説明

アイオノマー樹脂組成物及びこれを用いた同軸線

【課題】 有機化クレー及び中和度を上げるための金属塩の添加量を適正範囲にとどめ、透明性を損なわない範囲で、且つ押出性を確保しつつ、機械的強度を向上させたアイオノマー樹脂組成物、並びに当該アイオノマー樹脂組成物を被覆層に用いた同軸線を提供する。
【解決手段】 オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなるアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部を含有したアイオノマー樹脂組成物である。内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、前記内部絶縁層及び前記外部絶縁層の少なくともいずれか一層を、上記本発明のアイオノマー樹脂組成物で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度を改善したアイオノマー樹脂及びアイオノマー樹脂組成物並びにこれを絶縁被覆材料に用いた同軸線に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系アイオノマー等のオレフィン−α,β不飽和カルボン酸系アイオノマー樹脂は、高温で熱可塑性を示すことから射出成形や押出成形することができ、また室温では金属イオンによる架橋構造に基づいて強靱性、耐油性、耐衝撃性に優れているという特徴を有している。さらに、アイオノマー樹脂は、透明性、ヒートシール性、接着性、耐ピンホール性、弾力性に優れていることから、食品包装、日用品、工業材料など多岐にわたって使用されている。一方、エチレン系アイオノマー樹脂は、剛性や機械強度に劣っていることから、剛性向上のための工夫が検討されている。
【0003】
例えば、高剛性樹脂とブレンドすることにより、アイオノマー樹脂の剛性、機械的強度を増大させることが考えられるが、十分な剛性を得るために、高剛性樹脂を大量に配合すると、エチレン系アイオノマーの特性である透明性や弾力性、強靱性などが損なわれてしまう。また、無機粒子を添加することで、アイオノマー樹脂の剛性、機械的強度を増大させる方法もあるが、無機粒子の添加量増大に伴って、樹脂−無機粒子間にボイドが発生しやすくなり、引張強度も低下する傾向にあるため、剛性向上のために、十分量の無機粒子を添加することは好ましくない。更に、無機粒子を添加した組成物では、成型品の肉厚は20μm程度が限界であり、極薄品への適用は容易でない。
【0004】
アイオノマー樹脂が本来有する透明性を損なわずに、機械的強度、剛性を向上させることができる方法として、特開2007−204729号公報に、アイオノマー樹脂組成物中に、有機化クレー2〜60重量%を分散させることが提案されている。さらに、この特開2007−204729号公報には、酸化亜鉛や水酸化マグネシウム等の金属塩を添加することで、アイオノマー樹脂の中和度を上げることができ、これにより弾性率を上げることができることも示されている。
【0005】
ところで、近年の電子機器部品の小型化の要求に伴い、例えば携帯電話などの電子機器内部の配線に使用される同軸線については、細径化の要求が高い。同軸線の細径化のためには、内部絶縁層、外部絶縁層(外被)の薄肉化が必要となり、ひいては内部絶縁層、外部絶縁層材料の薄肉押出を可能にするために、高伸び、高強度であることが要求される。
【0006】
【特許文献1】特開2007−204729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような事情から、同軸線やフィルムのように、薄肉化が要求される用途に用いられるアイオノマー樹脂組成物については、さらなる機械的強度や弾性率のアップが望まれている。
しかしながら、上記特許文献1に開示されているように、機械的強度、弾性率を向上させるために、有機化クレーの配合量を多くすると、押出性が低下し、さらには樹脂中での分散不良、凝集による外観の悪化、成型物の破断、ピンホールの発生など生産性の低下をもたらす。
【0008】
一方、アイオノマー樹脂の中和度を上げることによって弾性率アップを図るために、酸化亜鉛や水酸化マグネシウム等の金属塩の配合量を増大すると、金属塩の凝集物による外観の悪化、透明性の低下などによる生産性の低下を免れない。
【0009】
また、弾性率、強度を確保できるアイオノマー樹脂を、細径化、薄肉化の要求が高まっている同軸線の被膜に利用する場合、アイオノマーの特性である金属との接着性が問題となる。すなわち、同軸線を製品に装着する作業、加工工程で、被覆除去が行なわれるが、導体との接着性が強すぎると、被覆除去の作業性、加工性が低下することになるからである。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、有機化クレー及び中和度を上げるための金属塩の添加量を適正範囲にとどめ、透明性を損なわない範囲で、且つ押出性を確保しつつ、機械的強度を向上させたアイオノマー樹脂組成物を提供することにある。また、当該アイオノマー樹脂組成物を被覆層に用いた同軸線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ある種の界面活性剤を配合することで、アイオノマーのカルボキシル基の中和度を効率的に上げることができること、さらには、これにより弾性率を増大できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明のアイオノマー樹脂は、中和度60%以上のアイオノマー樹脂で、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなるものである。
【0013】
