説明

アクリルゴム、架橋性アクリルゴム組成物およびその架橋物

【課題】耐熱性が高く、特に長時間高温化に置かれても、伸びなどの物性が低下し難いアクリルゴム架橋物を与えることができるアクリルゴムおよび架橋性アクリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】特定のジフェニルアミン構造含有単量体単位0.01〜5重量%、アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位80〜99.49重量%、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位0.5〜5重量%並びにその他のエチレン性不飽和単量体単位0〜10重量%からなるアクリルゴムを用いて、架橋性アクリルゴム組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム、架橋性アクリルゴム組成物およびその架橋物に関し、さらに詳しくは、特に長時間高温化に置かれても、伸びなどの物性が低下し難い耐熱性に優れたアクリルゴム架橋物を与えることができるアクリルゴムおよび架橋性アクリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸エステルを重合して得られるアクリルゴムは、使用環境に準じた耐寒性を有し、耐油性、特に高温下での耐油性に優れ、かつ、耐熱性が良好なゴムとして知られている。そのためアクリルゴムは、自動車用のホース、オイルシール、Oリングや装置・機械内蔵コンベアベルトなどとして需要が増大している。しかしながら、近時、自動車、装置・機械等のさらなる高性能化、メンテナンスフリー化が要求されるようになり、これに伴ってゴム部品の耐熱性の向上が求められるようになった。
【0003】
このような要求に応じ、アクリルゴムの耐熱性を向上させるべく、種々の検討が行われている。例えば、特許文献1には、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を含んでなるアクリルゴムにモノ第一アミン化合物とジアミン加硫剤を配合してなる組成物が、耐熱性に加えて、加硫時のスコーチ安定性にも優れることが開示されている。また、特許文献2には、マレイン酸モノブチルなどを単量体として用いて得られるカルボキシル基含有アクリルゴムに、グアニジン化合物、ジアミン化合物、およびヒドロキノン系老化防止剤を配合してなる組成物が、熱老化時の引張強さの変化率と伸びの変化率とのバランスに優れることが記載されている。
【0004】
しかしながら、これらの組成物では、長時間高温下に置いた場合に、伸びなどの物性が大きく低下してしまう傾向があった。そのため、長時間高温化にさらされる可能性のある用途にも用いることができるアクリルゴム組成物が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2002‐265737号公報
【特許文献2】特開2004‐175841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性が高く、特に長時間高温化に置かれても、伸びなどの物性が低下し難いアクリルゴム架橋物を与えることができるアクリルゴムおよび架橋性アクリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、アクリルゴム中に、特定のジフェニルアミン構造含有単量体単位と架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位とをそれぞれ特定量で共存させることにより、耐熱性が高く、特に長時間高温化に置かれても、伸びなどの物性が低下し難いアクリルゴム架橋物を与えることができるアクリルゴムが得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0008】
かくして、本発明によれば、下記の一般式(I)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体単位0.01〜5重量%、アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位80〜99.49重量%、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位0.5〜5重量%並びにその他のエチレン性不飽和単量体単位0〜10重量%からなるアクリルゴムが提供される。
【化2】

(一般式(I)中、R、RおよびRは水素原子またはメチル基であり、Rは単結合または水酸基を有していても良い炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aは単結合または酸素原子である。)
【0009】
このアクリルゴムにおいては、ジフェニルアミン構造含有単量体単位が、4‐アニリノフェニルアクリルアミド単位、4‐アニリノフェニルメタクリルアミド単位およびアクリル酸2‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノエチル単位の少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
また、このアクリルゴムは、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位が、架橋剤により架橋可能な基として、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、上記のアクリルゴムと架橋剤とを含有してなる架橋性アクリルゴム組成物が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、架橋性アクリルゴム組成物を架橋してなるアクリルゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性が高く、特に長時間高温化に置かれても、伸びなどの物性が低下し難いアクリルゴム架橋物を与えることができるアクリルゴムおよび架橋性アクリルゴム組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のアクリルゴムは、下記の一般式(I)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体単位0.01〜5重量%、アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはアクリル酸アルコキシエステル単量体単位80〜99.49重量%、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位0.5〜5重量%並びにその他のエチレン性不飽和単量体単位0〜10重量%からなるものである。
【化3】

