説明

アイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法

【課題】車両のアイドリングストップからのエンジンの再始動時にヒルスタートアシストを低コストで円滑に行えるアイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法を提供する。
【解決手段】アイドリングストップシステムは、車両の走行停止状態において原動機4を停止および再始動するアイドリングストップシステムであって、ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を実行する制動制御装置6と、ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の原動機4を再始動する原動機制御装置4Eと、原動機4の再始動に先立って制動制御装置6の作動条件を一時的に緩和する作動条件緩和手段6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を停止した際にエンジンを止めるアイドリングストップを装備する車両のアイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が停止した際、エンジンを止めて燃料を節約する、つまり燃費をかせぐアイドリングストップ付き車両がある。
VSA(登録商標:Vehicle Stability Assist)に代表される車両制御ECUは、アイドリングストップからスタータモータでエンジンを始動時、供給される電源電圧が低下する。なお、VSAとはESC(Electlic Stability Control)の別称であり、車輪のロックを防止しブレーキ力を維持するABS(Antilock Brake System)と、車輪の空転を防止するTCS(Traction Control System)と、スピン検出のヨー制御とを組み合わせた制御である。
【0003】
この場合、車両制御ECUの通常の制御を行うと電源電圧が低下するため、インジケータでアラームを発生したり、電圧異常と判定して制御を停止したりする。
例えば、電源電圧の定格が12Vの場合に10V以下に低下したとき、直ちに坂道発進の後ずさりを防止するヒルスタートアシストなどの車両制御機能を停止していた。
これは、10V以下の低電圧時には制御できない機能が発生するため、一律に全ての制御(ABS、VSA、ヒルスタートアシストなど)を機能停止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−71740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記したように、アイドリングストップ機構を有する車両では、エンジンの自動復帰時に車両制御ECUとしてのブレーキECUに供給される電源電圧の低下が発生するため、ヒルスタートアシストができなくなる問題がある。
他方、アイドリングストップ付き車両では、演算部であるブレーキECUに別電源にて電源を供給した場合には、エンジン始動時にも正常に演算可能である。しかし、別電源を使用するため、コスト上昇の起因となる。
【0006】
解決手法として、特許文献1の技術があるが、本技術ではABS制御時に限定しており、また電源低下時に誤検知を防ぐために回路構成を見直したものであり、低電圧にも正常に制御することを目的にしたものでない。
【0007】
本発明は上記実状に鑑み、アイドリングストップからのエンジンの再始動時にヒルスタートアシストを低コストで円滑に行えるアイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、車両の走行停止状態において原動機を停止および再始動するアイドリングストップシステムであって、ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を実行する制動制御装置と、前記ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の前記原動機を再始動する原動機制御装置と、前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置の作動条件を一時的に緩和する作動条件緩和手段とを備えている。
第7の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第1の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0009】
第1の本発明のアイドリングストップシステムおよび第7の本発明のアイドリングストップの方法によれば、通常の制動力保持中に異常判定や制動力保持の解除が実行されることを防止することができる。また、バックアップ電源の能力を小さく設定しても制動力を確実に保持することができる。
【0010】
第2の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記制動制御装置の作動条件の緩和とは、前記制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させることである。
第8の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第2の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0011】
第2の本発明のアイドリングストップシステムおよび第8の本発明のアイドリングストップの方法によれば、最低限界電圧を低下させるので供給される電圧が低下した際にも支障なく制御が行える。
【0012】
第3の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1または第2の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記原動機制御装置は、前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置に再始動予告信号を送信するとともに、前記再始動の完了後に前記制動制御装置に始動完了信号を送信し、前記制動制御装置は、前記再始動予告信号の受信を契機に前記作動条件緩和手段により作動条件の緩和を実行し、前記始動完了信号を受信した場合には前記作動条件の緩和を終了して通常の前記作動条件に復帰している。
