説明

アイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法

【課題】アイドリングストップからのエンジン再始動時に各種ECUの誤動作を抑制し、エンジンの再始動を円滑に行う。
【解決手段】本発明に関わるアイドリングストップシステムは、車両1の走行停止状態において原動機4を停止および再始動するアイドリングストップシステムであって、ブレーキペダルp2の操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を実行する制動制御装置6と、ブレーキペダルp2の操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の原動機4を再始動する原動機制御装置4Eと、原動機4の再始動に先立って原動機制御装置4Eおよび制動制御装置6以外の少なくとも一つの車両制御デバイス8、9、6、10、11への通電あるいはその診断を一時的に停止する消費電力低減手段4E、8、9、6、10、11とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を停止した際にエンジンを止めるアイドリングストップ機能を装備する車両のアイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、VSA(登録商標:Vehicle Stability Assist)に代表される車両制御ECU(Electronic Control Unit)は電源電圧が低下した場合、例えば、定格12Vのバッテリの電圧が10V以下になった場合、誤検知を防止するためCAN(Controller Area Network)通信などの故障診断を停止していた。
【0003】
しかし、アイドリングストップ機能を有する車両では、スタータモータが駆動されるエンジン自動復帰時の電圧低下時には、補助電源(DC/DCコンバータ)の有無により、電圧低下が発生しないECUと、電圧降下が発生するECUとが混在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平04−71740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、現状では他ECUとの通信不良などの誤検知が発生する可能性がある。
解決手法として、特許文献1に記載の技術があるが、本技術は、車輪のロックを抑制してポンピンブレーキで制動するABS(Antilock Brake System)制御時に限定している。また、車両のバッテリの電源低下時に誤検知を防ぐために、ABS・ECU単体の回路構成を見直したものであり、他ECUとの通信不良の誤検知防止を目的にしたものではない。
【0006】
本発明は上記実状に鑑み、アイドリングストップからのエンジン再始動時に各種ECUの誤動作を抑制し、エンジンの再始動を円滑に行えるアイドリングストップシステムおよびアイドリングストップの方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、車両の走行停止状態において原動機を停止および再始動するアイドリングストップシステムであって、ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を実行する制動制御装置と、前記ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の前記原動機を再始動する原動機制御装置と、前記原動機の再始動に先立って前記原動機制御装置および前記制動制御装置以外の少なくとも一つの車両制御デバイスへの通電あるいはその診断を一時的に停止する消費電力低減手段とを備えている。
第7の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第1の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0008】
第1および第7の本発明によれば、通常の制動力保持中に制動力保持の解除や異常判定が実行されることを防止することができ、バックアップ電源の能力を小さく設定しても制動力を確実に保持することができる。
【0009】
第2の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記原動機制御装置は、前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置および前記車両制御デバイスに再始動予告信号を送信するとともに、前記再始動の際の自動復帰の完了後に前記制動制御装置および前記車両制御デバイスに自動復帰完了信号を送信し、前記制動制御装置は、前記再始動予告信号の受信を契機に作動条件の緩和を実行し、前記少なくとも一つの車両制御デバイスは、前記再始動予告信号の受信を契機に関連するアクチュエータまたはセンサの制御を抑制するとともに、前記制動制御装置および前記車両制御デバイスは、前記自動復帰完了信号の受信を契機に通常の制御モードに復帰している。
第8の本発明に関わるイドリングストップの方法は、第2の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0010】
第2および第8の本発明によれば、再始動予告信号の受信を契機に、制動制御装置による作動条件の緩和によって制御性能が不足することが防止される。さらに、車両制御デバイスのアクチュエータまたはセンサの制御を抑制することで、誤検知の防止、電力消費を抑えることができる。
また、原動機が通常運転状態となった後には制動制御装置や車両制御デバイスの作動条件を通常レベルに復帰させることで、確実に制動力制御や異常検知を実行できるようになる。
【0011】
第3の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第2の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記制動制御装置の作動条件の緩和とは、前記制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させることである。
第9の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第3の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0012】
第3および第9の本発明によれば、作動条件の緩和で制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させるので、エンジンの自動復帰時に供給電圧が低下しても、必要な制御を行うことができる。
【0013】
第4の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第2または第3の本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記制動制御装置は、前記制御装置の作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードを制限している。
