説明

アクアポリン3産生促進剤、及びそれを含有する化粧料

【課題】 AQP3の産生を促進することによるAQP3産生促進剤の提供、及びそれを用いた化粧料、並びに薬用製剤類、医薬品及び医薬部外品などの各種外用剤の提供を目的とする。
【解決手段】 酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを併用することにより、上記目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクアポリン3(aquaporin3:以下、AQP3とする)タンパク質の産生を促進するAQP3産生促進剤、及び該AQP3産生促進剤を含有する化粧料、並びに薬用製剤類、医薬品及び医薬部外品などの各種外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織からなる三層構造を有する人体最大の器官であり、外界の刺激をブロックするバリア機能及び体内の水分の消失を防ぐ機能がある。これらの機能を担う皮膚において、水分が重要な役割を果たし、水分が不足し乾燥状態となると肌荒れやかゆみ、しわや炎症の原因となる。皮膚内部での水の動きについてのこれまでの研究によって、アクアポリン(AQP)タンパク質が皮膚の物性や生理機能に関係していることが徐々にわかりつつある。AQPは、水チャネルとも呼ばれ、細胞膜上で水を選択的に透過させるタンパク質として知られている。ヒトに存在する13種類のAQP(AQP0〜AQP12)のうち、AQP1、AQP3、AQP5、AQP7、AQP9、AQP10が皮膚に存在する。このうちAQP3は、表皮での機能が詳細に解析されており、AQP7、AQP9、AQP10などとともに水だけでなくグリセロールや尿素などの非イオン性小分子も透過させる事が知られている。マウスでの実験によると、AQP3遺伝子欠損マウスでは、角層水分量、皮膚粘弾性、バリア機能回復の低下が認められ、AQP3が皮膚物性及び皮膚生理機能に深く関与していることが示された(非特許文献1)。これより、加齢に伴うAQP3の減少が、角層水分量、皮膚粘弾性、バリア機能回復の低下等の皮膚の老化現象に関係すると推測することができ、AQP3の産生促進により、これらの減少が抑制され、皮膚の状態がより好ましい状態となると考えられる。AQP3産生促進成分としては、ノウゼンハレン科植物より得られる抽出物(特許文献1)、トコフェリルレチノエート(特許文献2)が知られているが、これらのAQP3産生促進作用は十分ではない。そこで、安全性が高く、皮膚などへの適用性の良好な、更なる優れたAQP3産生促進剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−168732号公報
【特許文献2】特開2006−290873号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Dermatological Science、2002年、第29巻、p.143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、AQP3の産生を促進することによるAQP3産生促進剤の提供、及びそれを用いた化粧料、並びに薬用製剤類、医薬品及び医薬部外品などの各種外用剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、AQP3産生促進効果を有することが知られている酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを併用すると、酢酸マグネシウムのAQP3産生促進能力が飛躍的に増大することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを含有するAQP3産生促進剤を提供し、更に、該AQP3産生促進剤を含有するAQP3産生促進効果の顕著な化粧料、並びに薬用製剤類、医薬品及び医薬部外品などの各種外用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを含有する本発明のAQP3産生促進剤は、哺乳動物細胞、例えば脳、眼、鼻腔、気管、腎臓、腸、赤血球等を構成する細胞において、AQP3産生能力を促進させる効果を有する。特に、本発明のAQP3産生促進剤は、皮膚、眼、鼻腔粘膜等の外界に面する器官に適用した場合、これらの器官を構成する細胞のAQP3産生能力を促進し、これにより、水やグリセリンが器官内を循環し、保湿性やバリア機能の回復を高め、老化を防止する。
【0009】
