説明

アクチュエータ振動システム

【課題】小型・単純な装置で振動可能なアクチュエータ振動システムを提供する。
【解決手段】2つの電極層と前記電極層に挟まれたイオン導電層を備えたイオンポリマーアクチュエータ、1対の電極および直流電源を備えたアクチュエータ振動システムであって、前記アクチュエータの一方の電極層が一方の電極に接触し、他方の電極層が他方の電極に接触することで前記アクチュエータが支えられ、前記アクチュエータは直流電圧の印加により屈曲可能に構成され、直流電圧の印加中に、前記アクチュエータは2つの電極層が各電極と接触する接触状態と、アクチュエータが屈曲することで少なくとも一方の電極層と電極が離れる離間状態を繰り返して振動することができるように構成されたアクチュエータ振動システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ振動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオン導電性高分子アクチュエータ、導電性ポリマーアクチュエータ、カーボンナノチューブアクチュエータ等のイオンポリマーベースのアクチュエータは低電圧駆動(数V以下)のソフトアクチュエータとして、研究がさかんとなっている(特許文献1〜3)。これらのアクチュエータは、少なくとも1層の絶縁層であるイオン導電層を介して、2層以上の電極層が接合した構成になっており、その電極間に電圧を加えることによって、基本となる3層構造が屈曲することによってアクチュエータとして機能する。この素子を振動させて用いる用途は、例えば、気体や液体等を流体として制御する場合に有用であり、通常は交流電圧を印加することによって振動が実現可能である。イオンポリマーベースアクチュエータは低電圧駆動が特徴であり、その場合、駆動回路が簡単となり、全体の装置がコンパクトとなり、最近のマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)等の応用にも有利な点となっている。しかし、さらに駆動回路を簡単にすることによって、装置全体を軽少化、薄型化するために、直流電源のみで振動を可能とすることができれば、上記、低電圧駆動の特徴を最大限に生かすことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-160952
【特許文献2】特開2010-097794
【特許文献3】特開2009-033944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、小型・単純な装置で振動可能なアクチュエータ振動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のアクチュエータ振動システムを提供するものである。
項1. 2つの電極層と前記電極層に挟まれたイオン導電層を備えたイオンポリマーアクチュエータ、1対の電極および直流電源を備えたアクチュエータ振動システムであって、前記アクチュエータの一方の電極層が一方の電極に接触し、他方の電極層が他方の電極に接触することで前記アクチュエータが支えられ、前記アクチュエータは直流電圧の印加により屈曲可能に構成され、直流電圧の印加中に、前記アクチュエータは2つの電極層が各電極と接触する接触状態と、アクチュエータが屈曲することで少なくとも一方の電極層と電極が離れる離間状態を繰り返して振動することができるように構成されたアクチュエータ振動システム。
項2. 前記アクチュエータの一方の電極層は常に一方の電極と接するように固定され、他方の電極層は他方の電極が当接することにより屈曲可能に支持されている、項1に記載のアクチュエータ振動システム。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、直流電源のみで高分子アクチュエータの振動を発生させることで、駆動回路を簡単にすることにより、振動装置全体を軽少化、薄型化することができ、低電圧駆動の特徴を最大限に生かすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のアクチュエータ振動システムの代表的な実施形態の概略図を示す。アクチュエータの一端が固定されている。
【図2】本発明のアクチュエータ振動システムで、電圧およびアクチュエータの変位を測定するための具体的な実施形態の装置を示す。
【図3】図2の装置を用いて測定した電圧およびアクチュエータの変位の測定結果を示す。
【図4】アクチュエータがカソードおよびアノードで固定されず支持のみされており、電圧の印加によりアクチュエータ全体が屈曲により変形し電極と非接触となる実施形態の一例を示す概略図である。
【図5】アクチュエータがカソードおよびアノードで固定されず支持のみされており、電圧の印加によりアクチュエータ全体が屈曲により変形し電極と非接触となる実施形態の一例を示す概略図である。
