説明

アクチュエータ用作動媒体およびアクチュエータ

【目的】 作動媒体を使用し、新しい動作原理に基づく電気エネルギーを運動エネルギーに変換する新規なアクチュエータを得る。
【構成】 円筒状のケース1に作動媒体11として下記一般式で示されるエステルを入れ、このケース1の内周壁に複数の電極3a,3b…3hを設け、ケース1内に羽根車状のロータ6を配し、上記電極3a,3b…3hに電圧を印加し、この作動媒体によってロータ6を回転させる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電気エネルギーを回転運動や往復運動などの運動エネルギーに変換するアクチュエータとその作動媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電気エネルギーを回転運動や往復運動などの運動エネルギーに、作動媒体を利用して直接変換するアクチュエータは知られておらず、先に本発明者が特許出願した特願平6−175872号(平成6年7月27日出願)が唯一のものである。この先行出願のアクチュエータは、筐体内に電気感応性流体を作動媒体として入れ、この筐体に複数の電極を設け、筐体内に動力取出用の可動部材を配してなり、上記電極に電圧を印加して作動媒体によって可動部材を動かすようにしたものであり、上記電気感応性流体としては、有機フッ素化合物と電気絶縁性流体とからなる2成分系の混合物が用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、先行出願のアクチュエータの更なる性能の向上を求め、作動媒体として1成分系のもので、エネルギー変換効率がよく、しかも安価なものを得るべく検討を行った。
【0004】
【課題を解決するための手段】その結果、作動媒体として下記一般式(I)で表されるエステルを選択することで、上記課題を達成できることが判明した。
【化4】