第10の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第4の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0014】
第4および第10の本発明によれば、他のデバイスのみならず制動制御装置においても制御可能なモードを制限することで、制動制御装置の消費電力を低減し、より確実に制動力保持の実行が可能となる。
【0015】
第5の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1から第4のうちの何れかの本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記車両の電源の電圧状態を監視する電源状態監視手段を備え、前記電源状態監視手段が前記電圧状態から前記制動制御装置による制動力保持が不能となる可能性を判定した際には前記原動機の停止および再始動を禁止している。
第11の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第5の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0016】
第5および第11の本発明によれば、不完全な状態で制動力保持が実行されることにより、原動機停止状態での車両の移動などが発生することを防止できる。
【0017】
第6の本発明に関わるアイドリングストップシステムは、第1から第5のうちの何れかの本発明のアイドリングストップシステムにおいて、前記原動機の環境状態を判定する原動機環境状態判定手段と、前記原動機環境状態判定手段の判定した環境状態に基づき前記車両制御デバイスの消費電力低減度合いを変更する消費電力低減度合い変更手段とを備えている。
第12の本発明に関わるアイドリングストップの方法は、第6の本発明のアイドリングストップシステムを実現する方法である。
【0018】
第6および第12の発明によれば、雰囲気温度や油温などの環境状態に基づき電圧降下を予測して、作動するデバイスを選択的に駆動する、すなわち診断停止するデバイスまたは常に作動停止するデバイスに切り分けるので、環境状態によって必要な機能が停止するのを抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アイドリングストップを装備する車両において、アイドリングストップからのエンジン再始動時に各種ECUの誤動作を抑制し、エンジンの再始動を円滑に行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施形態の車両のブレーキの構成を示す概念的斜視図。
【図2】実施形態の車両のアイドリングストップに係るブレーキ制御系を示すブロック図。
【図3】(a)は坂道を登る車両が途中で停止し、ヒルスタートアシスト制御が行われ発進する動作を示す側面図、(b)はヒルスタートアシスト制御の過程におけるキャリパ液圧、アクセル開度などの状態を示す図。
【図4】実施形態の液圧制動装置の液圧回路の第1系統の概要を示す図。
【図5】実施形態の運転者がブレーキペダルを踏んだ際の液圧制動装置の第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図。
【図6】実施形態の運転者がブレーキペダルからアクセルペダルに踏み変えた際のヒルスタートアシスト制御の液圧制動装置の第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図。
【図7】実施形態の車両のブレーキ制御系を含む全体の制御系の概要を示すブロック図。
【図8】実施形態の車両のアイドリングストップ制御の諸元を示すタイムチャート。
【図9】車両のアイドリングストップ制御のフローを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態の車両1のブレーキの構成を示す概念的斜視図である。
実施形態の四輪などの車両1は、信号待ち時、渋滞時などに停止した際、エンジン4を止めるアイドリングストップ機能を装備する車両である。
車両1の前方には、車両1の駆動輪かつ進行方向を変える転舵輪の右前輪2rおよび左前輪2lを備えており、車両1の後方には、右後輪3rおよび左後輪3lを備えている。
【0022】
右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lに近接して、各車輪(2r、2l、3r、3l)の回転を磁界の変化により検出する非接触方式などの車輪速度センサs1がそれぞれ設けられている。各車輪速度センサs1の検出情報より車両1の速度を取得することができる。
車両1の前方には、エンジン4(図2参照)が配設されており、エンジン4は、図示しない変速機、差動歯車装置などの動力伝達装置を介して、右前輪2rおよび左前輪2lに駆動力を付与する。
【0023】
右・左前輪2r、2lは、車両1の内部で運転者(図示せず)がステアリングホイール3を回動操作することで、ステアリングシャフトなどを介して操舵される。
車両1内に着座した運転者の足元には、エンジン4の回転速度を高めるアクセルペダルp1が配置されている。アクセルペダルp1近傍には、アクセルペダルp1の踏み込み(操作)量を検出するアクセル開度センサs2が設けられている。
【0024】
さらに、運転者の足元には、アクセルペダルp1に隣接して、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lを制動するためのブレーキペダルp2が配設されている。
車両1の内部には、運転者がブレーキペダルp2を踏み込む(操作する)ことで、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lにブレーキ液圧を用いて制動力(ブレーキ力)を付与する液圧制動装置Yが備わっている。
【0025】
液圧制動装置Yは、運転者のブレーキペダルp2の操作量がブレーキ液圧として伝えられるマスターシリンダY1と、マスターシリンダY1とホースやパイプなどの液圧配管Y0で接続され後記のチェック(逆止)弁、レギュレータバルブなどの液圧機器が内装される液圧ユニットY3と、マスターシリンダY1からの液圧が液圧ユニットY3で制御されて液圧配管Y2を介して伝達されるホイールシリンダY4、Y5、Y6、Y7とを具えている。
【0026】
ホイールシリンダY4、Y5、Y6、Y7は、液圧配管Y2から伝達されるブレーキ液圧により、ブレーキ2r1、2l1、3r1、3l1にそれぞれ制動力を付与し、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lを制動する。
