説明

アイソタクチックポリ乳酸と、その製造方法

【課題】挿入欠陥率がポリ乳酸の0〜0.5重量%で、ラセミ化欠陥率がポリ乳酸の0〜2.5重量%である、数平均分子量が60 000〜200 000の立体配置LまたはDのポリ乳酸を製造するための重合方法。
【解決手段】重合開始剤の存在下で170〜200℃の温度、5〜75分の反応時間で、LまたはDの光学純度が少なくとも99.5重量%の立体化学配置L−LまたはD−Dの対応するラクチドを、少なくとも一種の触媒系と接触させることを特徴とするポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を形成するための塊重合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソタクチックラクチドポリマーを得るための重合方法に関するものである。
本発明はさらに、上記ポリマーと、その用途、特に包装材料、テキスタイルおよび耐久消費財の分野での使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油化学をベースにした合成ポリマーは20世紀の工業に極めて重要な影響を与えてきた。この材料には多くの利点があるが、解決されるべき2つの欠点すなわち、その製造に再生が不可能な資源を使用することと、その寿命が終わった時のその利用法がないことである。従って、その代替品として生分解性ポリマーが重要になってきており、この材料の合成および処理方法が大きく進歩しており、多くの用途、例えば包装材料およびテキスタイルで用いられている。種々の生分解性ポリマーの中でポリ乳酸(PLA)は最も一般的に使用され、研究されているポリマーの一つである。
【0003】
ポリ乳酸はホモポリマーであるが、その立体規則性によってその構造が変わる。L−ラクチドの重合で得られるポリ−L−乳酸と、D−ラクチドの重合で得られるポリ−D−乳酸はアイソタクチック立体規則性を有するエナンチオマーであり、メソ−ラクチドの重合によって得られるものはシンジオタクチックポリ乳酸である。
【0004】
特許文献1(米国特許第6,166,169号明細書)にはラクチド、ラクトン、環状カーボネートおよび環状無水物から成る群の中から選択される少なくとも一種のモノマーの重合で得られる脂肪族ポリエステルが記載されている。
【0005】
ポリ乳酸のポリマーに関連する従来技術の問題の一つは、その耐熱性が低いことである。この樹脂を用いて製造された製品はガラス遷移温度以上の温度に曝されると変形し易い傾向がある。合成で製造されるポリ乳酸のポリマーは結晶性が極めて低いため、耐熱性が低いことはさらに問題となる。従って、ポリ乳酸樹脂またはポリマーは高温の用途、例えばホットドリンク用ビーカー、高温物質の包装材料または電子レンジで使用する包装材料には適していない。現在のポリ乳酸のポリマーは多くの欠点を有し、特にポリマー鎖に挿入された挿入欠陥の率およびラセミ化欠陥の率が高い。従って、挿入欠陥率およびラセミ化欠陥率の低いポリ乳酸のポリマーを製造する方法が要望されている。現在の溶液重合方法ではそうしたポリ乳酸ポリマーを妥当な経済的コストで作ることはできないように思われる。事実、溶液重合方法は一般に反応時間が長く、重合プロセスの最後に得られたポリマーを溶剤から分離する必要がある。従って、ポリマー鎖に挿入される欠陥の率が極めて低いポリ乳酸ポリマーが製造でき、しかも、上記の問題がない工業用重合方法を開発するというニーズがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,166,169号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、立体規則性欠陥率が低いアイソタクチックポリ乳酸を製造するための塊重合方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、結晶性が改良されたアイソタクチックポリ乳酸を製造するための塊重合方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、耐熱性が改良されたアイソタクチックポリ乳酸を製造するため塊重合方法と、製造された物品とを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、剛性が改良されたアイソタクチックポリ乳酸を製造するための塊重合方法を提供することにある。
上記の目的の少なくとも一つは本発明によって達成される。従って、本発明の目的は上記欠点の少なくとも一つを克服することにある。
【0008】
本発明者は、本発明の塊重合条件に従ってラクチドを重合すると立体規則性欠陥率が極めて低いポリ乳酸のポリマーが得られるということを見出した。本発明の塊重合方法は工業的に利用するのに特に適している。すなわち、本発明の塊重合方法を用いることでポリマーを高速に生産できる。溶液重合方法ではプロセスの最後に得られたポリマーを溶剤から分離しなければならず、プロセスが複雑になり、コストも増加するが、本発明方法ではポリマーが直接得られる(必要な場合には乾燥させる)。
【0009】
本発明者はさらに、本発明のポリ乳酸は結晶性であり、従って高温で乾燥でき、生産性が向上するということも見出した。乾燥によって処理中のポリ乳酸の加水分解による生成物の分解を避けることができ、生成物の機械特性を維持することができる。また、結晶性が増加することによって生成物の包装、貯蔵段階がさらに容易になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の対象は、開始剤の存在下で、170〜200℃の温度、5〜75分の反応時間で、LまたはDの光学純度が少なくとも99.5重量%の立体化学配置L−LまたはD−Dの対応するラクチドを少なくとも一種の触媒系と接触させてポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を形成するために塊重合を行うことを特徴とする下記(1)または(2)のポリ乳酸を得るための塊重合方法に:
(1)数平均分子量が60 000〜200 000である立体配置Lのポリ乳酸であって、式(Ia)の二量体単位D−Dの比率はポリ−L−乳酸の0〜0.5重量%であり:
【化1】

