説明

アクリル樹脂フィルム

【課題】 本発明は、外観美麗なアクリル樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 アクリル樹脂100重量%における陰イオン性乳化剤の含有量が、0.08重量%以上0.3重量%以下であるアクリル樹脂を使用して成形されてなるアクリル樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂フィルムはその優れた耐候性・耐衝撃性・透明性・加飾性により、様々な用途に用いられている。例えばフィルムやシート状に成形され、鋼板材料やプラスチック等へのラミネートによる基盤材料への耐候性・美観付与といった用途が挙げられる。近年、高品位・高付加価値フィルムとしての新規用途展開が進む中、複雑な形状の成形品にフィルムを積層する場合においてコーナー等に応力が集中することによるフィルム白化や、フィルム切断時の割れ発生が抑止されたアクリル樹脂フィルムが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、溶融押出法にてアクリル樹脂フィルムを製作する場合、200℃以上のような高温雰囲気下である押出機内にて樹脂が劣化し、架橋生成物などに起因するゲルや、メヤニ等に起因するダイラインなどのスジ状欠陥が発生することでフィルム外観不良が発生するといった問題が生じる。特に乳化重合で製造されたアクリル樹脂は、残存乳化剤を完全に除去することは困難であり、そのような残存乳化剤がフィルム製作時における外観不良の原因となることが知られている。例えば、樹脂中残存乳化剤の分解ガスが、樹脂劣化を促進するため、外観不良が著しく低下することが挙げられる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献2〜3では、乳化重合時に使用する乳化剤量を規定することで、熱安定性の良好なアクリル樹脂を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−137299号公報
【特許文献2】特開平2−242807号公報
【特許文献3】特開2003−238704公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、外観美麗なアクリル樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者らが鋭意検討した結果、フィルム表面の外観が単にアクリル樹脂の熱安定性の向上で改善されるわけではないことを発見した。通常、残存乳化剤量が低減されればされるほどアクリル樹脂の熱安定性が向上し、表面外観が良好なフィルムが得られると考えられるところ、驚くべきことに、残存乳化剤量が低減させすぎると、却ってフィルム表面の外観に不良が発生し、外観美麗なアクリル樹脂フィルムを得られるには、残存乳化剤が特定量含有されることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明はアクリル樹脂100重量%における陰イオン性乳化剤の含有量が0.08重量%以上0.3重量%以下であるアクリル樹脂を使用して成形されてなるアクリル樹脂フィルムである。
【0009】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、陰イオン性乳化剤がスルホン酸塩系界面活性剤であることが好ましい。
【0010】
本発明のアクリル樹脂フィルムにおいては、アクリル樹脂はアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体を含有することが好ましい。
【0011】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体が、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径が500〜2000Åであり、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径d(Å)とアクリル酸エステル系ゴム状重合体に用いられる架橋剤の量w(重量%)との関係が次式
0.002d≦w≦0.005d
を満たすことが好ましい。
【0012】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体のグラフト率が30〜200%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクリル樹脂によれば、成形加工安定性が向上し、フィルム表面外観の美麗なアクリル樹脂フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、陰イオン性乳化剤の含有量がアクリル樹脂100重量%において0.08重量%以上0.3重量%以下であるアクリル樹脂が使用される事を特徴とする。
【0015】
陰イオン性乳化剤の含有量(以下、単に「乳化剤含有量」と称することがある。)が0.3重量%より多量であると、アクリル樹脂を使用したフィルム成形加工時に、200℃以上の高温雰囲気下において、陰イオン性乳化剤が分解し、酸性ガスが発生する。例えば、スルホン酸塩系陰イオン界面活性剤が含有される場合は亜硫酸ガスが発生し、リン酸塩系界面鎖活性剤が含有される場合はリン酸ガスが発生する。これらの酸性ガスは、アクリル樹脂の耐熱性を低下させる、又はフィルム成形加工ダイを腐食劣化させ、フィルムの外観性を損ねる。一方、陰イオン性乳化剤の含有量が0.08重量%より少量であると、成形加工時、フィルム表面の滑り性が低下し、製造ライン中にて、フィルム表面の傷が増加することで、フィルムの外観が損なわれる。
【0016】