前記中和用金属塩の含有量は、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となる量であることが好ましく、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体であることが好ましく、前記4級アンモニウム塩型界面活性剤は、親水基が4級アンモニウムイオンであるカチオン界面活性剤又はベタイン型界面活性剤であることが好ましい。
【0014】
本発明の中和度60%以上のアイオノマー樹脂の製造方法は、4級アンモニウム塩型界面活性剤の存在下で、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーと、中和用金属塩とを、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となるように配合し、溶融混合することを特徴とする。
【0015】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、上記本発明のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部を含有したものである。
【0016】
上記本発明のアイオノマー樹脂組成物の製造方法は、上記本発明のアイオノマー樹脂に、有機化クレーを配合することを特徴とする。
【0017】
本発明の押出成型品は、上記本発明のアイオノマー樹脂組成物を押出成形してなるものである。
【0018】
本発明の同軸線は、内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、前記内部絶縁層及び前記外部絶縁層の少なくともいずれか一方が、上記本発明のアイオノマー樹脂組成物で構成されていればよい。また、前記内部絶縁層及び前記外部絶縁層の少なくともいずれか一方が、電離放射線の照射により架橋されていてもよい。
このような本発明の同軸線を複数本有する多芯同軸ケーブルも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、押出成形性に優れ、高弾性率、高強度な薄肉成型品の材料として用いることができる。本発明の同軸線は、本発明のアイオノマー樹脂組成物を薄肉の被覆層に用いたもので、生産性を確保しつつ、細径化に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<アイオノマー樹脂組成物及びその製造方法>
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部を含有したものである。
【0021】
アイオノマーとは、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸の共重合体のカルボキシル基を金属イオンによって中和したものをいう。オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基が金属イオンとの共存下でカルボン酸金属塩となり、さらに複数のカルボン酸金属塩同士が会合することで、共重合体同士が疑似架橋している。
【0022】
本発明のアイオノマー樹脂組成物に含まれる中和度60%以上のアイオノマー樹脂は、4級アンモニウム塩型の界面活性剤の存在下で、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基を金属イオンで中和する方法により製造することもできるし、4級アンモニウム塩型の界面活性剤の存在下で、中和度が60%未満であるオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体由来のアイオノマーのカルボキシル基を金属イオンで中和する方法により製造することもできる。
【0023】
上記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸の共重合体に含まれるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン等の低級オレフィンが挙げられ、好ましくはエチレンである。また、α,β不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸(これらを区別しないときは「(メタ)アクリル酸」という)等が挙げられる。好ましいオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が挙げられる。このような共重合体は、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有するアクリル系モノマー又は無水マレイン酸等の酸無水物モノマーと、エチレンとを、公知の方法で共重合、グラフト重合等することにより得られる。各種特性を向上させる目的で、さらに他のモノマーを適宜共重合してもよい。また、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体として、ニュクレル(商品名)、プリマコール(商品名)などの市販品を用いてもよい。
【0024】
中和度60%未満のアイオノマーとして、市販のアイオノマーまたはアイオノマー樹脂を用いることもできる。市販のアイオノマー(アイオノマー樹脂)の具体例としては、三井デュポンポリケミカル株式会社製のハイミラン1605(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1707(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1706(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7315(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミランAM7317(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1555(ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、ハイミラン1557(亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、エクソン株式会社製のアイオテック8000(ナトリウムイオン中和エチレン−アクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)、デュポン社製のサーリン930(リチウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂の商品名)などが挙げられる。