さらに、本発明のAQP3産生促進剤は、少量の酢酸マグネシウム使用量で極めて優れたAQP3産生促進効果を発揮する。したがって、その使用に際して、例えば他の成分と混合して化粧料、並びに薬用製剤類、医薬品及び医薬部外品などの各種外用剤として使用する場合に、酢酸マグネシウム由来の臭いを軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のAQP3産生促進剤は、酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを含有することを特徴とする。これらはいずれも、医薬又は民間薬、食品、化粧品の成分として一般的に用いられているものを使用することができる。
【0011】
本発明における酢酸マグネシウムは、一般試薬として市販されているものを用いることもできる。
【0012】
本発明におけるチンピエキスは、ウンシュウミカン(Citrus unshiu Markovich)又はその近縁のミカン科植物(Rutaceae)の果皮から抽出して得られる。
【0013】
本発明におけるバンランコンエキスは、タイセイ(Isatis tinctoria var. indigotica)又はその近縁のアブラナ科植物(Cruciferae)の根から抽出して得られるエキスである。
【0014】
本発明におけるコトウニンエキスは、オニグルミ(J. mandshurica Maxim. var. seboldiana Makino)又はその近縁のクルミ科植物(Juglandaceae)の種子から抽出して得られるエキスである。
【0015】
これらの植物抽出エキスは、前記の各植物の各種部位又はその破砕物から、溶媒抽出して得ることができる。
【0016】
抽出溶媒に特に制限はなく、意図する使用や後加工処理等に応じて適宜に選択することができるが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級1価アルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセリンなどの多価アルコール類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、クロロホルム、四塩化炭素などのハロ
ゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素類など一般に用いられる有機溶媒を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種、または2種以上を混合して用いることができ、また、水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。
【0017】
水と併用する有機溶媒としては、炭素数4以下の低級アルコール、低級アルキルジオールが好ましく、エタノール、1,3−ブタンジオールなど皮膚刺激性の低い溶剤を用いることが好ましい。水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、その混合割合は質量基準で、水:有機溶媒=10:90〜80:20とすることが好ましい。
【0018】
抽出温度としては、使用する溶媒の種類や量等のその他の抽出条件に応じて適宜に設定することができるが、15〜100℃が好ましく、15〜50℃がより好ましい。抽出温度を50℃以下にすることにより、植物抽出エキス中に含まれる成分の分解や変質を抑えることができる。抽出時間に特に制限はないが、抽出温度が50℃を超える場合、30秒〜5時間が好ましく、50℃以下で抽出する場合、5分〜7日間が好ましい。
【0019】
前記各植物抽出エキスは、抽出溶媒又は別の溶剤に溶解した液状で用いることができ、また、その濃縮物、凍結乾燥した粉末品、又は、その他慣用の精製処理に付された精製品としても用いることができる。
【0020】
本発明のAQP3産生促進剤は、上記の植物抽出エキス1種以上と、酢酸マグネシウムとを混合することにより得られる。混合様式は、固体形体のもの同士を混合しても、任意の溶媒中に溶解した溶液形態のもの同士を混合しても、又は、溶液形態の一方に、固体形体の他方を溶解することによって混合しても、いずれの様式であってもよい。
【0021】
また、本発明のAQP3産生促進剤を、化粧料、並びに薬用製剤類、医薬品及び医薬部外品などの各種外用剤として、その他の成分と混合して使用する場合は、各種植物抽出エキス、酢酸マグネシウム及びその他の成分を、任意の順番で混合することができ、植物抽出エキスと酢酸マグネシウムとを予め混合するプレミックスの形態でなくともよい。
【0022】