(一般式(I)中、R、RおよびRは水素原子またはメチル基であり、Rは単結合または水酸基を有していても良い炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aは単結合または酸素原子である。)
【0015】
本発明のアクリルゴムは、後述するようなジフェニルアミン構造含有単量体と、アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはアクリル酸アルコキシエステル単量体と、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて混合されるその他のエチレン性不飽和単量体とを混合してなる単量体混合物を共重合して得ることが可能である。
【0016】
本発明のアクリルゴムのアクリル酸アルキルエステル単量体単位を構成するために用いられるアクリル酸アルキルエステル単量体は、特に限定されないが、エステル基部分に炭素数1〜8のアルキル基を有するものが好ましく、具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n‐プロピル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n‐ヘキシル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。アクリル酸アルキルエステル単量体を用いる場合、1種を単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。本発明では、アクリル酸アルキルエステル単量体として、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n‐ブチルの少なくとも1種を用いることが好ましく、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n‐ブチルを併用することが特に好ましい。アクリル酸エチルおよびアクリル酸n‐ブチルを併用する場合、その比率は、アクリル酸エチル単位/アクリル酸n‐ブチル単位の重量比として、10/90〜90/10であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましい。このような比率で、アクリル酸エチルとアクリル酸n‐ブチルを併用することにより、得られるアクリルゴム架橋物の耐寒性と耐油性のバランスが良好となる。
【0017】
本発明のアクリルゴムのアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位を構成するために用いられるアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体は、特に限定されないが、エステル基部分に炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を有するものが好ましく、具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸2‐エトキシエチル、アクリル酸2‐ブトキシエチル、アクリル酸2‐メトキシエチル、アクリル酸2‐プロポキシエチル、アクリル酸3‐メトキシプロピル、アクリル酸4‐メトキシブチルなどが挙げられる。アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体を用いる場合、1種を単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。
【0018】
本発明のアクリルゴムは、アクリル酸アルキルエステル単量体単位とアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位とのいずれか一方を有していればよいが、アクリル酸アルキルエステル単量体単位を必須の単量体単位として有していることが好ましい。本発明のアクリルゴムにおいて、アクリル酸アルキルエステル単量体単位とアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位との総量に比した、アクリル酸アルキルエステル単量体単位の割合は、30〜100重量%であることが好ましく、40〜100重量%であることがより好ましく、45〜100重量%であることが特に好ましい。アクリル酸アルキルエステル単量体単位の割合が少なすぎると、得られるアクリルゴム架橋物の引張強度や伸びが劣る場合がある。また、本発明のアクリルゴムは、得られる架橋物を長時間高温化に置いても、伸びなどの物性がより低下し難いものとする観点より、アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位を有しないものであることが特に好ましい。
【0019】
本発明のアクリルゴムでは、全単量体単位中、アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位が80〜99.49重量%であることが必要であり、87〜99.2重量%であることが好ましく、95〜98.5重量%であることがより好ましい。アクリル酸アルキルエステル単量体単位および/またはアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位が少なすぎると、得られるアクリルゴム架橋物の引張強度や伸びが劣る場合があり、逆に多すぎると架橋物の引張強度や圧縮永久ひずみが劣る場合がある。
【0020】
本発明のアクリルゴムのジフェニルアミン構造含有単量体単位を構成するために、通常、下記の一般式(II)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体が用いられる。
【化4】

(一般式(II)中、R、RおよびRは水素原子またはメチル基であり、Rは単結合または水酸基を有していても良い炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aは単結合または酸素原子である。)
【0021】
