説明

アクティブマウント

【課題】 アクチュエータ15の振動板154の過大変位や永久磁石152への吸着を防止して、優れた性能を発揮し得るアクティブマウントを提供する。
【解決手段】 アクチュエータ15における振動板154の永久磁石152との対向面に、非磁性体からなるストッパ18が設けられている。このストッパ18は、振動入力に伴い第一液室Aの液圧が上昇した時の振動板154の上方変位を制限し、この振動板154と永久磁石152との間に作用する磁力が、板ばね155と弾性体156による復帰力よりも大きくならないようにするものである。また、前記振動板154の下面外周部には、エラストマあるいは合成樹脂等からなる第二のストッパ19が、ケース11の環状ケース部材112の内周段差面112aと対向して設けられている。この第二のストッパ19は、振動入力に伴い第一液室Aの液圧が負圧状態になった時の前記振動板154の下方変位を制限するものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば自動車エンジン等の振動体に対する防振支持手段として用いられるマウントに関し、特に、液体が封入され、振動入力時の液圧変化を制御するアクチュエータを備えたアクティブマウントに関する。
【0002】
【従来の技術】エンジンを車体フレームに防振支持するアクティブマウントの典型的な従来例としては、例えば図5に示されるようなものがある。このアクティブマウント100は、いわゆる液体封入式マウントの一種であって、支持対象のエンジン(図示省略)側に取付ボルト106を介して連結されるケース101と、車体フレーム(図示省略)側に取付ボルト107を介して連結されるセンターボス102との間に、円周方向に連続したエラストマからなる支持ばね103及びダイアフラム104が一体的に設けられ、前記ケース101に設けられたアクチュエータ105と支持ばね103との間、及び前記支持ばね103とダイアフラム104との間に、それぞれ液体が充填されると共にオリフィス100Cを介して互いに連通した第一及び第二液室100A,100Bが画成された構成を有する。
【0003】アクチュエータ105は、第一液室100Aに面した磁性体からなる振動板105aと、この振動板105aを振動変位可能に支持するばね手段105bと、ケース101の内周に封着された磁性体製のヨーク105c及びこれに巻装された励磁コイル105dからなる電磁石105eと、前記ヨーク105c前記振動板105aに適当な隙間を介して対向配置された永久磁石105fとを備え、励磁コイル105dを通電して電磁石105eに変動磁界を発生させることにより、永久磁石105fの磁力との協働において振動板105aを振動させるものである。
【0004】すなわち、このアクティブマウント100は、車体のバウンド等の衝撃による低周波大振幅の変位入力に対しては、支持ばね103が大きな変形を受けることにより、第一及び第二液室100A,100Bの間で封入液がオリフィス100Cを介して反復移動し、この時の流動抵抗によって大きな減衰力及び緩衝性を得る。また、機関振動等による中・高周波域の小振幅の継続的な入力振動に対しては、その振動を検出するセンサ(図示省略)からの信号に応じて駆動されるアクチュエータ105の振動板105aが、振動入力による封入液の圧力変動を相殺する逆位相の脈圧を液室100A内の封入液に与えることによって、動ばね定数を低下させて優れた振動絶縁性を発揮する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】この種のアクティブマウントにおいて、アクチュエータ105の電磁石105における消費電力を低減させるためには、振動板105aを弾性的に支持しているばね手段105bのばね定数を低くする必要がある。ところがこの場合、過渡的に大振幅の振動が入力されることにより第一液室100Aの液圧が大きく変動すると、これによって振動板105aが大きく上下変位し、ばね手段105bが過大変形されて、その耐久性が低下するおそれがあるため、前記ばね手段105bのばね定数を低くしてアクチュエータ105の消費電力を低減することが困難であった。
【0006】また、第一液室100Aの液圧変動によって振動板105aの変位量が大きくなると、この振動板105aがアクチュエータ105の永久磁石105fに吸着されることがある。そして振動板105aがいったん永久磁石105fに吸着されてしまうと、電磁石105による振動板105aの加振が不可能になり、このため振動入力による封入液の圧力変動を相殺する脈圧を液室100A内の封入液に与えることができず、中・高周波域における振動絶縁機能が損なわれるといった問題があった。
