説明

アクチュエータおよびアクチュエータを用いた人工筋肉

【課題】簡単な構造により安定した大きな駆動力を供給可能な、電磁石を用いたアクチュエータを提供すること。
【解決手段】軸部材と、該軸部材に対して摺動する少なくとも2つの独立した摺動部材と、前記摺動部材上において、前記摺動方向について直列に配置された複数の電磁石と、前記電磁石に電流を供給する電流供給部と、を備えたアクチュエータにおいて、アクチュエータの全体長が収縮する方向、および伸張する方向の少なくとも一方について、前記摺動部材を摺動させる方向に斥力あるいは引力を発生させるように、前記複数の電磁石の極性を定めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石を用い、電流を制御することで駆動力を供給するアクチュエータ、およびアクチュエータを用いた人工筋肉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動力を得るための一般的なアクチュエータとして、モータと減速機の組み合わせにより構成されるアクチュエータが知られている。このようなアクチュエータは、比較的簡単な構造を取り得る反面、駆動時に生じる減速機内の歯車の摩擦抵抗により、高いバックドライバビリティ(逆可動性)を実現することが難しい。そのため、駆動時に歯車等の摩擦抵抗を有しない駆動機構として、近年、リニアモータの原理を利用した、電磁石を用いたアクチュエータが開発されつつある。
【0003】
このようなアクチュエータとして、例えば特許文献1に記載のような、円筒状の可撓性部材の外部に電磁石を固定し、この可撓性部材の内部に複数の永久磁石を直列に配置した構造を有するものがある。このようなアクチュエータは、外部に配置された電磁石に供給する電流量を制御することで、可撓性部材を伸縮させ、摩擦抵抗を起こすことなく直線的な駆動力を得ることを目的としている。
【0004】
また、特許文献2に記載のアクチュエータは、鎖状に配置した複数の連結子において、隣接する連結子の接触部に電磁石を直列に配置し、これらの電磁石を反発させるように電流を供給する構造を有している。このような構造を有するアクチュエータは、鎖状に構成された複数の連結子の長さを制御することを目的としている。
【特許文献1】特開2005−58351号公報
【特許文献2】特開平8−182698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなアクチュエータには、以下のような問題がある。すなわち、このようなアクチュエータは、電磁石の斥力または引力を駆動力として利用するものであるため、電磁石を直列に配置すると、電磁石間に生じた斥力や引力により、局所的に電磁石同士の反発や引き寄せが生じる。そのため、電磁石間に発生する力(引き寄せあう力、または反発する力)が全体とし一様でなくなり、アクチュエータとしての出力が安定せず、大きな駆動力を安定して発生させることが困難になるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、電磁石を用いたアクチュエータであって、簡単な構造により安定した大きな駆動力を供給可能なアクチュエータ、およびこのようなアクチュエータを用いることにより得られる人工筋肉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるアクチュエータは、前述のような課題を解決するためのものであり、軸部材と、該軸部材に対して摺動する少なくとも2つの独立した摺動部材と、前記摺動部材上において、前記摺動方向について直列に配置された複数の電磁石と、前記電磁石に電流を供給する電流供給部と、を備えたアクチュエータにおいて、アクチュエータの全体長が収縮する方向、および伸張する方向の少なくとも一方について、前記摺動部材を摺動させる方向に斥力あるいは引力を発生させるように、前記複数の電磁石の極性を定めたことを特徴としている。
【0008】
このようなアクチュエータによれば、複数の電磁石の斥力あるいは引力が、軸部材に対して摺動部材の摺動する方向に合算される。したがって、電磁石の斥力あるいは引力の合計された大きな力を、駆動力として供給することが可能となる。
【0009】