一般式(II)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体の具体例としては、4‐アニリノフェニルアクリルアミド、4‐アニリノフェニルメタクリルアミドアクリル酸2‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノエチル、メタアクリル酸2‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノエチル、アクリル酸5‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノ‐2‐ヒドロキシペンチル、メタアクリル酸5‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノ‐2‐ヒドロキシペンチル、N‐〔4‐(メチルアニリノ)フェニル〕アクリルアミド、N‐〔4‐(メチルアニリノ)フェニル〕メタクリルアミドが挙げられる。これらのジフェニルアミン構造含有単量体は、1種を単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いても良い。本発明では、ジフェニルアミン構造含有単量体として、4‐アニリノフェニルアクリルアミド、4‐アニリノフェニルメタクリルアミドおよびアクリル酸2‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノエチルの少なくとも1種を用いることが好ましい。すなわち、本発明のアクリルゴムでは、ジフェニルアミン構造含有単量体単位が、4‐アニリノフェニルアクリルアミド単位、4‐アニリノフェニルメタクリルアミド単位およびアクリル酸2‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノエチル単位の少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
本発明のアクリルゴムでは、全単量体単位中、一般式(I)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体単位が0.01〜5重量%であることが必要であり、0.1〜4重量%であることが好ましく、0.5〜2重量%であることがより好ましい。ジフェニルアミン構造含有単量体単位をこの範囲とすることにより、得られるアクリルゴム架橋物が長時間高温化に置かれた場合に、伸びなどの物性が低下し難いものとなる。
【0023】
本発明のアクリルゴムは、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位を有する。この単量体単位が有する架橋剤により架橋可能な基としては、カルボキシル基、ハロゲン原子、エポキシ基、水酸基が挙げられる。これらの中でも、架橋剤により架橋可能な基として、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を有することが好ましい。
【0024】
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を構成するために用いられるカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、炭素数3〜12のα,β‐エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4〜12のα,β‐エチレン性不飽和ジカルボン酸、炭素数3〜11のα,β‐エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルが挙げられる。
【0025】
炭素数3〜12のα,β‐エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。炭素数4〜12のα,β‐エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、フマル酸またはマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などが挙げられる。炭素数3〜11のα,β‐エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルとしては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチルなどのイタコン酸モノエステル;フマル酸モノ‐2‐ヒドロキシエチル;などが挙げられる。なかでもブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステルまたは脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルを用いることが好ましく、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノシクロヘキシルまたはマレイン酸モノシクロヘキシルを用いることが特に好ましい。これらの単量体は1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。なお、これらの単量体のうち、α,β‐エチレン性不飽和ジカルボン酸は、アクリルゴム中で、ジカルボン酸が無水物になった形の単量体単位として含まれていてもよく、架橋の際に加水分解してカルボキシル基を生成すればよい。
【0026】
ハロゲン原子を有するエチレン性不飽和単量体単位を構成するために用いられるハロゲン原子を有するエチレン性不飽和単量体としては(なお、以下の記載において、「(メタ)アクリル」との表記は、「アクリルまたはメタクリル」の意を表すものである)、例えば、炭素数3〜12の飽和ハロカルボン酸と炭素数2〜6の不飽和アルカノールとのエステル、炭素数4〜12の(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステル、炭素数6〜12の(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステル、炭素数7〜12の(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステル、炭素数3〜12の不飽和ハロアルキルエーテル、炭素数4〜12の不飽和ハロアルキルケトン、炭素数7〜12のハロアルキル基含有芳香族ビニル化合物、炭素数4〜12の不飽和ハロアルキル基含有アミド、炭素数4〜12のハロアセチル基含有不飽和単量体などが挙げられる。
【0027】
炭素数3〜12の飽和ハロカルボン酸と炭素数2〜6の不飽和アルカノールとのエステルとしては、フルオロ酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブロモ酢酸ビニル、2‐クロロプロピオン酸ビニル、クロロ酢酸アリルなどが挙げられる。炭素数4〜12の(メタ)アクリル酸ハロアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸フルオロメチル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸ブロモメチル、(メタ)アクリル酸1‐クロロエチル、(メタ)アクリル酸2‐クロロエチル、(メタ)アクリル酸1,2‐ジクロロエチル、(メタ)アクリル酸2‐クロロプロピル、(メタ)アクリル酸3‐クロロプロピル、(メタ)アクリル酸2,3‐ジクロロプロピルなどが挙げられる。炭素数6〜12の(メタ)アクリル酸ハロアシロキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2‐(クロロアセトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2‐(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3‐(クロロアセトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸3‐(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルなどが挙げられる。
