説明

アイドルストップ車両

【課題】クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できるアイドルストップ車両を提供することを課題とする。
【解決手段】ケーブル47に、チューブ73、99を介し、ケーブル張力を検出する張力検出機構60を設けた。車両に、張力検出機構60で検出する張力が所定値に達しクラッチの断条件を満したと判断してエンジンを停止させるように制御する制御部を設けた。
【効果】クラッチ断状態でのケーブル張力(所定値)を決めておき、検出した張力が所定値に達することによってクラッチが断状態であると判断する。そのため、クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチの断条件等に基づいてエンジンを停止させるアイドルストップ車両に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチの断条件及びその他の諸条件に基づき、エンジンを停止させるようにしたアイドルストップ車両が各種提案されている(例えば、特許文献1(図7)参照。)。
【0003】
特許文献1の図7に示すように、制御手段となるECUにハンドクラッチスイッチ(43)(括弧付き番号は特許文献1に記載されている符号を示す。以下同じ)が接続されている。このようなハンドクラッチスイッチ(43)がアイドルストップ車両に備えられる。
【0004】
ハンドクラッチスイッチ(43)は、ハンドクラッチの揺動端に設けられるものである。ハンドクラッチとクラッチはクラッチケーブルで接続される。このようなクラッチ操作系には遊びが備えられる。すなわち、遊び量だけハンドクラッチを操作した後に、クラッチが接状態から断状態に移行する。そして、ハンドクラッチを所定角度操作することによりハンドクラッチスイッチ(43)がオンとなり、クラッチの断状態を検出できる。
【0005】
しかし、クラッチ操作系での遊び量が大き過ぎる場合にハンドクラッチを所定角度操作すると、ハンドクラッチスイッチ(43)はオンになるが、クラッチケーブルの引張り量が不足してクラッチはまだ接状態のままであることが起こり得る。
ハンドクラッチスイッチ(43)の検出とクラッチの状態とが不一致であることは許されないため、クラッチ操作系の調整を頻繁に且つ精密に行う必要がある。結果、クラッチ操作系に対する調整作業コストが嵩む。
【0006】
クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−226514公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できるアイドルストップ車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、運転者が操作するクラッチ操作子からクラッチケーブルを延ばし、このクラッチケーブルの先端をクラッチに接続し、前記クラッチ操作子により前記クラッチを断接にすると共に、このクラッチの断条件及びその他の諸条件に基づいてエンジンを停止させるようにしたアイドルストップ車両において、前記クラッチケーブルに、このクラッチケーブルの張力を検出する張力検出機構を設け、前記車両に、前記張力検出機構で検出する前記張力が所定値に達することで前記クラッチの断条件が満たされたと判断して前記エンジンを停止させるように制御する制御部を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、張力検出機構は、クラッチケーブルを振動させる音波を発射する発信部と、前記クラッチケーブルの振動で生じる振動波を検知する受信部とを備え、制御部は、前記受信部で検知する振動波のうち特定の振動数を選択し、この特定の振動数から周波数を求め、この周波数に基づいて張力を演算する演算機能を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、クラッチケーブルは、アウターチューブに覆われ、このアウターチューブは、発信部及び受信部を収納するケースに接続され、このケース内に摺動可能に配置する前記クラッチケーブルに指向するように前記発信部及び前記受信部が配置されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、アウターチューブは、クラッチ側からケースに接続されるクラッチ側チューブと、クラッチ操作子側から前記ケースに接続される操作子側チューブとからなり、前記クラッチ側チューブは、前記ケースのクラッチ側にて所定角度だけ傾斜して設けられ、前記操作子側チューブは、前記ケースのクラッチ操作子側にて所定角度だけ傾斜して設けられることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明では、クラッチ側チューブの傾斜角度及び操作子側チューブの傾斜角度は、同一であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、張力検出機構で検出する張力が所定値に達することでクラッチの断条件が満たされたと制御部で判断する。
