説明

アクリル仮撚複合糸及びその製造方法

【課題】 染色、編成等の後工程での糸条のばらけのない集束性の良好な、かつ適度なシャリ感、ドライ感、張り腰と、アクリル繊維の特徴である低温での仕上セット性、優雅な光沢感を併せ持つアクリル仮撚複合糸を提供し、またかかるアクリル仮撚複合糸を仮撚加工により得る。
【解決手段】 アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%からなる仮撚複合糸であって、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、集束部全体の50%以上の集束部に構成フィラメントが固着した融着部を有し、融着部を有する集束部の断面においてその面積の20〜80%を占めて融着部が存在するアクリル仮撚複合糸。またこの糸をアクリルマルチフィラメントと再生セルロースマルチフィラメントとを合糸し、アクリルフィラメントの軟化点以上の温度で仮撚加工を施すことにより得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクリルマルチフィラメントと再生セルロースマルチフィラメントからなる仮撚複合糸及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シャリ感、ドライ感、張り腰を有する涼感素材は、一般に撚糸機で実撚が付与されたものが多いが、その生産性が低く、往々にして風合いの硬いものとなりやすい。そこで、仮撚加工により実撚を残存させ集束部と非集束部を交互に存在させた仮撚加工糸が提案されており、例えば、供給する糸条に先撚を施し、先撚の撚方向と同方向に仮撚加工を施す方法(先撚仮撚法)や、供給する糸条の軟化点以上、溶融点以下の温度で仮撚加工を行う方法(融着仮撚法)等が挙げられる。
【0003】前者の方法によるものはアクリルマルチフィラメントにおいてもよく用いられており、供給糸として一本の糸条に先撚を施したもの、複数の糸条を合撚し、次いで仮撚加工工程へ供給するもの等数多く工業化されている。しかしながら、これらのものは、シャリ感、ドライ感、張り腰に優れるものの、染色、編成等の後工程においてわずかな張力で集束部を構成する実撚部がずれ動き、特に複数本の原糸を使用する場合では、非集束部で糸条がばらけ、風合いの低下を招くという問題があった。
【0004】また、後者の方法によるものは、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン等を用いたものが多数提案されており、アクリルマルチフィラメントを用いたものも特開昭57−128226号公報にて提案されている。これらのものは、構成する糸条の一部、または全部が融着されてなることを特徴とするものであり、優れたシャリ感を持ち、また、糸条のばらけがない集束性の良好なものであるが、風合いの硬い、張り腰の強すぎるものであった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、染色、編成等の後工程での糸条のばらけのない集束性の良好な、かつ適度なシャリ感、ドライ感、張り腰と、アクリル繊維の特徴である低温での仕上セット性、優雅な光沢感を併せ持つアクリル仮撚複合糸を提供し、またかかるアクリル仮撚複合糸を仮撚加工により得ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%からなる仮撚複合糸であって、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、集束部全体の50%以上の集束部に構成フィラメントが固着した融着部を有し、融着部を有する集束部の断面においてその面積の20〜80%を占めて融着部が存在することを特徴とするアクリル仮撚複合糸、及び、アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%とを合糸し、アクリルマルチフィラメントの軟化点以上の温度で仮撚加工を施すことを特徴とするアクリル仮撚複合糸の製造方法、にある。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明のアクリル仮撚複合糸の構成成分であるアクリルマルチフィラメントは、アクリロニトリルを80重量%以上含有しアクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体が共重合されたアクリロニトリル系重合体から形成されたマルチフィラメントである。アクリロニトリルと共重合可能な不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの誘導体、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸ソーダ等の単量体が挙げられる。
