説明

アクリルゴム系グラフト共重合体、および熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐衝撃性、剛性、外観のいずれもが優れる熱可塑性樹脂組成物を提供し得るアクリルゴム系グラフト共重合体と、このアクリルゴム系グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、該ゴム質重合体中の前記多官能性単量体単位の合計量が、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して0.3〜3質量部であり、かつ、前記多官能性単量体単位の総量100質量%中に2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位30〜95質量%と3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位5〜70質量%とを含むアクリルゴム系グラフト共重合体。このアクリルゴム系グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業材料として利用できるアクリルゴム系グラフト共重合体、および、それを用いた熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂、例えばスチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル−フェニルマレイミド共重合樹脂等は、これらの樹脂と相溶性を付与させるような単量体をゴム質重合体にグラフト重合して得られるグラフト重合体を配合し、ABS樹脂、ASA樹脂等に代表される耐衝撃性を付与させた材料として、世の中で広く使用されている。これらの中でも、ゴム質重合体に飽和ゴムであるアルキル(メタ)アクリレートゴム等の成分を用いたASA樹脂は良好な耐候性を有するという特徴を有する。
【0003】
一方、ASA樹脂は着色成形品の発色性低下等による外観不良が生じたり、耐衝撃性が低くなったりするという欠点があった。そこで、この外観不良と耐衝撃性とのバランスを改良することを目的として、粒子径分布が異なるゴム粒子を組み合わせたアクリル酸エステル系ゴム質重合体を構成成分としたASA樹脂が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
また、ASA樹脂が有する欠点を補完するために、エチレン−プロピレン系ゴム成分を用いたAES樹脂とASA樹脂とを併用した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、上述した熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、剛性、耐候性、顔料着色性のいずれかが不充分であり、近年の厳しいニーズに充分応え得るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−232138号公報
【特許文献2】特開平04−225051号公報
【特許文献3】特開平08−134312号公報
【特許文献4】特開2004−346187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、それ自体、耐衝撃性、剛性、外観に優れ、耐衝撃性、剛性、外観のいずれもが優れる熱可塑性樹脂組成物を提供し得るアクリルゴム系グラフト共重合体と、このアクリルゴム系グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体を製造するに際し、特定の多官能性単量体を組み合わせて用いたゴム質重合体にビニル系単量体を重合してなるアクリルゴム系グラフト共重合体が、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、該ゴム質重合体中の前記多官能性単量体単位の合計量が、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して0.3〜3質量部であり、かつ、前記多官能性単量体単位の総量100質量%中に2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位30〜95質量%と3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位5〜70質量%とを含むことを特徴とするアクリルゴム系グラフト共重合体。
【0011】
[2] 前記ゴム質重合体が、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含む単量体混合物を重合してなる共重合体ラテックスと酸基含有共重合体ラテックスとを混合することにより肥大化させ、その後さらにアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を添加して重合させてなることを特徴とする[1]に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体。
【0012】
[3] 前記ゴム質重合体の体積平均粒子径が300〜600nmであることを特徴とする[1]または[2]に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体。
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかに記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(以下「アクリルゴム系グラフト共重合体(A)」という。)を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[5] アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と、体積平均粒子径が70〜200nmであるアクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体の存在下にビニル系単量体をグラフト重合してなるアクリルゴム系グラフト共重合体(以下「アクリルゴム系グラフト共重合体(B)」という。)を含むことを特徴とする[4]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[6] 熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体の総量が熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して5〜30質量部であり、かつ、熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体の総量を100質量%として、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体が20〜70質量%、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に含まれるゴム質重合体が30〜80質量%であることを特徴とする[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[7] アクリルゴム系グラフト共重合体(A)およびアクリルゴム系グラフト共重合体(B)以外の他の熱可塑性樹脂(C)を0〜90質量部を含むことを特徴とする[5]または[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[8] アクリルゴム系グラフト共重合体(B)が、アクリル酸エステル系単量体100質量%を、重合速度3質量%/分以上で重合させてなることを特徴とする[5]ないし[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
[9] [4]ないし[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物成形品。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、剛性、外観、およびこれらの特性のバランスに優れる上に、耐候性にも優れるため、近年、その需要が拡大している自動車材用途や建材用途、家電品用途に利用することができ、その工業的利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
なお、本願明細書において「単位」とは、重合前の単量体化合物(モノマー)に由来する構造部分をさし、例えば、「アクリル酸エステル系単量体単位」とは「アクリル酸エステル系単量体に由来する構造部分」をさす。
また、本願明細書において「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」の一方または双方をさす。
【0022】
[アクリルゴム系グラフト共重合体(A)]
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(アクリルゴム系グラフト共重合体(A))は、アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、該ゴム質重合体中の前記多官能性単量体単位の合計量が、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して0.3〜3質量部であり、かつ、前記多官能性単量体単位の総量100質量%中に2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位30〜95質量%と3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位5〜70質量%とを含むことを特徴とする。
【0023】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるゴム質重合体(以下「ゴム質重合体(a)」と称す場合がある。)は、アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を必須成分とする。
【0024】
該アクリル酸エステル系単量体としては、炭素数1〜12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが望ましい。そのようなアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸と炭素数が1〜12の直鎖或いは側鎖を有するアルコールのエステルが使用される。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が使用でき、特にアルキル基の炭素数が1〜8のものが好ましい。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
ゴム質重合体(a)100質量%中のアクリル酸エステル系単量体単位の含有量としては、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が上記下限未満であると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐候性、耐衝撃性、剛性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0026】
