説明

アクリルアミドの製造方法

【課題】品質の向上したアクリルアミドを製造する方法、および、このアクリルアミドにより高分子量のアクリルアミド系重合体を製造した場合であっても、水溶性、色調が優れる重合体が得られる、アクリルアミド系重合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】ジメドン、バルビツール酸、ヒダントイン、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または少なくとも1つの上記化合物の塩を、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体、またはその菌体処理物を用い、アクリルニトリルを水和して得られるアクリルアミドに添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は品質の向上したアクリルアミドの製造方法およびこの品質が向上したアクリルアミドを用いてアクリルアミド系重合体を製造する方法に関し、より詳細には、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体、およびその菌体処理物を用い、アクリルニトリルを水和して得られるアクリルアミドに、活性メチレン基を有する特定の物質を添加して品質の向上したアクリルアミドを製造する方法およびこのアクリルアミドを用いてアクリルアミド系重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルアミドは主としてアクリルアミド系重合体の原料として用いられているが、近年、このアクリルアミド系重合体にはより一層の高品質化が求められている。例えば、凝集剤として用いられるアクリルアミド系重合体は、近年、性能向上の要求に伴い、水溶性、優れた色調を維持しながらより一層の高分子量化が求められている。
【0003】
そのため、アクリルアミド系重合体とした際に、水溶性など、その品質に悪影響を与えると考えられる、アクリルアミド中の微量不純物は、より一層高精度に無害化することが求められている。
【0004】
このような悪影響を与える不純物としてはアクリルアミドの原料であるアクリロニトリルに含有されるアクロレイン等のアルデヒド類が知られている。アクリルアミドからこのアクロレイン等の悪影響を除く手段としては、例えば、1級および/または2級アミノ基を交換基として有するポーラス形イオン交換樹脂と接触させることによりアクリロニトリル中のアクロレインを除去する方法(例えば、特許文献1参照。)、1級および/または2級アミノ官能基を有するゲル型の弱塩基性イオン交換樹脂と接触させることによりアクリロニトリル中のアルデヒド類、実質的にアクロレインを低減させる方法(例えば、特許文献2参照。)などが知られている。
【0005】
しかし、上記方法による除去方法では、新たにイオン交換樹脂によるアクリロニトリルの精製設備が必要となるばかりでなく、イオン交換樹脂の性能に限界があり、必ずしも十分にアクロレインを除去することができない場合があり、また工業的に、イオン交換樹脂のみによりアクロレインを十分に除去しようとすると、精製工程に多大な負荷がかかり、生産性、生産コストが悪化する場合があった。
【0006】
またこれら方法に代えて、マロン酸、マロン酸モノエステル、シアノ酢酸等の活性メチレン基および酸性基を有する化合物を陰イオン交換樹脂に担持してアクリロニトリル中のアクロレイン等のアルデヒド類を除く方法(例えば、特許文献3参照)や、銅触媒によるアクリロニトリルからアクリルアミドを合成する反応器へ添加して、アクロレイン等アルデヒド類と反応させ、その後、イオン交換樹脂等により除去する方法も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかし前述の方法と同様に、これらの化合物を担持するイオン交換樹脂設備、あるいは、反応液からの除去設備が新たに必要となり設備コストの増大は避けられなかった。また、これらの方法によれば、アクロレインを無害化することはある程度可能であるが、アクロレインを無害化する観点、このアクリルアミドを原料として得られる重合体を高分子量化しながら水溶性、優れた色調を維持するという観点では、いまだ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭58−1108号公報
【特許文献2】特開昭58−134063号公報
【特許文献3】特開2000−15113号公報
【特許文献4】特開平7−291907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体、またはその菌体処理物を用い、アクリルニトリルを水和して得られるアクリルアミドに特定の物質を添加して、より品質の向上したアクリルアミドを製造する方法、および、このアクリルアミドにより高分子量のアクリルアミド系重合体を製造した場合であっても、水溶性、色調が優れる重合体が得られる、アクリルアミド系重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を検討し、ニトリルヒドラターゼを含有する菌体、またはその菌体処理物を用い、アクリルニトリルを水和して得られるアクリルアミドに、ジメドン、バルビツール酸、ヒダントイン、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または塩を添加することで高品質のアクリルアミドが得られること、また、このアクリルアミドにより高分子量の重合体を製造した場合であっても、水溶性、色調等の品質に優れるアクリルアミド系重合体が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明のアクリルアミドの製造方法は、