【0005】以下、本発明を詳しく説明する。図1ないし図3は、本発明のアクチュエータの一例を示すもので、回転運動を取り出す1種のモータである。図中符号1は、電気絶縁性材料からなる有底円筒状のケース(筐体)であり、このケース1には蓋2がその開口部を閉じるように取り付けられている。また、ケース1の内周壁には図3に示すように等間隔に8個の電極3a,3b,3c,3d,3e,3f,3g,3hが取り付けられている。
【0006】この電極3a,3b…3hは、鉄、銅、アルミニウムなどの金属からなる針金状のもので、ケース1の内周壁に突出して形成された電極支持部4…に挿通されて内周壁の壁面に接するように取り付けられている。また、電極3a,3b…3hの上部はL字状に折り曲げられて、ケース1の上部に形成されたスリット5…を介してケース1の外方に延びており、その端部は円環状に曲げられている。
【0007】また、ケース1内には羽根車状のロータ6が設けられている。このロータ6は、図2に示すように回転軸6aとこの回転軸6aに等間隔に取り付けられた6枚の羽根6b…とからなり、その回転軸6aの下端部は針頭状となってケース1の底部の中央に形成されたピポット軸受7に軸支され、回転軸6aの上部は、蓋2の中央に設けられ軸受8を介してケース1の上方に延びている。
【0008】また、上記各電極3a,3b…3hからはそれぞれ図示しないリード線が1基の直流電源10に接続されている。この直流電源10は、0.5〜10kV程度の直流電圧を出力するもので、この出力直流電圧を必要に応じて各電極3a,3b…3hに所定時間ずつ順次にかつ自動的に切り換えて印加する自動切換機能を有するものである。
【0009】そして、ケース1内には、ロータ6の羽根6b…がほぼ没する程度にまで作動媒体11として上記一般式(I)で表されるエステルが満たされている。
【0010】このエステルは、二塩基不飽和脂肪酸のジエステルであり、二塩基不飽和脂肪酸としては、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など、および、これら以外の不飽和脂肪酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸からなる飽和脂肪酸の直鎖状の主鎖部分を脱水素して1個の不飽和結合を導入したものなどが挙げられ、また一般式(I)のR1 およびR2 としては、メチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基、イソデシル基などのアルキル基が挙げられる。具体的なエステルの好ましいものとしては、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)などが挙げられる。
【0011】次に、この例のアクチュエータの作動について説明する。基本的には、複数の電極3a,3b,…に直流電源10からの直流電圧を印加することによってロータ6が回転するのであるが、具体的な電圧印加方法には次のようなものがある。
【0012】まず、第1の電圧印加方法は、2つの電極、例えば図3における電極3aと、これに対して平面角で180度の位置にある電極3eを正極とし、残る6個の電極を接地(負極)して直流電圧を印加する方法である。この第1の電圧印加方法は、2つの固定した電極を、例えば正極として、残る6個の電極を接地し負極として、電圧印加する点に特徴がある。この場合には、正極側に正極性形直流電源装置より正電荷が印加され、接地側は相対的に負極となる。また、直流電源装置が負電荷印加の負極性形電源装置である場合には、2つの固定した電極には負電荷が印加されるので負極となり、接地側は相対的に正極となる。
【0013】この第1の電圧印加方法の変形例として、電極3aとこれに対して平面角で135度の位置にある電極3dとを正極として電圧印加し、残る電極を接地するもの、および電極3aとこれに対して平面角で90度の位置にある電極3cとを正極として電圧印加し、残る電極を接地するもの等がある。勿論、これらの電極の組合わせと同様の平面角を有する組合わせ、例えば電極3aと電極3f、電極3aと電極3g、電極3bと電極3d等も第1の印加方法に包含される。但し、図3の配置において、相隣りあう電極同士の組合わせは除外される。
【0014】従って、この第1の電圧印加方法では、最小限2個の電極を正極又は負極とし、これら2個の電極間に少なくとも1個以上の電極を存在させ、これらの電極を残りの電極とともに接地するような配置が望ましい。
【0015】また、この第1の電圧印加方法では、2つの電極間への電界強度を比較的高くすることがロータの回転には好ましく、このためには印加電圧を高くする方法、ケースを小型化する方法等がある。具体的には、図1R>1のケースの内直径が5cmの時には印加電圧は3kV以上、好ましくは5kV以上とすることが望ましい。
【0016】また、第2の電圧印加方法は、図3において8個の電極3a,3b…3hに直流電圧を順次切り替えて印加する方法である。具体的には、8個の電極3a,3b…3hのうちロータ6の回転軸6aを挟んで相対向する2個の電極3a,3eを正極として電圧を印加し、残る電極は接地する。一定時間、例えば1秒経過後に、電極3aから隣接する電極3bに、電極3eから隣接する電極3fに、図3において時計廻り方向に沿って電圧印加を切り替える。この時、電極3eから電極3fへの切り替えのタイミングを、電極3aから電極3bへの切り替えのタイミングより一定時間、例えば0.5秒遅延させる。したがって、電極3eには電極3aよりも長い時間、例えば0.5秒間余分に電圧が印加される。
【0017】ついで、電極3bおよび電極3fへの所定時間、例えば1秒間の電圧印加を行ったのち、電極3bから電極3cへ、電極3fから電極3gへ電圧印加を切り替えるが、この切り替えも、電極3fから電極3gへのタイミングは、先の切替タイミングが遅れているため同様に遅れることになる。このように、図4のタイミングチャートに示したように2個の電極への電圧印加の切替えを同時に行うのではなく、2個の電極のいずれか一個を所定時間、例えば0.5秒間遅延して切替えを行う。以下、同様にして各電極に順次切り替えて電圧印加が行われるが、どの場合にも電圧印加されている2個の電極以外の電極は接地されている。
【0018】この第2の電圧印加方法では、各電極間の電界強度は比較的低くてもロータ6は回転し、印加電圧は2kV以下であってもよく、印加電圧を高くできない時やケースが大型の場合に好適な電圧印加方法である。
【0019】このような複数の電極3a,3b…に対する電圧印加によりケース1内に設けられたロータ6が回転する。かくして、ロータ6の回転軸6aから回転運動を取り出すことができ、アクチュエータとして作動する。また、電極3a,3b…(正極および負極)の平面的な配置を調整することで、ロータ6の回転方向を制御することができる。すなわち、電気感応性流体が正極から負極への流動を示す場合には、ロータ6はその方向に回転運動をすることになる。
【0020】このようなアクチュエータにあっては、複数の電極3a,3b…への電圧印加による電気エネルギーがロータ6の回転運動に変換され、動力として取り出すことができる。このような作動媒体を使用したアクチュエータは、これまで知られておらず本発明者が初めて開発したものである。
【0021】上述の具体例では電極数を8個としたが、上述のように2個以上であればこれ以外でもよく、ロータの羽根の枚数も2枚以上であればよい。また、電極数とロータの羽根の枚数とを一致させる必要も特にない。さらに、他の電圧印加方法を採用すればロータの回転数を変化させることもできる。また、上述のような回転機に限られず、シリンダ内にピストンを配し、作動媒体を満たすとともにシリンダの内周壁に円環状の電極を複数並べて形成し、シリンダに作動媒体のもどり流路を設け、電極に順次電圧を切り替えて印加することにより、ピストンを往復運動させることができる。
【0022】(実施例1)図1ないし図3に示したアクチュエータを作製した。ロータ6は6枚の羽根を等間隔に設けた6枚羽根のものを使用した。作動媒体として、マレイン酸ジブチル約60mlをケース1に満たした。電極3aと電極3eとを正極として直流電圧5.0kVを印加し、残りの電極はすべて接地して負極とした。この結果、ロータ6は電圧印加直後に回転を始め、電圧印加中回転し続けた。その時の回転速度は6.5秒/1回転であり、電流値は用いた電流測定装置の測定限界下限以下の0.05mA以下であった。
【0023】(実施例2)実施例1と同様の作動媒体、および装置を用いた。印加電圧は直流2.0kVとし、電圧を8個の電極に順次切り換えて印加する第2の印加方法を採用した。電極3a,3b…3hへの電圧印加は、図4のタイミングチャートに示した通りとし、印加時間は1秒とし、電極3eへの最初の印加時間のみ1.5秒とした。この結果、ロータ6は18秒/1回転の回転速度で回転し続けた。電流値は0.05mA以下であった。
【0024】(実施例3)図1ないし図3に示したアクチュエータにおいて、ケース1の直径およびロータ6の羽根6bの横幅を、それぞれ実施例1の1/2としたアクチュエータを用い、これに実施例1と同様に8個の電極3a,3b…3hを付設した。ここに実施例1で用いた作動媒体15mlを満たした。電極3aと3eとを正極として直流電圧を印加し、残りの電極はすべて接地して負極とした。この結果、ロータ6は電圧印加直後から回転を始め、電圧印加中回転し続けた。その時の印加電圧と回転速度の関係を表1に示した。尚、いずれの場合にも電圧印加時の電流値は0.05mA以下であった。
【0025】
【表1】