図2は、車両1のアイドリングストップに係るエンジン・ブレーキ制御系S1を示すブロック図である。なお、図2では、車両1のアイドリングストップ以外のその他の制御系は省略して示している。
【0027】
車両1は、アイドリングストップに係る制御を行うためのエンジン・ブレーキ制御系S1として、エンジン4を制御するエンジン制御ECU(Electronic Control Unit)(4E)と、液圧制動装置Yによる右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lのブレーキ2r1、2l1、3r1、3l1を制御するブレーキ制御ECU(6)とを有している。
車両1は、エンジン4を始動したり、液圧ユニットY3の後記のレギュレータバルブv1などのアクチュエータや、エンジン制御ECU(4E)、ブレーキ制御ECU(6)などに電源電圧を供給するバッテリ5を備えている。
【0028】
ブレーキ制御ECU(6)へは、アクチュエータ作動用の電源とCPU作動用の電源とが供給される。
具体的には、CPU作動用の電源として、ブレーキ制御ECU(6)に、DC/DCコンバータなどの補助電源7を介して所定電圧が印加される。なお、補助電源7は、エンジン制御ECU(4E)からの補助電源供給指令により作動される。
また、アクチュエータ作動用として、バッテリ5からはブレーキ制御ECU(6)に、液圧制動装置Yの後記のアクチュエータ(ポンプp、レギュレータバルブv1など)に印加されるアクチュエータ電源電圧Avが供給される。
【0029】
エンジン制御ECU(4E)は、エンジン4の始動時の制御、アイドリング時の制御、燃料噴射量、点火時期の演算などを行い、演算に従って所定のタイミングで、図示しないスタータモータでエンジン4を始動する始動装置、燃料を供給する燃料供給装置、混合気に火花で着火する点火装置などの各種アクチュエータに出力信号を送信する。
【0030】
エンジン・ブレーキ制御系S1には、エンジン4を始動装置で始動したり、燃料供給装置で燃料を供給したり、点火装置で着火するためなどに電力が必要である。
そのため、前記したバッテリ5や、エンジン4のクランクシャフトに接続されるロータを有する発電機4hが備わり、発電機4hで発電した電力がバッテリ5に蓄電される。
【0031】
次に、車両1に装備されるヒルスタートアシスト制御について説明する。
図3(a)は、坂道slを登る車両1が途中で停止し、ヒルスタートアシスト制御が行われ発進する動作を示す側面図であり、図3(b)は、ヒルスタートアシスト制御の過程におけるキャリパ液圧、アクセル開度などの状態を示す図である。
【0032】
ヒルスタートアシスト制御とは、車両1で坂道slを登坂中(図3(a)のポジションP1)に、運転者がブレーキペダルp2を踏んで車両1を停止した際(図3のポジションP2)、運転者が車両1を発進するためにブレーキペダルp2からアクセルペダルp1に踏み変えた際に、車両1が後ずさりすることなく前方に発進する(図3(a)のポジションP3)ことができるようにする制御である。ポジションP1は、ブレーキペダルp2が踏んで車両1を減速している状況である。ポジションP2は、ブレーキペダルp2が踏み続けられ停止している状況からのアクセルペダルp1への踏み変えを示している。
【0033】
図4、図5、図6は、液圧制動装置Yの第1系統の概要を示す構成図であり、図4は、液圧制動装置Yの液圧回路の第1系統の概要を示す図であり、図5は、運転者がブレーキペダルp2を踏んだ際の液圧制動装置Yの第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図であり、図6は、運転者がブレーキペダルp2からアクセルペダルp1に踏み変えた際のヒルスタートアシスト制御の液圧制動装置Yの第1系統の液圧の作動状態を太線で示す図である。
【0034】
液圧制動装置Yは、マスターシリンダY1から液圧が伝達され図1に示す左前輪2lのブレーキ2l1および右後輪3rのブレーキ3r1が作動される第1系統と、マスターシリンダY1から液圧が印加され右前輪2rのブレーキ2r1および左後輪3lのブレーキ3l1が作動される第2系統との2つの系統を有している。
ここで、第1系統と第2系統とは同様な構成であるから第1系統についての説明を行い、第2系統の説明は省略する。つまり、図4〜図6では、第2系統の図示を省略して示している。
【0035】
図4に示すように、左前輪2lのブレーキ2l1には、前記したように、ホイールシリンダY5が配設されており、ブレーキペダルp2の操作量が、ホイールシリンダY5内のブレーキ液圧として変換され、左前輪2lが制動される構成である。
同様に、右後輪3rのブレーキ3r1には、ホイールシリンダY6が配設されており、ブレーキペダルp2の操作量が、ホイールシリンダY6のブレーキ液圧として変換され、右後輪3rが制動される構成である。
【0036】
運転者によるブレーキペダルp2の踏み動作がブレーキ液圧(キャリパ液圧)に変換されるマスターシリンダY1の下流には、ヒルスタートアシスト制御時などに左前輪2lのブレーキ2l1のブレーキ液圧を保持するとともに右後輪3rのブレーキ3r1のブレーキ液圧を保持するレギュレータバルブv1が配設されている。レギュレータバルブv1は、ノーマルオープタイプのバルブであり、ブレーキ制御ECU(6)から閉指令が出力された場合に限り閉弁する。
【0037】
マスターシリンダY1の近傍には、ブレーキ液圧を検知するマスタ圧センサs4が設けられており、マスターシリンダY1のブレーキ液圧を検出した検出信号は、CAN(Controller Area Network)を介して、ブレーキ制御ECU(6)に送信される。
レギュレータバルブv1と、左前輪2lのブレーキ2l1に配設されるホイールシリンダY5との間には、ノーマルオープンタイプの第1インバルブv2が設けられている。第1インバルブv2は、閉指令がブレーキ制御ECU(6)から出力された場合に限り閉弁する。
【0038】
そして、第1インバルブv2に並列に、左前輪2lのホイールシリンダY5へのブレーキ液の流入を阻止する第1チェックバルブv4が設けられている。
また、左前輪2lのホイールシリンダY5へのブレーキ液圧を保持したり、開放するためのノーマルクローズドタイプの第1アウトバルブv3が設けられている。第1アウトバルブv3は、通常、閉弁されており、左前輪2lがロックした場合などにブレーキ制御ECU(6)から開指令が出力されたときに限り開弁する。
【0039】
同様に、レギュレータバルブv1と、右後輪3rのブレーキ3r1に配設されるホイールシリンダY6との間には、ノーマルオープンタイプの第2インバルブv5が設けられている。第2インバルブv5は、閉指令がブレーキ制御ECU(6)から出力された場合に限り閉弁する。
そして、第2インバルブv5に並列に、右後輪3rのブレーキ3r1のホイールシリンダY6へのブレーキ液の流入を阻止する第2チェックバルブv7が設けられている。
【0040】