第9の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第3の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0013】
第3の本発明のアイドリングストップシステムおよび第9の本発明のアイドリングストップの方法によれば、原動機が通常運転状態となった後には制動制御装置の作動条件を通常レベルに復帰させることで、確実に異常検知や制動力制御を実行できるようになる。加えて、作動条件の緩和によって制御性能が不足することが防止される。
【0014】
第4の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第3の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記制動制御装置は、前記作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードを制限している。
第10の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第4の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0015】
第4の本発明のアイドリングストップシステムおよび第10の本発明のアイドリングストップの方法によれば、制御可能なモードを制限することで、制動制御装置の消費電力を低減し、より確実に制動力保持の実行が可能となる。
【0016】
第5の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1から第4の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記車両の電源の電圧状態を監視する電源状態監視手段を備え、前記電源状態監視手段は、前記電圧状態から前記制動制御装置による制動力保持が不能となる可能性があると判定した際には前記原動機の停止および再始動を禁止している。
第11の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第5の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0017】
第5の本発明のアイドリングストップシステムおよび第11の本発明のアイドリングストップの方法によれば、不完全な状態で制動力保持が実行されることにより、原動機停止状態での車両の移動などが発生することを防止できる。
【0018】
第6の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1から第5の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記原動機の環境状態を判定する原動機環境状態判定手段と、前記原動機環境状態判定手段の判定した環境状態に基づき前記作動条件の緩和度合いを変更する緩和度合い変更手段とを備えている。
第12の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第6の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0019】
第6の本発明のアイドリングストップシステムおよび第12の本発明のアイドリングストップの方法によれば、雰囲気温度や原動機の油温などの原動機の環境状態に基づき電圧降下を予測して条件を緩和するため、特に低温時など条件を緩和することで制御の不具合を未然に防止できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アイドリングストップからのエンジンの再始動時にヒルスタートアシストを、コスト上昇を招来することなく円滑に行えるアイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施形態の車両のブレーキの構成を示す概念的斜視図である。
【図2】実施形態の車両のアイドリングストップに係る制御系を示すブロック図である。
【図3】(a)は坂道を登坂する車両が途中で停止し、ヒルスタートアシスト制御が行われ発進する動作を示す側面図であり、(b)はヒルスタートアシスト制御の過程におけるキャリパ液圧、アクセル開度等の状態を示す図である。
【図4】実施形態の液圧制動装置の液圧回路の第1系統の概要を示す構成図である。
【図5】実施形態の運転者がブレーキペダルを踏んだ際の液圧制動装置の第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図である。
【図6】実施形態の運転者がブレーキペダルからアクセルペダルに踏み変えた際のヒルスタートアシスト制御の液圧制動装置の第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図である。
【図7】実施形態の車両のヒルスタートアシスト制御を有するアイドリングストップ制御の緒元を示すタイムチャートである。
【図8】実施形態の車両のヒルスタートアシスト制御を有するアイドリングストップ制御のフローを示す図である。
【図9】実施形態の車両のアイドリングストップ時のヒルスタートアシスト制御の電圧低下量を含む緒元を示すタイムチャートである。
【図10】実施形態のブレーキを稼動する液圧制動装置のレギュレータバルブに印加される電圧と、レギュレータバルブで保持可能なキャリパ液圧との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の車両1のブレーキの構成を示す概念的斜視図である。
実施形態の四輪等の車両1は、信号待ち時、渋滞時などに停止した際、エンジン4(図2参照)を止めるアイドリングストップ機能を装備する車両である。