【0008】また、本発明のアクリル仮撚複合糸を構成する他の成分である再生セルロースマルチフィラメントは、パルプやコットンリンターを原料とするビスコース法レーヨンや銅アンモニア法レーヨンのマルチフィラメントである。
【0009】本発明のアクリル仮撚複合糸においては、アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%とから構成され、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在しており、集束部は、融着部を有しない集束部が含まれていてもよいが、融着部を有する集束部が集束部全体の50%以上であり、融着部を有する集束部においてはその断面積の20〜80%を占めてアクリルフィラメントを介して構成フィラメント相互が固着して融着部を形成している。図1に本発明のアクリル仮撚複合糸の一例の糸側面図を示す。図1において、1は集束部、2は非集束部を表す。また、図2に融着部を有する集束部における断面図を示す。図2において、3は融着部、4は非固着の構成フィラメントを表す。
【0010】アクリルマルチフィラメントの比率が75重量%を超えると、融着部を有する集束部における構成フィラメント相互の固着が強固なものとなり、シャリ感が強く、風合いの硬い、張り腰の強すぎるものとなる。また、再生セルロースマルチフィラメントの比率が50重量%を超えると、融着部を有する集束部における構成フィラメントの固着が弱いものとなり、非集束部でのフィラメントのばらけが生じて集束性を悪化させ、糸全体としての強力が低下し、織成、編成或いは染色の際の糸切れの原因となる。好ましい比率としては、アクリルマルチフィラメント60〜70重量%、再生セルロースマルチフィラメント40〜30重量%である。
【0011】また、本発明のアクリル仮撚複合糸において、全ての集束部に融着部を有し、融着部を有する集束部の断面において固着した構成フィラメントが断面積の80%を超えて占めているときは、シャリ感が強く、風合いの硬い、張り腰の強すぎるものとなる。また、融着部を有する集束部が集束部全体の50%未満で、融着部を有する集束部の断面において固着した構成フィラメントが断面積の20%未満であるときは、シャリ感、風合い、張り腰が不十分なものとなる。
【0012】本発明において、アクリル仮撚複合糸の融着部とは、複合糸の構成成分であるアクリルフィラメントは明瞭な溶融点を有するものではなく、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性合成繊維におけると同様の明確な融着部を形成したものではないが、図2に示すように、アクリルフィラメント相互及び再生セルロースフィラメント相互が軟化したアクリルフィラメントを介して分離不可能に一体に固着した状態にある部分をいう。
【0013】本発明のアクリル仮撚複合糸において、アクリルマルチフィラメントは、比較的低温での熱可塑性に優れることから、常圧での蒸気による仕上セット効果を与え、またアクリルマルチフィラメントの有する独特の光沢感、シャリ感風合いを与え、また、再生セルロースマルチフィラメントは、その独特の比較的柔らかく、ドライな風合いを与えることにより、本発明のアクリル仮撚複合糸は、適度なシャリ感、ドライ感、張り腰、更には優雅な光沢感を併せ有する。また、本発明のアクリル仮撚複合糸は、織成或いは編成した後染色したときに、アクリルフィラメントはカチオン染料、再生セルロースフィラメントは直接染料というように、それぞれの繊維を染色しうる染料が違うことにより、同色染め或いは異色染めができるため、好ましいメランジ調の意匠効果を与える。
【0014】次に、本発明のアクリル仮撚複合糸の製造方法について説明する。本発明のアクリル仮撚複合糸は、ヒーター、仮撚スピンドルを備え、加撚、撚り固定、解撚が行われる通常の仮撚加工機を用い、アクリルマルチフィラメントと再生セルロースマルチフィラメントとを合糸したものを供給糸として仮撚加工することによって製造される。具体的には、例えば、通常の仮撚加工機を用いるのであれば、供給糸はマグネットテンサー又はフィードローラーから供給され、第1ヒーターにより熱処理されつつ、仮撚スピンドルにより仮撚賦形され、次いで第1デリベリーローラーを経由し第2ヒーターにより熱セットが行われ、第2デリベリーローラーを経由してワインダーに巻き取られるという仮撚加工工程により製造される。