本発明のAQP3産生促進剤において、酢酸マグネシウム量と総植物抽出エキス量との配合比は、植物抽出エキスを1種、または2種以上用いる場合のいずれも、例えば、酢酸マグネシウム無水物及び植物抽出エキス粉末品として換算して、質量基準で、酢酸マグネシウム:植物抽出エキス=100:0.01〜100:3000の範囲であってよい。これらの併用による相乗効果を高め、より優れた保湿効果を得るためには、より好ましくは酢酸マグネシウム:植物抽出エキス=100:0.1〜100:2500であり、特に好ましくは酢酸マグネシウム:植物抽出エキス=100:0.2〜100:2300である。また、植物抽出エキスを2種以上用いる場合、各植物エキスの配合割合に特に制限はなく、任意の割合で配合することができる。
【0023】
本発明のAQP3産生促進剤は、そのまま単独で、又は他の成分と混合して、化粧料、薬用製剤類、医薬品、医薬部外品など各種の外用剤として使用することができる。そして、保湿に寄与する有効成分として機能し、頭皮・頭髪、顔、全身の皮膚等に適用されて、その構成細胞におけるAQP3産生を促進する。
【0024】
本発明のAQP3産生促進剤を含有する化粧料としては、特に制限はなく、例えば、リンス、ヘアクリーム、ヘアトニック、染毛剤、育毛剤、整髪料等の毛髪用化粧料;シャンプー、石鹸等の洗浄料;ローション、乳液、ペースト、クリーム、ジェル、フェイスパック、メイクアップ用品、日焼け止め用品等の皮膚用化粧料を例示することができる。
【0025】
本発明のAQP3産生促進剤を含有する外用剤の剤形としては、軟膏剤、ハップ剤、液剤、ゲル剤、乳液剤、クリーム剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
また、本発明のAQP3産生促進剤を含有する化粧料及び各種外用剤は、ヒトに対して好適に適用されるが、本発明の効果を発揮する範囲において、ヒト以外の哺乳動物に対しても適用することができる。
【0027】
本発明の化粧料及び各種外用剤において、AQP3産生促進剤の配合量に特に制限はなく、任意の濃度で配合することができるが、酢酸マグネシウムの好ましい配合量は、無水物換算で、0.0001〜5質量%であり、優れた保湿効果を発揮し、かつ十分な保存安定性を示すために、より好ましくは0.0005〜3質量%、特に好ましくは0.001〜1質量%である。また、植物抽出エキスの好ましい総配合量は、粉末品として換算して、0.0001〜10質量%であり、保湿について高い相乗効果を達成するために、より好ましくは0.0005〜8質量%、特に好ましくは0.001〜5質量%である。酢酸マグネシウムと植物抽出エキスの総配合量が前記下限未満では、AQP3産生促進による保湿効果が余り期待できず、前記上限値を超えて使用しても、それに見合う効果が期待できない場合がある。植物抽出エキスを2種以上用いる場合の植物抽出エキスの割合に特に制限はなく、任意の割合で配合することができる。
【0028】
本発明において、各種植物抽出エキス及びそれを含有するAQP3産生促進剤は、化粧料及び各種外用剤を構成するその他の成分と混合する際に、必要に応じて、予め有機溶剤中に溶解して用いることができる。この場合、例えば、皮膚刺激性の低い有機溶剤として、エタノール、1,3−ブタンジオールなどを挙げることができる。
【0029】
本発明の化粧料及び各種外用剤を構成するその他の成分としては、皮膚外用剤として従来から使用されている機能成分や界面活性剤、油脂類などの基材成分、増粘剤、防腐剤、等張化剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸化防止剤、香料、着色料など種々の添加物を必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲の濃度で用いることができる。
【0030】
このような機能成分としては、例えば、保湿剤、エモリエント剤、血行促進剤、細胞賦活化剤、抗酸化剤、抗炎症剤、抗菌剤、美白剤、過酸化物抑制剤などが挙げられる。より具体的には、グリセリン、1,3−ブタンジオール、尿素、アミノ酸類、ヒアルロン酸などの保湿剤;スクワラン、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油、シリコン油などのエモリエント剤;ビタミンE類、トウガラシチンキなどの血行促進剤;核酸などの細胞賦活化剤、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)、酢酸トコフェロールなどの抗酸化剤;グリチルリチン、アラントインなどの抗炎症剤;ヒノキチオール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩、パラヒドロキシ安息香酸エステルなどの抗菌剤;アスコルビン酸などの美白剤;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの過酸化物抑制剤などが挙げられる。