クラッチ断状態でのケーブル張力(所定値)を決めておき、検出した張力が所定値に達することによってクラッチが断状態であると判断する。そのため、クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できる。
【0015】
請求項2に係る発明では、張力検出機構は、クラッチケーブルを振動させる音波を発射する発信部と、クラッチケーブルの振動で生じる振動波を検知する受信部とを備える。
発信部及び受信部は、クラッチケーブルに接触しない位置に配置する。クラッチケーブルに外力が加わらないので、張力の検出精度が高まる。
【0016】
請求項3に係る発明では、ケースに発信部及び受信部を一括して組付けることができる。張力検出機構の要部をケースにまとめることで、張力検出機構をコンパクト化することが可能となる。
【0017】
請求項4に係る発明では、クラッチ側チューブは、ケースのクラッチ側にて所定角度だけ傾斜して設けられ、操作子側チューブは、ケースのクラッチ操作子側にて所定角度だけ傾斜して設けられる。振動における弦長は、クラッチ側チューブの端部と操作子側チューブの端部との距離で定められる。弦長が一義的に定められるために張力の演算精度が高まる。
【0018】
請求項5に係る発明では、クラッチ側チューブの傾斜角度及び操作子側チューブの傾斜角度が同一であるため、クラッチ側チューブ及び操作子側チューブをケースに取付けやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るアイドルストップ車両の左側面図である。
【図2】クラッチ操作子とクラッチケーブルと張力検出機構の接続を説明する図である。
【図3】エンジンの右側面図である。
【図4】図3の4矢視図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】張力検出機構の断面図である。
【図7】音波の周波数マップと音の強さのマップを説明する図である。
【図8】アイドルストップ装置の構成を説明する図である。
【図9】別の張力検出機構の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。以下の説明で用いる前後、左右、上下は乗員シートに座った乗員を基準に定める。
【実施例】
【0021】
本発明に係るアイドルストップ車両を自動二輪車を例に図面に基づいて説明する。
図1に示すように、自動二輪車10は、ヘッドパイプ11に転舵可能に取付けられハンドル12を上端に備えるフロントフォーク13と、このフロントフォーク13の下端に回転自在に取付けられる前輪14と、ヘッドパイプ11を前端に備える車体フレーム15と、この車体フレーム15に懸架されるパワーユニット16と、このパワーユニット16の上方にて車体フレーム15に支持される燃料タンク17と、この燃料タンク17の車両後方位置にて車体フレーム15に支持されるシート18と、車体フレーム15の下部に揺動可能に取付けられ車両後方に延びるリヤスイングアーム19と、このリヤスイングアーム19の後端に回転可能に取付けられる後輪21と、車体フレーム15とリヤスイングアーム19の後部との間に渡されるリヤクッションユニット22と、車体フレーム15の下部から下方に延ばされ車体を起立状態に保持するスタンド23とを主要素とするアイドルストップ車両である。
【0022】
パワーユニット16は、エンジン24と変速機25とを一体化したものである。エンジン24の駆動力は変速機25に伝達され、変速機25からチェーン伝動機構26を介して後輪21に伝達される。
エンジン24の前部から排気管27が下方へ延ばされ、排気管27が更に後方へ延ばされる。このような排気管27に消音器28に連結される。エンジン24の上部後部にスロットルボディ29を含む吸気系31が接続される。
【0023】
前輪14の上方位置にてフロントフォーク13にフロントフェンダ32が取付けられ、ヘッドパイプ11の前方位置にてフロントフォーク13にフロントカウル33が取付けられる。
後輪21の上方位置にて車体フレーム15にリヤカウル34が取付けられ、後輪21の後上方位置にて車体フレーム15にリヤフェンダ35が取付けられる。
【0024】
ハンドルに備えられるクラッチ操作子とクラッチケーブルと張力検出機構の接続構造を図2に基づいて説明する。