また、右後輪3rのホイールシリンダY6へのブレーキ液圧を保持したり、開放するためのノーマルクローズドタイプの第2アウトバルブv6が設けられている。第2アウトバルブv6は、通常、閉弁されており、右後輪3rがロックした場合などにブレーキ制御ECU(6)から開指令が出力されたときに限り開弁する。
左前輪2lの第1アウトバルブv3および右後輪3rの第2アウトバルブv6の下流には、リザーバr1が設けられており、第1・第2アウトバルブv3、v6が開弁された際、液圧を逃す機能を果たす。
【0041】
レギュレータバルブv1とリザーバr1との間には、ポンプpと第3チェックバルブv8とが介設されている。
ポンプpは、リザーバr1に貯留されるブレーキ液を吸入し、オリフィスo1側に吐出し、リザーバr1によるブレーキ液圧の吸収によって減圧されたブレーキ液圧を回復する。オリフィスo1はブレーキ液圧の脈動を減衰させる。
【0042】
第3チェックバルブv8は、リザーバr1からポンプpへのブレーキ液の流入を許容する一方、ポンプpからリザーバr1への逆流を阻止する。
第4チェックバルブv9は、レギュレータバルブv1に並列に配設されており、マスターシリンダY1からホイールシリンダY5、Y6へのブレーキ液の流入を許容する一方、ホイールシリンダY5、Y6からマスターシリンダY1へのブレーキ液の逆流を阻止する。第4チェックバルブv9により、ヒルスタートアシスト制御でレギュレータバルブv1が閉弁された際、ホイールシリンダY5、Y6のブレーキ液圧が開放されることが阻止される。
【0043】
リリーフ弁v10は、ノーマルクローズドタイプの弁であり、通常閉弁することで、ブレーキ液圧(キャリパ圧)が逃げたり、ポンプpが稼動時にブレーキ液がポンプpを迂回して流れることを阻止する。リリーフ弁v10は、ブレーキ制御ECU(6)から開指令が出力されたときに限り開弁し、ブレーキ液圧(キャリパ圧)を開放する。
【0044】
次に、液圧制動装置Yのヒルスタートアシスト制御の動作について説明する。
車両1の通常走行時には、運転者はブレーキペダルp2を踏まないので、図4に示すように、液圧制動装置Yの液圧配管Y0、Y2内のブレーキ液のブレーキ液圧は低く、ホイールシリンダY4、Y5、Y6、Y7からそれぞれブレーキ2r1、2l1、3r1、3l1に制動力は印加されない。
【0045】
車両1が、図3(a)に示すように、坂道slを登坂中に運転者がブレーキペダルp2を踏む(図3のポジションP1)と、図5の太線に示すように、マスターシリンダY1から、ノーマルオープタイプのレギュレータバルブv1、ノーマルオープンタイプの第1インバルブv2を介して、ホイールシリンダY5にブレーキ液圧が印加され、左前輪2lがブレーキ2l1により制動される。
【0046】
同時に、図5の太線に示すように、マスターシリンダY1から、ノーマルオープタイプのレギュレータバルブv1、ノーマルオープンタイプの第2インバルブv5を介して、ホイールシリンダY6に液圧が印加され、右後輪3rがブレーキ3r1により制動される。
同時に、右前輪2r、左後輪3lも、左前輪2l、右後輪3rと同様な動作で制動される。
【0047】
この時、運転者がブレーキペダルp2を踏んでいることから、図3(a)に示すポジションP1〜P2初期では車両1が制動によって停止しているため、マスタ圧センサs4で検出されるキャリパ液圧(ブレーキ液圧)は、図3(b)に示すように、坂道slに車両1を停止保持する液圧e1より大きなキャリパ液圧e2を有している。
【0048】
そして、図3(a)に示すポジションP2で、運転者が車両1を発進させるため、ブレーキペダルp2からアクセルペダルp1に踏み変えると(図3(b)の時刻t0〜t2)、ブレーキペダルp2の踏み込み力で保持していたマスターシリンダY1内のブレーキ液圧が低下し、マスタ圧センサs4で検出されるキャリパ液圧(ブレーキ液圧)e2が、坂道slに車両1を停止保持する液圧e1より低下する方向に変化する。そのため、このままの状態では、車両1は坂道slを後ずさりする。そこで、ブレーキ制御ECU(6)は、ヒルスタートアシスト制御を稼働する。なお、ここでの説明は、アイドリングストップを行っていない状況での動作の説明である。
【0049】
ヒルスタートアシスト制御は、前後Gセンサs3(図1参照)で測定される車両1の前後方向の加速度に応じて、既設定されるマップを用いてヒルスタートアシスト制御開始の液圧(坂道slに車両1を停止保持する液圧e1)を決定する。
そして、マスタ圧センサs4で検出される図3(b)に示すキャリパ液圧e2が液圧e1にまで低下すると、ブレーキ制御ECU(6)からレギュレータバルブv1に閉信号(駆動電流)を送り閉弁し、図6の太線に示すように、ホイールシリンダY5、Y6に印加される液圧を液圧e1に保持する。この際、キャリパ液圧(ブレーキ液圧)が液圧e1に不足する場合には必要に応じてポンプpを稼働し、キャリパ液圧を液圧e1に維持する。
【0050】
図3(b)の時刻t2で、運転者は、アクセルペダルp1を踏み始めると、アクセル開度センサs2(図1参照)で測定されるアクセル開度が、坂道slの登坂に必要なアクセル開度になったとき(図3(b)の時刻t3)には、ブレーキ制御ECU(6)からレギュレータバルブv1に開信号を送り開弁し保持圧を解除する。
こうして、図4に示すように、ホイールシリンダY4〜Y7に印加されるキャリパ液圧を低下させ、右・左前輪2r、2lおよび右・左後輪3r、3lの制動を解除し、ヒルスタートアシスト制御を停止する。
【0051】
以上が、ヒルスタートアシスト制御の概要であるが、図2に示すバッテリ5から印加されるアクチュエータ電源電圧Avが既設定の所定電圧以下となった場合には、レギュレータバルブv1への閉信号(駆動電流)の送信を停止したり、ポンプpの稼働を停止するなど、ヒルスタートアシスト制御を行わないこととする診断を行っている。
例えば、後記の電圧条件V0が10V未満では、ヒルスタートアシスト制御の機能が停止するように、制御の制限(電圧条件)を課している。
【0052】
図7は、車両1の前記のエンジン・ブレーキ制御系S1を含む全体の制御系Sの概要を示すブロック図である。
制御系Sは、前記のエンジン・ブレーキ制御系S1を含む下記の構成を備えている。
バッテリ5から電源を直接供給されるECUとして、衝突時に乗員を保護するエアバッグを制御するSRS(Supplemental Restraint System)制御ECU(8)、車両1の灯光を制御する灯体制御ECU(9)、…などがある。
【0053】
SRS制御ECUは、衝突時にエアバッグが膨出することで、衝突時の運動エネルギを吸収して加速度をコントロールするとともに剛性を高め、乗員を保護する制御を行う。SRS制御ECUは、前後Gセンサs3、図示しない横Gセンサ、車両1のロール(回転)を検出するロール角センサ、乗員の有無、体重を検出する荷重検出方式または圧力検出方式の乗員検知センサなどの検出信号を入力としている。
【0054】
灯体制御ECU(9)は、図1に示す車両1の先端部に配置されるヘッドランプ(主ランプ)Lr、Ll、コーナリングライトclr、cll、車両1の後端部に配置されるブレーキランプblr、bll、図示しないルームランプなどの車両1内外の照明を制御するECUである。