【0028】
炭素数7〜12の(メタ)アクリル酸(ハロアセチルカルバモイルオキシ)アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2‐(クロロアセチルカルバモイルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3‐(クロロアセチルカルバモイルオキシ)プロピルなどが挙げられる。炭素数3〜12のハロアルキルエーテルとしては、クロロメチルビニルエーテル、2‐クロロエチルビニルエーテル、3‐クロロプロピルビニルエーテル、2‐クロロエチルアリルエーテル、3‐クロロプロピルアリルエーテルなどが挙げられる。炭素数4〜12のハロアルキルケトンとしては、2‐クロロエチルビニルケトン、3‐クロロプロピルビニルケトン、2‐クロロエチルアリルケトンなどが挙げられる。炭素数7〜12のハロアルキル基含有芳香族ビニル化合物としては、p‐クロロメチルスチレン、p‐クロロメチル‐α‐メチルスチレン、p‐ビス(クロロメチル)スチレンなどが挙げられる。炭素数4〜12のハロアルキル基含有不飽和アミドとしては、N‐クロロメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。炭素数4〜12のハロアセチル基含有不飽和単量体としては、3‐(ヒドロキシクロロアセトキシ)プロピルアリルエーテル、p‐ビニルベンジルクロロ酢酸エステルなどが挙げられる。
【0029】
エポキシ基を有するエチレン性不飽和単量体単位を構成するために用いられるエポキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸とエポキシ基含有アルカノールとのエステルである炭素数6〜12のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、および(メタ)アリルアルカノールとエポキシ基含有アルカノールとの脱水縮合形である炭素数6〜12のエポキシ基含有(メタ)アリルエーテルなどを挙げることができる。
【0030】
エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルグリシジルエーテルなどが、また、エポキシ基含有(メタ)アリルエーテルとしてはメタリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
水酸基を有するエチレン性不飽和単量体単位を構成するために用いられる水酸基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸と水酸基含有アルカノールとのエステルである炭素数4〜12の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸と水酸基含有アルキルアミンとのアミドである炭素数4〜12の水酸基含有(メタ)アクリル酸アミド、ビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0032】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3‐ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3‐ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシブチルなどを挙げることができる。水酸基含有(メタ)アクリルアミドとしてはN‐メチロール(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0033】
これらの架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体は、1種単独でまたは2種以上を併せて使用することができる。
【0034】
本発明のアクリルゴムでは、全単量体単位中、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位が0.5〜5重量%であることが必要であり、0.7〜4重量%であることが好ましく、1〜3重量%であることがより好ましい。架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位が少なすぎると、得られるアクリルゴム架橋物の引張強度や圧縮永久ひずみが劣り、逆に多すぎるとアクリルゴム架橋物の伸びが劣る場合がある。なお、本発明のアクリルゴムにおいて、一般式(I)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体単位が水酸基を有する場合があるが、その場合でも、ジフェニルアミン構造含有単量体単位は、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位の概念に含まれないものとして扱うこととする。
【0035】
また、本発明のアクリルゴムでは、本発明のアクリルゴムにおける、架橋剤により架橋可能な基の含有量は、アクリルゴム100g当たり、好ましくは5×10−4〜4×10−1当量、より好ましくは2×10−3〜2×10−1当量、特に好ましくは4×10−3〜1×10−1当量である。
【0036】
本発明のアクリルゴムは、これまで述べたもの以外の単量体単位である、その他のエチレン性不飽和単量体単位を含有していてもよい。このその他のエチレン性不飽和単量体単位を構成する単量体としては、共役ジエン系単量体、非共役ジエン系単量体、芳香族ビニル単量体、α,β‐エチレン性不飽和ニトリル単量体、アミド基含有(メタ)アクリル単量体、多官能性ジ(メタ)アクリル単量体、脂肪族ビニル単量体などが例示される。共役ジエン単量体としては、1,3‐ブタジエン、ブタジエン、クロロプレン、ピペリレンなどが挙げられる。非共役ジエン単量体としては、1,2‐ブタジエン、1,4‐ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ヘキサジエン、ノルボルナジエンなどが挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α‐メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。α,β‐エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが例示される。アミド基含有(メタ)アクリル単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。多官能性ジ(メタ)アクリル単量体としては、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。脂肪族ビニル単量体としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの単量体は、1種単独でまたは2種以上を併せて使用することができる。
