説明

アイオノマー、およびポリアミンまたは第3級ポリアミドを含有するゴルフボール

アイオノマー、およびポリアミンまたは第3級ポリアミドを含む組成物が本明細書で提供される。ポリアミンおよび第3級ポリアミドは、500ダルトン超の分子量を有し、エステル部分または第1級アミン部分は含まない。ポリアミンは、少なくとも3つの、第3級アミンまたはヒンダード第2級アミン部分を含み、ポリアミドは、第3級アミド部分を含み、第2級または第1級アミド部分は含まない。組成物にはフィラーが含まれていてもよい。さらに、これらの組成物を含有するゴルフボールおよびフィルムなどの製品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2008年6月30日に出願した米国特許出願第12/215,674号に基づく優先権を主張するものであり、その開示の全ては本明細書中に参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、アイオノマー、およびポリアミンまたは第3級ポリアミドを含む組成物、並びにその組成物を含むゴルフボールおよびフィルムなどの製品に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明が関係する技術の現状をより完全に説明するために、本明細書にはいくつかの特許および刊行物が引用されている。これらの特許および刊行物にそれぞれ開示されている内容はすべて、参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0004】
ゴルフボールおよびゴルフボールの構成要素は多様な組成物で形成することができ、そのためゴルフボール製造業者は特定のボールの打球感と空気力学特性に変更を加えることができる。
【0005】
例えば、アイオノマーは、アルファオレフィン、特にエチレンとC3~8α,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体であって、その酸部分が少なくとも部分的に中和されたものである。米国特許第3,264,272号明細書(Rees)には、そのようなアイオノマーを酸共重合体から製造する方法が開示されている。アイオノマーのベースとなる酸共重合体の製造方法は米国特許第4,351,931号明細書に記載されている。
【0006】
アイオノマーカバーのゴルフボールは実質的に耐カット性カバーを有しているものの、そのスピン性と打球感はバラタカバーのボールと比べれば劣っている。ポリウレタンおよびポリ尿素もまたゴルフボールの有用なカバー材料と考えられている。これらの材料から製造されたゴルフボールカバーはアイオノマー樹脂から製造されたものと同等の耐久性を有しながら、よりソフトなバラタカバーのような打球感を有する。しかしながら、ポリウレタンまたはポリ尿素カバーを有するゴルフボールは、ゴルフボールカバーの復元力ないし回復力に関しては、アイオノマー樹脂のゴルフボールに十分に対抗できるものではない。この特性は、ゴルフクラブによるインパクト後のゴルフボールの初速度に部分的に関与する。ポリウレタンおよびポリ尿素カバーは、また、防湿性においてアイオノマーカバーに劣っている。
【0007】
米国特許第3,471,460号明細書には、ジアミンとの反応で中和されたエチレン酸共重合体が記載されている。米国特許第4,732,944号明細書には、少なくとも1個のR−CH2−NH2基を含有するポリアミン、好ましくはジアミンとの反応で中和され、金属カチオンを含む塩基により部分的に中和されていてもよいアイオノマーが記載されている。米国特許出願公開第2006/0014898号明細書には、「塩基性金属イオン塩」との反応で中和されたエチレン酸共重合体と、同一分子内にアミンとカルボン酸の両者を含む化合物とを含むアイオノマー組成物が記載されている。米国特許第7,160,954号明細書には、約70パーセントを超える酸基がアンモニウム塩および/またはモノアミン塩を含む中和成分との反応により中和されたアイオノマー組成物が記載されている。
【0008】
Journal of Applied Polymer Science、1991、42、621〜628には、各種アミンとの反応により中和されたアイオノマー組成物が記載されている。ヘキサメチレンテトラミン(HMT)(分子量が140Da(ダルトン)の第3級ポリアミン)との反応により中和されたアイオノマー組成物は、HMTを含有しない比較対象アイオノマーより曲げ弾性率が低いことが報告されている。
【0009】
日本特許第3540453号公報には、H2N−[CH2RCH2NHCH2CH(OH)CH2NH]n−CH2RCH2NH2(ここで、Rは2価の脂環式または芳香族炭化水素基であり、かつ1≦n≦20である)の添加により改質されたアイオノマー組成物が開示されている(ここで、Rは2価の脂環式または芳香族炭化水素基であり、1≦n≦20である)。特開1997−296082号公報には、2種以上のアミノアルキル基を有する縮合環状化合物も含む類似の組成物が開示されている。特開2005−263868号公報には、JIS K7120に規定の重量法により測定される重量変化が≧150℃から始まるジアミン化合物により改質されたアイオノマー組成物が開示されている。アミンの例として、「4および4−ジアミノ−ヘキシルメタン」が記載されているが、これは4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンであろうと考えられる。
【0010】
カバー、中間層、コアまたはセンターなどのゴルフボールを構成する層で使用される高性能材料を提供することが望まれる。特に、高反発係数(COR)、高曲げ弾性率、低透湿性および高耐久性のバランスがとれた樹脂を提供することが望まれる。組成物が射出成形、特に薄層射出成形に適した溶融特性を有していることもまた望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、ここでは、
(a)E/X/Y型エチレン酸共重合体(但し、Eはエチレンの共重合単位であり、XはC3〜C8α,βエチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位であり、Yは好ましくはビニルアセテート、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートからなる群から選択される柔軟性付与コモノマーの共重合単位であり;アルキル基は1〜8個の炭素原子を有し;エチレン酸共重合体の全重量を基準にして、Xの量はE/X/Y型共重合体の約2〜約30重量%であり、Yの量はE/X/Y型共重合体の0〜約45重量%であり;E/X/Y型酸共重合体の酸部分の少なくとも1部が中和されてアルカリ金属、アルカリ土類金属および/または遷移金属カチオンの塩を含むアイオノマーを形成している)、および
(b)500Da超の分子量を有し、エステル部分または第1級アミン部分を含有しないポリアミンまたはポリアミド(但し、ポリアミンは、少なくとも3つの、第3級アミンまたはヒンダード第2級アミン部分を含み、ポリアミドは第3級アミド部分を含み、第2級または第1級アミド部分を含まない)
を含み、
(c)フィラー
が含まれていてもよい熱可塑性組成物が提供される。
【0012】
また、この組成物から製造されるゴルフボールなどの製品が提供される。1個のゴルフボールは、コアおよびカバーを含み、コアとカバーの間に位置する少なくとも1層の中間層を含んでいてもよい(但し、コア、カバーまたは中間層(存在するなら)は上記の熱可塑性組成物を含むか、またはその熱可塑性組成物から製造されている)。
【0013】
さらに、上記熱可塑性組成物から製造されるフィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書で使用されるとき、他に特に限定がなければ、その用語に以下の定義が適用される。
【0015】
本明細書中で使用される技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野で通常の技術を有する者が通常理解している意味を有する。一致していない場合には、ここでの定義を含む本明細書が優先される。
【0016】