なお、このようなアクチュエータにおいては、一方の摺動部材にのみ電磁石を配置し、他方の摺動部材に永久磁石などを配置しても一定の効果が得られるが、前記摺動部材の各々について電磁石を配置し、摺動部材を摺動させる方向に発生する斥力あるいは引力が、これらの電磁石より生じる磁力同士によって発生するように構成することが好ましい。このように電磁石を配置すると、摺動部材に配置された電磁石の磁力の大きさを調整することが可能であるため、駆動力の調整が容易になるとともに、より大きな駆動力を得ることができる。
【0010】
また、このようにアクチュエータは、前記摺動部材に配置された前記電磁石に各々1対の極性を備えさせ、対向して配置される電磁石同士の各極性と、背向して配置される電磁石同士の各極性とにより同時に発生する斥力および引力が、アクチュエータの全体長が収縮する方向、または伸張する方向について、前記摺動部材を摺動させるように構成されていると、より好適である。アクチュエータをこのような構成とすることで、電磁石より発生する斥力および引力が合算してアクチュエータの駆動力として用いられるため、より大きな力を駆動力として供給することが可能となる。
【0011】
また、前記摺動部材は、軸部材に対する摺動方向に沿って複数配置される板状部材と、前記板状部材を支持する支持部材とを備えた櫛歯状に形成されていることが好ましく、さらに、前記電磁石が前記板状部材に固定されていることが好ましい。このようなアクチュエータによると、電磁石に得られる斥力や引力の合計を、摺動部材を摺動させる駆動力に用いることが簡単な構成により実現する。
【0012】
なお、前記支持部材は、複数設けられていてもよく、これらの支持部材によって板状部材を両側から支持するような構成をとることが好ましい。このようにすると、板状部材と支持部材との接続部分の強度が増すため、アクチュエータにより大きな駆動力を出力させても、摺動部材が破損し難くなるといった効果が得られる。
【0013】
また、このようなアクチュエータにおいては、前記板状部材に配置された前記電磁石が各々1対の極性を備えると共に、対向して配置される電磁石同士の各極性と、背向して配置される電磁石同士の各極性とにより同時に発生する斥力および引力が、アクチュエータの全体長が収縮する方向、または伸張する方向について、前記摺動部材を摺動させるように作用するように構成することが好ましい。これによって、板状部材に配置された電磁石について、互いに作用する斥力および引力を全てアクチュエータの駆動力として利用することができる。
【0014】
さらに、前記電磁石に備えられる1対の極性を切り換え可能に構成し、極性を切り換えることで、各摺動部材の摺動する方向を反転可能にすると、より好適である。このように構成されるアクチュエータは、各電磁石の極性を同時に切り換えることで、アクチュエータの駆動力を簡単に反転させることが可能となる。
【0015】
また、前記摺動部材としては、金属等、ある程度の剛性を備えるものであれば、どのような材質のものを用いてもよいが、好ましくは、磁界を通過可能な非金属材料で形成されるとよい。摺動部材が非金属で形成されたアクチュエータは、電磁石より発生される磁界がアクチュエータを構成する摺動部材により遮られることがなく、電磁石から発生した磁界が無駄なく摺動部材を摺動させる駆動力に利用されるため、高効率に駆動力を得ることが可能となる。
【0016】
また、このようなアクチュエータにおいては、複数の摺動部材を全体的に外部から物理的に遮断するカバーをさらに設けてもよい。このようなアクチュエータは、摺動部材の摺動する動きが外部からの影響を受けないため、屋外や水中などの環境で用いることが可能になる。
【0017】
また、このようなアクチュエータは、前記摺動部材間の摺動方向について、その相対距離を測定する距離測定部をさらに備えていてもよい。このように構成すると、距離測定部により得られた摺動部材間の距離に基づいて、電磁石に供給する電流量を調整することができるため、より精密な駆動力の制御を行うことが可能となる。なお、前述のような距離測定部としては、非接触で距離を測定する光学センサや、ロータリーエンコーダなどの既知の測定手段を用いることができる。
【0018】