【0037】
本発明のアクリルゴムでは、全単量体単位中、その他のエチレン性不飽和単量体単位が0〜10重量%であることが必要であり、0〜5重量%であることが好ましく、その他のエチレン性不飽和単量体単位が実質的に含まれないことが特に好ましい。その他のエチレン性不飽和単量体単位が多すぎると、得られるアクリルゴム架橋物の耐寒性と耐油性のバランスや耐熱性が劣る場合がある。
【0038】
本発明のアクリルゴムは、上記の単量体からなる単量体混合物を、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などの従来公知の方法を採用して重合することにより、製造することができる。なかでも、重合反応の制御の容易性等から、常圧下での乳化重合法が好ましく採用できる。上記の単量体は必ずしも反応の当初から全種、全量が反応の場に供給されていなくても良く、共重合反応性比、反応転化率などを考慮して反応時間の全体にわたって連続的または断続的に添加され、または、重合の途中ないし後半に一括もしくは分割で導入されても良い。
【0039】
重合反応における上記各単量体の仕込み割合は、各単量体の反応性によって調整する必要があるが、通常は、ほぼ定量的に重合反応が進行するため、目的とするアクリルゴムの単量体単位組成に合わせればよい。
【0040】
重合開始剤、乳化剤などはアクリルゴムの重合に一般的に用いられる従来公知のものを使用できる。重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物、無機過酸化物などを用いることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、0.01〜1.0重量部であることが好ましい。
【0041】
また、過酸化物開始剤は還元剤と組み合わせてレドックス系重合開始剤として使用することができる。還元剤としては、特に限定されないが、金属イオンを含有する化合物、スルホン酸化合物、アミン化合物などが挙げられる。これらの還元剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。還元剤の使用量は、過酸化物1重量部に対して0.03〜10重量部であることが好ましい。
【0042】
乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩などのアニオン性乳化剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライドなどのカチオン性乳化剤が好適に用いられる。これらの乳化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、0.1〜10重量部である。また、乳化重合における水の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、80〜500重量部、好ましくは100〜300重量部である。
【0043】
乳化重合においては、必要に応じて、分子量調整剤、粒径調整剤、キレート化剤、酸素捕捉剤などの重合副資材を使用することができる。分子量調整剤としては、例えば、メルカプタン類、スルフィド類、α‐メチルスチレン2量体、四塩化炭素などが挙げられる。
【0044】
本発明のアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜90、より好ましくは15〜80、特に好ましくは20〜70である。ムーニー粘度が小さすぎると、得られる架橋性アクリルゴム組成物の形状保持性が低下することによって成形加工性が低下したり、得られる架橋物の引張強度が低下したりするおそれがある。一方、ムーニー粘度が大きすぎると、得られる架橋性アクリルゴム組成物の流動性が低下することによって成形加工性が低下する可能性がある。
【0045】
本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、本発明のアクリルゴムと架橋剤とを含有してなるものである。ここで、本発明の架橋性アクリルゴム組成物が含有する架橋剤とは、その組成物を構成するアクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基として有する、特定の基を架橋できるものを指す。
【0046】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてカルボキシル基を有するものである場合に用いられる架橋剤としては、例えば、アミン化合物が挙げられ、特に炭素数4〜30の多価アミン化合物を使用することが好ましく、これらの中でも、一級多価アミン、二級多価アミンおよびこれらの誘導体のいずれかである多価アミン化合物を使用することが好ましい。かかる多価アミン化合物の例としては、脂肪族多価アミン化合物、芳香族多価アミン化合物などが挙げられ、グアニジン化合物のように非共役の窒素‐炭素二重結合を有するものは含まれない。脂肪族多価アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’‐ジシンナミリデン‐1,6‐ヘキサンジアミンなどが挙げられる。芳香族多価アミン化合物としては、4,4’‐メチレンジアニリン、m‐フェニレンジアミン、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、3,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、4,4’‐(m‐フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’‐(p‐フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’‐ビス〔4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’‐ジアミノベンズアニリド、4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル、m‐キシリレンジアミン、p‐キシリレンジアミン、1,3,5‐ベンゼントリアミンなどが挙げられる。本発明のアクリルゴムとしては、架橋剤により架橋可能な基としてカルボキシル基を有するものが好ましいので、本発明の架橋性アクリルゴム組成物では、これらのアミン化合物を架橋剤として用いることが好ましい。