本発明における乳化剤含有量とは、アクリル樹脂中に残留する乳化剤量のことである。本発明における乳化剤含有量は、陰イオン性乳化剤分子中の金属イオン含有量を測定することで求まる値である。
【0017】
陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンとは、陰イオン性乳化剤分子を構成する金属イオンであり、例えば、スルホン酸塩系陰イオン界面活性剤のジオクチルスルホコハク酸ナトリウムでは、ナトリウムイオンが該当する。
【0018】
乳化剤含有量の具体的な求め方は次に示す方法のとおりである。
【0019】
陰イオン性乳化剤分子中の金属イオン含有量は、次に示す方法により測定できる。
【0020】
アクリル樹脂に、硫酸及び硝酸を加えてマイクロウェーブ分解装置(マイルストーンゼネラル(株)製、MLS−1200MEGA)にて加圧酸分解する。続いて、誘導結合プラズマ質量分析装置(アジレント・テクノロジー製、Agilent 7500CX)を使用し、検量線法によって、得られた分解液中に含有される、陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンの濃度を測定する。
【0021】
続いて、陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンの濃度の測定結果を使用して、以下に示す計算方法により、アクリル樹脂中の陰イオン性乳化剤含有量を算出する。
【0022】
陰イオン性乳化剤含有量(重量%)=[陰イオン性乳化剤分子中の金属イオン含有量(重量%)]×[陰イオン性乳化剤の分子量]/[陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンの分子量]
【0023】
本発明のアクリル樹脂は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、陰イオン乳化剤を主成分とする乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0024】
乳化重合法では、連続重合を単一の反応槽で行うことが好ましく、二槽以上の反応槽を用いるとラテックスの機械的安定性が低下するため好ましくない。
【0025】
重合温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。30℃未満では生産性が低下する傾向があり、100℃を超えた温度では、目標分子量が過剰に大きくなる等によって、品質が低下する傾向がある。重合反応槽へ連続的に添加するアクリル酸エステル単量体、開始剤、乳化剤及び脱イオン水等の原料類は、定量ポンプの制御下で正確に添加するが、反応槽内で発生する重合熱の除熱量を確保するため必要に応じて予め冷却しても支障ない。反応槽から払い出されたラテックスには、必要に応じて重合禁止剤、凝固剤、難燃剤、酸化防止剤、pH調節剤を添加しても良く、未反応単量体の回収や後重合を行っても良い。その後、凝固、熱処理、脱水、水洗、乾燥等公知の方法を経て共重合体を得ることができる。
【0026】
乳化重合においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、更にアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム錯体なとの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0027】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤には炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素などが挙げられ、これらは単独又は2種以上併用してもよい。
【0028】
本発明のアクリル樹脂は、陰イオン性乳化剤を用いた乳化重合法にて製造できるが、陰イオン性乳化剤は特に制限はなく、通常の乳化重合用の陰イオン性乳化剤であれば使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等のリン酸塩系界面活性剤といった陰イオン性乳化剤が示される。これらの陰イオン性乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムがより好ましい。
【0029】
陰イオン性乳化剤の使用量としては、単量体成分全体100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部が好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下であることがより好ましい。0.05重量部より少量では、共重合体の粒系が大きくなり過ぎる傾向があり、10重量部より多量では共重合体の粒系が小さくなりすぎる、また、粒度分布が悪化する傾向がある。
【0030】
本発明のアクリル樹脂フィルムには、特に限定されないが、ラクトン環化メタクリル系樹脂、メタクリル系樹脂等の汎用アクリル樹脂を1種または2種以上を組み合わせて使用してもよいが、アクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」と称することがある。)が含まれることが好ましい。
【0031】
本発明におけるアクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下にメタクリル酸エステル単量体を重合して得られるものである。
