説明

アウターロータ型モータの固定子構造

【課題】コイルから引き出されたコイルリードの絶縁信頼性を落とさずに固定子ユニットの磁極歯を欠くことで外周側に形成される空間部を利用して作業性良く配線することができるアウターロータ型モータの固定子構造を提供する。
【解決手段】固定子ヨーク7a,7bの対向する上下一対の磁極歯7c,7dを欠落した固定子ユニット4a〜4dどうしを積層することにより欠落した磁極歯位置に連続する空間部12a〜12dが形成され、当該空間部12a〜12dに配置されたコネクタ端子11a〜11dと各固定子ユニット4a〜4dのコイル6から引き出されたコイルリードとが各々電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車、産業機器、事務機器などに用いられるアウターロータ型モータの固定子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
モータは、固定子ユニットに設けられるコイルに流す電流方向を切り換えることにより、固定子ヨークの磁極歯に対向して設けられる永久磁石を備えた回転子が回転する。コイルは電流方向を切り換える等の制御をするためモータ基板に接続される。例えば、通常のブラシレスモータの場合、固定子鉄心に出力軸と平行な方向にマグネットワイヤーが巻き付けられ(巻芯方向が軸方向と直交するように巻付けられ)、コイルの巻き始めと巻き終わりのコイル端が共に軸方向に引き出されて駆動回路に接続される。
【0003】
インナーロータ型のPMステップモータの固定子ユニットは、固定子ヨークの磁極歯の外周に設けられたコイルボビンにマグネットワイヤーを巻いて内周側及び外周側のコイル端を端子などを介して固定子の外周側の空間へ引き出してコネクタ又はプリント基板と接続していた(特許文献1,2参照)。
【0004】
アウターロータ型のPMステップモータの固定子は、固定子ヨークの磁極歯の内側に設けられたコイルボビンにマグネットワイヤーを巻いてコイルボビンの内周側と軸受ハウジングの外周側との隙間にコイルリードを通すためのガイドを設けて当該ガイド内にコイルリードを配線してコイル端をコネクタ又はプリント基板に接続していた(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−78268号公報
【特許文献2】特開2005−110377号公報
【特許文献3】特開2007−49844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アウターロータ型PMステップモータは、インナーロータ型PMステップモータに比べて、同体格で比較した場合に大きなトルクを発生出来る利点がある一方で、コイルリードの配線をモータ内部で行わなければならないために、コイルリードを配線するための空間が十分に確保出来ない。そのために、非常に狭い空間に配線を行わなければならないために、配線作業の作業性は悪いと同時に固定子ヨークとコイルの絶縁の信頼性の確保が困難であると言う課題がある。
即ち、絶縁の信頼性の高い構造で実現することが困難であったことが、アウターロータ型PMステップモータの普及し難い理由となっている。
【0007】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、コイルから引き出されたコイルリードの絶縁信頼性を落とさずに固定子ユニットの磁極歯を欠くことで外周側に形成される空間部を利用して作業性良く配線することができるアウターロータ型モータの固定子構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
出力軸と、マグネットワイヤーを巻いたコイルを、櫛歯状の磁極歯が形成された固定子ヨークにより挟み込んだ固定子ユニットが同芯状に複数積層される固定子と、前記磁極歯に対向して磁極が形成される永久磁石を備え、前記出力軸を中心に回転可能に支持された回転子と、モータを駆動する駆動回路の端子である駆動回路端子部と、を備えたアウターロータ型モータの固定子構造であって、前記固定子ヨークの対向する上下一対の磁極歯を欠落した固定子ユニットどうしを積層することにより欠落した磁極歯位置に連続する空間部が形成され、当該空間部に配置された前記駆動回路端子部と各固定子ユニットのコイルから引き出されたコイルリードとが各々電気的に接続されていることを特徴とする。
