説明

アクリルアミドの製造方法

【課題】ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒等により、より効率よく、しかもより高品質なアクリルアミドを製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの活性メチレン基を有する化合物、および/または少なくとも1つのその化合物の塩が存在する条件で、アクリルニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体、またはその菌体処理物により水和反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルアミドを製造する方法に関し、より詳細には、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体等により、効率よくアクリロニトリルを水和して、品質の優れたアクリルアミドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドの主要な製造方法としては、アクリロニトリルを水和反応する方法が挙げられ、例えば、ラネー銅等の金属銅触媒により水和反応する方法、あるいはニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体およびその菌体処理物等を触媒として水和反応する方法が知られている。
【0003】
これらの中でも、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体等を触媒とするアクリルアミドの製造方法では、従来の金属銅触媒等により水和反応する方法に比べて、アクリロニトリルの転化率、および選択率が高いことから工業的製造方法としても注目を浴びている。
【0004】
このニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体等を触媒として、より高品質なアクリルアミドを効率よく製造するためには、微生物菌体等の触媒作用を阻害する不純物をできる限り除去する必要がある。
【0005】
またこのような反応により得られるアクリルアミドは、主としてアクリルアミド系重合体の原料として用いられるが、近年、このアクリルアミド系重合体は、より一層の高品質化が求められている。例えば、アクリルアミド系重合体の用途には凝集剤があるが、凝集剤として用いられるアクリルアミド系重合体は、近年、性能向上の要求に伴い、水溶性を維持しながらより一層の高分子量化が求められている。またアクリルアミド系重合体には、製紙用添加剤等の用途があるが、この製紙剤添加剤としては、得られる紙の品質をさらに向上させるために、より色調の優れた重合体が求められている。
【0006】
ニトリルヒドラターゼを含む菌体触媒等により得られるアクリルアミドの品質、あるいはポリアクリルアミドを品質を改善する方法として、ニトリル化合物中の青酸濃度を化学的方法により低減させた後、ニトリル化合物にニトリルヒドラターゼを作用させるアミド化合物の製造方法(例えば、特許文献1参照。)、アクリロニトリル中に不純物として含まれるオキサゾール、青酸を低減して、アクリロニトリルをアクリルアミドに変換し、このアクリルアミドからアクリルアミド系重合体を製造する方法(例えば、特許文献2)などが知られている。
【0007】
しかしながら、これら文献に開示される不純物の除去方法によっても、微生物菌体等の触媒作用を阻害する物質を完全に除去することは困難であり、効率よくアクリロニトリルの水和反応をするという観点からはいまだ改善の余地があった。
【0008】
また上記文献に開示された方法はアクリルアミド、およびアクリルアミド系重合体の品質向上という観点からもいまだ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−123098号公報
【特許文献2】国際公開第2004/090148号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒等により、より効率よく、しかもより高品質なアクリルアミドを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を検討し、アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体、またはその菌体処理物により水和反応させて、アクリルアミドを製造する際に、同一分子内に活性メチレン基を有する化合物および/またはその化合物の塩が存在する条件で反応を行うと、ニトリルヒドラターゼの触媒活性を維持することができ、しかも高品質なアクリルアミドを得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明のアクリルアミドの製造方法は、
少なくとも1つの活性メチレン基を有する化合物、および/または少なくとも1つのその化合物の塩が存在する条件で、アクリルニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体、またはその菌体処理物により水和反応させることに特徴がある。
【0013】
分子内に活性メチレン基を有する化合物としては、ジメドン、バルビツール酸、ヒダントインからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。また、上記化合物としては、ジメドン、バルビツール酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。
【0014】
また分子内に活性メチレン基を有する化合物の塩としては、ジメドン、バルビツール酸、ヒダントインから選ばれる少なくとも1つの化合物の塩が好ましい。また、上記化合物の塩としては、ジメドン、バルビツール酸からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物の塩が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニトリルヒドラターゼを含む微生物触媒等により、より効率よく、しかもより高品質なアクリルアミドを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず本発明のアクリルアミドの製造方法に用いる原料について説明する。