図2に示すように、ハンドル12のパイプ42L(Lは左を示す添え字。以下同様)の車幅方向左側に、運転者が左手で握るグリップ43Lが嵌められ、パイプ42Lの車幅方向左端にキャップ41Lが取付けられる。
加えて、グリップ43Lよりも車幅中心側に位置するようにパイプ42Lに、ブラケット44が取付けられる。このブラケット44に、左手で操作するクラッチ操作子46がボルト45で揺動可能に支持される。
【0025】
クラッチ操作子46は、ブラケット44の車両前後方向前側に設けられる二股部51に差込まれ揺動支点となるボルト45の近傍に位置する揺動支点側端部52と、この揺動支点側端部52から車幅方向外側に延ばされて更に曲げて延ばされるV字状の延長部53と、この延長部53から車幅方向外側に延ばされ運転者が左手の人差し指・中指・薬指・小指を掛ける指掛け部54と、この指掛け部54の車幅方向外側端に設けられる外端部55とからなる。
【0026】
揺動支点側端部52の前端部からクラッチ側へクラッチケーブル47が延ばされ、このクラッチケーブル47がアウターチューブ99で覆われる。ブラケット44の車幅中心側端部に、クラッチケーブル47の張り具合を調整するハンドル側調整部48が設けられる。
車体フレーム15に、支持金具49を介してクラッチケーブル47の張力を検出する張力検出機構60(詳細後述)が取付けられる。この張力検出機構60にクラッチケーブル47が挿入されている。クラッチケーブル47は、アウターチューブ73にも覆われる。
【0027】
次にエンジン24の構成を図3に基づいて説明する。
図3に示すように、エンジン24は、クランク軸を囲うクランクケース61と、このクランクケース61の上面に設けられピストンを収納するシリンダブロック62と、このシリンダブロック62の上面に設けられ動弁機構を備えるシリンダヘッド63と、このシリンダヘッド63の上面に設けられ動弁機構を覆うシリンダヘッドカバー64とからなる。
【0028】
クランクケース61の車幅方向右側は、右クランクケースカバー65によって覆われ、この右クランクケースカバー65の上方に、クラッチシャフト(後述)に支持された操作アーム72(詳細後述)が配置される。
【0029】
クラッチケーブル47と操作アーム72の接続構造を図4に基づいて説明する。
図4に示すように、クラッチケーブル47の後端75は、操作アーム72の車幅中心側端部に連結部材76を介して連結される。一方、クラッチケーブル47の前端(図2、符号77)は、クラッチ操作子(図2、符号46)の車幅中心側端部に連結される。
アウターチューブ73のクラッチ側端部に、クラッチケーブル47の張り具合を調整するクラッチ側調整部67が設けられる。
【0030】
クラッチの構造を図5に基づいて説明する。
図5に示すように、クラッチ80は、変速機(図1、符号25)の従動ギヤ37に取付けられ駆動側摩擦板81を有するクラッチハウジング82と、従動ギヤ37に組付けられ車幅方向外方に突出する複数のボス部83を有する受圧板84と、この受圧板84に車幅方向外方から組付けられ駆動側摩擦板81と離間又は圧接する従動側摩擦板85を有するクラッチインナ86と、クラッチインナ86に接触させ各々のボス部83に嵌合させると共に車幅方向外側から加圧板87をボス部83に組付けることでクラッチインナ86をクラッチハウジング82側へ付勢するクラッチばね88と、加圧板87に設けた凸部89と係合するカム部91を有しクラッチばね88の力に抗してクラッチインナ86をクラッチハウジング82の側へ押圧すると共にクラッチ80の断接を行わせるクラッチシャフト92とからなる。このクラッチシャフト92の上端部96に操作アーム72が一体に取付けられる。
【0031】
張力検出機構60の構造を図6に基づいて説明する。
図6に示すように、張力検出機構60は、クラッチケーブル47を収納するケース101を有し、このケース101は、車体フレーム(図2、符号15)側に支持される底部102と、この底部102の上方に設けられクラッチ操作子(図2、符号46)側のアウターチューブ99を支持すると共にクラッチ(図5、符号80)側のアウターチューブ73を支持する本体部103とからなる。
【0032】
加えて、張力検出機構60は、底部102と本体部103の内部にてクラッチ操作子側に配置した発信室104に設けられクラッチケーブル47を振動させる音波を発射する発信部105と、底部102と本体部103の内部にてクラッチ側に配置した受信室106に設けられクラッチケーブル47の振動で生じる振動波を検知する受信部107とからなる。
【0033】
発信部105は、発信用電源108と、この電源108に接続され静止状態を維持する発信用コイル109と、このコイル109に挿入され給電したときにコイル109の長手方向に対して移動する発信用マグネット111と、中心がマグネット111に連結され外側が本体部103の内壁に連結されると共に給電時にマグネット111の移動で振動する発信用振動板112とからなる。