【0031】
また、他の植物・動物・微生物由来の各種抽出物、例えば、オウゴンエキス、イチョウエキス、胎盤抽出物、乳酸菌培養抽出物などを併用することもできる。
【0032】
本発明の化粧料及び各種外用剤に、既知の保湿剤を加えることにより、さらに効果的な保湿効果が期待される。
【0033】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能な界面活性剤に特に制限はなく、一般的な非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。例えば、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物、高級脂肪酸アミドのアルキレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールソルビタンアルキルエステル、ステロール等のアルキレンオキサイド付加物などの非イオン界面活性剤;アルキル硫酸ナトリウム、アルキロイルメチルタウリンナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤;塩化アルキルピリジニウム、塩化ジステアリルジメリルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤;アミノプロピオン酸ナトリウム、アルキルポリアミノエチルグリシンなどの両性界面活性剤が挙げられる。そして、これらの界面活性剤は1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0034】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能な基材成分に特に制限はなく、例えば、オリーブ油、ツバキ油、アボカド油、マカデミアナッツ油、杏仁油、ホホバ油、スクワラン、スクワレン、馬油など、一般的に知られている油脂類を用いることができる。
【0035】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能な増粘剤に特に制限はなく、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアクリルアミド、ポリエチレングリコール、及びこれらの各種誘導体;ヒドロキシアルキルセルロースなどのセルロース類及びその誘導体;デキストラン、ゼラチン、アラビアガム、トラガントガムなどのガム類;カルボキシビニルポリマーなどの水溶性高分子を用いることができる。
【0036】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能な防腐剤に特に制限はなく、例えば、パラヒドロキシ安息香酸エステル、パラオキシ安息香酸塩とその誘導体、フェノキシエタノール、ヒノキチオール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩などを用いることができる。
【0037】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能な等張化剤として、特に制限はなく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの無機塩類を用いることができる。
【0038】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能な紫外線吸収剤として、特に制限はなく、例えば、パラアミノ安息香酸、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などを用いることができる。
【0039】
本発明の化粧料及び各種外用剤に使用可能なキレート剤として、特に制限はなく、例えば、エチレンジアミン四酢酸、フィチン酸、クエン酸及びこれらの水溶性塩などを用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0041】
(I)植物抽出エキスの製造
(1)チンピエキスの製造
ウンシュウミカンの果皮を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、チンピエキスを得た。これを凍結乾燥し、チンピエキス(粉末)14.53gを得、以下に示す実施例に使用した。
【0042】
(2)バンランコンエキスの製造
