説明

アクチュエータ

【課題】 変形応答特性の低下を招くことなく、電解質イオンの染み出しを抑制したアクチュエータを提供する。
【解決手段】 対向し合う一対の電極層と該一対の電極層の間に配置される電解質を有する中間層を有し、前記電極層への電圧印加により、変位するアクチュエータにおいて、前記一対の電極層の外層にイオン染み出し抑制層が形成されており、かつ前記アクチュエータの電圧印加時における正極側の電極層の外層に備えられるイオン染み出し抑制層は、少なくともポリアニオンで構成され、また前記アクチュエータの電圧印加時における負極側の電極層の外層に備えられるイオン染み出し抑制層は、少なくともポリカチオンで構成されるアクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン移動型アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ポリマーを材料とするアクチュエータの開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、導電性高分子層及び該導電性高分子層と接する電解質層を備え、導電性高分子層に電圧を印加することにより屈曲するアクチェータが開示されている。
【0004】
電解質層は、液状電解質の電解質イオンを有し、電解質イオンが電圧印加に伴い電極層に移動することで、アクチュエータが変形する。
【0005】
このようなイオン移動型アクチュエータでは、駆動時や押し運動時に、電極層の表面から電解質イオンの染み出しが起こる場合がある。
【0006】
電解質イオンの染み出しは、アクチュエータ素子内の電解質イオンの減少や押される対象物への汚染・腐食を引き起こすため、実用性の観点から防止されることが望まれている。
【0007】
特許文献1には、電解質イオンがアクチュエータの駆動時や押し運動時に染み出したりしないように、ウレタン樹脂などの可撓性樹脂の被覆膜で電極層を被覆することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−350495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしウレタン樹脂を被覆膜として用いた場合、アクチュエータの駆動時や押し運動時、特には被覆膜が伸張した時には膜が薄くなるため、電解質イオンが染み出し易くなる。染み出しを更に抑制するために、被覆膜をより緻密な膜、あるいはより厚い膜にすることが考えられるが、この場合必然的に硬い膜となり、良好な変形応答特性を得ることができなかった。
【0010】
すなわち、ウレタン樹脂などの一般的な可撓性樹脂を被覆膜として利用したアクチュエータは、変形応答特性の低下の抑制と、電解質イオンの染み出し抑制の両立ができず実用性に乏しいという課題があった。
【0011】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、変形応答特性が高く、電解質イオンの染み出しを抑制できるアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するべく、本発明に係るアクチュエータは、互いに対向し合う一対の電極と、該一対の電極の間に配置され、電解質を有する中間層と、を有し、該電極間に電圧が印加されることにより変形するアクチュエータであって、該アクチュエータの外周に、ポリアニオンおよびポリカチオンの少なくとも一種からなるポリイオンを有するイオン染み出し抑制層が配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変形応答特性の低下を招くことなく、電解質イオンの染み出しを抑制することができ、結果、耐久性・実用性に優れたアクチュエータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のアクチュエータの一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明のアクチュエータの別実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明のアクチュエータにおける電圧印加前後でのイオンの移動および電解質イオンの染み出し抑制の様子を表したイメージ図である。
【図4】従来アクチュエータにおける電圧印加前後でのイオンの移動および電解質イオンの染み出しを示す模式図である。
【図5】柱状のアクチュエータにおける電圧印加前後でのイオンの移動および電解質イオンの染み出し抑制の様子を表したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
(アクチュエータの構成)
本発明に係るアクチュエータは、互いに対向し合う一対の電極と、該一対の電極の間に配置され、電解質を有する中間層と、を有し、該電極間に電圧が印加されることにより変形するアクチュエータであって、該アクチュエータの外周に、ポリアニオンおよびポリカチオンの少なくとも一種からなるポリイオンを有するイオン染み出し抑制層が配されていることを特徴とする。
【0017】
本発明のアクチュエータについて、図1を用いて説明する。図1(a)は、本発明のアクチュエータの一実施形態を示す概略図である。
【0018】
本実施形態のアクチュエータ(図1(a))は、第一の電極層10と、第二の電極層20と、前記第一の電極層10と第二の電極層20との間に中間層30を有する三層積層型アクチュエータ素子において、第一の電極層10側の外層には、第一のイオン染み出し抑制層40が、第二の電極層20側の外層には、第二のイオン染み出し抑制層50が配置されている。加えて、第一の電極層10はリード線60によって駆動電源の正極に、また第二の電極層20はリード線70によって駆動電源の負極に接続されている。またさらに、該正極側の電極層10の外層に備えられる第一のイオン染み出し抑制層40は、少なくともポリアニオンで構成され、該負極側の電極層20の外層に備えられるイオン染み出し抑制層50は、少なくともポリカチオンポリカチオンで構成されている。
【0019】
ここで、第一の電極層と第二の電極層とは、対向しており、中間層30は、電解質を含有している。なお図1は、アクチュエータを、各電極層と中間層と各イオン染み出し抑制層との積層方向(本図紙面の左右方向)に対して垂直な方向からみたときの模式図を示してある。
【0020】
駆動電源によって電極層に電圧を印加すると、第一の電極層と第二の電極層との間に電圧が印加される。中間層は、電解質を含有しているので、この電圧印加によって、該電解質中のカチオン種またはアニオン種が負極または正極側の電極層に移動し、結果としてアクチュエータの長尺の端(変位端)が正極側あるいは負極側のいずれかの方向に屈曲変形する。
【0021】
上述したように、アクチュエータの変形駆動時や押し運動駆動時には、電極層に移動した各電解質イオンが電極層の表面から染み出してくる場合がある。電極層表層に染み出す電解質イオンは、正極側の電極層20ではアニオン種、一方、負極側の電極層30ではカチオン種である。
【0022】
本発明におけるアクチュエータでは、ポリイオンを有するイオン染み出し抑制層(40および50)がアクチュエータの外周に配置されている。本形態では、電極層の外層として備えられている。そして、正極側の電極層10の外層に備えられる第一のイオン染み出し抑制層40は、少なくともポリアニオンで構成され、負極側の電極層20の外層に備えられるイオン染み出し抑制層50は、少なくともポリカチオンで構成されている。
【0023】
ポリイオンは、高分子鎖中に多数のイオン部位とそのカウンターイオンとして多数のイオンを有している高分子材料のことを言う。
【0024】
またポリアニオンは、高分子鎖中に負に帯電した多数のイオン部位とそのカウンターイオンとして正に帯電した多数のイオンを有している高分子材料のことを言う。
【0025】
同様にポリカチオンとは、該高分子鎖中に正に帯電した多数のイオン部位とそのカウンターイオンとして負に帯電した多数のイオンを有している高分子材料のことを言う。
【0026】
本発明のイオン染み出し抑制層は、ポリアニオンおよびポリカチオンの少なくとも一種からなるポリイオンを有している。
【0027】
アクチュエータ動作にかかわる対向電極(10、20)および中間層30に存在するイオンが、アクチュエータ外に染み出してしまうことを抑制するため、上記のポリイオンからなるイオン染み出し抑制層が、該アクチュエータの外周に配されている。イオン染み出しを抑制することができれば、どのような配置でも構わないが、図1のようにポリイオン薄膜として外周を全て覆うように配置すると良い。
【0028】
