アクチュエータ
【課題】水素吸蔵合金を利用したアクチュエータにおいて、簡易な構成で大きな駆動力と変位量を得る。
【解決手段】本発明に係るアクチュエータは、板状を呈してその両面間で水素の吸収特性に違いを有する水素吸蔵合金片1と、該水素吸蔵合金片1に水素を吸蔵させるための水素導入手段3と、該水素吸蔵合金片1に吸蔵されている水素を排出させるための温度設定手段4及び減圧手段5とを具え、該水素吸蔵合金片1を作動子として動作する。
【解決手段】本発明に係るアクチュエータは、板状を呈してその両面間で水素の吸収特性に違いを有する水素吸蔵合金片1と、該水素吸蔵合金片1に水素を吸蔵させるための水素導入手段3と、該水素吸蔵合金片1に吸蔵されている水素を排出させるための温度設定手段4及び減圧手段5とを具え、該水素吸蔵合金片1を作動子として動作する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータとして、水素吸蔵合金の加熱冷却に伴う水素の吸放出によって流体圧力を発生させ、該流体圧力によって被駆動体を駆動するもの(例えば特許文献1、2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2005−291289号公報
【特許文献2】特開平7−243409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の水素吸蔵合金を利用したアクチュエータにおいては、水素吸蔵合金の加熱冷却に伴う水素の吸放出によって発生する流体圧力は低いため、例えば蓄圧タンク等を用いて流体圧力を高める必要があり、これによって設備が大がかりとなる問題があった。
水素吸蔵合金の水素吸放出に伴う水素吸蔵合金自体の収縮、膨張を利用して被駆動体を駆動する方式によれば、大きな駆動力を得ることが出来るが、水素吸蔵合金自体の収縮量は極めて小さいため、被駆動体を必要な距離だけ移動させることが出来ない問題があった。
【0004】
そこで本発明の目的は、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータにおいて簡易な構成で大きな駆動力と変位量を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るアクチュエータは、板状を呈してその両面間で水素の吸収特性に違いを有する水素吸蔵合金片(1)と、該水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、該水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段とを具え、該水素吸蔵合金片(1)を作動子としている。
【0006】
上記本発明のアクチュエータにおいては、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させる過程で、水素吸蔵合金片(1)は、その両面間での水素吸収特性の違いにより、水素吸蔵合金片(1)内へ吸収される水素量に両面間で違いが生じ、より多くの水素が吸収された一方の表面層では他方の表層面よりも大きな膨張が発生して、その結果、水素吸蔵合金片(1)に屈曲変形が生じる。
その後、水素吸蔵合金片(1)から水素を排出させる過程で、水素吸蔵合金片(1)は元の形状に復帰することになる。
そこで、この水素吸蔵合金片(1)の屈曲変形及び復帰の動作を往復移動として取り出すことにより、水素吸蔵合金片(1)を作動子として利用することが出来る。
【0007】
具体的構成において、水素吸蔵合金片(1)が配備されている環境(2)には、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段が接続されている。
水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段は、環境(2)内に高圧の水素を供給する水素導入手段(3)によって構成することが出来る。又、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段は、環境(2)内を加熱するための温度設定手段(4)と、環境(2)内を減圧する減圧手段(5)とから構成することが出来る。
該具体的構成によれば、簡易な設備によって、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させ、或いは水素吸蔵合金片(1)から水素を排出させることが出来る。
【0008】
又、他の具体的構成において、前記水素吸蔵合金片(1)は、その両面における酸化物層(11)の有無、若しくは酸化物層(11)の厚さの差異によって、その両面間に水素ガス吸収特性の違いを有している。
該具体的構成においては、例えばその一方の表面のみを研磨することにより、その両面における酸化物層(11)の有無、若しくは酸化物層(11)の厚さの差異を実現することが出来、これによって、容易に、水素吸蔵合金片(1)の両面における水素ガスの吸収特性に違いを与えることが出来る。
前記研磨としては、バフ研磨、又はエメリー研磨後のバフ研磨を採用することが出来る。
【0009】
更に具体的な構成において、前記水素吸蔵合金片(1)は、一方の端部を固定端、他方の端部を自由端として、水素吸蔵及び排出に伴う該自由端の変位を出力するものである。これによって、水素吸蔵合金片(1)の自由端に大きな変位を発生させることが出来る。
【0010】
そこで、水素吸蔵合金片(1)の自由端に往復移動機構を連結すれば、水素吸蔵合金片(1)の自由端の変位を一方向に沿う往復移動として取り出すことが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアクチュエータによれば、単に水素吸蔵合金片の両面間に水素吸収特性の違いを与えるだけの簡易な方法により、水素吸蔵合金片の屈曲変形を変位として出力する構成を有しているので、大きな変位量が得られるばかりでなく、大きな駆動力を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
本発明に係るアクチュエータは、図1に示す如く、環境(2)内に帯板状の水素吸蔵合金片(1)を作動子として配備したものであり、該水素吸蔵合金片(1)の両面間には、水素の吸収特性(通過容易性)に違いが与えられている。
【0013】
具体的には、水素吸蔵合金片(1)の一方の表面Sbには酸化物層(11)が形成されており、他方の表面Saは研磨によって酸化物層(11)が除去され、これによって、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saは、非研磨面Sbよりも容易に水素を通過させることが可能となっている。又、非研磨面Sbは酸化物層(11)によって水素の吸収が抑制されている。