【0047】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてハロゲン原子を有する場合に用いられる架橋剤としては、トリアジンチオール化合物や脂肪酸アルカリ金属塩が挙げられる。トリアジンチオール化合物としては、トリアジンチオール(2,4,6‐トリメルカプト‐s‐トリアジン)およびその誘導体が挙げられる。誘導体としては、トリアジンチオールのチオール基の一部を炭素数1〜8の二級または三級アミンに置換した化合物や、チオール基の水素を炭素数1〜8の鎖状炭化水素基または環状炭化水素基に置換した化合物などが挙げられる。これらの中でもトリアジンチオールが好ましい。脂肪酸アルカリ金属塩としては、炭素数10〜22の脂肪酸のアルカリ金属塩が例示され、なかでもステアリ酸ナトリウムおよびステアリン酸カリウムが好ましい。
【0048】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてハロゲン原子を有する場合は、上記架橋剤に加えて、脱離するハロゲン化水素を捕捉するための受酸剤を組成物中に配合することが好ましい。かかる受酸剤としては、周期律表第2族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、亜燐酸塩;周期律表第14族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、カルボン酸塩、塩基性亜燐酸塩、塩基性亜硫酸塩;ハイドロタルサイト類などが挙げられる。周期律表第2族金属の化合物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ケイ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸バリウムなどが例示される。周期律表第14族金属の化合物としては酸化錫、塩基性炭酸錫、カルボン酸錫、塩基性亜燐酸錫、塩基性亜硫酸錫などが例示される。受酸剤の使用量は、アクリルゴム100重量部に対して0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0049】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてエポキシ基を有する場合に用いられる架橋剤としては、炭素数7〜22の環状有機酸アンモニウム塩、または上記の架橋剤により架橋可能な基としてカルボキシル基を有するアクリルゴムを用いる場合に好ましい架橋剤として挙げた炭素数4〜30の多価アミン化合物が挙げられる。環状有機酸アンモニウム塩としては、安息香酸アンモニウム、イソシアヌル酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0050】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基として水酸基を有する場合に用いられる架橋剤としては、炭素数2〜20のイソシアネート化合物、多価カルボン酸やアルコキシメチルメラミンが挙げられる。イソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどが挙げられる。多価カルボン酸としては、アジピン酸などが挙げられる。アルコキシメチルメラミンとしては、メトキシメチルメラミンなどが挙げられる。
【0051】
これらの架橋剤は、アクリルゴムが有する架橋剤により架橋可能な基に応じて、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。また、本発明の架橋性アクリルゴム組成物が含有する架橋剤の量は、特に限定されないが、架橋性アクリルゴム組成物が含有するアクリルゴム100重量部に対し、0.01〜20重量部であることが好ましく、0.1〜10重量部であることがより好ましく、0.2〜5重量部であることがさらに好ましい。架橋剤の配合量が少なすぎると得られる架橋物の架橋が不十分となり、その形状維持が困難になるおそれがあり、多すぎると架橋物が硬くなりすぎ、ゴム材料としての弾性が損なわれる可能性がある。
【0052】
また、本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、用いられるアクリルゴムと架橋剤の組合せに応じ、各種の架橋促進剤を含有することが好ましい。
【0053】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてカルボキシル基またはエポキシ基を有し、かつ、架橋剤として多価アミン化合物を用いる場合の好ましい架橋促進剤としては、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、四級オニウム塩、三級アミン化合物、三級ホスフィン化合物、弱酸のアルカリ金属塩などを挙げることができる。グアニジン化合物としては、1,3‐ジフェニルグアニジン、1,3‐ジ‐o‐トリルグアニジンなどが挙げられる。イミダゾール化合物としては、2‐メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾールなどが挙げられる。四級オニウム塩としては、テトラn‐ブチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリn‐ブチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。三級アミン化合物としては、トリエチレンジアミン、1,8‐ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン‐7などが挙げられる。三級ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリ‐p‐トリルホスフィンなどが挙げられる。弱酸のアルカリ金属塩としては、ナトリウムまたはカリウムのリン酸塩、炭酸塩などの無機弱酸塩あるいはステアリン酸塩、ラウリン酸塩などの有機弱酸塩が挙げられる。
【0054】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてハロゲン原子を有し、かつ、架橋剤としてトリアジンチオール化合物を用いる場合の好ましい架橋促進剤としては、炭素数2〜12のジチオカルバミン酸化合物、炭素数2〜30のチウラムスルフィドなどを挙げることができる。ジチオカルバミン酸化合物としては、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸カドミウム、ジメチルジチオカルバミン酸鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ビスマス、ジメチルジチオカルバミン酸鉄、ジメチルジチオカルバミン酸テルル、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ‐n‐ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ‐n‐ヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ‐n‐オクチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ‐n‐デシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ‐n‐ドデシルジチオカルバミン酸亜鉛、メチルベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、メチルシクロヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛などが好ましい。チウラムスルフィドの具体例としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0055】