【0055】
他方、バッテリ5からDC/DCコンバータなどの補助電源7を介して、電源が供給されるECUとしては、前記のブレーキ制御ECU(6)以外に、EPS(Electric Power Steering)制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、図示しないアクティブマウントECU、サスペンションECU、…などがある。
EPS制御ECU(10)は、運転者のステアリングホイール3の回転動作を、舵角センサ(図示せず)で検出して、モータの動力または油圧でアシストする制御を行うECUである。
【0056】
METER制御ECU(11)は、図示しない車速センサ、ABS(Antilock Brake System)ECUから車速信号、エンジン制御ECU(4E)から回転速度信号、水温センサ(図示せず)から水温信号、燃料レベルセンサ(図示せず)からフューエル信号などを入力とする。そして、METER制御ECU(11)は、表示ドライバ、LCD(Liquid Crystal Display)ドライバ、出力ポートなどを介して、速度計、回転計、燃料計、水温計、距離計でそれぞれの計測値を表示するとともに、LED(Light Emitting Diode)で水温を表示する制御を行う。
【0057】
アクティブマウントECUは、エンジン4の振動を打ち消すように作動し車両1の振動を抑制する制御を行う。サスペンションECUは、ドライビングコンディションに応じてサスペンションを調整し操縦安定性と乗り心地の良さを提供する電子制御サスペンションを担っている。
【0058】
次に、車両1のアイドリングストップ時の制御について説明する。
車両1のアイドリングストップに係る制御は、エンジン制御ECU(4E)がメインに、ブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU(車両制御デバイス)、サスペンションECU(車両制御デバイス)、その他のECU(車両制御デバイス)などとCANを介して通信し、行われる。
【0059】
図8は、車両1のアイドリングストップ制御の諸元を示すタイムチャートである。図8の横軸は時間を示し、縦軸はブレーキに係わる液圧制動装置Yのアクチュエータ電源電圧Av、エンジン回転速度n、自動復帰予告フラグ、自動復帰終了フラグを示す。
アクチュエータ電源電圧Avとは、前記の図2に示すように、バッテリ5からヒルスタートアシスト制御に係るアクチュエータのレギュレータバルブv1、ポンプpなどに付与される電源電圧を指す。
【0060】
自動復帰予告フラグ(再始動予告信号が示すフラグ)は、アイドリングストップからのエンジン4の始動を予告するフラグであり、エンジン4の自動復帰(スタータモータによるエンジン4の回転)予告時、自動復帰には“ON”となる一方、エンジン4の始動予告時(エンジン4自身の運転時)、始動時には“OFF”となる。
自動復帰終了フラグ(自動復帰完了信号が示すフラグ)は、エンジン4のアイドリングストップ時、エンジン4の自動復帰時には“OFF”となる一方、エンジン4の始動(エンジン4自身の運転)時には“ON”となる。
【0061】
図9は、車両1のアイドリングストップ制御のフローを示す図である。
【0062】
車両1が停止後、アイドリングストップを行うに際し、バッテリ5の電圧をエンジン制御ECU(4E)が監視することで、アイドリングストップを行う所定の許容電圧範囲にあるか否か判定される。例えば、バッテリの定格電圧が12Vの場合、10V以上の電圧であるか(許容電圧範囲内か)否か判定される(図9のS101)。この場合、バッテリ電圧10Vがアクチュエータ電源電圧AvのI/S(アイドリングストップ)禁止ラインに相当する。
【0063】
つまり、エンジン制御ECU(4E)は、バッテリ5がアイドリングストップを行う所定の許容電圧範囲内になくヒルスタートアシスト制御のブレーキ制御ECU(6)による制動力保持が不能となる可能性があると判定した場合には、アイドリングストップを禁止する。
図9のS101の判定は、図8の時刻t0〜t2のアイドリングストップ中、継続して行われる。
【0064】
バッテリ5の電圧が所定の許容電圧範囲内にない、すなわちアクチュエータ電源電圧Avが図8のI/S禁止ライン未満の電圧である場合(S101でNo)、エンジン制御ECU(4E)はアイドリングストップを行わない。
一方、バッテリ5の電圧が許容電圧範囲内にある場合、すなわちアクチュエータ電源電圧Avが図8のI/S禁止ライン以上の電圧の場合(S101でYes)、アイドリングストップが開始され、エンジン制御ECU(4E)がエンジン4を停止する(図8の時刻t0)(S102)。
この場合、アクチュエータ電源電圧Avの予告なしラインを、例えばバッテリ電圧が13.5Vと設定し、アクチュエータ電源電圧Avが予告なしライン以上ある場合、すなわち、バッテリ5の電圧が13.5V以上の場合には、エンジン制御ECU(4E)がアイドリングストップの制御を行うが、アクチュエータ電源電圧Avが充分な電圧があるので、図9に示すS104、S105、S107、S108の制御を行われず、通常の制御(図9のS103、S106、S109の制御)が行われる。このアクチュエータ電源電圧Avが予告なしライン以上の場合は、図9のフローチャートは記載を省略している。
その後、エンジン制御ECU(4E)はI/S(アイドリングストップ)の終了条件が有るか否か監視する(S103)。
【0065】
例えば、エンジン制御ECU(4E)がタイマでエンジン4の停止後、既設定の所定時間が経過したか判定し、所定時間が経過したことが終了条件とされる。または、負圧ブースタ(ブレーキブースタ)の負圧が既設定の所定値以下に低下したか否か判定され、所定値以下に低下したことが終了条件とされる。または、車両1内の室温が図示しない温度センサで測定され、室温が既設定の所定範囲から外れた場合、例えば夏季、室温が所定温度以上に上昇した場合が終了条件とされる。または、ブレーキの液圧制動装置Yのマスタ圧センサs4で検出されるブレーキ液圧(キャリパ圧)が判定され、既設定の所定液圧以下に低下した場合やさらに供給電圧が低下している場合などが終了条件とされる。これらの終了条件は、少なくとも1つ以上用いることとしてもよいし、例示した以外の終了条件を適用してもよい。
【0066】
I/S(アイドリングストップ)の終了条件がない場合(S103でNo)、S102に移行し、I/S(アイドリングストップ)を継続する。
【0067】
一方、I/S(アイドリングストップ)の終了条件がある場合(S103でYes)、エンジン制御ECU(4E)は、図示しないスタータモータによるエンジン4の自動復帰の予告を、自動復帰予告フラグの信号を“OFF”から“ON”に変更して、ブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUに送信することで通知する(図8の時刻t1)(S104)。アイドリングストップ機能付きの車両1では、エンジン制御ECU(4E)はエンジン4の自動復帰の条件判断を行っており、エンジン4の自動復帰前に各ECUに予告信号を送信することが可能である。