【0025】
アイオノマーを構成するカルボキシル基を中和する金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等の1価金属イオン;亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、銅イオン、マンガンイオンなどの2価金属イオン;アルミニウムイオン、ネオジウムイオンなどの3価金属イオンなどが挙げられる。
【0026】
上記金属イオン供給に用いられる金属塩(中和用金属塩)としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、III族、遷移金属等の酸化物、水酸化物、炭酸塩等を使用でき、具体的には、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を例示できる。
【0027】
また金属塩の混合量は、中和の対象となるカルボキシル基含有ポリマー(アイオノマー又はオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体)の種類、所望の中和度により適宜決められる。中和の対象となるカルボキシル基含有ポリマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となる量の金属塩を添加することが好ましい。すなわち、1価の金属イオンを提供する化合物であれば、モル比で、金属塩/カルボキシル基が1.1/1以下となるように、2価の金属イオンを提供する化合物であれば、金属塩/カルボキシル基で0.55/1となるように添加することが好ましい。
【0028】
4級アンモニウム塩型界面活性剤は、疎水基として天然又は合成の長鎖アルキル、ベンジルアルキル等の炭化水素基を有し、親水基として4級アンモニウムイオンを有するカチオン界面活性剤、あるいはベタイン化した両性界面活性剤が挙げられる。
具体的には、ドデシルトリメチル−アンモニウムクロライド、ヤシアルキルトリメチル−アンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチル−アンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチル−アンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチル−アンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチル−アンモニウムクロライド等のトリメチル型カチオン性界面活性剤;ジデシルジメチル−アンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルジメチル−アンモニウムクロライド、ジオレイルジメチル−アンモニウムクロライド等のジアルキル型カチオン性界面活性剤;ヤシアルキル−ジメチルベンジル−アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジル−アンモニウムクロライド、N,N−ジアシルオキシエステル−N−ヒドロキシエチル−N−メチルアンモニウム−メチルサルフェート、1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−牛脂アルキル−イミダゾニウムクロライド等のベンジル型カチオン性界面活性剤などが挙げられる。また、アルキルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピル−ジメチルアミノ酢酸−ベタイン、パーム核油脂肪酸−アミドプロピルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸−アミドプロピルジメチル−アミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチル−イミダゾリウムベタイン等のベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0029】
このような界面活性剤の共存下では、エチレン−(メタ)アクリル酸等のオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体と中和用金属塩の相溶性が向上するためか、金属塩が有効に中和に働くことができる。この点、界面活性剤の非共存下では、金属塩の添加による中和度の向上効率が低いため、所望の中和度を得るためには、金属塩の添加量を増やす必要があり、透明性が損なわれてしまうといった新たな解決すべき問題があった。しかし、界面活性剤の共存下では、透明性を損なわない金属塩/カルボキシル基(当量比)=1.1以下の量の中和用金属塩の添加で、中和度60%以上のアイオノマー樹脂、さらには80%以上のアイオノマー樹脂を得ることができ、弾性率増大を図ることができる。
【0030】
4級アンモニウム塩型界面活性剤の添加量は0.01〜10質量部が好ましい。0.01質量部未満では、中和用金属塩の中和度向上効果が認められない傾向にあり、10質量部を越えると、樹脂組成物中に均一に分散されにくくなって、樹脂組成物中に塊となって存在するおそれがある。