【0032】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分とした架橋ゴム状重合体であり、具体的には、アクリル酸エステル60〜99重量%および共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%からなる単量体混合物(100重量%)並びに特定量の共重合可能な架橋剤を重合させてなるものである。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0033】
アクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点よりアルキル基の炭素数1〜12のものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等があげられ、これらの単量体は2種以上併してもよい。アクリル酸エステル量は、単量体混合物100重量%において60重量%以上99重量%以下が好ましく、70重量%以上99重量%以下がより好ましく、80重量%以上99重量%以下が最も好ましい。60重量%未満では耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0034】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステル類が特に好ましく、その具体例としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等があげられる。また、芳香族ビニル類も好ましく、その具体例としてはスチレン、メチルスチレン等があげられ、シアン化ビニル類も好ましく、その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。
【0035】
共重合可能な架橋剤は通常使用されるものでよく、例えばアクリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアクリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの架橋剤は2種以上使用してもよい。
【0036】
共重合可能な架橋剤の量は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径と共に応力白化、引張破断時の伸びあるいは透明性に大きく影響するため、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径d(nm)と架橋剤量w(重量%)が次式を満たすことが好ましい。
0.002d≦w≦0.005d
架橋剤の量が上記範囲内であると、応力白化が発生しにくく、耐衝撃性や透明性が低下しにくく、引張破断時の伸びが低下せず、フィルム切断時にクラックが発生しにくく、フィルムの成形性がよい。
【0037】
ゴム状重合体の平均粒子径は、500〜2000Åが好ましく、より好ましくは500〜1600Å、さらに好ましくは500〜1200Å、最も好ましくは600〜1200Åである。500Å以下では耐衝撃性等が低下し、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向があり、2000Å以上では応力白化が発生しやすく、透明性が低下し、更に真空成形後の透明性が低下する傾向がある。ここで、平均粒子径は、光散乱法によって測定できる。例えば、MICROTRAC UPA(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS製)を用いて測定できる。
【0038】
本発明で用いられるアクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体にメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合体を重合させて得られる。好ましくは、アクリル酸エステル系ゴム状重合体5〜75重量部の存在下にメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物95〜25重量部を少なくとも1段階以上で重合させることより得られる。グラフト共重合組成(単量体混合物)中のメタクリル酸エステルは50重量%以上が好ましい。50重量%以下では得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。グラフト共重合に用いられる単量体としては、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルであり、具体例としては前記アクリル酸エステル系ゴム状重合体に使用したものが使用可能である。
【0039】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体に対するグラフト率は30〜200%が好ましく、より好ましくは50〜200%、最も好ましくは80〜200%の範囲である。グラフト率が30%以下では透明性が低下し、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向があり、200%以上では成形加工時の溶融粘度が高くなり成形性が低下する傾向がある。
【0040】
上記グラフト率とは、アクリル系グラフト共重合体におけるグラフト成分の重量比率であり、次の方法で測定される。
【0041】
得られたアクリル系グラフト共重合体1gをメチルエチルケトン40mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数3000rpm 、温度12 ℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する。得られた不溶分を、アクリル酸エステル系グラフト重合体として以下の式により算出する。