〔アクリロニトリル〕
本発明で用いるアクリロニトリルは特に制限はない。
【0017】
〔ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体等〕
本発明では上記アクリロニトリルを原料とし、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体およびその菌体処理物等を触媒として水和反応することで、本発明のアクリルアミドを得ることができる。
【0018】
本発明でニトリルヒドラターゼとは、ニトリル化合物を加水分解して対応するアミド化合物を生成する能力をもつ酵素をいう。ここで、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物としては、ニトリル化合物を加水分解して対応するアミド化合物を生成する能力を有するニトリルヒドラターゼを産生し、かつアクリルアミド水溶液中でニトリルヒドラターゼの活性を保持している微生物であれば、特に制限されるものではない。
【0019】
具体的には、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、好熱性のバチルス属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドクロウス(rhodochrous)種に代表されるロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム( Agrobacterium)属またはサーモフィラ(thermophila)種に代表されるシュードノカルディア(Pseudonocardia)属に属する微生物を好適な例として挙げることができる。
【0020】
また、該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で発現させた形質転換体も本発明でいう微生物に含まれる。なお、ここでいう任意の宿主には、後述の実施例のように大腸菌(Escherichia coli)が代表例として挙げられるが、特に大腸菌に限定されるものではなく、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の微生物菌株も含まれる。その様なものの例として、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。また、組換えDNA技術を用いて該酵素の構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入することにより、アクリルアミド耐性やアクリロニトリル耐性、温度耐性をさらに向上させた変異型のニトリルヒドラターゼを発現させた形質転換体も、本発明でいう微生物に含まれる。
【0021】
上記したような微生物を用い、アミド 化合物を製造するに際しては通常、該微生物の菌体あるいは菌体処理物を用いる。菌体は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法を利用して調製すればよい。例えば、LB培地やM9培地等の通常液体培地に該微生物を植菌した後、適当な培養温度(一般的には、20℃〜50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上でもよい)で生育させ、続いて、該微生物を遠心分離によって培養液より分離、回収して得る方法が挙げられる。
【0022】
また、本発明における微生物の菌体処理物は、上記微生物菌体の抽出物や磨砕物、該抽出物や磨砕物のニトリルヒドラターゼ活性画分を分離精製して得られる後分離物、該微生物菌体や該菌体の抽出物、磨砕物、後分離物を適当な担体を用いて固定化した固定化物等を指し、これらはニトリルヒドラターゼの活性を有している限りは本発明の菌体処理物に相当するものである。これらは、単一の種類を用いてもよいし、2種類以上の異なる形態のものを同時あるいは交互に用いてもよい。
【0023】
〔活性メチレン基を有する化合物等〕
本発明では、アクリロニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体等により水和反応させて、アクリルアミドを製造する際に、活性メチレン基を有する化合物、および/またはその塩が存在する条件で反応を行う。
【0024】
上記化合物中に含まれる活性メチレン基とは、例えばOrganic Reactions Vol.15(1967), JOHN WILEY &SONS,INC.刊行、第222〜223頁記載のように、X−CH2−Yの一般式を有し、メチレン基に隣接する、少なくともXおよびYのいずれか1方が、NO2、CN、COR、COAr、CONHR、CONHAr、COOR、COOH、SO2、S、Ar、4級ピリジニウムなどの電子吸引性基であるメチレン基をいう。ただし上記中、Rはアルキル基、Arはアリール基を表す。
【0025】
また本発明においては、これら化合物の塩、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩なども用いることが出来る。
上記活性メチレン基を有する化合物としては、
マロン酸、マロン酸モノエステル、マロン酸アミド、シアノ酢酸、シアノ酢酸アミド、アセト酢酸、アセトアルデヒドスルホン酸、アセトンスルホン酸、スルホ酢酸、スルホ酢酸エステル、スルホ酢酸アミド、ジメドン、バルビツール酸、ヒダントインなどが挙げられる。
【0026】
これら化合物または塩の中でも、ジメドン、バルビツール酸、ヒダントイン、およびこれら化合物の塩が効果および入手の容易さから好ましく、バルビツール酸、およびバルビツール酸の塩が効果の上からより好ましい。
【0027】