本明細書で使用されるとき、用語「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(include)」、「含んでいる(including)」、「含んでいる(containing)」、「〜を特徴とする」、「有する(have)」、「有している(having)」、またはこれらの全ての類似語は、非排他的な包含を含むことを意図している。例えば、要素のリストを含むプロセス、方法、製品または装置は、必ずしも示された要素にのみ限定されるものではなく、リストに明示されていない、あるいは、そのようなプロセス、方法、製品または装置が通常備える他の要素を含むことができる。
【0017】
移行句「〜から構成される(consisting of)」は、本請求項に明記されていない要素、工程または成分を全て排除し、通常含まれる不純物を除いて、列挙されていない材料は請求項に包含しない。「〜から構成される」の句が、プレアンブルの直後でなく、請求項本文の節に記載されているときは、その節の中に記載された要素のみを限定し、他の要素は請求項全体からは排除されない。
【0018】
移行句「〜から実質的に構成される(consisting essentially of」は、請求項の範囲を、明記された材料または工程と、請求項に記載された発明の基本的、かつ新規な特徴部分に実質的に影響しないものとに限定する。「基本的に〜から構成される」の請求項は、「〜から構成される」形式で記載されたクローズドクレームと、「含む」形式で記載された完全オープンクレームとの中間位置を占める。本明細書で定義されているような、添加物として適正な量で添加されている任意成分の添加物や重要でない不純物は、「〜から実質的に構成される」という用語によって組成物から排除されることはない。
【0019】
組成物、プロセス、構造、または組成物、プロセスもしくは構造の一部が、本明細書中に、「含む」のようなオープンエンドの用語を使用して記載されているとき、他に記述がなければ、その記載は、組成物、プロセス、構造、または組成物、プロセスもしくは構造の一部の要素「から実質的に構成される」または「から構成される」実施形態もまた含む。
【0020】
本明細書に記載されている組成物、プロセスまたは構造の種々の要素および成分に関連して、冠詞「a」および「an」を使用することができる。これは単に便宜上のものであり、組成物、プロセスまたは構造について一般的な意味を与えるためのものである。そのような記載は、「1つ、または少なくとも1つ」の要素または成分であることを含む。さらに、本明細書では、単数の冠詞は、複数が排除されることが特定の文脈から明らかでない限り、複数の要素または成分の記載も含む。
【0021】
用語「約」は、量、サイズ、処方、パラメータ、並びに、他の量および特性値が、正確でなく、かつ正確である必要はないが、公差、換算係数、丸め、測定誤差などや、当業者に知られている他の因子を反映して、所望される値に対し、近似、および/または、それより大もしくは小であってもよいことを意味する。一般に、量、サイズ、処方、パラメータ、または他の量もしくは特性値は、そのように明記されているか否かに拘わらず、「約」または「およそ」である。
【0022】
本明細書中で使用されるとき、用語「または」は包括的であること、すなわち、「AまたはB]という句は「A、B、またはAとBの両方」を意味する。排他的な「または」は、本明細書中では、例えば「AおよびBのいずれか」、「AおよびBの一方」などの用語を使用する。
【0023】
また、ここで記載されている範囲は、他に記載されていなければ、その両端を含む。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、1つの範囲、1つもしくはそれ以上の好ましい範囲、または好ましい上限値および下限値のリストとして与えられるとき、それは、範囲の上限値または好ましい上限値のいずれかと、範囲の下限値または好ましい下限値のいずれかの任意の組み合わせで作られる全ての範囲を具体的に開示していると、そのような組み合わせが別に記載されているか否かにかかわらず、理解されるべきである。本発明の範囲は、範囲を定義するときに挙げた特定の値に限定されるものではない。
【0024】
材料、方法または装置が、本明細書中に、「当業者に知られた」、「従来の」という用語、またはそれらと同義の語または句を付して記載されるとき、その用語は、本願の出願時点で従来型である材料、方法および装置が、その説明に包含されていることを意味する。また、現時点で従来型ではないが、類似の目的のためには適していると当該技術分野で認められていたであろう材料、方法および装置も包含される。
【0025】
他に特に記載がなければ、パーセント、部、比、および同様の量は全て、重量で定義される。
【0026】
ここでは、用語「共重合体」は、2種以上のコモノマーを共重合させることによって得られる共重合単位を含むポリマーをいう。これに関連して、ここでは共重合体は、その構成コモノマーまたは構成コモノマーの量を参照して、例えば、「エチレンと15重量%のアクリル酸を含む共重合体」、またはそれと類似した表現で記載することができる。そうした記載は、共重合単位としてのコモノマーを示していないこと、従来の共重合体の命名法、例えばInternational Union of Pure and Applied Chemistry(IUPAC)命名法を含んでいないこと、プロダクト・バイ・プロセス用語を使用していないこと、またはその他の理由で、正式でないと考えられ得る。しかしながら、ここでは、構成コモノマーまたは構成コモノマーの量を参照して記載される共重合体は、その共重合体が特定のコモノマーの共重合単位を(量が特定されているならば、その特定された量で)含有することを意味する。したがって、当然の帰結として、限定的場面においてそうであると明記されていない限り、共重合体は所与のコモノマーを所与の量で含有する反応混合物の生成物ではない。
【0027】
用語「ジポリマー」は、2種のモノマーから実質的に構成されるポリマーをいい、用語「ターポリマー」は、3種のモノマーから実質的に構成されるポリマーをいう。
【0028】
最後に、ゴルフボールなどの製品が、特定の組成物を含むか、または特定の組成物から製造される、2つ以上の層または構成要素を含むと記載されるとき、例えば、「コアまたはカバーが本明細書に記載された熱可塑性組成物を含むか、またはその熱可塑性組成物から製造される」場合、その特定の組成物は層または構成要素毎に同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
高い曲げ弾性率を有する樹脂は、比較的高濃度の酸共重合体を含有するアイオノマーを使用して以前より製造されてきた。しかしながら、このアプローチでは、曲げ弾性率は既に約90kpsiの上限値に達している。とはいえ、COR、透湿性、耐久性および成形性などの他の特性が良好であることを条件に、90kpsiを超える曲げ弾性率を有する樹脂の使用が望まれている。
【0030】
驚いたことに、アイオノマーと少なくとも3種のアミン基を含有するポリアミンとをブレンドすることにより、高反発係数(COR)、高曲げ弾性率、低透湿性および高耐久性を有する樹脂が得られることがわかった。より具体的には、これらのポリアミンは、第3級アミン、またはヒンダード第2級アミン、または第3級アミドを含むポリアミドである。
【0031】
酸共重合体
本明細書に記載する組成物の製造に使用される酸共重合体は、好ましくは「ダイレクト」酸共重合体である。「ダイレクト」共重合体は、共重合するモノマーがその骨格ないし主鎖の一部を構成する重合体である。それらは、全てのモノマーを同時に加えることによって重合することができる。これとは対照的に、グラフト共重合体では、既に存在しているポリマー鎖中の非末端繰り返し単位に別のコモノマーが、多くの場合、その後にフリーラジカル反応を行うことによって結合する。
【0032】
