説明

アクチン細胞骨格再編成及び細胞間ギャップ形成調節の方法

細胞をアミノアルキルグルコサミニドリン酸塩と接触させることにより、細胞骨格再編成及び細胞間ギャップ形成を防止し又は減少させる方法を開示する。この開示した方法は、虚血又は虚血再還流事象に関係するアクチン細胞骨格再編成、及び/又は細胞間ギャップ形成を防止し、又は減少させ、及びアクチン細胞骨格再編成の増加に関係する疾患、又は病態を予防し、又は緩和させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、2008年4月9日に出願した米国特許出願61/043,586に基づく優先権を主張し、本明細書にその全体が取り込まれる。
この発明は、アクチン細胞骨格再編成及び細胞間ギャップ形成を減少させ又は防止するための方法及び組成物に関する。この方法は、虚血事象又は虚血−再還流障害に応答して生ずるアクチン細胞骨格再編成を防止するために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
急性肺損傷は敗血症、全身性炎症応答及び成人急性呼吸窮迫症候群の特徴である。病因とは関係なく、非心臓性肺水腫及びガス交換不全は、急性肺損傷の結果である。急性肺損傷による肺水腫を起こすメカニズムは、良く理解されてない。肺移植後直ちに生ずる急性肺損傷の一形態である虚血−再還流損傷(IRI)は、病的状態及び死の原因となる合併症であり、頻出する(非特許文献1)。
虚血から間をおいた再還流により、生得の免疫系の構成要素を巻き込んで、補体及び凝集カスケードを含む炎症応答が生ずる。実質細胞及び骨髄細胞は、フリーラジカル、一酸化窒素、及び炎症誘発性及び抗炎症性サイトカインを産生する(非特許文献2〜4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】King 他 Ann. Thorac. Surg., 69, 1681-1685 (2000)
【非特許文献2】de Perrot 他., Am. J. Respir. Crit. Care Med., 167(4), 490-511 (2003)
【非特許文献3】de Groot 及び Rauen, Transplant Proc., 39(2), 481-484 (2007)
【非特許文献4】Mollen 他, Shock, 26(5), 430-437 (2006)
【非特許文献5】Steen et al. Ann Thorac Surg., 83, 2191-2195 (2007)
【非特許文献6】Egan 他, Ann. Thorac. Surg., 52, 1113-1121 (1991) 及び Egan, J. Heart Lung Transplant., 23(1), 3-10 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
肺IRIは、より深く理解すれば、多くの種類の急性肺損傷に関係すると考えられ、また肺移植受給者に加えて、多くの患者の恩恵になりうる。このような理解は、移植のための心拍停止した死体提供者の肺の回復を促進し、及び/又は移植性の高くない肺の利用の支援を促進する(非特許文献5)。これにより移植可能な肺の危機的な不足の解決に取り組むことができる(非特許文献6)。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、細胞におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する。
幾つかの実施形態において、その方法は、細胞を、有効量の化合物又は医薬的に許容されたこの化合物の塩と接触させることから成り、この化合物は下記化学式(I)で表される。
【化1】

式中、
nは、1〜6の整数を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
,R及びRは、それぞれ独立して、C〜C16アシル基を表し、ここでR,R及びRのうち少なくとも1つはC〜Cアシル基を表し、
は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH、及び(CHC(=O)OH(式中、mは0〜2の整数を表す。)からなる群より選択され、
,R及びRは、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基を表す。
【0006】
幾つかの実施形態において、nは1である。幾つかの実施形態において、X及びXは、それぞれ酸素原子を表す。幾つかの実施形態において、Rは-C(=O)OHを表す。幾つかの実施形態において、R、R及びRは、それぞれC〜Cアシル基を表す。幾つかの実施形態において、化学式(I)の化合物は、nが1を表し、Xは酸素原子を表し、Xは酸素原子を表し、R,R及びRはそれぞれ-C(=O)(CH2)4CH3を表し、Rは-C(=O)OHを表し、R,R,及びRは、それぞれ、-(CH2)10CH3である、化合物又は医薬的に許容されたこれらの塩である。
【0007】
幾つかの実施形態において、細胞は動物細胞である。幾つかの実施形態において、細胞は内皮細胞である。
幾つかの実施形態において、アクチン細胞骨格再編成の防止又は減少は、細胞及びこの細胞を取り囲む1以上の細胞間の細胞間ギャップ形成を防止する、又は減少させる。
幾つかの実施形態において、細胞との接触は、虚血又は虚血−再還流関連事象以前に、虚血の間に、又は虚血期間後に起こり、及びアクチン細胞骨格再編成の防止又は減少は虚血又は虚血−再還流関連事象に関わるアクチン細胞骨格再編成の防止又は減少を含む。
【0008】
幾つかの実施形態において、本発明は患者における1以上の細胞におけるアクチン細胞骨格再編成の防止又は減少の方法を提供し、その方法は、患者に有効量の化学式(I)の化合物又は医薬的に許容されたこの塩を投与することを含む。
幾つかの実施形態において、患者における1以上の細胞におけるアクチン細胞骨格再編成の防止又は減少は、患者におけるアクチン細胞骨格再編成の増加に関連する疾患又は病態、又はその症候を予防又は緩和する。幾つかの実施形態において、患者は哺乳動物である。
【0009】
アクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させるための方法及び組成物を提供することが本発明の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、ヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)のファロディアン染色の一連の写真を示し、アクチン細胞骨格再編成及びヒト肺微少血管内皮単層におけるギャップ形成に対する低酸素を伴わない模擬温虚血の効果を示す。HMVECを整数個のカバースリップの入ったP30ディッシュ上にコンフルエンス(集密状態)まで増殖し、模擬温虚血(WI)の1時間前まで1μg/mL CRX-526又は媒体と共にインキュベートした。写真は、温虚血(WI)前(対照)、温虚血(WI)の15分又は60分後及び模擬再還流(rep)の15分,60分又は240分後のCRX-526処理細胞及び媒体処理細胞を示す。実験は3組み/セットで行った。
【図1B】図1Bは図1Aに示した単層細胞のギャップの%面積のグラフである。3個のP30ディッシュの各々から3個の別々な視野を解析した(n=9写真/時点)。単層におけるギャップの%面積をMetaMorph(R)ソフトウェア(MDS Analytical Technologies, Inc., Sunnyvale, California, USA)により定量した。媒体処理細胞を黒塗り棒で示す。CRX-526処理細胞を白抜き棒で示す。*=p<0.05、†=p<0.01,‡=p<0.001 片側t検定。
【図1C】図1Cは、図1Aに示した細胞における異常アクチンの割合(%)を示すグラフである。ヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)のアクチン細胞骨格にかなりの変動性があるので、異常の深刻さをランク付けることなく、細胞を画像において"正常"又は"異常"アクチン分布として標識した(n=9写真/時点)。この評価を、グループの帰属又はサンプリング時点を知らない覆面観察者が行った。その後、アクチン骨格の分布の比を計算した。媒体処理細胞データを黒塗り棒で示す。CRX-526-処理細胞データを白抜き棒で示す。‡=p<0.001 片側t検定。
【図2A】図2Aは、(a)温(37℃)細胞培養培地におけるヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)の写真(対照)、(b)4℃細胞培養培地中の4時間の冷虚血後のHMVECの写真(培地 4時間 冷虚血(CI))、(c)4℃ PERFADEX(TM) (Vitrolife, Kungsbacka, スウェーデン)肺保存液中の4時間のHMVECの写真(媒体 4時間 冷虚血)、及び(d)CDX-526とプレインキュベートしその後4℃ CRX-526の入ったPERFADEX(TM)肺保存液中の4時間の冷虚血を受けたHMVEC細胞の写真(CRX-526 4時間 冷虚血)である。これらの写真は、各条件セットに対して得られた9画像からの代表例である。