ニトリルヒドラターゼを含有する菌体、またはその菌体処理物を用い、アクリルニトリルを水和して得られるアクリルアミドに、ジメドン、バルビツール酸、ヒダントイン、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または少なくとも1つの上記化合物の塩をアクリルアミドに添加する点に特徴がある。アクリルアミドに添加される上記化合物および/または塩としては、ジメドン、バルビツール酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または少なくとも1つの上記化合物の塩が好ましい。また本発明のアクリルアミド系重合体は、上記アクリルアミドを単独重合、または上記アクリルアミドと共重合可能な少なくとも1種の不飽和単量体と共重合することにより得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高品質のアクリルアミドが得られ、このアクリルアミドを用いて高分子量の重合体を製造した場合であっても、水溶性、色調等の品質に優れるアクリルアミド系重合体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔アクリルアミド〕
本発明で用いるアクリルアミドは、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物菌体、またはその菌体処理物を触媒とし、アクリロニトリルを水和して得られる。このようにして得られるアクリルアミドは、例えば、銅触媒によりアクリロニトリルを接触水和して得られるアクリルアミドと比べ、一般的に、不純物が少なくアクリルアミドの重合に悪影響を与えない。しかし、品質の向上、およびこのアクリルアミドを重合して得られる重合体の品質については問題となる場合があった。
【0014】
本発明でニトリルヒドラターゼとは、ニトリル化合物を加水分解して対応するアミド化合物を生成する能力をもつ酵素をいう。ここで、ニトリルヒドラターゼを含有する微生物としては、ニトリル化合物を加水分解して対応するアミド化合物を生成する能力を有するニトリルヒドラターゼを産生し、かつアクリルアミド水溶液中でニトリルヒドラターゼの活性を保持している微生物であれば、特に制限されるものではない。
【0015】
具体的には、ノカルディア(Nocardia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス(Bacillus)属、好熱性のバチルス属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ロドクロウス(rhodochrous)種に代表されるロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、キサントバクター(Xanthobacter)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、リゾビウム(Rhizobium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、エアロモナス(Aeromonas)属、シトロバクター(Citrobacter)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、アグロバクテリウム( Agrobacterium)属またはサーモフィラ(thermophila)種に代表されるシュードノカルディア(Pseudonocardia)属に属する微生物を好適な例として挙げることができる。
【0016】
また、該微生物よりクローニングしたニトリルヒドラターゼ遺伝子を任意の宿主で発現させた形質転換体も本発明でいう微生物に含まれる。なお、ここでいう任意の宿主には、後述の実施例のように大腸菌(Escherichia coli)が代表例として挙げられるが、特に大腸菌に限定されるものではなく、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属菌、酵母や放線菌等の他の微生物菌株も含まれる。その様なものの例として、MT−10822(本菌株は、1996年2月7日に茨城県つくば市東1丁目1番3号の通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6 独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)に受託番号FERM BP−5785として、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて寄託されている。)が挙げられる。また、組換えDNA技術を用いて該酵素の構成アミノ酸の1個または2個以上を他のアミノ酸で置換、欠失、削除もしくは挿入することにより、アクリルアミド耐性やアクリロニトリル耐性、温度耐性をさらに向上させた変異型のニトリルヒドラターゼ を発現させた形質転換体も、本発明でいう微生物に含まれる。
【0017】
上記したような微生物を用い、アミド化合物を製造するに際しては通常、該微生物の菌体あるいは菌体処理物を用いる。菌体は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において公知の一般的な方法を利用して調製すればよい。例えば、LB培地やM9培地等の通常液体培地に該微生物を植菌した後、適当な培養温度(一般的には、20℃〜50℃であるが、好熱菌の場合は50℃以上でもよい)で生育させ、続いて、該微生物を遠心分離によって培養液より分離、回収して得る方法が挙げられる。
【0018】
また、本発明における微生物の菌体処理物は、上記微生物菌体の抽出物や磨砕物、該抽出物や磨砕物のニトリルヒドラターゼ活性画分を分離精製して得られる分離物、該微生物菌体や該菌体の抽出物、磨砕物、分離物を適当な担体を用いて固定化した固定化物等を指し、これらはニトリルヒドラターゼの活性を有している限りは本発明の菌体処理物に相当するものである。これらは、単一の種類を用いてもよいし、2種類以上の異なる形態のものを同時あるいは交互に用いてもよい。
【0019】
〔添加化合物および塩〕
本発明では上記アクリルアミドにジメドン、バルビツール酸、ヒダントイン、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または少なくとも1つの上記化合物の塩をアクリルアミドに添加する。