【0042】
グラフト率(%)=[{( メチルエチルケトン不溶分の重量)−(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)}/(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)]×100
本発明のアクリル樹脂を使用してフィルムに成形加工すると、成形加工時におけるフィルム表面の滑り性の低下が回避され、製造ライン中にてフィルム表面の傷の発生を防ぐことができ、表面外観に優れたアクリル樹脂フィルムを得ることができる。
【0043】
成形方法としては、例えば通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、更には溶剤キャスト法等が挙げられるが、中でも、溶融押出法に好適に使用できる。具体的には、例えば、特開2002−212312号公報に記載する溶融押出法が挙げられる。当該公報に記載する方法を用いることにいることにより、溶融押出法によって、フィルム幅方向の厚みバラツキの小さいアクリル樹脂フィルムを生産することが可能である。
【0044】
本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは、30μm以上500μm以下が適当であり、50μm以上300μm以下がより好ましい。30μm未満ではフィルムの靭性が低下する傾向があり、一方、500μmを超えるとフィルムの透明性が低下する傾向がある。
【0045】
必要に応じ、フィルムを成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、特にガラス転移温度以上の温度に加熱したロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。また、目的に応じて、二軸延伸を実施し、フィルムに靭性を付与する等の改質も可能である。
【0046】
本発明のアクリル樹脂フィルムには、着色のため無機又は有機系の顔料、染料、熱や光に対する安定性を更に向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独又は2種以上併用して添加してもよい。
【0047】
本発明のアクリル樹脂フィルムを用いた積層品の製造法は特に制限されるものではないが、特公昭63−6339号、特公平4−9647号、特開平7−9484号、特開平8−323934号、特開平10−279766号等に記載の方法と同様な、フィルムインモールド成形法により製造することが好ましい。すなわち、真空成形等により予め形状を付与した、または付与しなかったフィルムを、射出成形金型間に挿入し、フィルムを挟んだ状態で金型を閉じ型締めし、基材樹脂の射出成形を行うことにより、射出された基材樹脂成形体の表面にフィルムを溶融一体化させることが好ましい。その際、樹脂温度、射出圧力等の射出成形条件は、基材樹脂の種類等を勘案して適宜設定される。
【0048】
本発明のアクリル樹脂フィルムを用いた積層品を構成する基材樹脂は、アクリル樹脂フィルムと溶融接着可能なものであることが必要であり、例えばABS樹脂、AS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。以下の記載において、「部」は、特に断らない限り、「重量部」を表す。
【0050】
実施例・比較例の評価は以下の方法を用いて行った。
【0051】
(陰イオン性乳化剤含有量)
得られたアクリル樹脂0.1gに、硫酸1.5ml及び硝酸5mlを加えてマイクロウェーブ分解装置(マイルストーンゼネラル(株)製、MLS−1200MEGA)にて加圧酸分解した。続いて、誘導結合プラズマ質量分析装置(アジレント・テクノロジー製、Agilent 7500CX)を使用し、検量線法によって、得られた分解液中に含有される、陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンの濃度を測定した。
【0052】
陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンの濃度の測定結果を使用して、以下に示す計算方法により、アクリル樹脂中の陰イオン性乳化剤含有量を算出した。
【0053】
陰イオン性乳化剤含有量(重量%)=[陰イオン性乳化剤分子中の金属イオン含有量(重量%)]×[陰イオン性乳化剤の分子量]/[陰イオン性乳化剤分子中の金属イオンの分子量]
【0054】
(熱重量減少率)
熱分析装置(SIMADZU製、TGA−50)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minの条件にて、アクリル樹脂の加熱重量減少を測定した。加熱重量減少率は100℃ を起点として、280℃における重量減少率を測定した。
【0055】
(フィルム表面スジ状欠陥)
幅300mmのアクリル樹脂フィルムの目視観察により、幅50μm以上で且つ、フィルム流れ方向に連続的なスジ状欠陥の有無を評価した。
○:スジ状欠陥が確認できる。
×:スジ状欠陥が確認できない。
【0056】
(フィルム表面傷欠陥)
300mm×300mmの面積のアクリル樹脂フィルムの目視観察により、長さ1000μm以上、且つ幅100μm以上の傷欠陥の有無を評価した。
○:傷欠陥の存在が確認できる。
×:傷欠陥の存在が確認できない。
【0057】
製造例および実施例における略号が表す物質を以下に示す。
BA:ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリードデシルメルカプタン
AlMA:アリルメタクリレート
【0058】
(製造例1)
