説明

アカボヤから分離された抗菌ペプチド

本発明は、アカボヤから分離した抗菌ペプチドに関し、より詳しくはHalocynthia aurantiumの体液細胞から分離した抗菌ペプチド及び前記抗菌ペプチドを有効成分として含有する抗菌剤に関する。本発明による抗菌ペプチドは、強酸及び強塩基条件でも抗菌活性に優れ、耐性菌に対する抵抗性にも優れており、天然抗生剤として有用に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌ペプチドに関し、より詳しくは、アカボヤから分離された抗菌活性に優れるペプチドに関する。本発明による抗菌ペプチドは、強酸及び強塩基の条件下でも抗菌活性に優れるともに、耐性菌に対しても強力な抗菌性を示す。従って、天然抗菌剤として有効に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
現代の免疫学研究分野において、記憶性と特異性を備える後天性免疫機序と比べて先天性免疫機序は、今まで注目されていなかった。しかし、次の点からみるとき、動物系の自己防御体制において先天性免疫が寄与する役割は極めて大きな比重を占めていると認められる。まず第一に、先天性免疫細胞は、皮膚や腸の上皮細胞を通じた微生物の侵入を源泉的に抑制する。第二に、血液や体液に侵入した病原体等は、先天性免疫細胞の食細胞作用(phagocytosis)で制御される。第三に、先天性免疫細胞は、特異性を有していないので、感染の直後、後天性免疫機序や食細胞作用が活性化される前に、様々な侵入微生物等の体液内での成長を優先的に抑制させる。
【0003】
又、先天的免疫を担当する細胞は、上記の機能を果たすために簡単な無機化合物(HО及びNОなど)、抗菌ペプチド及び蛋白質のような様々な抗菌物質などを利用する。前記抗菌ペプチドや蛋白質は、主に粘膜上皮細胞の表面、体液及び食細胞の細胞内小器官などに存在し、サイズ、構造及び活性において極めて多様なものと報告されているが(Hancock, R.E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 2000, 97, 8856-8861)、大部分は、微生物細胞膜の負電荷に対して相補的な正電荷を呈していることが共通的特徴であり、酵素活性を有する抗菌蛋白質は、主に細菌の膜を加水分解し、抗菌ペプチドもまた微生物に対する共通の標的部位は細胞膜であるものと解されている(Zhang, L. et al., J. Biol. Cheml., 2001, 276, 35714-35722)。このような作用機序は、抗菌ペプチドが既存の抗生剤の耐性菌株に対して効果的に用いられる新たなタイプの抗生剤として開発され得るという可能性を示している。なお、最近、化学合成抗生剤の過多使用によって発生する頻繁な耐性菌株の出現は、これら抗菌ペプチドに対する関心をさらに増大させている。
【0004】
これまで発見された抗菌ペプチドは、両極性のα−へリックス構造と、ジスルフィド結合で安定した構造を形成しているβ−シート構造を有するものに大別することができる。システイン(cysteine)を有する抗菌ペプチドは、通常、2〜8個の偶数個システイン残基を有することによって、分子内のジスルフィド結合を形成することにより、構造を安定化させる場合が大部分である。表1は、β−シート構造の抗菌ペプチドを、分子内のシステイン残基の個数によって分類した内容を示している。
【0005】
【表1】