ゴム質重合体(a)において、多官能性単量体単位の合計の含有量は、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して0.3〜3質量部であり、2質量部以下が好ましく、1.5質量部以下が特に好ましく、一方、0.4質量部以上が好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。多官能性単量体単位含有量が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合があり、上記下限より少ないと、外観が低下する場合がある。
【0027】
該多官能性単量体単位は、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位と3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位とを含み、ゴム質重合体(a)中の多官能性単量体単位の総量100質量%に対して、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位の割合は30〜95質量%、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位の割合は5〜70質量%であり、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位35質量%以上、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位65質量%以下がさらに好ましく、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位40質量%以上、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位60質量%以下が特に好ましい。また、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位90質量%以下、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位10質量%以上が好ましく、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位80質量%以下、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位20質量%以上が特に好ましい。
【0028】
2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位の割合が上記下限未満で、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の外観が低下する場合がある。一方、2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位が上記上限を超え、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位が上記下限未満であると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度や剛性が低下する場合がある。
【0029】
本発明に係る2個の不飽和結合を有する多官能性単量体としては、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリル酸エステル、1,3−ブタンジオールジメタクリル酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジアクリル酸エステル等のジオールのジ(メタ)アクリル酸エステル、アクリル酸2−プロペニル、ジビニルベンゼン等が挙げられ、中でもアリル基を有するメタクリル酸アリル、アクリル酸2-プロペニル等が好ましく、得られる樹脂組成物の物性改良効率の点からメタクリル酸アリルが特に好ましい。
【0030】
また、3個以上の不飽和結合を有する多官能性単量体としては、芳香族環を有するイソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、トリメット酸トリアリル等が挙げられ、中でもトリアジン環を有するイソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリルが好ましく、重合安定性の点からイソシアヌル酸トリアリルが特に好ましい。
【0031】
これら2個の不飽和結合を有する多官能性単量体、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
また、ゴム質重合体(a)には、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体以外に、必要によりアクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体を用いることができる。
【0033】
アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル系単量体等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
さらに、ゴム質重合体(a)は、アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体とアクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体との複合ゴムを用いることもできる。この場合、アクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体としては、例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)、ジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサン等が例示される。複合ゴムを得る手法としては、例えば、アクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体の存在下にアクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を重合する手法、アクリル酸エステル系単量体以外の単量体から成るゴム質重合体とアクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含むゴム質重合体を共肥大化する手法等、公知の手法を用いることができる。
【0035】
本発明に係るゴム質重合体(a)は、上記のような単量体混合物を乳化重合することにより製造されることが好ましい。
【0036】
乳化重合で用いる乳化剤としては、乳化重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高めることができる点から、アニオン系乳化剤が好ましい。
アニオン系乳化剤としては、カルボン酸塩(例えば、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等)、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、前記多官能性単量体の加水分解抑制といった点から、サルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が好ましく、これらの中でも特に重合安定性などの面から、アルケニルコハク酸ジカリウムが好ましい。
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるゴム質重合体(a)は、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含む単量体混合物を重合してなる共重合体ラテックスと酸基含有共重合体ラテックスとを混合することにより肥大化させて製造されることが好ましく、酸基含有共重合体ラテックスを混合する前に縮合酸塩を添加することがさらに好ましい。このようにして肥大化させることにより、所望の体積平均粒子径のゴム質重合体(a)を得ることができ、縮合酸塩を添加することにより粒子径200nm以下のゴム質重合体の発生を抑制することができる。
【0038】
ゴム質重合体(a)の肥大化に際して、酸基含有共重合体ラテックスの混合前に添加する縮合酸塩としては、リン酸、ケイ酸等の縮合酸と、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属との塩が用いられるが、リン酸の縮合酸であるピロリン酸とアルカリ金属の塩が好ましく、ピロリン酸ナトリウムまたはピロリン酸カリウムが特に好ましい。縮合酸塩の添加量は、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含む単量体混合物を重合してなる共重合体ラテックス100質量部(固形分として)に対し、縮合酸塩0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.5〜7質量部がより好ましい。縮合酸塩の添加量が上記下限未満では、肥大化が十分進行しない。また、上記上限を超えると肥大化が十分進行しなくなったり、あるいはゴムラテックスが不安定になり多量の凝塊物が発生する場合がある。
【0039】
肥大化に用いる酸基含有共重合体ラテックスは、水中にて、酸基含有単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を含む単量体混合物を重合して得られた酸基含有共重合体のラテックスである。
【0040】
酸基含有単量体としては、カルボキシ基を有する不飽和化合物が好ましく、該化合物としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。酸基含有単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体としては、アクリル酸および/またはメタクリル酸と、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基を有するアルコールとのエステルが挙げられ、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
他の単量体は、酸基含有単量体および(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体と共重合可能な単量体であり、かつ酸基含有単量体および(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体を除く単量体である。他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等)、不飽和ニトリル系単量体(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、2つ以上の重合性官能基を有する化合物(例えば、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールエステル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリメリット酸トリアリル等)等が挙げられる。他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
これら重合性単量体の使用量としては、酸基含有共重合体ラテックス100質量%中の割合として、酸基含有単量体単位が好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは8〜30質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体単位が好ましくは60〜95質量%、さらに好ましくは70〜92質量%、その他の共重合可能な単量体単位が好ましくは0〜48質量%、さらに好ましくは0〜30質量%である。酸基含有単量体単位の割合が上記下限未満であった場合には肥大化能力がほとんどなくなる。また、酸基含有単量体単位の割合が上記上限を超えた場合には、酸基含有共重合体ラテックス製造の際に多量の凝塊物が生成する。