【0031】
従って、本発明で用いられる中和度60%以上のアイオノマー樹脂は、中和度60%未満のアイオノマー(若しくはアイオノマー樹脂)又はオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体と、中和用金属化合物と、界面活性剤とを所定量づつ配合し、溶融混合することによって、製造することができる。混合温度は、アイオノマー又はオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体が溶融できる温度であればよい。
【0032】
ここで中和度とは、アイオノマー樹脂中のカルボキシル基の中和度をいい、アイオノマー中のカルボキシル基総量に対するイオン化したカルボキシル基(カルボン酸イオン)量の割合であり、赤外吸収スペクトル(IR)測定により求めることができる。カルボキシル基は1700cm−1付近にC=O伸縮吸収ピークを持つが、金属イオンで中和されてカルボン酸イオンとなると、このピークは消失する。また金属イオンで中和されたカルボン酸イオンを強酸である塩酸で処理すると、金属イオンが脱離して元のカルボキシル基に戻り、C=O吸収ピークが復活する。アイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピークを測定することでイオン化していないカルボキシル基を定量でき、塩酸処理したアイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピークを測定することで、アイオノマー樹脂全体のカルボキシル基を定量できる。両者を測定することで中和度が求められ、具体的には、以下の式で算出できる。
中和度(%)=(1−P1/P2)×100
P1:アイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピーク高さ
P2:塩酸処理したアイオノマー樹脂のC=O伸縮吸収ピーク高さ
【0033】
本発明のアイオノマー樹脂組成物に含まれる有機化クレーとは、モンモリロナイト等の層状珪酸塩(クレー)において、層状に積層した珪酸塩平面の層間に有機化合物がインターカレーションしたものである。層状に積層した珪酸塩平面の間には、ナトリウムイオンやカルシウムイオンのような中間層カチオンが存在して層状の結晶構造を保っている。中間層カチオンを有機カチオンとイオン交換することで、有機化合物が珪酸塩平面の表面に化学的に結合して層間に挿入される。
【0034】
有機化クレーは、層間に有機化合物がインターカレーションすることにより、珪酸塩平面間の層間距離が大きくなり、有機物への分散性が向上する。このような有機化クレーとしては、Nanofil、エスベン等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0035】
層間にインターカレーションされる有機化合物としては塩化ジメチルステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウム等の4級アンモニウムイオンが挙げられ、これらのうち、塩化ジメチルジステアリルアンモニウム又は塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムが、エチレン系アイオノマー樹脂への分散性に優れていて、剛性の改善効果が高いという点から、好ましく用いられる。
【0036】
また、有機化クレー配合による剛性の向上は、エチレン系アイオノマー樹脂との組合わせにおいて顕著にみられる効果である。エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート等、アイオノマー構造を有しないエチレン系樹脂に有機化クレーを分散させても剛性の向上はほとんどみられない。
【0037】
有機化クレーの含有量は、中和度60%以上のアイオノマー樹脂100質量部あたり1〜85質量部であり、好ましくは2〜40質量部である。1質量部未満では、顕著な剛性の向上が認められない。また85質量部を越えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、薄肉での押出加工性が急激に悪くなり、汎用の押出設備での加工が困難となる。
【0038】
有機化クレーは、界面活性剤存在下で中和用金属塩を配合して中和度60%以上としたアイオノマー樹脂に所定量添加し、溶融混合(以下、「バッチ法」という)によって配合してもよい。あるいは、中和度60%以上のアイオノマー樹脂を調製する工程で有機化クレーを添加、すなわち、中和度60%未満のアイオノマー(若しくはアイオノマー樹脂)又はエチレン−α,β不飽和カルボン酸共重合体と中和用金属塩及び界面活性剤とともに、一括して所定量づつ配合した混合物を、溶融混合(以下「一括法」という)してもよい。好ましくは、中和度60%以上のアイオノマー樹脂をまず調製し、これに有機化クレーを添加するバッチ法である。一括仕込みよりもバッチ仕込みの方が、同じ量の中和用金属塩を添加しても、アイオノマー樹脂の中和度が高くなる傾向にあり、ひいては得られる成型品の弾性率が高くなる傾向にある。換言すると、バッチ法の方が、金属塩による中和作用が有効に働きやすく、同程度の中和度を達成するために必要とする金属塩の添加量が少なくて済み、ひいては透明性に与える影響が少なくて済む。