本発明のアクチュエータにおいては、正極側の電極層10に移動してくるアニオン種は、ポリアニオンから少なくとも形成された、第一のイオン染み出し抑制層40との静電反発作用により、電気的に遮蔽され、正極側の電極層10内に留められる。結果として染み出しが電気的に抑制される(ポリアニオンが“アニオン透過抑制膜”として機能する)。また同様に、負極側の電極層20に移動してくるカチオン種は、ポリカチオンから少なくとも形成された、第二のイオン染み出し抑制層50との静電反発作用により、電気的に遮蔽され、負極側の電極層20内に留められる。結果として染み出しが電気的に抑制される(ポリカチオンが“カチオン透過抑制膜”として機能する)。
【0029】
なお、ポリアニオンから少なくとも形成された、第一のイオン染み出し抑制層40やポリカチオンから少なくとも形成された、第二のイオン染み出し抑制層50はそれぞれ、カウンターイオンとしてカチオン種およびアニオン種を有している。これらのカウンターイオンのカチオン種およびアニオン種は、電圧印加に伴い、それぞれ、負極側の電極層20と正極側の電極層10に移動する。
【0030】
つまり、本発明ではポリイオンを有するイオン染み出し抑制層が、電解質イオンの外周への染み出しを静電的反発作用により電気的に抑制することができるため、緻密な膜、あるいは厚い膜にせずとも十分に電極層からの電解質イオンの染み出しを抑制することが可能となっている。
【0031】
結果、従来型のウレタン樹脂被覆膜に比べて、変形応答特性の低下を招くことなく、電解質イオンの染み出しを抑制できる、アクチュエータが得られる。
【0032】
またさらに、一対の電極層の外層に備えられるイオン染み出し抑制層が、少なくともポリカチオンからなる膜とポリアニオンからなる膜の積層構成で形成される場合(図2のアクチュエータ(a)から(d))には、直流駆動のみならず、交流駆動時にも、変位の抑制を招くことがなく電解質イオンの染み出し抑制を行うことが可能なアクチュエータが得られる。
【0033】
つまり、図1に示すアクチュエータの構成では、駆動電源の極性を反転(電極層10に駆動電源の負極、電極層20に駆動電源の正極を接続)させた場合には、電極層10にはカチオン種が、電極層20にはアニオン種が電圧印加に伴って移動してくる。しかし、イオン染み出し抑制層が、少なくともポリカチオンとポリアニオンからなる膜の積層構成で形成される場合(図2のアクチュエータ)には、カチオン、アニオンのいずれのイオン種も静電反発作用により、電気的に遮蔽され、効果的に各電極層内に留めることが可能となる。結果、交流駆動時にも、変位の抑制を招くことがなく電解質イオンの染み出し抑制を行うことが可能なアクチュエータが得られる。加えて、このような構成では、アクチュエータの駆動方向(屈曲方向)も一方向に限定されない。
【0034】
なお、図2(a)から(d)に示す各積層構成は、いずれも変位の抑制を招くことがなくイオンの染み出し抑制を行うことが可能なアクチュエータとなる。ちなみに、作製性の観点からは、イオン染み出し抑制層の積層構成が正極・負極ともに同様で形成される、図2の(c)および(d)のアクチュエータが好ましい場合がある。
【0035】
図2(a)のアクチュエータは、第一の電極層10の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層40と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層51を順次積層し、また、第二の電極層20の外層に少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層50と少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層41を順次積層したものである。
【0036】
図2(b)のアクチュエータは、第一の電極層10の外層に少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層52と少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層43を順次積層し、また、第二の電極層20の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層42と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層53を順次積層したものである。
【0037】
図2(c)のアクチュエータは、第一の電極層10および第二の電極層20の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層44と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層54を順次積層したものである。
【0038】
図2(d)のアクチュエータは、第一の電極層10および第二の電極層20の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層45と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層55を順次積層したものである。
【0039】
なお、図2(a)および(b)のアクチュエータならびに、図2(c)および(d)のアクチュエータはイオン染み出し抑制層の積層順が逆転するものであり、求めるアクチュエータ特性により適宜使い分けることができる。
【0040】
また、アクチュエータの駆動性能を損なうことのないものであれば、イオン染み出し抑制層の表層にさらなる被覆層を配置してもよい。
【0041】
本発明のイオン染み出し抑制層は、図5のような伸縮駆動構成のアクチュエータにも、適応可能である。
【0042】
図5(a)は、本発明の実施形態に係る、柱状構造のイオン移動型アクチュエータの概略斜視図を示している。
【0043】
本発明に係るアクチュエータは、第一電極層としてのチューブ状部材3と、該チューブ状部材3に内包されている中間層(電解質を有する)1と、該チューブ状部材に内包されている棒形状の第二電極層2を有する柱状のイオン移動型アクチュエータである。そして、該アクチュエータは、例えば、該正極側が電極層2である場合には、その外層に備えられる第一のイオン染み出し抑制層7は、少なくともポリアニオン高分子材料で構成され、該負極側の電極層3の外層に備えられるイオン染み出し抑制層6は、少なくともポリカチオン高分子材料で構成されている。
【0044】
図5(b)および(c)は、図5(a)のA−B切断面における該柱状アクチュエータの断面図を示すものである。
【0045】
図1(b)に示されるように、中間層(電解質を有する)1は、チューブ状部材の内壁と第二電極層との間に介在しており、陽イオン8と陰イオン9を含むポリマーゲルを有している。
【0046】
チューブ状部材3は、第二電極層2を内包している。ここで、チューブ状部材3と第二電極層2との間に電圧を印加すると、図5(c)に示すようにポリマーゲルに含まれる陽イオン8及び陰イオン9の一方のイオンが複数本の第二電極2側へ移動し、他方のイオンがチューブ状部材4の内壁側へ移動する。これにより、イオン移動型アクチュエータがチューブ状部材の伸長方向(矢印の方向)に伸長する。
【0047】
第二電極層は、膨張や収縮を可能とする、伸縮性の電極(伸縮電極)で構成されている。第一電極層3および第二電極層2は、リード線4を介して電源5にそれぞれ接続するように構成されている。電源5による電圧印加に伴い中間層中の電解質のイオンが電極部に移動することによって、イオンが蓄積して電極部の体積が膨張する。また、膨張後に、電圧印加を停止することによって、イオンが電極の内部から放出され電極の体積が収縮する(初めの状態に戻る)。
【0048】
なお、第二電極層2が、線状形状で複数配置されている場合には、伸縮する領域がアクチュエータ内において分散される。これにより、中心軸に一本のみの伸縮電極層2を配置するよりも、アクチュエータ全体として安定した力が発生する。そして、複数本且つ線形状の第二電極層2において、それぞれが周囲の電解質からイオンの取り込みが同時に行われる。すなわち、各々が迅速に周囲のイオンを取り込み、各々の線形状の第二電極層2が膨張することで合算された大きな発生力を生じる。
【0049】
以下、本発明のアクチュエータの各構成について、具体的に説明する。
【0050】
(電極層について)
本発明における対向する電極、すなわち第一の電極層および第二の電極層は、特に限定されるものでは無く、従来、有機ポリマーを材料とするアクチュエータ(ソフトアクチュエータ)の電極層として公知の柔軟性を有する電極層を適宜用いることが可能である。具体的には、導電性ポリマーや、CNTの如き導電材料を押し固めたものや、CNTの如き導電材料とポリマーとから少なくとも構成される柔軟電極層が挙げられる。