【0044】
酸基含有共重合体ラテックスは一般的な乳化重合法により製造することができる。
【0045】
乳化重合で使用される乳化剤としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれたアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独または2種以上を組み合わされて使用できる。
【0046】
乳化剤の使用方法としては、重合初期に全量を一括仕込してもよいし、一部を初期に使用し、残りを重合中に間欠的にあるいは連続的に追加しても良い。乳化剤量やその使用方法によって、酸基含有共重合体ラテックスの粒子径を、ひいては粒径肥大化されたゴム質重合体(a)ラテックスの粒子径に影響を及ぼすため、適正な量および使用方法を選択する必要がある。
【0047】
重合に用いる重合開始剤は、熱分解型の開始剤やレドックス型の開始剤等が使用できる。熱分解型開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、レドックス型開始剤としては、クメンハイドロパーオキシドに代表される有機過酸化物−ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート−鉄塩等の組み合わせが例示される。これらは単独または2種以上を併用して使用することができる。
【0048】
これら以外にも、分子量を調整するためにt−ドデシルメルカプタンやn−オクチルメルカプタン等のメルカプタン類やテルピノレン、α−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を使用したり、pHを調節するためにアルカリや酸、減粘剤として電解質を添加することもできる。
【0049】
酸基含有共重合体ラテックスの添加量は、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含む単量体混合物を重合してなる共重合体ラテックス100質量部(固形分として)に対し、0.1〜10質量部(固形分として)が好ましく、0.3〜7質量部がより好ましい。酸基含有共重合体ラテックスの添加量が上記下限未満では、肥大化が十分に進行せず、また、凝塊物が多量に発生することもある。酸基含有共重合体ラテックスの添加量が上記上限を超えると肥大化ラテックスのpHが低下し、ラテックスが不安定になる傾向にある。
【0050】
なお、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含む単量体混合物を重合してなる共重合体ラテックスに、酸基含有共重合体ラテックスを添加する前に、縮合酸塩を加えた段階で、混合液のpHは7以上であることが好ましい。pHが7未満となると肥大化が十分に進行しない。pHを7以上とするために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ化合物を使用することができる。
【0051】
縮合酸塩の添加は、酸基含有共重合体ラテックスを混合する前に縮合酸塩を一括添加する方法が好ましい。
また、酸基含有共重合体ラテックスの添加は、一括添加、または滴下により、断続的に添加する方法が好ましい。
【0052】
肥大化時の攪拌は適度に制御する必要がある。攪拌が不十分な場合には、局部的に肥大化が進行することにより未肥大のゴム質重合体が残留し、また、過度に攪拌を行うと、肥大化ラテックスが不安定になり、凝塊物が多量に発生する場合がある。肥大化を行う際の温度は20〜90℃が好ましく、30〜80℃がより好ましい。温度がこの範囲外であると、肥大化が十分に進行しない場合がある。
【0053】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるゴム質重合体(a)は、上記のように酸基含有共重合体ラテックスを用いて肥大化した後、さらにアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を追添加して重合させることが好ましい。この操作を行うことにより、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の外観をさらに向上させることができる。
【0054】
追添加するアクリル酸エステル系単量体を含む単量体の量は、ゴム質重合体(a)を製造する際に用いるアクリル酸エステル系単量体を含む単量体の総量を100質量%として、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましく、また、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。追添加するアクリル酸エステル系単量体を含む単量体の量が上記上限を超えると、粒子径200nm以下のゴム質重合体が生成し、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性または外観が低下する場合がある。追添加するアクリル酸エステル系単量体を含む単量体の量が上記下限未満では、外観改善効果が不十分となる。
【0055】
アクリル酸エステル系単量体を含む単量体の追添加方法は、一括添加、分割添加、逐次添加などいずれの方法でも用いることができるが、粒子径200nm以下のゴム質重合体生成による耐衝撃性または外観の低下を抑制する意味で逐次添加がより好ましい。
【0056】
なお、ここでアクリル酸エステル系単量体を含む多官能性単量体とは、アクリル酸エステル系単量体、多官能性単量体、および必要に応じて用いられる前述のこれらの単量体と共重合可能な他の単量体であり、少なくともアクリル酸エステル系単量体を含むものであればよく、アクリル酸エステル系単量体のみでもよく、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含むものでもよく、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体と他の単量体とを含むものであってもよい。アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含むものが特に好ましい。
【0057】
このようなアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を追添加する場合、肥大化前のアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を重合する段階に用いる多官能性単量体および必要に応じて用いられる他の単量体と、肥大化後に追添加するアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を重合する段階に用いる多官能性単量体および必要に応じて用いられる他の単量体とで、各々多官能性単量体および必要に応じて用いられる他の単量体の使用比率を変更することもできる。ただし、ゴム質重合体としての重合を終了した段階で、多官能性単量体および必要に応じて用いられる他の単量体の総使用量は前記範囲内とする必要がある。肥大化前のアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を重合する段階に用いる多官能性単量体を少なくし、肥大化後に追添加するアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を重合する段階に用いる多官能性単量体を多くすることで、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、剛性、外観のバランスを向上できる傾向にある。この場合、例えば、アクリル酸エステル系単量体の総使用量100質量%に対して、肥大化前に使用するアクリル酸エステル系単量体をX質量%として、多官能性単量体の総使用量100質量%に対して肥大化前に使用する多官能性単量体をX質量%以下、例えば0.3X〜X質量%、肥大化後に追添加するアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を重合する段階に用いる多官能性単量体を、(100−X)質量%以上、例えば(100−X)〜2×(100−X)質量%とするようにしてもよい。
【0058】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるゴム質重合体(a)の体積平均粒子径は300nm以上が好ましく、350nm以上がより好ましい。体積平均粒子径が上記下限未満では、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合がある。また、ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径は600nm以下が好ましく、550nm以下がより好ましい。体積平均粒子径が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の外観が低下する場合がある。
【0059】
さらに、ゴム質重合体(a)100質量%に対して粒子径200nm以下のゴム質重合体の含有量が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。粒子径200nm以下のゴム質重合体の含有量が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合がある。
【0060】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、このようなゴム質重合体(a)の存在下、ビニル系単量体をグラフト重合して得られたものである。
このグラフト重合に用いるビニル系単量体は、不飽和ニトリル系単量体および芳香族ビニル系単量体、および必要に応じて他の単量体を含むことが好ましい。
【0061】
不飽和ニトリル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0063】
他の単量体は、不飽和ニトリル系単量体および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体であり、かつ不飽和ニトリル系単量体および芳香族ビニル系単量体を除く単量体である。他の単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、N−置換マレイミド等が挙げられる。他の単量体についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
ゴム質重合体(a)にグラフト重合させるビニル系単量体としては、得られる成形品の耐衝撃性が優れる点から、スチレン等の芳香族ビニル系単量体とアクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体との単量体混合物が好ましく、特にスチレンとアクリロニトリルの混合物が好ましい。
【0065】
ゴム質重合体(a)にグラフト重合させる単量体混合物中の不飽和ニトリル系単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、3〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。不飽和ニトリル系単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる成形品の耐衝撃性が良好となる。不飽和ニトリル系単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の熱による変色が抑えられる。