【0011】
式(II)および(III)の二量体単位D−Lおよび/またはL−Dの比率はポリ−L−乳酸の0〜2.5重量%である立体配置Lのポリ乳酸:
【化2】

【0012】
(2)数平均分子量が60 000〜200 000である立体配置Dのポリ乳酸であって、(Ib)の二量体単位L−Lの比率がポリ−D−乳酸の0〜0.5重量%であり、式(II)および(III)の二量体単位D−Lおよび/またはL−Dの比率はポリ−D−乳酸の0〜2.5重量%である立体配置Dのポリ乳酸:
【化3】

【0013】
【化4】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】3つのPL−LAモデルのNMRスペクトル。
【図2】13C−NMRのスペクトル。
【図3】13C−NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明でDポリマー中の二量体単位LLの比率(%)またはLポリマー中の二量体単位DDの比率(%)は「挿入欠陥比率(insertion defect percentage)」として定義される。
【0016】
本発明でLまたはDポリマー中の二量体単位LDおよび/またはDLのそれぞれの比率は「ラセミ化欠陥比率 (rasemization defect percentage)」または「メソラクチド当量 (mesolactide equivalent)の比率」として定義される。
【0017】
本発明は、ポリ乳酸の挿入欠陥率が0〜0.5重量%で、ポリ乳酸のラセミ化欠陥率が0〜2.5重量%である立体配置LまたはDのアイソタクチックポリ乳酸を製造するための塊重合方法に関するものである。
【0018】
本発明は立体規則性欠陥率(tacticity defect)の低いアイソタクチックポリ乳酸を製造するための塊重合方法に関するものである。「立体規則性欠陥」とは挿入欠陥比率とラセミ化欠陥比率との合計を意味する。
本発明では、「塊重合方法 (bulk process)」とは溶剤の非存在下で行う任意の重合方法を意味する。
本発明はさらに、本発明方法の立体配置LまたはDのポリ乳酸の製造方法にも関するものである。
「ポリ乳酸 (polylactic acid)」とは「ポリラクチド酸」と同じ意味である。
本発明で用いる「ポリ−L−乳酸」または「ポリ−L−ラクチド酸」とは、一般式(IV)(ここで、nは100〜100 000の整数である)のアイソタクチックポリマーを意味する。
【0019】
【化5】

【0020】
本発明で用いる「挿入欠陥(insertion defect)」とは所定の立体規則性のホモポリマー中に、逆の立体規則性のラクチド単位を含むことを意味する。例えば、ポリ−L−乳酸中の挿入欠陥とはポリ−L−乳酸のポリマー鎖にD−Dラクチドが含まれることを意味し、従って、ポリ−L−乳酸中に式(Ia)の二量体単位DDが存在することを意味する:
【0021】
【化6】

【0022】
「挿入欠陥比率」とは所定の立体規則性のポリ乳酸のポリマー鎖に沿った逆の立体規則性の単位の重量比率を意味する。
【0023】
本発明で用いる「ラセミ化欠陥」とは、重合中にアイソタクチックポリ乳酸のポリマー鎖中にメソ−ラクチドが含まれるか、ラクチドの不斉炭素の立体配置が逆であることを意味する。従って、「ラセミ化欠陥比率」とは、ポリ乳酸のポリマー鎖中に含まれたメソ−ラクチド単位の重量比率を意味する。「メソ−ラクチド単位」とは一般式(II)または(III)の単位を意味する:
【0024】
【化7】