【0006】
抗菌ペプチドの作用機序と選択性は、細菌の膜と相互作用する方式によって異なる。一般に、ペプチドは、グラム陰性菌の表面上のLPS(lipopolysaccharide)と作用して自己刺激された摂取経路(uptake pathway)を通じて受け入れられる。この受け入れ過程の第1のステップは、ペプチドが細胞表面のLPSに存在する二価カチオンの結合部位に作用することであり、第2のステップは、細胞膜に挿入されてチャンネルを形成することである。
【0007】
前記第1のステップにおいて、ペプチドは、Mn++またはMg++のような二価カチオンより少なくとも3倍以上高い親和力でLPSに結合することができるため、競争的に二価カチオンを代替することができるので、外膜の正常的な細胞膜の特性を破壊させる。このような影響を受けた細菌細胞膜は、一時的に隙間が生じて疎水性物質、低分子蛋白質或いは抗生剤などが通過するようになり(Piers, K.L. et al., Antimicrob. Agents Chemother., 1994, 38, 2311-2316)、特にペプチド自体を受け入れる効果が増大される。
【0008】
第2のステップにおいて、ペプチドが細胞膜に挿入されてチャンネルを形成する過程において、カチオンペプチドの磁気がアニオンの細菌細胞膜と作用すると、その次の作用として、疎水性部位は膜側に向き、親水性部位はチャンネルを形成するために内側を向くようになる(Hancock, R.E. et al., Adv. Microbial Physiol., 1995, 37, 135-175)。このとき、膜の電位差が大きく、アニオン脂質の量が多く、及びコレステロールの量が少ないほどチャンネルの形成が良好になり、膜構造が崩壊されて細菌が死滅するようになる(Falla, T. et al., J. Biol. Chem., 1996, 271, 19298-19303)。これに対して、多量のコレステロールと少量のアニオン脂質を有している真核細胞の場合は、ペプチドが効果的に作用することができなくなり、細菌に対する高い選択的活性を有するようになる。このような理由のため、抗菌ペプチドは、細胞毒性の効果が極めて少ない抗生剤として注目されている。その他にも、抗菌ペプチドが新たな抗生剤として有している長所をまとめると次のとおりである。
【0009】
1.病原体膜を物理的に破壊する作用機序によって耐性菌の出現を防ぐことができる。
2.迅速な作用機序によって細菌の生存サイクルよりも速く作用する。
3.既存抗生剤の耐性菌に対して効果的に作用する。
4.広範囲な抗菌スペクトルを有する。
5.LPSとの結合力によって抗−耐毒性の効果がある。
6.遺伝工学の工程を利用する大量生産が可能であるため、新薬製剤として開発する場合低コスト化が可能となる。
【0010】
なお、動物系統分類学的側面において、後口動物に属するホヤ(tunicate)は、幼生時期に脊索と背部の管状神経索を有する特徴を示すことにより、原始脊索動物に分類される無脊椎動物である。従って、系統進化的な側面からみると、ホヤは脊椎動物直前の進化段階の動物群として分類されるので、このようなホヤの分類学的位置のため、ホヤは動物免疫体系の進化的起源を糾明するための好適な動物として考えられてきた。特に、ホヤの体腔(hemocoel)には脊椎動物の循環系から発見される好中球(granulocytes)とマクロファージ(大食細胞)と類似の形態と機能を有した多くの食細胞が存在していることが観察された(Bone, Q., The Origin of Chordates, 1979, 2nd edn)。現在まで、ホヤの体液細胞から抗菌ペプチドを確認しようとする研究が進められており、Styela clavaの体液細胞から分離されたclavanin(Lee, I.H. et al., FEBS Lett., 1997, 400, 158-162; Lee, I.H. et al., Infection and Immunity, 1997, 65, 2898-2903; Zhao, C. et al., FEBS Lett., 1997, 410, 490-492)及びstyelin(Lee I.H., et al., Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol., 1997, 118, 515-521; Zhao, C. et al., FEBS Lett., 1997, 412, 144-148)がホヤから発見された代表的な抗菌ペプチドである。
【0011】
韓国内には、主に二種類のホヤが棲息しているものと知られている。これらは、南西海岸で主に自然棲息するか、または養殖されるHalocynthia roretziと、半島東海岸の束草(地名:韓国江原道)地域でのみ自然棲息しているアカボヤと呼ばれるHalocynthia aurantiumである。前者のホヤについては、既に多年間日本で多くの研究が進行されており、Halocyamineのような変形されたペプチド形態テトラペプチドの抗菌物質が存在するものと知られているが(Azumi, K. et al., Experientia, 1990, 46, 1066-1068; K. Azumi et al., Biochemistry, 1990, 29, 159-165)、Halocynthia aurantiumから抗菌ペプチドが分離されたという報告は未だ皆無の事情である。
【0012】
ここで、本発明者等は、Halocynthia aurantiumを対象としてその体液細胞に存在する抗菌ペプチドを研究した結果、dicinthaurinと命名された抗菌ペプチドを分離し(Lee, I.H. et al., Biochem. Biophys. Acta, 2001, in press)、最近、また他の種類の抗菌ペプチドを分離し、その構造を分析して、前記ペプチドが抗菌活性に優れていることを確認することにより、本発明を完成するに至った。
【0013】
【非特許文献1】Hancock, R. E.et al.,Proc. Natl. Acad. Sci.,2000,97,8856-8861
【非特許文献2】Zhang, L. et al., J. Biol. Cheml., 2001, 276, 35714-35722
【非特許文献3】Piers, K.L. et al., Antimicrob. Agents Chemother., 1994, 38, 2311-2316
【非特許文献4】Hancock, R.E. et al., Adv. Microbial Physiol., 1995, 37, 135-175
【非特許文献5】Falla, T. et al., J. Biol. Chem., 1996, 271, 19298-19303
【非特許文献6】Lee, I.H. et al., FEBS Lett., 1997, 400, 158-162
【非特許文献7】Lee, I.H. et al., Infection and Immunity, 1997, 65, 2898-2903
【非特許文献8】Zhao, C. et al., FEBS Lett., 1997, 410, 490-492
【非特許文献9】Lee I.H., et al., Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol., 1997, 118, 515-521
【非特許文献10】Zhao, C. et al., FEBS Lett., 1997, 412, 144-148
【非特許文献11】Azumi, K. et al., Experientia, 1990, 46, 1066-1068; K. Azumi et al., Biochemistry, 1990, 29, 159-165
【非特許文献12】Lee, I.H. et al., Biochem. Biophys. Acta, 2001, in press
【発明の詳細な説明】
【0014】
本発明は、ホヤ被嚢動物の一種から分離した抗菌ペプチド及びこの抗菌ペプチドを有効成分として含有する抗菌剤を提供することを目的とする。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明は、ホヤの体液細胞から分離した抗菌ペプチド及びこの抗菌ペプチドを有効成分として含有する抗菌剤を提供する。
【0016】
以下、本発明について詳述する。
先ず、本発明は、ホヤの体液細胞から分離した抗菌ペプチドを提供する。
【0017】
本発明の抗菌ペプチドは、ホヤから分離したものであって、前記ホヤはアカボヤと呼ばれるHalocynthia aurantiumであることが好ましい。しかし、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の生物から分離、或いは人工的に合成してもよいことは、当業者においては自明のことである。
【0018】
本発明は、下記の各文字で表現される18個のアミノ酸配列を有する化学式1で表されるペプチドを提供する。
【0019】
<化学式1>

【0020】
前記式中、
Wは、トリプトファンまたはその誘導体であり、
Xは、チロシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体であり、
Bは、アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体であり、
B’は、アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群またはアスパラギンとグルタミンからなる群より選択される一つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体であり、及び
Uは、グリシン、セリン、アラニン、トレオニンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体である。
【0021】
より好ましくは、化学式1で表される本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、Wがトリプトファン、Xがロイシン、イソロイシン、バリン、Bがアスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リジン、アルギニン、Uがアラニン、セリン、グリシン、及びCがシステインからなる群から選択されることを特徴とする。
【0022】
最も好ましくは、化学式1で表される本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、Wがトリプトファン、Xがロイシン、B’がアスパラギン、Uがアラニン、Xがロイシン、Xがロイシン、Bがヒスチジン、Bがヒスチジン、Uがグリシン、X10がロイシン、B’11がアスパラギン、C12がシステイン、U13がアラニン、B14がリジン、U15がグリシン、X16がバリン、X17がロイシン、及びU18がアラニンであることを特徴する。従って、前記ペプチドは、配列番号1で記載されるアミノ酸配列を有することが最も好ましい。
【0023】
また、本発明は、前記化学式1で表されるペプチドのN−末端部位のアミノ酸配列の中3個(WB’)が失われた化学式2で表される15個のアミノ酸配列を有するペプチドを提供する。
【0024】
<化学式2>