【0039】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、界面活性剤存在下で中和用金属塩を溶融混合することにより中和度60%以上としたアイオノマー樹脂、有機化クレーの他、その特性を損なわない範囲で、適宜他のポリマーを添加して、新たな特性を付与してもよい。添加可能な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、無水マレイン酸又はアクリル酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸又はアクリル酸グラフトポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体、エチレン−ブチルメタアクリレート共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリエチレン共重合体、前記ポリエチレン共重合体にもう1成分を加えた、ポリエチレンターポリマー、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、6ナイロンや11ナイロンに代表されるポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリングプラスチック、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー、植物由来ポリマーなどが挙げられる。これらのポリマー添加により、ポリマーの種類に応じて、耐薬品性、加工性、耐衝撃性の向上、コストダウンなどを図ることが可能である。
【0040】
他のポリマーを含有する場合、アイオノマーとの相溶性などの点から、他のポリマーは、ポリマー全体の50重量%未満とすることが好ましい。他のポリマーは、中和度60%以上のアイオノマー樹脂を調製した後、有機化クレーとともに、あるいは有機化クレー添加後に配合することが好ましい。
【0041】
本発明のアイオノマー樹脂組成物には、上記成分の他、さらに必要に応じて、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能性モノマーや、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、滑剤、着色剤、シラン系カップリング剤等の各種添加剤を混合することができる。これらの材料はオープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、2軸混合機等の既知の混合装置を用いて混合することができ、アイオノマー樹脂の融点以上の温度で溶融混合することが好ましい。
【0042】
以上のようにして調製される本発明のアイオノマー樹脂組成物は、従来公知の成形方法を採用することができる。具体的には、射出成形、Tダイ押出成形、異型押出し、インフレーション成形などの押出成形法;ダイレクトブロー成形法、射出ブロー成形法、一軸延伸法、テンターによる逐次又は同時二軸延伸法、カレンダー成形法などが例示できる。本発明のアイオノマー樹脂組成物は、有機化クレーを配合しているにもかかわらず、押出性に優れているので、0.5mm以下、0.001mm程度までの薄肉製品の成形にも好適に対応することが可能である。
【0043】
以上のようにして得られるアイオノマー樹脂成形品、特に押出成形品は、中和度60%以上のアイオノマー樹脂、好ましくは80%以上のアイオノマー樹脂に基づいて、従来の中和度60%未満のアイオノマー樹脂成形品と比べて高弾性率で、且つアイオノマー樹脂本来の特徴である透明性を保持している。さらに驚くことに、本発明のアイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂特有の金属に対する接着性が低下している。このことは、アイオノマー樹脂に含まれる金属イオンのほとんどがカルボキシル基の中和のために消費され、フリーの金属イオンとして残存することが少ないためと考えられる。つまり、アイオノマー樹脂本来の特徴である透明性を維持できたということは、金属イオンの凝集などを抑制できたこと、換言するとカルボキシル基との中和に用いられたためと思われる。
【0044】
尚、得られた成形品に電離放射線を照射して架橋してもよい。電離放射線の照射により、耐熱性を向上させることができ、また、成形品を溶融しにくくすることができる。さらに、長手方向の収縮が少なくなり、バリア性も向上する。
電離放射線源としては、加速電子線やγ線、X線、α線、紫外線などが挙げられる。線源利用の簡便さや電離放射線の透過厚み、架橋処理の速度等、工業的利用の観点から、加速電子線が最も好ましく利用できる。
【0045】
加速電子線の加速電圧は、成形物の肉厚によって適宜設定すればよい。例えば、厚み5μm〜200μmの成形物では、加速電圧は50〜300kVの間で選定される。照射線量としては、20〜500kGyで十分な架橋度が得られる。
【0046】
また、本発明の中和度60%以上のアイオノマー樹脂は、本発明のアイオノマー樹脂組成物の構成成分としてだけでなく、中和度60%以上のアイオノマーが利用される他の用途に供してもよい。
【0047】
<同軸線及び多芯同軸ケーブル>
本発明の同軸線は、内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、前記内部絶縁層、前記外部絶縁層の少なくともいずれか一方を、上記本発明のアイオノマー樹脂組成物で構成したものである。
【0048】
本発明に使用する内部導体としては、銅線、銅合金線、またはこれらの表面に銀や錫等をメッキした線等を適宜選択して使用することができる。導体は単線であってもよいし、複数の素線を撚り線したものであってもよい。内部絶縁層は、この内部導体を被覆するように、樹脂組成物を押出成形して形成する。なお内部導体が撚り線の場合、内部被覆層は、各素線の表面全てを覆う必要はなく、撚り線である内部導体の外側を被覆していればよい。
【0049】
本発明に使用する外部導体としては、内部導体と同様に、銅線、銅合金線、またはこれらの表面に銀や錫等をメッキした線等を適宜選択して使用することができる。外部導体は、内部絶縁層の外側に横巻き又は編組で巻付けられる。外部絶縁層は、この外部導体を被覆するように、樹脂組成物を押出成形により形成する。