車両1の前方には、車両1の駆動輪かつ進行方向を変える操舵輪である右前輪2rおよび左前輪2lを備えており、車両1の後方には、右後輪3rおよび左後輪3lを備えている。
【0023】
右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lに近接して、各車輪(2r、2l、3r、3l)の回転を磁界の変化により検出する非接触方式などの車輪速度センサs1がそれぞれ設けられている。各車輪速度センサs1の検出情報より車両1の速度を取得することができる。
車両1の前方には、エンジン4(図2参照)が配設されており、エンジン4は、図示しない変速機、差動歯車装置などの動力伝達装置を介して、右前輪2rおよび左前輪2lに駆動力を付与する。
【0024】
右・左前輪2r、2lは、車両1の内部で運転者(図示せず)がステアリングホイール3を回動操作することで、ステアリングシャフト等を介して操舵される。
車両1内に着座した運転者の足元には、エンジン4の回転速度を高めるアクセルペダルp1が配置されている。アクセルペダルp1近傍には、アクセルペダルp1の踏み込み(操作)量を検出するアクセル開度センサs2が設けられている。
【0025】
さらに、運転者の足元には、アクセルペダルp1に隣接して、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lを制動するためのブレーキペダルp2が配設されている。
車両1の内部には、運転者がブレーキペダルp2を踏み込む(操作する)ことで、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lにブレーキ液圧を用いて制動力(ブレーキ力)を付与する液圧制動装置Yが備わっている。
【0026】
液圧制動装置Yは、運転者のブレーキペダルp2の操作量がブレーキ液圧として伝えられるマスターシリンダY1と、マスターシリンダY1とホースやパイプの液圧配管Y0で接続され後記のチェック(逆止)弁、レギュレータバルブなどの液圧機器が内装される液圧ユニットY3と、マスターシリンダY1からの液圧が液圧ユニットY3で制御されて液圧配管Y2を介して伝達されるホイールシリンダY4、Y5、Y6、Y7とを具えている。
【0027】
ホイールシリンダY4、Y5、Y6、Y7は、液圧配管Y2から伝達されるブレーキ液圧により、ブレーキ2r1、2l1、3r1、3l1にそれぞれ制動力を付与し、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lを制動する。
図2は、車両1のアイドリングストップに係る制御系Sを示すブロック図である。なお、図2では、車両1のアイドリングストップ以外のその他の制御系は省略して示している。
【0028】
車両1は、アイドリングストップに係る制御を行うための制御系Sとして、エンジン4を制御するエンジン制御ECU(Electronic Control Unit)(4E)と、液圧制動装置Yによる右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lのブレーキ2r1、2l1、3r1、3l1を制御するブレーキ制御ECU(6)とを有している。
車両1は、エンジン4を始動したり、液圧ユニットY3の後記のレギュレータバルブv1などのアクチュエータや、エンジン制御ECU(4E)、ブレーキ制御ECU(6)などに電源電圧を供給するバッテリ5を備えている。
【0029】
ブレーキ制御ECU(6)へは、アクチュエータ作動用の電源とCPU作動用の電源とが供給される。
具体的には、CPU作動用の電源として、ブレーキ制御ECU(6)に、DC/DCコンバータなどの補助電源7を介して所定電圧が印加される。なお、補助電源7は、エンジン制御ECU(4E)からの補助電源供給指令により作動される。
また、アクチュエータ作動用として、バッテリ5からはブレーキ制御ECU(6)に、液圧制動装置Yの後記のアクチュエータ(ポンプp、レギュレータバルブv1など)に印加されるアクチュエータ電源電圧Avが供給される。
【0030】
エンジン制御ECU(4E)は、エンジン4の始動時の処理、アイドル時の処理、燃料噴射量、点火時期の演算などを行い、演算に従って所定のタイミングで、図示しないスタータモータでエンジン4を始動する始動装置、燃料を供給する燃料装置、混合気に火花で着火する点火装置などの各種アクチュエータに出力信号を送信する。
【0031】
制御系Sには、エンジン4を始動装置で始動したり、燃料装置で燃料を供給したり、点火装置で着火するためなどに電力が必要である。
そのため、前記したバッテリ5や、エンジン4のクランクシャフトに接続されるロータを有する発電機4hが備わり、発電機4hで発電した電力がバッテリ5に蓄電される。
【0032】
次に、車両1に装備されるヒルスタートアシスト制御について説明する。
図3(a)は、坂道slを登る車両1が途中で停止し、ヒルスタートアシスト制御が行われ発進する動作を示す側面図であり、図3(b)は、ヒルスタートアシスト制御の過程におけるキャリパ液圧、アクセル開度等の状態を示す図である。
【0033】
ヒルスタートアシスト制御とは、車両1で坂道slを登坂中(図3(a)のポジションP1)、運転者がブレーキペダルp2を踏んで車両1を停止した際(図3のポジションP2)、運転者が車両1を発進するためにブレーキペダルp2からアクセルペダルp1に踏み変えた際に、車両1が後ずさりすることなく前方に発進する(図3(a)のポジションP3)ことができるようにする制御である。ポジションP1は、ブレーキペダルp2が踏んで車両1を減速している状況である。ポジションP2は、ブレーキペダルp2が踏み続けられ停止している状況からのアクセルペダルp1への踏み変えを示している。
【0034】
図4、図5、図6は、液圧制動装置Yの第1系統の概要を示す構成図であり、図4は、液圧制動装置Yの液圧回路の第1系統の概要を示す図であり、図5は、運転者がブレーキペダルp2を踏んだ際の液圧制動装置Yの第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図であり、図6は、運転者がブレーキペダルp2からアクセルペダルp1に踏み変えた際のヒルスタートアシスト制御の液圧制動装置Yの第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図である。