【0025】
本発明方法では、LまたはDの光学純度(異性体純度ともよばれる)が少なくとも99.5重量%、好ましくは少なくとも99.8重量%である立体化学配置D−DまたはL−Lのラクチドを用いるのが望ましい。
本発明方法で用いるL−LラクチドはD−Dラクチドの含有量が0.2%以下であるのが好ましく、本発明方法で用いるD−DラクチドはL−Lラクチドの含有量が0.2%以下であるのが好ましい。
出発材料のラクチドの化学的純度は、残存酸が20meq/kg未満で、残留水が100ppm以下で、さらに好ましくは50ppm以下であるのが好ましい。
【0026】
本発明で用いる「反応時間または滞留時間」とは、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸が、撹拌器を備えていてもよいバッチモードまたは連続モードで運転可能な反応器または一連の反応器、押出機またはその他任意の重合装置中に存在する時間間隔を意味する。
【0027】
本発明の好ましい実施例では、本発明製造方法を170〜200℃、好ましくは170〜195℃、さらに好ましくは175〜185℃の温度、さらに好ましくは175〜180℃の温度で行うことができる。温度の制御は例えば交換表面積/反応体積速度を促進可能な任意の形状の反応器または当業者に周知の他の任意の系が使用できる。
【0028】
本発明の別の好ましい実施例では、本発明製造方法を5〜75分、好ましくは10〜60分、さらに好ましくは10〜45分、さらに好ましくは15〜30分の反応時間で行うことができる。
本発明の別の好ましい実施例では、本発明製造方法を170〜195℃の温度と10〜75分の反応時間、好ましくは170〜185℃の温度と15〜30分の反応時間、好ましくは170〜180℃の温度と15〜25分の反応時間で実施できる。
【0029】
モノマーの光学純度または異性体純度と製造方法の運転条件とを同時に制御することによって結晶性が高く、耐熱性が高いポリ乳酸のポリマーを得ることができる。
【0030】
本発明の好ましい実施例では、本発明方法を不活性ガスの存在下で実施できる。不活性ガスは窒素、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン、ヘリウムを含む群の中から選択できる。好ましくは、不活性ガスを窒素またはアルゴンにすることができ、さらに好ましくは、不活性ガスを窒素にできる。不活性ガスは0〜100ppmのH2O、好ましくは0〜50ppmのH2O、さらに好ましくは0〜10ppmのH2Oを含むことができる。好ましくは不活性ガス中のH2O含有量を5ppm以下にする。
【0031】
本発明の別の好ましい実施例では、ラクチドと触媒系との接触および上記塊重合反応を大気圧で、不活性ガスの存在下または非存在下に実施できる。
本発明の別の好ましい実施例では、ラクチドと触媒系との接触および上記塊重合反応を減圧下で、不活性ガスの存在下または非存在下に実施できる。
【0032】
本発明方法は、必要に応じて高粘度撹拌器を備えていてもよい重合反応器または一連の重合反応器でバッチモードまたは連続モードで、または、一軸、二軸または多軸押出機(または水平反応器)内での押出によって実施できる。上記方法は連続的であるのが好ましい。上記方法は高粘度撹拌器を備えた反応器内で行うのが好ましい。
上記重合方法は減圧下、増圧下または大気圧で実施できる。特に、高粘度撹拌器を備えた反応器内で重合する場合は、上記方法を減圧下、増圧下または窒素流下で、好ましくは不活性ガスの増圧下で実施できる。
【0033】
別の実施例では、重合を押出機で押出中に行う。この場合は、本発明方法を不活性ガス流下で実施できる。
本発明方法では、ラクチドの重合を変換率が80%になるまで続け、熱力学的限界が90%以上になるまで続けるのが好ましい。
本発明方法は少なくとも一種の触媒系の存在下で行う。この触媒系は少なくとも一種の触媒を含み、必要に応じてさらに少なくとも一種の共触媒を含む。
【0034】
触媒は下記一般式であるのが好ましい:
(M)(X1,X2....Xmn
(ここで、
Mは元素周期表の第3〜12族元素および元素Al、Ga、In、Tl、Sn、Pb、SbおよびBiを含む群の中から選択される金属であり、
1,X2....XmはC1−C20アルキル、C6-30アリール、酸化物、カルボキシレート、ハロゲン化物、C1−C20アルコキシおよび元素周期表の第15族および/または第16族の元素を含む化合物から成る群の中から選択される置換基であり、
mは1〜6の整数であり、
nも1〜6の整数である)
【0035】
本発明で「アルキル」とは1〜20個の炭素原子、特に1〜16個の炭素原子、特に1〜12個の炭素原子、特に1〜10個の炭素原子、特に1〜6個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を意味する。この定義には例えばメチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、t−ブチルメチル、n−プロピル、ペンチル、n−ヘキシル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、またはデシルのような基が含まれる。
【0036】
本発明の「アリール」とは、6〜20の炭素原子、特に6〜10の炭素原子を有する、必要に応じて溶融された、1〜3の芳香核を含む芳香環を意味する。本発明の用途に適したアリール基の例としてはフェニル、フェネチル、ナフチルまたはアントリル基が挙げられる。
【0037】
本発明の「アルコキシ」とは、一般式R−O−の基(ここで、Rは上記定義のアルキル基である)を意味する。例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、t−ブトキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、n−ペントキシ、イソペントキシ、sec−ペントキシ、t−ペントキシ、ヘキシルオキシ、イソプロポキシ基が挙げられる。
【0038】
「ハロゲン化物」は塩化物、フッ化物、ヨウ化物または臭化物を意味する。
共触媒は下記一般式であるのが好ましい:
(Y)(R1,R2...Rqs
(ここで、
Yは元素周期表の第15族および/または第16族の元素から選択される元素であり、