【0015】仮撚加工の際の供給糸は、アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%とが合糸されていれば、引き揃え糸、合撚糸、エアー交絡による複合糸であってもよい。また、供給糸の給糸張力については加工安定性より適宜設定すればよいが、集束部の固着をより安定させるためには0.03〜0.07g/dtexに設定することが好ましい。
【0016】本発明のアクリル仮撚複合糸を製造する際の仮撚加工おいては、アクリルフィラメントの軟化点以上、好ましくは軟化点温度+20℃以上の温度で仮撚加工を施すことが必要であり、具体的には仮撚加工機での第1ヒーター温度をアクリルフィラメントの軟化点温度以上、好ましくは軟化点温度+20℃以上に設定することが必要である。アクリルフィラメントの軟化点以上の温度での仮撚加工により、軟化したアクリルフィラメントによって集束部を構成するフィラメント相互の固着が生じ融着部が形成する。
【0017】アクリルフィラメントの軟化点温度未満の温度での仮撚加工では、構成フィラメント相互の固着が発現し難く、シャリ感風合いに欠けるばかりでなく、非集束部においてもフィラメント同士のばらけが生じ、本発明のアクリル仮撚複合糸を得ることは不可能である。
【0018】また、仮撚加工おいては、供給糸のオーバーフィード率、仮撚数及び熱セット温度は、目的とする仮撚複合糸の風合い、加工安定性から適宜設定すればよく、特に限定するものではないが、良好なシャリ感、ドライ感、張り腰を得るためには仮撚数を30,000/√d以上(d:仮撚複合糸の繊度)に設定することが好ましい。
【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本実施例で用いたアクリルマルチフィラメントは、アクリロニトリル91.1重量%と酢酸ビニル8.9重量%よりなる共重合体から形成されたものであり、このアクリルマルチフィラメントのみで仮撚加工すると、200℃以上の温度で仮撚加工でフィラメント相互間で固着が生じるものである。また、仮撚複合糸での融着部を有する集束部の割合は、任意に選んだ20ケの集束部における融着部を有する集束部の割合を測定したものであり、融着部を有する集束部の断面における融着部の割合は、電子顕微鏡にて観察し求めたものである。
【0020】(実施例1)三菱重工業社製LS−6型仮撚加工機を用い、供給糸として166dtex/60fのアクリルマルチフィラメントと、55dtex/20fのビスコースレーヨンマルチフィラメントとを引き揃え状態で、マグネットテンサーから張力9gで供給し、第1ヒーター温度235℃、第1デリベリーローラー速度80m/分、仮撚数2500t/m(Z方向)、第2ヒーター温度200℃、第2オーバーフィード率10%の加工条件にて仮撚加工を施した。得られた仮撚複合糸は、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、かつ集束部数の85%には、集束部断面の38〜63%を占めてフィラメント相互が固着している融着部を有するものであった。この仮撚複合糸を20G編機で編成し、カチオン染料及び直接染料で染色したところ、適度なシャリ感、ドライ感、張り腰のある編地が得られた。また、この編地は、蒸気によるスチームセットで、常圧で簡単に編地の皺、斜行を伸ばすことのでき、セット性に優れるものであった。
【0021】(実施例2)実施例1において、第1ヒーター温度を220℃とした以外は実施例1と同様にして仮撚加工を施し仮撚複合糸を得た。得られた仮撚複合糸は、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、かつ集束部数の80%には、集束部断面の38〜56%を占めてフィラメント相互が固着している融着部を有するものであった。この仮撚複合糸を20G編機で編成し、直接染料で染色したところ、適度なシャリ感、ドライ感、張り腰があり、更にアクリルフィラメントとレーヨンフィラメントとの染色性の違いによりメランジ調の外観効果を持つ意匠性に優れた編地が得られた。また、この編地は、蒸気によるスチームセットで常圧で簡単に編地の皺、斜行を伸ばすことができ、セット性に優れるものであった。