【0020】
これら化合物等をアクリルアミドに添加した場合は、得られるアクリルアミド系重合体がより一層高分子量化でき、しかもより一層水溶性に優れる。上記化合物等としては、ジメドン、バルビツール酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または少なくとも1つの上記化合物の塩が好ましい。
【0021】
また本発明においては上記化合物と塩とを組み合わせて用いてもよい。また、上記化合物を1種単独で用いても、2種以上併用してもよく、上記塩を1種単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0022】
これら化合物および塩の添加量は、特に限定はないが、得られるアクリルアミドの品質を優れたものとし、またアクリルアミドの精製工程における負荷が過大にならないようにするためには、化合物の存在量は、反応液の全重量に対し通常、10〜10000重量ppmの範囲、好ましくは50〜5000重量ppmの範囲である。
【0023】
これら化合物等を添加する方法としては、アクリルアミド水溶液に直接化合物等を添加する方法、また少量の水に溶解させて添加する方法などがある。
このようにして得られたアクリルアミドは、単独で重合、または他の単量体と共重合して、アクリルアミド系重合体とすると、十分に高分子量の重合体が得られるだけでなく、水溶性が格段に向上し、しかも色調にも優れる。
【0024】
〔アクリルアミド系重合体の製造〕
本発明のアクリルアミドを用いて、アクリルアミドを単独重合、またはアクリルアミドをその他の単量体と共重合することができる。
【0025】
アクリルアミドと共重合可能なその他の単量体としては、
アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩;
ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸およびそれらの塩;
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルアミノアルキルエステル、またはそれらの第4級アンモニウム誘導体;
N−N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのN−N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの4級アンモニウム誘導体;
アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミドなどの親水性アクリルアミド;
N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルモルホリン;
ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドン;N,N−ジ−n−プロピルアクリルアミド、N−n−ブチルアクリルアミド、N−n−ヘキシルアクリルアミド、N−n−ヘキシルメタクリルアミド、N−n−オクチルアクリルアミド、N−n−オクチルメタクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−n−ドデシルメタクリルアミドなどのN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体;
N,N−ジグリシジルアクリルアミド、N,N−ジグリシジルメタクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)アクリルアミド、N−(4−グリシドキシブチル)メタクリルアミド、N−(5−グリシドキシペンチル)アクリルアミド、N−(6−グリシドキシヘキシル)アクリルアミドなどのN−(ω−グリシドキシアルキル)(メタ)アクリルアミド誘導体;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート誘導体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、スチレン、αメチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0026】
これらその他の単量体は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。
アクリルアミドとこれらその他の単量体とを共重合する場合の混合比率については特に制限はないが、通常アクリルアミド100モルに対して、その他の単量体が100モル以下であり、好ましくは50モル以下である。
【0027】
これらモノマーの重合方法としては、例えば、水溶液重合、乳化重合などがある。
これらの中でも水溶液重合の場合は、通常、アクリルアミドと必要に応じて添加するその他の単量体との合計濃度が5〜90重量%とする。
【0028】
重合開始剤としては例えば、ラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、
過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2・2’−アゾビス(4−アミジノプロパン)2塩酸塩、4・4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)などのアゾ系遊離基開始剤;上記過酸化物と重亜硫酸ナトリウム、トリエタノールアミン、硫酸第一鉄アンモニウム等の還元剤を併用するいわゆるレドックス系触媒、ジメチルアミノプロピオニトリルが挙げられる。
【0029】
上記した重合開始剤は1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。重合開始剤の量は、通常、単量体の総重量に対し、0.001〜5重量%の範囲である。
重合温度は、通常、−10〜120℃の範囲であり、より好ましくは0〜90℃の範囲である。また、重合温度は常に一定の温度に保つ必要はなく、重合の進行に伴い適宜変更してもよいが、通常は重合の進行に伴い、重合熱が発生して重合温度が上昇する傾向にあるため、必要に応じ、冷却する場合もある。