【0014】
環境(2)には、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための水素導入手段(3)と、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための温度設定手段(4)及び減圧手段(5)が接続されている。
水素導入手段(3)から環境(2)内に高圧(例えば10気圧)の水素ガスを供給することが可能である。又、温度設定手段(4)によって環境(2)内を室温(25℃)から約900℃程度まで加熱し、その後、室温まで冷却することが可能である。更に、減圧手段(5)によって環境(2)内を真空圧まで減圧することが可能である。
【0015】
例えば図2に示す様に、水素吸蔵合金片(1)の基端部をベース(10)上に固定した状態で、ステップS1にて、環境(2)内に高圧の水素を導入すると、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saからは多量の水素が吸収される一方、水素吸蔵合金片(1)の非研磨面SBからは殆ど水素が吸収されることはない。
この結果、水素吸蔵合金片(1)の内部には、厚さ方向に水素吸蔵量の勾配が生じ、これによって、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Sa側の表面層は非研磨面Sb側の表面層よりも大きく膨張し、水素吸蔵合金片(1)は図示の如く研磨面Saを背面として屈曲変形し、水素吸蔵合金片(1)の自由端に垂直変位を生じることになる。
【0016】
その後、ステップS2にて、環境(2)内を真空加熱すると、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されていた水素が環境(2)内に放出される。この結果、水素吸蔵合金片(1)内の水素吸蔵量の勾配は消失し、これによって水素吸蔵合金片(1)は元の形状に復帰することになる。最後にステップS3では環境(2)内を室温まで冷却する。
【0017】
上述のサイクルを繰り返せば、水素吸蔵合金片(1)の自由端は垂直変位を生じた位置と復帰した位置の間で往復移動することになる。この往復移動を外部に取り出すことにより、水素吸蔵合金片(1)を作動子として利用することが出来る。
【0018】
この様に水素吸蔵合金片(1)を作動子としてアクチュエータを構成すれば、単に水素吸蔵合金片(1)の両面に水素吸収特性の違いを与えただけの簡易な構成で大きな変位量を得ることが出来る。図8〜図20は、その効果を実証するために行なった実験の内容及び結果を表わしている。
【0019】
水素吸蔵合金片(1)としては、図8に示す組成を有するNi−Ti合金を用いた。該Ni−Ti合金の素材履歴は図9に示す通りである。又、該Ni−Ti合金のマルテンサイト変態開始温度Ms、マルテンサイト変態終了温度Mf、逆変態開始温度As、逆変態終了温度Afはそれぞれ図10に示す通りである。
水素吸蔵合金片(1)は、図11の如く厚さtが1mmの試験片形状を有している。
【0020】
水素吸蔵合金片(1)に水素を導入する方法としては、図12に示す如く水素吸蔵合金片(1)と、水素吸蔵合金片(1)を包囲するPtワイヤ(35)とを、0.9質量%NaCl水溶液(36)中に浸漬し、水素吸蔵合金片(1)とPtワイヤ(35)には直流電源(37)を接続して100A/m2の電流密度で通電を行なう、所謂電解陰極水素チャージを用いた。
【0021】
水素吸蔵合金片(1)の両面に水素吸収特性の差異を与える方法としては、水素吸蔵合金片(1)の片面のみを研磨する方法を採用し、♯2000のエメリー研磨と0.3μmのアルミナ粉によるバフ研磨を用いて、図13(a)の如く、研磨状態の異なる4種類の試験片A、B、C、Dを作製した。
【0022】
これらの試験片A、B、C、Dを用いて水素導入時間に応じた垂直変位の変化を測定したところ、図13(b)に示す結果が得られた。エメリー研磨もバフ研磨も施されていない試験片Aでは、水素導入によっても垂直変位はゼロのままであるのに対し、エメリー研磨のみが施された試験片Bでは、6時間で6.65mmの垂直変位が得られた。又、バフ研磨のみが施された試験片Cでは、6時間で28.5mmの垂直変位が得られ、エメリー研磨及びバフ研磨の両方が施された試験片Dでは、6時間で25.9mmの垂直変位が得られた。
【0023】
この様に、片面にエメリー研磨のみが施された試験片によれば、その自由端にある程度の大きさの垂直変位が得られ、更にエメリー研磨後にバフ研磨が施され、若しくはバフ研磨のみが施された試験片によれば、その自由端に充分な大きさの垂直変位が得られることが分かる。これは、研磨によって試験片の片面に形成されている酸化物層が除去されて、水素の吸収特性が向上したものである。
【0024】
図14(a)(b)は、試験片A、B、C、Dの温度上昇に伴う放出水素量の変化を昇温ガスクロマトグラフ法で測定した結果を表わしている。
試験片Aにおいては、その両面に酸化物層が形成されたままであるため、水素収蔵量が少なく、その結果、放出水素量も少なくなっている。これに対し、試験片Bにおいては、エメリー研磨によって水素吸蔵量が増大したため、水素放出水素量も増大しており、更に試験片C及びDにおいては、バフ研磨によって水素吸蔵量が更に増大したため、水素放出水素量も更に増大している。
【0025】
図13(b)及び図14(b)に示す結果から、水素吸蔵合金片(1)の両面における研磨状態によって水素吸収特性に差が生じ、これによって水素吸蔵合金片(1)の厚さ方向に水素吸蔵量の勾配が与えられ、その勾配の大小に応じて水素吸蔵合金片(1)に屈曲変形が生じることが明らかである。
【0026】
図15は、試験片Cと、試験片Cとはバフ研磨後の酸化処理の有無が異なる試験片Fについて、垂直変位を測定する手順を示しており、図16は、試験片Cと試験片Fについての垂直変位の変化を表わしている。試験片Fにおいては、バフ研磨後の酸化処理によって、その両面に酸化物層が形成されることとなって、両面の水素吸収特性が同一となったため、垂直変位はゼロのままとなっている。
又、図17は、試験片Fについての温度と水素放出量の関係を表わしており、温度上昇によっても水素放出量は極めて低い値となっている。
図16及び図17の結果から、酸化物層の有無が両面の水素吸収特性を左右し、酸化物層の除去によって垂直変位が発生することが明らかである。
【0027】
図18は、両面にバフ研磨を施した後に酸化処理を施し、その後に片面のみにバフ研磨を施した試験片Gと、両面にバフ研磨を施した後に酸化処理を施し、その後に研磨を施さない試験片Hとについて、垂直変位を測定する手順を示しており、図19は、試験片Gと試験片Hについての垂直変位の変化を表わしている。