1,R2...Rqは、C1−C20アルキル、C6−C20アリール、酸化物、ハロゲン化物、アルコキシ、アミノアルキル、チオアルキル、フェニル−オキシ、アミノアリール、チオアリールおよび元素周期表の第15族および/または第16族の元素を含む化合物から成る群の中から選択される置換基であり、
qは1〜6の整数であり、
sも1〜6の整数である)
【0039】
「アミノアルキル」とは−NRa2基(ここで、Raはアルキル、アリールまたは水素である)をその炭素鎖に有するアルキル基を意味する。
「チオアルキル」とはRbS−基(ここで、Rbはアルキル、アリールまたは水素である)を有するアルキル基を意味する。
「アミノアリール」とは−NRc2基(ここで、Rcはアリール、アルキルまたは水素である)を有するアリール基を意味する。
「チオアリール」とはRdS−基(ここで、Rdはアリール、アルキルまたは水素である)を有するアリール基を意味する。
【0040】
触媒系は触媒としてスズビス(2−エチルヘキサノエート)を含み、共触媒としてトリフェニルホスフィンPPh3を含むのが好ましい。この触媒系は周知であり、例えば上記特許文献1(米国特許第6,166,169号明細書)に記載されている。共触媒と触媒とのモル比を1/10〜10/1、好ましくは1/3〜3/1にすることができる。共触媒と触媒とのモル比は1/1にするのがさらに好ましい。
ラクチドと触媒とのモル比は200/1〜10 000/1、好ましくは1000/1〜7500/1、さらに好ましくは1500/1〜6000/1にすることができる。
【0041】
本発明方法ではさらに重合開始剤を使用する。この重合開始剤はラクチド、アルコールまたはアミン中に含まれる残留水にすることができる。アルコールまたはアミンは一般式R10−(A)s(ここで、AはOHまたはNH2であり、sは1または2であり、R10は1〜20の炭素原子を有するアルキルまたは6〜30の炭素原子を有するアリールである)の脂肪族または芳香族にすることができる。R10は3〜12の炭素原子を有するアルキルまたは6〜10の炭素原子を有するアリールであるのが好ましい。
【0042】
アルコールとしてはイソプロパノール、ブタンジオール、オクタノール−1およびドデカノールが挙げられる。
アミンとしてはイソプロピルアミンおよび1,6−ヘキサンジアミンが挙げられる。
本発明の好ましい実施例ではラクチドと重合開始剤とのモル比を、後者がアルコールまたはアミンである場合に、50/1〜1000/1、好ましくは100/1〜750/1、さらに好ましくは200/1〜600/1にすることができる。重合開始剤がラクチド中に存在する残留水である場合は、ラクチドと水とのモル比を、重合開始剤がアルコールまたはアミンである場合に述べたモル比と同じ範囲にすることができる。重合開始剤はアルコールまたはアミンであるのが好ましい。
【0043】
本発明の別の対象は、本発明方法を用いた立体配置LまたはDのポリ乳酸の製造方法にある。本発明方法で得られる立体配置LまたはDのポリ乳酸は、挿入欠陥比率が0〜0.5%、好ましくは0〜0.3%、さらに好ましくは0〜0.2%で、ラセミ化欠陥比率が0〜2.5%、好ましくは0〜1.5%、さらに好ましくは0〜1%である。さらに好ましくは、本発明の方法で得られる立体配置LまたはDのポリ乳酸はポリマー鎖への挿入欠陥が0%である。このポリ乳酸の立体規則性欠陥はラセミ化欠陥によってのみ生じうる。挿入欠陥およびラセミ化欠陥は炭素−13核磁気共鳴(13C−NMR)によって検出される。
【0044】
ポリマー鎖内の挿入欠陥比率およびラセミ化欠陥比率が低いことによって、ISO規格11357−2の方法に従った示差走査熱量測定で観測可能な第1加熱後の冷却中の結晶化温度が110〜120℃で、第2加熱後の冷却中に観測可能な結晶化温度が90〜100℃であるポリ乳酸を得ることができる。こうして得られたポリマーは優れた結晶性は優れた耐熱性を有する。
【0045】
本発明方法で得られる立体配置LまたはDのポリ乳酸は、35℃のクロロホルム中でポリスチレン標準品に対してゲル透過クロマトグラフィによって測定した数平均分子量(Mn)が60 000〜200 000、好ましくは70 000〜175 000、さらに好ましくは80 000〜150 000である。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比は一般に1.2〜2.8である。
【0046】
本発明で「D−merの比率(%)」および「L−merの比率(%)」とはそれぞれポリラクチド中で生じるD型またはL型のモノマー単位を意味する。この比率は酵素法で測定する。
本発明方法で得られるポリ−L−ラクチド酸は、D−merの比率がポリ−L−ラクチド酸の1.75重量%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下であるのが好ましい。
本発明方法で得られるポリ−D−ラクチド酸は、L−merの比率がポリ−D−ラクチド酸の1.75重量%以下、好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下であるのが好ましい。
本発明のさらに別の対象は、得られたアイソタクチックポリ乳酸の包装材料、例えば砂糖菓子用包装フィルムの製造での使用、使い捨て用品、例えばビーカーの製造での使用またはテキスタイル、例えば繊維の製造での使用にある。本発明のさらに別の対象は得られたアイソタクチックポリ乳酸の耐久消費材の分野での使用にある。
【実施例】
【0047】
1. 挿入立体規則性およびラセミ化立体規則性を13C−NMRで測定する手順と、全D−merまたはL−mer立体規則性を酵素測定で測定する手順
a)ポリ−L−乳酸(PL−LA)における挿入ピークの同定
PL−LAをラセミ化させずにD−LA単位をL−LA単位間に挿入するためにフラスコ中で温和な条件下にPL−LAモデルを重合した。このPL−LAモデルの合成は下記条件下で実施した:
(1)トルエン溶液中:100gのラクチドを400mlのトルエンに溶かす。
(2)触媒系のスズビス(2−エチルヘキサノエート)とPPh3の存在下。
(3)−90℃で72時間
【0048】
3つのPL−LAモデルを製造した:
(1)100%のL−ラクチドを含むPL−LA、
(2)95%のL−ラクチドと5%のD−ラクチドとの混合物を含むPL−LA、
(3)90%のL−ラクチドと10%のD−ラクチドとの混合物を含むPL−LA
下記スキーム1はPL−LAポリマー鎖中にD−ラクチドが挿入されたことを示す。
【0049】
【化8】