【0050】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、上述のように、高弾性率で機械的強度に優れており、しかも薄肉で押出成形することができるので、細径化の要求が高まっている同軸線の内部絶縁層及び/又は外部絶縁層の材料として好適に利用できる。さらに、本発明のアイオノマー樹脂組成物は、金属との接着性が低下しているので、被覆層除去作業性にも優れた同軸線を提供できる。薄肉及び加工作業性の点から、内部絶縁層及び外部絶縁層の双方とも、上記本発明のアイオノマー樹脂組成物で形成されることが好ましい。
【0051】
尚、本発明の同軸線は、本発明のアイオノマー樹脂組成物で構成される内部絶縁層形成後及び/又は外部絶縁層形成後に、加速電子線やγ線などの電離放射線の照射や熱架橋法などで架橋してもよい。架橋により耐熱性を高めることができ、はんだ付けなどの熱処理により内部絶縁層、外部絶縁層の溶融を防止できる。
【0052】
また、本発明の同軸線において、内部絶縁層、外部絶縁層の一方だけが、上記本発明のアイオノマー樹脂組成物で構成されている場合、残りの絶縁層としては、例えば、ポリテトラフルトロエチレン(PTFE)、テトラフルトロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等の他の絶縁体により構成される。
【0053】
本発明の多芯同軸ケーブルは、上記本発明の同軸線を複数本用いて形成される。例えば、複数の同軸線を束ねて又は撚り合わせて、一部を共通外被で覆うことで多芯化することができる。また、複数の同軸線を平行一列に並べ、一部を共通外被で覆って固定することで、フラット形状の多芯同軸ケーブルを得ることができる。このような多芯同軸ケーブルは、多数の線の接続が可能であり、フレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)と同様の使い方が可能である。この場合、複数の同軸線は一部のみが固定されている構造であるため、固定されていない部分では1本づつがばらばらに動くことができ、柔軟性に優れる。従って、FPCやFFCと比べて捻回特性が優れる。
【実施例】
【0054】
本発明を実施するための形態を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0055】
〔樹脂(又は組成物)の調製及び評価方法〕
(1)樹脂ペレットの製造方法
二軸混合機(30mmφ、L/D=30)において、バレル温度を指定温度に設定し、スクリュー回転数100rpmで樹脂組成物を溶融混合した後、ストランドカットペレタイザで、ペレットを作成した。
【0056】
(2)中和度
アイオノマー樹脂(又は樹脂組成物)の赤外吸収スペクトルをATR法で測定した。測定誤差を少なくするため、1700cm−1(C=O伸縮)のピーク高さを2915−1(CH伸縮)のピーク高さで割り、規格化した数値をP1とした。また、アイオノマー樹脂(組成物)を塩酸処理した試料についても同様に赤外吸収スペクトルを測定して、P2を求め、以下の式によりアイオノマー樹脂(組成物)の中和度を算出した。
中和度(%)=(1−P1/P2)×100
【0057】
(3)透明性
樹脂ペレットを熱プレス機にて160℃、10分、200N/cmの圧力でプレスし、厚み1mmのシートを作製した。尚、シートの厚みは、マノメータで測定した。ランダムに5カ所測定し、その平均値が±0.05mm以内であることを確認した。
作製したシートを文字の書かれた書面上に載置して、書面の文字が確認できるかどうかを目視で判定した。文字を確認できる場合を「○」、確認できない場合を「×」とした。
【0058】
(4)シートの融着性
透明性の評価方法と同様の方法で作製したシート2枚で、錫めっき軟鋼線(径0.8mm)を挟持し、190℃で10秒間、200N/cmの圧力でプレスした。その後、錫めっき軟鋼線を引張試験機で引抜き、引き抜きに必要な力を測定した。使用したオレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーで同様の試験を行なったときの測定値を100としたときの指数(%)で表す。
【0059】
〔同軸線の作製及び評価方法〕
(1)同軸線の作製
単軸押出機(径25mm、L/D=24)を用いて、外形0.016mmの銅合金素線を7本撚り合わせた撚り線導体(外径0.048mm)に、内部絶縁層組成物を押出成形して、内部絶縁層を形成した。次に内部絶縁層の外周に線径0.02mmの素線を横巻きし、外部絶縁層用組成物を押出成形することにより外部絶縁層を形成して、同軸線を作製する。安定押出が可能であった肉厚を測定し、特に外部絶縁層8μm以下のものは押出生良好といえる。
【0060】
(2)同軸線の捻回試験
同軸線を60本束ね、両端を掴んで捻回する治具で固定し、径方向に180°繰返し捻回させ、内部導体が破断するまでの回数を測定することで捻回試験を行なった。15万回捻回後に内部導体破断が認められなかったものを合格とした。
【0061】
(3)同軸線外被の引抜力
外被の引抜試験を行ない、引抜力を各3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。引抜試験は、外被を除去した導体部と、外被を有する部位とをそれぞれ固定し、外被の存在する境目に導体径より若干大きい固定軸を保持し、導体を引き抜くことで実施し、そのときに発生する力を引抜力(N)と定めた。引張速度は100mm/分で実施した。
【0062】
(4)同軸線外被の機械強度
外被の引張試験(引張速度=500mm/分、標線間距離=25mm、温度23℃)を行ない、引張強さと引張破断伸びを各3点の試料で測定し、それらの平均値を求めた。
【0063】
(5)同軸線のはんだ耐熱性
同軸線の末端から10mmを、250℃のはんだ浴に10秒間浸漬し、外部絶縁層の収縮による外部導体の露出、内部絶縁層の収縮による内部導体の露出が0.5mm以内のものを合格とした。