【0051】
また、電極層は、キャスト法などで形成された、導電材と電解質とポリマーを含有するフィルム状の膜で構成するとよい。
【0052】
例えば、電極層としては、カーボンナノチューブとイオン液体から形成されるゲル電極層、さらにそれらにバインダーポリマーを含有した柔軟電極層であっても良い。また、カーボンナノチューブと各種高分子電解質から形成された膜であっても良いし、特許文献1のように導電性高分子から少なくとも形成される膜であってももちろん良い。
【0053】
なお、電極層の形状は正方形や楕円等の形状のものを用いることが出来るが、長尺形状である場合、前記一方の端部から他方の端部への方向が長い長尺状である方が、アクチュエータの屈曲変形時に大きな変位量が得られるために好ましい。また、第一および第二の電極層は、同じ構成であっても、あるいは異なる材質、形状で構成された電極層同士であってもよい。
【0054】
電極層の導電材料としては、例えば、カーボン系導電性物質を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。カーボン系導電性物質には、通常、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、活性炭素繊維の他、ナノカーボン材料(カーボンウイスカー(気相成長炭素)、(ナノ)炭素繊維、炭素ナノ粒子、グラフェン、やカーボンナノチューブの他、導電性ポリマーを用いることもできる。これらの中で、導電性及び比表面積の観点より、ナノカーボン材料が好ましく、特に好ましくは、CNTである。
【0055】
ナノカーボン材料の一つである、CNTとは、グラフェンが円筒状に丸まって構成されたものであり、その円筒径が1から10nmのものである。本発明のアクチュエータに用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWCNT)と多層ナノチューブ(MWCNT)とに大別され、様々のものが知られている。本発明のアクチュエータにおいては、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。
【0056】
本発明のアクチュエータで用いられるナノカーボン材料の一つである、炭素ナノ粒子とは、カーボンナノチューブ以外の、カーボンナノホーン、アモルファス状炭素、フラーレンの如き炭素を主成分とするナノスケール(10−6から10−9m)の粒子を言う。またカーボンナノホーンとは、グラファイトシートを円錐状に丸めた形状を持ち、先端が円錐状に閉じている炭素ナノ粒子をいう。
【0057】
本発明のアクチュエータで用いられるナノカーボン材料の一つである、ナノ炭素繊維とは、グラファイトのシートが円筒状に丸まって構成されたものであり、その円筒径が10から1000nmのものであり、カーボンナノファイバとも呼ばれる。カーボンナノファイバとは、繊維の太さが75nm以上で中空構造を有し、分岐構造の多い炭素系繊維である。市販品では、昭和電工(株)のVGCF、VGNFが挙げられる。
【0058】
本発明のアクチュエータで用いられるナノカーボン材料の一つである、グラフェンとは黒鉛構造の一部であって、平面構造を有する炭素六員環が二次元的に配列した炭素原子の集合体のこと、つまり1枚の炭素の層からなるもののことである。
【0059】
本発明のアクチュエータの電極層における前記導電材料の添加量は電極層の重量に対して1重量%以上が好ましい。電極層の重量に対して1重量%以上であることにより、アクチュエータの電極層として機能しうる電気伝導性を付与することができるため好ましい。含有量が1重量%未満だと、電極層の導電性が十分に得られない場合があり、好ましくない。
【0060】
電極層を構成する上記ポリマーは、上記アクチュエータの変形に伴って変形可能な柔軟性を有するものであれば特に限定されるものではないが、加水分解性が少なく、大気中で安定であることが好ましい。かかるポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンの如きポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン;ポリイミド;ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2、6−ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィドの如きポリアリーレン類(芳香族系ポリマー);ポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)に、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、または、ピリジニウム基を導入したもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンの如き含フッ素系のポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、または、ピリジニウム基を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルの如きポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレートを挙げることができる。なおこれらは単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよく、また官能基化してもよいし、他のポリマーとの共重合体としてもよい。
【0061】
また、ポリマーとしては、材料の化学安定性の観点から、フッ素樹脂系材料、例えばポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが好ましい。また、ポリマーは、中間層と相溶性の高いポリマーであることも好ましい。これにより、中間層との相溶性および接合性がより高いため、より強固に積層接合された電極層を構成することが可能となる。このためには、ポリマーは、中間層を構成するポリアニオンと、同種、類似または同一のポリマー構造を有するポリマー、または、同種、類似または同一の官能基を有するポリマーであっても良い。
【0062】
上述したように、本発明のアクチュエータにおける電極層は、ポリマーと、その中に分散されている上記導電材料とを含んでいることにより導電性が付与される。電極層の電気抵抗値は、1000Ω・cm以下、好ましくは100Ω・cm以下である。また、ヤング率は0.1から600MPaが好ましい。この範囲にあると、アクチュエータの応用においては、電極層の柔軟性・伸縮性が向上し、耐塑性変形が向上するため、繰り返し耐久性が高いイオン移動型アクチュエータの作製が可能となる。
【0063】
また、電極層は、アクチュエータの機能に好ましくない影響を与えるものでない限り、ポリマーおよび上記導電材料の他の成分、例えば本発明における弱酸性物質を含有していてもよい。また、含有させるポリマーおよび上記導電材料の他の成分の量は、10重量%以上60重量%以下であることが特に好ましい。例えば、ポリマー量に対して導電材料の割合が高ければ高いほうが導電性の観点から好ましいが、ポリマー量が1重量%未満である場合には、電極層に自立性がなく機械的に脆い場合があり、また80重量%を超える場合には含有させる上記導電性物質が相対的に少なくなってしまうために、電極層として作用するに十分な導電性が不足してしまうことが多く、アクチュエータの応答速度、変形応答特性など面から実用的な使用が困難となってしまう場合がある。
【0064】
電極層の厚みは、上記アクチュエータの変形を阻害しない限り特に限定されるものではないが、1μm以上5mm以下、好ましくは5μm以上2mm以下、さらに好ましくは10μm以上500μm以下である。各電極層の厚みが、1μm未満であれば、アクチュエータの電極層として電気電導性の点で問題となる場合があるので好ましくない。また、電極層の厚みが、5mmより大きくなれば、電極層が導電材料を含むことにより固くなりもろく割れやすくなる場合があるため好ましくない。なお、負極側の電極層と正極側の電極層層の厚みや材料は同じである必要はなく、所望するアクチュエータ特性に合わせて適宜選択することが出来る。
【0065】
(中間層について)
本発明における電解質層は、電解質を含む柔軟材料であり、多くは電解質を含むポリマーであれば特に限定されない。言うまでもないことであるが、電解質物質や電解質溶液を含有した擬似固体電解質・ゲル電解質層から形成されていても良い。またさらに、ナフィオン(DuPont社製)およびフレミオン(旭硝子社製)のなどの固体電解質膜であってもよい。これらは単独であっても複合して用いてももちろん良い。