【0068】
このとき、エンジン制御ECU(4E)は、図8に示すように、“OFF”の自動復帰終了フラグの信号を、ブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUに送信している。
なお、エンジン制御ECU(4E)は、自動復帰予告フラグの信号および自動復帰終了フラグの信号を、ブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUに継続して送信している(図8参照)。
【0069】
ブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUは、エンジン4の自動復帰が通知される(自動復帰予告フラグ“ON”の信号が送信される)と、通常モードからエンジン自動復帰モードに移行する。
【0070】
具体的には、ブレーキ制御ECU(6)は、“ON”の自動復帰予告フラグの信号を受信すると、通常モードから、例えば、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件V0(図8参照)が10Vの場合、10V未満でもヒルスタートアシストが正常機能するように、作動条件の緩和を行う。すなわち、制御の制限(図8のアクチュエータ電源電圧Avの電圧条件(最低限界電圧)V0)を解除し、図8の電圧条件V1に変更する(作動条件の緩和)。
【0071】
なお、電圧条件V1への変更前は、ブレーキ制御ECU(6)により、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V0を下回った場合、ヒルスタートアシスト制御に用いるレギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータへの電源供給が停止される。
【0072】
ところが、電圧条件V1に変更されると、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V0を下回っても電圧条件V1を下回らない限り、ヒルスタートアシスト制御に用いるレギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータへの電源供給が停止されない。従って、電圧条件V0を電圧条件V1に変更することで、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V0を下回っても電圧条件V1を下回らない限り、図示しないインパネにアラームが発せられたり、レギュレータバルブv1やポンプpなどのアクチュエータ(制動力保持制御に係るアクチュエータ)への電源供給が停止されることがない。
【0073】
そのため、図8の時刻t1〜t4の間、アクチュエータ電源電圧Avが電圧条件V1を下回らない場合には、アクチュエータのレギュレータバルブv1などにアクチュエータ電源電圧Avが供給され、前記したヒルスタートアシスト制御が遂行される。
本構成により、アクチュエータ電源電圧Avが通常の電圧条件V0未満の低電圧下でもヒルスタートアシスト制御が実施されることとなる。
【0074】
この際、作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードに制限するとよい。例えば、ポンプpの作動や各種センサの検出をOFFとしたり、図4に示すレギュレータバルブv1のみの制御とする。
また、同様にこのときブレーキ制御ECU(6)が実施する他ECUとのCAN通信途絶診断において、異常判定条件を緩和(即ち、途絶許容時間を延長あるいは診断を停止)するように構成する。
なお、本実施形態と異なり、INバルブの第1・第2インバルブv2、v5およびOUTバルブの第1・第2アウトバルブv3、v6の通電が必要な場合には、INバルブの第1・第2インバルブv2、v5およびOUTバルブの第1・第2アウトバルブv3、v6を含めての制御とする。
なお、本実施形態において、最初にバッテリ電圧を判定するよう構成したが、エンジン自動復帰の予告通知を受けた時点にて再度バッテリ電圧の判定をするよう構成してもよい。
【0075】
一方、ブレーキ制御ECU(6)以外のSRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUにおいても、通常モードからエンジン自動復帰モードに移行し、各種センサの検出を“ON”から“OFF”とし、他ECUとのCAN通信途絶診断を停止したりなど各種診断を停止したり、使用するアクチュエータへの電力を抑制したり、停止したりする(S105)。
【0076】
詳細には、CAN通信途絶診断を停止以外に、例えば、SRS制御ECU(8)は、追突される場合を考慮し、各種センサの自己診断のみを停止する。
灯体制御ECU(9)は、図1に示すヘッドランプ(主ランプ)Lr、Llやブレーキランプblr、bllの照度を低下させたり、ルームランプを消灯したり、コーナリングライトclr、cllの点灯が行われてない場合などには、コーナリングライトclr、cllの点灯の制御を停止する。
【0077】
EPS制御ECU(10)は、舵角センサなどのセンサの制御は停止せず、アシストモータの駆動を停止する。
その他、アクティブマウントECU、サスペンションECUは、必要に応じて制御を停止し、その他のレーダなどの付加機能は停止する。
これらの各ECUのエンジン自動復帰モードの制御は一例を挙げたものであり、各ECUが停止または抑制する機能は任意に選択可能である。その他、必要であれば、何れかのECUへの通電を停止してもよい。すなわち、エンジン制御ECU(4E)およびブレーキ制御ECU(6)以外の少なくとも一つの車両制御デバイスの各ECUへの通電あるいはその診断を一時的に停止する。
【0078】
こうして、エンジン4の再始動の際の自動復帰に先立ってエンジン制御ECU(4E)およびブレーキ制御ECU(6)以外の少なくとも一つの車両制御デバイスのSRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUへの通電あるいはセンサによる診断やアクチュエータへの通電を一時的に停止する。
【0079】
各ECUは、CAN通信途絶診断の停止以外に、各種センサによる診断を停止することなどで、エンジン4の自動復帰に際して、スタータモータの電力消費により電圧が低下した場合、電圧が必要な接続部品の誤検知防止を図ることができる。結果として、エンジン自動復帰モードに必要な機能に電力が確保され、必要性の薄い機能の電力がセーブされる。
S105の制御より、アイドリングストップからの自動復帰時に生じるバッテリ5の電力低下に拘らず、各ECUで故障の誤検知が防止され、アラームの発生を停止することが可能となる。
【0080】