また、前記摺動部材に対して、該摺動部材の摺動方向に作用する外力の大きさを検出する力検出部をさらに備えていてもよい。このようなアクチュエータによると、検出した外力に応じて摺動部材を摺動させる力を変化させることができるため、出力する駆動力を必要に応じて適切に制御することが可能となる。
【0019】
また、このようなアクチュエータにおいては、前記摺動部材同士の間に少なくともバネ特性を備える弾性体が備えられていてもよい。このような弾性体により、例えば大きな力が摺動部材を引き寄せる方向(すなわち収縮方向)に加わった際に、該力により摺動部材同士が干渉して破損することを防ぐことができる。したがって、このようなアクチュエータを、例えば鉛直方向に駆動力を発生させるように用いた場合、摺動部材(または摺動部材に固定された物体)の重量を弾性体の弾力により支えることができるため、アクチュエータにより消費される電力を抑制することができるといった効果が得られる。
【0020】
なお、このような弾性体としては、通常のゴム製の部材などを用いてもよいが、電流によってバネ特性およびダンピング特性が可変に制御されるものであると、より好適である。このようなアクチュエータは、電磁石により発生する摺動部材を摺動させる力と、弾性体のバネ特性およびダンピング特定とによりアクチュエータの出力を制御することができる。したがって、例えば摺動部材に外力が作用した場合や、供給された電流量に対して摺動部材が過度に応答した際に、アクチュエータの振動を抑制し、その動作を安定させることが可能となる。
【0021】
また、本発明は、このように構成されたアクチュエータを用いた人工筋肉をも提供するものである。前述のアクチュエータは、摺動部材の摺動方向の切替えが迅速に行うことができるため、このようなアクチュエータを人工筋肉に用いた場合、人工筋肉の伸縮動作を応答性よくかつ大きな力で行うことができる。
【0022】
また、このような人工筋肉は、前記アクチュエータを複数含むとともに、該アクチュエータが並列に配置されていてもよい。このようにすると、簡単な構成により筋肉の伸縮動作に必要な大きな駆動力を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上、説明したように、本発明によると、簡単な構造により安定した大きな駆動力を供給可能なアクチュエータ、およびこのようなアクチュエータを用いることにより得られる人工筋肉を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
発明の実施形態1.
以下に、図1から図12を参照しつつ本発明の実施の形態1にかかるアクチュエータについて説明する。
【0025】
図1は、本実施形態におけるアクチュエータの外観を示すものであり、図2は、図1に示すアクチュエータ1を矢印P側から見た側面図である。
【0026】
図1および図2に示すように、アクチュエータ1は、軸部材10と、軸部材に沿って摺動する第1の摺動部材11および第2の摺動部材12と、これらの摺動部材上に配置された複数の電磁石13と、を備えている。なお、電磁石13に対して電流を供給する電流供給部と、該電流供給部より供給する電流量を制御するための制御部は、本実施形態においては図示を省略しているものとする。
【0027】
第1の摺動部材11および第2の摺動部材12は、各々略同一形状を備えており、軸部材10を中心に対向して配置される。本実施形態では、第1の摺動部材11の構造について図3を用いて詳細に説明するものとし、第2の摺動部材12の構造についてはその説明を省略する。
【0028】
図3に示すように、第1の摺動部材11は、軸部材と同一方向に伸びる支持部材111と、支持部材111に対して略垂直な方向に伸びるように支持された複数の板状部材121,122,123,124,125とを備える櫛歯状に形成されている。そして、各板状部材は、各々その略中央に貫通孔を有しているとともに、第1の板状部材121以外については、貫通孔の近傍に電磁石13が各々配置されている。板状部材は平面視で略矩形となる形状を有しているが、本発明はこれに限られるものではなく、平面視で略円形となるような形状、その他の形状に構成されていてもよい。また、支持部材および板状部材は、磁界を透過する非金属材料、例えばセラミックなどで構成されており、電磁石から発せられる磁界を効率よく透過させることができる。