酸共重合体は、好ましくは、アルファオレフィン、特にエチレンと、C3〜C8のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、特にアクリルおよびメタクリル酸との共重合体である。それらは第3の柔軟性付与モノマーを含有していてもよい。「柔軟性付与」とは、その重合体の結晶性が「柔軟性付与」モノマーを含まない関連する重合体より低下し、小さい曲げ弾性率を有するようになることを意味する。適切な「柔軟性付与」コモノマーは、アルキル基が1〜8個の炭素原子を有するアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、並びにビニルアセテートから選択されるモノマーである。
【0033】
エチレン酸共重合体はE/X/Y型共重合体と記載することができる。ここで、Eはエチレンの共重合単位、Xはα,βエチレン型不飽和脂肪酸の共重合単位、Yは柔軟性付与コモノマーの共重合単位である。Xは重合体中に2〜30重量%含まれ、Yは重合体中に0〜45重量%含まれる。すなわち、E/X/Y型共重合体の全重量を基準にして、Xの量は2〜30重量%であり、Yの量は0〜45重量%である。Yが共重合体の0重量%であるE/X/Y型共重合体はE/X型ジポリマーとみなすことができる。YがE/X/Y型共重合体に含まれる場合(すなわち、E/X/Y型ターポリマー)、それは共重合体の約0.1重量%〜45重量%、好ましくは共重合体の5〜35、または5〜25重量%の量で含まれる。
【0034】
共重合体は、Yが共重合体の0%(すなわちE/X型ジポリマー)であることが好ましい。ジポリマーは、C3〜C8α,β−エチレン型不飽和脂肪酸がアクリル酸またはメタクリル酸であることが好ましい。特に好ましい酸共重合体としては、エチレン/アクリル酸ジポリマーおよびエチレン/メタクリル酸ジポリマーが挙げられる。
【0035】
本明細書に記載されるように他の成分と組み合わせるとき、実質的に、共重合エチレンコモノマーと、約10〜約24重量%の、C3〜C8の共重合α,β−エチレン型不飽和脂肪酸コモノマーとからなるエチレンジポリマーは、高反発係数(COR)、高曲げ弾性率、低透湿性、成形性および良好な耐久性のバランスがとれた組成物を調製するのに特に有用である。E/X型ジポリマーは、共重合カルボン酸を、好ましくは約14〜約22重量%、より好ましくは18〜約22重量%含有することができる。
【0036】
注目すべきは、エチレンと約15重量%のアクリル酸を含むジポリマー、エチレンと15.4重量%のアクリル酸を含むジポリマー、エチレンと約18重量%のアクリル酸を含むジポリマー、エチレンと約21重量%のアクリル酸を含むジポリマーである。エチレン/アクリル酸ジポリマーが注目されるのは、所与の重量のアクリル酸が同重量のメタクリル酸より、より多くの酸部分を生成するという理由による。
【0037】
他に注目すべきは、エチレンと約19重量%のメタクリル酸を含むジポリマーである。エチレンおよび約15重量%のメタクリル酸を含むジポリマーもまた注目される。
【0038】
より好ましくは、ジポリマーは18〜20重量%の共重合メタクリル酸、または約21重量%の共重合アクリル酸を含むことがより好ましい。
【0039】
酸を高い割合で含むエチレン酸共重合体は、米国特許第5,028,674号明細書に記載されている「共溶剤技術」を使用するか、あるいは酸を低い割合で含む共重合体を調製する場合より幾分高い圧力を用いることにより製造することができる。
【0040】
E/X/Y型共重合体は、190℃、荷重2160gで測定されるメルトインデックスフローが、約10g/10分〜約400g/10分以上の範囲であってよい。共重合体は、好ましくは、約50g/10分〜約300g/10分のメルトインデックスフローを有する。注目すべきは、エチレンと19重量%のメタクリル酸を含み、250g/10分のメルトインデックスを有するジポリマーである。
【0041】
メルトインデックスなどの特性が上記の範囲に入るならば、酸共重合体の混合物は適している。例えば、Xの量および/またはメルトインデックスが異なる2種以上のE/X型ジポリマーを使用することができる。また、E/X型ジポリマーとE/X/Y型ターポリマー(Yが共重合体中に0.1〜45重量%、好ましくは0.1〜35重量%の量で含まれる)を混合することもできる。
【0042】
アイオノマー
溶融加工が可能な非改質アイオノマーは、アイオノマー製造技術分野で知られる方法により、上記酸共重合体から製造することができる。「非改質の」とは、アイオノマーに、その特性を変える目的で添加される材料が全くブレンドされていないことを意味する。例えば、本明細書に記載されているポリアミンおよびポリアミドは改質剤と考えられる。非改質アイオノマーには、部分的に中和された酸共重合体、特にエチレンとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合により製造された共重合体が含まれる。非改質アイオノマーは、加工が困難な(すなわち、溶融加工ができない)重合体、または有用な物理特性を喪失した重合体とならない範囲であれば、任意のレベルで中和されていてもよい。好ましくは、酸共重合体の酸部分の約15〜約90%、より好ましくは約30〜約75%が中和されてカルボキシレート基を生成する。アイオノマーは、さらに対イオンとして、1種以上のカチオンを含む。正に帯電した任意の部分が適しているが、ここで使用されるアイオノマーは、1種以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属、および/または遷移金属のカチオンを含んでいることが好ましい。
【0043】
非改質アイオノマーに使用される好ましいカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉛、錫、亜鉛、もしくはアルミニウムのカチオン、またはこれらのカチオンの2種以上の組み合わせが挙げられる。注目すべきは、ナトリウム、カルシウム、カリウムおよびリチウムのカチオンである。マグネシウムおよび亜鉛が好ましく、亜鉛がより好ましい。
【0044】
組成物中のカチオンの少なくとも20当量%、少なくとも35当量%、少なくとも50当量%、または少なくとも75当量%が、マグネシウムカチオンであることが好ましい。より好ましくは、組成物中のカチオンの少なくとも20当量%、少なくとも35当量%、少なくとも50当量%、または少なくとも75当量%が、亜鉛カチオンであることがより好ましい。
【0045】
注目すべきは、エチレンと19重量%のメタクリル酸を含むジポリマーから製造され、4.0のMIを有するアイオノマーを製造するのに十分な量のZnOで中和されたアイオノマーである。注目すべきは、また、エチレンと15重量%のメタクリル酸とを含むジポリマーから製造され、ZnOで中和されたアイオノマーである。
【0046】
ポリアミンまたはポリアミド
熱可塑性組成物には、また、500Da超の分子量を有し、エステル部分も第1級アミン部分も含有しないポリアミン化合物またはポリアミド化合物が含まれる。ポリアミンは、第3級アミンまたはヒンダード第2級アミンの少なくとも3つの部分を含み、ポリアミドは、第3級アミド部分を含み、第2級も第1級アミド部分も含まない)。
【0047】
「ヒンダード」は、第3級または第4級炭素原子などの立体的に嵩高い基が第2級アミンに隣接して存在することを意味する。ポリアミンは、モノマー、オリゴマーまたはポリマーであってもよい。好ましいポリアミンは、1000Da超、または1500Da超の分子量を有する。
【0048】
ヒンダード第2級アミン部分の例としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、および4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの関連物が挙げられる。これらの500Da超の分子量を有するモノアミンのポリアミン誘導体は、これらの第2級アミン部分の少なくとも3つを共有結合により結合させることによって製造することができる。
【0049】
Austria、ViennaのCiba(CIBA)Specialty ChemicalsからCHIMASSORBという商品名で市販されている数種のヒンダードアミン光安定剤(HALS)は、適切なポリアミンの例である。
【0050】
使用できる1つのHALSは、CHIMASSORB 119であり、R−NH−(CH23−NR−(CH22−NR−(CH23−NH−Rの化学構造を有する。式中、Rは
【化1】