【図2B】図2Bは、単層のヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)におけるギャップの%面積のグラフであり、HMVEC細胞は、細胞培養液(培地)、媒体(即ち、PERFADEX(TM))又は1時間CRX-526による前処理後に媒体中にあるものを3種類の対照として、これらの培地条件のHMVEC細胞を(i)4時間の冷虚血(4時間 冷虚血(CI))、又は(ii)1時間の温虚血(WI)、又は(iii)1時間の温虚血及び15分、1時間、又は4時間の再還流処理を行った。媒体を加えてない細胞培養液中のHMVECデータを白抜き棒で示す。媒体を加えるが化合物を補強しない培地中のHMVECデータを黒塗りの棒で示す。CRX-526前処理細胞に対するデータは灰色塗り棒で示す。%ギャップ面積をMetaMorph(R)ソフトウェア(MDS Analytical Technologies, Inc., Sunnyvale, California, USA)により定量した。*=p<0.01。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の目的は既に記載した、また本発明において全体的に又は部分的に達成したが、以下の実施例、及び最善に描いた以下の図面と関連して、他の目的が記載が進むに従い明らかとなるであろう。
本発明を、代表的実施形態を示す、添付した実施例を参考に本明細書で詳細に説明する。しかしながら、本発明は、異なる形式に具体化することができる、また本明細書に記載された実施形態に制限されると考えるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が充分であり完全であり、及び当業者にとって実施形態の範囲を完全に伝達するために提供されている。
もし、別なやり方で定義しなければ、本明細書に用いる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を持つ。本明細書で述べた全ての出版物、特許申請、特許、及び他の参照をその全体について参考文献として取り込む。
明細書及び特許請求の範囲を通して、与えられた化学式、又は化学名は、全ての光学的、及び立体的異性体、及びこれらの異性体及び混合物が存在するラセミ体を包含する。
【0012】
本明細書では下記の略号を用いる:
℃=摂氏温度、AG=アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩、ARDS=成人急性呼吸窮迫症候群、ATP=アデノシン三リン酸、CI=冷虚血、CO=二酸化炭素、HMVECs=ヒト肺微少血管内皮細胞、hr=時間、IRI=虚血−再還流障害、LDH=乳酸デヒドロゲナーゼ、kg=キログラム、μmol=マイクロモル、mg=ミリグラム、min=分、O=酸素、PBS=リン酸緩衝食塩水、SIRS=全身性炎症応答症候群、WI=温虚血
【0013】
1.定義
以下の用語は、当業者により良く理解されると信ずるが、以下の定義は本発明の説明を円滑にするために示すものである。
長年の特許法慣習に従い用語"a(1つ、ある)"、"an(1つ、ある)"及び"the(その、この)"は、請求の範囲を含めて本申請で用いる際"1以上"を表す。従って、例えば、"a compound(ある化合物)"又は"a cell(ある細胞)"に関しては、複数のこのような化合物又は細胞等々を含む。
【0014】
本明細書で用いるように、用語"アルキル基"は、直線状(例えば、"直鎖")、分枝状、又は環状、飽和、又は少なくとも部分的に不飽和、及びある場合には完全に不飽和(例えば、アルケニル及びアルキニル基)であるC1〜20炭化水素鎖を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ブタジエニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、及びアレニル基がある。"分枝"は、メチル基、エチル基、又はプロピル基のような低級アルキル基が直線状アルキル鎖に付加したアルキル基を表す。"低級アルキル基"は、1より約6個の炭素原子(例えば、C1〜7アルキル基)を有するアルキル基、即ち1,2,3,4,5又は6炭素原子、を表す。"高級アルキル基"は約8個から約20個の炭素水素、即ち、8.9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20炭素原子、を有するアルキル基を表す。
【0015】
アルキル基を、任意に1個以上の、同一又は異なる、アルキル基置換基により置換することができる("置換アルキル基")。用語"アルキル基置換基"はアルキル基、置換アルキル基、ハロ基、アリールアミノ基、アシル基、ヒドロキシル基、アリールオキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルオキシル基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基及びシクロアルキル基を含むが、これらに制限されない。アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子又は置換窒素原子又は非置換窒素原子を挿入することができて、ここで、窒素置換基は、水素原子、低級アルキル基(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わす)又はアリール基を表す。
【0016】
従って、本明細書で用いるように、用語"置換アルキル基"は、本明細書で定義したように、アルキル基を含み、ここでアルキル基の1以上の原子又は官能基が他の原子又は官能基に置き換えられ、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基が含まれる。
【0017】
用語"アルケニル基"は、1以上の炭素−炭素二重結合を含むアルキル基を表す。
本明細書で用いる用語"アリール基"は、単一芳香族環、又は互いに融合した、又は共有結合で連結した、又はメチレン基又はエチレン基部分のような、しかしこれらに制限されない、一般的な置換基に結合した多芳香族環芳香族置換基を表す。一般的な連結基はまた、ベンゾフェノンにおける様なカルボニル基、又はジフェニルエーテルにおける様な酸素原子、又はジフェニルアミンにおける様な窒素原子であることができる。用語"アリール基"は、とりわけ複素環式芳香族化合物を含む。この芳香族環(複数もあり)は、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルアミン基及びベンゾフェノン基を含むことができる。特別の実施形態において、用語"アリール基"は、約5から10炭素原子、即ち5,6,7,8,9又は10炭素原子を含む環状芳香族基を意味し、及び5−及び6−員環の炭化水素、及び複素環式芳香族環を含む。
【0018】
アリール基は、任意に、1以上の同一又は異なる、アリール基置換基と置き換えることができて("置換アリール基")、ここで"アリール基置換基は"アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、カルボキシル基、アシル基、ハロ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、アシルオキシル基、アシルアミノ基、アロイルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキレン基及びNR'R"を含み、ここでR'及びR"は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、及びアラルキル基である。
【0019】
従って、本明細書で用いるように、用語"置換アリール基"は、本明細書で定義したように、アリール基を含み、ここでアリール基の1以上の原子又は官能基は、他の原子又は官能基と置き換えられが、官能基としては、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基が含まれる。
アリール基の特別な例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、フラン基、チオフェン基、ピロール基、ピラン基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、イソチアゾール基、イソクサゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、トリアジン基、ピリミジン基、キノリン基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基等々が含まれるが、これらに制限されない。
【0020】
"アルキレン基"は、1から約20炭化水素、即ち1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20炭素原子、を有する直線状又は分枝状2価脂肪族炭化水素基を表わす。このアルキレン基は、直線状、分枝状又は環状である。このアルキレン基はまた、任意に不飽和体であり、及び/又は1以上の"アルキル基置換基"による置換基である。アルキレン基に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子又は置換した、又は非置換の窒素原子(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わし、ここで窒素置換基は、前述のようにアルキル基である)を挿入することができる。アルキレン基の例としては、メチレン基(-CH2-); エチレン基(-CH2-CH2-);プロピレン基(-(CH2)3-); シクロヘキシレン基(-C6H10-); -CH=CH-CH=CH-; -CH=CH-CH2-; -(CH2)q-N(R)-(CH2)r-を含み、ここでq及びrは、それぞれ独立して、0から約20までの整数、即ち、0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20を表し、及びRは、水素原子又は低級アルキル基;メチレンジオキシル基(-O-CH2-O-); 及びエチレンジオキシル基 (-O-(CH2)2-O-)を表す。アルキレン基は、約2から約3炭素原子を持つことができて、さらに6〜20個の炭素原子を持つことができる。