【0025】
前記式中、
Xは、チロシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体であり、
Bは、アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体であり、
B’は、アルギニン、リジン、ヒスチジンからなる群またはアスパラギンとグルタミンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体であり、及び
Uは、グリシン、セリン、アラニン、トレオニンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基またはその誘導体である。
【0026】
より好ましくは、化学式2で表される本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、Xがロイシン、イソロイシン、バリン、Bがアスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リジン、アルギニン、Uがアラニン、セリン、グリシン、及びCがシステインからなる群から選択されることを特徴とする。
【0027】
最も好ましくは、化学式2で表される本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、Uがアラニン、Xがロイシン、Xがロイシン、Bがヒスチジン、Bがヒスチジン、Uがグリシン、X10がロイシン、B’11がアスパラギン、C12がシステイン、U13がアラニン、B14がリジン、U15がグリシン、X16がバリン、X17がロイシン、及びU18がアラニンであることを特徴とする。従って、前記ペプチドは、配列番号2で記載されるアミノ酸配列を有することが最も好ましい。
【0028】
また、本発明は、前記化学式1で表されるペプチドのシステイン残基がジスルフィド結合されたダイマー型である次の化学式3で表されるペプチドを提供する。
【0029】
<化学式3>

【0030】
前記各文字で表現されるアミノ酸は、前記化学式1に記載のものと同一であり、前記ペプチドは、配列番号1で記載される2つのペプチドがそれぞれの12番目のアミノ酸においてジスルフィド結合されることが最も好ましい。
【0031】
また、本発明は、前記化学式2で表されるペプチドのシステイン残基がジスルフィド結合されたダイマー形である次の化学式4で表されるペプチドを提供する。
【0032】
<化学式4>

【0033】
前記各文字で表現されるアミノ酸は、前記化学式2に記載のものと同一であり、前記ペプチドは、配列番号2で記載される2つのペプチドがそれぞれの9番目のアミノ酸においてジスルフィド結合されることが最も好ましい。
また、本発明は、前記化学式1で表されるペプチド及び前記化学式2で表されるペプチドのシステイン残基が、ジスルフィド結合されたダイマー形である次の化学式5で表されるペプチドを提供する。
【0034】
<化学式5>