である。
【0051】
さらに、CHIMASSORB 944またはCHIMASSORB 2020などの他の高分子量モノマー性HALSも使用することができる。CHIMASSORB 944、すなわちポリ[[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−s−トリアジン−2,4−ジイル]−[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]−ヘキサメチレン−[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]は次の化学構造を有する。
【化2】

【0052】
CHIMASSORB 2020は次の化学構造を有する。
【化3】

【0053】
第3級アミドを含むポリアミドとしては、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリ(2−エチルオキサゾリン)が挙げられる。第3級アミド部分は、N−H結合を含まない部分である。第2級アミドは1個のN−H結合を有し、第1級アミドはNH2部分を有する。特に、これらのポリアミドはルイス塩基として作用することができる。
【0054】
ポリビニルピロリドン、もしくはポビドン、CA番号[9003−39−8]、Merck Index、13,7783は、平均分子量が約10,000〜約1,300,000Da以上(例えば、約10,000Da、約29,000Da、約55,000Da、約700,000Da、または約1,300,000Da)の製品シリーズとして、NJ、WayneのInternational Specialty Productsから商業的に入手可能である。ポリ(1−ビニルピロリドン−コ−スチレン)、CA番号[25086−29−7]などのビニルピロリドンの共重合体もまた使用することができる。
【0055】
ポリ(2−エチルオキサゾリン)もしくはN−プロピオニル置換直鎖状ポリエチレンイミン、CA番号[25805−17−8]は、平均分子量が約50,000〜約500,00Da以上(例えば、約50,000Da、約200,000Da、約500,00Daなど)の製品シリーズとして、International Specialty Productsから商業的に入手可能である。注目すべきは、商品名AQUAZOL 50として商業的に入手可能な、約50,000Daの平均分子量を有する材料である。
【0056】
この記載には、多くの条件が付けられる。例えば、ナイロンのような第2級アミド部分を含有するポリアミドは、本明細書に記載する熱可塑性組成物に使用することを意図していない。また、エステル部分および第1級アミン部分がポリアミンまたはポリアミド中に含まれるのは望ましくない。理論に縛られずに言うならば、ポリアミンまたはポリアミド中のエステルまたは第1級アミンは、アイオノマーにマイナスに作用し、メルトフローを低下させる。
【0057】
しかしながら、適切なポリアミンまたはポリアミド添加物の2種以上の組み合わせは、熱可塑性組成物に使用することができる。本明細書に記載する熱可塑性組成物のいくつかでは、ポリアミドが好ましく使用される。
【0058】
ポリアミンまたはポリアミドの量は、熱可塑性組成物の全重量を基準にして、約1〜約40重量%、好ましくは約3〜約40重量%、約5〜約35重量%、約10〜約30重量%、または約15〜約25重量%とすることができる。
【0059】
要するに、いくつかの好ましい熱可塑性組成物は、中和されて亜鉛のカチオンを含むアイオノマーを生成する14〜20重量%の(メタ)アクリル酸を含む、E/X型ジポリマーを含む。好ましい熱可塑性組成物は、さらに、熱可塑性組成物の全重量を基準にして、15〜25重量%の適切なポリアミンまたはポリアミドを含み、より好ましくはポリアミン改質剤を含む。
【0060】
他の成分
熱可塑性組成物には、通常使用され、かつポリマー分野でよく知られる材料が少量含まれていてもよい。そのような材料としては、可塑剤;粘度安定剤および加水分解安定剤などの安定剤;例えばIRGANOX 1010(CIBAより商業的に入手可能)などの一次および二次酸化防止剤;紫外線吸収剤および紫外線安定剤;帯電防止剤;染料;顔料または他の着色剤;難燃剤;潤滑剤;加工助剤;滑剤;シリカまたはタルクなどのブロッキング防止剤;離型剤;後述するような無機フィラー、例えばHoneywell wax AC540などの酸共重合体ワックス、白色剤として使用されるTiO2、光学的光沢剤、および界面活性剤などの、ゴルフボール製造技術分野において、有用ではあるが、ゴルフボールの性能および/または合否には重大な影響を与えないことが知られている他の成分といった、従来からポリマー材料に使用されている添加剤、並びにそれらの2種以上の混合物または組み合わせが挙げられる。これらの添加剤は、例えば、Kirk Othmer Emcyclopedia of Chemical Technology、第5版、John Wiley & Sons(New Jersey、2004)に記載されている。
【0061】
これらの従来成分は、組成物の基本的かつ新規な特性を損なわず、かつ組成物の性能、またはその組成物から製造されるゴルフボールの性能に大きな悪影響を及ぼさない限り、一般に0.01〜15重量%、好ましくは0.01〜10重量%の量を、組成物に含有させることができる。これに関し、そのような添加剤の重量パーセントは、本明細書で定義する熱可塑性組成物の全重量パーセントには含まれない。通常、そのような添加剤の多くは、熱可塑性組成物の全重量を基準にして0.01〜5重量%含有させることができる。
【0062】
そのような従来成分の組成物への任意の添加は、知られた方法であればいかなる方法で行われてもよい。この添加は、例えば、ドライブレンド、各種成分の混合物の押出し、従来から知られるマスターバッチ技術などにより行うことができる。これについてもKirk−Othmer Encyclopediaを参照されたい。
【0063】
フィラー
コストを削減するため、密度、曲げ弾性率、離型性および/またはメルトフローインデックスなどのレオロジーおよび混合特性を変化させるため、弾性率、引裂強さなどの物理特性を調節するため、重量を増加または減少させるため、かつ/あるいは材料を補強するために、組成物に各種フィラーを添加することができる。使用するフィラーの量は、一次的には、ゴルフボールに要求される重量およびその分布との関数である。フィラーは、ゴルフボールの層の特性の調節、層の補強、または他の任意の目的のために使用することができる。
【0064】
例えば、本発明の組成物は、幅広い範囲の密度調節フィラー、例えば、当業者に知られているような、セラミック、ガラス球(充実または中空、および充填または非充填)、ガラス繊維、無機粒子、並びに、メタルフレーク、金属粉、酸化物およびその誘導体などの金属粒子をブレンドすることによって補強することができる。
【0065】
フィラーは前述した成分からなる組成物の密度を高める目的で選択することができ、その選択は、後で詳述するように、目的とするゴルフボールのタイプ(すなわち、ワンピース、ツーピース、糸巻きまたはマルチレイヤー)による。フィラーはゴルフボールの1つもしくはそれ以上の層に含有させることができる。一般に、フィラーは、無機物で、約4グラム/立法センチメートル(g/cc)または約5g/ccから約10g/cc以上の密度を有し、熱可塑性組成物の全重量を基準にして0〜約60重量%の量が含まれる。有用なフィラーの例としては、チタン、タングステン、アルミニウム、ビスマス、ニッケル、モリブデン、鉄、鋼、鉛、銅、黄銅、ホウ素、炭化ホウ素ウィスカー、青銅、コバルト、ベリリウム、亜鉛、錫などの金属;酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、および酸化ジルコニウムなどの金属酸化物;並びに他のよく知られた対応する塩、およびそれらの酸化物が挙げられる。他の好ましいフィラーとしては、硫酸バリウム、ケイ酸鉛、炭化タングステン、石灰石(粉砕した炭酸カルシウム/マグネシウム)、硫酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、クレー、タングステン、炭化タングステン、配列したシリカ、リグラインド(約30メッシュ粒子にまで粉砕された再生コア材料)、高ムーニー粘度ゴムのリグラインド、粉砕フラッシュフィラー、および2種以上の任意の適切なフィラーの混合物が挙げられる。フィラー材料は反応しないか、またはほとんど反応しないものが好ましい。
【0066】
フィラーは、一般に細長い繊維やフロックは除いて、細かく粉砕した形態で、例えば、米国標準サイズで一般に約20メッシュ未満、好ましくは約100〜約1000メッシュのサイズで使用することができる。フロックおよび繊維のサイズは、加工を容易にすることができるような細かさであることが望ましい。フィラーの粒子サイズは、目的とする効果、コスト、添加の容易さ、およびダストの発生により決められるであろう。
【0067】
フィラーはまた、特殊なボールのコアまたは少なくとも1つの追加層の重量を調節するために使用される(例えば、スイングスピードの遅いプレーヤーには、比較的軽量のボールが好ましい)。
【0068】
発泡剤
組成物は少なくとも1種の物理的または化学的発泡剤の添加により発泡させることができる。発泡させたポリマーを使用することにより、ゴルフボールの設計者らは、ボールの密度または質量の分布を調節して、慣性角モーメントを、したがってボールのスピン速度および性能を調節することができる。また、発泡性材料を使用すれば、ポリマー材料の使用量が減少するため、コスト削減の可能性もでてくる。適切な発泡剤、およびそれらの使用方法は、本出願が優先権を主張する、2008年6月30日出願の米国特許出願第12/215,674号明細書に記載されている。
【0069】
他のアイオノマー組成物
本明細書に記載するゴルフボールまたはゴルフボールの構成要素はいずれも、アイオノマー組成物を含むか、またはアイオノマー組成物から製造することができる。本明細書で使用されるとき、用語「アイオノマー組成物」は、アイオノマーを含み、かつ本明細書に記載する熱可塑性組成物とは異なる組成物をいう。例えば、アイオノマー組成物は、改質されていても、改質されていなくてもよいが、ポリアミンまたはポリアミドで改質する場合、ポリアミンまたはポリアミドは、500Da未満の分子量を有するか、エステル部分または第1級アミン部分を有するか、第3級アミンまたはヒンダード第2級アミンの少なくとも3つの部分を含まないか、あるいは第2級または第1級アミド部分を含むが、第3級アミド部分は含まないものである。さらに、本明細書に記載するゴルフボールまたはゴルフボールの構成要素は、本明細書に記載する熱可塑性組成物と1種以上のアイオノマー組成物とのブレンド物を含むか、またはそのブレンド物から製造される。
【0070】