【0050】
3つのPL−LAモデルのC=Oピークの信号を13C−NMRで分析した。3つのPL−LAモデルで得られたNMRスペクトルは[図1]に示してある。[図1]に示すNMRスペクトルの分析から、L−ラクチド鎖中へのD−ラクチド単位の挿入による立体規則性欠陥で生じた4つのピークを求めることができた。
【0051】
b)ラセミ化ピークの同定
PL−LAをメソ−LAにする制御されたラセミ化条件下でL−LAを高温重合手合成した。L−ラクチドのラセミ化による立体規則性欠陥で生じたピークを同定するために、極めて純度の高いL−LA(>99.5%L−LA)PL−LAを下記条件下で合成した:
(1)連続撹拌反応器中で塊重合、
(2)触媒系スズビス(2−エチルヘキサノエート)およびPPh3の存在下、
(3)185℃で45分間
【0052】
下記スキーム2はPL−LAのポリマー鎖へのラセミ化によるメソ−ラクチドの挿入を示す。
【化9】

【0053】
ラセミ化PLAのC=Oピークの信号を13C−NMR分析した。得られたNMRスペクトルは[図2]に示してある。このスペクトルの分析から、L−ラクチドのラセミ化と、それによるLD−ラクチドまたはメソ−ラクチド挿入による立体規則性欠陥で生じたピークを求めることができる。
【0054】
c)市販の製品の13C−NMR分析例
L−ラクチドの重合で通常用いる方法で製造された商業的に市販のPLAを入手して分析した。すなわち、PLAの挿入による立体規則性欠陥のピークおよびラセミ化による立体規則性欠陥のピークを13C−NMRスペクトルで同定した。得られたNMRスペクトルは[図3]に示してある。[図1]および[図2]のスペクトルを参照して[図3]のスペクトルを分析、解釈すると、挿入欠陥によるピークおよびラセミ化欠陥によるピークがあることが分かる。約169.35ppmに結合信号がある点に注意。このピークは挿入欠陥およびラセミ化欠陥によるものである。さらに、このピークの一部はアイソタクチシティピークLのサテライトによるものである。
【0055】
d)全D−merまたはL−mer立体規則性を測定するための酵素測定
ラクチドは二量体である。二量体中に存在する光学活性エナンチオマーの2つの形の一方の全モノマー、例えばラクチド中のD−merまたはL−merの含有量は酵素分析によって測定でき、その純度を確認できる。この分析は重合後のPL−LAおよびPD−LAにも行うことができる。PL−LA中の一単位L−LAで100%のL−merが生じ、PD−LA中の一単位D−LAで100%のD−merが生じ、一単位メソ−LAで50%のD−merと50%のL−merが生じる。すなわち、L−LAまたはD−LAのラセミ化中に一つのメソ−LA均等物が存在する。
【0056】
ラクチドは下記の2つのキラル型で表すことができる:
【化10】