【0007】本発明は、上記のような事情のもとになされたもので、その技術的課題とするところは、アクチュエータの振動板の過大変位や磁気吸着を防止して、優れた性能を発揮し得るアクティブマウントを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上述の技術的課題は本発明によって有効に解決することができる。すなわち本発明に係るアクティブマウントは、ケースとセンターボスとの間に円周方向に連続したエラストマからなる支持ばね及びダイアフラムが一体的に設けられ、前記ケースに設けられたアクチュエータと支持ばねとの間及び前記支持ばねとダイアフラムとの間にそれぞれ液体が充填されると共にオリフィスを介して互いに連通した第一及び第二液室が画成され、前記アクチュエータは、前記第一液室に面してばね手段により支持された磁性体からなる振動板を永久磁石及び電磁石の協動により振動させるものであり、前記振動板の永久磁石側に前記振動板の永久磁石側への変位を制限する非磁性体からなるストッパを備えることによって、前記振動板が前記永久磁石に吸着されるのを防止するものである。更に好ましくは、前記第一液室側への振動板の変位量を制限する第二のストッパを備えるものとする。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は、本発明に係るアクティブマウントの好適な一実施形態を示す概略的な断面図で、参照符号11は複数の環状ケース部材111〜113からなるケース、12はこのケース11の下方に同心的に配置されたセンターボスである。
【0010】ケース11における中間の環状ケース部材112の内周面と、センターボス12のテーパ状に形成された外周面との間には、エラストマで傘状に成形された、円周方向に連続した支持ばね13が加硫接着されている。また、参照符号14はエラストマで蛇腹状に成形されたダイアフラムで、その外周部はケース11における下端の環状ケース部材114の内周面と、加硫接着等により一体的に接合されており、内周部はセンターボス12の下部カバー12aの外周に、加硫接着等により一体的に接合されている。
【0011】ケース11における上端の環状ケース部材111には、その内周を塞ぐようにアクチュエータ15が取り付けられている。このアクチュエータ15は、前記環状ケース部材111の内周に密封的に嵌着された状態で固定された磁性体からなる円盤状のヨーク151a及びその下面の環状凹部内に巻装された励磁コイル151bからなる電磁石151と、前記ヨーク151aの下面における前記励磁コイル151bの内周側に定着された永久磁石152と、前記ケース11における上端の環状ケース部材111と中間のケース部材112との間に挟持された支持環153と、前記永久磁石152の下面と適当な隙間Gを介して対向した状態に配置された磁性体からなる振動板154と、この振動板154の外周部を上端の環状ケース部材111の内周に上下変位可能な状態に弾性的に支持するばね手段としての板ばね155と、前記振動板154の外周部を支持環153の内周に上下変位可能な状態に弾性的に支持すると共に前記支持環153との間をシールする環状のエラストマからなるばね手段としての弾性体156と、を備える。この弾性体156は、支持環153の内周と振動板154の外周に加硫接着等によって一体化されたものである。
【0012】アクチュエータ15における励磁コイル151bには、入力振動を検出するセンサ(図示省略)からの検出信号に基づいて制御された励磁電流が供給されるようになっている。すなわちこのアクチュエータ15は、励磁コイル151bに供給される交流の励磁電流によって、この励磁コイル151bとヨーク151aとで構成される電磁石151の磁力が変化し、振動板154が板ばね155及び弾性体156の変形を伴いながら上下に変位されるもので、永久磁石152の磁力との協働によって、入力振動と同一の振動数で変位されるようになっている。
【0013】ケース11の内周であってアクチュエータ15の振動板154と支持ばね13及びセンターボス12との間には第一液室Aが画成される一方、支持ばね13とダイアフラム14との間には第二液室Bが画成され、これら両液室A,Bには液体が充填されている。ケース11における中間の環状ケース部材112には、その円周方向に沿って延びると共に一端が第一液室Aに開放され、他端が第二液室Bに開放されたオリフィスCが形成されている。すなわち前記第一液室Aと第二液室BはオリフィスCを介して互いに連通しており、このオリフィスCにおける液柱共振周波数は、オリフィスCの流路長さや流路断面積等によって、衝撃等の振動に対応する低周波数域にチューニングされる。