【0066】
また形状は任意のものを用いることが出来るが、長尺状であれば、アクチュエータの駆動変形時に大きな変位量が得られるために好ましい。
【0067】
上記ポリマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系ポリマー;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルなどのポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;熱可塑性のポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート等を挙げることができる。なおこれらは単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよく、また官能基化してもよいし、他のポリマーとの共重合体としてもよい。
【0068】
上記ポリマーは、電解質を含んでいる必要がある。これにより、電圧を印加により、イオン移動型のアクチュエータが可能となる。
【0069】
上記電解質としては、例えば、フッ化リチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸銅、酢酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を挙げることができる。また、イオン液体であってもよい。なお、イオン液体を利用する場合には上記ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロスルホン酸(Nafion、ナフィオン)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが特に好適に使用できる。
【0070】
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいて用いられるイオン液体とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、上記イオン液体はイオン伝導性が高いものが好ましい。なお、一般的な有機溶媒系や水溶媒系の液状電解質に比べて、イオン液体は電解質として難燃性、低揮発性、熱的安定性さらには電気化学的安定性に優れる傾向がある。
【0071】
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいては、各種公知のイオン液体を使用することができ、特に限定されるものではないが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいて用いられる好適なイオン液体としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩などが挙げられる。なお、上記イオン液体は、2以上のイオン液体を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
上記イオン液体としては、より具体的には、下記の一般式(1)から(4)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン)と、アニオン(X)より成るものを例示することができる。
【0073】
【化1】

【0074】
上記の式(1)から(4)において、Rは炭素数1から12のアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3から12のアルキル基を示す。式(1)においてR1は炭素数1から4のアルキル基または水素原子を示す。式(1)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(3)および(4)において、xはそれぞれ1から4の整数である。
【0075】
アニオン(X)としては、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸アニオン、過塩素酸アニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ジシアンアミドアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、有機カルボン酸アニオンおよびハロゲンイオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0076】
上記電解質層の厚みは、10μm以上500μm以下であることが好ましく、更には10μm以上400μm以下であることが好ましい。膜厚が500μmより大きいと膜の弾性率が大きくなりアクチュエータの変形運動を抑制する場合がある。また10μm未満だと保持できるイオン性物質量が少なく電極層への供給量が少なくなるため、屈曲運動が十分に得られない場合がある。
【0077】
(イオン染み出し抑制層について)
本発明のアクチュエータにおいて、イオン染み出し抑制層は、ポリアニオンおよびポリカチオンの少なくともいずれか一方からなるポリイオンを有している。
【0078】
本発明におけるイオン染み出し抑制層は、特に変形時のイオン染み出しを抑制できる構成であればどのような形態でも良いが、均一な膜として構成されていることが好ましく、さらには変形時のイオン染み出しを抑制できる程度の膜厚を有するとよい。
【0079】
上述したようにポリアニオンは、該高分子鎖中に負に帯電した多数のイオン部位とそのカウンターイオンとして正に帯電した多数のイオンを有している。
【0080】
ポリアニオンのアニオン骨格部位としては、特に限定されないが、合成の容易さの観点からは、トリフルオロメタンスルホニルイミド酸アニオン誘導体、シアンアミドアニオン誘導体、有機カルボン酸アニオン、有機燐酸アニオン、有機スルホン酸アニオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、特に、分子鎖中にエーテル結合部位を分子内に有している場合には、より柔軟性に富んだポリイオン高分子材料が得られる場合があるため好適である場合が多い。なお、このエーテル結合の数は該高分子繰り返しユニット当たり、1以上100以下であることが好ましい。エーテル結合が無い場合には剛直で変形応答特性の良好なアクチュエータとしての適した中間層が得られない場合がある。また100以上では逆に柔らかすぎて該中間層として利用しにくい場合がある。
【0081】
ポリアニオンのカウンターイオンであるカチオン種としては、従来公知の無機イオンや有機イオンであってもよいが、中間層に配置されている電解質イオンの構造と同様であることが好ましい。カウンターイオンの構造を同骨格にすることで、中間層に別構造のイオン種の混入が抑制されるため、結果として、アクチュエータの駆動を安定して行うことが可能となる。
【0082】
なお、上述したように、中間層における電解質としては、様々分子設計上の自由度が大きく、また体積が大きくかつ解離度も大きなカチオン種(例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、四級アンモニウムカチオン、四級ホスホニウムカチオンなど)が好適である。結果、カウンターイオンとしても有機カチオン種であることが好ましい。
【0083】
ポリアニオンの具体例としては、従来公知のカチオン交換膜をそのままあるいは適宜修飾ならびにカウンターイオン交換して用いることも可能であるし、また例えば、イミダゾリウムカチオンをカウンターイオンに持つのものとしては、1、3−ジメチルイミダゾール、1、2、3−トリメチルイミダゾール、1、3−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−エチル−3−メチルイミダゾール、1、2−ジメチル−3−エチルイミダゾール、1、3−ジメチル−2−ウンデシルイミダール、1、3−ジエチルイミダゾール、2−ジメチル−3−プロピルイミダゾール、1、2、3−トリエチルイミダゾール、1、3−ジエチル−2−メチルイミダゾール、1、3−ジエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、1−ビニル−3−メチルイミダゾール、1−ビニル−3−エチルイミダゾール、1−ビニル−2、3−ジメチルイミダゾール、4(5)−ビニルイミダゾール及び1、3−ジメチル−4(5)−ビニルイミダゾールなどのイミダゾール化合物のカチオン種を有する、アクリル酸塩、ビニルスルホン酸塩、スチレンスルホン酸塩、ビニルリン酸塩と、エーテル結合部位を有する架橋剤、例えばエチレングリコールジアクリレート、ジ(エチレングリコール)ジアクリレート、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、N、N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどとの共重合体でも良いし、下図に例示した分子内にエーテル結合を有する高分子電解質の如きもの(化2)であっても良く、さらにはその共重合体の如きものであってももちろん良い。