【0057】
メソ−ラクチド(非キラル)は下記で表すことができる:
【化11】

【0058】
このメソ−ラクチドは市販されていない。
下記スキーム3はラセミ化で得られたD−ラクチドおよび「メソーラクチド」のPL−LAのポリマー鎖中への挿入を示す。
【0059】
【化12】

【0060】
スキーム3の例では、一単位(20%)のD−LAが挿入され、一単位(20%)のL−LAがラセミ化している。酵素分析によってこのサンプル中には30%のD−merがあることが分かる。
PL−LAのポリマー鎖中にあるD−mer(D型のモノマー単位)の比率またはPD−LAのポリマー鎖中にあるL−mer(L型のモノマー単位)の比率は酵素法で決定できる。酵素法ではこのモノマー単位の起源すなわち挿入またはラセミ化を決定できない。
【0061】
e)立体規則性欠陥、挿入欠陥および全ラセミ化立体規則性欠陥を13C−NMRと酵素法の2つを組合せて定量決定
スキーム3で示すポリマー鎖で挿入欠陥のピーク面積およびラセミ化欠陥のピーク面積(メソ当量)が例えば13C−NMRで2対1である場合は、欠陥の分布は67%の挿入欠陥および33%のラセミ化欠陥である。さらに、酵素測定によってこのサンプルが30%のD−mer(または30重量%の当量D−LA)で、67%の欠陥が挿入欠陥であることが分かった場合、これは30%のD−merの67%に対応する。従って、20%のD−merすなわち20%のD−LAに対応する。
【0062】
ラセミ化欠陥は約33%であることがわかる。これは10%のD−merおよび20%のメソ−LA当量に対応する。
従って、PL−LA鎖中に存在するL−LA、D−LAおよびメソ−LA(LD−LA)の量は下記の式から計算できる:
【0063】
【数1】

【0064】
(ここで、「STPI」は挿入ピークの全面積を表し、「STPR」はNMRによって求めたラセミ化ピークの全面積に、酵素法によって測定されたD−merの比率を掛けたものを表す)
従って、D−LAの重量%が挿入立体規則性を表す。
【数2】