【0035】
液圧制動装置Yは、マスターシリンダY1から液圧が伝達され図1に示す左前輪2lのブレーキ2l1および右後輪3rのブレーキ3r1が作動される第1系統と、マスターシリンダY1から液圧が印加され右前輪2rのブレーキ2r1および左後輪3lのブレーキ3l1が作動される第2系統との2つの系統を有している。
ここで、第1系統と第2系統とは同様な構成であるから第1系統についての説明を行い、第2系統の説明は省略する。つまり、図4〜図6では、第2系統の図示を省略して示している。
【0036】
図4に示すように、左前輪2lのブレーキ2l1には、前記したように、ホイールシリンダY5が配設されており、ブレーキペダルp2の操作量が、ホイールシリンダY5内のブレーキ液圧として変換され、左前輪2lが制動される構成である。
同様に、右後輪3rのブレーキ3r1には、ホイールシリンダY6が配設されており、ブレーキペダルp2の操作量が、ホイールシリンダY6のブレーキ液圧として変換され、右後輪3rが制動される構成である。
【0037】
運転者によるブレーキペダルp2の踏み動作がブレーキ液圧に変換されるマスターシリンダY1の下流には、ヒルスタートアシスト制御時などに左前輪2lのブレーキ2l1のブレーキ液圧を保持するとともに右後輪3rのブレーキ3r1のブレーキ液圧を保持するレギュレータバルブv1が配設されている。レギュレータバルブv1は、ノーマルオープタイプのバルブであり、ブレーキ制御ECU(6)から閉指令が出力された場合に限り閉弁する。
【0038】
マスターシリンダY1の近傍には、液圧を検知するマスタ圧センサs4が設けられており、マスターシリンダY1のブレーキ液圧を検出した検出信号は、CAN(Controller Area Network)を介して、ブレーキ制御ECU(6)に送信される。
レギュレータバルブv1と、左前輪2lのブレーキ2l1に配設されるホイールシリンダY5との間には、ノーマルオープンタイプの第1インバルブv2が設けられている。第1インバルブv2は、閉指令がブレーキ制御ECU(6)から出力された場合に限り閉弁する。
【0039】
そして、第1インバルブv2に並列に、左前輪2lのホイールシリンダY5へのブレーキ液の流入を阻止する第1チェックバルブv4が設けられている。
また、左前輪2lのホイールシリンダY5へのブレーキ液圧を保持したり、開放するためのノーマルクローズドタイプの第1アウトバルブv3が設けられている。第1アウトバルブv3は、通常、閉弁されており、左前輪2lがロックした場合などにブレーキ制御ECU(6)から開指令が出力されたときに限り開弁する。
【0040】
同様に、レギュレータバルブv1と、右後輪3rのブレーキ3r1に配設されるホイールシリンダY6との間には、ノーマルオープンタイプの第2インバルブv5が設けられている。第2インバルブv5は、閉指令がブレーキ制御ECU(6)から出力された場合に限り閉弁する。
そして、第2インバルブv5に並列に、右後輪3rのブレーキ3r1のホイールシリンダY6へのブレーキ液の流入を阻止する第2チェックバルブv7が設けられている。
【0041】
また、右後輪3rのホイールシリンダY6へのブレーキ液圧を保持したり、開放するためのノーマルクローズドタイプの第2アウトバルブv6が設けられている。第2アウトバルブv6は、通常、閉弁されており、右後輪3rがロックした場合などにブレーキ制御ECU(6)から開指令が出力されたときに限り開弁する。
左前輪2lの第1アウトバルブv3および右後輪3rの第2アウトバルブv6の下流には、リザーバr1が設けられており、第1・第2アウトバルブv3、v6が開弁された際、液圧を逃す機能を果たす。
【0042】
レギュレータバルブv1とリザーバr1との間には、ポンプpと第3チェックバルブv8とが介設されている。
ポンプpは、リザーバr1に貯留されるブレーキ液を吸入し、オリフィスo1側に吐出し、リザーバr1によるブレーキ液圧の吸収によって減圧されたブレーキ液圧を回復する。オリフィスo1はブレーキ液圧の脈動を減衰させる。
【0043】
第3チェックバルブv8は、リザーバr1からポンプpへのブレーキ液の流入を許容する一方、ポンプpからリザーバr1への逆流を阻止する。
第4チェックバルブv9は、レギュレータバルブv1に並列に配設されており、マスターシリンダY1からホイールシリンダY5、Y6へのブレーキ液の流入を許容する一方、ホイールシリンダY5、Y6からマスターシリンダY1へのブレーキ液の逆流を阻止する。第4チェックバルブv9により、ヒルスタートアシスト制御でレギュレータバルブv1が閉弁された際、ホイールシリンダY5、Y6のブレーキ液圧が開放されることが阻止される。
【0044】
リリーフ弁v10は、ノーマルクローズドタイプの弁であり、通常閉弁することで、ブレーキ液圧(キャリパ圧)が逃げたり、ポンプpが稼動時にブレーキ液がポンプpを迂回して流れることを阻止する。リリーフ弁v10は、ブレーキ制御ECU(6)から開指令が出力されたときに限り開弁し、ブレーキ液圧(キャリパ圧)を開放する。
【0045】
次に、液圧制動装置Yのヒルスタートアシスト制御の動作について説明する。
車両1の通常走行時には、運転者はブレーキペダルp2を踏まないので、図4に示すように、液圧制動装置Yの液圧配管Y0、Y2内のブレーキ液のブレーキ液圧は低く、ホイールシリンダY4、Y5、Y6、Y7からそれぞれブレーキ2r1、2l1、3r1、3l1に制動力は印加されない。
【0046】
車両1が、図3(a)に示すように、坂道slを登坂中に運転者がブレーキペダルp2を踏む(図3のポジションP1)と、図5の太線に示すように、マスターシリンダY1から、ノーマルオープタイプのレギュレータバルブv1、ノーマルオープンタイプの第1インバルブv2を介して、ホイールシリンダY5にブレーキ液圧が印加され、左前輪2lがブレーキ2l1により制動される。
【0047】
同時に、図5の太線に示すように、マスターシリンダY1から、ノーマルオープタイプのレギュレータバルブv1、ノーマルオープンタイプの第2インバルブv5を介して、ホイールシリンダY6に液圧が印加され、右後輪3rがブレーキ3r1により制動される。