【0064】
〔アイオノマー樹脂No.R1〜11の調製及び評価〕
市販のアイオノマー又はエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(EMAA又はEAA)に、中和用金属塩(酸化亜鉛又は水酸化マグネシウム)、4級アンモニウム塩型界面活性剤を表1に示す量ずつ配合し、表1に示す温度で溶融混合して、上記方法によりアイオノマー樹脂ペレットを製造し、この樹脂ペレットを用いて中和度を測定した。また、製造した樹脂ペレットを用いて、上記方法によりシートを成形し、透明性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1中、組成物調製に使用した成分は下記の通りである。
(1)アイオノマー:ハイミラン1706(三井デュポンポリケミカル(株)製のエチレン系アイオノマーである)
(2)EMAA1:ニュクレルN1525(三井デュポンケミカル(株)製のエチレン−メタクリル酸共重合体である)
(3)EMAA2:ニュクレルN0903HC(三井デュポンケミカル(株)製のエチレン−メタクリル酸共重合体である)
(4)EAA:プリマコール5980I(ダウケミカル(株)製のエチレン−アクリル酸共重合体である)
(5)ZnO:ハクスイテック(株)製の亜鉛華1種
(6)Mg(OH):平均粒径0.8μm、合成水酸化マグネシウム
(7)アンモニウム塩A1:ニッサンカチオンBB(日油化学(株)製のドデシルトリメチルアンモニウムクロライド30質量%水溶液)
(8)アンモニウム塩A2:ニッサンカチオン2-DB-500E(日油化学(株)製のジデシルジメチルアンモニウムクロライド50質量%水溶液)
(9)アンモニウム塩A3:ニッサンアノンBF(日油化学(株)製のアルキルジメチルアミノサクベンタイン25質量%水溶液)
【0067】
No.1〜7はアンモニウム塩を含有させてアイオノマー樹脂を調製した場合であり、No.8〜11は、いずれもアンモニウム塩を含有しないでアイオノマー樹脂を調製した場合である。
No.1〜7は、いずれも、中和度60%以上、より詳細には80%以上となっており、界面活性剤及び金属化合物の添加により高中和度のアイオノマー樹脂を得られたことがわかる。また、この高中和度のアイオノマー樹脂を成形して得られたシートは、透明性が維持されていることもわかる。
【0068】
一方、No.9は、No.2,4と同様に酸化亜鉛を7質量部(酸化亜鉛/カルボキシル基(当量比)=0.49/1)添加したにもかかわらず、中和度が0であり、金属塩の添加によるカルボキシ基中和が達成できていないことがわかる。また、中和できていない金属塩が粉末として残存したためか、透明性が損なわれていた。No.10は混練温度を上げることにより添加した金属化合物の一部は中和に寄与できたが、中和度は低く、成型品の透明性も損なわれていた。また、No.11は水酸化マグネシウム(水酸化マグネシウム/カルボキシル基(当量比)=0.49/1)を用いた場合であり、中和度は酸化亜鉛を用いたNo.9、10よりも大きくなったが、中和度43%で、同量の水酸化マグネシウムを添加した場合のNo.3と比べても、中和度は半分以下であり、成型品の透明性が損なわれた。No.8は中和度57であるが、市販アイオノマー(金属塩添加前の中和度55)を使用しており、No.1と比較すると、添加した酸化亜鉛による中和度の増大はほとんど現われてないことがわかる。添加した酸化亜鉛が中和に利用されず、粉末として残存したためか、No9の成形品は透明性が損なわれていた。
【0069】
〔アイオノマー樹脂組成物No.C21〜C26の調製及び評価〕
上記で使用した市販のアイオノマー、EMAA1、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、アンモニウム塩(A1又はA3)、有機化クレー、酸化防止剤を表2に示す量で配合して樹脂組成物を調製し、上記方法に従って樹脂ペレットを作成し、中和度を測定するとともに、上記方法によりシートを作成して、透明性を評価した。結果を表2に示す。なお、有機化クレーとしては、ホージュン株式会社製のエスベンN400(インターカレーション用有機化合物が塩化ジメチルジステアリルアンモニウムのクレー)、酸化防止剤としては、チバスペシャリティケミカルズ(株)製、イルガノックス1010を使用した。
【0070】
なお、樹脂組成物の調製にあたっては、No21は、まずカルボキシル基含有ポリマーとアンモニウム塩、中和用金属塩を溶融混合して、所定中和度のアイオノマー樹脂を調製した後、有機化クレーを添加して180℃で混練し(バッチ法)、No22〜26は、カルボキシル基含有ポリマー、酸化亜鉛、又は水酸化マグネシウム、アンモニウム塩、有機化クレー、酸化防止剤をすべて所定量配合後、180℃で混練することにより調製した(一括法)。
【0071】
【表2】

【0072】
No21〜24は、いずれも80%以上のアイオノマー樹脂を含有する本発明の樹脂組成物であり、透明性を満足していた。また、融着性も市販のアイオノマー樹脂に有機化クレーを配合したものであり、中和度が60%未満のアイオノマー樹脂を用いた場合(No.25)の半分程度にまで下がり、良好であった。
No,26は、界面活性剤の非共存下で中和用金属塩及び有機化クレーを一括で配合し、中和度60%以上としたものである。透明性を満足することができなかった。また、No.25と比べて、融着性が若干向上していたが、No.21〜24程の改善は認められなかった。
【0073】
〔同軸線L1〜L8の作製及び評価〕
内部絶縁層及び外部絶縁層として、表2で調製した組成物C21〜26を使用し、表3に示す条件で押出成形することにより、内部絶縁層及び外部絶縁層を形成して、同軸線L1〜L7を作製した。