【0084】
【化2】

【0085】
以上、ポリアニオンの具体例の一例として、イミダゾリウムカチオンをカウンターイオンに持つものに関して例示したが、特にこれらに限定されるものではなく、本発明に該当する公知のポリアニオンを適宜単独および複合化して用いることが可能である。また、その他のポリマーや無機化合物と複合化して用いてもよく、アクチュエータの所望する性能によって最適なものを適宜用いることが出来る。
【0086】
一方、ポリカチオンは、高分子鎖中に正に帯電した多数のイオン部位とそのカウンターイオンとして負に帯電した多数のイオンを有している。
【0087】
ポリアニオンのカチオン骨格部位としては、特に限定されないが、合成の容易さの観点からは、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどの有機カチオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、特に、分子鎖中にエーテル結合部位を分子内に有している場合には、より柔軟性に富んだポリイオン高分子材料が得られる場合があるため好適である場合が多い。なお、このエーテル結合の数は該高分子繰り返しユニット当たり、1以上100以下であることが好ましい。エーテル結合が無い場合には剛直で変形応答特性の良好なアクチュエータとしての適した中間層が得られない場合がある。また100以上では逆に柔らかすぎて該中間層として利用しにくい場合がある。
【0088】
ポリカチオンのカウンターイオンであるアニオン種としては、従来公知の無機イオンや有機イオンであってもよいが、中間層に配置されている電解質イオンの構造と同様であることが好ましい。カウンターイオンの構造を同骨格にすることで、中間層に別構造のイオン種の混入が抑制されるため、結果として、アクチュエータの駆動を安定して行うことが可能となる。
【0089】
ポリカチオンの具体例としては、例えば、従来公知のアニオン交換膜をそのままあるいはカウンターイオン交換して用いることも可能であるし、適宜修飾してもよい。また例えば、アニオン交換基含有モノマーの重合体、アニオン交換基含有モノマーと炭化水素系モノマーとの共重合体なども挙げられる。ここで、アニオン交換基含有モノマーとしては、例えば、1〜3級アミノ基、第4級アンモニウム基などを含有するモノマーなどが挙げられる。具体的には、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−ビニル−2、4−ジメチルイミダゾール、N−ビニル−2−エチルイミダゾール、N−ビニル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ビニルイミダゾール、1−メチル−2−ビニルイミダゾール等のビニルイミダゾール類;4−ビニルピリジン等のビニルピリジン類などの複素環系モノマー等が挙げられる。また、3級アミノ基含有重合体を、塩化メチル、沃化メチル、ジブロモヘキサン、硫酸ジメチルなどにより第4級アンモニウム塩に変換してもよい。加えて学術論文Journal of Macromolecular Science part C: Polymer Reviews、 49; 339−360、 2009年に記載されている、ポリイオン高分子材料、例えば、Poly[p−vinylbenzyltrimethylammonium tetrafluoroborate]、(poly[VBTMAm+][BF4−])や、Poly[2−(methacryloyloxy)ethyltrimethylammonium tetrafluoroborate]、(poly[MAcTMAm+][BF4−])や、 Poly[1−(p−vinylbenzyl)−3−butylimidazolium tetrafluoroborate]、(poly[VBBi+][BF4−]などももちろん用いることが可能である。
【0090】
また言うまでもないことであるが、上記イオン染み出し抑制層には、アクチュエータの機能に好ましくない影響を与えるものでない限り、有機材料ならびに無機材料を適宜複合化して用いることができる。
【0091】
本発明におけるイオン染み出し抑制層の厚みは、1μm以上1000μm以下、更には5μm以上400μm以下であることが好ましい。膜厚が500μmより大きいと膜の弾性率が大きくなりアクチュエータの変形運動を抑制する場合がある。また10μm未満ではポリイオン性物質量が少なく、アクチュエータの駆動中あるいは押し運動駆動中に電極層から染み出してくる電解質イオンの電気的遮蔽効果(静電反発作用)が少なくなるため、屈曲運動が十分に得られない場合がある。
【0092】
また本発明におけるイオン染み出し抑制層は、そのヤング率が、0.1から600MPaであることが好ましい。なお、ポリマー材料のヤング率は、その分子構造、骨格、高次構造、モルフォロジー状態に大きく起因するため、用いるポリイオン高分子材料によってその数値には、必然的に大きな開きが出てくる。しかしながら、この範囲にあると、アクチュエータ応用においては、イオン染み出し抑制層の柔軟性が良好で、耐塑性変形が良好なため、より繰り返し耐久性が高いイオン移動型アクチュエータの作製が可能となる。
【0093】
上述したように、ポリアニオンのカウンターイオンであるカチオン種としては、従来公知の無機イオンや有機イオンであってもよいが、中間層に配置されている電解質イオンの構造と同様であることが好ましい。つまり、ポリアニオンから少なくとも形成された、第一のイオン染み出し抑制層やポリカチオンから少なくとも形成された、第二のイオン染み出し抑制層はそれぞれ、カウンターイオンとしてカチオン種およびアニオン種を有している。これらのカウンターイオンのカチオン種およびアニオン種は、電圧印加に伴い、それぞれ、負極側の電極層と正極側の電極層に移動する。この時、ポリイオン高分子材料におけるカウンターイオン(カチオンやアニオン)の構造が、中間層の電解質イオンのカチオンやアニオン構造と同じであれば、アクチュエータ駆動中での電解質イオンのカチオンやアニオンとの組み換えが誘起されたとしても、結果として中間層における電解質イオンの構造は一定に保たれる。言い換えると、カウンターイオンの構造を同骨格にすることで、中間層に別構造のイオン種の混入が抑制されるため、結果として、アクチュエータの駆動を安定して行うことが可能となる。
【0094】
以上、本発明のアクチュエータについて、積層方向に対して垂直な断面が長方形の場合を例に説明したが、矩形平板状の構成の他、円形、三角形、楕円形の如き各種構成を任意に選択可能である。また、各イオン染み出し抑制層は電極層の場合と同様に、同じ形状であっても、互いに異なる形状でもよい。
【0095】
(アクチュエータの駆動と電解質イオンの染み出しおよびイオン染み出し抑制層による染み出し抑制メカニズム)
本発明の実施形態に係るアクチュエータの変形時の駆動原理は明確にはなっていないが、一対の電極層に電圧を印加することにより、電解質中のイオンが移動して変形すると推測される。よって、アクチュエータの駆動原理ならびに電解質イオンの電極層表面からの染み出しを、互いに対向し合う一対の電極層と該一対の電極層の間に配置される電解質を有する中間層で形成される変位部位を有するアクチュエータを例として、従来のアクチュエータとの違いを、図3および図4を用いて説明する。
【0096】
まず、図4では、従来アクチュエータにおける電圧印加前後でのイオンの移動および電解質イオンの染み出しを模式的に示している。
【0097】
図4(a)では、アクチュエータは駆動電源の負極につなげられる電極層100と駆動電源の正極につなげられる電極層300と、中間層200で形成されている。この電極層100と電極層300間に電位差がかかると、図4(b)に示すように、電解質800のカチオン700とアニオン600は、カソードの電極層100にカチオン700が移動、浸透し、アノードの電極層200にはアニオン600が移動、浸透する。そして各電極層内の導電材料とイオン性物質相の界面に電気二重層が形成される。
【0098】