同時に、右前輪2r、左後輪3lも、左前輪2l、右後輪3rと同様な動作で制動される。
【0048】
この時、運転者がブレーキペダルp2を踏んでいることから、図3(a)に示すポジションP1〜P2初期では車両1が制動によって停止しているため、マスタ圧センサs4で検出されるキャリパ液圧(ブレーキ液圧)は、図3(b)に示すように、坂道slに車両1を停止保持する液圧e1より大きなキャリパ液圧e2を有している。
【0049】
そして、図3(a)に示すポジションP2で、運転者が車両1を発進させるため、ブレーキペダルp2からアクセルペダルp1に踏み変えると(図3(b)の時刻t0〜t2)、ブレーキペダルp2の踏み込み力で保持していたマスターシリンダY1内のブレーキ液圧が低下し、マスタ圧センサs4で検出されるキャリパ液圧(ブレーキ液圧)e2が、坂道slに車両1を停止保持する液圧e1より低下する方向に変化する。そのため、このままの状態では、車両1は坂道slを後ずさりする。そこで、ブレーキ制御ECU(6)は、ヒルスタートアシスト制御を稼働する。なお、ここでの説明は、アイドリングストップを行っていない状況での動作の説明である。
【0050】
ヒルスタートアシスト制御は、前後Gセンサs3(図1参照)で測定される車両1の前後方向の加速度に応じて、既設定されるマップを用いてヒルスタートアシスト制御開始の液圧(坂道slに車両1を停止保持する液圧e1)を決定する。
そして、マスタ圧センサs4で検出される図3(b)に示すキャリパ液圧e2が液圧e1にまで低下すると、ブレーキ制御ECU(6)からレギュレータバルブv1に閉信号(駆動電流)を送り閉弁し、図6の太線に示すように、ホイールシリンダY5、Y6に印加される液圧を液圧e1に保持する。この際、キャリパ液圧(ブレーキ液圧)が液圧e1に不足する場合には必要に応じてポンプpを稼働し、キャリパ液圧を液圧e1に維持する。
【0051】
図3(b)の時刻t2で、運転者は、アクセルペダルp1を踏み始めると、アクセル開度センサs2(図1参照)で測定されるアクセル開度が、坂道slの登坂に必要なアクセル開度になったとき(図3(b)の時刻t3)には、ブレーキ制御ECU(6)からレギュレータバルブv1に開信号を送り開弁し保持圧を解除する。
こうして、図4に示すように、ホイールシリンダY4〜Y7に印加されるキャリパ液圧を低下させ、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lの制動を解除し、ヒルスタートアシスト制御を停止する。
【0052】
以上が、ヒルスタートアシスト制御の概要であるが、図2に示すバッテリ5から印加されるアクチュエータ電源電圧Avが既設定の所定電圧以下となった場合には、レギュレータバルブv1への閉信号(駆動電流)の送信を停止したり、ポンプpの稼働を停止するなど、ヒルスタートアシスト制御を行わないこととする診断を行っている。
例えば、後記の電圧条件V0が10V未満では、ヒルスタートアシスト制御の機能が停止するように、制御の制限(電圧条件)を課している。
【0053】
次に、車両1のアイドリングストップ時のヒルスタートアシスト制御について説明する。
車両1のアイドリングストップに係る制御は、エンジン制御ECU(4E)がメインに、ブレーキ制御ECU(6)とCANを介して通信し、行われる。
図7は、車両1のヒルスタートアシスト制御を有するアイドリングストップ制御の緒元を示すタイムチャートである。図7の横軸は時間を示し、縦軸はアクチュエータ電源電圧Av、エンジン回転速度n、エンジン始動予告信号を示す。
【0054】
アクチュエータ電源電圧Avとは、前記の図2に示すように、バッテリ5からヒルスタートアシスト制御に係るアクチュエータのレギュレータバルブv1、ポンプpなどに付与される電源電圧を指す。
図8は、車両1のヒルスタートアシスト制御を有するアイドリングストップ制御のフローを示す図である。
【0055】
車両1が停止後、アイドリングストップを行うに際し、バッテリ5の電圧をエンジン制御ECU(4E)が監視することで、アイドリングストップを行う所定の許容電圧範囲にあるか否か判定される。例えば、バッテリ電圧が12Vの場合、I/S(アイドリングストップ)禁止上限ラインを13.5Vと設定し、I/S(アイドリングストップ)禁止下限ラインを10Vと設定する。換言すれば、アクチュエータ電源電圧Avが図7のI/S(アイドリングストップ)禁止上限ライン以下かつI/S禁止下限ライン以上の電圧であるか否か判定される(図8のS101)。
【0056】
つまり、エンジン制御ECU(4E)は、ヒルスタートアシスト制御のブレーキ制御ECU(6)による制動力保持が不能となる可能性があると判定した場合には、アイドリングストップを禁止する。
図8のS101の判定は、図7の時刻t0〜t1のアイドリングストップ中、継続して行われる。
【0057】
アクチュエータ電源電圧Av(バッテリ5の電圧)が図7のI/S禁止上限ラインを超えかつI/S禁止下限ライン未満の電圧である場合(S101でNo)、エンジン制御ECU(4E)はアイドリングストップを行わない。
アクチュエータ電源電圧Av(バッテリ5の電圧)が図7のI/S禁止上限ライン以下かつI/S禁止下限ライン以上の電圧である場合(S101でYes)、アイドリングストップが開始され、エンジン制御ECU(4E)がエンジン4を停止する(S102)。
そして、エンジン制御ECU(4E)はI/S(アイドリングストップ)の終了条件が有るか否か監視する(S103)。
【0058】
例えば、エンジン制御ECU(4E)がタイマでエンジン4の停止後、既設定の所定時間が経過したか判定し、所定時間が経過したことが終了条件とされる。または、負圧ブースタ(ブレーキブースタ)の負圧が既設定の所定値以下に低下したか否か判定され、所定値以下に低下したことが終了条件とされる。または、車両1内の室温が図示しない温度センサで測定され、室温が既設定の所定範囲から外れた場合、例えば夏季、室温が所定温度以上に上昇した場合が終了条件とされる。または、ブレーキの液圧制動装置Yのマスタ圧センサs4で検出されるブレーキ液圧(キャリパ圧)が判定され、既設定の所定液圧以下に低下した場合やさらに電圧が低下している場合などが終了条件とされる。これらの終了条件は、少なくとも1つ以上用いることとしてもよいし、例示した以外の終了条件を適用してもよい。