また、芳香族ビニル系単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、20〜97質量%が好ましく、30〜80質量%がさらに好ましい。芳香族ビニル系単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる成形性が良好となる。芳香族ビニル系単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の耐衝撃性が良好となる。
【0066】
他の単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。他の単量体の割合が上記上限以下であれば、耐衝撃性と外観のバランスが良好となる。
【0067】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)ラテックスの存在下、上記のような単量体混合物を乳化重合することにより製造されることが好ましい。
【0068】
乳化重合で用いる乳化剤としては、前記ゴム質重合体(a)の製造時と同様、アニオン系乳化剤が好ましく、前記多官能性単量体の加水分解抑制といった点から、アルケニルコハク酸ジカリウムが好ましい。
【0069】
乳化重合で用いる重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。
【0070】
乳化重合の際には、グラフト率やグラフト成分の分子量を制御するための連鎖移動剤を用いてもよい。
【0071】
乳化重合における芳香族ビニル系単量体、不飽和ニトリル系単量体等の単量体の添加方法としては、全量一括添加、分割添加、逐次添加等の方法を用いることができ、一部を一括で添加し、残量を逐次添加する等のように、これらの方法を組み合わせて用いることもできる。また、単量体を添加した後しばらく保持し、その後に重合開始剤を添加して重合を開始する方法も用いることができる。
【0072】
乳化重合で得られたアクリルゴム系グラフト共重合体(A)のラテックスから、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)を回収する方法としては、下記の方法が挙げられる。
グラフト共重合体ラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、グラフト共重合体が粉体または粒子として回収される。
【0073】
なお、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)ラテックスと後述のアクリルゴム系グラフト共重合体(B)ラテックス、必要により、他の重合体ラテックスを予め混合した後に前記回収操作を行っても良い。
【0074】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。
【0075】
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)100質量部に対して、ゴム質重合体(a)の含有量が10〜90質量部、さらに好ましくは20〜80質量部、特に好ましくは30〜70質量部であることが好ましい。ゴム質重合体(a)の含有量が上記下限以上であれば、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、ゴム質重合体(a)の含有量が上記上限以下であれば、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物は良好な外観を保つことができる。
【0076】
また、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のグラフト率は30〜90%、特に50〜80%であることが好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のグラフト率が上記範囲内であると良好な外観を維持する事ができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のグラフト率は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
更にアクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶部の還元粘度は0.40〜1.00g/dL、特に0.50〜0.80g/dLであることが好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶部の還元粘度が上記下限以上であると衝撃強度がより高くなり、上記上限以下であると良好な外観および成形性を保つことができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶部の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0077】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述の本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含むものであり、好ましくは、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)と、アクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体(以下「ゴム質重合体(b)」と称す場合がある。)の存在下にビニル系単量体を重合してなり、体積平均粒子径が70〜200nmであるアクリルゴム系グラフト共重合体(B)(以下「本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(B)」と称す場合がある。)を含むことを特徴とする。
【0078】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(B)に用いるゴム質重合体(b)は、アクリル酸エステル系単量体単位を必須成分とする。
【0079】
アクリル酸エステル系単量体としては、炭素数1〜12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが望ましい。そのようなアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸と炭素数が1〜12の直鎖或いは側鎖を有するアルコールのエステルが使用される。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が使用でき、特にアルキル基の炭素数が1〜8のものが好ましい。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
また、ゴム質重合体(b)は、アクリル酸エステル系単量体単位の他、多官能性単量体単位を含有していてもよく、その場合において、ゴム質重合体(b)に用いる多官能性単量体は、特に制限はなく、公知の多官能性単量体を用いることができる。公知の多官能性単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリル酸エステル、1,3−ブタンジオールジメタクリル酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジアクリル酸エステル等のジオールのジ(メタ)アクリル酸エステル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリメリット酸トリアリル、メタクリル酸アリル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0081】
また、ゴム質重合体(b)には、必要によりアクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体を用いることができる。アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル系単量体等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0082】
さらに、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(B)に用いるゴム質重合体(b)は、アクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体とアクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体との複合ゴムを用いることもできる。アクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体としては、例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)、ジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサン等が例示される。複合ゴムを得る手法としては、例えば、アクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体の存在下にアクリル酸エステル系単量体を重合する手法等、公知の手法を用いることができる。
【0083】
ゴム質重合体(b)100質量%に対するアクリル酸エステル系単量体単位の含有量としては、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が上記下限未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性、耐衝撃性、剛性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0084】
ゴム質重合体(b)の多官能性単量体単位の含有量は、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して3質量部以下が好ましく、2質量部以下がさらに好ましく、1質量部以下が特に好ましく、一方、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.15質量部以上が特に好ましい。ゴム質重合体(b)中の多官能性単量体単位の含有量が上記上限を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合があり、上記下限未満であると、外観が低下する場合がある。
【0085】
また、ゴム質重合体(b)がアクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体単位を含む場合、その含有量はゴム質重合体(b)中の割合で25質量%以下、さらに15質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。他の単量体単位の含有量が上記上限を超えると得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性、耐衝撃性、剛性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0086】
アクリルゴム系グラフト共重合体(B)のゴム質重合体ラテックス(b)は、乳化重合により製造することが好ましい。特に、アクリル酸エステル系単量体を一括添加する回分式の乳化重合法により、その重合速度が、ゴム質重合体(b)の製造に用いる全アクリル酸エステル系単量体100質量%に対して、3質量%/分以上、特に3.5質量%/分以上となるように製造することが好ましい。重合速度が上記下限未満では、得られる熱可塑性樹脂組成物の外観が低下する場合がある。なお、この重合速度の上限については特に制限はないが、工業的に製造する場合には重合速度が速くなる程、発生する重合熱を除去する事が困難となるため、通常、20質量%/分以下、より好ましくは10質量%/分以下である。