大気中駆動の観点から蒸気圧のないイオン液体が本発明の実施形態に係るアクチュエータの電解質として好ましく用いられるが、イオン液体は、カチオン700のイオン半径がアニオン600より大きい。その結果、電極層内に存在するイオンの立体効果が、電気二重層に伴う静電反発などと共同的に働くことにより、電極層100が電極層200に比べ、より膨張し、カソードがアノードに比べより伸びる方向へアクチュエータが屈曲すると考えられる。ここで、電圧印加によって各電極層に移動したイオンは、アクチュエータ駆動時や押し運動時において、電極層100および電極層200の表面からそれぞれ、カチオンとアニオンが染み出す(図中ブロック矢印)。
【0099】
なお、通常、電位の極性を反転させると膜は反対方向に屈曲変形する。また、変位の方向は電極層や電解質層の構成により変化する。
【0100】
一方、図3には、イオン染み出し抑制層を有する本発明のアクチュエータにおける電圧印加前後でのイオンの移動および電解質イオンの染み出し抑制の様子を模式的に示している。
【0101】
図3(a)では、アクチュエータは駆動電源の負極につなげられる電極層100と駆動電源の正極につなげられる電極層300と、中間層200で形成されており、電極層100と電極層300の外層にはそれぞれ少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層900および、少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層901が配置されている。
【0102】
この電極層100と電極層300間に電位差がかかると、図3(b)に示すように、図4(b)と同様に、電解質800のカチオン700とアニオン600は、カソードの電極層100にカチオン700が移動、浸透し、アノードの電極層200にはアニオン600が移動、浸透する。しかしながら、本アクチュエータの各イオン染み出し抑制層900ならびに901は電気的に移動する各イオンを静電反発的に遮蔽するため、アクチュエータの変形駆動時ならびに押し運動時においても、結果電解質イオンの染み出しは抑制される。
【0103】
なお、ポリアニオンから少なくとも形成された、イオン染み出し抑制層901やポリカチオンから少なくとも形成された、イオン染み出し抑制層900はそれぞれ、カウンターイオンとしてカチオン種およびアニオン種を有している。これらのカウンターイオンのカチオン種およびアニオン種は、電圧印加に伴い、それぞれ、負極側の電極層100と正極側の電極層300に移動する。
【0104】
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおける印加電圧は、電解質の耐電圧内で設定でき、例えば、イオン液体を電解質として利用した場合には、4V以下であることが好ましい。
【0105】
(アクチュエータの作製)
<電極層の作製方法>
本発明に係る電極層の作製方法は、上記伸縮性の電極層を作製することができる方法であればどのような方法であってもよいが、例えば、次のようにして作製することが出来る。
【0106】
CNTとポリマーからなる電極層:
まず直径約1nm、長さ1μmのSWCNT(50mg、導電材料、Unidym社製「HiPco」)とBMIBF(80mg)と、ジメチルフォルムアミド(dimethyfolmamide、DMF)1mLとをボールミル処理を30分間行い、DMF2mLに溶解させたPVDF−HFP 80mgを添加後さらに30分間ボールミル処理することでCNTが分散した黒色のペーストを得る。この黒色ペーストをテフロン(登録商標)型の上にキャスト続いて乾燥し、所定のサイズ(例えば、幅1mm×長さ50mmならびに幅1mm×長さ25mm)に切り出すことで該電極層が作製できる。なお、膜の電気伝導度は概ね13 S/cm程度の値である。
【0107】
<中間層の作製方法>
本発明に係る中間層の作製方法は、上記中間層を作製することができる方法であればどのような方法であってもよいが、例えば、下記のようにして作製することが出来る。
【0108】
イオン液体とポリマーからなる中間層:
ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、PVDF−HFP(100mg、ポリマー)を、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)/アセトニトリル(5/1)および1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、BMIBF(100mg、イオン液体)と80℃で加熱混合した後キャストし、続いて乾燥する。その後、所定のサイズ(例えば、幅1mm×長さ25mm)に切り出すことで該電解質層が作製できる。
【0109】
<イオン染み出し抑制層の作製方法>
本発明のイオン染み出し抑制層の作製方法は、上記イオン染み出し抑制層を作製することができる方法であればどのような方法であってもよいが、例えばポリアニオンの例で示すと下記のようにして作製することが出来る。
【0110】
(ポリアニオン90の合成)
まずトリフルオロメタンスルホン酸無水物(関東化学社製、4.33mmol)と4、7、10−トリオキサ−1、13−トリデカンジアミン(Aldrich社製、9.09mmol)を脱水クロロホルム(関東化学社製、40mL)中で氷冷下、30分間攪拌した後、得られた混合液を室温に戻し、さらに20時間攪拌する。その後、エバポレータで溶媒を除去し、さらにジエチルエーテル(キシダ化学社製、50mL)で3回洗浄、乾燥を繰り返すことでオイル状の化合物、N−(3−{2−[2−(3−アミノプロポキシ)−エトキシ]−エトキシ}−プロピル)−C、C、C−トリフルオロメタンスルホン酸アミド(化合物91)が収率94%に得られる。
【0111】
次に、化合物91(8.77mmol)と、メタクリル酸2−イソシアネートエチルエステル(Aldrich社製、11.83mmol)を脱水クロロホルム(関東化学社製、40mL)中、少量のヒドロキノン(Aldrich社製)存在下、0℃で30分間攪拌した後、得られた混合液を室温に戻し、さらに24時間攪拌する。その後、エバポレータで溶媒を除去し、さらにジエチルエーテル(キシダ化学社製、50mL)で3回洗浄、乾燥を繰り返すことでオイル状の化合物、2−メチルアクリル酸2−[1−(3−{2−[2−(3−トリフルオロメタンスルホニルアミノプロポキシ)−エトキシ]−エトキシ}−プロピルアミノ)−ビニルアミノ]―エチルエステル(化合物92)が収率93%で得られる。
【0112】
次に、化合物92(6.9mmol)とLiH(Aldrich社製、10.3mmol)を少量のヒドロキノン存在下、脱水テトラヒドロフラン(関東化学社製、30mL)中、0℃で30分間攪拌する。次いで、エチルメチルイミダゾリウムブロミド(東京化成社製、7.59mmol)を加えた後、溶液を室温まで温め、さらに24時間攪拌する。その後ろ過、エバポレータによる溶媒除去、真空乾燥を順次行なうことで、オイル状の化合物、モノマー93が収率94%で得られる。
【0113】
以下にモノマー93の構造式を示す。
【0114】
【化3】

【0115】
(化合物91)
H NMR:δ 5.76(2H、s、NH)、5.76(2H、s、NH)、3.65−3.55(12H、m、OCH)、3.30(1H、t、J=6.0Hz、CHN)、2.96(3H、t、J=6.0Hz、CHN)、1.81(4H、qt、J=6.6Hz、CH);13C NMR :120.0(q、J=319Hz、CF)、70.0、69.9、69.6、69.5、69.3、69.1、69.0、68.2(CHO)、42.2、38.9(CHN)、30.7、28.1(CHCHN) ;19F NMR:δ−78.0、−79.0(3F、s、CF).
【0116】
(化合物92)
H NMR:δ 7.41(1H、br s、NH)、6.01(1H、s、CH=C)、5.77(2H、m、CONH)、5.46(1H、s、CH=C)、4.03(2H、t、5.5Hz、CHO)、3.70−3.35(12H、m、OCH)、3、32(2H、m、CHNH)、3.07(4H、m、CHNH、CHNS)、1.87(2H、m、CHCHNS)、1.81(3H、s、CH)、1.58(2H、m、CH);13C NMR :167.2(CO)、159.1、158.8(CONH)、135.7(C=)、125.7(=CH)、120.0(q、J=318Hz、CF)、70.2、69.9、69.8、69.4、69.2、69.0、68.6、67.9(CHO)、63.8、63.7(CHOCO)、44.7(CH)、40.4、39.7(CHNS)、38.6(CHNH)、37.3、36.7(CHN)、30.0、29.4(NHCHCH)、26.0、25.7(CHCHNS)、17.9(CH)、19F NMR:δ−79.4(3F、s、CF).