また本発明においては上記化合物と塩とを組み合わせて用いてもよい。また、上記化合物を1種単独で用いても、2種以上併用してもよく、上記塩を1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0028】
これら化合物および塩の存在量は、特に限定はないが、得られるアクリルアミドの品質を優れたものとし、またアクリルアミドの精製工程における負荷が過大にならないようにするためには、化合物の存在量は、反応液の全重量に対し通常、10〜10,000重量ppmの範囲、好ましくは50〜5,000重量ppmの範囲である。
【0029】
これらの化合物を存在させる方法としては、後述する反応に用いる水性媒体、または原料アクリロニトリルに溶解して添加する方法、少量の水に溶解させ、あるいはそのまま反応器または反応液の循環系統に注入する方法などがある。
【0030】
〔反応条件〕
本発明においては、通常水性媒体中で、アクリルニトリルを上記菌体等により水和反応させる。ここで本発明における水性媒体とは、水、またはリン酸塩等の緩衝剤、硫酸塩や炭酸塩等の無機塩、アルカリ金属の水酸化物、もしくはアミド 化合物等を適当な濃度で溶解させた水溶液をいう。
【0031】
本発明において、水性媒体中のアクリロニトリルの濃度は、反応開始時において該ニトリル化合物の飽和濃度以上の濃度である。その濃度の上限は特に制限されるものではないが、あまりに大過剰のニトリル化合物の供給は、反応を完結させるために多くの触媒量および過大な容積をもつ反応器、および除熱のための過大な熱交換器等が必要となり、設備面での経済的負担が大きくなる。このため、アクリロニトリルの供給濃度としては、それが全て対応するアクリルアミドに転化したときにその理論的な生成液濃度が、アクリルアミドの場合は40〜80重量%の範囲となるように、より具体的には水1重量部に対しアクリロニトリル0.4〜1.5重量部の範囲で供給することが好ましい。
【0032】
また上記反応での反応時間は触媒使用量や温度等の条件にも左右され得るが、通常、複数の反応器を用いて反応する場合には、1つの反応器当たり1〜80時間の範囲であり、好ましくはそれぞれが2〜40時間の範囲である。
【0033】
触媒の使用量については、反応条件や触媒の種類、およびその形態にも依存するが、通常は該微生物乾燥菌体重量換算で、反応液の重量に対し、10〜50000重量ppm、好ましくは50〜30000重量ppmである。
【0034】
また、水和反応は通常は常圧あるいは常圧近辺で行われるが、水性媒体中へのニトリル化合物の溶解度を高めるために加圧下で行うこともできる。また、反応温度に関しては、水性媒体の氷点以上であれば特に制限されるものではないが、通常は0〜50℃の範囲で行うのが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲である。また、生成物が反応液中に晶出したスラリー状態でも反応を行うことができる。また、上記水和反応時における反応液のpHは、ニトリルヒドラターゼ活性が維持されている限りは特に制限されるものではないが、好ましくはpH6〜10の範囲であり、より好ましくはpH7〜9の範囲である。
【0035】
〔アクリルアミドの精製方法〕
本発明で得られたアクリルアミドから、活性メチレン基を有する化合物等、および上記化合物等と不純物との反応生成物を除き、精製する方法としては、例えばアニオン交換樹脂と接触する方法を挙げることができる。上記アニオン交換樹脂としては、これらの化合物が除去できれば特に制限はなく、弱塩基性または中塩基性または強塩基性アニオン交換樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
本発明において使用できるアニオン交換樹脂としては、レバチットMP62(商品名、ランクセス社製)、ダイヤイオンWA20(商品名、三菱化成社製)、ダウエックス66(商品名、ダウケミカル社製)などのマクロポーラス型弱塩基性樹脂;
レバチットOC1059(商品名、ランクセス社製)等のゲル型弱塩基性樹脂、レバチットMP64(商品名、ランクセス社製)、あるいはアンバーライトIRA68(商品名、オルガノ社製)などのゲル型中塩基性樹脂;
ダウエックスWRG2(商品名、ダウケミカル社製)などのマクロポーラス型中塩基性樹脂;
レバチットMP500(商品名、ランクセス社製)等のマクロポーラス型強塩基性樹脂;アンバーライトIRA400(商品名、オルガノ社製)等のゲル型強塩基性樹脂等が挙げられる。
【0037】
これら市販のアニオン交換樹脂は、十分に水洗した後使用してもよいが、希薄なアルカリ水溶液で前処理した後、十分水洗して使用するのが好ましい。
これらの樹脂は、充填層などの固定層として、アクリルアミド水溶液を連続的に接触、精製できるほか、回分式でも利用できる。しかし、精製効率、運転の容易さなどの理由から固定層として用いることが好ましい。このようにして得られたアクリルアミドは品質に優れ、アクリルアミド単独重合、または他の単量体と共重合し、アクリルアミド系重合体として評価した場合は、水溶性が格段に向上し、しかも十分に高い分子量が得られる。また、得られた重合体の色調に優れる。
【0038】
〔アクリルアミド系重合体の製造〕
本発明のアクリルアミドを用いて、アクリルアミドを単独重合、またはアクリルアミドを、その他の単量体と共重合することができる。
【0039】
アクリルアミドと共重合可能なその他の単量体としては、
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩;
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩;
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルアミノアルキルエステル、またはそれらの第4級アンモニウム誘導体;
N−N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのN−N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの4級アンモニウム誘導体;
アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミドなどの親水性アクリルアミド;
N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン;
ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン;N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミドなどのN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体;
N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミドなどのN−(ω−グリシドキシアルキル)(メタ)アクリルアミド誘導体;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、スチレン、αメチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0040】
これらその他の単量体は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。
アクリルアミドとこれらその他の単量体とを共重合する場合の混合比率については特に制限はないが、通常アクリルアミド100モルに対して、その他の単量体が100モル以下であり、好ましくは50モル以下である。
【0041】
これらモノマーの重合方法としては、例えば、水溶液重合、乳化重合などがある。
これらの中でも水溶液重合の場合は、通常、アクリルアミドと必要に応じて添加するその他の単量体との合計濃度が5〜90重量%とする。
【0042】
重合開始剤としては例えば、ラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、
過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2・2’−アゾビス(4−アミジノプロパン)2塩酸塩、4・4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)などのアゾ系遊離基開始剤;上記過酸化物と重亜硫酸ナトリウム、トリエタノールアミン、硫酸第一鉄アンモニウム等の還元剤を併用するいわゆるレドックス系触媒、ジメチルアミノプロピオニトリルが挙げられる。
【0043】
上記した重合開始剤は1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。重合開始剤の量は、通常、単量体の総重量に対し、0.001〜5重量%の範囲である。
重合温度は、通常、−10〜120℃の範囲であり、より好ましくは0〜90℃の範囲である。また、重合温度は常に一定の温度に保つ必要はなく、重合の進行に伴い適宜変更してもよいが、通常は重合の進行に伴い、重合熱が発生して重合温度が上昇する傾向にあるため、必要に応じ、冷却する場合もある。
【0044】
重合時の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに進行する観点からは、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。
重合時間は特に限定はないが、通常1〜20時間の範囲である。
【0045】
また重合時の水溶液のpHも特に限定はないが、必要に応じpHを調整して重合してもよい。その場合使用可能なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ;リン酸、硫酸、塩酸などの鉱酸;蟻酸、酢酸等の有機酸などが挙げられる。
【0046】
本発明により得られる重合体の分子量は特に制限はないが、通常10万〜5000万の範囲であり、好ましくは50万〜3000万の範囲である。
この様にして得られたアクリルアミド系重合体は、本発明で得られるアクリルアミドが品質に優れるので水溶性が格段に向上し、しかも十分に高い分子量が得られ、また色調にも優れる。したがってこのアクリルアミド系重合体は、凝集剤、製紙用添加剤、石油回収剤などとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[実施例1]
(水和反応時にバルビツール酸添加)
[ニトリルヒドラターゼを含む菌体の培養]
特開2001−340091号の実施例1に記載の方法に従い、No.3クローン菌体を取得し、同じく、同実施例1の方法で培養してニトリルヒドラターゼを含む湿菌体を得た。
【0048】
[アクリルアミドの製造]
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第二反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ40mを準備した。第一反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0049】
上記の培養方法で得られた湿菌体を純水に12重量%となるように懸濁した。第1反応器内を撹拌しながら、この懸濁液を、11g/hの速度で連続的にフィードした。オキサゾール30重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含有するアクリロニトリルを、31g/hの速度で、また、純水にバルビツール酸を添加し、550重量ppmとなるように調合したバルビツール酸水溶液を38g/hの速度で連続的にフィードした。さらに反応pHが7.5〜8.5となるように、0.1M−NaOH水溶液を連続的にフィードした。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出し、第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。