試験片Gにおいては、酸化処理後の片面バフ研磨によって、両面の水素吸収特性に差が生じたため、大きな垂直変位が発生しているのに対し、試験片Hにおいては、バフ研磨後の酸化処理により、その両面に酸化物層が形成された後、酸化処理後の片面バフ研磨が省略されたことにより、両面の水素吸収特性が同一となったため、垂直変位は極めて低い値となっている。
又、図20は、試験片Hについての温度と水素放出量の関係を表わしており、温度上昇によっても水素放出量は低い値となっている。
図19及び図20の結果からも、酸化物層の有無が両面の水素吸収特性を左右し、酸化物層の除去によって垂直変位が発生することが明らかである。
【0028】
図3は、複数の水素吸蔵合金片(1)を用いてアクチュエータを構成した例を示している。該アクチュエータにおいては、図4に示す如く、チャンバー(21)の底部に支持部材(6)を配備する一方、チャンバー(21)の天井部にシリンダー機構(7)を配備している。チャンバー(21)内においては、支持部材(6)に複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部を固定すると共に、シリンダー機構(7)には複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部を固定し、互いに対向する2つの水素吸蔵合金片(1)(1)の自由端どうしを弾性連結片(12)によって連結している。
尚、複数の水素吸蔵合金片(1)は、研磨面Saを内側に向けた姿勢に取り付けられている。
【0029】
支持部材(6)にはガス導入管(62)が貫通しており、ガス導入管(62)からチャンバー(21)内に水素ガスが導入される。
又、シリンダー機構(7)の外周面にはベローズ(71)が配備されており、シリンダー機構(7)の往復移動を許容すると共に、チャンバー(21)内を封止している。
【0030】
図3に示す如く、チャンバー(21)は機台(61)上に設置されており、支持部材(6)及び支持部材(6)をガス導入管(62)が貫通し、該ガス導入管(62)はメタルホース(34)を介して水素タンク(31)及び真空ポンプ(51)に繋がっている。
水素タンク(31)の出口にはバルブ(33)及び減圧弁(32)が接続され、真空ポンプ(51)の出口にはバルブ(52)が接続されている。
【0031】
チャンバー(21)内のガス導入管(62)の先端部には、熱電対(44)が取り付けられており、該熱電対(44)は、温度調節器(41)と接続されている。
又、チャンバー(21)の外周面を包囲して、図3に示す如く環状抵抗炉(42)と水冷銅パイプ(43)が配備され、環状抵抗炉(42)には温度調節器(41)が接続されている。
【0032】
上記アクチュエータにおいては、水素タンク(31)からチャンバー(21)内へ高圧の水素ガスを供給することによって、室温状態のチャンバー(21)内が高圧の水素ガスで満たされ、この結果、チャンバー(21)内の複数の水素吸蔵合金片(1)に水素が吸収されることになる。ここで、水素吸蔵合金片(1)には研磨面と非研磨面に水素吸収特性の差が与えられているので、各水素吸蔵合金片(1)は研磨面を背面として屈曲変形する。
【0033】
その後、熱電対(44)からの温度検出信号に基づく温度調節器(41)の制御の下で環状抵抗炉(42)によってチャンバー(21)内を加熱すると共に、真空ポンプ(51)によってチャンバー(21)内を真空圧まで減圧する。これによって水素吸蔵合金片(1)は水素を放出して、元の形状に復帰することになる。
その後、水冷銅パイプ(43)に冷却水を流すことにより、チャンバー(21)内を室温まで冷却する。
【0034】
上述の水素吸蔵合金片(1)の屈曲変形及び復帰が、シリンダー機構(7)によって往復移動に変換され、該シリンダー機構(7)によって後段の被駆動部(図示省略)が駆動されるのである。
【0035】
図5は、水素吸蔵合金片(1)を作動子とする他のアクチュエータの要部を示しており、空気孔(22)を有するチャンバー(21)内には電解質溶液(23)が満たされている。又、チャンバー(21)の底部には絶縁パッキン(84)を介して絶縁性支持部材(82)が取り付けられる一方、チャンバー(21)の天井部にはシリンダー機構(7)が取り付けられている。
【0036】
そして、チャンバー(21)内において、絶縁性支持部材(82)には複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部が固定されると共に、シリンダー機構(7)には複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部が固定され、互いに対向する2つの水素吸蔵合金片(1)(1)の自由端どうしが弾性連結片(12)によって連結されている。
【0037】
絶縁性支持部材(82)には電極部材(8)が貫通してその先端部が電解質溶液(23)中へ突出すると共に、絶縁パッキン(84)には導線(85)が貫通してその先端部が水素吸蔵合金片(1)に接続されている。そして、電極部材(8)及び導線(85)は電源回路(83)に接続されている。
【0038】
上記アクチュエータにおいては、電源回路(83)によって電解質溶液(23)中の電極部材(8)と各水素吸蔵合金片(1)の間に所定の電圧を印加する。これによって、チャンバー(21)内の複数の水素吸蔵合金片(1)に水素が吸収されることになる。ここで、水素吸蔵合金片(1)には研磨面と非研磨面に水素吸収特性の差が与えられているので、各水素吸蔵合金片(1)は研磨面を背面として屈曲変形する。
この水素吸蔵合金片(1)の屈曲変形がシリンダー機構(7)に伝えられ、該シリンダー機構(7)によって後段の被駆動部が駆動されるのである。
【0039】
図6(a)(b)は、水素吸蔵合金片(1)を作動子とする他のアクチュエータの構成を示しており、環境(2)内に基端部を固定して設置された水素吸蔵合金片(1)と、該水素吸蔵合金片(1)の自由端に対向して配備された電極片(91)とによって、ランプ(9)を点灯すべきスイッチ回路が構成されている。
環境(2)内に水素ガスを導入することによって水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させると、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saへの水素の優先的導入により、水素吸蔵合金片(1)が同図(b)の如く屈曲変形し、スイッチ回路がオンとなって、ランプ(9)が点灯することになる。
従って、該アクチュエータは、環境(2)内の水素ガスの検出に応用することが出来る。