タイセイの根を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、バンランコンエキスを得た。これを凍結乾燥し、バンランコンエキス(粉末)10.61gを得、以下に示す実施例に使用した。
【0043】
(3)コトウニンエキスの製造
オニグルミの種子を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、コトウニンエキスを得た。これを凍結乾燥し、コトウニンエキス(粉末)2.77gを得、以下に示す実施例に使用した。
【0044】
(4)ザクロエキスの製造
ザクロの果肉を50g採取し、これを50質量%エタノール水溶液375g中に入れて、室温(約25℃)下で24時間振とう処理した。これをろ過し、得られたろ液から水及びエタノールを減圧留去し、従来よりAQP3産生促進作用を有するとされるザクロエキスを得た。これを凍結乾燥し、ザクロエキス(粉末)12.81gを得、以下に示す比較例に使用した。
【0045】
(II)AQP3産生促進剤
ヒト不死化表皮正常角化細胞におけるAQP3産生量を以下の方法で測定することにより、本発明のAQP3産生促進剤の産生促進効果を評価した。
【0046】
1.細胞の培養
ヒト不死化表皮正常角化細胞(PHK16−0b、1,000,000cells/mL/本、Lot No.;09102003、ヒューマンサイエンス研究資源バンク)を、37℃の水浴で融解後、MCDB153培地(Sigma社製)中に懸濁し、6cmのシャーレに90,000cells/cm2で播種し、37℃、5%−CO2、加湿インキュベータ内で10日間培養した。この間、1日おきに培地を交換した。
【0047】
サブコンフルエントとなったヒト不死化表皮正常角化細胞を、トリプシン0.25質量%を含むリン酸緩衝溶液で処理後、剥離し、MCDB153培地(Sigma社製)中に懸濁し、10cmシャーレ1枚に33,000cells/cm2で播種し、10日間培養した。この間、1日おきに培地交換をした。
【0048】
サブコンフルエントとなったヒト不死化表皮正常角化細胞を、トリプシン0.25質量%を含むリン酸緩衝溶液で処理後、剥離し、MCDB153培地(Sigma社製)中に懸濁し、24ウェルプレート(2.0cm2/ウェル)に25,000cells/cm2で播種し、9日間培養した。この間、1日おきに培地を交換した。
【0049】
その後、表2に示した濃度の酢酸マグネシウムと植物抽出エキスとを含む試験用培地に交換し、24時間培養した。ここで用いた試験用培地の調製方法は以下に示す。培地を除去し、ヒト不死化表皮正常角化細胞を37℃に加温したリン酸緩衝液500μLで洗浄した後、トリプシン0.25質量%を含むリン酸緩衝溶液(500μL)で処理を行い、ヒト不死化表皮正常角化細胞を2mLのエッペンドルフチューブに回収した。860×gで5分間遠心し、上清を除去した後、氷冷したリン酸緩衝液1mLで懸濁し、遠心した(860×g、5分、4℃)。上清を除去した後、ペレットを用いてmRNAの測定を行った。
【0050】
2.試験用培地の調製
MCDB153培地中に酢酸マグネシウムを0.72質量%及び0.0072質量%となるように溶解し、0.22μmメンブランフィルターで滅菌濾過し、酢酸マグネシウム添加培地を得た。また、50質量%エタノール水溶液中に、植物抽出エキスを、5質量%、2.5質量%、1質量%、0.2質量%となるように溶解し、0.22μmメンブランフィルターで滅菌濾過し、植物抽出エキス溶液を得た。
【0051】
エタノールの最終濃度が0.5質量%となるように、植物抽出エキス溶液を酢酸マグネシウム添加培地に添加し、酢酸マグネシウム及び各種植物抽出エキスの最終濃度が表2のようになる試験用培地を得た。
【0052】
3.AQP3 mRNA発現量の測定
1)細胞からのRNA抽出
RNeasy Mini kit(250)(Qiagen社製)を用いてRNAの抽出を行った。キットに付属するバッファーRLTおよびバッファーRPEはそれぞれ1mLあたり、前者には2−メルカプトエタノール10μLを、後者にはエタノール4mLを添加し、混和してから使用した。2mLのエッペンドルフチューブに回収したヒト不死化表皮正常角化細胞(24−ウェルプレートのウェル分)にバッファーRLTを350μL添加し、シリンジに20Gの注射針を取り付け、ヒト不死化表皮正常角化細胞懸濁液をそれぞれ20回通した。
【0053】
次に70容量%エタノール(エタノール:超純水=7:3)を350μL添加後、ボルテックスミキサーを用い混和した。この700μLを2mLコレクションチューブ上にセッティングしたRNeasyミニスピンカラム(キット付属品)にアプライし、18,700×gで15秒間遠心分離を行った。次に、700μLのバッファーRW1をRNeasyミニスピンカラムにアプライし、18,700×gで15秒間遠心分離を行い、カラムを洗浄した。