【0059】
I/S(アイドリングストップ)の終了条件がない場合(S103でNo)、S102に移行し、I/S(アイドリングストップ)を継続する。
一方、I/S(アイドリングストップ)の終了条件がある場合(図7の時刻t1)(S103でYes)、エンジン制御ECU(4E)は、エンジン自動復帰の予告を、ブレーキ制御ECU(6)に送信されるエンジン始動予告信号をOFFからON(再始動予告信号)に変更してブレーキ制御ECU(6)に送信することで、ブレーキ制御ECU(6)に通知する(図7の時刻t1)(S104)。
【0060】
ブレーキ制御ECU(6)は、ONのエンジン始動予告信号を受信すると、通常モードから、例えば、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件V0(図7参照)が10Vの場合、10V未満でもヒルスタートアシストが正常機能するように、作動条件の緩和を行う。すなわち、制御の制限(図7のアクチュエータ電源電圧Avの電圧条件(最低限界電圧値)V0)を解除し、図7の電圧条件V1に変更する。
【0061】
なお、電圧条件V1への変更前は、ブレーキ制御ECU(6)により、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V0を下回った場合、ヒルスタートアシスト制御に用いるレギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータへの電源供給が停止される。
ところが、電圧条件V1に変更されると、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V1を下回らない限り、ヒルスタートアシスト制御に用いるレギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータへの電源供給が停止されない。従って、電圧条件V0を電圧条件V1に変更することで、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V0を下回っても電圧条件V1を下回らない限り、ヒルスタートアシスト制御に用いるレギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータへの電源供給が停止されない。従って、電圧条件V0を電圧条件V1に変更することで、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V0を下回っても電圧条件V1を下回らない限り、図示しないインパネにアラームが発せられたり、レギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータへの電源供給が停止されることがない。
【0062】
そのため、図7の時刻t1〜t3の間、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V1を下回らない場合には、アクチュエータのレギュレータバルブv1などにアクチュエータ電源電圧Avが供給され、前記したヒルスタートアシスト制御が遂行される。
本構成により、低電圧下でもヒルスタートアシスト制御が実施されることとなる。
【0063】
この際、作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードに制限するとよい。例えば、ポンプpの作動や各種センサの検出をOFFとしたり、図4に示すレギュレータバルブv1のみの制御とする。
また、同様にこのときブレーキ制御ECU(6)が実施する他ECUとのCAN通信途絶診断において、異常判定条件を緩和(即ち、途絶許容時間を延長あるいは診断を停止)するように構成する。
なお、本実施形態と異なり、INバルブの第1・第2インバルブv2、v5およびOUTバルブの第1・第2アウトバルブv3、v6の通電が必要な場合には、INバルブの第1・第2インバルブv2、v5およびOUTバルブの第1・第2アウトバルブv3、v6を含めての制御とする。
なお、本実施形態において、最初にバッテリ電圧を判定するよう構成したが、エンジン自動復帰の予告通知を受けた時点にて再度バッテリ電圧の判定をするよう構成してもよい。
【0064】
その後、図7の時刻t2で、エンジン制御ECU(4E)の制御により、バッテリ5から図示しない始動装置のマグネットスイッチに電流が供給され、図示しないスタータモータの軸に取着されたピニオンギアがエンジン4のフライホイールと噛み合う。ピニオンギアの移動でスイッチがオンされ、スタータモータに電流が供給され始動し、エンジン4の自動復帰が開始される(図7の時刻t2以後)(S105)。この際、バッテリ5の電圧が、スタータモータ、マグネットスイッチなどの稼動の電力として消費されるので、アクチュエータ電源電圧Avが急激に低下する(図7の時刻t2参照)。
【0065】
スタータモータの駆動によりエンジン4の回転速度が次第に上昇する(図7の時刻t2〜t3)。エンジン4の回転速度の情報は、クランクパルスとして図示しないクランクポジションセンサで取得され、CANを介して、エンジン制御ECU(4E)に送信される。
エンジン4の回転速度が、エンジン4が自ら始動できる所定値に達すると(図7の時刻t3)、バッテリ5からの始動装置への通電が停止され、マグネットスイッチへの通電が停止され、スタータモータの軸に取着されたピニオンギアがエンジン4のフライホイールから離隔するとともに、スタータモータへの通電が停止される。
【0066】
同時に、エンジン制御ECU(4E)から、エンジン4を始動するための燃料装置、点火装置などの各種アクチュエータに出力信号が送信され、エンジン4が始動される(S106)。この際、エンジン制御ECU(4E)から、ブレーキ制御ECU(6)に送信されるエンジン始動予告信号がオンからオフ(始動完了信号)に変更される(図7の時刻t3参照)。
【0067】