上記構成によれば、予め各固定子ユニットに上下一対の磁極歯を欠いた空間部が形成されているので、各固定子ユニットを積層するだけで固定子外周面に欠落した磁極歯位置に連続した空間部が形成される。この空間部に駆動回路端子を配置するようにしておくことで各固定子ユニットのコイルから引き出されたコイルリードと容易に電気的に接続することができる。よって、モータ特性は落ちるが回転子との干渉のおそれがなく固定子のコイルを駆動回路端子と確実かつ容易に配線接続することができる。
【0009】
また、前記各固定子ユニットのコイルリードと接続する駆動回路端子が複数起立形成された端子台に固定子ユニットを積層して外周面に連続して形成される空間部に前記駆動回路端子が配置され、前記各固定子ユニットより引き出されたコイルリードと接合されていることを特徴とする。
上記構成によれば、端子台に固定子ユニットを空間部が連続するように積層するだけで、駆動回路端子を空間部に配置して各固定子ユニットより引き出されたコイルリードと接合することができる。よって、コイルリードの配線作業を簡略化しかる磁極歯との干渉を確実に回避して配線することができる。
【0010】
また、前記第一固定子ヨークと第二固定子ヨークの磁極歯間に露出するコイルリード保持部が形成されたコイルリード保持部材が、前記固定子ユニット内にコイルと共に積層されて挟み込まれていることを特徴とする。
上記構成によれば、各固定子ユニットのコイルから引き出されたコイルリードが第一固定子ヨークと第二固定子ヨークの磁極歯間に露出するコイルリード保持部に保持されて磁極歯の隙間を通過して配線することができる。よって、コイルリードの配線作業がしやすく、かつコイルリードが回転子側に飛び出すことを防ぐことが可能となる。
【0011】
また、前記固定子ヨークの外面が絶縁膜でコーティングされていることを特徴とする。及び/又は前記コイルリード線の外周は絶縁材で覆われているか若しくは絶縁コーティングされていることを特徴とする。
上記構成によれば、コイルリードと固定子ヨークの磁極歯との絶縁の信頼性を向上させることができる。
【0012】
また、前記固定子全体がモールドされていることを特徴とする。
上記構成によれば、モータに振動や熱膨張や熱収縮を繰り返す過酷な使用環境に置かれても、コイルリードが位置ずれすることなく、回転子側に飛び出すこともないので耐候性や信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したアウターロータ型モータの固定子構造を用いれば、コイルから引き出されたコイルリードの絶縁信頼性を落とさずに固定子ユニットの磁極歯を欠くことで外周側に形成される空間部を利用して作業性良く配線することができるアウターロータ型モータの固定子構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】固定子ユニットの斜視図である。
【図2】図1の固定子ユニットの分解斜視図である。
【図3】端子台の斜視図である。
【図4】固定子ユニットを端子台に4段積層した固定子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るアウターロータ型モータの固定子構造の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るアウターロータ型モータは、固定子が空芯状に巻かれたコイルを櫛歯状の磁極歯(クローポール)を有する固定子ヨークにより挟み込んで形成される複数の固定子ユニットが同芯状に積層されるクローポール型の2相ステッピングモータを例示して説明する。
【0016】
2相ステッピングモータの概略構成について図4を参照して説明する。図4において、回転子1は、周方向にN・S交互に着磁された永久磁石2が筒状の回転子ヨーク3の内周面に設けられている。永久磁石2は、後述する固定子ヨークの磁極歯(クローポール)に対向して設けられる。回転子1は、図示しない出力軸と一体に連結して支持される。
【0017】
固定子4は、マグネットワイヤーが空芯状に巻かれたコイル6を一対の固定子ヨーク7a,7bにより挟み込んだ固定子ユニット4a〜4dが同芯状に複数積層されてなる。固定ヨーク7bの中心部には出力軸を挿通する筒体7gが形成されており、該筒体7gと同芯状にコイル6が組み付けられる(図2参照)。コイル6のコイルリード8(図示せず)が磁極歯7c,7d(クローポール)の隙間を通過して外周側に引き出され、コネクタ端子(駆動回路端子)11c〜11aに接続される。固定子ユニット4a〜4dは1相あたりn個(nは1以上の整数:本実施の形態ではn=2)同芯状に積層される。本実施例では固定子ユニットが2相×2で4段に積層されており、4箇所又は8箇所でコイルリード8の端部が生ずる。
【0018】