【0087】
上記重合速度により外観が向上する理由については、ゴム質重合体(b)の詳細な構造分析が不能であるため詳細は不明であるが、このゴム質重合体(b)は、架橋構造が変化しているものと考えられる。
【0088】
乳化重合で用いる重合開始剤としては、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。過酸化物、アゾ系開始剤等の熱分解性開始剤では、前記の重合速度を調整する際に多量の開始剤を用いたり、高い温度での重合が必要となるため、工業的に不利である。レドックス系開始剤を用いた場合、触媒である金属イオンや酸化剤、還元剤の量により重合速度を調整することができる。
【0089】
アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に用いるゴム質重合体(b)の体積平均粒子径は70nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましく、一方、200nm以下が好ましく、170nm以下がより好ましく、150nm以下が特に好ましい。ゴム質重合体(b)の体積平均粒子径が上記下限未満では、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械的強度が低下する場合がある。一方、体積平均粒子径が上記上限を超えると、外観が低下する場合がある。
【0090】
アクリルゴム系グラフト共重合体(B)は、前記ゴム質重合体(b)の存在下、ビニル系単量体をグラフト重合して得られたものである。
このビニル系単量体としては、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるビニル系単量体と同様のものを用いることができ、その好適なビニル系単量体の種類や使用割合についても同様である。
【0091】
アクリルゴム系グラフト共重合体(B)は乳化重合法、連続重合法等公知の製造法を用いて製造することができる。これらのうち乳化重合法が特に好ましい。乳化重合法で用いる乳化剤、開始剤、連鎖移動剤等は、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)の製造に用いるものと同様、公知のものを用いることができる。
【0092】
乳化重合で得られたアクリルゴム系グラフト共重合体(B)のラテックスからのアクリルゴム系グラフト共重合体(B)の回収は、前述のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)の回収方法と同様に行うことができる。
前述の如く、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)ラテックスとアクリルゴム系グラフト共重合体(B)ラテックス、必要により、他の重合体ラテックスを予め混合した後に前記回収操作を行っても良い。
【0093】
アクリルゴム系グラフト共重合体(B)は、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)100質量部に対して、ゴム質重合体(b)の含有量が10〜90質量部、さらに好ましくは20〜80質量部、特に好ましくは30〜70質量部であることが好ましい。ゴム質重合体(b)の含有量が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、ゴム質重合体が上記上限以下であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物は良好な外観を保つことができる。
【0094】
また、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)のグラフト率は30〜90%、特に35〜70%であることが好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(B)のグラフト率が上記範囲内であると良好な外観を維持する事ができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(B)のグラフト率は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
更にアクリルゴム系グラフト共重合体(B)のアセトン可溶部の還元粘度は0.40〜1.00g/dL、特に0.50〜0.80g/dLであることが好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(B)のアセトン可溶部の還元粘度が上記下限以上であると衝撃強度がより高くなり、上記上限以下であると良好な外観および成形性を保つことができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(B)のアセトン可溶部の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0095】
[熱可塑性樹脂(C)]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)およびアクリルゴム系グラフト共重合体(B)以外の他の熱可塑性樹脂(C)を含有していてもよい。この場合、熱可塑性樹脂(C)としては、スチレン系樹脂、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)、(メタ)アクリル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、各種オレフィン系エラストマー、各種ポリエステル系エラストマー、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド(ナイロン)等が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0096】
これらの中でも、耐薬品性向上の点から、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましく、成形加工性向上の点からは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン系樹脂が好ましく、耐熱性向上の点からは、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、ポリアミドが好ましい。また、耐衝撃性と成形性のバランスの面からは、スチレン系樹脂が特に好ましく、耐候性向上の点からは、(メタ)アクリル系樹脂が特に好ましく、耐衝撃性と耐熱性バランスの面からは、ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
【0097】
スチレン系樹脂は芳香族ビニル単量体単位を必須成分とし、必要に応じてシアン化ビニル等の不飽和ニトリル系単量体、不飽和カルボン酸無水物、N置換マレイミド等、他の単量体を共重合することにより得られる樹脂である。これらの単量体単位は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0098】
スチレン系樹脂としては、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−アルファメチルスチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−Nフェニルマレイミド共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アルファメチルスチレン−Nフェニルマレイミド共重合体、スチレン−Nフェニルマレイミド共重合体が特に好ましい。
【0099】
スチレン系樹脂に含まれる芳香族ビニル系単量体単位の割合は、スチレン樹脂を製造する際に用いる単量体混合物(100質量%)中、20〜100質量%が好ましく、30〜90質量%がさらに好ましく、50〜80質量%が特に好ましい。芳香族ビニル系単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となる。
【0100】
また、スチレン系樹脂に含まれる不飽和ニトリル系単量体単位の割合は、スチレン樹脂を製造する際に用いる単量体混合物(100質量%)中、0〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がさらに好ましい。不飽和ニトリル系単量体の割合が上記上限未満であれば、得られる成形品の熱による変色が抑えられる。
【0101】
また、スチレン系樹脂に含まれる他の単量体の割合は、スチレン樹脂を製造する際に用いる単量体混合物(100質量%)中、55質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。他の単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の耐衝撃性と外観のバランスが良好となる。
【0102】
(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル系単量体の重合成分、或いはメタクリル酸エステル系単量体とアクリル酸メチル等のアクリル酸エステル系単量体および/またはメタクリル酸エステル系単量体とアクリル酸エステル系単量体と共重合可能なその他の単量体との共重合成分からなる樹脂であり、(メタ)アクリル系樹脂を構成するメタクリル酸エステル系単量体とアクリル酸エステル系単量体との質量比率は100/0〜50/50が好ましく、さらには99/1〜80/20の範囲であることが好ましい。アクリル酸エステル系単量体の割合がこの範囲よりも多くなると、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱安定性および耐熱性が損なわれる傾向にある。
【0103】
なお、メタクリル酸エステル系単量体としてはメタクリル酸メチルを、アクリル酸エステル系単量体としてはアクリル酸メチルを用いることが好ましい。
【0104】
(メタ)アクリル系樹脂の具体例としては、例えば、市販品の三菱レイヨン(株)製「アクリペットVHS」、「アクリペットMD」や、(株)クラレ製「パラペットG」などが挙げられる。
【0105】
ポリカーボネート樹脂(PC)としては、粘度平均分子量(Mv)が10,000〜45,000、特に13,000〜40,000の範囲にあるものが好ましい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量がこの範囲よりも低い場合は、耐衝撃性が低下する傾向にあり、この範囲を超えると流動性が悪くなり、成形性が劣ることにより、製品の外観が劣る傾向がある。
【0106】
ポリカーボネート樹脂(PC)の具体例としては、例えば、市販品の三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユーピロンシリーズ」、「ノバレックスシリーズ」や、出光興産(株)製「タフロンシリーズ」などが挙げられる。
【0107】
他の熱可塑性樹脂(C)は、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法等の公知の製造法により製造することができる。
【0108】
[樹脂成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分として、上述のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含むことを必須とし、さらに好ましくはアクリルゴム系グラフト共重合体(B)を含み、必要により他の熱可塑性樹脂(C)を含む熱可塑性樹脂組成物である。