【図6】アクチュエータの屈曲変形によりアクチュエータが電極と接触していない状態を生じる実施形態の一例を示す。
【図7】アクチュエータの屈曲変形によりアクチュエータが電極と接触していない状態を生じる実施形態の一例を示す。
【図8】(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
【図9】イオンポリマーアクチュエータが屈曲する原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、イオンポリマーアクチュエータの弾性力を利用することにより、直流電源のみを印加することで、アクチュエータを振動させるアクチュエータ振動システムに関するものである。ここで、イオンポリマーアクチュエータとしては、イオン導電性高分子アクチュエータ、導電性ポリマーアクチュエータ、カーボンナノチューブアクチュエータ等のイオンポリマーベースのアクチュエータが挙げられる。
【0009】
好ましいイオンポリマーアクチュエータは、例えば、イオン導電層1を、その両側から、電極層(導電性薄膜層)2,2で挟んだ3層構造のものが挙げられる(図8A) 。また、電極の表面伝導性を増すために、電極層2,2の外側にさらにイオン導電層3,3が形成された5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図8B)。
【0010】
イオン導電層の表面に電極層を形成してアクチュエータ素子を得るには、イオン導電層の表面に電極層となる導電性薄膜を熱圧着すればよい。なお、電極層は、1つの導電性薄膜から構成されてもよく、2以上の導電性薄膜を熱圧着して1つの電極層としてもよい。
【0011】
本発明において、アクチュエータ素子の電極層に使用する導電性薄膜には、カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体が使用される。導電性薄膜に、さらに導電性材料を配合してもよい。このような導電性材料としては、導電性高分子、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、人造黒鉛、炭素繊維、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどの炭素粒子、金微粒子などが挙げられる。
【0012】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。イオン液体は、導電率が0.1Sm-1以上のものであれば、使用可能である。
【0013】
イオン導電層は、例えば、ポリマーと溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製し、得られた溶液をキャスト法により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させることによって得ることができる。
【0014】
電極層、イオン導電層に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion、ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。また、イオン液体のカチオン部分を含むモノマーを重合して得られるイオン液体ポリマーを用いることもできる。
【0015】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。カーボンナノチューブのアスペクト比は、103以上、好ましくは104以上である。カーボンナノチューブの長さは、通常1μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは500μm以上である。
【0016】
本発明で使用するイオンポリマーアクチュエータは、電極間(電極は導電性薄膜層(電極層)に接続されている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると屈曲変位を得ることができる。このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができ、溶液中で作動させることもできる。
【0017】
イオンポリマーアクチュエータとして、電極層とイオン導電層の組み合わせとして下記のようなものが考えられる(Pはポリマー、ILはイオン液体、PPyはポリピロール、PAnはポリアニリンを各々表す)。
電極層 イオン導電層
化学めっき金、化学めっき白金 イオン交換樹脂
(C、RuO)+イオン交換樹脂 イオン交換樹脂
導電性ポリマー(PAn) イオン交換樹脂
CNT, 導電性ポリマー(PPy, PAn, PEDOT) ゲル電解質
ナノカーボン+P+IL ゲル電解質
【0018】
アクチュエータを作製するための溶媒としては、水、有機溶媒、イオン液体が使用できる。
【0019】
このようなアクチュエータは、各電極層が少なくとも1箇所で、屈曲変形可能なように支持されている。