オフのエンジン始動予告信号を受信したブレーキ制御ECU(6)は、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件V1を電圧条件V0に回帰(復帰)する。何故なら、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件V0から電圧条件V1への変更は、アイドリングストップ時に特有のものだからである。
以上が、図8に示す車両1のヒルスタートアシスト制御を有するアイドリングストップ制御の流れである。
【0068】
ここで、低温時などの条件によって、エンジンオイルの粘度が高まり粘性抵抗が大きくなり、エンジン4を自動復帰するスタータモータの負荷量が増加し、消費電力が大きくなる場合がある。
そこで、ブレーキ制御ECU(6)にエンジン4の環境状態を判定する原動機環境状態判定手段と、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件の緩和度合いを変更する緩和度合い変更手段とを備えることが望ましい。
【0069】
すなわち、原動機環境状態判定手段で、寒冷地など、特に低温時には、図示しない温度センサで測定した雰囲気温度、或いは、温度センサで測定したエンジンオイルの油温に基づき、アクチュエータ電源電圧Avの電圧降下を予測する。そして、緩和度合い変更手段でアクチュエータ電源電圧Avの電圧条件の緩和度合いを、図7に示すように、電圧条件V1から電圧条件V2に変更する。
このように、低温時にスタータモータの負荷量が大きくなり、バッテリ5から供給されるアクチュエータ電源電圧Avの電圧降下量が大きくなることから、予め、車両1の環境に応じて、アクチュエータ電源電圧Avの作動条件の緩和を行うとよい。
【0070】
つまり、著しい低温時など、予めアクチュエータ電源電圧Avが大きく降下しそうなとき、車両1の環境情報を取得して、ヒルスタートアシスト制御のアクチュエータ電源電圧Avの作動条件の緩和度合いを変更(電圧条件V1→V2)することで、ヒルスタートアシスト制御を可能とする。
なお、緩和度合い変更手段は、原動機環境状態判定手段で予測した電圧降下が小さいと予測した場合には、アクチュエータ電源電圧Avの作動条件の緩和度合いを小さくする方に変更してもよい。例えば、電圧条件V1を電圧条件V0に近くなるように変更する。
【0071】
図9は、車両1のアイドリングストップ時のヒルスタートアシスト制御の電圧低下量を含む緒元を示すタイムチャートであり、横軸に時間を示し、縦軸にアクチュエータ電源電圧Av、エンジン回転速度n、電圧低下量信号Vsを示す。
図9の時刻t2で、スタータモータでエンジン4が自動復帰されると、バッテリ5の電圧が大きく消費されるため、アクチュエータ電源電圧Avの降下が生じる。
【0072】
これに伴い、アクチュエータ電源電圧Avのデジタル値の電圧低下量信号Vsが、CANを介して、ブレーキ制御ECU(6)、エンジン制御ECU(4E)、その他のECUに送信される。
電圧低下量信号Vsは、エンジン回転速度nが上昇するに従い、図2に示す発電機4hにより電力がバッテリ5に蓄電されるので、アクチュエータ電源電圧Avが上昇するため、その大きさが減少する。
【0073】
図10は、ブレーキを稼動する液圧制動装置Yのレギュレータバルブv1に印加される電圧と、レギュレータバルブv1で保持可能なキャリパ液圧との関係を示した図である。
レギュレータバルブv1に印加される電圧(アクチュエータ電源電圧Avに対応)の上昇に従い保持可能圧が上昇するが、所定電圧Vgに至るとレギュレータバルブv1は飽和磁束密度に達することから、物理的または機械的に保持可能圧は一定となる。
【0074】
ブレーキ制御ECU(6)は、アクチュエータ電源電圧Avの電圧低下量信号Vsを取得することで、図10に示す電圧−保持可能液圧マップをもとに、制御量の制限も可能としている。例えば、車両1の前後方向加速度、坂道の傾斜角度などの諸条件に応じて、レギュレータバルブv1に印加する電圧を変更することとしてもよい。
【0075】
実施形態のアイドリングストップ付き車両1によれば、演算部のエンジン制御ECU(4E)、ブレーキ制御ECU(6)に、DC/DCコンバータなどの補助電源7にて電源電圧を供給しており、エンジン始動時にも正常に演算可能である。
本システム構成下において、エンジン制御ECU(4E)はエンジン4の自動復帰の予告をエンジン始動予告信号で通知し(図7の時刻t1でエンジン始動予告信号がオン)、ブレーキ制御ECU(6)はエンジン4の自動復帰の情報を受信する。
【0076】
ブレーキ制御ECU(6)は、この情報を受信した場合、電源電圧が低下することを予測し、所定電圧、例えば電圧条件V0の10V未満でもヒルスタートアシストが正常機能するよう、制御の制限(電圧条件V0)を解除し、電圧条件V1とする。
これにより、アイドリングストップからの自動復帰時にも、演算部のブレーキ制御ECU(6)は正常に演算でき、なおかつヒルスタートアシストも正常に機能できる。
【0077】
なお、実施形態ではヒルスタートアシスト制御を例示して説明したが、この処理(制御)は、ヒルスタートアシストのみならず、自動復帰中に実施できる同種の制御のブレーキ力を保持するブレーキホールド、坂道でブレーキペダルp2から足を外した際に必要なブレーキ力を保持する坂道後退抑制システム(CAS:Creep Aided system)などにも適用できる。このように、車両1が停止中にブレーキペダルp2から足を踏み外した状態で停止を維持できるものがあるが、このようなものに対しては、同様に、アクセルペダルp1を踏み込んだときに、エンジン4の始動が開始され、通常モードに復帰される。
また、前記したように、エンジン4の自動復帰時に電圧低下量を予測し低下量を通知することで、それに応じて、電圧−保持可能液圧マップをもとに、制御量の制限も可能である。
【0078】
なお、前記実施形態では、車両1の通信方式としてCAN(Controller Area Network)を例示したが、J1850、ISO9141など他の通信方式でもよく、限定されないのは勿論である。
また、前記実施形態では、車両1として四輪を例示して説明したが、貨物自動車などのその他の車両でもよく、本発明を適用可能な車両であれば、例示した四輪以外の車両にも幅広く適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 車両