次に各固定子ユニットの構成について具体的に説明する。固定子ユニット4a〜4dは同様の構成であるので、以下では固定子ユニット4aの構成について説明するものとする。図2において、コイル6とコイルリード保持部材9が出力軸と同軸状に積層されて第一固定子ヨーク7aと第二固定子ヨーク7bとで挟み込まれる。第一固定子ヨーク7aと第二固定子ヨーク7bには、櫛歯状の磁極歯7c,7dが周方向に一定の位相差を形成して配置される。第一固定子ヨーク7aと第二固定子ヨーク7bの外面は絶縁膜に覆われており、その膜は塗料が塗布されてものでも良い。仮に第一固定子ヨーク7aと第二固定子ヨーク7bに絶縁膜が形成されていない場合には、マグネットワイヤーに通常施されている絶縁コーティングとは別にコイルリード8に絶縁コーディングされているか又は絶縁材(樹脂チューブなど)で覆われていることが信頼性を確保するうえでは好ましい。また、第一固定子ヨーク7aの内周側には、筒体7gの凹部7hと係合して位置合わせする係合部7eが対向位置に突設されている。
【0019】
また、図1及び図2に示すように固定子ユニット4aの上下一対の磁極歯7c,7dは通常8枚設けられるところ、上下一組ずつが欠落した7枚設けられている。即ち、固定子ユニット4aには、磁極歯7c,7dを欠いた空間部12aが形成されている。これは他の固定子ユニット4b〜固定子ユニット4dも同様であり、空間部12b〜12dが各々形成されている(図4参照)。これら固定子ユニット4a〜4dどうしを順次積層することにより図4に示すような欠落した磁極歯位置に空間部12a〜12dが連続して形成される。
【0020】
図2に示すようにコイルリード保持部材9は絶縁材料が用いられ、切欠き部9dが形成されたC型に成形されている。この切欠き部9dの外周側を跨いで架橋部9fが形成されている。コイルリード保持部材9をコイル6と固定子ヨーク7bで挟み込んだ際に、コイル6と固定子ヨーク7bの間にコイルリード保持部材9の内周側から外周側まで貫通した切欠き部9dに対応する隙間が形成される。この隙間にコイル6の内周側のコイルリード8を通すことにより、コイルリード8をつぶすような力を受けることなく、コイルリード8をコイル6の内周側から外周側に架橋部9f上に引き出すことが出来る。また、このコイルリード保持部材9はモータに使われているマグネットワイヤーの最大外径よりも厚いものが望ましいことは言うまでもない。
【0021】
これによって、第一固定子ヨーク7aと第二固定子ヨーク7bとの間に挟み込まれるコイル6を筒体7gの外周に軸線方向に長く巻き付けることができ、しかも、コイル6の内周側のコイルリード8を切欠き部9dの隙間を利用して架橋部9fの外周側に引き出して後述するコネクタ端子11a〜11dと接続することができる。
【0022】
また、図4において、第一固定子ヨーク7aと第二固定子ヨーク7bの外面は絶縁膜に覆われているが、コイル6のコイルリード8の外周は絶縁材(樹脂チューブなど)で覆われているか若しくはマグネットワイヤーに通常施されている絶縁コーティングとは別の絶縁塗料がコーティングされていても良い。上記構成によれば、コイル6から引き出されるコイルリード8と第一,第二固定子ヨーク7a,7bとの間の絶縁の信頼性を向上させることができる。
【0023】
また、図示しないが固定子ユニット4a〜4dの各磁極歯7c,7dの磁束作用面が露出するようにモールド樹脂10により固定子外周がモールドされていても良い。上記構成によれば、モータに振動や熱膨張や熱収縮を繰り返す過酷な使用環境に置かれても、コイルリード8が位置ずれすることなく、回転子側に飛び出すこともないので、モータの耐候性や信頼性を向上することができる。
【0024】
なお、必ずしも固定子ユニット4a〜4dの各磁極歯7c,7dの磁束作用面を露出させる必要は無く、製品や用途(実施状況)によって露出させるか、させないか決めればよい。また、磁極歯7c,7dの磁束作用面が露出していると、永久磁石2とのギャップが小さいのでトルクが出やすいという利点があるが、モールド樹脂が固定子ユニット4a〜4dから脱落する可能性があり信頼性が低くなる。一方、磁極歯7c,7dの磁束作用面が露出していない場合は、それとは逆でトルクは出にくいが、脱落する可能性が少なく信頼性が高くなる。
【0025】
上述した固定子4を組み立てるには、図3に示す端子台11を用いる。端子台11は、基台11eにコネクタ端子(駆動回路端子)11a〜11dが複数(4本)起立形成されている。この基台11e上に固定子ユニット4d〜固定子ユニット4aを順次積層する。このとき、図4に示すように固定子4の外周面には空間部12d〜12aが連続して形成され、該空間部12d〜12aには、コネクタ端子(駆動回路端子)11c〜11aが固定子ユニット4d側より設けられたコイルリード保持部材9の架橋部9fの内周側(切欠き部9d側;図2参照)を挿通して回転子側への飛び出しを防いで配置される。そして、各固定子ユニット4a〜4dのコイル6より切欠き部9dを介して各々引き出されたコイルリード8(図示せず)と接合される。