【0040】
図7は、水素吸蔵合金片(1)を作動子とする更に他のアクチュエータの構成を示しており、水素導入口(25)と水素排出口(24)を有する水素貯蔵容器(26)の内部には、流路孔(27)を開閉する弁体となる水素吸蔵合金片(1)が取り付けられている。該水素吸蔵合金片(1)は湾曲した形状を有し、凹曲面側が研磨面Saとなっており、通常は流路孔(27)を開いている。
水素貯蔵容器(26)内に過剰な水素ガスが導入されると、水素貯蔵容器(26)の内圧が上昇し、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saへの水素の優先的導入により、水素吸蔵合金片(1)が平板形状に向かって屈曲変形し、流路孔(27)を閉じることになる。この結果、水素貯蔵容器(26)内への水素ガスの導入が停止される。
従って、該アクチュエータは、水素貯蔵容器(26)内への水素ガスの供給過剰を防止する装置として利用することが出来る。
【0041】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば水素吸蔵合金片(1)の片面を研磨する方法としては、エメリー研磨やバフ研磨に限らず、電解研磨を採用することも可能である。
又、水素吸蔵合金片(1)の両面に水素吸収特性の差異を与える方法としては、一方の表面に研磨等の処理を施して水素吸収特性を向上させる方法に限らず、他方の表面に水素吸収特性を低下させるための処理を施す方法を採用することも可能である。
更に、水素吸蔵合金片(1)の材質としては、NiTi合金に限らず、大きな変形能を有する周知の種々の水素吸蔵合金を採用することが出来る。
更に又、本発明は、水素吸蔵合金片(1)の作動子として利用するものであれば、上記以外の種々のアクチュエータに応用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るアクチュエータの構成を示す図である。
【図2】本発明に係るアクチュエータの動作を説明する図である。
【図3】本発明に係るアクチュエータの応用例を示す図である。
【図4】該応用例の要部を示す図である。
【図5】他の応用例の要部を示す図である。
【図6】他の応用例の原理を説明する図である。
【図7】更に他の応用例の原理を説明する図である。
【図8】試験片の組成を示す図表である。
【図9】試験片の素材履歴を示す図表である。
【図10】試験片の変態及び逆変態特性を示す図表である。
【図11】試験片の形状を示す平面図である。
【図12】試験片への水素導入方法を説明する図である。
【図13】試験片A〜Dの研磨状態と垂直変位の変化を示す図である。
【図14】試験片A〜Dの研磨状態と放出水素量の変化を示す図である。
【図15】試験片C及びFについての垂直変位測定手順を表わすフローチャートである。
【図16】試験片C及びFについての垂直変位の変化を表わすグラフである。
【図17】試験片Fについての水素放出量の変化を表わすグラフである。
【図18】試験片G及びHについての垂直変位測定手順を表わすフローチャートである。
【図19】試験片G及びHについての垂直変位の変化を表わすグラフである。
【図20】試験片Hについての水素放出量の変化を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0043】
(1) 水素吸蔵合金片
(2) 環境
(3) 水素導入手段
(4) 温度設定手段
(5) 減圧手段
Sa 研磨面
Sb 非研磨面
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータとして、水素吸蔵合金の加熱冷却に伴う水素の吸放出によって流体圧力を発生させ、該流体圧力によって被駆動体を駆動するもの(例えば特許文献1、2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2005−291289号公報
【特許文献2】特開平7−243409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の水素吸蔵合金を利用したアクチュエータにおいては、水素吸蔵合金の加熱冷却に伴う水素の吸放出によって発生する流体圧力は低いため、例えば蓄圧タンク等を用いて流体圧力を高める必要があり、これによって設備が大がかりとなる問題があった。
水素吸蔵合金の水素吸放出に伴う水素吸蔵合金自体の収縮、膨張を利用して被駆動体を駆動する方式によれば、大きな駆動力を得ることが出来るが、水素吸蔵合金自体の収縮量は極めて小さいため、被駆動体を必要な距離だけ移動させることが出来ない問題があった。
【0004】
そこで本発明の目的は、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータにおいて簡易な構成で大きな駆動力と変位量を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るアクチュエータは、板状を呈してその両面間で水素の吸収特性に違いを有する水素吸蔵合金片(1)と、該水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、該水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段とを具え、該水素吸蔵合金片(1)を作動子としている。
【0006】
上記本発明のアクチュエータにおいては、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させる過程で、水素吸蔵合金片(1)は、その両面間での水素吸収特性の違いにより、水素吸蔵合金片(1)内へ吸収される水素量に両面間で違いが生じ、より多くの水素が吸収された一方の表面層では他方の表層面よりも大きな膨張が発生して、その結果、水素吸蔵合金片(1)に屈曲変形が生じる。
その後、水素吸蔵合金片(1)から水素を排出させる過程で、水素吸蔵合金片(1)は元の形状に復帰することになる。
そこで、この水素吸蔵合金片(1)の屈曲変形及び復帰の動作を往復移動として取り出すことにより、水素吸蔵合金片(1)を作動子として利用することが出来る。
【0007】
具体的構成において、水素吸蔵合金片(1)が配備されている環境(2)には、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段が接続されている。
水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段は、環境(2)内に高圧の水素を供給する水素導入手段(3)によって構成することが出来る。又、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段は、環境(2)内を加熱するための温度設定手段(4)と、環境(2)内を減圧する減圧手段(5)とから構成することが出来る。