【0065】
重量(wt)%メソ−LAはラセミ化立体規則性を表す。
wt%L−LA=100−(wt.%D−LA+wt.%メソ−LA)
全立体規則性=挿入立体規則性+ラセミ化立体規則性
【0066】
f)分析方法
1.酵素法
本発明のポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸の立体化学純度はL−merまたはD−merの各含有量から求めた。この決定には酵素法を用いた。
この酵素法の原理は以下の通り:L−乳酸塩イオンおよびD−乳酸塩イオンをそれぞれL−乳酸塩デヒドロゲナーゼ酵素およびD−乳酸塩デヒドロゲナーゼ酵素によって、補酵素としてニコチンアミド−アデニンジヌクレオチド(NAD)を用いて、酸化してピルビン酸塩にする。反応をピルビン酸塩の生成側に進めるためにはこの化合物をヒドラジンと反応させて捕捉する必要がある。340nmでの光学密度の増加がサンプル中に存在するL−乳酸塩またはD−乳酸塩の量に比例する。
25mlの水酸化ナトリウム(1mol/L)を0.6gのPLAと混合してポリ乳酸のサンプルを調製し、この溶液を8時間沸騰させた後、冷却する。次いで、この溶液に塩酸(1mol/L)を加えて中性pHにした後、十分な量の脱イオン水を加えて200mlにする。
【0067】
次いで、サンプルをVital Scientific Selectra Junior分析器で分析した。ポリ−L−乳酸のL−mer測定の場合はScil社から「L−乳酸5260」の名称で市販のボックスを用い、ポリ−D−乳酸のD−mer測定の場合はScil社から「L−乳酸5240」との名称で市販のボックスを用いて分析した。分析では反応ブランクと較正品「Scil 5460」とを用いてキャリブレーションした。
【0068】
サンプルの調製法のみを変えてラクチドの光学純度または異性体純度を同じ酵素法で測定した。ラクチドのサンプルは25mlの水酸化ナトリウム(1mol/L)と0.6gのラクチドとを混合して調製した。この溶液を混合した後、30分間静置し、その後、塩酸(1mol/L)を添加して中性pHに調整した後、十分な量の脱イオン水を添加して200mlにした。
【0069】
2.NMR法
挿入欠陥およびラセミ化欠陥の存在を炭素−13核磁気共鳴(NMR)(Avance,500MHz,10mm SELXプローブ)によって測定した。サンプルは250mgのポリ乳酸を2.5〜3mlのCDCl3に溶かしたものから調製した。
【0070】
2.実施例1〜4
本発明方法を用いてアイソタクチックポリラクチドの各種サンプルを調製した。異性体純度が99.5重量%以上である立体化学配置L−Lの出発材料のラクチドをトリフェニルホスフィン、PPh3の存在下で塩スズ(II)ビス(2−エチルヘキサノエート)と接触させた。ラクチドと触媒とのモル比(ラクチド/触媒)は4000にした。本発明方法は大気圧で窒素流下、撹拌器を備えた連続水平反応器内で実施した。ラクチドの残留水含有量は25〜50ppmであった。各試験の重合条件、例えば温度、滞留時間および撹拌器回転速度は[表1]に示す。
L−merの比率は酵素法で測定した。D−merの比率は計算(100%−%L−mer)で求めた。
挿入欠陥およびラセミ化欠陥の存在は炭素−13核磁気共鳴(NMR)によって測定した。
未反応の出発材料のラクチド(いわゆる残留ラクチド)の比率は1H−NMRによって測定した。結果を[表1]に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
3.実施例5〜9
ラクチドの重合に通常用いる方法で調製された3つの市販のポリ−L−乳酸ポリマー(C〜E)を、本発明方法で得られた2つのポリ−L−乳酸ポリマー(A、B)と比較した。
ポリ−L−乳酸のポリマーAおよびBは、光学純度が99.5%以上のL−ラクチドから、175℃の温度、25分の滞留時間、スズ(II)ビス(2−エチルヘキサノエート)およびトリフェニルホスフィンPPh3の存在下で反応器内で合成した。ラクチドと触媒とのモル比(ラクチド/触媒)は4000にした。ポリ−L−乳酸Aの重合は大気圧(1013mbar)で窒素流下に実施した。ポリ乳酸Bの重合は1213mbarの気圧で窒素下に実施した。重合開始剤として1−ドデカノールをラクチド/アルコールモル比を681にして用いた。結果を[表2]に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
本発明のポリ−L−乳酸AおよびBのポリマーは他のポリ乳酸のポリマーとは違って、挿入欠陥をほとんど、あるいは全く示さない。本発明ポリマーのラセミ化欠陥(メソラクチド当量)の比率も市販のポリマーC〜Eの比率よりはるかに低い。
サンプルA〜Eの結晶化温度をISO規格11357−2方法に従って、示差走査熱量測定によって測定した。この方法では、サンプルを毎分10℃の速度で20℃から200℃まで加熱し、次いで毎分20℃の速度で200℃から20℃に冷却し、次いで、毎分10℃の速度で20℃から200℃まで加熱した。
ポリマーAおよびBの第2加熱中に測定した結晶化温度は100〜120℃であった。結晶化現象は上記ポリマーの90〜100℃の第1加熱後の冷却中も観察できた。市販用の製品C〜Eのサンプルの溶融サーモグラムでは結晶化温度は全く観察されなかった。
【0075】
4.実施例10
この実施例では、光学純度が99.5%以上のL−L−ラクチドから、二軸押出機(L/D比:56)で、195℃の温度で20分間、スズ(II)ビス(2−エチルヘキサノエート)およびトリフェニルホスフィンの存在下でポリ−L−乳酸を合成した。ラクチドと触媒とのモル比(ラクチド/触媒)は5000にした。ポリ−L−乳酸の重合は大気圧でアルゴン流下に実施した。開始剤としてオクタノールを用いた。ラクチドとオクタノールとのモル比(ラクチド/オクタノール)は400にした。
得られたポリマーの、酵素法で測定したL−merの量は99.6%である。挿入欠陥比率(% DD−LA)は0.2%以下で、ラセミ化欠陥比率(% LD−LA)は0.5%である。
数平均分子量は74,000で、Mw/Mn比は1.76である。
得られたポリマーの結晶化温度は実施例3で述べたものと同じ方法で測定した。このポリマーの第2加熱中に測定した結晶化温度は100〜120℃であった。結晶化現象は上記ポリマーの90〜100℃の第1加熱後の冷却中も観察できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LまたはDの光学純度が少なくとも99.5重量%である立体化学配置L−LまたはD−Dの対応するラクチドを、重合開始剤の存在下で170〜200℃の温度、5〜75分の反応時間で、少なくとも一種の触媒系と接触させて、ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を形成することを特徴とする、下記(1)または(2)のポリ乳酸を得るための塊重合方法:
(1)式(Ia)の二量体単位D−Dの比率がポリ−L−乳酸の0〜0.5重量%であり、式(II)および(III)の二量体単位D−Lおよび/またはL−Dの比率がポリ−L−乳酸の0〜2.5重量%である、数平均分子量が60 000〜200 000の立体配置Lのポリ乳酸:
【化1】