【0030】
重合時の雰囲気は特に限定はないが、重合を速やかに進行する観点からは、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で重合することが好ましい。
重合時間は特に限定はないが、通常1〜20時間の範囲である。
【0031】
また重合時の水溶液のpHも特に限定はないが、必要に応じpHを調整して重合してもよい。その場合使用可能なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ;リン酸、硫酸、塩酸などの鉱酸;蟻酸、酢酸等の有機酸などが挙げられる。
【0032】
本発明により得られる重合体の分子量は特に制限はないが、通常10万〜5000万の範囲であり、好ましくは50万〜3000万の範囲である。
この様にして得られたアクリルアミド系重合体は、水溶性が格段に向上し、しかも十分に高い分子量が得られ、また色調にも優れる。したがってこのアクリルアミド系重合体は、凝集剤、製紙用添加剤、石油回収剤などとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。以下特に断りのない限り、%は重量基準である。
【0034】
[実施例1]
(アクリルアミドの製造)
[ニトリルヒドラターゼを含む菌体の培養]
特開2001−340091号の実施例1に記載の方法に従い、No.3クローン菌体を取得し、同じく、同実施例1の方法で培養してニトリルヒドラターゼを含む湿菌体を得た。
【0035】
[アクリルアミドの製造]
第1反応器として攪拌器を備えた1Lガラス製フラスコ、第二反応器として内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブ40mを準備した。第一反応器には、予め400gの水を仕込んだ。
【0036】
上記の培養方法で得られた湿菌体を純水に12%となるように懸濁した。第1反応器内を撹拌しながら、この懸濁液を、11g/hの速度で連続的にフィードした。オキサゾール30重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含有するアクリロニトリルを、31g/hの速度で、また、純水は38g/hの速度で連続的にフィードした。さらに反応pHが7.5〜8.5となるように、0.1M−NaOH水溶液を連続的にフィードした。これらの原料は、各々の貯槽から単独のラインで供給され、反応器内にフィードされるまで、他の原料に接触することはなかった。さらに、第1反応器の液面レベルを一定に保つように、反応液を第1反応器から80g/hの速度で連続的に抜き出し、第2反応器に連続的にフィードして、第2反応器内でさらに反応を進行させた。
【0037】
第1反応器および第2反応器とも10〜20℃の温度の水浴中に浸漬し、各反応器内部の液温が15℃となるように温度制御を行った。
運転を開始してから2日目に各反応器の反応液をサンプリングし、HPLCにより分析を行った。その結果、第1反応器出口でのアクリロニトリリルからアクリルアミドへの転化率が87%であり、また、第二反応器出口での生成したアクリルアミドに対するアクリルニトリル濃度が検出限界以下(100重量ppm以下)であった。この反応液を、酸性下(PH=5)で活性炭により処理してから湿菌体を除去し、さらに、1N−NaOHにより中和し、約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。
【0038】
(ポリマー品質の評価)
[実施例2]
実施例1で得られたアクリルアミド水溶液にバルビツール酸を100重量ppm加えたのち、水を加え濃度20重量%のアクリルアミド水溶液とした。この20重量%アクリルアミド水溶液500gを1lポリエチレン容器に入れ、18℃に保ちながら、窒素を通じて液中の溶存酸素を除き、直ちに、発泡スチロール製の保温用ブロックの中に入れた。
【0039】
ついで、200×10-6mpm(アクリルアミドに対するモル比)の4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸ナトリウム)、200×10-6mpmのジメチルアミノプロピオニトリル、および80×10-6mpmの過硫酸アンモニウムを各々小量の水に溶解して、この順序に1lポリエチレン容器中に素早く注入した。これらの試薬には、予め窒素ガスを通じておき、また、注入およびその前後には、上記ポリエチレン容器にも少量の窒素ガスを通じ、酸素ガスの混入を防止した。
【0040】
試薬を注入すると、数分間の誘導期の後、ポリエチレン容器の内部の温度が上昇するのが認められたので窒素ガスの供給をとめた。約100分間、保温用ブロック中で、そのままの状態でポリエチレン容器を保持したところ、ポリエチレン容器の内部の温度が約70℃に達した。そこで、ポリエチレン容器を保温用ブロックから取りだし、97℃の水に2時間浸漬しさらに重合反応を進めた。その後冷水に浸漬して冷却し、重合反応を停止した。
【0041】
このようにして得られたアクリルアミドポリマーの含水ゲルをポリエチレン容器から取り出し、小塊にわけ、肉挽器ですりつぶした。このすりつぶしたアクリルアミドポリマーの含水ゲルを、100℃の熱風で2時間乾燥し、さらに、高速回転刃粉砕器で粉砕して乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを得た。得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述するアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0042】
[実施例3]
実施例1で得られたアクリルアミド水溶液に、バルビツール酸の代わりにジメドンを100重量ppm添加した以外は、実施例2と同様な操作を行い、ポリマーサンプルを得た。
【0043】