【0026】(実施例4)作動媒体としてフタル酸ジブチルを用いた以外は実施例3と同様にして、印加電圧と回転速度の関係を測定した。結果を表2に示した。尚、電流値はいずれの場合も0.05mAを示した。
【0027】
【表2】


【0028】(実施例5)作動媒体としてフタル酸ジブチルを用いた以外は実施例3と同様にして、印加電圧と回転速度の関係を測定した。結果を表2に示した。尚、電流値はいずれの場合も0.05mA以下を示した。
【0029】
【表3】


【0030】(実施例6)作動媒体としてフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)を用いた以外は実施例3と同様にして、直流電圧5.0kV印加時の回転速度を測定したところ、15.8秒/1回転であった。この時の電流値は0.05mA以下であった。
【0031】(実施例7)作動媒体としてフタル酸ジメチルを用いた以外は実施例3と同様にして、直流電圧5.0kV印加時の回転速度を測定した。電圧印加直後の回転運動では35.7秒/1回転の回転速度を示したが、その後回転運動は不安定となり、回転速度が急に低下する様子も観察された。電圧印加中の電流値は0.1mAであった。
【0032】(実施例8)実施例3において、電極3c,3d,3g,3hをケースより取り去り、電極3aと3eとを正極とし、電極3bと3fを接地して負極として、直流5.0kVを印加して、印加中の回転方向と回転速度を測定した。結果を表5に示した。また、電極3bと3fのかわりに、電極3dと3hを負極として用いて、同様に電圧印加中の回転方向と回転速度を測定し、結果を表4に示した。尚、電圧印加時の電流値はどちらの場合にも、用いた電流測定装置の測定限界下限以下の0.05mA以下であった。
【0033】
【表4】


【0034】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば作動媒体として、マレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、フタル酸ジエステルなどの不飽和二塩基酸を用い、電気エネルギーを回転運動や往復運動に変換する新規なアクチュエータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のアクチュエータの一例を示す概略構成図である。
【図2】 図1のアクチュエータのロータを示す平面図である。
【図3】 図1のアクチュエータの電極の配置を示す平面図である。
【図4】 本発明のアクチュエータにおける電極への第2の電圧印加方法の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
1…ケース、3a,3b,3c,3d,3e,3f,3g,3h…電極、6…ロータ、10…直流電源、11…作動媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式(I)で表されるエステルからなり、電気エネルギーを運動エネルギーに変換するアクチュエータに用いられる作動媒体。
【化1】


【請求項2】 筐体内に作動媒体として、下記一般式(I)で表されるエステルを入れ、この筐体内に複数の電極を設け、筐体内に動力取出用の可動部材を配してなり、上記電極に電圧を印加して作動媒体を介して可動部材を動かすようにしたことを特徴とするアクチュエータ。
【化2】


【請求項3】 円筒状の筐体に流動媒体として、下記一般式(I)で表されるエステルを入れ、この筐体の内周壁に複数の電極を設け、筐体内に羽根車状のロータを配してなり、上記電極に電圧を印加して作動媒体を介してロータを回転させるようにしたことを特徴とするアクチュエータ。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平8−284798
【公開日】平成8年(1996)10月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−92788
【出願日】平成7年(1995)4月18日
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)