【0014】アクチュエータ15のヨーク151aの上面中央部には当該マウントによる支持対象の振動体である自動車エンジン(図示省略)側に連結するための取付ボルト16が設けられており、すなわち当該アクティブマウントは、ケース11が前記ヨーク151a及び取付ボルト16を介して前記エンジン側に連結されるようになっている。また、センターボス12の下面には、支持体である自動車の車体フレーム(図示省略)側に連結する取付ボルト17が固定されており、すなわち当該アクティブマウントは、センターボス12が取付ボルト17を介して前記車体フレーム側に連結されるようになっている。
【0015】アクチュエータ15における振動板154の上面すなわち永久磁石152との対向面には、図2に一層明瞭に示されるように、非磁性体、例えばエラストマあるいは合成樹脂等からなる板状のストッパ18が設けられている。このストッパ18は、第一液室Aの液圧が上昇した時の振動板154の上方変位を、前記永久磁石152の下面との当接によって制限し、この振動板154と永久磁石152との間に作用する磁力が、板ばね155と弾性体156による復帰力よりも大きくならないようにするものである。
【0016】また、アクチュエータ15における振動板154の下面外周部には、エラストマあるいは合成樹脂等からなる第二のストッパ19が、ケース11における下端の環状ケース部材112の内周段差面112aと対向した状態で設けられている。この第二のストッパ19は、第一液室Aの液圧が負圧状態になった時の前記振動板154の下方変位を、前記内周段差面112aとの当接によって制限するものである。
【0017】上記実施形態によるアクティブマウントは、ケース11側がヨーク151a及び取付ボルト16を介してエンジン側に連結される一方、センターボス12側が取付ボルト17を介して車体フレーム側に連結されることによって、前記エンジンを車体フレーム上に弾性的に支持するものである。
【0018】ここで、支持ばね13のばね定数をK、当該アクティブマウントへの変位入力によって加圧される第一液室Aの液圧をP、この液圧Pの上下方向の受圧面積をSとすると、エンジン側と車体フレーム側との間で上下方向の振動変位Vの入力があった時にケース11側とセンターボス12側との間で伝達される荷重は、支持ばね13の変位によって生じる荷重KVと、液圧Pの変化によって生じる荷重PSとの和である。
【0019】そして例えば走行中の車体のバウンド等の衝撃による低周波大振幅の変位が入力された場合は、上下に大きく相対変位されるケース11とセンターボス12との間で支持ばね13が大きな変形を受けることによる第一液室Aの容積変化に伴い、封入液体がオリフィスCを通じて第一液室Aと第二液室Bとの間を液柱共振によって反復移動する。このため変位入力による第一液室Aの液圧Pの変化が適度に吸収され、すなわち第一液室Aの封入液体を介して伝達される荷重PSが小さくなって優れた緩衝性を得ると共に、オリフィスCを封入液体が流動する際の流動抵抗による高減衰作用によって、衝撃に伴う振動を速やかに収束させる。
【0020】また、エンジンの駆動に伴い発生する機関振動によって、オリフィスCの液柱共振周波数よりも周波数の高い、中・高周波域の継続的な小振幅の振動変位が入力された場合は、オリフィスCにおける液柱慣性が大きくなり、第一液室Aと第二液室Bとの間でオリフィスCでの液柱共振による封入液体の反復移動が起こらなくなるが、この場合、アクチュエータ15における電磁石151の励磁コイル151bに、前記入力振動と対応するように制御された励磁電流を与えることによって、前記アクチュエータ15の振動板154が上下に反復変位され、前記振動入力による液圧Pの変動を相殺する脈圧が封入液体に与えられる。したがって振動入力時に第一液室Aの封入液体を介して伝達される荷重PSの変化が小さくなり、振動絶縁性が向上する。
【0021】ところで、振動板154は第一液室Aの液圧Pの変動を受けるが、前記液圧Pが上昇することによる振動板154の上方変位は、この振動板154の上面に設けられたストッパ18が永久磁石152と当接することによって制限される。また、第一液室Aの液圧Pが負圧状態になることによる振動板154の下方変位は、この振動板154の下面外周部に設けられた第二のストッパ19が、環状ケース部材112の内周段差面112aと当接することによって制限される。このため、板ばね155及び弾性体156が過大な変形を受けない。
【0022】また、先の説明のとおり、ストッパ18はその肉厚によって、振動板154と永久磁石152との間に作用する磁力が、板ばね155と弾性体156による復帰力よりも大きくならない範囲に、振動板154の上方変位を制限するものである。このため、過大入力時に振動板154が永久磁石152に吸着された状態となってしまうようなことが有効に防止され、中・高周波域の継続的な小振幅の振動入力時に、液圧Pの変動を相殺する脈動を封入液体に与えることによって振動絶縁性を向上させるといった機能が損なわれない。