アイオノマー組成物での使用に適したE/X/Y型共重合体は、熱可塑性組成物に関する上の記載の通りである。中和の適切なレベルは、0〜100%、好ましくは50%〜100%、50%〜100%、60%〜100%、70%〜100%、80%〜100%、90%〜100%、95%〜100%、または約100%である。要するに、非改質アイオノマーは、加工が困難な(溶融加工できない)重合体、または有用な物理特性を持たない材料とならないレベルにまで中和することができる。アイオノマーの適切な対イオンは、本明細書に記載する熱可塑性組成物に関する上の記載の通りである。
【0071】
いくつかの好ましいアイオノマー組成物は、1種以上の有機酸、または1種以上の有機酸塩により改質される。適切な有機酸としては、36個未満の炭素原子を有し、C1〜C8アルキル基から独立して選択される1〜3個の置換基で置換されていてもよい、1官能価の有機酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。有機酸は飽和していても飽和していなくてもよく、飽和していない場合、2つ以上の炭素−炭素2重結合を含んでいてもよい。用語「1官能価の」とは、1個のカルボン酸部分を有する酸を意味する。適切な有機酸としては、C4〜C36(例えばC18)の、より特にはC6〜C26の、より一層特にはC6、C12またはC18〜C22の酸が挙げられる。C19〜C36の酸が好ましい場合もある。
【0072】
適切な有機酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、イソオレイン酸およびリノール酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。天然由来のパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、ベヘン酸、およびこれらの混合物などの有機脂肪酸もまた使用可能である。
【0073】
当該技術分野でよく知られているように、商用グレードの有機酸には、少量ながら様々な量で、構造が異なる多くの有機酸が含まれる場合がある。本明細書では、限られた状況下で他に記載がなければ、指定の酸を含む組成物は、商用グレードのその指定の酸に含まれる他の酸も、商用グレードの酸中のそれらの濃度に比例した濃度で含んでいてもよい。さらに、移行句「実質的に〜からなる」が指定の酸を含む組成物に使用されたときは、商用グレードのその指定の酸に、その商用グレードの酸中のそれらの濃度に比例した濃度で含まれる他の酸は組成物から排除されない。
【0074】
有機酸改質アイオノマー組成物での使用に適したE/X/Y型共重合体は、この直ぐ上に記載した通りである。これらの改質アイオノマー組成物の適切な中和レベルは、0〜100%、好ましくは50%〜100%、50%〜100%、60%〜100%、70%〜100%、80%〜100%、90%〜100%、95%〜100%、または約100%である。要するに、改質アイオノマーは、加工が困難な(溶融加工できない)重合体、または有用な物理特性をもたない材料とならないレベルにまで中和することができる。これらの改質アイオノマーの適切な対イオンは、本明細書に記載する熱可塑性組成物に関する上の記載の通りである。
【0075】
好ましい改質アイオノマー組成物としては、2007年4月25日出願の米国特許出願第11/789,831号明細書、2005年8月11日出願の同11/201,893号明細書、1999年10月21日出願の同09/422,142号明細書、米国特許第6,953,820号明細書、同6,653,382号明細書、および同6,777,472号明細書に記載されているアイオノマー組成物が挙げられる。他の好ましい改質アイオノマー組成物は、2007年11月1日出願の米国仮特許出願第61/001,454号明細書、米国特許第6,100,321号明細書、同6,815,480号明細書、同7,375,151号明細書、米国特許公開第2003/0050373号明細書および同2003/0114565号明細書に記載されている。
【0076】
最後に、アイオノマー組成物は、1種以上のフィラー、発泡剤、または上で熱可塑性組成物に関して記載したような他の添加剤をさらに含むことができる。
【0077】
ゴルフボールの構成
本明細書に記載する熱可塑性組成物は、いかなる構成のゴルフボールにも使用することができる。ゴルフボール、ゴルフボールの構造、ゴルフボールの構成要素、ゴルフボールの望ましい物理特性、性能基準に向けた材料の選択、およびゴルフボールが通常設計されるときの原則に関する全般的な記載が、米国特許出願第12/215,674号明細書にある。
【0078】
ゴルフボールに関し、本明細書で使用されるとき、用語「層」には、ゴルフボールの実質的に球形であるか、もしくは球対称である部分、すなわち、ゴルフボールのコアもしくはセンター、中間層、および/またはゴルフボールカバーが含まれる。本明細書で使用されるとき、用語「内層」は、ゴルフボールの最外構造層の下にある任意のゴルフボール層をいう。本明細書で使用されるとき、用語「層」および「構造層」には、カバーは含まれるが、コーティング層、トップコート、ペイント層などは含まれない。本明細書で使用されるとき、用語「マルチレイヤー」は、層の数を指定しない場合は、カバー、中間層およびコアを含む少なくとも3つの構造層を有するゴルフボールをいう。用語「構成要素」はゴルフボールのあらゆる構成部分をいう。構成要素は任意の形状を有することができる。
【0079】
好ましいワンピースゴルフボール
好ましいワンピースゴルフボールは、上記熱可塑性組成物、またはそれと他のアイオノマー組成物もしくは非アイオノマー熱可塑性樹脂とのブレンド物から、所望のサイズの球を射出または圧縮成形することにより製造される。アイオノマー組成物および他の樹脂は改質されていても改質されていなくてもよく、また熱可塑性組成物に関して上で記載したような従来の添加剤を含んでいてもよい。ワンピースボールは、所望の重量または密度を有するゴルフボールを提供するため、十分な量のフィラーを含むことができる。ボールが1.14g/ccの密度、または45グラムの重量を有することができるような量のフィラーを使用することが好ましい。ワンピースゴルフボールには、コーティング、ラッカーの塗布、あるいはカバーに関して下に記載するような表面仕上げを施すことができる。
【0080】
好ましいツーピースボール
ツーピースボールは、コアまたはセンターと、カバーとを含む。それらは、コアの上にカバーを射出または圧縮成形するという、よく知られた方法により製造することができる。ツーピースボールのコアは、所望のサイズおよび形状を有する充実体を射出または圧縮成形することによって製造することができる。好ましいコアの形状は、実質的に球形か、または球対称形である。
【0081】
コアおよびカバーは、熱可塑性組成物、例えば本明細書に記載する熱可塑性組成物、または熱硬化性組成物から製造される。コアおよびカバーの組成物は同じであっても異なっていてもよい。コアおよびカバーの組成物には、所望の密度となるような量のフィラーが充填されていてもよい。適切なコアの密度は、コアの直径と、カバーの厚さおよび組成に依存するが、例えば、約1.14g/cc〜約1.2g/ccとすることができる。例えば、USGAにより定められた重量制限(45グラム以下)およびサイズ制限に適合するゴルフボールを製造することが望ましい。カバー中のフィラーの量は、コア中のフィラーの量と同じであっても異なっていてもよい。同様に、カバーの密度は、コアの密度と同じであっても異なっていてもよい。
【0082】
特に、ゴルフボールの最内層はセンターもしくはコアとして知られている。充実コアは、通常、組成物を射出成形または圧縮成形することにより実質的に球形または球対称形の充実体を形成して製造される。当業者に知られているコア材料であればいかなるものも、本明細書に記載するゴルフボールに使用するのに適している。適切なコア材料としては、ゴム、スチレンブタジエン、ポリブタジエン、イソプレン、ポリイソプレン、トランス−イソプレンなどの熱硬化性材料、アイオノマー樹脂、アイオノマー組成物、ポリアミドまたはポリエステルなどの熱可塑性材料、並びに熱可塑性および熱硬化性のポリウレタンまたはポリ尿素エラストマーが挙げられる。あるいは、コアは本明細書に記載する熱可塑性組成物から製造することができる。
【0083】
好ましい熱可塑性コアは1種以上のアイオノマー組成物を含むか、またはそのアイオノマー組成物から製造される。これらのアイオノマーコア組成物は、Xの量が2〜25重量%、好ましくは5〜15重量%、Yの量が2〜50重量%、好ましくは5〜40重量%である改質E/X/Y型共重合体であることが好ましい。柔軟性付与モノマーYは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルであることが好ましく、アクリル酸のアルキルエステルであることがより好ましい。親酸共重合体のメルトインデックスは、190℃、荷重2160gの測定で、20〜500g/10分であることが好ましい。親酸共重合体中のカルボン酸部分の約50〜100%が中和される。好ましい対イオンとしては、ナトリウム、亜鉛、マグネシウムおよびカルシウムが挙げられる。アイオノマーのメルトインデックスは、190℃、荷重2160gの測定で、約0.1〜5g/10分であることが好ましい。
【0084】
アイオノマーコア組成物を生成するために、これらのアイオノマーは1種以上の有機酸または1種類以上の有機酸塩により改質される。好ましい有機酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、イソオレイン酸が挙げられる。改質剤は、アイオノマーコア組成物の全量を基準にして、約5〜50重量%、または約10〜50重量%の量で含まれる。好ましい対イオン、および好ましい中和レベルは、アイオノマー組成物に関して上で記載した通りである。しかしながら、マグネシウムがより好ましく、E/X/Y型共重合体の酸部分および有機酸の少なくとも約80%〜100%が中和されることがより好ましい。
【0085】
コアは、カバーと全ての追加層の厚さをコアの直径に加えて、所望のサイズ、例えば、直径が少なくとも約1.68インチのゴルフボールとなるような平均直径を有する。
【0086】
ゴルフボールの最外構造層はカバーとして知られている。カバーはボールとクラブとの間のインターフェースを提供する。カバーに望まれる特性は、特に、良好な成形性、高い耐磨耗性、大きい引裂強さ、高い復元力、および良好な離型性である。
【0087】
カバーは、カバー組成物の注入成形、射出成形、反応射出成形、または圧縮成形などの適切な任意の方法で製造することができるが、これらに限定されるものではない。カバーは、アイオノマー樹脂、アイオノマー組成物、バラタゴム、熱硬化性/熱可塑性ポリウレタンなどの従来の任意のゴルフボールカバー材料から製造することができる。カバーはまた、本明細書に記載する熱可塑性組成物からも、または2種以上の適切な材料のブレンド物からも製造することができる。
【0088】