【0034】
受信部107は、中心が受信用マグネット113に連結され外側が本体部103の内壁に連結されると共に振動波を検知したときに振動する受信用振動板114と、この振動板114の振動により受信用コイル115の長手方向に対して移動する受信用マグネット113と、このマグネット113の移動で生じる電力を負荷116に給電する受信用コイル115とからなる。
【0035】
クラッチケーブル47は、アウターチューブ99、73に覆われ、これらのアウターチューブ99、73は、発信部105及び受信部107を収納するケース101に接続され、このケース101内に摺動可能に配置するクラッチケーブル47に指向するように発信部105及び受信部107が配置される。
【0036】
加えて、アウターチューブ99、73は、クラッチ側からケース101に接続されるクラッチ側チューブ73と、クラッチ操作子側からケース101に接続される操作子側チューブ99とからなり、クラッチ側チューブ73は、ケース101のクラッチ側にて所定角度θ1だけ傾斜して設けられ、操作子側チューブ99は、ケース101のクラッチ操作子側にて所定角度θ2だけ傾斜して設けられる。
【0037】
さらに、クラッチ側チューブ73の傾斜角度は、θ1=10°で、操作子側チューブ99の傾斜角度は、θ2=10°とした。つまり、クラッチ側チューブ73の傾斜角度θ1と操作子側チューブ99の傾斜角度θ2は、同一である。なお、傾斜角度θ1、θ2は、実施例では同一としたが、異なる角度にしてもよい。θ1、θ2ともに5°〜10°の範囲が好適である。
【0038】
張力検出機構60の張力検出原理を次に述べる。
先ず、クラッチケーブル47のクラッチ断状態での固有振動数を求めるために、クラッチケーブル47の張力を例えば次のように定義する。
【0039】
【表1】

【0040】
次に、クラッチケーブル47の弦長をL=0.05〔m〕、クラッチ断状態でのクラッチケーブル47の張力をT=317〔N〕、クラッチケーブル47の単位長さ当たりの質量をρ=0.016〔kg/m〕として、次式に代入する。
【0041】
【数1】

【0042】
したがって、クラッチケーブル47のクラッチ断状態での固有振動数ν=1407〔Hz〕を得る。
【0043】
次に発信部105からの音波の入力方法と受信部107で得られる出力特性を図7に基づいて説明する。
図7は音波の周波数マップと音の強さのマップを説明する図であり、(a)に示す時間tと周波数fの関係を示すマップ、(b)に示す時間tと音の強さの関係を示すマップである。
【0044】
時間t1のとき、音の強さのピークが検出されたら、矢印(2)を(a)に示す直線117に交差させ、矢印(3)で周波数f1を求めることができる。
【0045】
ここで、式(1)を変形し、固有振動数νを周波数fに置き換えて次式を得る。
【0046】
【数2】

【0047】
式(4)に、音の強さのピークに対応する周波数f1を代入することにより、クラッチケーブル47の張力を求めることができる。求められた張力がT=317〔N〕であると、クラッチが断状態であると判断できる。張力T=317〔N〕のときには、クラッチケーブル47の振動数が固有振動数に一致するため、本発明では共振状態を利用してクラッチケーブル47の張力を検出している。
【0048】
上記のクラッチケーブル47の張力変化、ケーブルの固有振動数を求める式、時間tと周波数fの関係を示すマップ、時間tと音の強さの関係を示すマップは、制御部(後述)に記憶されると共に制御部で数式の演算が行われる。
【0049】
次にアイドルストップ装置の構成と制御部の機能を図8に基づいて説明する。
図8において、自動二輪車(図1、符号10)は、諸条件に基づいてエンジン(図1、符号24)を自動停止させるアイドルストップ装置120を備える。このアイドルストップ装置120に、張力検出機構60で検出する張力が所定値(T=317[N])に達することでクラッチ(図5、符号80)の断条件が満たされたと判断してエンジンを停止させるように制御する制御部130が設けられる。
【0050】
制御部130に、スタータモータ131と、スロットルボデイ(図1、符号29)に備えられ燃料を噴射するインジェクタ132と、燃料タンク(図1、符号17)に備えられ燃料を供給する燃料ポンプ133と、点火プラグ(図3、符号38)を含む点火装置134と、ギヤのポジションを検出するギヤポジションセンサ135と、アクセル開度を検出するスロットルセンサ136と、車両の速度を検出する車速センサ137と、クランクケース内のエンジンオイルの温度を検出するエンジンオイル油温センサ138と、スタンド(図1、符号23)が格納位置にあることを検出するスタンドスイッチ139と、シート(図1、符号18)に乗員が着座していることを検出するシートスイッチ141と、バッテリ142とが、各々ケーブルを介して電気的に接続される。