また、アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基としてハロゲン原子を有し、かつ、架橋剤として脂肪酸アルカリ金属塩を用いる場合は、硫黄またはトリアジンチオール化合物を併用すると、架橋性アクリルゴム組成物の架橋反応が促進される。
【0056】
アクリルゴムが架橋剤により架橋可能な基として水酸基を有し、かつ、架橋剤としてイソシアネート化合物を用いる場合に好ましい架橋促進剤としては、グアニジン化合物、四級オニウム塩、三級アミン化合物、三級ホスフィン化合物などが挙げられる。これらの化合物の具体例は、前出の通りである。
【0057】
架橋性アクリルゴム組成物における、架橋促進剤の使用量は、アクリルゴム100重量部あたり、通常、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜15重量部、より好ましくは0.3〜10重量部である。架橋促進剤が多すぎると、架橋時に架橋速度が早くなりすぎたり、得られる架橋物の表面ヘの架橋促進剤のブルームが生じたり、架橋物が硬くなりすぎたりするおそれがある。架橋促進剤が少なすぎると、架橋物の引張強度が著しく低下したり、熱負荷後の伸びや引張強度の変化が大きすぎたりする可能性がある。
【0058】
架橋性アクリルゴム組成物のアクリルゴムが架橋可能な基としてカルボキシル基を有する場合、本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、さらに、モノアミン化合物を含有することが好ましい。モノアミン化合物を含有することにより、架橋性アクリルゴム組成物のスコーチが起こり難くなり、また、得られる架橋物の耐熱性、耐寒性、耐劣化油性が良好となる。
【0059】
モノアミン化合物としては、芳香族モノ一級アミン化合物、芳香族モノ二級アミン化合物、脂肪族モノ一級アミン化合物、脂肪族モノ二級アミン化合物などが挙げられる。本発明においては、これらのモノアミン化合物を、単独で用いることも2種以上組み合わせて用いることができる。
【0060】
架橋性アクリルゴム組成物において、アクリルゴム100重量部に対するモノアミン化合物の配合量は、0.05〜20重量部であることが好ましく、0.1〜10重量部であることがより好ましい。
【0061】
本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、さらに、必要に応じて、補強材、充填剤、老化防止剤、光安定剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤などの添加剤を含有してもよい。
【0062】
また、本発明の架橋性アクリルゴム組成物には、必要に応じて、本発明のアクリルゴム以外のゴム、エラストマー、樹脂などをさらに配合してもよい。例えば、天然ゴム、本発明のアクリルゴム以外のアクリルゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴムなどのゴム;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマーなどのエラストマー;ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などの樹脂;などを配合することができる。
【0063】
架橋性アクリルゴム組成物の調製にあたっては、ロール混合、バンバリー混合、スクリュー混合、溶液混合などの適宜の混合方法が採用できる。配合順序は特に限定されないが、熱で分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応しやすい成分あるいは分解しやすい成分を反応または分解しにくい温度で、短時間に混合すればよい。
【0064】
架橋性アクリルゴム組成物の成形方法は、特に限定されない。圧縮成形、射出成形、トランスファー成形あるいは押出成形など、いずれの方法を用いることも可能である。また、架橋方法は、架橋物の形状などに応じて選択すればよく、成形と架橋を同時に行う方法、成形後に架橋を行う方法のいずれでもよい。
【0065】
本発明の架橋物は、本発明の架橋性アクリルゴム組成物を加熱することにより得られる。加熱温度は、好ましくは130〜220℃以上、より好ましくは140℃〜200℃、架橋時間は好ましくは30秒〜5時間である。加熱方法としては、プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる方法を適宜選択すればよい。また、一度架橋した後に、架橋物の内部まで確実に架橋させるために、時間をかけて加熱する後架橋を行ってもよい。後架橋は、加熱方法、架橋温度、形状などにより異なるが、好ましくは1〜48時間行う。加熱方法、加熱温度は適宜選択すればよい。このように、本発明の架橋性アクリルゴム組成物を用いれば、従前と同様に架橋処理を行うことにより、耐熱性に優れた架橋物を得ることが可能である。
【0066】
本発明のアクリルゴムを含有してなる架橋性アクリルゴム組成物は、耐熱性が高く、特に長時間高温化に置かれても、伸びなどの物性が低下し難い架橋物を与える。したがって、このアクリルゴム組成物を架橋してなる本発明の架橋物は、これらの特性を活かして、シール、ホース、防振材、チューブ、ベルト、ブーツなどのゴム部品の材料として広い範囲で好適に使用できる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0068】
なお、アクリルゴムの各単量体単位含有量は、熱分解ガスクロマトグラフィーにて測定を行い、アクリルゴムのムーニー粘度は、JIS K6300に従って、100℃で測定した。
【0069】
架橋性アクリルゴム組成物については、JIS K6300‐1に従い、125℃の測定条件下でL型ローターを用いて、ムーニースコーチ時間t5(分)を測定した。
【0070】
架橋物の引張強度、伸び、100%伸び応力および硬さ(デュロメーターA硬度)は、JIS K6251に従い測定した。