通常、カバーは、十分な強度、良好な性能特性、および耐久性を与えられるような厚さを有する。例えば、カバー層は、約0.005インチ〜約0.35インチの厚さを有する。あるゴルフボールでは、カバーの厚さは約0.02インチ〜約0.35インチである。カバーの厚さは、好ましくは約0.02インチ〜約0.12インチ、好ましくは約0.1インチ以下である。ゴルフボールの外カバーの形成に本発明の組成物が使用される場合、カバーの厚さは、約0.1インチ以下、好ましくは約0.07インチ以下にすることができる。
【0089】
ゴルフボールのカバー、またはワンピースボールの表面には、さらなる便益のために塗装、コーティング、または表面処理を施すことができる。例えば、ゴルフボールには、外観を良くするために、ウレタンラッカーによるコーティング、あるいは他の表面処理を施すことができる。しかし、一般にそのようなコーティング、塗装、および/または表面処理は、ボールの性能特性に大きく影響することはない。
【0090】
注目すべきは、本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造されるカバーと、熱硬化性ゴムのコアとを含むツーピースゴルフボールである。注目すべきは、また、本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造されるカバーと、熱可塑性コアとを含むツーピースゴルフボールである。注目すべきは、さらに、コアが本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造されるツーピースボールである。
【0091】
好ましい糸巻きゴルフボール
注目すべきは、本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造されるカバーと、熱硬化性ゴムのコアとを含む糸巻きゴルフボールである。
【0092】
好ましいマルチレイヤーゴルフボール
マルチレイヤーゴルフボールは、カバーとコアもしくはセンターとの間に、1層以上の追加の層を含む。これらの追加層は、またマントルまたは中間層としても知られる。マルチレイヤーボールに適するカバーおよびセンターは、ツーピースボールに関する上の記載の通りである。
【0093】
マルチレイヤーボールは、射出または圧縮成形したコアに1層以上の中間層またはマントルとカバーで覆うという、よく知られた方法で製造することができる。ゴルフボールの各種の層は、射出または圧縮成形により所望のサイズまたは厚さの球または層を成形することにより製造される。カバー、コア、または中間層のいずれも、熱可塑性組成物、例えば、本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造することができる。あるいは、構造層はいずれも熱硬化性組成物を含むか、またはそれから製造することができる。
【0094】
さらに、ゴルフボールの構成要素には、ゴルフボールが所望の密度、例えば、USGAが規定するサイズおよび重量制限に適合する密度を有することができるような量のフィラーが含まれていてもよい。したがって、コアおよび/またはマントルに使用されるフィラーの量は、構成要素のサイズ(厚さ)とボールの所望の重量分布に応じて、0〜約60重量%の範囲で変化させることができる。好ましくは、ボールの全体の密度が約1.14g/ccとなるような量のフィラーが使用される。フィラーは、コアに使用してマントルには使用しないか、マントルに使用してコアには使用しないか、またはその両方に使用することができる。
【0095】
中間層は、アイオノマー樹脂、アイオノマー組成物、本明細書に記載する熱可塑性組成物、あるいは、これらに限定はされないが、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルとビニルアセテート、アクリル酸エステルまたは塩化ビニリデンとの共重合体、シングルサイト触媒またはメタロセン触媒を使用して製造されたポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンの共重合体またはホモポリマーなどのポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル、エチレンメチルアクリレート、エチレンエチルアクリレート、エチレンビニルアセテート、エチレンメタクリル酸、エチレンアクリル酸、プロピレンアクリル酸などの共重合体、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)などのポリアミド、およびジアミンと2塩基酸から調製される他のポリアミド、並びにポリ(カプロラクタム)などのアミノ酸からのポリアミドなどの非アイオノマー組成物を含むか、またはそれらから形成される。
【0096】
他の適切な材料としては、これらに限定はされないが、熱可塑性もしくは熱硬化性ポリウレタン、熱可塑性ブロックポリエステル、例えば、HYTREL(登録商標)の商標でDuPontから市販されているポリエステルエラストマーなど、または熱可塑性ブロックポリアミド、例えば、PEBAXの商品名でElf Atochem S.A.から市販されているポリエーテルアミドなど、2種以上の非アイオノマー熱可塑性エラストマーのブレンド物、または1種以上のアイオノマーと1種以上の非アイオノマー熱可塑性エラストマーとのブレンド物などが挙げられる。さらに、ポリアミド/アイオノマーブレンド物、ポリフェニレンエーテル/アイオノマーブレンド物などの、上述した適切な材料のなかの任意の2種以上を混合したものもまた、中間層に使用することができる。
【0097】
少なくとも1つの中間層を、米国特許第5,820,488号明細書に記載されているような防湿バリヤー層とすることもできる。防湿バリヤー層に使用できる他の適切な材料としては、2007年4月25日出願の米国特許出願第11/789,831号明細書、2005年8月11日出願の同11/201,893号明細書、および1999年10月21日出願の同09/422,142号明細書、並びに米国特許第6,953,820号明細書、同6,653,382号明細書、および同6,777,472号明細書に記載されているアイオノマー組成物が挙げられる。
【0098】
中間層がアイオノマー組成物を含むか、またはそれから形成される場合、アイオノマーは、いわゆる「低酸度」または「高酸度」のアイオノマーや、低酸度および高酸度のアイオノマーのブレンド物を含むことができる。一般に、約15パーセント以下の酸を含む酸共重合体を中和して調製したアイオノマーは、低酸度アイオノマーとみなされ、約15パーセントを超える酸を含むものは、高酸度アイオノマーとみなされる。
【0099】
低酸度アイオノマーは高速スピンを与えると考えられている。したがって、あるゴルフボールでは、中間層に約10〜15重量パーセントの酸が含まれる低酸度アイオノマーが含まれる。このアイオノマーには、より柔軟なターポリマーを製造する柔軟性付与コモノマー、例えば、イソ−またはn−ブチルアクリレートなどが含まれていてもよい。柔軟性付与コモノマーは、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸のビニルエステル、アルキル基が1〜10個の炭素原子を有するビニルエーテル、およびアルキル基が1〜10個の炭素原子を有するアルキルアクリレートまたはメタクリレートからなる群から選択することができる。適切な柔軟性付与コモノマーとしては、ビニルアセテート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0100】
別のゴルフボールでは、スピン速度を抑え飛距離を伸ばすため、中間層に少なくとも1種の高酸度アイオノマーが含まれる。このアイオノマーには、アクリルまたはメタクリル酸が約15〜約35重量パーセント含まれ、アイオノマーは高弾性率を有する。あるゴルフボールでは、高弾性率アイオノマーに、約16パーセントのカルボン酸、好ましくは約17パーセント〜約25重量パーセントのカルボン酸、より好ましくは約18.5パーセント〜約21.5重量パーセントのカルボン酸が含まれる。場合によっては、より柔軟なターポリマーとするために、アクリルエステル(すなわち、イソ−またはn−ブチルアクリレートなど)などの追加のコモノマーを含有させることもできる。追加のコモノマーは、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸のビニルエステル、アルキル基が1〜10個の炭素原子を含むビニルアルキルエーテル、およびアルキル基が1〜10個の炭素原子を含むアルキルアクリレートまたはメタクリレートからなる群から選択することができる。適切な柔軟性付与コモノマーとしては、ビニルアセテート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0101】
したがって、高弾性率アイオノマーの製造に適した多くの共重合体の例としては、これらに限定はされないが、高酸度エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、エチレン/イタコン酸共重合体、エチレン/マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸/ビニルアセテート共重合体、エチレン/アクリル酸/ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。
【0102】
中間層での使用に好ましいのは、アイオノマー組成物と、中間層での使用に適した他の材料とそれとのブレンド物である。中間層での使用に特に好ましいのは、本明細書に記載する熱可塑性組成物と、中間層での使用に適した他の材料とそれとのブレンド物である。
【0103】
次にマルチレイヤーゴルフボールの構造を見てみると、外側コア層、内側コア層、糸巻き層、湿気/蒸気バリヤー層など、様々に異なる構成が可能であるため、中間層の厚さの範囲は大きい。しかしながら、一般には、適切な中間層または内側カバー層の厚さは約0.3インチ以下とすることができる。本明細書に記載する他のゴルフボールと組み合わせて、中間層および外側カバー層の厚さの範囲を様々に組み合わせて使用することができる。
【0104】
外側カバー層に対する中間層の厚さの比は、好ましくは約10以下、好ましくは約3以下である。別のボルフボールでは、外側カバー層の厚さに対する中間層の厚さの比は、約1以下である。コアと中間層は一緒に「内部ボール」を形成するとみなされ、直径1.68インチのゴルフボールでは、好ましくは、約1.48インチの直径を有する。
【0105】
最後に、マルチレイヤーボールでは、コア自身1つ以上の層を有することができる。コアが内側コア層および外側コア層を有する場合、内側コア層は約0.9インチ以上の厚さを有することが好ましく、外側コア層は約0.1インチ以上の厚さを有することが好ましい。
【0106】
好ましいマルチレイヤーゴルフボール、および注目すべきゴルフボールとしては、限定はされないが、以下の表に示すものが挙げられる。
【0107】
【表1】