【0026】
上記構成によれば、端子台11の基台11eに固定子ユニット4d〜4aを空間部12d〜12aが連続するように積層するだけで、コネクタ端子11d〜11aを空間部12d〜12aに配置して各固定子ユニット4d〜4aより引き出されたコイルリード8と各々接合することができる。よって、コイルリード8の配線作業を簡略化しかつ磁極歯7c,7dとの干渉を確実に回避して配線することができる。
【0027】
上述した実施例では、クローポール型の2相ステッピングモータについて例示したが、これに限定されるものではなく、軸方向の長さが長くなるが低振動を実現した3相、4相、…n相などの多相ステッピング(ブラシレス)モータに適用することも可能である。 また、上述した実施例では、コネクタ端子11d〜11aを空間部12d〜12aに配置して各固定子ユニット4d〜4aより引き出されたコイルリード8と各々接合することを例示したが、各固定子ユニット4d〜4aより引き出されたコイルリード8を空間部12d〜12aに配置して、図3に示した例よりも短い、または基台11上に設けられるようにしたコネクタ端子11d〜11aと各々接合しても良い。
【符号の説明】
【0028】
1 回転子
2 永久磁石
3 回転子ヨーク
4 固定子
4a,4b,4c,4d 固定子ユニット
6 コイル
7a 第一固定子ヨーク
7b 第二固定子ヨーク
7c,7d 極歯
7e 係合部
7f 係合突起
8 コイルリード
9 コイルリード保持部材
9d 切欠き部
9f 架橋部
10 モールド樹脂
11 端子台
11a,11b,11c,11d コネクタ端子
11e 基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸と、マグネットワイヤーを巻いたコイルを、櫛歯状の磁極歯が形成された固定子ヨークにより挟み込んだ固定子ユニットが同芯状に複数積層される固定子と、前記磁極歯に対向して磁極が形成される永久磁石を備え、前記出力軸を中心に回転可能に支持された回転子と、モータを駆動する駆動回路の端子である駆動回路端子部と、を備えたアウターロータ型モータの固定子構造であって、
前記固定子ヨークの対向する上下一対の磁極歯を欠落した固定子ユニットどうしを積層することにより欠落した磁極歯位置に連続する空間部が形成され、当該空間部に配置された前記駆動回路端子部と各固定子ユニットのコイルから引き出されたコイルリードとが各々電気的に接続されていることを特徴とするアウターロータ型モータの固定子構造。
【請求項2】
前記各固定子ユニットのコイルリードと接続する駆動回路端子が複数起立形成された端子台に固定子ユニットを積層して外周面に連続して形成される空間部に前記駆動回路端子が配置され、前記各固定子ユニットより引き出されたコイルリードと接合されている請求項1記載のアウターロータ型モータの固定子構造。
【請求項3】
前記固定子ユニットを形成する第一固定子ヨークと第二固定子ヨークの磁極歯間に露出するコイルリード保持部が形成されたコイルリード保持部材が、前記固定子ユニット内にコイルと共に積層されて挟み込まれ或いは前記固定子ユニット間及びコイルリード引き出し端側の固定子ユニットに積層されている請求項1又は2記載のアウターロータ型モータの固定子構造。
【請求項4】
前記固定子ヨークの外面が絶縁膜でコーティングされている請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のアウターロータ型モータの固定子構造。
【請求項5】
コイルリード線の外周は絶縁材で覆われているか若しくは絶縁コーティングされている請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のアウターロータ型モータの固定子構造。
【請求項6】
前記固定子全体がモールドされている請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のアウターロータ型モータの固定子構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−80668(P2012−80668A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223485(P2010−223485)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)