該具体的構成によれば、簡易な設備によって、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させ、或いは水素吸蔵合金片(1)から水素を排出させることが出来る。
【0008】
又、他の具体的構成において、前記水素吸蔵合金片(1)は、その両面における酸化物層(11)の有無、若しくは酸化物層(11)の厚さの差異によって、その両面間に水素ガス吸収特性の違いを有している。
該具体的構成においては、例えばその一方の表面のみを研磨することにより、その両面における酸化物層(11)の有無、若しくは酸化物層(11)の厚さの差異を実現することが出来、これによって、容易に、水素吸蔵合金片(1)の両面における水素ガスの吸収特性に違いを与えることが出来る。
前記研磨としては、バフ研磨、又はエメリー研磨後のバフ研磨を採用することが出来る。
【0009】
更に具体的な構成において、前記水素吸蔵合金片(1)は、一方の端部を固定端、他方の端部を自由端として、水素吸蔵及び排出に伴う該自由端の変位を出力するものである。これによって、水素吸蔵合金片(1)の自由端に大きな変位を発生させることが出来る。
【0010】
そこで、水素吸蔵合金片(1)の自由端に往復移動機構を連結すれば、水素吸蔵合金片(1)の自由端の変位を一方向に沿う往復移動として取り出すことが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアクチュエータによれば、単に水素吸蔵合金片の両面間に水素吸収特性の違いを与えるだけの簡易な方法により、水素吸蔵合金片の屈曲変形を変位として出力する構成を有しているので、大きな変位量が得られるばかりでなく、大きな駆動力を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
本発明に係るアクチュエータは、図1に示す如く、環境(2)内に帯板状の水素吸蔵合金片(1)を作動子として配備したものであり、該水素吸蔵合金片(1)の両面間には、水素の吸収特性(通過容易性)に違いが与えられている。
【0013】
具体的には、水素吸蔵合金片(1)の一方の表面Sbには酸化物層(11)が形成されており、他方の表面Saは研磨によって酸化物層(11)が除去され、これによって、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saは、非研磨面Sbよりも容易に水素を通過させることが可能となっている。又、非研磨面Sbは酸化物層(11)によって水素の吸収が抑制されている。
【0014】
環境(2)には、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための水素導入手段(3)と、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための温度設定手段(4)及び減圧手段(5)が接続されている。
水素導入手段(3)から環境(2)内に高圧(例えば10気圧)の水素ガスを供給することが可能である。又、温度設定手段(4)によって環境(2)内を室温(25℃)から約900℃程度まで加熱し、その後、室温まで冷却することが可能である。更に、減圧手段(5)によって環境(2)内を真空圧まで減圧することが可能である。
【0015】
例えば図2に示す様に、水素吸蔵合金片(1)の基端部をベース(10)上に固定した状態で、ステップS1にて、環境(2)内に高圧の水素を導入すると、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saからは多量の水素が吸収される一方、水素吸蔵合金片(1)の非研磨面SBからは殆ど水素が吸収されることはない。
この結果、水素吸蔵合金片(1)の内部には、厚さ方向に水素吸蔵量の勾配が生じ、これによって、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Sa側の表面層は非研磨面Sb側の表面層よりも大きく膨張し、水素吸蔵合金片(1)は図示の如く研磨面Saを背面として屈曲変形し、水素吸蔵合金片(1)の自由端に垂直変位を生じることになる。
【0016】
その後、ステップS2にて、環境(2)内を真空加熱すると、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されていた水素が環境(2)内に放出される。この結果、水素吸蔵合金片(1)内の水素吸蔵量の勾配は消失し、これによって水素吸蔵合金片(1)は元の形状に復帰することになる。最後にステップS3では環境(2)内を室温まで冷却する。
【0017】
上述のサイクルを繰り返せば、水素吸蔵合金片(1)の自由端は垂直変位を生じた位置と復帰した位置の間で往復移動することになる。この往復移動を外部に取り出すことにより、水素吸蔵合金片(1)を作動子として利用することが出来る。
【0018】
この様に水素吸蔵合金片(1)を作動子としてアクチュエータを構成すれば、単に水素吸蔵合金片(1)の両面に水素吸収特性の違いを与えただけの簡易な構成で大きな変位量を得ることが出来る。図8〜図20は、その効果を実証するために行なった実験の内容及び結果を表わしている。
【0019】
水素吸蔵合金片(1)としては、図8に示す組成を有するNi−Ti合金を用いた。該Ni−Ti合金の素材履歴は図9に示す通りである。又、該Ni−Ti合金のマルテンサイト変態開始温度Ms、マルテンサイト変態終了温度Mf、逆変態開始温度As、逆変態終了温度Afはそれぞれ図10に示す通りである。
水素吸蔵合金片(1)は、図11の如く厚さtが1mmの試験片形状を有している。
【0020】
水素吸蔵合金片(1)に水素を導入する方法としては、図12に示す如く水素吸蔵合金片(1)と、水素吸蔵合金片(1)を包囲するPtワイヤ(35)とを、0.9質量%NaCl水溶液(36)中に浸漬し、水素吸蔵合金片(1)とPtワイヤ(35)には直流電源(37)を接続して100A/m2の電流密度で通電を行なう、所謂電解陰極水素チャージを用いた。
【0021】
水素吸蔵合金片(1)の両面に水素吸収特性の差異を与える方法としては、水素吸蔵合金片(1)の片面のみを研磨する方法を採用し、♯2000のエメリー研磨と0.3μmのアルミナ粉によるバフ研磨を用いて、図13(a)の如く、研磨状態の異なる4種類の試験片A、B、C、Dを作製した。
【0022】