【0051】
ギヤポジションセンサ135、スロットルセンサ136、車速センサ137、エンジンオイル油温センサ138、スタンドスイッチ139、シートスイッチ141での検知に基づいて、エンジン(図1、符号24)を自動停止させる諸条件が整っているかどうか判断する。
【0052】
制御部130とバッテリ142との間にメインスイッチ143が介在される。加えて、制御部130とスタータモータ131との間に別系統のケーブルが接続され、このケーブルにスタータボタン144が介在される。
【0053】
スタータモータ131は、クランクケース(図3、符号61)に設けられ、制御部130の指令に応じて駆動しパワーユニット(図1、符号16)を始動させる。インジェクタ132は、制御部130の指令に応じて燃料噴射する。点火装置134は、制御部130の指令に応じて、所定タイミングで点火する。
【0054】
加えて、制御部130は、受信部(図6、符号107)で検知する振動波のうち特定の振動数(図7(b)に示す音の強さのピークに相当)を選択し、この特定の振動数から周波数を求め、この周波数に基づいて張力を演算する演算機能を有する。
【0055】
これまでに説明した張力検出機構60は、クラッチケーブルの振動を利用して張力を検出したが、その他の方式で張力を検出できる例を次に説明する。
【0056】
図9において、図2と共通の構造は符号を流用して詳細な説明を省略する。
主たる変更点は、ケーブルの張力検出にロードセルを用いたことである。
張力検出機構150は、ロードセルである。ロードセル150は、クラッチ操作子(図2、符号46)側に操作子側検出部151を備え、クラッチ側にクラッチ側検出部152を備え、車体フレーム15側に出力信号ケーブル153を備える。
【0057】
操作子側検出部151に、操作子側ケーブル154の端部155が接続され、クラッチ側検出部152に、クラッチ側ケーブル156の端部157が接続される。つまり、クラッチケーブル154、156に、これらクラッチケーブル154、156の張力を検出するロードセル(張力検出機構)150を接続させた。なお、クラッチケーブル154、156は、アウターチューブ73、99で覆わずに裸状であっても、張力の検出には差し支えない。
【0058】
ロードセル150が例えば歪みゲージを備えた型式である場合、クラッチケーブル154、156の張力を電気抵抗で検出する。制御部(図8、符号130)は、検出した電気抵抗が所定値に達することでクラッチ(図5、符号80)の断条件が満たされたと判断してエンジン(図1、符号24)を停止させるように制御する。
なお、ロードセル150は、歪みゲージを備えた型式が好適であるが、磁歪センサや圧電素子を備えた型式であってもよい。
【0059】
ロードセル150を用いると、ロードセル150の検出部151、152にクラッチケーブル154、156を単に接続するだけよいから、取付け作業を簡単に実施できる。
【0060】
以上に述べた自動二輪車10の作用効果を以下に記載する。
図6に示す構成により、張力検出機構60で検出する張力が所定値に達することでクラッチの断条件が満たされたと制御部で判断する。
クラッチ断状態でのケーブル張力(所定値)を決めておき、検出した張力が所定値に達することによってクラッチが断状態であると判断する。そのため、クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できる。
【0061】
図9に示す構成により、張力検出機構150で検出する張力が所定値に達することでクラッチの断条件が満たされたと制御部で判断する。
クラッチ断状態でのケーブル張力(所定値)を決めておき、検出した張力が所定値に達することによってクラッチが断状態であると判断する。そのため、クラッチ操作系での遊び量の大きさに関係なく、クラッチの断状態が検出できる。
【0062】
図6に示すように、張力検出機構60は、クラッチケーブル47を振動させる音波を発射する発信部105と、クラッチケーブル47の振動で生じる振動波を検知する受信部107とを備える。
発信部105及び受信部107は、クラッチケーブル47に接触しない位置に配置する。クラッチケーブル47に外力が加わらないので、張力の検出精度が高まる。
【0063】
加えて、図6に示す構成により、ケース101に発信部105及び受信部107を一括して組付けることができる。張力検出機構60の要部をケース101にまとめることで、張力検出機構60をコンパクト化することが可能となる。
【0064】