【0117】
(化合物93)
H NMR:δ9.41(1H、s、CH)、7.42(2H、m、CH=CH)、6.32(2H、m、CONH)、6.01(1H、s、CH=C)、5.46(1H、t、J=1.5Hz、CH=C)、4.18(2H、q、J=7.3Hz、CH)、3.98(2H、t、5.7Hz、CHO)、3.87(3H、s、NCH)、3.65−3.15(14H、m、NHCH、OCH)、3.08(3H、m、CHN)、2.78(1H、t、J=5.2Hz、CHNS)、1.76(3H、s、CHCH)、1.68(2H、m、CH)、1.52(2H、m、CH)、1.41(3H、t、J=7.3Hz、CH);13C NMR :167.0(CO)、159.5、159.3(CONH)、135.9(CH)、135.5(C=)、125.7(=CH)、123.4(CH=CH)、121.7(CH=CH)、119.6(q、J=321Hz、CF)、70.7、69.1、68.9、68.5、68.4、67.5、67.0(CHO)、63.5(CHOCO)、44.7(CH)、40.0、39.2(CHN)、38.4(CHNH)、36.0(NCH)、35.6、34.9(CHNS)、30.2、29.4、29.3、25.1(CHCHN)、17.9(CH)、15.0 (CHCH);19F NMR:δ−79.2(3F、s、CF
【0118】
(ポリアニオン90の作製)
ビニルモノマー93を重合しすることでポリアニオン90が得られる。
【0119】
ラジカル開始剤であるアゾイソブチロニトリル(和光化学社製、AIBN 5wt%)を所定量のビニルモノマー93に加え、アルゴン雰囲気下、無溶媒もしくはアルゴンバブリングした脱水エタノール(和光化学社製、5cc)中で、50℃で20時間加熱攪拌し、引き続き80℃で2時間加熱することで対応するポリアニオン90が得られる。その後、所定のテンプレート(テフロン(登録商標)型あるいはアルミ型)に、流し込み、乾燥・洗浄を行うことで対応するポリアニオンから成るイオン染み出し抑制層の膜が得られる。
【0120】
(ポリカチオンpoly[VBBi+][BF4−]の作製)
ポリカチオンから成るイオン染み出し抑制層である、Poly[1−(p−vinylbenzyl)−3−butylimidazolium tetrafluoroborate]、poly[VBBi+][BF4−]は、学術論文Journal of Macromolecular Science part C:Polymer Reviews、49;339−360、2009年に記載の合成法に従い作製することができる。
【0121】
<アクチュエータの作製方法>
本発明の実施形態に係るアクチュエータの作製方法は、上記アクチュエータを作製することができる方法であればどのような方法であってもよいが、上記電極層および上記電解質層ならびにイオン染み出し抑制層を上記アクチュエータ構成に積層して加熱プレス(ホットプレス、熱圧着)する方法を好適に用いることができる。なお、ここで、「加熱プレスする」とは、加熱しながらプレスすること、及び、プレスした状態で昇温することの両方法を含む。
【0122】
加熱プレスの温度やプレス圧、時間は、高分子電解質と弱酸性物質のポリマーの分解温度以下であれば特に限定されるものではなく、用いるポリマー、アクチュエータを構成する高分子化合物、移動するイオン種等に応じて適宜選択すればよい。例えば、加熱プレスの温度は、30から150℃であることが好ましい。また、プレス圧は、10から1000(1から100kgf/cm)であることが好ましく、100から500Pa(10から50kgf/cm)であることがより好ましい。
【0123】
なお、本発明のアクチュエータの形状は、短冊状とは限らず、任意の形状でもよい。
【0124】
言うまでもないことであるが、本発明におけるイオン染み出し抑制層は、アクチュエータの第一の電極層側の外層には、第一のイオン染み出し抑制層が、第二の電極層側の外層には、第二のイオン染み出し抑制層が配置されていれば良く、アクチュエータ作製状、端部が一部重なりあっていても問題ない。
【0125】
アクチュエータ膜に、水、上記イオン導電物質、上記イオン液体、またはこれらの混合物をアクチュエータ作製後に含ませる場合には、これらの溶液にアクチュエータ膜を含浸させればよい。ここで、含浸させる溶液の濃度、含浸させる時間は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
【0126】
なお、本発明の実施形態に係るアクチュエータの形状は、上記に限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。
【0127】
以下、本発明の実施態様について説明する。
【0128】
<実施態様1>
本実施態様1は、アクチュエータの電圧印加時における正極側の電極層の外層に備えられるイオン染み出し抑制層がポリアニオンで構成され、また負極側の電極層の外層に備えられるイオン染み出し抑制層は、ポリカチオンで構成されるアクチュエータ1である。図1は本発明の第一実施形態における高分子アクチュエータの模式図を示す。
【0129】
図1において、第一実施形態のアクチュエータは、第一の電極層10と、第二の電極層20と、前記第一の電極層10と第二の電極層20との間に中間層30を有する三層積層型アクチュエータ素子において、第一の電極層10側の外層には、第一のイオン染み出し抑制層40が、第二の電極層20側の外層には、第二のイオン染み出し抑制層50が配置されている。加えて、第一の電極層10はリード線60によって駆動電源の正極に、また第二の電極層20はリード線70によって駆動電源の負極に接続されている。またさらに、該正極側の電極層10の外層に備えられる第一のイオン染み出し抑制層40は、少なくともポリアニオンで構成され、該負極側の電極層20の外層に備えられるイオン染み出し抑制層50は、ポリカチオンより構成される。
【0130】
ここで電極層10と電極層20のサイズは揃っており、かつ電解質層30の幅(短尺方向のサイズ)と長さ(長尺方向のサイズ)は電極層のものと揃っており、また、イオン染み出し抑制層40と50のサイズも揃っている。また、それぞれのイオン染み出し抑制層の厚みは電極層の約1/5程度である。
【0131】
電極層10と電極層20を、リード線60、70を介してそれぞれ駆動電源の正極と負極につなぐことで、アクチュエータ1が作製できる。
【0132】
なお、ここで全ての電極層は上述したCNTとポリマーからなる伸縮性電極層、また電解質層は、上述したイオン液体とポリマーからなる電解質層で形成し、加えて、イオン染み出し抑制層40とイオン染み出し抑制層はそれぞれポリアニオン90と学術論文Journal of Macromolecular Science part C:Polymer Reviews、49;339−360、2009年に基づいて作製したポリカチオンイオン高分子材料poly[VBBi+][BF4−]、で形成することができる。さらに、アクチュエータの作製は上述したようにホットプレス法によりそれぞれを積層熱圧着することにより行うことが出来る。
【0133】
本実施例のアクチュエータ1に駆動電源から、3V程度の駆動電圧を電極層10と電極層20の間に印加することで、アクチュエータ1は変形屈曲する。
【0134】
ここで、アクチュエータ1の第一の電極層10側の外層には、ポリアニオンで構成される第一のイオン染み出し抑制層40が、第二の電極層20側の外層には、ポリカチオンで構成される第二のイオン染み出し抑制層50が配置されている。またこれらのイオン染み出し抑制層の厚みは極めて薄い。結果、本アクチュエータは、屈曲対向方向に負荷をかけて繰り返し駆動させても、駆動性能の低下なく駆動することができ、また電解質イオンの染み出しも見られない。結果、実用に供するための信頼性に優れている。
【0135】
<実施態様2>
本実施態様2は、実施態様1におけるアクチュエータ1の変形であり、電極層の外層に備えられるイオン染み出し抑制層が、ポリカチオンからなる膜とポリアニオンからなる膜の積層構成で形成されるアクチュエータである。
【0136】
図2のアクチュエータは本発明の第二実施形態における高分子アクチュエータの模式図を示す。
【0137】
図2(a)のアクチュエータは、第一の電極層10の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層40と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層51を順次積層し、また、第二の電極層20の外層に少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層50と少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層41を順次積層して構成される。加えて、各電極層はリード線によって交流駆動電源に接続されている。
【0138】
ここで電極層10と電極層20のサイズは揃っており、かつ電解質層30の幅(短尺方向のサイズ)と長さ(長尺方向のサイズ)は電極層のものと揃っており、また、イオン染み出し抑制層40と50と41と51のサイズも揃っている。また、それぞれのイオン染み出し抑制層の厚みは電極層の約1/10程度である。
【0139】
なお、ここで全ての電極層は実施態様1と同様に、上述したCNTとポリマーからなる伸縮性電極層、また電解質層は、上述したイオン液体とポリマーからなる電解質層で形成し、加えて、イオン染み出し抑制層40、41とイオン染み出し抑制層50、51はそれぞれポリアニオン90と文献「Journal of Macromolecular Science part C:Polymer Reviews、49;339−360(2009)」(非特許文献1)に基づいて作製したポリカチオンイオン高分子材料poly[VBBi+][BF4−]、で形成することができる。さらに、アクチュエータの作製は上述したようにホットプレス法によりそれぞれを積層熱圧着することにより行うことが出来る。