【0029】
また、第1の摺動部材11の一方の端部に位置する第1の板状部材121の外側表面には、貫通孔近傍に軸部材10が貫通する空洞を略中央に備えた筒部121aが設けられている。筒部121aは、終端における板状部材121の略中央より外側に略垂直に突出しており、その中心を軸部材10が貫通する。この筒部121aにより、摺動部材が摺動する方向が確実に軸部材に沿ったものとなる。
【0030】
電磁石13は、前述のように各板状部材上に固定されており、その形状は特に限定されるものではないが、図4に示すように、軸部材を貫通する貫通孔13aを同じく備え、板状部材の貫通孔と周りに固定される略円形の磁界を発生する面(磁界発生面)131,132を備えるものであると好適である。また、板状部材に配置される電磁石13は、図示しない電流供給部から電流を供給されることにより、磁界発生面に対して垂直な方向に磁界を発生する一対の極性(N極、S極)を各々の磁界発生面側に備える。電磁石の内部構造の詳細については説明を省略するが、これらの電磁石の内部においては、電流を流すことで磁界を発生するコイル等の磁界発生手段が備えられており、電流供給部から供給される電流量によって、発生する磁界の強さが可変となるように構成されている。また、磁界発生手段に供給する電流の向きを切り換えることで、磁界発生面に発生する極性を逆に切り換えることができるものとする。
【0031】
これらの電磁石13の極性は、電流供給部から電流が供給され、電磁石13から磁界が発生することにより、アクチュエータ1の全体長が収縮する方向、および伸張する方向に第1の摺動部材11および第2の摺動部材12を摺動させるように定められる。すなわち、軸部材の伸びる方向についてアクチュエータ1が収縮するように駆動力を与える場合は、図5に示すように、第1の摺動部材11に配置された電磁石13および第2の摺動部材12に配置された電磁石13の極性を、対向して配置される電磁石13が互いに反発するように定める。このようにすると、第1の摺動部材11に配置された電磁石13と、第2の摺動部材12に配置された電磁石13とが、隣接して対向するもの同士については斥力が生じるとともに、隣接して背向するもの同士については引力が生じるため、これらの斥力および引力が、アクチュエータ1の全体長が収縮する方向に第1の摺動部材11および第2の摺動部材12を摺動させるように作用する。すなわち、摺動部材に配置された各電磁石より発生する斥力および引力が、全てアクチュエータ1の全体長が収縮方向についての駆動力として用いられる。
【0032】
逆に、軸部材の伸びる方向についてアクチュエータ1が伸張するように駆動力を与える場合は、図6に示すように、第1の摺動部材11に配置された電磁石13および第2の摺動部材12に配置された電磁石13の極性を、対向して配置される電磁石が互いに反発するように定める。
【0033】
このようにすると、第1の摺動部材11に配置された電磁石13と、第2の摺動部材12に配置された電磁石13とが、隣接して対向するもの同士については斥力が生じるとともに、隣接して背向するもの同士については引力が生じるため、これらの斥力および引力が、アクチュエータ1の全体長が伸張する方向に第1の摺動部材11および第2の摺動部材12を摺動させるように作用する。これによって、アクチュエータ1の全体長が伸張するように、駆動力を発生させることが可能となる。
【0034】
このように構成されたアクチュエータは、摺動部材に配置された電磁石により生じる引力および斥力が、アクチュエータ1の駆動力として並列に作用するため、大きな出力を得ることが可能となる。また、このようなアクチュエータは、電磁石より生じる磁力の反発力で直接動作するものであるため、電磁誘導で動作するリニアモータの原理を用いたアクチュエータに比して漏れ磁束が少なく、効率よく大きな出力を得ることが可能である。また、軸部材に沿った収縮方向および伸張方向の双方に駆動力を付与することができるため、アクチュエータとして利用する範囲が広がるという効果も得られる。
【0035】
なお、本実施形態では、各摺動部材に設けられた板状部材および電磁石の数が4つの例を用いて説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、必要とする駆動力の大きさや、必要とするアクチュエータの全体長などに応じて、適宜設計することができるものであることは言うまでもない。