これらの試験片A、B、C、Dを用いて水素導入時間に応じた垂直変位の変化を測定したところ、図13(b)に示す結果が得られた。エメリー研磨もバフ研磨も施されていない試験片Aでは、水素導入によっても垂直変位はゼロのままであるのに対し、エメリー研磨のみが施された試験片Bでは、6時間で6.65mmの垂直変位が得られた。又、バフ研磨のみが施された試験片Cでは、6時間で28.5mmの垂直変位が得られ、エメリー研磨及びバフ研磨の両方が施された試験片Dでは、6時間で25.9mmの垂直変位が得られた。
【0023】
この様に、片面にエメリー研磨のみが施された試験片によれば、その自由端にある程度の大きさの垂直変位が得られ、更にエメリー研磨後にバフ研磨が施され、若しくはバフ研磨のみが施された試験片によれば、その自由端に充分な大きさの垂直変位が得られることが分かる。これは、研磨によって試験片の片面に形成されている酸化物層が除去されて、水素の吸収特性が向上したものである。
【0024】
図14(a)(b)は、試験片A、B、C、Dの温度上昇に伴う放出水素量の変化を昇温ガスクロマトグラフ法で測定した結果を表わしている。
試験片Aにおいては、その両面に酸化物層が形成されたままであるため、水素収蔵量が少なく、その結果、放出水素量も少なくなっている。これに対し、試験片Bにおいては、エメリー研磨によって水素吸蔵量が増大したため、水素放出水素量も増大しており、更に試験片C及びDにおいては、バフ研磨によって水素吸蔵量が更に増大したため、水素放出水素量も更に増大している。
【0025】
図13(b)及び図14(b)に示す結果から、水素吸蔵合金片(1)の両面における研磨状態によって水素吸収特性に差が生じ、これによって水素吸蔵合金片(1)の厚さ方向に水素吸蔵量の勾配が与えられ、その勾配の大小に応じて水素吸蔵合金片(1)に屈曲変形が生じることが明らかである。
【0026】
図15は、試験片Cと、試験片Cとはバフ研磨後の酸化処理の有無が異なる試験片Fについて、垂直変位を測定する手順を示しており、図16は、試験片Cと試験片Fについての垂直変位の変化を表わしている。試験片Fにおいては、バフ研磨後の酸化処理によって、その両面に酸化物層が形成されることとなって、両面の水素吸収特性が同一となったため、垂直変位はゼロのままとなっている。
又、図17は、試験片Fについての温度と水素放出量の関係を表わしており、温度上昇によっても水素放出量は極めて低い値となっている。
図16及び図17の結果から、酸化物層の有無が両面の水素吸収特性を左右し、酸化物層の除去によって垂直変位が発生することが明らかである。
【0027】
図18は、両面にバフ研磨を施した後に酸化処理を施し、その後に片面のみにバフ研磨を施した試験片Gと、両面にバフ研磨を施した後に酸化処理を施し、その後に研磨を施さない試験片Hとについて、垂直変位を測定する手順を示しており、図19は、試験片Gと試験片Hについての垂直変位の変化を表わしている。
試験片Gにおいては、酸化処理後の片面バフ研磨によって、両面の水素吸収特性に差が生じたため、大きな垂直変位が発生しているのに対し、試験片Hにおいては、バフ研磨後の酸化処理により、その両面に酸化物層が形成された後、酸化処理後の片面バフ研磨が省略されたことにより、両面の水素吸収特性が同一となったため、垂直変位は極めて低い値となっている。
又、図20は、試験片Hについての温度と水素放出量の関係を表わしており、温度上昇によっても水素放出量は低い値となっている。
図19及び図20の結果からも、酸化物層の有無が両面の水素吸収特性を左右し、酸化物層の除去によって垂直変位が発生することが明らかである。
【0028】
図3は、複数の水素吸蔵合金片(1)を用いてアクチュエータを構成した例を示している。該アクチュエータにおいては、図4に示す如く、チャンバー(21)の底部に支持部材(6)を配備する一方、チャンバー(21)の天井部にシリンダー機構(7)を配備している。チャンバー(21)内においては、支持部材(6)に複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部を固定すると共に、シリンダー機構(7)には複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部を固定し、互いに対向する2つの水素吸蔵合金片(1)(1)の自由端どうしを弾性連結片(12)によって連結している。
尚、複数の水素吸蔵合金片(1)は、研磨面Saを内側に向けた姿勢に取り付けられている。
【0029】
支持部材(6)にはガス導入管(62)が貫通しており、ガス導入管(62)からチャンバー(21)内に水素ガスが導入される。
又、シリンダー機構(7)の外周面にはベローズ(71)が配備されており、シリンダー機構(7)の往復移動を許容すると共に、チャンバー(21)内を封止している。
【0030】
図3に示す如く、チャンバー(21)は機台(61)上に設置されており、支持部材(6)及び支持部材(6)をガス導入管(62)が貫通し、該ガス導入管(62)はメタルホース(34)を介して水素タンク(31)及び真空ポンプ(51)に繋がっている。
水素タンク(31)の出口にはバルブ(33)及び減圧弁(32)が接続され、真空ポンプ(51)の出口にはバルブ(52)が接続されている。
【0031】
チャンバー(21)内のガス導入管(62)の先端部には、熱電対(44)が取り付けられており、該熱電対(44)は、温度調節器(41)と接続されている。
又、チャンバー(21)の外周面を包囲して、図3に示す如く環状抵抗炉(42)と水冷銅パイプ(43)が配備され、環状抵抗炉(42)には温度調節器(41)が接続されている。
【0032】
上記アクチュエータにおいては、水素タンク(31)からチャンバー(21)内へ高圧の水素ガスを供給することによって、室温状態のチャンバー(21)内が高圧の水素ガスで満たされ、この結果、チャンバー(21)内の複数の水素吸蔵合金片(1)に水素が吸収されることになる。ここで、水素吸蔵合金片(1)には研磨面と非研磨面に水素吸収特性の差が与えられているので、各水素吸蔵合金片(1)は研磨面を背面として屈曲変形する。
【0033】
その後、熱電対(44)からの温度検出信号に基づく温度調節器(41)の制御の下で環状抵抗炉(42)によってチャンバー(21)内を加熱すると共に、真空ポンプ(51)によってチャンバー(21)内を真空圧まで減圧する。これによって水素吸蔵合金片(1)は水素を放出して、元の形状に復帰することになる。
その後、水冷銅パイプ(43)に冷却水を流すことにより、チャンバー(21)内を室温まで冷却する。
【0034】
上述の水素吸蔵合金片(1)の屈曲変形及び復帰が、シリンダー機構(7)によって往復移動に変換され、該シリンダー機構(7)によって後段の被駆動部(図示省略)が駆動されるのである。
【0035】