【0035】
前記各文字で表現されるアミノ酸は、前記化学式1及び化学式2に記載のものと同一であり、前記ペプチドは、配列番号1で記載されるペプチド配列の12番目のアミノ酸と、配列番号2で記載されるペプチド配列の9番目のアミノ酸がジスルフィド結合されることが最も好ましい。
【0036】
本発明の好適な実施例において、ホヤの体液細胞から前記化学式5で表されるペプチドを分離し、このペプチドが抗菌活性を有していることを確認して、これを「halocidin」(ハロシジン)と命名した。また、このhalocidinの構造を分析した結果、化学式1及び化学式2で表されるペプチドによって構成され、前記ペプチドのシステイン残基がジスルフィド結合からなることを確認した(図5参照)。ここで、前記化学式1で表されるペプチドを「18Hc」と命名し、化学式2で表されるペプチドを「15Hc」と命名した。次に、halocidinの特性を分析するために、前記化学式1または化学式2で表されるペプチドのそれぞれを用いてダイマー形態のペプチドを製造し、それぞれ化学式3または化学式4で表されるペプチドを製造した後、それぞれを「di−18Hc」または「di−15Hc」と命名した。
【0037】
また、本発明では、合成18Hcにおいて、C−末端アミノ酸が1個除去されたペプチドを「(18−1)Hc」、C−末端アミノ酸が2個除去されたペプチドを「(18−2)Hc」と命名した。これと同様の方法で、C−末端アミノ酸がそれぞれ3〜6個除去されたペプチドをそれぞれ「(18−3)Hc」、「(18−4)Hc」、「(18−5)Hc」、及び「(18−6)Hc」と命名した。
【0038】
また、ペプチド内のヒスチジン残基が全てリジンで置換されたペプチドである場合は、「Hck」と命名し、本発明のペプチドにおいて、N−末端にリジンが追加された場合は、ペプチドの前に「K」を追記し、追加されたリジンの個数だけの数字に(+1)を追記して命名した。例えば、18HcのN−末端にリジンが1個追加された場合、「K(18+1)Hc」と命名した。
【0039】
本発明において、分離及び製造した化学式1〜化学式5で表されるペプチドの質量を分析した結果、それぞれ1,929Da、1,516Da、3,861Da、3,031Da、及び3,445Da(表3参照)であった。特に、化学式5で表されるペプチドであるhalocidinのpI値は8.965であり、ヘリカルホイール構造を有するヘテロダイマー形態のペプチドである(図8参照)。
【0040】
本発明における化学式1〜化学式5で表されるペプチドの抗菌活性の有無を確認するために、ラジカル拡散分析(図9参照)、コロニー計数分析(図10参照)、溶血分析(図11参照)、グラム陰性菌株に対するラジカル拡散分析(図12、図13、図14参照)、及びグラム陽性菌株に対するラジカル拡散分析(図15、図16、図17参照)を行った結果、化学式1〜化学式5で表されるペプチドは、抗菌活性に優れ、中でもダイマー形態構造を有する化学式2、化学式4及び化学式5で表されるペプチドの活性がさらに優れており、化学式2で表されるペプチドの活性が最も優れていることをわかった。
【0041】
また、抗菌活性を有する本発明のペプチドが苛酷な生体内においても抗菌活性が保持されるかを確認するために、上皮細胞、尿道、膣内環境のような生体内弱酸性のpH5.5と、血液内の塩環境(NaCl 150mM)より高いNaCl200mMの条件においてペプチドの抗菌活性を測定した結果、化学式5で表されるペプチドは、pH5.5〜pH7.4の条件下でも抗菌活性を示し(表4参照)、NaCl 100mM〜NaCl200mM下においても抗菌活性を示していることを確認した(表5参照)。
【0042】
前記の結果からして、化学式1〜化学式5で表される本発明のペプチドは、耐性菌株に対する抗菌活性が優れ、弱酸性のpH及び強塩の条件下でも抗菌活性に優れているのが確認され、生体内においても優れた抗菌活性を有することにより、既存の抗生剤と比べて優秀な抗菌活性を有するペプチドであることが明らかになった。
【0043】
また、本発明は、前記ペプチドを有効成分として含有する抗菌剤を提供する。
【0044】
上述したことから明らかなように、本発明のペプチドは、微生物に対する抗菌活性に優れ、生体内での苛酷な環境、すなわち、強酸、強塩基の条件においても抗菌活性に優れているので、耐性菌に対しても有効な抗菌剤として使用することができる。
【0045】
以上のことによって、本発明のペプチドを有効成分として含有する抗菌剤を製造することができる。なお、本発明による抗菌剤は、臨床投与の場合、経口または非経口の投与が可能であり、一般的医薬品製剤の形態で使用することができる。
【0046】
すなわち、本発明による抗菌剤は、実際の臨床投与の時、経口及び非経口の多様な剤形で投与することができ、製剤化の場合は、通常用いられる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤される。経口投与のための固形剤形には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形剤形は、一つ以上のhalocidinに少なくとも一つの賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、またはラクトース、ゼラチンなどを混合して調剤される。また、単なる賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤なども用いられる。経口投与のための液相製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などを挙げられるが、慣用される単純希釈剤の水、流動パラフィンの他に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれる。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水溶性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水溶性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物性オイル、ethylolateのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、witepsol、マクロゴール、ツイン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセリンゼラチンなどが用いられる。
【0047】
本発明の抗菌剤の有効容量は、0.5〜1mg/kgであり、好ましくは0.1〜0.5mg/kgであり、一日2回投与されることができる。
【0048】
本発明の抗菌剤は、抗微生物製剤または抗ウィルス製剤のような抗菌剤として広範囲に用いられ、適用可能な範囲は、植物、動物及び人間などに広く有害に作用するウィルス、グラム陽性菌、グラム陰性菌、カビ、酵母及び原生動物などに適用される。本発明の抗菌剤は、単独で用いられても、または用途に応じて他の抗生剤、例えば、エリスロマイシン、テトラサイクリン、アジトロマイシン、バンコマイシン、及びセファロスポリンなどと共に用いられてもよい。また、本発明による抗菌剤は、食品添加物、化粧品、軟膏または注射剤などとしても有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】アカボヤからhalocidinを精製する手順を示すAU−PAGE写真であり、 レーン1:アカボヤ体液細胞の酸抽出物、 レーン2:セファデックスG−50ゲルろ過カラムを通過した51−81番画分、 レーン3:Prep.AU−PAGEを通過した35−45番画分、及び レーン4:RP−HPLCによって精製されたhalocidinできる。
【図2】halocidinを精製してC18RP−HPLCを行った結果を示すグラフであり、
【図3】精製されたhalocidinをトリシンSDS−PAGE分析した写真であり、 レーンM:標準分子量マーカー、 レーン1:天然halocidin、及び レーン2:ジチオスレイトール(dithiothreitol)で切断されたhalocidin
【図4】精製されたhalocidinをMALDI質量分析したグラフであり、
【図5】halocidinの二つの構成要素の構造及びアミノ酸配列を示すものであり、
【図6】天然halocidinと合成halocidinでRP−HPLCを行ったグラフであり、 A:15Hc及び18Hc、 B:di−15Hc、di−18Hc、及びhalocidin、 C:天然halocidin
【図7】18Hcを、リン酸緩衝液(pH7.4)(ピンク色線)、20mM SDSのリン酸緩衝液(pH7.4)(黒色線)、及び50%(v/v)トリフルオロエタノールの10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(赤色線)に懸濁させて、CDスペクトルを調査したグラフであり、 A:18Hc、B:di−18Hc、
【図8】halocidin(18Hc)のヘリカルダイヤグラム(A)及びpI(B)を示す図であり、
【図9】MRSAに対するペプチドのラジカル拡散分析の結果を示す写真(A)とグラフ(C)、及びMDRPAに対するペプチドのラジカル拡散分析の結果を示す写真(B)とグラフ(D)であり、 a:15Hc、b:di−15Hc、 c:18Hc、d:di−18Hc、 e:halocidin、f:Magainin 1 g:Bufforin 2
【図10】ペプチドの抗菌活性をコロニー計数分析で示すグラフであり、
【図11】ペプチドの溶血分析の結果を示すグラフであり、
【図12】グラム陰性菌に対する15Hc、18Hc、halocidin、Bufforin 2、及びMagainin 1の抗菌活性を比較したグラフであり、 A:Pseudomonas aeruginosa、 B:Salmonella cholerasuis、 C:Salmonella parotyphi A、 D:E.coli K112、及び E:E.coli DH5α
【図13】グラム陰性菌に対する(18−1)Hc、di−(18−1)Hc、18Hc、及びdi−18Hc の抗菌活性を比較したグラフであり、 A:Pseudomonas aeruginosa、 B:Salmonella cholerasuis、 C:Salmonella parotyphi A、 D:E.coli K112、及び E:E.coli DH5α
【図14】グラム陰性菌に対する(18−2)Hc、di−(18−2)Hc、(18)Hck、及びdi−(18)Hckの抗菌活性を比較したグラフであり、 A:Pseudomonas aeruginosa、 B:Salmonella cholerasuis、 C:Salmonella parotyphi A、 D:E.coli K112、及び E:E.coli DH5a