撹拌機付き8L重合機に次の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.8部
エチレンジアミン・2Na 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
ソジウムホルムアルデヒドスルフォキシレート 0.15部
【0059】
重合反応気内を窒素循環により脱酸素後、内温を60℃にした後、混合物(A)(BA90重量% およびMMA10重量%からなる単量体混合物100部に対しAlMA0.6部およびCHP0.06部を添加してなる混合物)30部を10部/時間の割合で連続的に滴下し、その後30分間後重合を行い、アクリル酸エスエル系ゴム状重合体を得た。その後、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.2部を仕込んだ後、混合物(B)(BA10重量%およびMMA90重量%からなる単量体混合物100部に対しtDM0.14部およびCHP0.21部を添加してなる混合物)70部を12部/時間の割合で連続的に滴下し、その後1時間後重合を行い、ラテックス形態のアクリル系グラフト共重合体を得た。続いて塩酸カルシウムで塩析凝固した後、乾燥してアクリル樹脂粉末を得た。
【0060】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
製造例1で得られたアクリル樹脂粉末100部に対して、800部の脱イオン水中にて、撹拌することで、アクリル樹脂粉末の洗浄を実施した。表1に洗浄に用いた脱イオン水の温度、及び洗浄時間を記載する。洗浄後、脱水、乾燥し、それぞれ表1に記載された乳化剤含有量のアクリル樹脂粉末を得た。
【0061】
得られたアクリル樹脂をφ40mm2軸押出機にて、シリンダー温度を240℃に設定して溶融押出を行い、ペレット化し、続いてTダイ付きφ40mm押出機を用いてダイス温度を240℃に設定してフィルム化した。
【0062】
実施例1〜3及び比較例1〜3にて得られたアクリル樹脂の加熱重量減少率、並びに、アクリル樹脂フィルムの表面スジ状欠陥および表面傷欠陥を評価した。これらの評価結果を表2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1における「洗浄時間」とは、アクリル樹脂の水洗に要した時間である。
表1における「洗浄温度」とは、アクリル樹脂の水洗に用いた水の温度である。
【0065】
【表2】

【0066】
本発明の乳化剤含有量を満足するアクリル樹脂から得られたフィルムである実施例1〜3では、フィルム表面スジ状欠陥、およびフィルム表面傷欠陥が共に確認されず、表面外観美麗なフィルムを得ることができる。一方で、本発明の乳化剤含有量を満足しないアクリル樹脂から得られたフィルムである比較例1〜3では、フィルム表面スジ状欠陥、フィルム表面傷欠陥の両方、又はどちらか一方が確認され、表面外観性が損なわれる。特に、比較例3では、乳化剤含有量が最も少量であり、加熱重量減少率も実施例1〜3及び比較例1〜3の中で最も低く、フィルム表面スジ状欠陥が確認されないにも関わらず、フィルム表面傷欠陥が確認されている。実施例1〜3および比較例1〜2の比較から、乳化剤量含有量が低減されるに従って、乳化剤由来の酸性ガスの発生が低減され、高温加熱時の樹脂分解が抑制される、即ち熱重量減少率が低くなり、アクリル樹脂の熱安定性が向上することが示されている。その結果、フィルム化において、成形加工ダイスにおけるメヤニ発生が抑制され、フィルム表面スジ状欠陥は確認されていない。しかし、比較例3に示すとおり、乳化剤量含有量を0.08重量%よりも低減しすぎると、樹脂とダイスとの滑り性の悪化等により、フィルム表面傷欠陥が発生している。
従って、アクリル樹脂の乳化剤含有量に関して、本発明に記載する乳化剤含有量とすることで、アクリル樹脂フィルムの外観性が向上することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂100重量%における陰イオン性乳化剤の含有量が、0.08重量%以上0.3重量%以下である、アクリル樹脂を使用して成形されてなるアクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
陰イオン性乳化剤がスルホン酸塩系界面活性剤である、請求項1に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
アクリル樹脂が、アクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体を含む、請求項1または2に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体が、
アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径が500〜2000Åであり、
アクリル酸エステル系ゴム状重合体の平均粒子径d(Å)とアクリル酸エステル系ゴム状重合体に用いられる架橋剤の量w(重量%)との関係が次式
0.002d≦w≦0.005d
を満たす、請求項3に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体のグラフト率が30〜200%である、請求項3または4に記載のアクリル樹脂フィルム。

【公開番号】特開2012−188599(P2012−188599A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54818(P2011−54818)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】