付部に連結したシャフトとを備えたアイアンゴルフクラブにおいて、
前記フェース(3)のフェース面(14)及び前記溝(15)の長手方向に直交する面で切断した断面で、前記溝(15)の縁の輪郭線(19)は、前記フェース面(14)と前記溝(15)の側面に接する半径が0.010インチ(0.254ミリメートル)の第1の円(a)と、
この第1の円(a)と同じ中心の半径が0.011インチ(0.2794ミリメートル)の第2の円(b)との間に存在し、
前記溝(15)の縁の近傍には、突起した凸部(18)が形成されている
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項2】
請求項1に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記凸部(18)は、前記フェース面(14)に隣接して形成されている
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項3】
請求項1に記載のアイアンゴルフクラブにおいて、
前記凸部(18)は、二直線が交わってできる1以上からなる角であり、その角度Bが、90度≦B≦120度である
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブ。
【請求項4】
請求項1ないし3から選択される1項に記載のアイアンゴルフクラブの製造方法であって、
前記凸部(18)は、バイトによる形削り加工、又は回転工具(20)によるフライス加工によるみぞ削り、又は研削工具(20)による研削加工で形成する
ことを特徴とするアイアンゴルフクラブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−131140(P2010−131140A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309137(P2008−309137)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(591002382)株式会社遠藤製作所 (19)
【Fターム(参考)】