その後、エンジン制御ECU(4E)の制御により、図8の時刻t3で、バッテリ5から図示しない始動装置のマグネットスイッチに電流が供給され、図示しないスタータモータの軸に取着されたピニオンギアがエンジン4のフライホイールと噛み合う。ピニオンギアの移動でスイッチがオンされ、スタータモータに電流が供給され始動し、エンジン4の自動復帰が開始される(S106)。この際、バッテリ5の電圧が、スタータモータ、マグネットスイッチなどの稼動の電力として消費されるので、アクチュエータ電源電圧Avが急激に低下する((図8の時刻t3参照)。
【0081】
スタータモータの駆動によりエンジン4の回転速度が次第に上昇する(図8の時刻t3〜t4)。エンジン4の回転速度の情報は、クランクパルスとして図示しないクランクポジションセンサで取得され、CANを介して、エンジン制御ECU(4E)に送信される。
【0082】
エンジン4の回転速度が、エンジン4が自ら始動できる所定値に達すると(図8の時刻t4)、エンジン制御ECU(4E)から、自動復帰予告フラグの信号を“ON”から“OFF”に変更するとともに、自動復帰終了フラグの信号を“OFF”から“ON”に変更し、ブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUにそれぞれ送信することで、エンジン4の自動復帰が近く完了することを通知する(S107)。
【0083】
自動復帰完了の判断は、エンジン制御ECU(4E)が、エンジン回転速度から判断しているが、バッテリ5からの供給電圧が正常な電圧であることを条件に判断することも可能である。
エンジン4の自動復帰の完了が通知されたブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUは、制御をエンジン自動復帰モードから通常モード(通常の制御モード)に復帰する(S108)。
【0084】
具体的には、エンジン4の自動復帰の完了が通知されたブレーキ制御ECU(6)は、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件V1を電圧条件V0に回帰(復帰)する。何故なら、アクチュエータ電源電圧Avの電圧条件V0から電圧条件V1への変更は、アイドリングストップ時に特有のものだからである。また、実行可能な制御モードへの制限を解除する。
【0085】
一方、エンジン4の自動復帰の完了が通知されたブレーキ制御ECU(6)、SRS制御ECU(8)、灯体制御ECU(9)、EPS制御ECU(10)、METER制御ECU(11)、アクティブマウントECU、サスペンションECU、その他のECUは、各種センサの検出を“OFF”から“ON”とし、他ECUとのCAN通信途絶診断を開始したりなど各種診断を開始し、使用するアクチュエータへの電力を通常のモードに復帰する。
【0086】
つまり、エンジン制御ECU(4E)は、自動復帰の完了に際して、自動復帰完了の通知を各ECUに行い、各ECUはこの情報を受信した場合、停止していた診断を再開するなど通常モードに復帰する。
これにより、アイドリングストップからの自動復帰時、各ECUが故障の誤検知を防止することが可能となり、無用のアラームを発生させることが防止される。
【0087】
続いて、図8の時刻t5において、エンジン制御ECU(4E)により、バッテリ5からの始動装置への通電が停止され、マグネットスイッチへの通電が停止され、スタータモータの軸に取着されたピニオンギアがエンジン4のフライホイールから離隔するとともに、スタータモータへの通電が停止され、エンジン4の自動復帰が終了する。そして、エンジン制御ECU(4E)から、エンジン4を始動するための燃料供給装置、点火装置などの各種アクチュエータに出力信号が送信され、エンジン4が始動される(S109)。
以上が、図9に示す車両1のアイドリングストップ制御の流れである。
【0088】
ここで、低温時などの条件によって、エンジンオイルの粘度が高まり粘性抵抗が大きくなり、エンジン4を自動復帰するスタータモータの負荷量が増加し、消費電力が大きくなる場合がある。この場合、車両制御デバイスである各種ECUへの電力が低下する。
そこで、エンジン制御ECU(4E)にエンジン4の環境状態を判定する原動機環境状態判定手段を備え、エンジン制御ECU(4E)や各ECUに、車両制御デバイスである各種ECUの消費電力低減度合いを変更する消費電力低減度合い変更手段とを備えることが望ましい。
【0089】
すなわち、原動機環境状態判定手段で、寒冷地など、特に低温時には、図示しない温度センサで測定した雰囲気温度、或いは、温度センサで測定したエンジンオイルの油温に基づき、車両制御デバイスである各種ECUの電圧降下を予測する。そして、消費電力低減度合い変更手段で車両制御デバイスである各種ECUの消費電力低減度合いを変更する。
【0090】
例えば、寒冷地など特に低温時のときは、エンジンオイルの粘度が高まり負荷が増加し、エンジン4の自動復帰の使用電力が大きくなるので、各種ECUの消費電力低減度合いを大きく変更する。一方、温暖地では、エンジンオイルの粘度が低くなり負荷が低下し、エンジン4の自動復帰の使用電力が小さく変化するので、各種ECUの消費電力低減度合いを小さく変更する。
【0091】
実施形態によれば、クランキングの間、CAN通信診断機能、センサによる診断機能を適宜停止することで消費電力(電圧)が抑えられる。これにより、エンジン4の始動が円滑に遂行されるとともに、必要がない診断機能が停止するので、必要がないアラームが発生せず運転者に違和感を与えることがない。
そのため、円滑なアイドリングストップ制御を行うことが可能である。
【0092】
なお、実施形態では、ブレーキペダルp2の操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御として、ヒルスタートアシスト制御を例示して説明したが、この制御は、ヒルスタートアシストのみならず、自動復帰中に実施できる同種の制御のブレーキ力を保持するブレーキホールド、坂道でブレーキペダルp2から足を外した際に必要なブレーキ力を保持する坂道後退抑制システム(CAS:Creep Aided system)などにも適用できる。
このように、車両1が停止中にブレーキペダルp2から足を踏み外した状態で停止を維持できるものがあるが、このようなものに対しては、同様に、アクセルペダルp1を踏み込んだときに、エンジン4の始動が開始され、通常モードに復帰される。
例えば、ブレーキペダルp2から足を踏み外した状態でもブレーキ力を保持する機能に関しても適用可能である。
【0093】
なお、前記実施形態で例示したバッテリの定格電圧12V、バッテリ電圧10V、13.5Vは一例であり、限定されないのは勿論である。
また、前記実施形態では、車両1の通信方式としてCAN(Controller Area Network)を例示したが、その他の通信方式でもよく、限定されないのは勿論である。
なお、前記実施形態では、車両1として四輪を例示して説明したが、貨物自動車などのその他の車両でもよく、本発明を適用可能な車両であれば、例示した四輪以外の車両にも幅広く適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 車両