得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述するアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0044】
[実施例4]
実施例1で得られたアクリルアミド水溶液に、バルビツール酸の代わりにヒダントインを500重量ppm添加した以外は、実施例2と同様な操作を行い、ポリマーサンプルを得た。
【0045】
得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述するアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0046】
[比較例1]
実施例1で得られたアクリルアミド水溶液に、バルビツール酸を添加しなかった以外は、実施例2と同様な操作を行い、ポリマーサンプルを得た。
【0047】
得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述するアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0048】
[比較例2]
(マロン酸(塩)添加)
実施例1で得られたアクリルアミド水溶液に、バルビツール酸の代わりに、マロン酸を100重量ppm添加した以外は、実施例2と同様な操作を実施したが、重合反応が進行せずポリマーサンプルは得られなかった。
【0049】
[参考例1]
(銅触媒によるアクリルアミドの製造)
水和反応の触媒:80メッシュ以下のラネー銅合金を常法により苛性ソーダを用いて展開し、洗浄して、ラネー銅触媒を製造した。製造中およびその後の取り扱いに際して、空気等の酸素含有ガスとの接触を避けた。
【0050】
接触水和反応:SUS製で攪拌機と触媒分離器を内蔵した、約2Lの反応器に上記の触媒を400g仕込み、これに予め窒素ガスを用いて溶存酸素を除いたアクリロニトリル(実施例1と同一ロット品)と水を各々600g/hr、900g/hrの速度で供給し、120℃で反応させた。反応液は、触媒と共に攪拌されて懸濁液となり、ついで触媒分離器を通って触媒を殆ど含まない液として反応器から取り出される。この反応を3日間続けた。
【0051】
濃縮:得られた反応液を回分式の減圧濃縮にかけ、未反応アクリロニトリルの全量と未反応水の一部を留去して濃度約50重量%のアクリルアミド水溶液を得た。アクリルアミド水溶液は、銅イオンおよびアクリル酸を含有していた。
そこで、含有している銅イオンおよびアクリル酸の除去を以下の方法で行った。
【0052】
精製:常法により希塩酸で前処理した強酸性カチオン交換樹脂レバチットSP−112(商品名、バイエル社製)150mlをガラス製カラムに充填した。また、常法により苛性ソーダ水溶液で前処理した弱塩基性アニオン交換樹脂レバチットMP−64(商品名、バイエル社製)300mlをガラス製カラムに充填した。これらのイオン交換樹脂に、先述の約50重量%のアクリルアミド水溶液を900ml/hrで、(1)強酸性カチオン交換樹脂、(2)弱塩基性アニオン交換樹脂の順番に通液した。得られた液の銅含有量は、0.01重量ppm未満、アクリル酸含有量は、1重量ppm未満であった。
こうして得られた、約50重量%アクリルアミド水溶液に対し、苛性ソーダおよび硫酸を用いてpH7.0に調製した。
【0053】
[比較例3]
参考例1で得られたアクリルアミド水溶液に、ジメドンを100重量ppmとなるように添加して実施例2と同様な操作を実施しポリマーサンプルを得た。
【0054】
得られた乾燥粉末状のアクリルアミドポリマーを篩にかけ、32〜42メッシュのものを分取した。この分取したアクリルアミドポリマーを後述するアクリルアミドポリマーの試験法により評価した。結果を表−1に示す。
【0055】
<アクリルアミドポリマーの試験法>
上記実施例2、3、4、比較例1、3で得られたポリマーサンプルの水溶性の評価、標準粘度の測定、および色調の評価を以下の方法で行った。
水溶性:水溶性は、1 lビーカーに水600mlを入れ、定められた形状の攪拌羽根で25℃で攪拌しながらポリマーサンプル0.66g(純分0.6g)を添加し、400rpmで2時間攪拌を行い、得られた溶液を150メッシュの金網で濾過し、不溶解分の多少と濾過性から、水溶性を判断した。即ち、完溶のものを◎、完溶に近いものを○、不溶解分があるが、それを濾別する事ができるものを△、濾液の通過が遅く、不溶解分の濾過が事実上出来ないものを×とした。
標準粘度:上記の水溶性試験により得られる濾液は、濃度0.1重量%のポリマー水溶液であるが、これに1M濃度相当の塩化ナトリウムを加え、BL型粘度計でBLアダプターを用いて25℃、ローター回転数60rpmで粘度を測定した(標準粘度)。このような方法で得られる標準粘度は分子量に相関のある値として慣用される。
色調:ポリマーの色調についてはポリマー粉体を目視で評価した。
評価結果を表−1に示した。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルヒドラターゼを含有する菌体、またはその菌体処理物を用い、アクリルニトリルを水和して得られるアクリルアミドに、ジメドン、バルビツール酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物および/または少なくとも1つの上記化合物の塩を添加して、品質の向上したアクリルアミドを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアクリルアミドを単独重合、または上記アクリルアミドをアクリルアミドと共重合可能な少なくとも1種の不飽和単量体と共重合して、アクリルアミド系重合体を製造する方法。

【公開番号】特開2012−90643(P2012−90643A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−20020(P2012−20020)
【出願日】平成24年2月1日(2012.2.1)
【分割の表示】特願2008−509793(P2008−509793)の分割
【原出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】