【0036】
また、このように構成されたアクチュエータは、例えば図7に示すように、各摺動部材を外部から物理的に遮断するカバーCをさらに備えるものであってもよい。このようにすると、第1の摺動部材11の板状部材と、第2の摺動部材12の板状部材との間に異物などが混入することがなくなるため、より好適である。このように、各摺動部材を外部から物理的に遮断するカバーをさらに備えるアクチュエータを人工筋肉として用いた様子を図8に示す。
【0037】
図8に示すように、人工筋肉100は、複数のアクチュエータ(アクチュエータ1a,1b,1c,1d)が並列に配置され、各々の摺動部材における端部(本実施形態では筒部)に、駆動力を作用させる筋肉に相当する被駆動部200,300を接続する。そして、前述のように、各アクチュエータの極性を非駆動部が同一方向に移動するように定めることで、アクチュエータに供給する電流量に応じて、被駆動部を移動させる量を制御することが可能となる。このような人工筋肉は、各アクチュエータにより供給される駆動力が合算して出力されるため、大きな力により収縮を行うことが可能となるとともに、各アクチュエータの駆動量を各々独立して制御することによって、被駆動部の形状を精密に変化させることができるといった効果が得られる。
【0038】
なお、このようなアクチュエータを用いた人工筋肉の例としては、前述のような複数のアクチュエータを並列に並べたものに限られるものではなく、図9に示すように、アクチュエータを直列配置したものや、図10に示すように、直列配置したアクチュエータを、さらに並列に配置したものであってもよい。このように、アクチュエータを直列に配置すると、アクチュエータの伸縮する距離を増大させることができるため、より大きな伸縮量を必要とする場合には好適である。
【0039】
また、アクチュエータにより得られる伸縮量をより厳密に制御するためには、アクチュエータに備えられる第1の摺動部材11と第2の摺動部材12との相対的な位置関係を厳密にフィードバックする必要がある。すなわち、図11に示すように、一方の摺動部材(例えば第1の摺動部材11)の板状部材(板状部材121)の端部に、距離測定部の一例として、光学的に距離を測定するセンサSを設け、他方の摺動部材との摺動方向についての距離Lを測定し、その測定結果を、供給する電流量を制御する制御部に対して送信するようにしてもよい。このようにすると、アクチュエータにより得られる伸縮量が制御部にフィードバックされるため、より正確にアクチュエータの駆動量を制御することが可能になる。
【0040】
なお、前述のセンサSとしては、光学的に距離を測定するものに限られるものではない。例えば、図12に示すように、一方の摺動部材に回転自在に設けられた歯車等の回転部と、他方の摺動部材に固定され、前記回転部に接触する接触部材とにより、アクチュエータの全長が収縮または伸張する量を、回転部の回転量で算出するようなロータリーエンコーダを用いることも可能である。このようなロータリーエンコーダによりアクチュエータの駆動量を制御する場合、光学的に距離を測定するセンサに比して測定誤差が抑制できるため、より正確にアクチュエータの駆動量を制御することができる。
【0041】
また、図示は省略するが、前述のアクチュエータにおいて、摺動部材に対して摺動方向に作用する外力を検出する力検出部を設けてもよい。力検出器の例としては、圧力センサや加速度センサのような力の大きさを検出するものや、タッチセンサのような外力の有無を検出するものを用いることができる。特に、圧力センサや加速度センサのように外力の大きさを検出できるセンサの場合、力検出部により得られる外力の大きさを電磁石に供給する電流量の制御に用いることによって、アクチュエータをより精密に駆動することが可能となる。
【0042】
また、前述の実施形態においては、摺動部材に設けられた板状部材が、支持部材により一方の端部のみを支持された構造となっている。このような片持ち梁構造では、摺動部材の構造上の強度が十分得られない場合があるため、次のような実施形態を採用することも可能である。
【0043】
発明の実施形態2.