【図15】グラム陽性菌に対する15Hc、18Hc、halocidin、Bufforin 2、及びMagainin 1の抗菌活性を比較したグラフであり、 A:Staphylococcus aureus、 B:Micrococcus luteus、 C:Enterococcus faecalis D:Bacillus subtilus、及び E:MRSA
【図16】グラム陽性菌に対する(18−1)Hc、di−(18−1)Hc、18Hc、及びdi−18Hcの抗菌活性を比較したグラフであり、 A:Staphylococcus aureus、 B:Micrococcus luteus、 C:Enterococcus faecalis D:Bacillus subtilus、及び E:MRSA
【図17】グラム陽性菌に対する(18−2)Hc、di−(18−2)Hc、18Hck、及びdi−(18)Hckの抗菌活性を比較したグラフである。 A:Staphylococcus aureus、 B:Micrococcus luteus、 C:Enterococcus faecalis D:Bacillus subtilus、及び E:MRSA
【0050】
以下、本発明の現実的に好適な具体例を以降の実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されないとともに、当業者であれば、下記の実施例から、本発明の範囲内で多様な変形や改良が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0051】
実施例1:アカボヤから抗菌ペプチドの分離
<1−1>アカボヤから酸抽出物の分離
韓国江原道束草市の魚市場で購入したアカボヤと呼ばれるHalocynthia aurantium(以下、アカボヤ又は、ホヤと略記する)を生の状態で70%エタノールで表皮を洗浄し乾燥させた。乾燥させたホヤの出水口を横切りに切開し、150mgEDTA入りの50ml管に入れて、体液である血リンパを集めた。得られた血リンパを74μmポアサイズのメッシュフィルタ(Netwell, Corning Costar, Cambridge, MA, USA)を通過させて不純物を除去した後、4℃の30分間300gで遠心分離した。遠心分離後、沈殿された体液細胞である血球(hemocyte)を30mlの0.34Mスクロースに懸濁させた後、4℃の30分間300gで遠心分離した。遠心分離後、形成された細胞層を分離して10mlの冷却された5%酢酸に懸濁させた。この懸濁液を15秒間5回の超音波処理した後、5%酢酸40mlを添加した。前記酢酸で抽出された溶液を4℃で一夜混合した後、4℃で30分間20,000gで遠心分離した。この遠心分離の後、得られた上澄液を、抗菌ペプチドを精製するための試料物質として用いた。
【0052】
このようにして得られたアカボヤの酸抽出物は、ビシンコニン酸(Sigma)を用いて蛋白質定量し、最小50mgの蛋白質を含む上澄液を5%酢酸で平衡されたセファデックスG−50ゲルろ過カラム(Sigma)にロードして溶出された各画分を得た。
【0053】
<1−2>アカボヤの酸抽出画分の抗菌活性の測定
本発明者等は、前記実施例<1−1>で得られたアカボヤの酸抽出画分の抗菌活性を測定するために、超高感度の放射状拡散分析を行った。より具体的に説明すれば、前記実施例<1−1>で溶出した各画分150個を5回単位で分析した。各画分2mlから100μlを取って真空回転濃縮機(vacuum centrifugation:Centra Evaporator, Bioneer, Korea)において濃縮させた後、0.01%酢酸溶液5μlに懸濁させた。一方、滅菌されたリン酸クエン酸緩衝液(9mMリン酸ナトリウム、1mMクエン酸ナトリウム、pH7.4)、1%(w/v)1型アガロース(低電気浸透アガロース)(A6013、Sigma)及び3%トリプシン大豆培養液(TSB、Difco, Detroit, MI, USA)を成分とするゲルに、対数期中間部のメチシリン抵抗性菌株黄色ブドウ球菌(methicilin resistance Stapyhlococcus aureus、以下、「MRSA」という、韓国ソウル女子大学校CCARM3001)を含ませ、直径3mmのウェルを含むアガロースプレートを作った。前記の段階で細菌が含まれたアガロースプレートのウェルに前記製造した画分をロードした。前記ペプチドがアガロースゲル中に拡散されるように3時間の間反応させた後、6%TSB及び1%アガロースゲルで構成された高栄養培地10mlを注入した。前記プレートを一夜培養して生存する細菌のコロニーが形成されるようにした。抗菌活性は、ロードしたペプチド画分の周辺に形成された透明環(clearing zone)の直径によって測定した。
【0054】
その結果、51−81番ペプチド画分周辺の透明環のサイズが最も大きいことから抗菌活性が高いことが認められた。
【0055】
<1−3>抗菌活性を有する画分からのペプチドの精製
本発明者等は、前記実施例<1−2>で得られた抗菌活性の高いペプチド画分をさらに精製するために、分離用酸尿素−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下、「Prep AU−PAGE」という)に、前段階において抗菌活性を確認した51−81番画分を真空回転濃縮機で濃縮し、ロードした。前記Prep AU−PAGEの流速は60ml/時間とし、2mlを1画分とした。
【0056】
前記Prep AU−PAGE画分を2mlの管に入れて真空回転濃縮機で濃縮した。各画分を10回単位の間隔で二つのAU−PAGEゲルに電気泳動した。一方のゲルはバンドを確認するために、Coomasie blueで染色し、他方のゲルはMRSAを用いて ゲル重層分析で蛋白質バンドの抗菌活性を確認した。ゲル重層分析は、MRSAが含まれた下層寒天の10mlに電気泳動したゲルをロードし、前記ペプチドがアガロースゲル中に拡散するように37℃で3時間の間反応させた後、高栄養培地(6%TSB及び1%アガロースゲル)10mlを注入した。
【0057】
その結果、35−45番画分に含まれた蛋白質が抗菌活性を示した(図1)。
【0058】
上記において抗菌活性が確認された35−45番画分を全部集めて、最後の精製段階としてC18逆相高速液体クロマトグラフィー(以下、「RP−HPLC」という)カラム(Vydac 218TP54:The Separation Group, Hesperia, CA)にロードした。サンプルをロードした後、最初の10分間は0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む5%アセトニトリルを0.5ml/分の速度で流してカラムを洗浄した後、アセトニトリルの濃度を60分間、1分当たり1%ずつ増加させた。上記のプロセスの間、アセトニトリルの各濃度別に出るピーク画分を収去した。収去した各画分の10%を真空回転濃縮機で濃縮して放射状拡散分析で抗菌活性を確認した。
【0059】
その結果、アセトニトリル45.2%である50.2分で分離されるペプチドが抗菌活性を保有していることが認められ、これを「ハロシジン」と命名した(図2)。
【実施例2】
【0060】
実施例2:精製されたhalocidinの特性分析
<2−1>halocidinの質量分析
本発明者等は、前記実施例1において、アカボヤから分離した抗菌活性の有る新規のペプチドであるhalocidinの特性を分析するために、トリシンSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)及びAU−PAGEにより分析した。具体的には、前記実施例1において分離した抗菌活性の有るペプチドであるhalocidinを凍結乾燥させた後、8M尿素25μl及び0.4M重炭酸アンモニウム(pH8.0)25μlを添加して溶解し、45mMジチオスレイトールを添加し50℃で15分間反応させた。halocidinモノマーのビニルピリジン誘導体を取り出すために、前記halocidin混合物にビニルピリジン15μlを添加して室温で冷却させ、少なくとも30分間暗所で反応させた。最終の反応産物はRP−HPLCで抽出した。この抽出物が良好に抽出されているか否かを確認するために、トリシンSDS−PAGE及びAU−PAGEで分析し、分離されたhalocidinの正確な分子量を測定するために、MALDI(マトリックス支援レーザーイオン化)質量分析計(Voyager-DE STR, PerSeptive Biosystems, USA)を用いて測定し、アミノ酸配列を分析するために、Procise 419(Applied Biosystems, USA)を用いて気相エドマン分解法によってそれぞれを分析した。
【0061】
その結果、RP−HPLCで抽出されたhalocidin及びジチオスレイトールによって切断されたhalocidinモノマーは、それぞれ約3.4kDa及び1.5と1.8kDaの質量を有することが確認され(図3)、halocidinは、3443.6836m/zで大ピークが現れ、1515.7487m/z及び1929.9151m/zで小ピークが現れることが認められた(図4)。また、18個のアミノ酸配列からなるモノマー及び15個のアミノ酸配列からなるモノマーのシステイン残基がジスルフィド結合をなす構造を有していることが認められた(図5)。
【0062】
前記の結果からアカボヤから分離した抗菌活性を示すペプチドであるhalocidinは、分子量が3,443.7Daであり、15モノマー及び18モノマーからなり、前記モノマーのシステイン残基がジスルフィド結合された構造を有することが認められた。ここで、本発明者等は、halocidinを構成する18モノマー及び15モノマーをそれぞれ「18Hc」及び「15Hc」と命名した。
【0063】
<2−2>合成halocidinの調剤及びアカボヤhalocidinとの質量比較
本発明者等は、halocidinが15Hc及び18Hcからなることを確認し、その特性を比較、分析するために、合成ペプチドを製造した。具体的には、合成halocidinモノマーは、自動固相ペプチド合成装置(Pioneer, Applied Biosystems, USA)を用いて人工的に合成し、RP−HPLCで再分離した。15モノマー及び18モノマーによって構成されたホモダイマー(以下、「di」と略記する)型またはヘテロダイマー(一名、halocidin)型のペプチドは、1mg/mlの合成ペプチドのそれぞれを0.1M重炭酸アンモニウムに混合し、その混合液を72時間以上空気中に放置して合成した。最後に、合成されたhalocidinモノマー、ホモダイマー及びヘテロダイマーは、MALDI質量分析計で分子量を測定し、合成halocidinが良好に合成されたか否かを確認した。
合成されたペプチドモノマーの配列は、下記の表2の通りである。
【0064】
【表2】