【0021】
"ヒドロキシ基"及び"ヒドロキシル基"は-OH基を表す。
用語"ヒドロキシアルキル基"は、ヒドロキシ末端を有するアルキル基を表す。幾つかの実施形態において、ヒドロキシアルキル基は、-(CH2)nOH構造を有する。
用語"カルボン酸基"は、-C(=O)OH基を表す。用語"カルボン酸イオン基"は、カルボン酸基の水素原子が除去されたアニオン型を表す。従って、"カルボン酸イオン基"は-C(=O)O-基を表す。カルボン酸イオン基は、カチオン基と共に塩(例えば、カルボン酸塩)を形成する。用語"アルキレンカルボン酸塩"及び"アルキレンカルボン酸"は、アルキレン基の1個の空の付加点にカルボン酸基又はカルボン酸イオン基の付加により形成される1価置換基を表す(例えば、-(CH2)nC(=O)OH 及び-(CH2)nC(=O)O-基)。
【0022】
本明細書で用いるように、用語"アシル基"は、-C(=O)R基を表し、ここでRはアルキル基又はアリール基(本明細書で既に定義)を表す。幾つかの実施形態において、アシル基のRは、C〜C16アルキル基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基部分のアルキル基は、直鎖アルキル基又はアルケニル基を表す。幾つかの実施形態において、アシル基のRは、C〜C16直鎖アルキル基を表す。
【0023】
用語"リン酸基"は、-P(=O)(OH)2基を表す。用語"リン酸基"はまた、リン酸基から1以上の水素原子の除去により形成されるアニオン分子種を含む。
用語"チオール基"は、-S-R構造を有し、Rがアルキル基、アシル基又はアリール基である置換基を表わす。用語"チオール基"はまた、H-S-R構造を有し、Rがアルキル基、アシル基又はアリール基である化合物を表すことができる。
用語"アミノ基"は、構造-NR1R2を有し、ここでR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アシル基、及びアリール基から選択される、置換基を表す。
用語"カルバモイル基"は、-C(=O)NH2基を表す。
【0024】
用語"単糖類"は、化学構造H(CHOH)nC(=O)(CHOH)mHを有する開いた直鎖型化合物に基づく化学式(CH2O)n+mの炭化水素単量体(モノマー)単位を表し、ここでn+mの和は2から8の間の整数である。従って、この単量体単位は、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、ノノース及びこれらの混合物を含むことができる。単糖類は環状化した化学構造であることができる。従って、幾つかの実施形態において、この化合物は、ヘミアセタール又はヘミケタールを含むであろう。幾つかの実施形態において、用語"単糖類"は、化学構造H(CHOH)nC(=O)(CHOH)mH を有する化合物に基づく環状化した単量体単位を表し、ここでn+mは4又は5である。従って、単糖類は、アラビノース、リキソース、リボース、キシロース、リブロース、キシルロース、アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、及びタガトースのような、アルドヘキソース、アルドペントース、ケトヘキソース及びケトペントースを含むが、これらに制限されない。
【0025】
用語"単糖類似体"は、単糖の1以上のヒドロキシル基がリン酸基、アミン基、チオール基、又はアルキル基のような、しかしこれらに制限されない、他の置換基により置き換えられた単糖を表す。
用語"アミノ糖"は、単糖の1以上のヒドロキシル基がアミン基により置き換えられた単糖類似体を表わす。アミノ糖の例としては、グルコサミン(即ち、2−デオキシ−2−アミノ−α−D−グルコピラノース)がある。
【0026】
化合物に関して本明細書で用いる、用語"断片"は、その構造が、本来の名前の化合物の何らかの部分であり、本来の名前の化合物の全体より小さい化合物を表す。従って、断片は本来の化合物より小さいが、一般的に本来の化合物の幾つか又は全部の生物活性を保持する。
【0027】
"医薬的に許容される"は、充分な医学的判定の適用範囲内で、過剰な毒性、炎症、アレルギー応答又は他の問題なしに、又は正当な利益/リスク比に比例した合併症なしにヒト及び動物の組織との接触に適した化合物、材料、組成物及び/又は投与形態を表す。従って、幾つかの実施形態において、本発明の化合物、材料、組成物及び/又は投与形態が、ヒトにおける使用のために医薬的に許容される。
一般的に、用語"減少させる"は、以前からの病態、又は疾患を治療する方法を表し、例えば、程度はともかく、この病態、又は疾患の症候又は影響を減少させる、又は緩和させる。
【0028】
"防止する"は将来の病態、疾患、病気又は障害又はこれらの症候の可能性について、程度はともかく、発生しないようにする方法を表す。"防止する"は、将来の病態又は損傷の効果を減らし、その結果、将来の病態又は損傷の効果が防止しない場合に発生する効果より重篤さが低い、又はより短期であるようにする方法、及び完全に病態等の
効果が生じないようにする方法を表す。従って、"防止する"は、医学的及び獣医学的治療の予防的方法である。
【0029】
"虚血(Ischemia)"は、生物組織又は器官への不充分な血流を表し、結果的に器官又は組織が代謝への要求を満たすことができなくなる。
虚血器官又は虚血組織に対する再還流(血流の回復、Reperfusion)は、過剰量の活性酸素種(ROS)及び活性窒素種(RNS)の産生をもたらし、その結果、酸化ストレスを引き起こし、これはミトコンドリア酸化的リン酸化の変化、ATPの枯渇(これは虚血の間及び結果としても生ずる)、細胞間カルシウムの増加及びタンパク質キナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、及びヌクレアーゼの活性化をもたらし、細胞機能/全体性の喪失に至る。
【0030】
虚血再還流障害(IRI)は、虚血に曝された(例えば、移植又は自家移植のように、器官が手術により切除され、再結合された場合)有機体組織において血流が再開した後に生ずる障害を表す。他の例として、器官の移植のために停止していた後に;心筋梗塞のあと冠動脈が経皮経管冠動脈形成術(PTCA)、ステント、又はバイパス治療を受けた後に;及び脳梗塞患者に血栓崩壊剤を投与した後に;血流が再開した時にもまたこのような障害は生ずるが、これらに制限されない。他の例は、しばしば心臓麻痺液の前投与により心臓手術のために心臓への血流が一時的に停止したときである。整形外科医による血液を欠く部位の手術の際、止血帯が足において膨らみ、足への血流の停止が他の例である。このような障害は、多くの組織で生ずることができて、例えば、腎臓、肝臓、肺、膵臓、骨格筋、平滑筋軟組織、皮膚、小腸及び心臓及び脳である。従って、IRIは、大脳、網膜、肝臓、腎臓、膵臓、脊髄、腸間膜、足、小腸、脳、心筋、中枢神経系、皮膚、又は肺の虚血再還流障害又はこれらの組合せを含むことができるが、これらに制限されない。特に、切り取った器官は、提供者の身体から取り除かれ、血液源から分離され、一般的に、しばしば長時間栄養分及び酸素を欠くので、虚血−再還流障害は、器官移植において深刻な問題である。
【0031】
"水腫"は、組織又は器官において組織間液の増加を表す。肺において、"水腫"はまた、肺胞液の増加を表すことができる。幾つかの実施形態において、水腫は内皮細胞透過性の増加が関与する病態に関係する。
"内皮細胞透過性の増加"は、器官又は組織中の血管の、血液中の液体及び/又はタンパク質に対する透過性の増加を表し、水腫を引き起こし、これは、成人急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性炎症応答症候群(SIRS)、及び様々な微生物による感染の場合のような、しかしこれらに制限されない、多くの臨床シナリオに生ずることができる。
【0032】
II.一般的検討事項
内皮細胞細胞骨格、特にアクチンストレスファイバーは、肺血管透過性の調節を行う。Dudek 及び Garcia, J. Appl. Physiol., 91(4), 1487-1500 (2001)を参照のこと。また、細胞骨格は細胞間コミュニケーションシステム又はシグナリングの足場として機能することができると言うことが主張されている。Ingber, Faseb J., 20 (7), 811-827, (2006)を参照のこと。本発明は、アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩、CRX-526、が模擬虚血後の細胞骨格再編成を減少させるという観察に関係する。
【0033】
III.リピドA模擬体
幾つかの実施形態において、本発明は、単糖類又は単糖類類似体を含むリピドA模擬化合物の使用に関する。幾つかの実施形態において、単糖類類似体はアミノ糖である。幾つかの実施形態において、アミノ糖はグルコサミンである。幾つかの実施形態において、本発明は、アミノアルキルグルコサミニドリン酸塩(AGP)又はこれらの医薬的に許容された塩の使用に関する。