図13は、本実施形態(第2の実施形態)におけるアクチュエータの外観を示すものであり、図14は、図13に示すアクチュエータ1'の一方の摺動部材(第1の摺動部材11')のみを側面から表した図である。なお、本実施形態の説明では、前述の実施形態において説明した各構成と同一または同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0044】
図13に示すように、アクチュエータ1'は、第1の摺動部材11'および第2の摺動部材12'を備え、これらの摺動部材が軸部材に沿って摺動自在に構成されている。なお、摺動部材に配置された電磁石の極性等については、前述の実施形態と同様に配置されている。
【0045】
第1の摺動部材11'は、図14に示すように、第1の支持部材111aおよび第2の支持部材111bを備え、これらの支持部材により板状部材(121,122,123,124,125)を両側から支持する。板状部材は各支持部材から略垂直に伸びるように固定されるか、または一体的に構成される。そして、これらの摺動部材は、図13に示すように、軸部材10の伸びる方向(図13における矢印の方向Q)からみて各々の板状部材が略直交するように構成される。また、各摺動部材については、図示しないストッパが設けられており、軸部材のまわりについては回動せず、各摺動部材が摺動方向以外について相対的に位置を変化しないように構成されている。
【0046】
このように構成されたアクチュエータ1'においては、摺動部材の構造上の強度が十分得られるため、摺動部材の摺動する力、すなわち駆動力を大きく出力できるという効果が得られる。なお、このような実施形態において、摺動部材の構造上の強度をより高めるために、摺動部材の両側から支持するだけでなく、板状部材をより多くの支持部材で支持するようにしてもよい。例えば、摺動部材同士の干渉しない範囲で板状部材の周囲を支持部材で固定するようにしてもよい。
【0047】
発明の実施形態3.
次に、本発明の第3の実施形態について、図15を用いて説明する。
【0048】
図15は、本実施形態(第3の実施形態)におけるアクチュエータの外観を示すものであり、前述の第1の実施形態とほぼ同様の構成を備えるものである。なお、本実施形態の説明においても、前述の実施形態において説明した各構成と同一または同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図15に示すように、アクチュエータ1"は、軸部材10と、軸部材10に沿って摺動する第1の摺動部材11および第2の摺動部材12と、これらの摺動部材上に配置された複数の電磁石13と、を備えている。なお、電磁石13に対して電流を供給する電流供給部と、該電流供給部より供給する電流量を制御するための制御部は、本実施形態においては図示を省略しているものとする。
【0050】
本実施の形態において、第1の摺動部材11および第2の摺動部材12の備える板状部材は、各々その略中央に電磁石13が配置されるとともに、電磁石13の固定側の裏面に弾性体14が固定されている。すなわち、弾性体14は、図15に示すように、アクチュエータ1"の全長が最も収縮した状態で第1の摺動部材11および第2の摺動部材12の接する位置に取り付けられている。この弾性体14は、外部の図示しない電流供給部より電流が供給され、そのバネ特性およびダンピング特性を変化可能に構成されたものであり、既知の電磁ブレーキなどが好適に用いられる。
【0051】
このような弾性体を用いることによって、アクチュエータ1"の全長が収縮した状態であっても、各摺動部材が弾性部材に接触することで、アクチュエータ1"の全長を伸張させる方向に力を与えることが可能となる。このようなバネ特性およびダンピング特性を有する弾性体を用いることで、次のような効果が得られる。すなわち、電磁石13に入力された電流量に対して摺動部材が過度に応答するような場合に、電磁石13に対して供給する電流量に加えて、弾性体14に供給する電流量を制御し、バネ特性およびダンピング特性を電磁石13の極性と合わせて制御することで、摺動部材の摺動量を調整することが可能となる。このようにすることで、摺動部材の振動する現象などが抑制され、アクチュエータ全体の動作の安定化が実現できる。
【0052】
また、例えばアクチュエータ1"の摺動部材に外力が加わり、アクチュエータ1"が収縮した場合などにおいても、弾性体14のバネ特性による力を付与することができるため、電磁石13から発生する磁気による引力または斥力に加えて、より大きな駆動力を与えることも可能となる。すなわち、例えばアクチュエータ1"を鉛直方向に摺動させるような形態で用いた場合に、摺動部材(および摺動部材に接続された被駆動対象)の自重が作用するが、この自重に対する反力を弾性体14により得ることが可能となる。このように、自重を支える力を弾性体14のみにより付与することで、自重を支えるのみの状態においては電磁石13に対して電流を供給する必要がなくなるため、電流消費量が抑制されるという効果が得られる。
【0053】
なお、このような実施形態の場合、アクチュエータ1"において、摺動部材に作用する外力を検出する力検出器が備えられていると、弾性体14により付与される反力を適切に制御しやすくなるため、より好適である。
【0054】