【0054】
更に、500μLのバッファーRPEで同様にカラムを洗浄後、再度500μLのバッファーRPEを添加し、18,700×gで2分間遠心分離を行い、カラムを洗浄した。その後、RNeasyミニスピンカラムを新しい2mLコレクションチューブの上に移し、18,700×gで1分間遠心分離を行い、洗浄液を完全に除去した。最後に、RNeasyミニスピンカラムを新しい1.5mLエッペンドルフチューブの上に移し、20μLのRNaseを含まない純水を添加して1分間放置後、18,700×gで1分間遠心分離を行い、RNAを溶出した。
【0055】
2)cDNAの合成
抽出したRNAから、High−Capacity cDNA synthesis Kit (Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを合成した。
【0056】
1サンプルにつき、High−Capacity cDNA synthesis Kitに含まれる10×Reverse Transcription (RT)バッファー2.0μL、25×dNTP Mix(100mM)0.8μL、10×RTランダムプライマー2.0μL、MultiScribe(登録商標) リバーストランスクリプターゼ1.0 μL、RNase Inhibitor 1.0μL、ULTRASPEC WATER(Bio−Rad Laboratories社製)3.2μLを氷上で静かに混合し、2×RT Master Mixを調製した。
【0057】
Multiplate(登録商標)PCR Plates 96−well clear (Bio−Rad Laboratories社製)の各ウェルへ2×RT Master
Mixを10μLずつ、精製したRNAを1μgずつ添加し混合した。これをiQ(登録商標) サーマルサイクラー (582BR、Bio−Rad Laboratories社製) を用いてステップ1として25℃で10分間、ステップ2として37℃で120分間、ステップ3として85℃で5秒間インキュベート後、TEバッファーにて20倍希釈し、cDNA TEバッファー溶液とした。
【0058】
3)リアルタイムPCR
Multiplate(登録商標)PCR Plates 96−well clearのそれぞれのウェルへiQ SYBR Green Supermix 25μL、目的遺伝子のフォワードプライマー(5pmol/μL)3μL、リバースプライマー(5pmol/μL)3μL、cDNA TEバッファー溶液4μL、RNaseを含まない純水15μLを加えた。温度条件は熱変性95℃で15秒、アニーリング56℃で30秒、伸長反応72℃で30秒とした。PCR産物の蛍光強度をMy iQ(登録商標) single color リアルタイムPCR Detection System(Bio−Rad Laboratories社製)によりモニタリングした。
【0059】
AQP3および内部標準遺伝子として使用したGAPDHについて、表1に示すフォワードプライマーおよびリバースプライマー(Invitrogen社製)を使用した。
【0060】
【表1】

【0061】
4)データの解析
リアルタイムRT−PCRにおいて一定の蛍光強度が得られるまでのサイクル数をモニタリングし、GAPDHとAQP3のサイクル数から2−ΔΔCT法を用いて発現量を算出した。AQP3 mRNA発現量をGAPDHで補正した後、酢酸マグネシウム及びいずれの植物抽出エキスも含有しない場合(比較例1)のAQP3 mRNA発現量を1.0として、以下の実施例1〜11、及び比較例2〜14のAQP3 mRNA発現量を比較した。その結果を表2に示す。なお、AQP3 mRNA発現量とAQP3(タンパク質)の産生量とは比例する。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の実施例1〜11の結果が示すように、酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを含む本発明のAQP3産生促進剤は、ヒト不死化表皮正常角化細胞におけるAQP3産生に対し、優れた産生促進効果をもたらすことが分かる。
【0064】
(III)化粧料
本発明のAQP3産生促進剤を配合した化粧料を調製し、効果を評価した。
【0065】
本発明のAQP3産生促進剤を配合した化粧料(シャンプー、コンディショナー、ヘアトニック、全身用ローション)を表3〜6に示す組成で調製した。調製方法は以下の通りである。チンピ、バンランコン、コトウニンの各抽出エキスは凍結乾燥した粉末品を用いた。なお、配合量の単位はgであり、表中の精製水の「残量」とは全量を100gとする量である。