【0034】
IIIA.化学式(I)の化合物
一般的に、AGPは、合成(即ち、化学合成した)リピドA模擬体を表し、化学式(I):
【化1】

ここで:
nは、1〜6の整数を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
,R,及びRは、それぞれ独立して、C〜C16アシル基を表し、
は、H,ヒドロキシルアルキル基、-C(=O)NH2、及び(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここでmは0〜2の整数を表し、及び
,R及びRが、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、構造、又は医薬的に許容されたこの塩の構造を持つことができる。
【0035】
一般的に、本発明の使用のためのAGPは、少なくとも1個の、8炭素原子以下の第2級アシル鎖(即ち、R,R又はR)を含む。従って、幾つかの実施形態において、R,R及びRのうち少なくとも1個はC(=O)Rを表し、ここでRはC〜Cアルキル基(即ち、R,R及びRのうち少なくとも1個はC〜Cアシル基である)。幾つかの実施形態において、R,R及びRのうち少なくとも2個は、C〜Cアシル基を表す。幾つかの実施形態において、R,R及びRのうち少なくとも1個は、-C(=O)Rを表し、ここでRはCアルキル基を表す。幾つかの実施形態において、R,R及びRの各々は、C10〜C12直鎖、完全飽和アルキル基を表す。
【0036】
幾つかの実施形態において、この化合物は、CRX-526、即ち化学式(I)、ここでnは1;X及びXの各々は、酸素原子を表し、R,R及びRの各々は、-C(=O)(CH2)4CH3を表し、Rは、-C(=O)OHを表し、及びR,R及びRは、それぞれ、-(CH2)10CH3である、化合物又は医薬的に許容されたこの塩である。

様々なAGPの合成及び活性は、以前に記載した。Cluff 他, Infection and Immunity, 73(5), 3044-3052 (2005); Stover 他, J. Biol. Chem., 279(6), 4440-4449 (2004) 及びこの中に引用された参考文献を参照のこと。Johnson他に対する米国特許No. 6,113,918も参照のこと。
【0037】
化学式(I)の化合物は、非対称炭素原子を有し、従って光学異性体又はジアステレオマーとして存在できる。ジアストロマー混合物は、これらの物理的、化学的差異に基づき、これ自体既知のクロマトグラフィー及び/又は分画的結晶化法により個々のジアステレオマーに分離することができる。光学異性体は、適切な光学的活性化合物(例えば、アルコール)と反応させて光学的異性体混合物をジアステレオマー混合物に変換し、ジアステレオマーを分離し、及び個々のジアステレオマーを対応する純粋な光学異性体に変換(例えば、加水分解)することにより分離することができる。ジアステレオマー、光学異性体、及びこれらの混合物を含め、このような異性体は全て、本発明の部分と考えられる。
【0038】
III.B.医薬的に許容された塩
本発明の化合物(例えば、化学式(I)の化合物)との関連で、本明細書で用いる表現"医薬的に許容された塩"は、医薬的に許容されたカチオン性の塩を含む。表現"医薬的に許容されたカチオン性の塩"は以下の塩を定義することを意図するがこれらに限らない;アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム)、アルカリ土金属塩(例えば、カルシウム及びマグネシウム)、アルミニウム塩、アンモニア塩、及びベンザチン(N,N'-ジベンジルエチレンジアミン),コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)、ベネタミン(N−ベンジルフェネチルアミン)、エタノールアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリエタノールアミン、(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール)及びプロカインのような有機アミンの塩のような塩である。幾つかの実施形態において、本明細書で用いるように用語"医薬的に許容された塩"は、ヒトにおいて医薬的に許容された塩を表す。
【0039】
化学式(I)の化合物の医薬的に許容された塩は、共存溶媒中で自由酸型の該化合物を適切な通常1価以上の塩基と反応させることにより直ちに調製できる。共存溶媒は、ジエチルエーテル、ダイグライム及びアセトンを含むことができるが、これらに制限されない。塩基としては、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム水素化物、カリウムメトキシド、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ベンザチン、コリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、及びトリエタノールアミンを含むことができるが、これらに制限されない。この塩は、乾燥濃縮、又は非溶媒を加えて単離できる。多くの場合、酸の溶液を異なるカチオンの塩溶液(例えば、エチルヘキサン酸ナトリウム又はカリウム、オレイン酸マグネシウム)と混合し、上記のように、共存溶媒を使用することにより塩を調製することができて、この調製物から所望のカチオン塩を沈殿させ、又は他の場合は、濃縮により単離できる。
【0040】
IV.細胞においてアクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させる方法
幾つかの実施形態において、本発明は、アクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させる方法に関する。幾つかの実施形態において、本発明は、細胞においてアクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させる方法を提供し、この方法は細胞を有効量の化学式(I):
【化1】

ここで:
nは、1〜6の整数を表し、
X1は酸素原子又はイオウ原子を表し、
X2は酸素原子又はイオウ原子を表し、
,R,及びRは、それぞれ独立して、C〜C16アシル基を表し、
は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、-C(=O)NH2、及び(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここでmは0〜2の整数を表し、及び
,R及びRが、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、化合物、又は医薬的に許容されたこの塩との接触を含む。
【0041】
幾つかの実施形態において、R,R及びRのうち少なくとも1個は、-C(=O)Rを表し、ここでRはC直鎖、完全飽和アルキル基を表す。幾つかの実施形態において、R,R及びRの各々は、C10〜C12直鎖、完全飽和アルキル基を表す。
幾つかの実施形態において、nは1である。幾つかの実施形態において、X及びXは、それぞれ酸素原子を表す。幾つかの実施形態において、Rは-C(=O)OHを表す。幾つかの実施形態において、R、R及びRは、それぞれC〜Cアシル基を表す。
幾つかの実施形態において、この化合物は、CRX-526、即ち化学式(I)、ここでnは1;X及びXの各々は、酸素原子を表し、R,R及びRの各々は、-C(=O)(CH2)4CH3を表し、Rは、-C(=O)OHを表し、及びR,R及びRは、それぞれ、-(CH2)10CH3である、化合物又は医薬的に許容されたこの塩である。
【0042】
本発明の方法の細胞は、どのような適切な細胞でも可能である。適切な細胞としては、骨芽細胞、碎骨細胞、軟骨細胞、含脂肪細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、間葉細胞、造血細胞、感覚細胞、内分泌及び外分泌腺細胞、グリア細胞、神経細胞、希突起膠細胞、血液細胞、小腸細胞、脳細胞、心臓細胞、肺細胞、肝細胞、腎細胞、筋肉細胞及び脾臓細胞があるが、これらに制限されない。幾つかの実施形態において、この細胞は、真核細胞である。幾つかの実施形態において、この細胞は哺乳動物細胞である。幾つかの実施形態において、この細胞はヒト細胞である。
【0043】
幾つかの実施形態において、その細胞は内皮細胞である。幾つかの実施形態において、本発明は内皮細胞透過性の調節に関する。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、内皮細胞透過性を調節する方法を提供し、この方法は内皮細胞を化学式(I)の化合物との接触を含む。細胞透過性の調節は、接触細胞の周囲の間質液(及び/又は肺胞液)の正常なレベルの維持、又は間質液(及び/又は肺胞液)の減少をもたらすことができる。幾つかの実施形態において、細胞透過性の調節は、間質液又は肺胞液の増加を防止するが、防止がなければ疾患又は異変(感染又は虚血−再還流障害)がもたらされる。
幾つかの実施形態において、アクチン細胞骨格再編成の防止法又は減少法は、細胞及びその細胞の周囲の1以上の他の細胞との間の細胞間ギャップ形成を防止する、又は減少させる。
【0044】