【0023】また、第一液室Aの液圧Pによる振動板154の上下変位量が制限されることによって、例えば低周波大振幅の変位が入力された時の第一及び第二液室A,B間でのオリフィスCにおける流量が確保されるので、優れた緩衝効果及び高減衰効果が得られる。しかも、このような理由から、板ばね155及び弾性体156のばね定数を低くすることができ、その結果、振動板154を上下変位させるのに必要な励磁コイル151bへの励磁電流の供給による消費電力を低減することができる。
【0024】本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば図3あるいは図4に示されるような種々の変更が可能である。このうち図3は永久磁石152が環状であって、ストッパ18が振動板154の上面に前記永久磁石152の内周側のヨーク151aの下面と対向する位置に設けられているものである。また、図4は、第二のストッパ19が支持ばね13を形成しているエラストマの一部を延在させることによって、環状ケース部材112の内周段差面112aに、振動板154の下面外周部と対向して設けられたもので、前記支持ばね13と一体に成形することができる。
【0025】更に、ストッパ18は例えば振動板154の上面と対向させて、ヨーク151a又は永久磁石152の下面に設けても良い。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係るアクティブマウントによると、第一液室の液圧変動による振動板の変位が、ストッパ及び第二のストッパによって制限されるので、振動板を弾性的に支持しているばね及び弾性体の耐久性が向上すると共に、低周波大振幅の変位入力時のオリフィスでの流量が確保されるので、優れた緩衝効果及び高減衰効果が得られる。また、振動板の上方変位がストッパで制限されることによって、この振動板が永久磁石に吸着状態になることがなく、したがって中・高周波域の小振幅の振動入力時に、第一液室の液圧変動を相殺する脈動を封入液体に与える機能が損なわれない。またこのため、振動板を弾性的に支持しているばねのばね定数を低くして、振動板を動作させるためのアクチュエータの消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアクティブマウントの好ましい一実施形態を示す断面図である。
【図2】上記実施形態における要部を拡大して示す部分的な断面図である。
【図3】他の実施形態における要部を拡大して示す部分的な断面図である。
【図4】他の実施形態における要部を拡大して示す部分的な断面図である。
【図5】従来技術に係るアクティブマウントの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
11 ケース
111〜113 ケース部材
112a 内周段差面
12 センターボス
13 支持ばね
14 ダイアフラム
15 アクチュエータ
151 電磁石
151a ヨーク
151b 励磁コイル
152 永久磁石
153 支持環
154 振動板
155 板ばね(ばね手段)
156 弾性体(ばね手段)
16,17 取付ボルト
18 ストッパ
19 第二のストッパ
A 第一液室
B 第二液室
C オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケース(11)とセンターボス(12)との間に円周方向に連続したエラストマからなる支持ばね(13)及びダイアフラム(14)が一体的に設けられ、前記ケース(11)に設けられたアクチュエータ(15)と支持ばね(13)との間及び前記支持ばね(13)とダイアフラム(14)との間にそれぞれ液体が充填されると共にオリフィス(C)を介して互いに連通した第一及び第二液室(A,B)が画成され、前記アクチュエータ(15)は、前記第一液室(A)に面してばね手段(155,156)により支持された磁性体からなる振動板(154)を永久磁石(152)及び電磁石(151)の協動により振動させるものであり、前記振動板(154)永久磁石(152)側に前記振動板(154)の永久磁石(152)側への変位を制限する非磁性体からなるストッパ(18)を備えることを特徴とするアクティブマウント。
【請求項2】 第一液室(A)側への振動板(154)の変位量を制限する第二のストッパ(19)を備えることを特徴とする請求項1に記載のアクティブマウント。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−59540(P2001−59540A)
【公開日】平成13年3月6日(2001.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−233703
【出願日】平成11年8月20日(1999.8.20)
【出願人】(000102681)エヌ・オー・ケー・ビブラコースティック株式会社 (2)
【Fターム(参考)】