本実施形態においては、摺動部材の干渉する部分にバネ特性およびダンピング特性を備えた弾性体14を設けたアクチュエータ1"を示しているが、このような弾性体14として、単なるバネ部材やゴム部材といった弾性体を用いることも可能である。このような弾性体14を用いた場合であっても、摺動部材の干渉による衝撃をある程度抑制することができる。
【0055】
以上、本発明に係るアクチュエータの実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。すなわち、例えば前述の実施形態においては、軸部材として摺動部材を貫通する棒状の部材のみを用いて説明しているが、これに代えて、図16に示すような、筒状のケース15を軸部材として用いてもよい。すなわち、摺動部材の断面(すなわち、板状部材の形状)をケース15の断面と略一致させ、摺動部材の外周面がケース15の内周に沿って移動(摺動)するように構成することもできる。このように構成すると、第1の摺動部材11の板状部材と、第2の摺動部材12の板状部材との間を外部から物理的に遮断することができるとともに、摺動部材や電磁石等に軸部材を貫通させるための孔を設ける必要がなくなり、アクチュエータを製造する際に必要となる工数が低減されるという効果が得られる。
【0056】
また、前述の実施形態においては、いずれも複数の電磁石からの引力および斥力によって、駆動力を供給するようにしているが、一方の摺動部材に配置する電磁石を、通常の永久磁石に代えて実施することも可能である。このようにすると、駆動する際に用いる電力の省力化や、電気配線などの工数が低減可能である。
【0057】
また、本発明に係るアクチュエータには、多くの利用形態が考えられる。例えば、図17に示すような並行リンクを本発明に係るアクチュエータを用いて構成し、リンク形状をアクチュエータの駆動により変化をさせることで、リンクの内力がアクチュエータの駆動力によって制御され、リンクの剛性を仮想的に変化させることが可能になる。
【0058】
さらに、図18に示すような、2つの三角錐形状の剛体について、1つの剛体を固定し、その頂点を他方の剛体の頂点とボールジョイントで接続し、他の剛体のその他の端部を上述のようなアクチュエータで各々接続するような三次元並行リンクを構成することもできる。このような三次元並行リンクは、アクチュエータの長さを変更することで、他方の剛体の底面(出力面)を空間上に対して任意の方向に向けることが可能となる。
【0059】
また、本発明にかかるアクチュエータは、高出力および高応答性が得られるため、例えばエンジンバルブの開閉等に用いることもできる。これによって、従来の電動回転モータやリニアモータなどの直動モータでは実現し得なかったエンジンバルブの開閉を電動により実現することが可能となる。
【0060】
さらに、本発明に係るアクチュエータは、直動方向のみに利用するのではなく、直動運動を回転運動に変換して用いることも可能である。例えば、脚式歩行型のロボットの脚部、すなわち膝関節や股関節といった大きな負荷が加わる関節部分の駆動にこのようなアクチュエータを用いることもできる。特に、鉛直方向における負荷が常に付与されるような場合は、前述の実施形態3において説明した、弾性体による弾性力の得られるアクチュエータを用いると、アクチュエータの電力消費量が抑制されるため、好適である。また、直動運動を回転運動に変換して用いる例はこれに限られるものではなく、ロボットのアーム部やハンド部のような通常の関節部においても利用可能である。
【0061】
また、前述の実施形態1において説明したように、このようなアクチュエータを複数配置し、伸縮量や駆動力を高めた人工筋肉も、前述のようなロボット関節の駆動手段として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施の形態に係るアクチュエータの外観を概略的に示す概略図である。
【図2】図1に示すアクチュエータを側方から見た様子を示す概略図である。
【図3】図1および図2に示すアクチュエータを構成する第1の摺動部材の構造を概念的に表す図である。
【図4】本実施形態に係るアクチュエータに用いられる電磁石の一例を示す概念図である。
【図5】図1に示すアクチュエータに配置された電磁石の極性を、アクチュエータの全長が収縮するように定めた例を示す概略図である。
【図6】図1に示すアクチュエータに配置された電磁石の極性を、アクチュエータの全長が伸張するように定めた例を示す概略図である。
【図7】図1に示すアクチュエータが、各摺動部材を外部から物理的に遮断するカバーをさらに備えた例を示す概略図である。
【図8】図1に示すアクチュエータを用いて人工筋肉を構成した例を示す概略図である。
【図9】図1に示すアクチュエータを直列に配置して人工筋肉を構成する例を示す概略図である。
【図10】図1に示すアクチュエータを直列に配置したものを並列に配置して人工筋肉を構成する例を示す概略図である。
【図11】図1に示す実施形態において、摺動部材間の摺動方向についての距離を光学的に測定するセンサを設けた例を示す概略図である。
【図12】図11に示すアクチュエータのセンサについて、ロータリーエンコーダを用いた例を示す概略図である。
【図13】第2の実施の形態に係るアクチュエータの外観を概略的に示す概略図である。
【図14】図13に示すアクチュエータの一方の摺動部材を側方から見た様子を示す概略図である。