【0065】
この結果、アカボヤのhalocidinと合成halocidinの予想質量とMALDIで測定した質量が一致することが確認された(表3)。
【0066】
【表3】

【0067】
<2−3>アカボヤのhalocidinと合成halocidinの溶出ピークの比較
本発明者等は、前記実施例<2−2>において質量が近似していることを確認した合成halocidin及びアカボヤのhalocidinが溶出されるピークを再確認するために、RP−HPLCを行った。具体的には、アセトニトリルで抽出したアカボヤのhalocidinを含む溶液を用いて、10分間アセトニトリル5%を流した後、グラジエントを1分/mlでかけながら、時間別に溶出される画分を測定した。その結果、二つのアカボヤのモノマー(15Hc及び18Hc)は、それぞれアセトニトリル36.8%と46.3%である42分と52分で溶出された(図6A)。また、二つのホモダイマーであるdi−15Hc及びdi−18Hcは、それぞれアセトニトリル39.2%及び51.7%で溶出され、halocidinの構造をなすヘテロダイマーは、天然halocidinが溶出されるアセトニトリル濃度(図6C)と同一に溶出された(図6B)。
【0068】
<2−4>halocidinの2次構造の糾明
本発明者等は、halocidinの2次構造を糾明するために、halocidinのCDスペクトルを調べた。具体的には、18Hcとdi−18Hcを用いて通過長さ1mmの矩形セルを使用し、25℃でリン酸緩衝液(pH7.4)、20mM SDSのリン酸緩衝液(pH7.4)、及び50%(v/v)トリフルオロエタノールの10mMリン酸緩衝液(pH7.4)にそれぞれ懸濁させて、CJ−715CD/ORD分光偏光計(JASCO., CO.)で円偏光二色性スペクトルを測定した。
【0069】
その結果、18Hcとdi−18Hcは、20mM SDSのリン酸緩衝液(pH7.4)及び50%(v/v)トリフルオロエタノールの10mMリン酸緩衝液中で208nm及び222nmにおいて二つの最小値を有し、193nmにおいて最大値を有するα−へリックス構造を有していることが認められた(図7)。
【0070】
<2−5>ヘリカルホイールダイヤグラム及びpIの測定
本発明者等は、halocidinの特性をさらに具体的に確認するために、ANTHEPROT 2000 V5.2ソフトウェアを用いてヘリカルホイールダイヤグラム(A)及びpIを測定した。その結果、18Hcは、ヘリカルホイール構造を有し、極性と非極性残基の明らかなクラスタリング(clustering)を有して両親和性を有していることが認められた(図8A)。また、pH変化による18Hcの電荷を測定した結果、18HcのpI値は、8.965であることが認められた(図8B)。
【実施例3】
【0071】
実施例3:halocidinの抗菌活性分析
本発明者等は、アカボヤから分離してその特性を糾明した新規の抗菌ペプチドであるhalocidinの抗菌活性を分析するために、超高感度の放射状拡散分析、コロニー計数分析、溶血分析、及びグラム陽性菌またはグラム陰性菌に対する抗菌活性を分析した。
【0072】
<3−1>超高感度の放射状拡散分析
本発明者等は、実施例<2−2>で調剤した合成halocidinを用いて超高感度の放射状拡散分析を行った。具体的には、前記実施例<1−2>と同様にして、MRSA及び多剤抗生剤耐性のPseudomonas aeruginosa(以下、「MDRPA」という)(韓国ソウル女子大学校CCARM2002)菌株に対して15Hc、di−15Hc、18Hc、di−18Hc、halocidin、Magainin 1(Sigma)(比較群)及びbufforin 2(Sigma)(比較群)のペプチド濃度による抗菌活性を測定した。
【0073】
その結果、MRSA菌株に対するラジカル拡散分析では、抗菌活性が高いものと知られているBufforin 2は、濃度が増加するに従って透明環の直径が大きくなることによって抗菌活性があることが確認された。又、18Hc、di−18Hc及びhalocidinは、濃度が増加するに従って前記Bufforin 2よりもさらに高い抗菌活性を有しており、特に、di−18Hcの抗菌活性が最も高いことが認められた(図9A及び図9C)。また、MDRPAに対するラジカル拡散分析では、抗菌活性が高いものと知られているMagainin 1及びBufforin 2はいずれも抗菌活性があり、15Hc、di−15Hc、18Hc、di−18Hc及びhalocidinはすべて比較群に近似する抗菌活性を示すか、またはより高い抗菌活性を示していることが認められた(図9B及び図9D)。
【0074】
前記の結果に基づいて、アカボヤのhalocidinは抗菌活性が高く、特に、halocidin自体よりもhalocidinの構成要素である15モノマー及び18モノマーがホモダイマー型をなすペプチドが抗菌活性に優れていることを認めることができた。
【0075】
<3−2>コロニー計数分析
本発明者等は、halocidinの抗菌活性を分析するために、コロニー計数分析を行った。具体的には、ペプチドの最終濃度が5μg/mlとなるように、0.3μg/mlのTSBパウダーが含まれている滅菌された10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に入っている対数期中間部のMRSAまたはMDRPA菌株と共に混合した。この混合液は、最終容量が100μlとなるようにして37℃振とう水槽で5分及び15分間前反応させ、それぞれ前反応させた反応液20μlを取り出して1.5%Bacto agar(Difco)に塗布した。この塗布されたプレートを一夜の間反応させた後、プレート上に生成したコロニーの数を計数して抗菌活性を測定した。Magainin 1及びBufforin 2を比較群として用い、また対照群としてはペプチドの代わりに0.01%酢酸を添加した。
【0076】
その結果、MRSA及びMDRPA菌株に対して比較群及び対照群は、抗菌活性が殆ど現れないのに対して、18Hc、di−18Hc及びhalocidinは、反応後5分目に抗菌活性が高く現れてから15分まで持続された。又、抗菌活性はdi−18Hcが最も高く現れ、その次に18Hc及びhalocidinの順に抗菌活性が現れた(図10)。この結果からして、halocidin自体よりもhalocidinの構成要素である18Hcのモノマー又はダイマー型が抗菌活性がさらに高いことを認めることができた。
【0077】
<3−3>溶血分析
本発明者等は、halocidinの抗菌活性を分析するために、溶血分析を行った。具体的は、100、50、25、12.5、6.25、3.125μg/mlで希釈したペプチド20μl及び2.5%(v/v)ヒト赤血球180μlをPBSに混合した。ここで、メリチン(Sigma)、強力な溶血活性を有するclavanin Aの残基が置換された活性物質であるclavanin AKを比較群として用い、0.01%酢酸を対照群として用いた。前記混合液を37℃で30分間反応させた後、各管にPBS600μlを添加した。前記溶液を10,000gで3分間遠心分離して上澄液を分離した後、これを540nmで吸光度を測定し、下記数学式1によって溶血活性(%)を計算した。
【0078】
<数学式1>