さらに、図6に示す構成により、クラッチ側チューブ73は、ケース101のクラッチ側にて所定角度θ1だけ傾斜して設けられ、操作子側チューブ99は、ケース101のクラッチ操作子側にて所定角度θ2だけ傾斜して設けられる。振動における弦長Lは、クラッチ側チューブ73の端部と操作子側チューブ99の端部との距離で定められる。弦長Lが一義的に定められるために張力の演算精度が高まる。
【0065】
そして、図6に示す構成により、クラッチ側チューブ73の傾斜角度θ1及び操作子側チューブ99の傾斜角度θ2が同一であるため、クラッチ側チューブ73及び操作子側チューブ99をケース101に取付けやすくすることができる。
【0066】
尚、本発明に係るアイドルストップ車両は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、鞍乗型の三輪車や四輪車にも適用可能であり、一般の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のアイドルストップ車両は、多板式クラッチを備えた自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0068】
10…アイドルストップ車両、24…エンジン、46…クラッチ操作子、47、154、156…クラッチケーブル、60、150…張力検出機構、73…クラッチ側チューブ、75…先端、80…クラッチ、99…操作子側チューブ、101…ケース、105…発信部、107…受信部、130…制御部、T…張力、f1…周波数、θ1、θ2…所定角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が操作するクラッチ操作子(46)からクラッチケーブル(47、154、156)を延ばし、このクラッチケーブル(47、154、156)の先端(75)をクラッチ(80)に接続し、前記クラッチ操作子(46)により前記クラッチ(80)を断接にすると共に、このクラッチ(80)の断条件及びその他の諸条件に基づいてエンジン(24)を停止させるようにしたアイドルストップ車両(10)において、
前記クラッチケーブル(47、154、156)に、このクラッチケーブル(47、154、156)の張力(T)を検出する張力検出機構(60、150)を設け、
前記車両(10)に、前記張力検出機構(60、150)で検出する前記張力(T)が所定値に達することで前記クラッチ(80)の断条件が満たされたと判断して前記エンジン(24)を停止させるように制御する制御部(130)を設けたことを特徴とするアイドルストップ車両。
【請求項2】
前記張力検出機構(60)は、前記クラッチケーブル(47)を振動させる音波を発射する発信部(105)と、前記クラッチケーブル(47)の振動で生じる振動波を検知する受信部(107)とを備え、
前記制御部(130)は、前記受信部(107)で検知する振動波のうち特定の振動数を選択し、この特定の振動数から周波数(f1)を求め、この周波数(f1)に基づいて前記張力(T)を演算する演算機能を有することを特徴とする請求項1記載のアイドルストップ車両。
【請求項3】
前記クラッチケーブル(47)は、アウターチューブ(73、99)に覆われ、このアウターチューブ(73、99)は、前記発信部(105)及び前記受信部(107)を収納するケース(101)に接続され、このケース(101)内に摺動可能に配置する前記クラッチケーブル(47)に指向するように前記発信部(105)及び前記受信部(107)が配置されることを特徴とする請求項2記載のアイドルストップ車両。
【請求項4】
前記アウターチューブ(73、99)は、前記クラッチ(80)側から前記ケース(101)に接続されるクラッチ側チューブ(73)と、前記クラッチ操作子(46)側から前記ケース(101)に接続される操作子側チューブ(99)とからなり、
前記クラッチ側チューブ(73)は、前記ケース(101)のクラッチ(80)側にて所定角度(θ1)だけ傾斜して設けられ、前記操作子側チューブ(99)は、前記ケース(101)のクラッチ操作子(46)側にて所定角度(θ2)だけ傾斜して設けられることを特徴とする請求項3記載のアイドルストップ車両。
【請求項5】
前記クラッチ側チューブ(73)の傾斜角度(θ1)及び前記操作子側チューブ(99)の傾斜角度(θ2)は、同一であることを特徴とする請求項4記載のアイドルストップ車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−72315(P2013−72315A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210697(P2011−210697)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】