アクチン細胞骨格再編成は、肺水腫又は他の器官における水腫を含む水腫と関係することができる。水腫は、炎症、感染、外傷(例えば外科手術)、毒物の吸入、循環器疾患、又は高地暴露と関連することができる。幾つかの実施形態において、アクチン細胞骨格再編成の防止又は減少は、内皮細胞透過性の増加により特徴付けられる病態と関連するアクチン細胞骨格再編成の防止又は減少を含む。幾つかの実施形態において、防止する、又は減少させるべき水腫は、臓器移植、肺塞栓除去(肺動脈からの凝固血液の除去)又は肺血栓内膜摘出術(肺脈管構造からの器質化した凝血塊及びフィブリンの外科的除去)のような虚血−再還流と関連する。
【0045】
幾つかの実施形態において、模擬の、又は予測される虚血又は虚血−再還流事象(例えば、器官移植のための組織除去、組織移植、心臓麻痺、止血帯の適用、その他のための組織除去)の前に、細胞を有効量の化学式(I)の化合物と接触させ、虚血又はその後の再還流の間のアクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させる。幾つかの実施形態において、細胞を、虚血の間化学式(I)の化合物と接触させる。幾つかの実施形態において、細胞を、虚血の合間の後に(例えば、再還流の間)化学式(I)の化合物と接触させる。
【0046】
幾つかの実施形態において、虚血−再還流事象は、心筋梗塞又は脳梗塞と関係する。幾つかの実施形態において、虚血−再還流事象は、心臓外科手術の間の心臓麻痺(例えば、意図的な心臓活動の停止)又は、整形外科手術に由来する骨格筋の虚血(例えば、外科手術領域の血液を減らすために、止血帯が足に用いられたとき)に関係する。
【0047】
幾つかの実施形態において、本発明は、細胞が生ある有機体内に存在してないin vitro(試験管内)法、及びin vivo(生体内)法に関係する。例えば、細胞は、細胞培養内又はex vivo(生体外)組織又は器官に存在することができる。幾つかの実施形態において、そのようなin vitro法又はex vivo法を用いて、アクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させるための化合物の相対的な活性の測定、又は特別な細胞型における特定の化合物の投与量の測定を行うことができる。幾つかの実施形態において、ex vivo法は、移植を意図する組織又は器官に存在する細胞を取り扱うために用いることができる。
【0048】
V.患者におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させる方法
幾つかの実施形態において、細胞は生ある有機体に存在する。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、患者における1以上の細胞内のアクチン細胞骨格再編成を防止する、又は減少させる方法を提供し、その方法は、有効量の化学式(I):
【化1】

ここで:
nは、1〜6の整数を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
,R,及びRは、それぞれ独立して、C〜C16アシル基を表し、
は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、-C(=O)NH2、及び(CH2)mC(=O)OHからなる群より選択され、ここでmは0〜2の整数を表し、及び
,R及びRが、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基である、化合物、又は医薬的に許容されたこの塩の患者への投与を含む。
【0049】
幾つかの実施形態において、R,R及びRのうち少なくとも1個は、-C(=O)Rを表し、ここでRはC直鎖、完全飽和アルキル基を表す。幾つかの実施形態において、R,R及びRの各々は、C10〜C12直鎖、完全飽和アルキル基を表す。
幾つかの実施形態において、nは1である。幾つかの実施形態において、X及びXは、それぞれ酸素原子を表す。幾つかの実施形態において、Rは-C(=O)OHを表す。幾つかの実施形態において、R、R及びRは、それぞれC〜Cアシル基を表す。
幾つかの実施形態において、この化合物は、CRX-526、即ち化学式(I)、ここでnは1;X及びXの各々は、酸素原子を表し、R,R及びRの各々は、-C(=O)(CH2)4CH3を表し、Rは、-C(=O)OHを表し、及びR,R及びRは、それぞれ、-(CH2)10CH3である、化合物又は医薬的に許容されたこの塩である。
【0050】
幾つかの実施形態において、患者における1以上の細胞におけるアクチン細胞骨格再編成の防止又は減少は、アクチン細胞骨格再編成の増加と結びつく疾患又は病態、又は患者におけるこれらの症候を予防又は緩和する。疾患又は病態は、水腫により特徴付けられる何れかの疾患又は病態であることができる。幾つかの実施形態において、水腫は、内皮細胞透過性の増加と関係する。例えば、この疾患又は病態は、ARDS又はSIRSである。
【0051】
幾つかの実施形態において、この疾患又は病態は、IRIと結びつく。従って、この疾患又は病態は、器官又は組織移植(他家移植、自家移植を含む)、心臓麻痺、心筋梗塞、脳梗塞、選択的整形外科手術、プリングル操作を含む肝臓外科手術、又は血流が組織に対して制限される他の外科手術と結びつくIRIと関係することができる。幾つかの実施形態において、この病態は、肺移植と結びつくIRIに関係することができる。
【0052】
化学式(I)の化合物の投与は、どのような適切な経路でもできる(例えば、経口、静脈注射、非経口、経気道、その他)。接触は、虚血事象の前、虚血中又は合間が虚血である後(例えば、再還流の間)に行うことができる。
幾つかの実施形態において、患者は哺乳動物である。幾つかの実施形態において、患者はヒトである。幾つかの実施形態において、細胞は腎臓又はその部分、肝臓又はその部分、心臓又はその部分、網膜、膵臓又はその部分、腸管又はその部分、脳組織、骨格筋、又は肺又はその部分を含む、がこれらに制限されない、群から選択される器官又は組織に存在する。
【0053】
VI.薬剤組成物
本明細書で用いるように、用語"活性化合物"は、細胞骨格再編成及び/又は細胞間ギャップ形成を阻害することができる何れの化合物でも表わす。特に、この用語は、化学式(I)の化合物及びこの塩を表す。この活性化合物は、何れかの適切な処方により細胞と接触又は患者に投与することができる。本明細書で用いるように、用語"有効量"は、本明細書に記載した、様々な病理学的状態及び後遺症を阻害又は防止できる活性化合物又は複数の活性化合物の量を表わす。用語"阻害"又は"阻害する"は、細胞骨格再編成の増加に関係する疾患又は病態のある患者の組織障害(例えば、肺組織障害)に関係又は帰因する病態のような、しかしこれに制限されない、病理的病態の制止、防止、治療、緩和、改善、停止、抑制、減少、減速、又は進行の逆転、又は重篤性の減少を表す。従って、本発明の活性化合物投与法は、必要に応じて、医学的治療(急性)及び/又は予防(防止)投与の両者を含む。
【0054】
投与された活性化合物の量及びタイミングは、勿論、治療を受ける患者、苦痛の重篤性、投与方法及び処方した医師の判断に依存する。従って、患者間のバラツキのために、以下に示す投与量は、ガイドラインであり、及び医師は、医師が患者に対して適切と考えた治療を得るために化合物投与量を徐々に増量できる。所望の治療の程度を考えると、医師は患者の年齢、既往症の存在、及び他の疾患の既往のような様々な因子のバランスを保つことができる。医薬的処方を、以下により詳しく検討するように、経口、静脈注射、又は気道投与のために用意することができる。
【0055】
何れかの特別の活性化合物でも治療上有効な投与量の使用は、本明細書に記載した実施形態の範囲内であるが、有効な投与量は、化合物間、及び患者間で多少変わることができる、及び患者の病態及び投与の経路に依存することができる。一般的提案としては、約0.1から約50mg/kgの投与量は、治療上の有効性を持つことができるが、ここで全ての重量は、活性化合物の重量に基づいて計算し、塩を用いる症例も含まれる。より高濃度では毒性が関係するので、静脈注射の投与量を、約10mg/kgまでのように、より低いレベルに制限することができるが、ここで全ての重量は、活性化合物の重量に基づいて計算し、塩を用いる症例も含まれる。経口投与に対して、約10mg/kgから約50mg/kgまでの投与量を用いることができる。一般的に、筋肉内注射に対して、約0.5mg/kgから5mg/kgまでの投与量を用いることができる。幾つかの実施形態において、静脈注射又は経口投与に対して、約1μmol/kgから約50μmol/kgまで、又は任意に、約22μmol/kg及び約33μmol/kgの化合物の投与量であることができる。
【0056】
本明細書で記載するin vitro及びin vivo検定は、化合物の活性を比較できる方法を提供する。これらの比較の結果は、アクチン細胞骨格再編成の防止をするために、ヒトを含む哺乳動物における投与量を決定する上で有用である。このような検定が、化学式Iの化合物と他の化合物の活性を比較するために提供される。これらの比較の結果は、このような投与量レベルを決定するために有用である。
【0057】
本発明の方法に従い、本明細書で記載した医薬的に活性な化合物を、固体又は液体として経口的に投与することができて、又は溶液、懸濁物又は乳濁液として、筋肉内注射、静脈内注射、又は気道を通して(例えば、吸入)投与することができる。幾つかの実施形態において、化合物又は塩は、リポソーム懸濁物として、吸入、静脈注射、又は筋肉内注射により投与することができる。吸入による投与の際、活性化合物又は塩は、複数個の粒子サイズ約0.5から約5ミクロン及び任意に約1から約2ミクロンを持つ固体粒子又はドロップの形であることができる。