4 エンジン(原動機)
4E エンジン制御ECU(原動機制御装置、消費電力低減手段、電源状態監視手段、原動機環境状態判定手段、消費電力低減度合い変更手段)
5 バッテリ(車両の電源)
6 ブレーキ制御ECU(制動制御装置)
8 SRS制御ECU(車両制御デバイス、消費電力低減手段、消費電力低減度合い変更手段)
9 灯体制御ECU(車両制御デバイス、消費電力低減手段、消費電力低減度合い変更手段)
10 EPS制御ECU(車両制御デバイス、消費電力低減手段、消費電力低減度合い変更手段)
11 METER制御ECU(車両制御デバイス、消費電力低減手段、消費電力低減度合い変更手段)
p2 ブレーキペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行停止状態において原動機を停止および再始動するアイドリングストップシステムであって、
ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を実行する制動制御装置と、
前記ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の前記原動機を再始動する原動機制御装置と、
前記原動機の再始動に先立って前記原動機制御装置および前記制動制御装置以外の少なくとも一つの車両制御デバイスへの通電あるいはその診断を一時的に停止する消費電力低減手段とを
備えたことを特徴とするアイドリングストップシステム。
【請求項2】
前記原動機制御装置は、前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置および前記車両制御デバイスに再始動予告信号を送信するとともに、前記再始動の際の自動復帰の完了後に前記制動制御装置および前記車両制御デバイスに自動復帰完了信号を送信し、
前記制動制御装置は、前記再始動予告信号の受信を契機に作動条件の緩和を実行し、
前記少なくとも一つの車両制御デバイスは、前記再始動予告信号の受信を契機に関連するアクチュエータまたはセンサの制御を抑制するとともに、
前記制動制御装置および前記車両制御デバイスは、前記自動復帰完了信号の受信を契機に通常の制御モードに復帰する
ことを特徴とする請求項1に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項3】
前記制動制御装置の作動条件の緩和とは、前記制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させることである
ことを特徴とする請求項2に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項4】
前記制動制御装置は、前記制御装置の作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードを制限する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項5】
前記車両の電源の電圧状態を監視する電源状態監視手段を備え、
前記電源状態監視手段が前記電圧状態から前記制動制御装置による制動力保持が不能となる可能性を判定した際には前記原動機の停止および再始動を禁止する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちの何れか一項に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項6】
前記原動機の環境状態を判定する原動機環境状態判定手段と、
前記原動機環境状態判定手段の判定した環境状態に基づき前記車両制御デバイスの消費電力低減度合いを変更する消費電力低減度合い変更手段とを
備えることを特徴とする請求項1から請求項5のうちの何れか一項に記載のアイドリングストップシステム。
【請求項7】
車両の走行停止状態において原動機を停止および再始動するアイドリングストップの方法であって、
ブレーキペダルの操作によって発生した制動力を少なくとも一時的に保持する制動力保持制御を制動制御装置が実行する制動力保持過程と、
前記原動機の再始動に先立って少なくとも一つの車両制御デバイスへの通電あるいはその診断が一時的に停止される消費電力低減過程と、
前記ブレーキペダルの操作中において、所定の再始動条件が成立した際に停止中の前記原動機を前記原動機制御装置が再始動する過程とを
含んで成るアイドリングストップの方法。
【請求項8】
前記原動機制御装置が前記原動機の再始動に先立って前記制動制御装置および前記車両制御デバイスに再始動予告信号を送信する過程と、
前記制動制御装置が前記再始動予告信号の受信を契機に作動条件の緩和を実行するとともに、前記少なくとも一つの車両制御デバイスが前記再始動予告信号の受信を契機に関連するアクチュエータまたはセンサの制御を抑制する過程と、
前記原動機制御装置が前記再始動の際の自動復帰の完了後に前記制動制御装置および前記車両制御デバイスに自動復帰完了信号を送信する過程と、
前記制動制御装置および前記車両制御デバイスが前記自動復帰完了信号の受信を契機に通常の制御モードに復帰する過程とを
含むことを特徴とする請求項7に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項9】
前記制動制御装置の作動条件の緩和とは、前記制動力保持制御に係るアクチュエータに印加されるべく供給される電圧に関しての当該制動力保持制御を遂行する条件の最低限界電圧を低下させることである
ことを特徴とする請求項8に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項10】
前記制動制御装置は、前記制御装置の作動条件の緩和と同時に実行可能な制御モードを制限する
ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項11】
前記車両の電源の電圧状態が監視される電源状態監視過程と、
前記電圧状態から前記制動制御装置による制動力保持が不能となる可能性を判定された際には前記原動機の停止および再始動が禁止される過程とを
含むことを特徴とする請求項7から請求項10のうちの何れか一項に記載のアイドリングストップの方法。
【請求項12】
前記原動機の環境状態が判定される環境状態判定過程と、
前記判定された環境状態に基づき前記車両制御デバイスの消費電力低減度合いが変更される消費電力低減度合い変更過程とを
含むことを特徴とする請求項7から請求項11のうちの何れか一項に記載のアイドリングストップの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−251465(P2012−251465A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123606(P2011−123606)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】