【0108】
性能基準のための材料の選択
ゴルフボールの硬さ、弾性率、コンプレッション、復元力、コア直径、中間層厚さ、カバー層厚さなどの特性は、現在のゴルフボールのスピン、初速度および打球感などのプレー特性に影響を与えることがわかっている。例えば、中間層の曲げおよび/または引張弾性率は、ゴルフボールの「打球感」に影響を与えると考えられている。さらに、性能基準のための材料の選択の原則は、また米国特許出願第12/215,674号明細書に詳細に記載されている。
【0109】
初速度およびCOR
しかしながら、注目すべきことに、本明細書に記載する熱可塑性組成物では、要求に応じた復元力を与えることができる。それは反発係数(COR)で示される。反発係数は直径が1.50〜1.68インチの球を、初速度125フィート/秒で、初速度測定位置から3フィート離れた鋼製プレートに向けて発射し、プレートからの跳ね返り速度を初速度で除すことによって測定される。CORは単一の組成物から製造された球、または2つ以上の層を有する球、例えば、完成品のゴルフボールなどについて測定することができる。
【0110】
注目すべきは、直径1.50〜1.68インチの球に成形し、その球を初速度125フィート/秒で、初速度測定位置から3フィート離れた鋼プレートに向けて発射したとき、94フィート/秒超、または99フィート/秒超の跳ね返り速度を示す熱可塑性組成物である。
【0111】
例としては、コアと、アイオノマー組成物またはポリウレタンから形成されたカバーと、本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから形成された中間層とを含むゴルフボールであって、中間層の組成物が、直径1.50〜1.68インチの球に成形し、その球を初速度125フィート/秒で、初速度測定位置から3フィート離れた鋼プレートに向けて発射したとき、94フィート/秒超、または99フィート/秒超の跳ね返り速度を示すものが挙げられる。
【0112】
本明細書に記載する熱可塑性組成物は、そのような球に成形されたとき、約0.6超、好ましくは約0.5超、より好ましくは約0.68超、特に好ましくは約0.7超の反発係数を有することができる。
【0113】
これらの跳ね返り速度およびCOR値は、フィラーを含まない熱可塑性組成物から製造された球に対するものである。フィラーを含む組成物は、フィラーを含まない組成物より跳ね返り速度またはCORが小さく、その程度は組成物中のフィラーの体積%におおよそ比例する。
【0114】
曲げ弾性率
また、注目すべきことに、ゴルフボールは、約500psi〜約500,000psiの曲げ弾性率の中間層を有することが好ましい。中間層の曲げ弾性率は、約1,000psi〜約250,000psiであることがより好ましい。中間層の曲げ弾性率は、約2,000psi〜約200,000psiであることが特に好ましい。本明細書に記載する熱可塑性組成物は、60、80、90、100、110、または120kpsi超の曲げ弾性率を有することができる。注目すべきは、ASTM D−790Bによる測定で、80kpsi超、または100kpsiの曲げ弾性率を有する熱可塑性組成物である。したがって、本明細書に記載する熱可塑性組成物は、高弾性率の中間層またはカバー層に有用である。例としては、コアと、アイオノマーまたはポリウレタンから形成されたカバーと、ASTM D−790Bによる測定で80kpsi超または100kpsiの曲げ弾性を有する、本明細書に記載する熱可塑性組成物を含むか、またはそれから形成された中間層とを含むゴルフボールが挙げられる。
【0115】
カバー層の曲げ弾性率は、好ましくは約2,000psi以上、より好ましくは約5,000psi以上である。あるゴルフボールでは、カバーの曲げ弾性率は約10,000psi〜約150,000psiである。このカバー層の曲げ弾性率は、より好ましくは約15,000psi〜約120,000psiである。このカバー層の曲げ弾性率は、特に好ましくは約18,000psi〜約110,000psiである。別のゴルフボールでは、カバー層の曲げ弾性率は約100,000psi以下、好ましくは約80,000以下、より好ましくは約70,000psi以下である。あるゴルフボールでは、カバー層が約50ショアD〜約60ショアDの硬さを有する場合、カバー層は約55,000psi〜約65,000psiの曲げ弾性率を有することが好ましい。
【0116】
あるゴルフボールでは、カバー層に対する中間層の曲げ弾性率の比は、約0.003〜約50である。別のゴルフボールでは、カバー層に対する中間層の曲げ弾性率の比は、約0.006〜約4.5である。さらに別のゴルフボールでは、カバー層に対する中間層の曲げ弾性率の比は、約0.11〜約4.5である。
【0117】
あるゴルフボールでは、本明細書に記載する熱可塑性組成物は、実質的に同じ硬さを有するが曲げ弾性率は異なるマルチカバー層のゴルフボールに使用される。このゴルフボールでは、2つのカバー層の曲げ弾性率の差が、好ましくは約5,000psi以下である。別のゴルフボールでは、曲げ弾性率の差は約500psi以上である。さらに別のゴルフボールでは、2つのカバー層の曲げ弾性率の差は、少なくとも一方が補強されている場合、約500psi〜約10,000psi、好ましくは約500psi〜約5,000psiである。あるゴルフボールでは、補強されていないか、または改質されていない材料から形成された2つのカバー層の曲げ弾性率の差は、約1,000psi〜約2,500psiである。
【0118】
要するに、特定の復元力、コンプレッション、硬さ、および/または曲げ弾性率を有する組成物の選択は、上で詳述したように、所望するゴルフボールのタイプ(すなわち、ワンピース、ツーピース、糸巻き、またはマルチレイヤー)、および、得られるゴルフボールに求められる性能のタイプに大きく依存する。
【0119】
以下の実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明を実施するために今考えられる好ましい態様を示すこれらの実施例は、本発明を説明することを意図するものであって、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0120】
実施例の試験基準
反発係数(COR)は、樹脂を射出成形し、形状を整えて作製したゴルフボールサイズの球を、空気砲から、空気圧により決定される速度で発射させて測定する。通常、125フィート/秒の初速度を使用する。球は、初速度測定位置から3フィート離れて設置された鋼プレートに衝突し、跳ね返って、初速度測定位置と同じ位置に設置された速度計を通過する。跳ね返り速度を初速度で除したものがCORである。初速度を変えてCORを測定して相関を求め、それに基いて特定の初速度でのCORを決定することもできる。
【0121】
以下の実施例では、メルトインデックス(MI)は、2160gの荷重を使用し、190℃でASTM D1238にしたがって測定したメルトインデックスをいい、MI値はg/10分の単位で示される。
【0122】
材料のショアD硬さは、一般に、測定がプラークではなく成形された球の曲面で行われる点を除き、ASTM D−2240にしたがって測定する。マルチレイヤー球のショアD硬さの測定は、存在する全ての層について測定する。ディンプル球の硬さを測定する場合、ショアD硬さはディンプル球のランド部分で測定する。
【0123】
曲げ弾性率はASTM D−790Bにしたがって測定する。
【0124】
引張強さはASTM D−638にしたがって測定する。
【0125】
水蒸気透過率(WVTRまたはMVTR)は、PERMATRAN−W Model 700という装置(MN、MinneapolisのMOCON,Inc.より入手可能)により、38.1℃、100%RHで、操作説明書にしたがって測定した。
【0126】
耐衝撃性は、COR試験機の空気砲により175または135フィート/秒で発射し、金属平板に垂直に衝突させたボールが破壊するまでの平均打数である。
【0127】
耐擦傷性は、次のようにして測定した。四角い(箱型の)溝を持つシャープな溝付きピッチングウェッジを模して作製したD−2ツールの鋼プレートを、水平面内でスイングするスイングアームに装着した。模擬クラブのフェースの向きを、ゴルフボールに54°の角度で当たるようにした。模擬クラブのヘッドスピードを毎秒140フィートとして、この機械を操作した。ボールを各試験用組成物から下記に記載するようにして製造した。ポリウレタンカバーを有する比較用のボールを市販品から入手した。各組成物について少なくとも3個のボールを試験し、各ボールに1回の打撃を加えた。試験後、ボールを次に示す基準で評価した(表A参照)。検査用光学立体顕微鏡(2×〜10×)、またはその同等品を使用して、ボールを観察した。擦傷は、ぎざぎざの線、リフト、または帯状の溝の存在を特徴とした。ぎざぎざの線は、樹脂の永久的なずれにより形成される目に見える線であるが、表面に切れ目、割れ目、または裂け目を伴わない。リフトは、樹脂が大きくずれ、表面が破壊されて、樹脂の1部がボール本体から分離するような擦傷である。重大なリフトとしては、フラップ、ウィスカー、またはストランドが挙げられる。帯状の溝は、ボール本体から樹脂がクラブフェースの1つの溝に対応する寸法で欠損した帯である。評価は、表Aの基準に基づく数値を与えて行った。
【0128】
【表2】