【化2】

(2)式(Ib)の二量体単位L−Lの比率がポリ−D−乳酸の0〜0.5重量%であり、式(II)および(III)の二量体単位D−Lおよび/またはL−Dの比率がポリ−D−乳酸の0〜2.5重量%である、数平均分子量が60 000〜200 000の立体配置Dのポリ乳酸:
【化3】

【化4】

【請求項2】
立体化学配置L−LまたはD−DのラクチドのLまたはDの光学純度が少なくとも99.8%である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重合開始剤が水、アルコールまたは一般式R10−(A)sのアミン(ここで、AはOHまたはNH2、sは1または2、R10は置換または未置換のアルキルまたはアリール基)である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
170〜185℃の温度、15〜45分の反応時間で行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
減圧下、加圧下または大気圧下で行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
不活性ガスの存在下で行う請求項5に記載の方法。
【請求項7】
連続法で行う請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
必要に応じて高粘度撹拌器を備えた反応器で実施する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加圧下でまたは窒素流下で、好ましくは加圧窒素下で行う請求項8に記載の方法。
【請求項10】
押出機中で押出し中に行う請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
不活性ガス流、好ましくは窒素流下で行う請求項11に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法で得られるポリ−L−乳酸。
【請求項13】
二量体単位D−Dの比率が0〜0.3重量%である請求項12に記載のポリ−L−乳酸。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法で得られるポリ−D−乳酸。
【請求項15】
二量体単位L−Lの比率が0〜0.3重量%である請求項14に記載のポリ−D−乳酸。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれか一項に記載のポリ乳酸の包装材料、テキスタイルおよび使い捨て用品の製造での使用。
【請求項17】
請求項12〜15のいずれか一項に記載のポリ乳酸の耐久消費材の分野での使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−515245(P2012−515245A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545749(P2011−545749)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050477
【国際公開番号】WO2010/081887
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(510171690)フテロ ソシエテ アノニム (3)
【Fターム(参考)】