【0079】
その結果、ペプチドの溶血活性は、di−18Hcが18%、18Hcが9%、15Hc、di−15Hc及びhalocidinが0%を示した(図11)。従って、di−18Hcの溶血活性が最も高いことが認められた。
【0080】
<3−4>グラム陰性菌に対する抗菌活性の比較
本発明者等は、グラム陰性菌に対するhalocidinの抗菌活性をラジカル拡散分析で確認した。具体的には、グラム陰性菌であるPseudomonas aeruginosa、Salmonella cholerasuis、Salmonella parotyphi A、E.coli K112、及びE.coli DH5a菌株を用いて、15Hc、18Hc、及びhalocidinの抗菌活性を測定した。このとき、比較群としてBufforin 2及びMagainin 1を用いた。
【0081】
その結果、15Hc及び18Hcは、ペプチド濃度が増加しても抗菌活性が殆ど現れないかまたは微弱であるのに対して、halocidinは、比較群であるMagainin 1及びBufforin 2と殆ど近似するかまたは細菌の種類によってはさらに高い抗菌活性を示した(図12)。
【0082】
また、(18−1)Hc、di−(18−1)Hc、18Hc、及びdi−18Hcに対しても、前記と同様の方法で、ラジカル拡散分析を行った結果、細菌の種類によって差はあるが、全体として、ダイマー型であるdi−(18−1)Hc及びdi−18Hcは、モノマー型である(18−1)Hc及び18Hcに比べて高い抗菌活性を示した(図13)。
【0083】
また、(18−2)Hc、di−(18−2)Hc、(18)Hck、及びdi−(18)Hckに対しても、前記と同様の方法で、ラジカル拡散分析を行った結果、前記と同様、ダイマー型であるdi−(18−2)Hc及びdi−18Hckが、モノマー型である(18−2)Hc及び(18)Hckに比べて抗菌活性がさらに高く現れることが認められた(図14)。
【0084】
前記の結果に基づいて、halocidinは、グラム陰性菌に対して高い抗菌活性を示し、またhalocidinのサブユニットであるモノマーのそれぞれがダイマー型として存在するとき、抗菌活性が最も高く現れることが認められた。
【0085】
<3−5>グラム陽性菌に対する抗菌活性の比較
本発明者等は、グラム陽性菌に対するhalocidinの抗菌活性をラジカル拡散分析で確認した。具体的には、グラム陽性菌であるStaphylococcus aureus、Micrococcus luteus、Enterococcus faecalis、Bacillus subtilus、及びMRSAに対して、15Hc、18Hc、halocidin、Bufforin 2、及びMagainin 1の抗菌活性を測定するために、前記実施例1と同様の方法でラジカル拡散分析を行った。
【0086】
その結果、菌株によって差はあるが、全体としてhalocidinの抗菌活性が高く現れ、15Hc及び18Hcは、抗菌活性が凡そ低く現れた(図15)。
【0087】
また、(18−1)Hc、di−(18−1)Hc、18Hc、及びdi−18Hcに対しても、前記と同様の方法でラジカル拡散分析を行った結果、細菌の種類によって差はあるが、全体的に、ダイマー型であるdi−(18−1)Hc及びdi−18Hcは、モノマー型である(18−1)Hc及び18Hcに比べて高い抗菌活性を示した(図16)。
【0088】
また、(18−2)Hc、di−(18−2)Hc、(18)Hck、及びdi−(18)Hckに対しても、前記と同様の方法でラジカル拡散分析を行った結果、前記と同様に、ダイマー型であるdi−(18−2)Hc及びdi−(18)Hckが、モノマー型である(18−2)Hc及び18Hckに比べて抗菌活性がさらに高く現れることが認められた(図17)。
【0089】
前記の結果からして、halocidinは、グラム陽性菌に対する抗菌活性が高く、またhalocidinのサブユニットであるモノマーのそれぞれがダイマー型として存在するとき、抗菌活性が最も高く現れることが認められた。
【0090】
<3−6>pHによる抗菌活性
本発明者等は、細菌に対して抗菌活性が優れていることを確認したhalocidinが、生体内の低いpHにおいても抗菌活性を示現するかを確認するために、ラジカル拡散分析によってpHの変化によるhalocidinの抗菌活性を測定した。具体的には、pHを変化させる方法としては、栄養培地にHClを添加し、pHメータで滴定して培地のpHを7.4、6.5、及び5.5に調整し、前記実施例1と同様の方法で、MRSA及びEnterococcus faecalis菌株に対してラジカル拡散分析を行った。
【0091】
その結果、di−18Hc、di−(18−1)Hc、di−k(18+1)Hcは、生体内の低いpH環境である上皮組織、尿道、膣内環境のようなpH5.5において、pH7.4におけると同様に、抗菌活性をそのまま維持していることが確認された(表4)。
【0092】
【表4】