【0129】
Werner & Pfleiderer2軸スクリュー押出機を使用し、アイオノマー樹脂と改質剤とを溶融ブレンドして組成物を調製した。ブレンド後、機械特性試験に適した形状に組成物を押出した。材料を射出成形して曲げ棒および引張試験片とし、室温で少なくとも2週間のエージングの後、ショアD硬さ、室温曲げ弾性率、および室温引張特性を試験した。組成物を直径約1.53〜1.54インチの球に成形し、Attiコンプレッション、反発係数(COR)、ショアD硬さ、および落下反発性などのゴルフボール特性を試験した。また、組成物を市販の熱硬化性ゴムのコアの上にモールドして、約1.68インチの直径を有するボールを得た。このボールについて、Attiコンプレッション、反発係数(COR)、耐久性、および耐擦傷性などのゴルフボール特性を試験した。コンプレッションデータの正確な比較を行うために、シミングなどの認められた方法によりボールの直径を1.68インチに補正した。
【0130】
2軸スクリュー押出機で組成物を溶融させ、コートハンガー形シート用ダイを通して押出し、厚さ約76〜約104ミクロンのフィルムを製造した。
【0131】
使用したアイオノマー材料
【表3】

【0132】
他の使用材料
アミン−1:CHIMASSORB 944、CIBAから入手可能。
PVP−1:ポリビニルピロリドン、分子量30,000ダルトン、NJ、WayneのInternational Specialty Products(ISP)より入手可能。
PVP−2:ポリビニルピロリドン、分子量15,000ダルトン、ISPより入手可能。
PVP−3:ポリビニルピロリドン、分子量90,000ダルトン、ISPより入手可能。
PEO−1:ポリ(2−エチルオキサゾリン、分子量50,000ダルトン、ISPより入手可能。
AO−1:酸化防止剤IRGANOX 1010、CIBAより入手可能。
【0133】
各組成物の3個のサンプルを試験した。結果を平均値で下記の表に示す。標準偏差を記載する場合には、カッコ内に示す。非改質アイオノマーを使用した比較例を、実施例の各セットと共に実施した。与えられた組成物の特性は、試験セット間でいくらかのばらつきが生じると予想される。
【0134】
表1〜4に示すように、ポリアミン(アミン−1)をアイオノマーに加えると、曲げ弾性率が著しく増大し、破断伸びが著しく低下する。アミン−1の添加は、MIに対してはわずかに増減双方の影響を与える。アミンで改質することによって、コンプレッション、硬さ、およびCORは増大するが、擦傷性または耐衝撃性はほとんど影響を受けない。
【0135】
【表4】

【0136】
【表5】

【0137】
【表6】

【0138】
【表7】

【0139】
【表8】

【0140】
【表9】

【0141】
上記の表に要約されるように、COR、ショアDおよびコンプレッションは、一般にアイオノマーへのアミンの添加により増大する。アイオノマーがまた脂肪酸塩で改質されている例を表7に示す。
【0142】
【表10】

【0143】
アイオノマーへのポリビニルピロリドンまたはポリ(2−エチルオキサゾリン)などのポリアミドの添加の影響を調べるために行った実験の結果を、表8および9に示す。I−5:PVP−1が80:20のブレンド物は、非改質アイオノマーに比べてコンプレッション、硬さおよびCORが増大した(表8)。曲げ弾性率は2倍に増加した。曲げ弾性率の同様の増加は、ポリ(2−エチルオキサゾリン)改質アイオノマーでも観察された(表9)。
【0144】
【表11】

【0145】
【表12】

【0146】
表10および11に記載のデータは、ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量、分子量および供給形態(乾燥体または水溶液)の影響を示している。
【0147】
【表13】

【0148】
【表14】

【0149】
表12および13では、従来のゴムコアを有する2ピースボールについて耐衝撃性を測定した。I−15および硫酸バリウムから製造した公称直径3.94cmおよび公称重量36.3gのコアを有する2ピースボールについて、コンプレッションおよび耐擦傷性を測定した。
【0150】
【表15】

【0151】
表12のデータは、アミン−1の添加効果が、曲げ弾性率を顕著に増大させるものの、CORは殆ど変化させないものであったことを示している。
【0152】
【表16】

【0153】
表13のデータは、アミン−1の添加効果が、曲げ弾性率を顕著に増大させるものの、CORは殆ど変化させないものであったことを示している。
【0154】
本発明の好ましい実施形態を記載し、上で具体的に例示してきたが、本発明がそのような実施形態に限定されることを意図するものではない。次の請求項に記載する発明の範囲と精神から逸脱することなく、様々な修正を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性組成物であって、
(a)E/X/Y型共重合体(但し、Eはエチレンの共重合単位であり、XはC3〜C8α,βエチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位であり、Yは柔軟性付与コモノマーの共重合単位であり;E/X/Y型共重合体の全重量を基準にして、Xの量は約2〜約30重量%であり、Yの量は0〜約45重量%であり;E/X/Y型共重合体の酸部分の少なくとも1部が中和されて、カルボンキシレート部分と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属の1つ以上のカチオンとを含むアイオノマーを形成する)、および
(b)熱可塑性組成物の全重量を基準にして約1〜約40重量%の、分子量が500Da超であるポリアミンまたはポリアミド(但し、ポリアミンおよびポリアミドは、エステル部分または第1級アミン部分を含有せず;ポリアミンは、少なくとも3つの、第3級アミンまたはヒンダード第2級アミン部分を含み;ポリアミドは第3級アミド部分を含み、第2級アミド部分を含まない)
を含み、
(c)フィラー
が含まれていてもよい熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記E/X/Y型共重合体が、エチレン共重合単位、およびC3〜C8α,βエチレン性不飽和カルボン酸共重合単位から実質的になるエチレン酸ジポリマーであり、かつXの量が約10〜約24重量%である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
エチレンジポリマーのアイオノマーが、ナトリウムカチオン、カルシウムカチオン、カリウムカチオン、リチウムカチオン、マグネシウムカチオンおよび亜鉛カチオンからなる群から選択される1種以上のカチオンを含む請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
柔軟性付与コモノマーが、ビニルアセテート、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートからなる群から選択され;アルキル基が1〜8個の炭素原子を有し;かつYの量が約0.1〜約45重量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
E/X/Y型ターポリマーをさらに含み;前記E/X/Y型ターポリマーの柔軟性付与コモノマーYが、ビニルアセテート、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートからなる群から選択され(但し、アルキル基は1〜8個の炭素原子を有する);かつE/X/Y型ターポリマー中のYの量が、E/X/Y型ターポリマーの全重量を基準にして、0.1〜45重量%である請求項2〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
(b)ポリアミンまたはポリアミドが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンまたは4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンの誘導体から実質的になるポリアミンから実質的に構成されるか、あるいは(b)ポリアミンまたはポリアミドが、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンの共重合体、またはポリ(2−エチルオキサゾリン)から実質的になるポリアミドから実質的に構成される請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
ASTM D−790Bにより測定される曲げ弾性率が80kpsi(5.51581×108N/m2)超であるか、または熱可塑性組成物から直径が1.50〜1.68インチ(0.0381〜0.0427メートル)の球を形成し、その球を初速度125フィート/秒(38.1メートル/秒)で、初速度測定位置から3フィート(0.9144メートル)離れた鋼プレートに向けて発射することによって測定される跳ね返り速度が94フィート/秒超(28.65メートル/秒)である請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
Xの量が約14〜約20重量%であり、アイオノマーが亜鉛カチオンを含み、ポリアミンまたはポリアミドがポリアミンから実質的になり、かつポリアミンの量が約15〜約25重量%である請求項2〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造される製品。
【請求項10】
フィルムである請求項9に記載の製品。
【請求項11】
ワンピースゴルフボール、またはコアおよびカバーを含むツーピースゴルフボールであり;カバーが熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造されていてもよい請求項9に記載の製品。
【請求項12】
コアと、カバーと、コアおよびカバー間に配置された1層以上の中間層とを含むマルチレイヤーゴルフボールであり、コア、カバー、または1層以上の中間層が熱可塑性組成物を含むか、またはそれから製造される請求項9に記載の製品。
【請求項13】
前記カバーがポリウレタン組成物を含むか、もしくはそれから製造され;またはカバーが熱可塑性組成物を含むか、もしくはそれから製造され;またはカバーがアイオノマー組成物を含むか、もしくはそれから製造され;または少なくとも1つの中間層が熱可塑性組成物を含むか、もしくはそれから製造され;またはコアがアイオノマー組成物を含むか、もしくはそれから製造され;またはコアが熱硬化性ゴムコアである請求項12に記載のゴルフボール。
【請求項14】
前記アイオノマー組成物が、E/X/Y型共重合体(但し、Eは(メタ)アクリル酸の共重合単位であり、Yは(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの共重合単位であり(前記アルキル基は1〜8個の炭素原子を有する)、E/X/Y型共重合体の全重量を基準にして、Xの量は約5〜約15重量%であり、Yの量は約5〜約40重量%である)から誘導されるアイオノマーを含み;
前記アイオノマー組成物が、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、イソオレイン酸およびリノール酸からなる群から選択される1種以上の脂肪酸をさらに含み;かつ
前記E/X/Y型共重合体の酸部分と有機酸の約80〜約100%が中和されて、カルボキシレート部分とマグネシウムカチオンを含むアイオノマー組成物が生成される請求項13に記載のゴルフボール。
【請求項15】
前記カバーがポリウレタン、もしくはアイオノマー組成物を含むか、もしくはそれから製造され、中間層の少なくとも1つが熱可塑性組成物を含むか、もしくはそれから製造され、熱可塑性組成物のASTM D−790Bにより測定される曲げ弾性率が80kpsi(5.51581×108N/m2)超であるか;または前記カバーがポリウレタン、もしくはアイオノマー組成物を含むか、もしくはそれから製造され、熱可塑性組成物から直径が1.50〜1.68インチ(0.0381〜0.0427メートル)の球を形成し、その球を初速度125フィート/秒(38.1メートル/秒)で、初速度測定位置から3フィート(0.9144メートル)離れた鋼プレートに向けて発射したときの熱可塑性組成物の跳ね返り速度が94フィート/秒(28.65メートル/秒)超である請求項12に記載のゴルフボール。

【公表番号】特表2011−526953(P2011−526953A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516641(P2011−516641)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/048585
【国際公開番号】WO2010/002684
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】