【0109】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体の総量は、熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して5〜30質量部であることが好ましく、7〜25質量部であることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、ゴム質重合体の含有量が上記上限以下であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の良好な外観と流動性を保つことができる。
【0110】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物中に含まれるゴム質重合体の総量を100質量%として、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a)が20〜70質量%、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に含まれるゴム質重合体(b)が30〜80質量%であることが好ましく、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a)30〜60質量%、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に含まれるゴム質重合体(b)が40〜70質量%であることがより好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a)が上記下限以上、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に含まれるゴム質重合体(b)が上記上限以下であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a)が上記上限以下、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に含まれるゴム質重合体(b)が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の良好な外観を保つことができる。
【0111】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体が他の熱可塑性樹脂(C)を含む場合、その含有量は本発明の熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して0〜70質量部が好ましく、10〜65質量部がより好ましい。他の熱可塑性樹脂(C)の使用量が上記上限以下であれば、良好な外観を維持することができる。
【0112】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、顔料や染料等の着色剤、熱安定剤、光安定剤、補強剤、充填材、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、加工助剤等が含まれてもよい。
【0113】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)とアクリルゴム系グラフト共重合体(B)、必要に応じて他の熱可塑性樹脂(C)およびその他の成分とを、V型ブレンダーやヘンシェルミキサー等の混合装置で混合し、その混合装置により得た混合物を溶融混練することで製造される。その溶融混練の際には、単軸または二軸の押出機、バンバリーミキサー、加熱ニーダー、ロール等の混練機などが用いられる。
【0114】
[熱可塑性樹脂成形品]
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の熱可塑性樹脂成形品は、様々な用途に使用することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。
【0115】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、他の樹脂や金属等よりなる基材に対して被覆層を形成するための材料として用いることもできる。
この場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物による被覆層を形成する基材の構成材料としての他の樹脂としては、例えば、上述した他の熱可塑性樹脂(C)や、ABS樹脂やハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)等のゴム変性熱可塑性樹脂、フェノール樹脂やメラミン樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物をこれらの他の樹脂や金属よりなる基材上に被覆成形することにより、耐候性や良好な外観を有する意匠性を付与することができる。
【0116】
このような成形品は様々な用途で使用することができる。例えば、工業的用途として、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材および通信機器ハウジング、ノートパソコンハウジング、携帯端末ハウジング、液晶プロジェクターハウジング等の電機機器ハウジングなどに好適に使用される。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何らその範囲を限定するものではない。なお、以下の例中の「部」は特に明記しない限りは質量基準とする。
【0118】
なお、以下において、ゴム質重合体およびアクリルゴム系グラフト共重合体の物性、得られた成形品の特性は、以下の方法で測定および評価した。
【0119】
<固形分>
ラテックスの固形分は、ラテックス1gを正確に秤量し、200℃で20分かけて揮発分を蒸発させた後の残渣物を計量し、下記の式より求めた。
固形分(%)=残渣物質量/ラテックス質量×100
【0120】
<重合転化率>
重合転化率は、前記固形分を測定し、下記の式より求めた。
重合転化率(%)=
{S÷100×総仕込み質量−単量体・水以外の仕込質量}/単量体総質量×100
式中、Sは、上記固形分(%)を示し、総仕込み質量は、単量体、水等、反応器に仕込んだ物質の総質量を示す。
【0121】
<グラフト率>
グラフト共重合体のグラフト率は、次の方法により算出した。
グラフト共重合体2.5gにアセトン80mLを加え65℃の湯浴で3時間還流し、アセトン可溶分の抽出を行った。残留したアセトン不溶物を遠心分離により分離し、乾燥した後重量を測定し、グラフト共重合体中のアセトン不溶物の質量割合を算出した。得られたグラフト共重合体中のアセトン不溶物の質量割合より次の式を用いて、グラフト率を算出した。
【0122】
【数1】

【0123】
<還元粘度>
還元粘度は、0.2g/dLの共重合体のN,N−ジメチルホルムアミド溶液について、ウベローデ粘度計を用いて25℃で測定した。なお、グラフト共重合体の還元粘度は、グラフト率測定の際にアセトン抽出したアセトン可溶部を用いて測定した。
【0124】
<粘度平均分子量>
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液について、ウベローデ粘度計を用いて、20℃における極限粘度[η]を測定し、以下の式より算出した。
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
【0125】
<体積平均粒子径、粒子径200nm以下の粒子の割合>
日機装社製のNanotrac UPA−EX150を用いて動的光散乱法より求めた。
【0126】
<メルトボリュームレート>
熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレートは、ISO 1133に準拠する方法により、バレル温度220℃、加重98Nの条件で測定した。メルトボリュームレートは、熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
【0127】
<シャルピー衝撃強度>
成形品のシャルピー衝撃強度は、ISO 179に準拠する方法により、23℃雰囲気下で12時間以上を放置したVノッチあり試験片について測定した。
【0128】
<曲げ弾性率>
成形品の曲げ弾性率は、ISO試験法178に準拠する方法により、測定温度23℃、試験片厚さ4mmで測定した。
【0129】
<荷重たわみ温度>
成形品の荷重たわみ温度はISO試験法75に準拠し、1.83MPa、4mm、フラットワイズ法で測定した。
【0130】
<光沢度>
成形品の表面の光沢度は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形(射出速度:40g/sec.)により100mm×100mm×3mmの成形板とし、スガ試験器社製のデジタル変角光計UGV−5Dを用い、入射角60°、反射角60°での反射率から求めた。
ただし、実施例11〜28、比較例3〜5では、射出速度:10g/sec.および40g/sec.にて射出成形を行った100×100×2mmの平板試験片表面について、それぞれ上記と同様に光沢度を求めた。
【0131】
<発色性>
熱可塑性樹脂組成物を、射出成形(射出速度:40g/sec.)により100mm×100mm×3mmの成形板とし、ミノルタ製測色計CM−508Dを用いてL*を測定した。L*の数値が小さいほど、発色性が良好であることを示す。
ただし、実施例11〜28、比較例3〜5では、射出速度:10g/sec.および40g/sec.にて射出成形を行った100×100×2mmの平板試験片表面について、それぞれ上記と同様に発色性を測定した。
【0132】
〔合成例1:酸基含有共重合体ラテックス(K)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水(以下、単に水と記す。) 200部、
オレイン酸カリウム 2部、
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 4部、
硫酸第一鉄七水塩 0.003部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.009部、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
を窒素フロー下で仕込み、60℃に昇温した。60℃になった時点から、
アクリル酸n−ブチル 82部、
メタクリル酸 18部、
クメンヒドロパーオキシド 0.5部
からなる混合物を120分かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに2時間、60℃のまま熟成を行い、固形分が33%、重合転化率が96%、酸基含有共重合体の体積平均粒子径が150nmである酸基含有共重合体ラテックス(K)を得た。
【0133】
〔合成例2:ゴム質重合体ラテックス(a−1)の製造〕
<1段目>
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
水 310部、
アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK) 1部、
アクリル酸n−ブチル 80部、
メタクリル酸アリル 0.48部、
イソシアヌル酸トリアリル 0.4部、
t−ブチルヒドロパーオキシド 0.2部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温55℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部、