【0093】
<3−7>塩に対する抗菌活性
本発明者等は、halocidinが有する抗菌活性が生体内での強塩基条件においても活性が有効であるかを確認しようとした。具体的には、栄養培地にNaCl100mM、NaCl150mM、及びNaCl200mMを添加して、塩の条件を変更し、MRSA及びEnterococcus faecalis菌株を用いてラジカル拡散分析を行った。
【0094】
その結果、di−18Hc、di−(18−1)Hc、di−k(18+1)Hcは、高い塩環境である200mMでも、塩のない環境と同様の抗菌活性をそのまま維持していることが確認された(表5)。
【0095】
【表5】

【0096】
当業者であれば、前記実施例で開示された着想および特定の具体例が、本発明の同一目的を達成するためのほかの具体例を修正または設計するための基礎として容易に用いられることを明らかに理解可能であろう。また、当業者であれば、このような等価の具体例らが添付した特許請求範囲に開示した本発明の範囲から離脱しないことを理解されることは勿論である。
【産業上利用可能性】
【0097】
前述のように、本発明のアカボヤから分離された抗菌ペプチドは強酸及び強塩基の条件下においても抗菌活性が優れ、耐性菌に対する抵抗性も強力で、天然抗生剤として有効に使用されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被嚢類動物から分離され、下記化学式1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、前記各アミノ酸は各文字で表されるペプチド;
<化学式1>

前記式中、
Wは、トリプトファンまたはその誘導体;
Xは、チロシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、およびトリプトファンからなる群から選択される一つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体;
Bは、アルギニン、リジン、およびヒスチジンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体;
B’は、アルギニン、リジン、およびヒスチジンからなる群、またはアスパラギン、およびグルタミンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体;及び
Uは、グリシン、セリン、アラニン、およびトレオニンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体。
【請求項2】
前記被嚢類動物がアカボヤ(Halocynthia aurantium)であることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記Wがトリプトファンであり、Xがロイシン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択される1種であり、Bがアスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択される1種であり、Uがアラニン、セリン、およびグリシンからなる群から選択される1種であり、Cがシステインであることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが配列番号1で表されるアミノ酸配列からなり、Wがトリプトファン、Xがロイシン、B’がアスパラギン、Uがアラニン、Xがロイシン、Xがロイシン、Bがヒスチジン、Bがヒスチジン、Uがグリシン、X10がロイシン、B’11がアスパラギン、C12がシステイン、U13がアラニン、B14がリジン、U15がグリシン、X16がバリン、X17がロイシン、及びU18がアラニンであることを特徴とする、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
前記化学式1で表されるペプチドから3個のアミノ酸(WB’)が失われた、下記化学式2で表されるアミノ酸配列で構成されるペプチド;
<化学式2>

前記式中、
Uはグリシン、セリン、アラニン、およびトレオニンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体;
Xはチロシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、およびトリプトファンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体;
Bはアルギニン、リジン、およびヒスチジンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、またはその誘導体;及び
B’はアルギニン、リジン、およびヒスチジンからなる群、またはアスパラギン、およびグルタミンからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸残基、およびその誘導体。
【請求項6】
Xがロイシン、イソロイシン、およびバリンからなる群から選択され、Bがアスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンからなる群から選択され、Uがアラニン、セリン、およびグリシンからなる群から選択され、Cがシステインであることを特徴とする、請求項5に記載のペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドが配列番号2で表されるアミノ酸配列からなり、Uがアラニン、Xがロイシン、Xがロイシン、Bがヒスチジン、Bがヒスチジン、Uがグリシン、X10がロイシン、B’11がアスパラギン、C12がシステイン、U13がアラニン、B14がリジン、U15がグリシン、X16がバリン、X17がロイシン、U18がアラニンであることを特徴とする、請求項5に記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1による化学式1で表されるペプチド及び請求項5による化学式2で表されるペプチドが、システイン位でジスルフィド結合される、化学式3で表されるペプチド;
<化学式3>

【請求項9】
請求項1による化学式1で表される2個のペプチドが、システイン位でジスルフィド結合される、化学式4で表されるペプチド;
<化学式4>

【請求項10】
請求項5による化学式2で表される2個のペプチドが、システイン位でジスルフィド結合される、化学式5で表されるペプチド;
<化学式5>

【請求項11】
化学式1〜化学式5で表される化合物からなる群から選択される1つ以上のペプチドを有効成分として含有する抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2006−518706(P2006−518706A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555073(P2004−555073)
【出願日】平成14年11月22日(2002.11.22)
【国際出願番号】PCT/KR2002/002195
【国際公開番号】WO2004/048407
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成14年6月19日Woong Sik Jang,Kyu Nam Kim,Young Shin Lee,Myung Hee Nam,In Hee Lee発表の「FEBS Letters」に発表
【出願人】(505188733)
【出願人】(505188744)
【Fターム(参考)】