4 エンジン(原動機)
4E エンジン制御ECU(原動機制御装置、電源状態監視手段)
5 バッテリ(電源)
6 ブレーキ制御ECU(制動制御装置、作動条件緩和手段、原動機環境状態判定手段、緩和度合い変更手段)
p ポンプ(アクチュエータ)
p2 ブレーキペダル
v1 レギュレータバルブ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行停止状態において原動機を停止および再始動するアイドリングストップシステムであって、
ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を実行する制動制御装置と、
前記ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の前記原動機を再始動する原動機制御装置と、
前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置の作動条件を一時的に緩和する作動条件緩和手段とを
備えたことを特徴とするアイドリングストップシステム。
【請求項2】
前記制動制御装置の作動条件の緩和とは、前記制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させることである
ことを特徴とする請求項1に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項3】
前記原動機制御装置は、前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置に再始動予告信号を送信するとともに、前記再始動の完了後に前記制動制御装置に始動完了信号を送信し、
前記制動制御装置は、前記再始動予告信号の受信を契機に前記作動条件緩和手段により作動条件の緩和を実行し、
前記始動完了信号を受信した場合には前記作動条件の緩和を終了して通常の前記作動条件に復帰する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項4】
前記制動制御装置は、前記作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードを制限する
ことを特徴とする請求項3に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項5】
前記車両の電源の電圧状態を監視する電源状態監視手段を備え、
前記電源状態監視手段は、前記電圧状態から前記制動制御装置による制動力保持が不能となる可能性があると判定した際には前記原動機の停止および再始動を禁止する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項6】
前記原動機の環境状態を判定する原動機環境状態判定手段と、
前記原動機環境状態判定手段の判定した環境状態に基づき前記作動条件の緩和度合いを変更する緩和度合い変更手段とを
備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項7】
車両の走行停止状態において原動機を停止および再始動するアイドリングストップの方法であって、
前記原動機の再始動に先立って前記車両の制動を制御する制動制御装置の作動条件が一時的に緩和される過程と、
ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御が実行される過程と、
前記ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の前記原動機が再始動される過程とを
含んで成るアイドリングストップの方法。
【請求項8】
前記制動制御装置の作動条件の緩和とは、前記制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させることである
ことを特徴とする請求項7に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項9】
前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置に再始動予告信号が送信される過程と、
前記制動制御装置は、前記再始動予告信号の受信を契機に前記作動条件の緩和を実行する過程と、
前記再始動の完了後に前記制動制御装置に始動完了信号が送信される過程と、
前記制動制御装置が前記始動完了信号を受信した場合には前記作動条件の緩和を終了して通常の前記作動条件に復帰させる過程とを
含むことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項10】
前記制動制御装置が前記作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードを制限する過程を含む
ことを特徴とする請求項9に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項11】
前記車両の電源の電圧状態が監視される過程と、
前記電圧状態から前記制動制御装置による制動力保持が不能となる可能性があると判定された際には前記原動機の停止および再始動が禁止される過程とを
含むことを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項12】
前記原動機の環境状態が判定される過程と、
前記判定された環境状態に基づき前記作動条件の緩和度合いが変更される過程とを
含むことを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか一項に記載のアイドリングストップの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−250594(P2012−250594A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123691(P2011−123691)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】