【0022】(実施例3)166dtex/60fのアクリルマルチフィラメントと83dtex/30fのビスコースレーヨンマルチフィラメントとを200t/m(Z方向)で合撚糸として供給し、仮撚数2000t/m(Z方向)とした以外は、実施例1と同様にして仮撚加工を施し仮撚複合糸を得た。得られた仮撚複合糸は、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、かつ集束部数の85%には、集束部断面の44〜63%を占めてフィラメント相互が固着している融着部を有するものであった。この仮撚複合糸を20G編機で編成し、カチオン染料及び直接染料で染色したところ、適度なシャリ感、ドライ感、張り腰がある編物が得られた。また、この編地は、蒸気によるスチームセットで常圧で簡単に編地の皺、斜行を伸ばすことができ、セット性に優れるものであった。
【0023】(比較例1)実施例1において、第1ヒーター温度を180℃とした以外は実施例1と同様にして仮撚加工を施し仮撚複合糸を得た。得られた仮撚複合糸は、糸の長手方向に集束部と非集束部が交互に存在するものの、集束部の割合が少なく、また、集束部ではその構成フィラメント相互が固着していないものであった。この仮撚複合糸を20G編機で編成したところ、編成時に非集束部の糸条がばらけ、ずれ動くものであった。また、この編物をカチオン染料で染色したところ、得られた編地は、メランジ調の外観効果を持つものの、シャリ感風合いに乏しいものであった。
【0024】(比較例2)供給糸として166dtex/60fのアクリルマルチフィラメントのみを用い、第1ヒーター温度220℃、仮撚数2500T/m(Z方向)とした以外、実施例1と同様にして仮撚加工を施し仮撚複合糸を得た。得られた仮撚複合糸は、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、かつ集束部では構成フィラメントの全部が互いに固着しているものであった。この仮撚複合糸を20G編機で編成し、カチオン染料で染色したところ、得られた編地は、シャリ感が強すぎる、風合いの硬い、また、張り腰も強すぎるものであった。
【0025】(比較例3)供給糸として83dtex/18fのアクリルマルチフィラメントと、133dtex/40fのビスコースレーヨンマルチフィラメントを用い、第1ヒーター温度230℃、仮撚数2300t/m(Z方向)とした以外は、実施例1と同様にして仮撚加工を施し仮撚複合糸を得た。得られた仮撚複合糸は、糸の長手方向に集束部と非集束部が交互に存在するものの、集束部での構成フィラメント相互の固着が弱く、また非集束部では糸条のばらけが発生するものであった。この仮撚複合糸を20G編機で編成ししたところ、編成時に非集束部の糸条がばらけずれ動くものであり、また糸強力が弱く取扱が困難なものであった。また、得られた編地をカチオン染料で染色したところ、得られた編地は、メランジ調の外観効果を持つものの、シャリ感風合いに乏しいものであった。
【0026】
【発明の効果】本発明のアクリル仮撚複合糸は、アクリル繊維の特徴である低温での仕上セット性、優雅な光沢感に加えて、染色、編成等の後工程での糸条のばらけのない集束性が良好で、かつ適度なシャリ感、ドライ感、張り腰を併せ持つ優れた仮撚複合糸であり、衣料用途の素材として有用なるものであり、またその製造方法は、かかるアクリル仮撚複合糸を得るほうほうであって、本発明の工業的意義は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアクリル仮撚複合糸の一例を示す糸側面図である。
【図2】本発明のアクリル仮撚複合糸の一例の集束部での拡大断面図である。
【符号の説明】
1 集束部
2 非集束部
3 融着部
4 非固着の構成フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%からなる仮撚複合糸であって、糸の長手方向に集束部と非集束部とが交互に存在し、集束部全体の50%以上の集束部に構成フィラメントが固着した融着部を有し、融着部を有する集束部の断面においてその面積の20〜80%を占めて融着部が存在することを特徴とするアクリル仮撚複合糸。
【請求項2】 アクリルマルチフィラメント50〜75重量%と再生セルロースマルチフィラメント50〜25重量%とを合糸し、アクリルフィラメントの軟化点以上の温度で仮撚加工を施すことを特徴とするアクリル仮撚複合糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−273726(P2000−273726A)
【公開日】平成12年10月3日(2000.10.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−78972
【出願日】平成11年3月24日(1999.3.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】