硫酸第一鉄七水塩 0.0001部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0003部、
水 10部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持した。得られたゴム質重合体の体積平均粒子径は100nmであった。ここへ5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1部添加し(混合液のpHは9.1)、内温を70℃になる様にジャケット温度の制御を行った。
【0134】
内温70℃にて、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として3部添加し、内温70℃を保持したまま30分撹拌し、肥大化を行った。肥大化後の体積平均粒子径は420nmであった。
【0135】
<2段目>
内温70℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.03部、
硫酸第一鉄七水塩 0.002部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.006部、
水 80部
からなる水溶液を添加し、次いで
アクリル酸n−ブチル 20部、
メタクリル酸アリル 0.12部、
イソシアヌル酸トリアリル 0.1部、
t−ブチルヒドロパーオキシド 0.02部
からなる混合液を1時間にわたって滴下した。滴下終了後、温度70℃の状態を1時間保持した後に冷却し、固形分が18%、ゴム質重合体の体積平均粒子径が450nmであるゴム質重合体ラテックス(a−1)を得た。重合転化率は97%、粒子径200nm以下の粒子の割合は10%であった。
【0136】
〔合成例3:ゴム質重合体ラテックス(a−2)〜(a−5)およびゴム質重合体ラテックス(x−1)〜(x−2)の製造〕
メタクリル酸アリルおよびイソシアヌル酸トリアリルの使用量を表1に記載した量にした以外は合成例2と同様にして、ゴム質重合体ラテックス(a−2)〜(a−5)およびゴム質重合体ラテックス(x−1)〜(x−2)を得た。
【0137】
〔合成例4:ゴム質重合体ラテックス(a−6)の製造〕
肥大化時に添加する5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として2部、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として3部に変更した以外は合成例2と同様の手法により、ゴム質重合体ラテックス(a−6)を得た。肥大化後の体積平均粒子径は510nm、また、アクリル酸n−ブチル20部重合後の体積平均粒子径は550nmであった。
【0138】
〔合成例5:ゴム質重合体ラテックス(a−7)の製造〕
肥大化時に添加する5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1部、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として4部に変更した以外は合成例2と同様の手法により、ゴム質重合体ラテックス(a−7)を得た。肥大化後の体積平均粒子径は325nm、また、アクリル酸n−ブチル20部重合後の体積平均粒子径は350nmであった。
【0139】
〔合成例6:ゴム質重合体ラテックス(a−8)の製造〕
初期に仕込む単量体等を表1に記載した量にし、肥大化後にアクリル酸n−ブチル等の重合反応を行わない以外は合成例2と同様の手法により、ゴム質重合体ラテックス(a−8)を得た。肥大化後の体積平均粒子径は430nmであった。
【0140】
〔合成例7:ゴム質重合体ラテックス(a−9)の製造〕
肥大化時に添加する5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として3部、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として3部に変更した以外は合成例2と同様の手法により、ゴム質重合体ラテックス(a−9)を得た。肥大化後の体積平均粒子径は600nm、また、アクリル酸n−ブチル20部重合後の体積平均粒子径は650nmであった。
【0141】
〔合成例8:ゴム質重合体ラテックス(a−10)の製造〕
肥大化時に添加する5%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1部、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として5部に変更した以外は合成例2と同様の手法により、ゴム質重合体ラテックス(a−10)を得た。肥大化後の体積平均粒子径は280nm、また、アクリル酸n−ブチル20部重合後の体積平均粒子径は300nmであった。
【0142】
ゴム質重合体ラテックス(a−1)〜(a−10)および(x−1)〜(x−2)の合成条件、得られたゴム質重合体の粒子径等を表1にまとめて示す。
【0143】
【表1】

【0144】
〔実施例1:グラフト共重合体(A−1)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、
水(ゴム質重合体ラテックス中の水を含む) 230部、
ゴム質重合体ラテックス(a−1) 50部(固形分として)、
アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK) 0.5部、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部
を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を70℃まで昇温した。
次いで、
アクリロニトリル 15部、
スチレン 35部、
t−ブチルヒドロパーオキシド 0.5部
からなる混合液を100分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後、冷却し、グラフト共重合体(A−1)ラテックスを得た。
次いで、1.5%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(A−1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(A−1)を得た。
【0145】
〔実施例2〜10,比較例1〜2〕
用いるゴム質重合体ラテックスを表2に記載のものに変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のグラフト共重合体(A−2)〜(A−10)と(X−1)〜(X−2)を得た。
グラフト共重合体(A−2)〜(A−10)、(X−1)〜(X−2)の合成条件と物性の評価結果を表2にまとめて示す。
【0146】
【表2】

【0147】
〔合成例9:グラフト共重合体(B−1)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
水 240部、
アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK) 0.7部、
アクリル酸n−ブチル 50部、
メタクリル酸アリル 0.15部、
1,3−ブタンジオールジメタクリル酸エステル 0.05部、
t−ブチルヒドロパーオキシド 0.1部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。
内温55℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.2部、
硫酸第一鉄七水塩 0.00015部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.00045部、
水 10部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持した。重合発熱が確認されてから、発熱が確認されなくなるまでは20分間であり、発熱が確認されなくなった時点での重合転化率は92%、重合速度は4.6%/分であった。得られたゴム質重合体の体積平均粒子径は105nmであった。
内温を70℃に制御し、
アルケニルコハク酸ジカリウム(花王社製、ラテムルASK) 0.2部、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.3部、
硫酸第一鉄七水塩 0.001部、
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.003部、
水 10部
からなる水溶液を添加した。次いで、
アクリロニトリル 12部、
スチレン 28部、
t−ブチルヒドロパーオキシド 0.2部
からなる混合液を80分間にわたって滴下しながら、80℃まで昇温した。
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後、75℃まで冷却し、
アクリロニトリル 3部、
スチレン 7部、
ノルマルオクチルメルカプタン 0.02部、
t−ブチルヒドロパーオキシド 0.05部
からなる混合液を20分間にわたって滴下した。滴下終了後、75℃で60分間保持した後冷却し、グラフト共重合体(B−1)ラテックスを得た。
次いで、2.0%硫酸水溶液100部を40℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(B−1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(B−1)を得た。
【0148】
〔合成例10:グラフト共重合体(B−2)の製造〕
アクリル酸n−ブチル重合時に添加するアルケニルコハク酸ジカリウムを0.3部に変更した以外は合成例9と同様の手法により、粉末状のグラフト共重合体(B−2)を得た。
アクリル酸n−ブチルの重合発熱が確認されてから発熱が確認されなくなるまでの時間は22分間であり、発熱が確認されなくなった時点での重合転化率は94%、重合速度は4.3%/分であった。ゴム質重合体の体積平均粒子径は155nmであった。
【0149】
〔合成例11:グラフト共重合体(B−3)の製造〕
アクリル酸n−ブチル重合時に添加する硫酸第一鉄七水塩を0.0000375部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを0.0001125部に変更した以外は合成例9と同様の手法により、粉末状のグラフト共重合体(B−3)を得た。
アクリル酸n−ブチルの重合発熱が確認されてから発熱が確認されなくなるまでの時間は40分間であり、発熱が確認されなくなった時点での重合転化率は91%、重合速度は2.3%/分であった。体積平均粒子径は130nmであった。
【0150】
グラフト共重合体(B−1)〜(B−3)の合成条件と物性の評価結果を表3にまとめて示す。
【0151】
【表3】

【0152】
〔合成例12:熱可塑性樹脂(C−1),(C−2)の製造〕
公知の懸濁重合法により、表4に記載の組成と還元粘度を有する共重合体(C−1),(C−2)を得、熱可塑性樹脂(C−1),(C−2)とした。
【0153】
〔合成例13:熱可塑性樹脂(C−3)の製造〕公知の連続溶液重合法により、表4に記載の組成と還元粘度を有する共重合体(C−3)を得、熱可塑性樹脂(C−3)とした。
【0154】
〔合成例14:熱可塑性樹脂(C−4)の製造〕
公知の懸濁重合法により、表4に記載の組成と還元粘度を有する共重合体(C−4)を得、熱可塑性樹脂(C−4)とした。
【0155】
また、熱可塑性樹脂(C−5)として、ポリカーボネート樹脂(ユーピロン S−3000(粘度平均分子量(Mv):21,000)、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を用いた。