【0050】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液をサンプリングし、HPLCにより分析を行った。その結果、第1反応器出口での、アクリロニトリリルからアクリルアミドへの転化率が90%であり、また、第二反応器出口での生成したアクリルアミドに対するアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)であった。
【0051】
得られた反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去した。さらに、予め1M−NaOH水溶液を用いてOH型にしておいたレバチットMP500を200ml、ガラスカラムに充填し、これに、SV=1(1/h)の速度で通液して、不純物を除去した。最後に、1M−硫酸で中和を行い、pHを7に調整して、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0052】
(ポリマー品質の評価)
[実施例2]
実施例1で得られたアクリルアミド水溶液に、水を加え濃度20重量%のアクリルアミド水溶液とした。この20重量%アクリルアミド水溶液500gを1lポリエチレン容器に入れ、18℃に保ちながら、窒素を通じて液中の溶存酸素を除き、直ちに、発泡スチロール製の保温用ブロックの中に入れた。
【0053】
ついで、200×10-6mpm(アクリルアミドに対するモル比)の4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)、200×10-6mpmのジメチルアミノプロピオニトリル、および80×10-6mpmの過硫酸アンモニウムを各々小量の水に溶解して、この順序に1lポリエチレン容器中に素早く注入した。これらの試薬には、予め窒素ガスを通じておき、また、注入およびその前後には、上記ポリエチレン容器にも少量の窒素ガスを通じ、酸素ガスの混入を防止した。
【0054】
試薬を注入すると、数分間の誘導期の後、ポリエチレン容器の内部の温度が上昇するのが認められたので窒素ガスの供給をとめた。約100分間、保温用ブロック中で、そのままの状態でポリエチレン容器を保持したところ、ポリエチレン容器の内部の温度が約70℃に達した。そこで、ポリエチレン容器を保温用ブロックから取りだし、97℃の水に2時間浸漬しさらに重合反応を進めた。その後冷水に浸漬して冷却し、重合反応を停止した。
【0055】
このようにして得られたアクリルアミドポリマーの含水ゲルをポリエチレン容器から取り出し、小塊にわけ、肉挽器ですりつぶした。このすりつぶしたアクリルアミドポリマーの含水ゲルを、100℃の熱風で2時間乾燥し、さらに、高速回転刃粉砕器で粉砕して乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを得た。
得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述する実施例5のアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0056】
[実施例3]
(水和反応時にバルビツール酸の塩添加)
バルビツール酸水溶液に0.1M−NaOH水溶液を加えて、pHが7.0となるようにバルビツール酸ナトリウム水溶液を作製した。
【0057】
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第二反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ40mを準備した。第一反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0058】
実施例1の培養方法で得られた湿菌体を純水に12重量%となるように懸濁した。第1反応器内を撹拌しながら、この懸濁液を、11g/hの速度で連続的にフィードした。オキサゾール30重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含有するアクリロニトリルを、31g/hの速度で、また、純水に上記バルビツール酸ナトリウム水溶液を添加して、バルビツール酸換算で550重量ppmとなるように調整したバルビツール酸ナトリウム水溶液を38g/hの速度で連続的にフィードした。また反応pHが7.5〜8.5となるように、0.1M−NaOH水溶液を連続的にフィードした。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出し、第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。
【0059】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液をサンプリングし、HPLCにより分析を行った。その結果、第1反応器出口での、アクリロニトリリルからアクリルアミドへの転化率が90%であり、また、第二反応器出口での生成したアクリルアミドに対するアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)であった。
【0060】
得られた反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去した。さらに、予め1M−NaOH水溶液を用いてOH型にしておいたレバチットMP500を200ml、ガラスカラムに充填し、これに、SV=1(1/h)の速度で通液して、不純物を除去した。最後に、1M−硫酸で中和を行い、pHを7に調整して、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0061】
このアクリルアミド水溶液を用いて実施例2と同様の操作を行い、アクリルアミドポリマーサンプルを得た。得られたアクリルアミドポリマーサンプルを後述する実施例5のアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0062】
[実施例4]
(水和反応時にヒダントイン添加)
実施例1において、バルビツール酸の代わりにヒダントインを加えて水溶液とした以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0063】