【0140】
本実施例の図2(a)のアクチュエータに駆動電源から、3V程度の交流駆動電圧を電極層10と電極層20の間に印加することで、アクチュエータ3は変形屈曲することができ(紙面に対して左右に均等に駆動)、また電解質イオンの染み出しも見られないアクチュエータ3が容易に得られる。加えて、アクチュエータ3ではアクチュエータ2とは異なり、ポリアニオンからなるイオン染み出し抑制層とポリカチオンからなるイオン染み出し抑制層が分離して備えられているため、各イオン遮蔽効果が高く、より実用性・信頼性に優れる。
【0141】
尚、上記第二実施形態の第一変形例である、第一の電極層10の外層に少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層52と少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層43を順次積層し、また、第二の電極層20の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層42と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層53を順次積層した、図2(b)のアクチュエータの場合にも同様の結果が得られる。
【0142】
またさらに、上記第二実施形態の第二変形例である、第一の電極層10および第二の電極層20の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層44と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層54を順次積層した図2(c)のアクチュエータの場合にも同様の結果が得られる。
【0143】
加えて、上記第二実施形態の第三変形例である、第一の電極層10および第二の電極層20の外層に少なくともポリアニオンから形成されるイオン染み出し抑制層55と少なくともポリカチオンから形成されるイオン染み出し抑制層45を順次積層した図2(d)のアクチュエータの場合にも同様の結果が得られる。
【0144】
<実施態様3>
(互いに接した棒状の第二電極から成る円柱型アクチュエータにイオン染み出し抑制層が備わっている)
本実施形態は、図5(a)の柱状アクチュエータの変形例であり、図5(a)の線形状の第二電極層が互いに接した7本の線形状の第二電極層を有するアクチュエータである。
【0145】
本形態は、図5(a)に示すものと同様に、それぞれの線形状の第二電極層および第一電極層としてのチューブ状部材がそれぞれリード線を介して電源に接続されている。
【0146】
第一および第二の電極間に電位差が印加されると、アクチュエータの柱の軸方向へ伸縮駆動が行われる構成になっている。アクチュエータ全体としては、柔らかな電極および中間層からなるため、弾力性に優れたものである。
【0147】
本形態に用いる中間層は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF)と、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)と、をゲル化することによって形成されるイオンゲル(イオン液体を含有する高分子ゲル)で構成する。
【0148】
線形状の第二電極および第一電極としてのチューブ状部材は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)とBMIBF、及びPVDF−HFPによって形成されるバッキーゲル(CNTゲル)で作製する。
【0149】
より具体的には、以下の工程により作製した。
【0150】
PVDF―HFP(10g)をTHF/アセトニトリル(5/1)およびBMIBF(10g、イオン液体)とを温度80℃で加熱混合することで中間層のペースト状マスターバッチを作成した。
【0151】
また、SWCNT(5g、平均直径約1nm、長さ平均約1μm)とBMIBF(10g)とジメチルアセトアミド(DMAc)1mLとを混合してボールミル処理を30分間おこないペーストを得た。この後、このペーストにPVDF−HFP(8g)を添加した後、さらに30分間ボールミル処理することで得られる電極のペースト状マスターバッチを用意した。
【0152】
その後、得られた各々のペースト状マスターバッチを、対応する金型を用いて温度80℃、押出し速度10mm/minで押出し成形後、温度80℃で3時間乾燥させることでアクチュエータを作製した。アクチュエータ全体の大きさは、長さ約30mm、直径約7mmの円柱状であり、第一の電極線形状電極を含む中間層の直径は約5mm、各線形状の電極の直径が約1.5mmのアクチュエータを作成した。
【0153】
イオン染み出し抑制層の材料は、実施態様1と同様のものを用い、該正極側が電極層2である。そして、その外層に備えられる第一のイオン染み出し抑制層7は、少なくとも実施態様1記載のポリアニオン高分子材料で構成される。また、該負極側は電極層3である。ここでは外層に備えられるイオン染み出し抑制層6は、少なくともポリカチオン高分子材料で構成されている。また、イオン染み出し抑制層6および7柱状アクチュエータ作製後、所定形状の各イオン染み出し抑制層を熱融着させて形成する。
【0154】
なお、この方法では、中間層中での線形状の第二電極の占有率は約60%であった。
【0155】
アクチュエータおよびアクチュエータから切り出した線形状の第二電極について、引張り試験機によって引張り試験を用い、それぞれのヤング率を応力−歪み特性から求めることができる。
【0156】
本アクチュエータを用いることで、腰折れ等を起こすことなく、大気中、4V程度の駆動電圧でも伸縮駆動し、対象物を滑らかに直線方向に押し移動することができる。電極から印加される電気エネルギーが大きければ、伸縮駆動する度合いが大きくなる。伸張する度合いが大きければ、本アクチュエータの発生力が強くなる。
【0157】
また、+1.0V、1Hz(方形波電圧)で15000回駆動させてもアクチュエータからは電解質の漏れは全く見受けられず、アクチュエータの駆動性能は維持される、結果、繰り返し駆動耐久性が高いアクチュエータが得られる。
【実施例】
【0158】
(染み出し抑制効果の検証)
本発明の染み出し抑制層が、染み出し抑制効果を有することを、以下の実験により検証した。
【0159】
実施形態1で示した中間層30を、ポリカチオンイオン高分子材料poly[VBBi+][BF4−]で形成したイオン染み出し層を平均膜厚6μmで被覆した素子を実施例1として作成した。中間層30は、直径1mm、長さ10mmの円柱状のものを作成した。
【0160】
比較例1として、イオン染み出し層を有さない中間層30のみの棒状素子を作成した。
【0161】
比較例2として、ウレタン樹脂を平均膜厚6μmで被覆した素子を作成した。
【0162】
各素子をろ紙を介して0.1MPaの圧力で押圧したところ、比較例1および比較例2の素子からはイオンがろ紙に染み出していることが確認でき、実施例1においては染み出しを確認できなかった。
【0163】
また、各素子の変形応答特性低下に寄与する曲げ剛性を指による単純曲げ試験で定性的測定したところ、実施例1の素子と比較例1とは大きな変化がなく、比較例2よりも曲げ剛性が低いことが確認できた。
【0164】
すなわち、イオン染み出し抑制層をアクチュエータの外周に配することで、6μmという薄膜で構成したとしても、染み出しを抑制できる。すなわち、染み出しを抑制しつつ、変位応答特性の高いアクチュエータを提供することができる。
【0165】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明のアクチュエータは、変形応答の低下を招くことなく電解質イオンの染み出し抑制が可能であることから、実用性に優れており、従来使用されている電磁モータ・電気モータや、油圧・空気圧シリンダなどの従来型アクチュエータの代替に利用することができる。
【符号の説明】
【0167】
1、2、3、4、5 アクチュエータ
10 第一の電極層
20 第二の電極層
30 中間層
40 少なくともポリカチオン高分子からなる第一のイオン染み出し抑制層
50 少なくともポリアニオン高分子からなる第二のイオン染み出し抑制層
60、70 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向し合う一対の電極と、
該一対の電極の間に配置され、電解質を有する中間層と、
を有し、該電極間に電圧が印加されることにより変形するアクチュエータであって、
該アクチュエータの外周に、ポリアニオンおよびポリカチオンの少なくとも一種を有するポリイオンからなるイオン染み出し抑制層が配されている
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記イオン染み出し抑制層が、ポリカチオンからなる膜とポリアニオンからなる膜の積層構成である、請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記中間層の電解質が、イオン液体である請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記一対の電極が、
第一電極としてのチューブ状部材と、
該チューブ状部材に内包されている線形状の第二電極であり、
該チューブ状部材と第二電極の間に前記中間層が配置された柱状のイオン移動型アクチュエータである
請求項1から3のいずれかに記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−27237(P2013−27237A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162159(P2011−162159)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】