【0156】
共重合体(C−1)〜(C−4)の単量体組成と還元粘度を表4にまとめて示す。
【0157】
【表4】

【0158】
〔実施例11:熱可塑性樹脂組成物の製造〕
グラフト共重合体(A−1)16部、グラフト共重合体(B−1)24部、熱可塑性樹脂(C−1)30部、熱可塑性樹脂(C−2)30部、エチレンビスステアリルアミド0.5部、アデカスタブLA−63PK(旭電化工業社製)0.5部、および着色剤としてカーボンブラック#960(三菱化学社製)1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、該混合物をバレル温度240℃に加熱した脱揮式二軸押出機((株)日本製鋼製、TEX30α)で賦形し、ペレットを作製した。このペレットについて、メルトボリュームレートを測定した。結果を表5に示した。
この樹脂ペレットを4オンス射出成形機((株)日本製鋼製)にて220〜260℃にて成形し、必要なテストピースを作成し、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率、荷重たわみ温度を測定した。また、射出速度:10g/sec.および40g/sec.にて射出成形を行った100×100×2mmの平板試験片表面について、それぞれ光沢度、発色性を測定した。これらの結果を表5に示した。
【0159】
〔実施例12〜28,比較例3〜5:熱可塑性樹脂組成物の製造〕
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(X)および熱可塑性樹脂(C)の配合を表5に示した配合とした以外は実施例11と同様の手法により、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。各種物性を評価した結果を表5に示した。
【0160】
【表5】

【0161】
〔考察〕
表5より次のことが明らかである。
即ち、本発明で必須成分とする2個の不飽和結合を有する多官能性単量体のメタクリル酸アリル単位を含まないアクリルゴム系グラフト共重合体(X−1)を用いた比較例3は光沢度および発色性が悪く、外観に劣る。また、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体のイソシアヌル酸トリアリル単位を含まないアクリルゴム系グラフト共重合体(X−2)を用いた比較例4は衝撃強度、光沢度および発色性のバランスが劣る。また、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含まない比較例5は衝撃強度および曲げ弾性率のバランスが劣る。また、いずれの比較例も、低速成形時と高速成形時における光沢および発色性の差が大きく、射出速度依存性が高いことが明らかである。
これに対して、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含む実施例11〜28の本発明の熱可塑性樹脂組成物であれば、衝撃強度や曲げ弾性率等の機械的強度および光沢度や発色性などの外観において良好な特性を得ることができる。
【0162】
〔実施例29〜44,比較例6〜8:熱可塑性樹脂組成物の製造〕
実施例11における熱可塑性樹脂(C−1)および(C−2)を、(メタ)アクリル系樹脂である熱可塑性樹脂(C−4)に変更し、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(X)および熱可塑性樹脂(C)の配合を表5に示した配合とした以外は実施例11と同様の手法により、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。各種物性を評価した結果を表6に示した。
【0163】
【表6】

【0164】
〔考察〕
表6より次のことが明らかである。
即ち、本発明で必須成分とする2個の不飽和結合を有する多官能性単量体のメタクリル酸アリル単位を含まないアクリルゴム系グラフト共重合体(X−1)を用いた比較例6は光沢度および発色性が悪く、外観に劣る。また、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体のイソシアヌル酸トリアリル単位を含まないアクリルゴム系グラフト共重合体(X−2)を用いた比較例7は衝撃強度、光沢度および発色性のバランスが劣る。また、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含まない比較例8は衝撃強度および曲げ弾性率のバランスが劣る。
これに対して、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含む実施例29〜44の本発明の熱可塑性樹脂組成物であれば、熱可塑性樹脂(C)として、(メタ)アクリル系樹脂(C−4)を用いた場合でも、衝撃強度や曲げ弾性率等の機械的強度および光沢度や発色性などの外観において良好な特性を得ることができる。
【0165】
〔実施例45:熱可塑性樹脂組成物の製造〕
グラフト共重合体(A−1)6部、グラフト共重合体(B−1)9部、熱可塑性樹脂(C−1)45部、熱可塑性樹脂(C−5)40部、パラフィンワックス0.5部、アデカスタブLA−63PK(旭電化工業社製)0.5部、および着色剤としてカーボンブラック#960(三菱化学社製)1部を、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、該混合物をバレル温度250℃に加熱した脱揮式二軸押出機((株)日本製鋼製、TEX30α)で賦形し、ペレットを作製した。このペレットについて、メルトボリュームレートを測定した。結果を表7に示した。
この樹脂ペレットを4オンス射出成形機((株)日本製鋼製)にて250〜270℃にて成形し、必要なテストピースを作成し、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率、荷重たわみ温度、光沢度、発色性を測定した。これらの結果を表7に示した。
【0166】
〔実施例46〜63,比較例9〜12:熱可塑性樹脂組成物の製造〕
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(X)、熱可塑性樹脂(C−1)および(C−5)の配合を表7に示した配合とした以外は実施例45と同様の手法により、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。各種物性を評価した結果を表7に示した。
【0167】
【表7】

【0168】
〔考察〕
表7より次のことが明らかである。
即ち、本発明で必須成分とする2個の不飽和結合を有する多官能性単量体のメタクリル酸アリル単位を含まないアクリルゴム系グラフト共重合体(X−1)を用いた比較例9は光沢度および発色性が悪く、外観に劣る。また、3個の不飽和結合を有する多官能性単量体のイソシアヌル酸トリアリル単位を含まないアクリルゴム系グラフト共重合体(X−2)を用いた比較例10は衝撃強度、光沢度および発色性のバランスが劣る。また、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含まない比較例11は衝撃強度および曲げ弾性率のバランスが劣る。また、熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体総量が低い比較例12は、衝撃強度の低下が著しい。
これに対して、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含む実施例45〜63の本発明の熱可塑性樹脂組成物であれば、熱可塑性樹脂(C)として、スチレン系樹脂(C−1)およびポリカーボネート樹脂(C−5)を用いた場合でも、衝撃強度や曲げ弾性率等の機械的強度および光沢度や発色性などの外観において良好な特性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物は、優れた耐衝撃性、剛性、外観のバランスを有する。また耐候性にも優れるため、近年用いられる自動車材用途や建材用途、家電品用途に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、該ゴム質重合体中の前記多官能性単量体単位の合計量が、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して0.3〜3質量部であり、かつ、前記多官能性単量体単位の総量100質量%中に2個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位30〜95質量%と3個の不飽和結合を有する多官能性単量体単位5〜70質量%とを含むことを特徴とするアクリルゴム系グラフト共重合体。
【請求項2】
前記ゴム質重合体が、アクリル酸エステル系単量体と多官能性単量体を含む単量体混合物を重合してなる共重合体ラテックスと酸基含有共重合体ラテックスとを混合することにより肥大化させ、その後さらにアクリル酸エステル系単量体を含む単量体を添加して重合させてなることを特徴とする請求項1に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体。
【請求項3】
前記ゴム質重合体の体積平均粒子径が300〜600nmであることを特徴とする請求項1または2に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(以下「アクリルゴム系グラフト共重合体(A)」という。)を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と、体積平均粒子径が70〜200nmであるアクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体の存在下にビニル系単量体をグラフト重合してなるアクリルゴム系グラフト共重合体(以下「アクリルゴム系グラフト共重合体(B)」という。)を含むことを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体の総量が熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して5〜30質量部であり、かつ、熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体の総量を100質量%として、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体が20〜70質量%、アクリルゴム系グラフト共重合体(B)に含まれるゴム質重合体が30〜80質量%であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)およびアクリルゴム系グラフト共重合体(B)以外の他の熱可塑性樹脂(C)を0〜90質量部を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
アクリルゴム系グラフト共重合体(B)が、アクリル酸エステル系単量体100質量%を、重合速度3質量%/分以上で重合させてなることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項4ないし8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物成形品。

【公開番号】特開2012−214734(P2012−214734A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−67710(P2012−67710)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】