【0058】
医薬的処方は、医薬的に許容された何れかの担体中の本明細書に記載した活性化合物、又はこの医薬的に許容された塩を含むことができる。もし溶液を所望ならば、水溶性の化合物又は塩に関しては、水が選択の担体である。水溶性の化合物又は塩に関して、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物のような有機媒体が適切であることができる。後者の場合、有機媒体は、かなりの量の水を含むことができる。どちらの場合の溶液も、当業者既知の適切な方法で滅菌することができて、一般的には0.22ミクロンフィルターを通す濾過による。滅菌後、溶液は、脱パイロジェン化したガラスバイアルのような適切な容器に分配することができる。この分配は、任意に無菌的方法で行う。その後、バイアルを滅菌した栓で閉じ、また、もし所望ならば、バイアルの内容物を凍結乾燥できる。
【0059】
活性化合物又はその塩(例えば、化学式(I)の化合物)に加えて、医薬処方物は、pH−調節添加物のような他の添加物を含むことができる。特に、有用なpH−調節試薬としては、塩酸のような酸;塩基;又は乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムクエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム又はグルコン酸ナトリウムのような緩衝剤;が含まれる。さらに、この処方物は、抗微生物防腐剤を含むことができる。有用な抗微生物防腐剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びベンジルアルコールがある。一般的に、この抗微生物防腐剤は、処方物が多数回投与用にデザインしたバイアルに入っている場合使われる。本明細書に記載したこの医薬処方物は、当業者既知の技術を用いて凍結乾燥できる。
【0060】
経口投与のために、医薬組成物は、溶液、懸濁物、錠剤、ピル、カプセル、粉末、等々の形態を取ることができる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及びリン酸カルシウムのような様々な賦形剤を含む錠剤が、ポリビニルピロリドン、砂糖、ゼラチン、及びアカシアのような接着剤と共に、澱粉(例えば、ポテト又はタピオカ澱粉)及びある種の複合ケイ酸塩のような錠剤崩壊剤と共に使われる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石のような潤滑剤がしばしば、錠剤化の目的に非常に有用である。同様の固体組成物がまた、緩く及び硬く詰めたゼラチンカプセル内の詰め物として使われる。このことに関連した材料として、高分子量ポリエチレングリコールのみならず乳糖、又はミルク砂糖がある。経口投与のために、水溶性懸濁物及び/又はエレキシール剤が所望ならば、本発明の化合物を、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及び様々な類似の組合せの稀釈剤だけでなく、様々な甘味料、香料添加剤、着色剤、乳化剤、及び/又は懸濁剤と組み合わせることができる。
【0061】
本発明の他の実施形態において、本明細書に記載の活性化合物又はこの塩を含む注射可能な、安定した、無菌処方物が密封した容器内の単一投与物として提供される。化合物又は塩は、凍結乾燥物として提供され、これは適切な医薬的に許容された担体と再構成して、患者への注射に適した液体処方物を作成することができる。化合物又は塩が実質的に非水溶性の場合、水性担体に化合物又は塩を乳化させるために生理学的に許容された充分量の乳化剤を充分に使うことができる。特に有用な乳化剤としては、ホスファチジルコリン、及びレシチンがある。
【0062】
本明細書に提供されている更なる実施形態として、本発明の活性化合物のリポソーム処方物がある。リポソーム懸濁物作成の技法は、当業者に既知である。化合物が水溶性の塩であり、従来のリポソーム技法を用いる場合、脂質小胞に同じ物が取り込まれる。このような場合、活性化合物の水溶性のために、活性化合物は、リポソームの親水性中心又はコア内に実質的に集まる。用いられる脂質層は、何れかの従来の組成物であることができて、コレステロールを含むことができる、又はコレステロールフリーであることができる。所与の活性化合物が非水溶性で、再度、従来型のリポソーム形成技法を用いる場合、塩は、リポソームの構造を形成する疎水性脂質2重層内に実質的に集まる。どちらの場合も、標準的超音波及びホモジナイザー技術を使うことにより、作成されるリポソームサイズは小さくなる。本発明の活性化合物を含むリポソーム処方物は、凍結乾燥して、凍結乾燥物を作成することができて、これは水のような医薬的に許容された担体と再構成して、リポソーム懸濁物を再生することができる。
【0063】
吸入による煙霧剤として投与に適した医薬処方物もまた提供する。これらの処方物は、本明細書に記載した所望の化合物又はその塩の溶液又は懸濁物、又は化合物又は塩の固体粒子を含む。所望の処方物を、小容器に入れ、霧化することができる。化合物又は塩を含む複数の液滴又は固体粒子を形成するために、霧化は、圧縮空気又は超音波エネルギーにより行うことができる。液滴又は固体粒子の粒子サイズは、約0.5から約10ミクロン、及び任意に、約0.5ミクロンから約5ミクロンの範囲であるべきである。固体粒子は、固体化合物又は塩を、微粉化のような、当業者が既知の適切な手法で処理することにより得ることができる。任意に、固体粒子又は滴のサイズは、約1から約2ミクロンであることができる。この点、市場の噴霧器を、目的を達するために入手可能である。この開示は全参照文献により本明細書に取り込まれているが、米国特許5.628.984に記載された吸入可能な粒子の煙霧化懸濁物を通して、本化合物は投与できる。
【0064】
煙霧剤としての投与に適切な医薬処方物が液体の場合、その処方物は、水を含む担体中に溶かした水溶性活性化合物を含むことができる。界面活性剤を加えることができて、これにより処方物の表面張力が充分に低下し、噴霧の際に所望のサイズ範囲に液滴が形成される。
【0065】
既述のように、水溶性及び非水溶性活性化合物を提供する。本明細書で用いるように、用語"水溶性"は、約50mg/mL以上の量が水に溶けるいずれかの組成物を定義することを意味する。また、本明細書で用いるように、"非水溶性"は、水に約20mg/mL以下の溶解度であるいずれかの組成物を定義することを意味する。幾つかの実施形態において、水溶性化合物又は塩が好ましいが、他の実施形態においては、非水溶性化合物又は塩が同様に好ましい。
【0066】
1つの投与法として、虚血の危険がある場合、本発明の化合物を、手術の前(例えば、心臓手術又は移植手術の24時間前以内)、手術中及び/又は手術後(手術後24時間以内)に投与することができる。他の投与法として、活性化合物を、手術前に初回投与量(例えば、ボーラス注射又はボーラス輸液)を投与し、その後、手術前、手術中及び手術後に常に輸液により投与することができる。この活性化合物を長期間毎日行う投与法で投与することができる。
【0067】
様々な医薬組成物及びある量の活性成分を伴う組成物の調製法は、本発明の観点から、当業者により、知られ、又は決定できる。医薬組成物の調整法の例として、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easter, Pa., 第16版 (1980)を参照のこと。本発明に従う医薬組成物は、例えば、0.0001%〜95%の活性化合物を含むことができる。いずれにしても、投与すべき組成物又は処方物は、治療される患者の疾患及び/又は病態を治療するに効果的な量の活性化合物(複数もあり)を含むことができる。
【0068】
幾つかの実施形態において、本発明の方法を、体外組織又は器官;又は提供者の組織又は器官から移植受給者に移植される組織又は器官;におけるアクチン細胞骨格再編成及び/又は細胞間ギャップ形成を防止する、又は減少させるために用いることができる。体外組織又は器官は、個人の中に存在しない組織又は器官である(ex vivoとも呼ばれる)。組織又は器官移植に対して、取り除かれた提供者の組織又は器官もまた、採取の間、輸送の間、及びその後の受給者への移植の間、再還流障害を受けやすい。本発明の方法を用いて、例えば、移植可能な組織又は器官を維持又は保存するために用いる溶液を補強することにより、移植可能な組織又は器官の生存率を高めることができる。例えば、この方法及び組成物を、輸送の間移植可能な組織又は器官を浸けるために用いることができる、又は移植前、移植の間、又は移植後、移植可能な組織又は器官と接触させて置くことができる。幾つかの実施形態において、本発明の処方物を、組織又は器官が提供者の中に在るときに組織又は器官と接触させることができる。
【0069】
本発明の溶液を、還流装置(例えば、ex vivo還流回路)に入れて用いることができる。本明細書で用いる還流装置は、特定の器官に注入するために用いる何れかの機械装置、又は化合物又は組成物を含む溶液を用いる全体的循環である。このような装置は、1以上のリザーバーを含む。この装置は、チューブ、カテーテル、又はカニューレを含み、これをリザーバーに接続して、器官、静脈又は動脈に挿入することができる。この装置は、電気ポンプ;及び溶液の温度、輸送速度、容量を制御するための装置;を有する電気機械装置である。ある実施形態において、この装置は、1以上の溶液を、特定の臨床場面、器官の重量、又は器官のサイズ(例えば、心肺バイパス手術、対、腎臓移植、対、肝臓移植)のため適切な温度、速度又は容量に合わせて輸送するようにプログラムが可能である。