【0020】
本発明のイオンポリマーアクチュエータは低電圧駆動(数V以下)のソフトアクチュエータであり、少なくとも1層の絶縁層であるイオン導電層を介して、2層以上の電極層が接合した構成になっており(図9)、その電極間に電圧を加えることによって、基本となる3層構造が屈曲することによってアクチュエータとして機能する。この素子を振動させて用いる用途は、例えば、気体や液体等を流体として制御する場合に有用であり、通常は交流電圧を印加することによって振動が実現可能である。
【0021】
具体的には、図1に示すように、アクチュエータのアノードを片持ちはりの固定部分に、カソードを屈曲部分に、それぞれ接触させる。アクチュエータの下側はカソードによりアクチュエータの片側の電極層のみ支持され、カソードと反対側には屈曲可能となっている。
【0022】
直流電圧を加えた際、カソードが接触している状態(左側)では、アクチュエータが屈曲し、その後、カソードと離れることによって(図1右側)、アクチュエータの放電機構、および弾性力によって、もとに戻り(即ち左側に移行)、再び、カソードに接触した際、初めの方向に屈曲する。この運動を繰り返すことで、図1に示すように直流電圧でアクチュエータは振動することになる。この手法は、電極層とイオン導電層(電解質層)からなるイオンポリマーベースのすべてのアクチュエータに適用することが可能である。
【0023】
図2は、図1の装置をさらに具体的に示したものである。図2の装置において、3Vの電圧を印加したときの変位と電圧の変化の測定結果を図3に示す。図3に示すように、電圧と変位は規則的に繰り返され、本発明のシステムが規則的な振動を生じることを示す。
【0024】
また、図4から図7に示すように、アクチュエータを電極に固定せずに運用することも可能である。
【0025】
図1〜2,4〜7に示されるように、本発明のアクチュエータは電圧の印加により屈曲した際にアクチュエータを支える一方の電極との接触が解除される(電極とアクチュエータが離れる)ことが必要である。
【0026】
図4は、アクチュエータの下側の電極層を2つのカソード(三角形の上の尖った部分)が支え、上側の電極層を1つのカソード(三角形の下の尖った部分)が支える構成となっている。アクチュエータは、図1,図2に示すように1箇所を完全固定し、他端(自由端)を屈曲可能にしてもよく、図4〜図7に示すように、アクチュエータ全体が屈曲変形してもよい。図4では左側が電圧を印加する前の状態であり、電圧を印加すると、アクチュエータが下を凸にして屈曲し、アノード(三角形、片持ち状にアクチュエータを支持)と上側の電極層が非接触となった図4の右側の状態になる。右側の状態になると放電およびアクチュエータの弾性力による形状回復が起こり、左側のもとの状態に戻り、以下これが繰り返されてアクチュエータが振動する。
【0027】
図5では、電圧を印加する前にアクチュエータは上に凸の湾曲した状態で支持され、電圧を印加するとさらに強く湾曲し、下側の電極層とアノード(三角形)が非接触の状態となり元に戻り、これが繰り返されて振動する。
【0028】
図6,図7は、電圧を印加するとアクチュエータと電極との接触が完全になくなる構成を示している。
【0029】
アクチュエータの形状は、図1,2,4〜7では対照な形状の例を示しているが、アクチュエータは非対称の形状であってもよい。
【0030】
また、アクチュエータを振動により移動させた場合には、アクチュエータにフィンを付けてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの電極層と前記電極層に挟まれたイオン導電層を備えたイオンポリマーアクチュエータ、1対の電極および直流電源を備えたアクチュエータ振動システムであって、前記アクチュエータの一方の電極層が一方の電極に接触し、他方の電極層が他方の電極に接触することで前記アクチュエータが支えられ、前記アクチュエータは直流電圧の印加により屈曲可能に構成され、直流電圧の印加中に、前記アクチュエータは2つの電極層が各電極と接触する接触状態と、アクチュエータが屈曲することで少なくとも一方の電極層と電極が離れる離間状態を繰り返して振動することができるように構成されたアクチュエータ振動システム。
【請求項2】
前記アクチュエータの一方の電極層は常に一方の電極と接するように固定され、他方の電極層は他方の電極が当接することにより屈曲可能に支持されている、請求項1に記載のアクチュエータ振動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−115058(P2012−115058A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262301(P2010−262301)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)