【0071】
架橋物の圧縮永久ひずみは、JIS K6262に従い、円筒型試験片を25%圧縮させた状態で、175℃の環境下で70時間放置した後、圧縮を開放し、その試験片から測定した。
【0072】
架橋物の耐熱性の評価として、JIS K6257に従い、200℃の環境下で168時間の空気加熱老化を行い、老化後の架橋物の伸びを、JIS K6251に従い測定し、伸びの低下率を求めた。
【0073】
〔実施例1〕
温度計、攪拌装置、窒素導入管および減圧装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部およびアクリル酸エチル50部、アクリル酸n‐ブチル47.5部、マレイン酸モノn‐ブチル2部、4‐アニリノフェニルアクリルアミド0.5部を仕込み、減圧による脱気および窒素置換をくり返して酸素を十分除去した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.002部およびクメンハイドロパーオキシド0.005部を加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続した。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固させ、水洗、乾燥して実施例1のアクリルゴムを得た。得られたアクリルゴムは、アクリル酸エチル単位含有量50%、アクリル酸n‐ブチル単位含有量47.5%、マレイン酸モノn‐ブチル単位含有量2%、4‐アニリノフェニルアクリルアミド単位含有量0.5%、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)44であった。
【0074】
次に、得られたアクリルゴム100部、カーボンブラック(商品名シーストSO、ASTM D1765による分類;N550、東海カーボン社製)60部、ステアリン酸(カーボンブラックの分散剤、軟化剤)2部、およびエステル系ワックス(商品名グレッグG8205、加工助剤、大日本インキ社製)1部を50℃にてバンバリーで混練し、その後、2,2’‐ビス〔4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(架橋剤)1部およびジドデシルアミン2部を加えて、40℃にてオープンロールで混練して、実施例1の架橋性アクリルゴム組成物を得た。この架橋性アクリルゴム組成物を用いて、ムーニースコーチ時間を測定した。また、この架橋性アクリルゴム組成物を170℃、20分間の10MPaのプレスによって成形、架橋し、15cm×15cm×2mmの試験片を作製し、さらに後架橋のために、170℃に4時間放置した。この試験片を用いて、架橋物の引張強度、伸び、100%伸び応力および硬さを測定した。そして、この試験片につき、空気加熱老化を行い、老化後の架橋物の伸びを測定した。また、別途、架橋性アクリルゴム組成物を170℃、20分間の10MPaのプレスによって成形、架橋し、さらに後架橋のために、170℃に4時間放置し、直径29mm、厚さ12.5mmの円筒型試験片を作製し、架橋物の圧縮永久ひずみ性を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
〔実施例2〜4、比較例1,2〕
アクリルゴムを製造するための単量体の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4と比較例1,2のアクリルゴムを得た。得られたアクリルゴムの各単量体単位含有量は、表1に示す通りであり、これらの単量体単位含有量が、重合に用いた単量体の組成比と一致することが確認された。また、得られたアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)も表1に示す通りである。次に、それぞれの例で得られたアクリルゴムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4と比較例1,2の架橋性アクリルゴム組成物およびその架橋物を得た。これらについて、実施例1と同様に評価を行なった。結果を表1に示す。
【0077】
表1から分かるように、単量体としてジフェニルアミン構造含有単量体を使用しなかったアクリルゴムを用いて得られた架橋性アクリルゴム組成物は、その架橋物の空気加熱老化による伸びの低下が大きく、耐熱性に劣るものであった(比較例1)。また、ジフェニルアミン構造含有単量体を過剰に使用したアクリルゴムを用いて得られた架橋性アクリルゴム組成物は、その架橋物の圧縮永久ひずみが大きい上に、空気加熱老化による伸びの低下が大きく、耐熱性に劣るものであった(比較例2)。一方、本発明のアクリルゴムを用いて得られた架橋性アクリルゴム組成物は、その架橋物が、空気加熱老化による伸びの低下が小さく、耐熱性に優れるものであった(実施例1〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表されるジフェニルアミン構造含有単量体単位0.01〜5重量%、アクリル酸アルキルエステル単量体単位及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位80〜99.49重量%、架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位0.5〜5重量%並びにその他のエチレン性不飽和単量体単位0〜10重量%からなるアクリルゴム。
【化1】

(一般式(I)中、R、R及びRは水素原子又はメチル基であり、Rは単結合又は水酸基を有していても良い炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aは単結合又は酸素原子である。)
【請求項2】
ジフェニルアミン構造含有単量体単位が、4‐アニリノフェニルアクリルアミド単位、4‐アニリノフェニルメタクリルアミド単位及びアクリル酸2‐N‐(4‐アニリノフェニル)アミノエチル単位の少なくとも1種である請求項1に記載のアクリルゴム。
【請求項3】
架橋剤により架橋可能な基を有するエチレン性不飽和単量体単位が、架橋剤により架橋可能な基として、カルボキシル基を有する請求項1又は2に記載のアクリルゴム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアクリルゴムと架橋剤とを含有してなる架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の架橋性アクリルゴム組成物を架橋してなるアクリルゴム架橋物。

【公開番号】特開2009−209268(P2009−209268A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53750(P2008−53750)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】