【0070】
VII.患者
幾つかの実施形態において、本発明において治療される患者は、好ましくはヒトであるが、本明細書に記載した方法は、用語"患者"に含めることを意図している、あらゆる脊椎動物種に関して有効であるということを理解すべきである。本明細書に記載した方法は、温血脊椎動物の細胞におけるアクチン細胞骨格再編成の治療及び/又は防止において特に有用である。従って、この方法は、哺乳動物及び鳥の治療として用いることができる。幾つかの実施形態において、本明細書に開示した方法の患者は、器官移植受給者である。
【0071】
より詳細には、本明細書において、ヒトのような哺乳動物、及び(シベリアトラのように)絶滅の危機にある哺乳動物、経済的に重要な哺乳動物(ヒトに消費されるために農場で育つ動物)及び/又はヒトに対して社会的に重要な哺乳動物(ペット又は動物園で維持される動物)、例えば、(ネコ、イヌのような)ヒト以外の肉食動物、スワイン(ブタ、ホッグ及び野生イノシシ)、(畜牛、雄牛、羊、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、及びラクダのような)反芻動物、及びウマの治療が提供される。また、絶滅の危機にある種のトリの治療を含め、動物園に又はペットとして飼育されている、及びニワトリ及び、さらにとりわけ、家禽等々、即ち七面鳥、チッキン、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウ等々これらはまたヒトにとって経済的に重要であるが、これらの治療が提供される。従って、本明細書に記載される方法の実施形態は、家畜スワイン(ブタ及びホッグ)、反芻動物、馬、家禽等々を含む、がこれらに制限されない、家畜の治療を含む。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、例証となる実施形態を提供する。本発明及び当業者の一般的レベルを考えると、以下の実施例は、例証を意図しており、無数の変更、修正、及び変更を、本発明の範囲から離れることなく、行うことができることを技術者は理解することができる。
【0073】
実施例1 一般的方法
温肺IRIの細胞培養モデル
虚血をモデル化するために、密封したPLEXIGLAS(R)容器内の培養ディッシュに新鮮な培地の供給によりモデル化した再還流を伴う、100%酸素中で栄養の枯渇を用いるIRIのin vitro正常温(37℃)モデルを開発した。
5%CO2の加湿インキュベーターの中で37℃でCLONETICS(R)EGM-2MV BULLETKITS(R)(Cambrex Bio Science, Walkersville, Maryland, USA)内に維持したヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)(Cambrex Bio Science, Walkersville, Maryland、USA)を、コラーゲンを塗布した直径30mmのガラス底ディッシュのカバースリップ(Mattek Corp., Ashland, Massachusetts、USA)上に2000細胞/cmの密度で蒔種し、100%コンフルエンス(集密状態)になるまで増殖させた。37℃の培養皿を収容する密閉したPLEXIGLAS(R)容器を、95%O/5%COでガス交換した。温虚血(WI)をモデル化するために、細胞培地を突然2mLの栄養を枯渇させたパイロジェンフリー(パイロジェンを含まない)の臨床級の乳酸リンゲル液に置き変えた。温虚血(WI)の1時間前に、ディッシュを、1μg/mLのCRX-526(GlaxoSmithKline, Duluth, Minnesota、USA)又は媒体(2%グリセリン)で前処理した。CRX-526及び媒体を、培地交換の際いつも加えた。1時間の模擬虚血の後、模擬再還流を行うために、乳酸リンゲル液をEGM2-MVパイロジェンフリー培地に置き換え、容器内を5%COを含む大気でガス交換した。温虚血(WI)及び再還流の間に3組のディッシュを取り出し、直ちにファロディアン染色のために4%パラホルムアルデヒドで固定した。阻害剤又は媒体処理の細胞を、加湿した5%CO2インキュベーター中で、37℃でEGM2-MV培地中に対照として維持した。実験ディッシュにおける培地交換と同時に培養培地を交換した。密封したポートを通して挿入したプローブで、PicoRecordedソフトウェア(Pico Technology, St. Neots、英国)を用いて記録するデータ出力を備えた電圧計により連続的にPLEXIGLAS(R)ボックス中の代表的ディッシュの温度及びpHを記録した。
【0074】
ファロイジン染色及び画像解析
ヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)を4%パラホルムアルデヒド中、室温、10分間で固定し、PBSで3回洗浄した。細胞を1%BSA及び0.05%Tween 20を溶かしたPBS中でALEXAFLOR(R)568 ファロイジン(Invitrogen, Carlsbad, California、USA)の1/100稀釈液で1時間インキュベートした。F−アクチンに対して染色したカバースリップを、Leica DMIRB 倒立蛍光/DIC 顕微鏡(Leica Microsystems, Inc., Bannockburn, Illinois、USA)を用いて倍率20倍及び40倍で直ちに調べ、細胞の形及びF−アクチン細胞骨格の変化を評価した。各ディッシュに対し、同一露光時間でKodak (Rochester, New York, USA)デジタルカメラを用いて、倍率40倍で、ディッシュの中心近くの連続視野から3組の画像を撮影した。覆面観察者が、各細胞のアクチンストレスファイバーが正常であるか、又は異常であるか判定した。ギャップ領域の定量解析は、METAMORPH(R)ソフトウェア(MDS Analytical Technologies, Inc., Sunnyvale, California、USA)を用いて行った。
【0075】
細胞培養実験に対する生存率測定
3組の別々の実験において、P35ディッシュ上にコンフルエンス(集密状態)にまで増殖したHMEVCに模擬IRIを行った。製造者の取扱説明書に従い、同一時点で、細胞及び培養培地又は乳酸リンゲル液の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性をCytoTox96非放射活性細胞毒性検定(Promega, Madison, Wisconsin、USA)を用いて検定した。ゼロ時点及び24時間時点で、実験モデルとは別に細胞生存率を検定するために、また対照試料を採取した。培養培地及び乳酸リンゲル液をバックグランド対照として用いて、他の試料からの吸光度を基準化した。細胞毒性を、培地LDH活性/全LDH活性(細胞ペレットと培地の和)として計算した。生存率は細胞毒性の逆数であり、各時点における%生存率として表した。
【0076】
統計解析
全てのデータを平均値±SEMで報告する。各群を、STATISTICA(R)(StatSoft, Inc., Tulsa, Oklahoma、USA)を使いTukeyの事後t検定を用いたANOVAを用いて、又は両側t検定又は片側t−検定を用いて比較した。
【0077】
実施例2 CRX-526により阻害される、模擬温虚血−関連のアクチン細胞骨格再編成及び内皮細胞単層培養におけるギャップ形成
虚血のin vitroモデルを用いて、肺微少血管内皮細胞に焦点を当てて、細胞骨格再編成の阻害を探求した。以前の虚血関連の研究は、1時間の虚血後ラット肺の濾過計数及びW/Dの著しい増加を示し、肺上皮液の除去の変化もまた、肺水腫に寄与しているが、これは内皮細胞機能不全(Jones 他, J. Appl. Physiol. 83, 247-252 (1997)を参照のこと。)に帰因する。Matthay 他, Proc. Am. Thorac. Soc., 2(3), 206-213 (2005)を参照のこと。他の以前の研究は、IRIの細胞培養モデルとして低酸素−再酸素送入を用いた。Powell 及びJackson, Am. J. Physiol. Lung Cell Mol. Physiol., 285(1), L189-198 (2003); 及び Zhang, 他, J. Biol. Chem., 278(2), 1248-1258 (2003)を参照のこと。しかしながら、pH6.8までの肺アシドーシスが、顕著な低酸素のない心臓停止後1時間37℃in situに放置されたラット肺に観察された。Koukoulis 他, J. Heart Lung Transplant, 24(12), 2218-2225 (2005)を参照のこと。従って、低酸素は、特に100%酸素で膨張した肺においては、肺虚血の一般的特徴とは見えない様である。従って、栄養枯渇及びアシドーシスの進行は、in vivoではもっと漸進的であろうが、本明細書に開示したin vitroモデルは、in vivo事象を正確に反映していると信じられる。
【0078】
実施例1に記載したように、カバースリップを組み込んだP30ディッシュ上でコンフルエンス(集密状態)まで増殖したヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)を95%O/5%COでガス交換して、1μg/mLCRX-526又は媒体とインキュベートした。培地を温(37℃)乳酸リンゲル液に置き変えて、100%Oでガス交換して、模擬温虚血を行った。