図5は、水素吸蔵合金片(1)を作動子とする他のアクチュエータの要部を示しており、空気孔(22)を有するチャンバー(21)内には電解質溶液(23)が満たされている。又、チャンバー(21)の底部には絶縁パッキン(84)を介して絶縁性支持部材(82)が取り付けられる一方、チャンバー(21)の天井部にはシリンダー機構(7)が取り付けられている。
【0036】
そして、チャンバー(21)内において、絶縁性支持部材(82)には複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部が固定されると共に、シリンダー機構(7)には複数の水素吸蔵合金片(1)の基端部が固定され、互いに対向する2つの水素吸蔵合金片(1)(1)の自由端どうしが弾性連結片(12)によって連結されている。
【0037】
絶縁性支持部材(82)には電極部材(8)が貫通してその先端部が電解質溶液(23)中へ突出すると共に、絶縁パッキン(84)には導線(85)が貫通してその先端部が水素吸蔵合金片(1)に接続されている。そして、電極部材(8)及び導線(85)は電源回路(83)に接続されている。
【0038】
上記アクチュエータにおいては、電源回路(83)によって電解質溶液(23)中の電極部材(8)と各水素吸蔵合金片(1)の間に所定の電圧を印加する。これによって、チャンバー(21)内の複数の水素吸蔵合金片(1)に水素が吸収されることになる。ここで、水素吸蔵合金片(1)には研磨面と非研磨面に水素吸収特性の差が与えられているので、各水素吸蔵合金片(1)は研磨面を背面として屈曲変形する。
この水素吸蔵合金片(1)の屈曲変形がシリンダー機構(7)に伝えられ、該シリンダー機構(7)によって後段の被駆動部が駆動されるのである。
【0039】
図6(a)(b)は、水素吸蔵合金片(1)を作動子とする他のアクチュエータの構成を示しており、環境(2)内に基端部を固定して設置された水素吸蔵合金片(1)と、該水素吸蔵合金片(1)の自由端に対向して配備された電極片(91)とによって、ランプ(9)を点灯すべきスイッチ回路が構成されている。
環境(2)内に水素ガスを導入することによって水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させると、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saへの水素の優先的導入により、水素吸蔵合金片(1)が同図(b)の如く屈曲変形し、スイッチ回路がオンとなって、ランプ(9)が点灯することになる。
従って、該アクチュエータは、環境(2)内の水素ガスの検出に応用することが出来る。
【0040】
図7は、水素吸蔵合金片(1)を作動子とする更に他のアクチュエータの構成を示しており、水素導入口(25)と水素排出口(24)を有する水素貯蔵容器(26)の内部には、流路孔(27)を開閉する弁体となる水素吸蔵合金片(1)が取り付けられている。該水素吸蔵合金片(1)は湾曲した形状を有し、凹曲面側が研磨面Saとなっており、通常は流路孔(27)を開いている。
水素貯蔵容器(26)内に過剰な水素ガスが導入されると、水素貯蔵容器(26)の内圧が上昇し、水素吸蔵合金片(1)の研磨面Saへの水素の優先的導入により、水素吸蔵合金片(1)が平板形状に向かって屈曲変形し、流路孔(27)を閉じることになる。この結果、水素貯蔵容器(26)内への水素ガスの導入が停止される。
従って、該アクチュエータは、水素貯蔵容器(26)内への水素ガスの供給過剰を防止する装置として利用することが出来る。
【0041】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば水素吸蔵合金片(1)の片面を研磨する方法としては、エメリー研磨やバフ研磨に限らず、電解研磨を採用することも可能である。
又、水素吸蔵合金片(1)の両面に水素吸収特性の差異を与える方法としては、一方の表面に研磨等の処理を施して水素吸収特性を向上させる方法に限らず、他方の表面に水素吸収特性を低下させるための処理を施す方法を採用することも可能である。
更に、水素吸蔵合金片(1)の材質としては、NiTi合金に限らず、大きな変形能を有する周知の種々の水素吸蔵合金を採用することが出来る。
更に又、本発明は、水素吸蔵合金片(1)の作動子として利用するものであれば、上記以外の種々のアクチュエータに応用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るアクチュエータの構成を示す図である。
【図2】本発明に係るアクチュエータの動作を説明する図である。
【図3】本発明に係るアクチュエータの応用例を示す図である。
【図4】該応用例の要部を示す図である。
【図5】他の応用例の要部を示す図である。
【図6】他の応用例の原理を説明する図である。
【図7】更に他の応用例の原理を説明する図である。
【図8】試験片の組成を示す図表である。
【図9】試験片の素材履歴を示す図表である。
【図10】試験片の変態及び逆変態特性を示す図表である。
【図11】試験片の形状を示す平面図である。
【図12】試験片への水素導入方法を説明する図である。
【図13】試験片A〜Dの研磨状態と垂直変位の変化を示す図である。
【図14】試験片A〜Dの研磨状態と放出水素量の変化を示す図である。
【図15】試験片C及びFについての垂直変位測定手順を表わすフローチャートである。
【図16】試験片C及びFについての垂直変位の変化を表わすグラフである。
【図17】試験片Fについての水素放出量の変化を表わすグラフである。
【図18】試験片G及びHについての垂直変位測定手順を表わすフローチャートである。
【図19】試験片G及びHについての垂直変位の変化を表わすグラフである。
【図20】試験片Hについての水素放出量の変化を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0043】
(1) 水素吸蔵合金片
(2) 環境
(3) 水素導入手段
(4) 温度設定手段
(5) 減圧手段
Sa 研磨面