尚、L5については、内部絶縁層の成形後及び外部絶縁層の成形後に、加速電圧300kVの電子加速器を用いて電子線200kGyを照射することにより、内部絶縁層及び外部絶縁層のいずれも電子線架橋した。L8は、内部絶縁層、外部絶縁層のいずれもフッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製のネオフロンPFA AP201)を用いて同軸線を作製たものである。
作製した同軸線L1〜L8について、上記評価方法に基づいて、捻回試験、引抜力、機械強度、伸び、はんだ耐熱性を測定、評価した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
L6は、中和度60%未満のアイオノマー樹脂組成物C25を用いた場合である。外部絶縁層については十分な薄肉化を達成できず、押出性が不十分であった。また、引抜き力も高かった。この点、L1〜L4は、いずれも絶縁層を、中和度80%以上の本発明のアイオノマー樹脂組成物C21〜24のいずれかを用いて構成した場合であり、外被を10μm以下とする薄肉押出性を維持することができ、捻回試験にも合格した。また、C21〜24の融着性の低下に伴って引抜力を低減することができた。さらに、C21〜24を用いたL1〜L4は、機械的強度及び伸びについても、L6よりも向上していた。
【0076】
L5は、L2と同様の構成で、各絶縁層を電子線架橋した場合である。若干、引抜力があがっていたが、L6と比べた引張力は遙かに小さく、問題となる程のものではなかった。機械的強度、伸びは、電子線架橋前と同程度で、はんだ耐熱性も合格となった。
【0077】
一方、L7は、界面活性剤の非共存下で中和用金属塩を配合して中和度60%以上としたアイオノマー樹脂組成物C26を絶縁層に用いた場合である。L6と比べて、中和度を向上させたことにより、引抜力を低減できたが、薄肉化を進めることで、外観荒れ、押出時の外被切れが多発し、押出性が不十分であった。従って、絶縁層薄肉の同軸線を作製する場合、外観不良の発生頻度が高くなると考えられる。また、同軸線として強度、伸びが不十分であった。
【0078】
L8は、PFAを絶縁層に用いた場合であり、外被厚0.03mmでしか外観良好な同軸線が得られず、薄肉化は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、金属イオンの凝集を招くことなく高中和度を達成したもので、薄肉で押出成形しても、高機械的強度を維持することができる。しかも、導体との接着性が抑制されている。従って、従来のアイオノマー樹脂成形品分野はもちろん、剛性を必要とされている各種分野、金属との低接着性を要求する各種分野の成形材料として好適に利用できる。特に、電線の細径化に伴って薄肉が要求され、しかも導体に対する融着性が抑制されていることが求められる同軸線の絶縁層の材料として、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーに、中和用金属塩及び4級アンモニウム塩型界面活性剤を溶融混合してなる、中和度60%以上のアイオノマー樹脂。
【請求項2】
前記中和用金属塩の含有量は、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となる量である請求項1に記載のアイオノマー樹脂。
【請求項3】
前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体である請求項1又は2に記載のアイオノマー樹脂。
【請求項4】
前記4級アンモニウム塩型界面活性剤は、親水基が4級アンモニウムイオンであるカチオン界面活性剤又はベタイン型界面活性剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアイオノマー樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアイオノマー樹脂100質量部あたり、有機化クレー1〜85質量部を含有するアイオノマー樹脂組成物。
【請求項6】
4級アンモニウム塩型界面活性剤の存在下で、オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマーと、中和用金属塩とを、前記オレフィン−α,β不飽和カルボン酸共重合体又は中和度60%未満のアイオノマー中のカルボキシル基に対する金属塩の当量比(金属塩/カルボキシル基)が1.1以下となるように配合し、溶融混合することを特徴とする中和度60%以上のアイオノマー樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアイオノマー樹脂に、有機化クレーを配合することを特徴とする請求項5に記載のアイオノマー樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載のアイオノマー樹脂組成物を押出成形した押出成形品。
【請求項9】
内部導体、該内部導体を被覆する内部絶縁層、該内部絶縁層の外側に位置する外部導体、及び該外部導体を被覆する外部絶縁層を有する同軸線であって、
前記内部絶縁層及び前記外部絶縁層の少なくともいずれか一方が、請求項5に記載のアイオノマー樹脂組成物で構成されていることを特徴とする同軸線。
【請求項10】
前記内部絶縁層及び前記外部絶縁層の少なくともいずれか一方が、電離放射線の照射により架橋されていることを特徴とする請求項9に記載の同軸線。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の同軸線を複数本有する、多芯同軸ケーブル。

【公開番号】特開2009−197088(P2009−197088A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38567(P2008−38567)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】