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液をサンプリングし、HPLCにより分析を行った。その結果、第1反応器出口での、アクリロニトリリルからアクリルアミドへの転化率が91%であり、また、第二反応器出口での生成したアクリルアミドに対するアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)であった。
【0064】
得られた反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去した。さらに、予め1M−NaOH水溶液を用いてOH型にしておいたレバチットMP500を200ml、ガラスカラムに充填し、これに、SV=1(1/h)の速度で通液して、不純物を除去した。最後に、1M−硫酸で中和を行い、pHを7に調整して、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0065】
このアクリルアミド水溶液を用いて実施例2と同様にアクリルアミドポリマーサンプルを得た。得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述する実施例5のアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0066】
[比較例1]
(水和反応時に活性メチレン基を有する化合物を添加しない)
実施例1の培養方法で得られた湿菌体を純水に12重量%となるように懸濁した。第1反応器内を撹拌しながら、この懸濁液を、11g/hの速度で連続的にフィードした。オキサゾール30重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含有するアクリロニトリルを、31g/hの速度で、また、純水を38g/hの速度で連続的にフィードした。また反応pHが7.5〜8.5となるように、0.1M−NaOH水溶液を連続的にフィードした。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出し、第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。
【0067】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液をサンプリングし、HPLCにより分析を行った。その結果、第1反応器出口での、アクリロニトリリルからアクリルアミドへの転化率が87%であり、また、第二反応器出口での生成したアクリルアミドに対するアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)であった。
【0068】
得られた反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去した。さらに、予め1M−NaOH水溶液を用いてOH型にしておいたレバチットMP500を200ml、ガラスカラムに充填し、これに、SV=1(1/h)の速度で通液して、不純物を除去した。最後に、1M−硫酸で中和を行い、pHを7に調整して、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0069】
このアクリルアミド水溶液を用いて実施例2と同様にアクリルアミドポリマーサンプルを得た。得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述する実施例5のアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0070】
[実施例5]
<アクリルアミドポリマーの試験法>
上記実施例2、3、4、比較例1で得られたポリマーサンプルの水溶性の評価、標準粘度の測定、および色調の評価を以下の方法で行った。
水溶性:水溶性は、1 lビーカーに水600mlを入れ、定められた形状の攪拌羽根で25℃で攪拌しながらポリマーサンプル0.66g(純分0.6g)を添加し、400rpmで2時間攪拌を行い、得られた溶液を150メッシュの金網で濾過し、不溶解分の多少と濾過性から、水溶性を判断した。即ち、完溶のものを◎、完溶に近いものを○、不溶解分があるが、それを濾別する事ができるものを△、濾液の通過が遅く、不溶解分の濾過が事実上出来ないものを×とした。
標準粘度:上記の水溶性試験により得られる濾液は、濃度0.1重量%のポリマー水溶液であるが、これに1M濃度相当の塩化ナトリウムを加え、BL型粘度計でBLアダプターを用いて25℃、ローター回転数60rpmで粘度を測定した(標準粘度)。このような方法で得られる標準粘度は分子量に相関のある値として慣用される。
色調:ポリマーの色調についてはポリマ−粉体を目視で評価した。
評価結果を表−1に示した。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの活性メチレン基を有する化合物、および/または少なくとも1つのその化合物の塩であるジメドン、バルビツール酸およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または塩が存在する条件で、アクリルニトリルを、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物の菌体、またはその菌体処理物により水和反応させて、アクリルアミドを製造する方法。

【公開番号】特開2012−61010(P2012−61010A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289340(P2011−289340)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2008−509821(P2008−509821)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】