【図15】第3の実施の形態に係るアクチュエータの外観を概略的に示す概略図である。
【図16】摺動部材の摺動する軸部材として、外部を覆う筒状のケースを用いたアクチュエータの実施形態の一例を示す概略図である。
【図17】本発明に係るアクチュエータを用いて並行リンクを構成した例を示す概略図である。
【図18】本発明に係るアクチュエータを用いて三次元並行リンクを構成した例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0063】
1,1',1",1a,1b,1c,1d・・・アクチュエータ
10・・・軸部材
11,11'・・・摺動部材(第1の摺動部材)
12,12'・・・摺動部材(第2の摺動部材)
13・・・電磁石
111・・・支持部材
111a・・・第1の支持部材
111b・・・第2の支持部材
121,122,123,124,125・・・板状部材
121a・・・筒状部材
13a・・・貫通孔
131,132・・・磁界発生面
14・・・弾性体
15・・・カバー
100・・・人工筋肉
S・・・距離測定部(センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、該軸部材に対して摺動する少なくとも2つの独立した摺動部材と、前記摺動部材上において、摺動方向について直列に配置された複数の電磁石と、前記電磁石に電流を供給する電流供給部と、を備えたアクチュエータであって、アクチュエータの全体長が収縮する方向、および伸張する方向の少なくとも一方について、前記摺動部材を摺動させる方向に斥力あるいは引力を発生させるように、前記複数の電磁石の極性が定められていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記摺動部材の各々について電磁石が配置されており、前記摺動部材を摺動させる方向に発生する斥力あるいは引力が、これらの電磁石より生じる磁力同士によって発生することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記摺動部材が、前記軸部材に対する摺動方向に沿って複数配置される板状部材と、前記板状部材を支持する支持部材とを備えた櫛歯状に形成されており、前記電磁石が、前記板状部材に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記支持部材が複数設けられ、前記板状部材を両側から支持することを特徴とする請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記板状部材に配置された前記電磁石が各々1対の極性を備えると共に、対向して配置される電磁石同士の各極性と、背向して配置される電磁石同士の各極性とにより同時に発生する斥力および引力が、アクチュエータの全体長が収縮する方向、または伸張する方向について、前記摺動部材を摺動させるように作用することを特徴とする請求項3または4に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記電磁石に備えられる1対の極性が切り換え可能であり、極性を切り換えることで、各摺動部材の摺動する方向を反転可能に構成されたことを特徴とする請求項5に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記摺動部材が、磁界を通過可能な非金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記複数の摺動部材を外部から物理的に遮断するカバーをさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記摺動部材間の摺動方向についての相対距離を測定する距離測定部をさらに備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記摺動部材に対して、該摺動部材の摺動方向に作用する外力の大きさを検出する力検出部をさらに備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記摺動部材同士が接触する位置に、少なくともバネ特性を備える弾性体が備えられていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記弾性体が、電流によってバネ特性およびダンピング特性が可変に制御されるものであることを特徴とする請求項11に記載のアクチュエータ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のアクチュエータを含み、該アクチュエータにより伸縮動作が行われる人工筋肉。
【請求項14】
前記アクチュエータを複数含むとともに、該アクチュエータが並列に配置されることを特徴とする請求項13に記載の人工筋肉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−366(P2009−366A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165271(P2007−165271)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】