Sb 非研磨面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状を呈してその両面間で水素の吸収特性に違いを有する水素吸蔵合金片(1)と、該水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、該水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段とを具え、該水素吸蔵合金片(1)を作動子とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金片(1)の一方の表面には、他方の表面よりも水素の吸収特性を向上させるための処理が施されている請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金片(1)の一方の表面には、他方の表面よりも水素の吸収特性を低下させるための処理が施されている請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金片(1)が配備されている環境(2)には、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段が接続されている請求項1乃至請求項3の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段は、環境(2)内に高圧の水素を供給するものである請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段は、環境(2)内の電解溶液から水素吸蔵合金片(1)へ水素を導入するものである請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段は、環境(2)内を加熱するための温度設定手段(4)と、環境(2)内を減圧する減圧手段(5)とから構成されている請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記水素吸蔵合金片(1)は、その両面における酸化物層(11)の有無、若しくは酸化物層(11)の厚さの差異によって、その両面間に水素ガス吸収特性の違いを有している請求項1乃至請求項7の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記水素吸蔵合金片(1)は、その一方の表面のみに研磨が施されて、両面における酸化物層(11)の有無若しくは厚さについて差異が与えられ、これによって両面間に水素ガス吸収特性の違いを有している請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記研磨は、バフ研磨、又はエメリー研磨後のバフ研磨である請求項9に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記水素吸蔵合金片(1)は、一方の端部を固定端、他方の端部を自由端として、水素吸蔵及び排出に伴う該自由端の変位を出力するものである請求項1乃至請求項10の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記水素吸蔵合金片(1)の自由端の変位を一方向に沿う往復移動として取り出すための往復移動機構を具えている請求項11に記載のアクチュエータ。
【請求項1】
板状を呈してその両面間で水素の吸収特性に違いを有する水素吸蔵合金片(1)と、該水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、該水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段とを具え、該水素吸蔵合金片(1)を作動子とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金片(1)の一方の表面には、他方の表面よりも水素の吸収特性を向上させるための処理が施されている請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金片(1)の一方の表面には、他方の表面よりも水素の吸収特性を低下させるための処理が施されている請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金片(1)が配備されている環境(2)には、水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段と、水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段が接続されている請求項1乃至請求項3の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段は、環境(2)内に高圧の水素を供給するものである請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記水素吸蔵合金片(1)に水素を吸蔵させるための手段は、環境(2)内の電解溶液から水素吸蔵合金片(1)へ水素を導入するものである請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記水素吸蔵合金片(1)に吸蔵されている水素を排出させるための手段は、環境(2)内を加熱するための温度設定手段(4)と、環境(2)内を減圧する減圧手段(5)とから構成されている請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記水素吸蔵合金片(1)は、その両面における酸化物層(11)の有無、若しくは酸化物層(11)の厚さの差異によって、その両面間に水素ガス吸収特性の違いを有している請求項1乃至請求項7の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記水素吸蔵合金片(1)は、その一方の表面のみに研磨が施されて、両面における酸化物層(11)の有無若しくは厚さについて差異が与えられ、これによって両面間に水素ガス吸収特性の違いを有している請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記研磨は、バフ研磨、又はエメリー研磨後のバフ研磨である請求項9に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記水素吸蔵合金片(1)は、一方の端部を固定端、他方の端部を自由端として、水素吸蔵及び排出に伴う該自由端の変位を出力するものである請求項1乃至請求項10の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記水素吸蔵合金片(1)の自由端の変位を一方向に沿う往復移動として取り出すための往復移動機構を具えている請求項11に記載のアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−215366(P2008−215366A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49187(P2007−49187)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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