【0066】
1.シャンプー(実施例12〜23、比較例15)
表3のA成分を75℃に加温し、撹拌しながら35℃まで冷却した。その後、撹拌を続けながらB成分を加え、さらにC成分を加えて、調製を終了した。
【0067】
【表3】

【0068】
2.コンディショナー(実施例24〜35、比較例16)
表4のD成分、E成分をそれぞれ75℃に加温し、D成分をパドルミキサーで撹拌しながら、E成分を少量ずつ加えた。E成分を全量添加後、パドルミキサーで撹拌しながら冷却して、45℃以下でF成分を加えて調製を終了した。
【0069】
【表4】

【0070】
3.ヘアトニック(実施例36〜47、比較例17)
表5のG成分、H成分、I成分の全てを40℃に加温して混合した。
【0071】
【表5】

【0072】
4.全身用ローション(実施例48〜59、比較例18)
表6のJ成分、K成分のそれぞれを80℃で加温して溶解し、K成分をJ成分に撹拌しながら徐々に加えて乳化した。その後撹拌しながら冷却し、40℃でL成分を加えて、35℃で調製を終了した。
【0073】
【表6】

【0074】
5.評価
前記実施例12〜59、比較例15〜18の化粧料について、それぞれ30〜50歳代の皮膚の乾燥を訴える男女各2名ずつの計192名に対して評価を行った。シャンプー及びコンディショナーについては毎日の入浴時に頭皮又は頭髪に適量使用し、ヘアトニックについては毎日の入浴後又は朝に頭皮又は頭髪に適量使用し、それぞれ半頭は実施例12〜47の化粧料、半頭は比較例15〜17の化粧料とし、これを6ヶ月間続けるモニター試験を行った。全身用ローションについては、1日に2回(朝、夜)、顔面、及び前腕に適宜使用し、顔面、前腕片側は実施例48〜59の化粧料、片側は比較例18の化粧料を使用し、これを6ヶ月続けるモニター試験を行った。それぞれの比較例と比べて下記の基準にて評価を行った。総スコアの結果を、シャンプーについては表7、コンディショナーについては表8、ヘアトニックについては表9、全身用ローションについては表10に示す。
【0075】
なお、この期間中、シャンプーのモニター試験対象者は、シャンプーのみ本発明のシャンプーを使用し、それ以外の頭皮または頭髪用化粧料については、通常使用しているものをそのまま使用した。コンディショナー、ヘアトニック、全身用ローションのモニター試験対象者も同様である。
なお、使用期間中に皮膚の異常を訴えたものはいなかった。
【0076】
スコア値
+3:比較例よりも非常に潤いを感じられた
+2:比較例よりもかなり潤いを感じられた
+1:比較例よりもやや潤いを感じられた
0:差がない
−1:比較例のほうがやや潤いを感じられた
−2:比較例のほうがかなり潤いを感じられた
−3:比較例のほうが非常に潤いを感じられた
【0077】
【表7】

【0078】
【表8】

【0079】
【表9】

【0080】
【表10】

【0081】
表7〜10の結果が示すように、本発明のAQP3産生促進剤を配合した実施例12〜59の化粧料では、比較例15〜18の化粧料と比べて、皮膚の乾燥の改善が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキスとを含有する本発明は、AQP3産生促進剤として有用である。本発明のAQP3産生促進剤を含有する化粧料は、哺乳動物細胞、特に外界に面する器官を構成する細胞、例えば表皮角化細胞等で産生されるAQP3の量を増大させ、その結果、器官、例えば皮膚の乾燥改善がなされる。そして、老化現象の防止等を目的とした化粧品をはじめとする各種の外用剤への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸マグネシウムと、チンピエキス、バンランコンエキス、コトウニンエキスからなる群より選ばれる1種以上の植物抽出エキス、とを含有することを特徴とするアクアポリン3産生促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のアクアポリン3産生促進剤を含有することを特徴とする外用剤。
【請求項3】
請求項1に記載のアクアポリン3産生促進剤を含有することを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2011−190185(P2011−190185A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55261(P2010−55261)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】