1時間後、乳酸リンゲル液を温細胞培養培地に置き変えて、容器を95%室温/5%COでガス交換することにより、模擬再還流を行った。
模擬温虚血の間アクチンストレスファイバーは消失し又は細胞内でより周辺に移り(図1A灰色矢印を参照のこと。)、内皮単層培養におけるギャップ形成と関係する(図1A白色矢印を参照のこと。)。模擬再還流4時間後及び模擬再還流24時間後、単層はコンフルエンス(集密状態)になり、アクチン細胞骨格パターンは対照と同様になった。
【0079】
CRX-526存在下において、虚血の間では単層ギャップの面積は顕著に小さく、模擬再還流後には単層はより早くコンフルエンス(集密状態)になった(図1B)。単層における変化したアクチン細胞骨格を持つ細胞の割合もまた、CRX-526により減少した(図1C)。図1Cに示すように、新規対照ディッシュにおいても、約40%の細胞に、ある程度の周辺志向性(アクチン異常性)がある。60分の温虚血(WI)後及び15分の模擬再還流(rep)後、媒体に曝した単層と比較して、CRX-526存在下では、アクチンの周辺志向性は有意に低い。LDH検定で定量した細胞生存率は、全ての時点において、対照群と処理群の間で等しかった。
【0080】
培地を乳酸リンゲル液と交換すると、pHは突然7.2から6.5に下がり、培地に戻すとpHも元に戻る。内皮細胞単層におけるギャップ形成が、pH変化だけに依るのかどうか解決するために、細胞培養培地のpHを1時間変化させ、容器のガス交換を10%CO(pH6.8)、又はHClを加えて培地のpHを6.5(100%Oのガス交換の場合)又は5.6(5%COガス交換の場合)に減少させる実験を行った。1時間後、突然pHを元に戻すために、交換した培地を正常培地に置き換えた。pHだけを変えても、単層の全体像には変化が見られなかった。
【0081】
実施例3 模擬冷IRI
上記実施例2に記載した模擬温IRIに曝したヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)におけるアクチン細胞骨格再編成及びギャップ形成へのCRX-526の目覚ましい効果を考慮して、CRX-526の模擬冷IRIモデルへの効果もまた研究した。
図2Aは、温細胞培養培地を、ヒト肺微少血管内皮細胞(HMVEC)に対して世界中で最も普通に使われる肺保存溶液である冷PERFADEX(TM)(媒体)に置き変えた効果を示す。細胞培養ディッシュが4℃に達するために約1時間要するので、図2Aにおいて、4時間の冷"虚血"(CI)後の細胞写真は、温培地を冷PERFADEX(TM)又は培地に置き換えた後5時間の細胞の様子を示す。アクチン細胞骨格は、全てのディッシュにおいて乱れているにもかかわらず、CRX-526処理細胞においてギャップはずっと少ない(図2B)。

なお、本発明の様々な詳細は、本発明の範囲から離れることなく変えることができることを理解すべきである。さらに、上記の記載は、例証だけを目的にしており、制限を目的にしたものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を、有効量の化合物又は医薬的に許容されたこの化合物の塩と接触させることから成る、細胞におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する又は減少させる方法であって、この化合物が下記化学式(I)で表される方法。
【化1】

式中、
nは、1〜6の整数を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
,R及びRは、それぞれ独立して、C〜C16アシル基を表し、ここでR,R及びRのうち少なくとも1つはC〜Cアシル基を表し、
は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH、及び(CHC(=O)OH(式中、mは0〜2の整数を表す。)からなる群より選択され、
,R及びRは、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基を表す。
【請求項2】
nが1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
及びXが、それぞれ、酸素原子である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
が、−C(=O)OHである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
,R及びRが、それぞれ、C〜Cアシル基を表す請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記化学式(I)で表される化合物において、
nが1を表し、
が酸素原子を表し、
が酸素原子を表し、
,R及びRが、それぞれ、−C(=O)(CHCHを表し、
が−C(=O)OHを表し、及び
,R及びRが、それぞれ、−(CH10CHを表す、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が哺乳動物細胞である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が内皮細胞である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する又は減少させることが、この細胞と、この細胞を取り巻く1以上の他の細胞との間の細胞間ギャップ形成を防止する又は減少させる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞との接触が、虚血又は虚血−再還流関連事象以前、虚血の間、又は虚血期間後に起こり、且つ前記細胞におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する又は減少させることが、虚血又は虚血−再還流関連事象に関わるアクチン細胞骨格再編成を防止する又は減少させる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
患者に、有効量の化合物又は医薬的に許容されたこの化合物の塩を投与することから成る、患者における1以上の細胞におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する又は減少させる方法であって、この化合物が下記化学式(I)で表される方法。
【化1】

式中、
nは、1〜6の整数を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
は酸素原子又はイオウ原子を表し、
,R及びRは、それぞれ独立して、C〜C16アシル基を表し、ここでR,R及びRのうち少なくとも1つはC〜Cアシル基を表し、
は、水素原子,ヒドロキシルアルキル基、−C(=O)NH、及び(CHC(=O)OH(式中、mは0〜2の整数を表す。)からなる群より選択され、
,R及びRは、それぞれ独立して、C10〜C12アルキル基を表す。
【請求項12】
nが1である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
及びXが、それぞれ、酸素原子である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
が、−C(=O)OHである請求項11に記載の方法。
【請求項15】
,R及びRが、それぞれ、C〜Cアシル基を表す請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記化学式(I)で表される化合物において、
nが1を表し、
が酸素原子を表し、
が酸素原子を表し、
,R及びRが、それぞれ、−C(=O)(CHCHを表し、
が−C(=O)OHを表し、及び
,R及びRが、それぞれ、−(CH10CHを表す、
請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記患者における1以上の細胞におけるアクチン細胞骨格再編成を防止する又は減少させることが、この患者におけるアクチン細胞骨格再編成の増加に関連する疾患又は病態又はその症候を予防又は緩和する請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記患者が哺乳動物である請求項11に記載の方法。

【図1B】
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【図1C】
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【図2B】
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【図1A】
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【図2A】
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【公表番号】特表2011−516572(P2011−516572A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504178(P2011−504178)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/040098
【国際公開番号】WO2009/126822
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】