説明

アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムとその製造方法

【課題】液晶表示装置用偏光板等に用いる、アクリル樹脂を混合して厚み方向の位相差をほぼゼロにしたセルロースエステルフィルムでありながら、高温高湿環境条件下でのフィルムの色見(YI値)上昇を起こさない、セルローズエステルフィルムとその製造方法を提供することである。
【解決手段】フィルムの面内方向、及び厚み方向の位相差値が、|Ro(589)|≦5nm及び|Rt(589)|≦5nm)であり、偏光子との密着性改良剤を含有するアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法であって、下記1又は2の何れかの条件を満たす溶剤を用いドープを調液後、溶液流延により製膜することを特徴とするアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
1.溶剤中のアルコール量が溶剤全体の4質量%以上8質量%未満
2.溶剤中のアルコール量が溶剤全体の8質量%以上20質量%以下で、酸化防止剤含有

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在大型テレビジョン用の液晶パネルは、TN方式に比べて広視野角である垂直配向方式(Vertical Alignment;VA方式)液晶と横電界駆動方式(In−Plane Switching;IPS方式)液晶の2種が主流となっている。
【0003】
IPS方式はその方式の原理から、TN方式やVA方式に比べ視野角性能に優れており、当初パソコンモニターや小型テレビでは、位相差フィルムは用いずに、通常のセルローストリアセテート(TAC)フィルムを用いた構成の偏光板をそのまま使用していた。
【0004】
しかしながら、TACフィルムでもその特性に応じ、ある程度の位相差が生じているため、IPS方式で黒画像表示時における斜めからの漏れ光による着色現象、カラーシフトが生じていることがわかった。今後ますます大型化する液晶テレビへの適用と高性能化の要求に応えるためには、厚み方向の位相差、及び光弾性係数をゼロに近づけ、より完全な等方性を持たせる必要があることが明かとなった(特許文献1)。種々検討された中で、最も有効な手段は、TACに厚み方向に関して負の位相差を発現するアクリル系樹脂を混合することであった(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009−047924再公表特許
【特許文献2】WO2009−096071再公表特許
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記技術のさらなる改善を目指すものである。
【0007】
即ち、面内及び厚み方向の位相差をほとんどゼロにするには、上記技術を用いてもアクリル系樹脂の混合比率を高くする必要がある。このため、TACを利用したことの優位点である偏光子との密着性、即ち偏光板加工適性が劣化することが判明した。
【0008】
この改善のために、工業上、接着性を向上させる技術手段として公知のビニルピロリドン骨格を有するポリマーを使用したところ(例えば、特開平5−320392号公報)、偏光板加工適性は向上したものの、高温高湿環境条件下ではフィルムが黄色に着色し、YI値(イエロー インデックス;ASTM E 313)が上昇してしまうという弊害を生じた。
【0009】
鋭意検討の結果、溶剤中のアルコールにより、YI値が劣化する現象が起こることがわかり、アルコール濃度の規定、或いはこれに加えて酸化防止剤を含有させることで、問題を解決出来ることを突き止め本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明の目的は、液晶表示装置用偏光板等に用いる、アクリル樹脂を混合して厚み方向の位相差をほぼゼロにしたセルロースエステルフィルムでありながら、高温高湿環境条件下でのフィルムのYI値上昇を起こさない、セルロースエステルフィルムとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、下記構成を採ることにより達成される。
【0012】
(1)
フィルムの面内方向、及び厚み方向の位相差値が、|Ro(589)|≦5nm及び|Rt(589)|≦5nm)であり、偏光子との密着性改良剤を含有するアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法であって、下記1又は2の何れかの条件を満たす溶剤を用いドープを調液後、溶液流延により製膜することを特徴とするアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【0013】
1:溶剤中のアルコール量が溶剤全体の4質量%以上8質量%未満である共
2:溶剤中のアルコール量が溶剤全体の8質量%以上20質量%以下であり、かつ、酸化防止剤を含有する
(2)
前記密着性改良剤として、下記一般式(A)で表わされる共重合体を用いることを特徴とする、(1)記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Lは窒素原子を含むヘテロ環を有する有機基であり、LはL以外の有機基を表す。Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。m、nは正の整数であり、m+nは10〜200の範囲の整数である。)
(3)
前記一般式(A)のLが、ピロリドン骨格を有した一般式(B)で表わされることを特徴とする、(2)記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。R’は炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。m、nは正の整数であり、m+nは10〜200である。)
(4)
アクリル樹脂の質量(A)とセルロースエステル樹脂の質量(B)の比(A/B)が、70/30〜95/5であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【0018】
(5)
(1)〜(4)のいずれか1項記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法により作製されたアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムであって、アシル基の総置換度(T)が2.00〜2.99であり、アセチル基置換度(ac)が0.10〜1.89であり、該セルロースエステルのアセチル基以外の部分が、3〜7の炭素数で構成されるアシル基で置換されており、その置換度(r)が1.10〜2.89で、重量平均分子量(Mw)が75000〜250000であることを特徴とするアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム。
【0019】
(6)
前記酸化防止剤として、下記化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする(5)記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム。
〔2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]又はトリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4ヒドロキシフェニル)プロピオネート]〕
(7)
高温高湿環境条件下(60℃/90%RH、100時間保存)でのフィルムのYI値増加(ΔYI)が、0.10以下であることを特徴とする、(5)記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、液晶表示装置用偏光板等に用いる、アクリル樹脂を混合して厚み方向の位相差をほぼゼロにしたセルロースエステルフィルムでありながら、高温高湿環境条件下でのフィルムのYI値上昇を起こさない、セルローズエステルフィルムとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に用いられる溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程の一例を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を更に詳しく説明する。
【0023】
〔アクリル樹脂含有フィルム〕
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、下記式(1)及び(2)を満たすもので無ければならない。
【0024】
式(1):|Ro(589)|≦5nm
式(2):|Rt(589)|≦5nm
かつ、
式(3):|Ro(480)−Ro(630)|≦5nm
式(4):|Rt(480)−Rt(630)|≦5nm
であることが望ましい。
【0025】
なお、Ro=(nx−ny)×d、Rt={(nx+ny)/2−nz}×dであり、nxは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、nzは厚み方向の屈折率をそれぞれ表す。dはフィルムの膜厚(nm)を表す。()内の数値589、480、630はそれぞれ複屈折を測定した光の波長(nm)を表す。光弾性係数は、測定波長589nmの値である。また、測定は23℃、55%RHの環境下24時間放置したフィルムにつき行った。
【0026】
さらに、張力軟化点が105〜145℃であり、光弾性係数が−5.0×10−8cm/N〜8.0×10−8cm/Nであり、延性破壊を起こさないことが望ましい。
【0027】
そして、前記アクリル樹脂含有フィルムは、アクリル樹脂(A)およびセルロースエステル樹脂(B)の少なくとも一種類ずつ、並びに、後記する偏光子との密着性改良剤を含有するドープを調液後、溶液流延により製膜される。製造に当たり用いられる溶剤は、下記1又は2の条件を満たす必要がある。
【0028】
1:溶剤中のアルコール量が溶剤全体の4質量%以上8質量%未満である
2:溶剤中のアルコール量が溶剤全体の8質量%以上20質量%以下であり、かつ、酸化防止剤を含有する
前記アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム(アクリル樹脂含有フィルムと略記することあり)は、アクリル樹脂(A)を30〜90質量%、セルロースエステル樹脂(B)を5〜65質量%、(A)、(B)以外の樹脂成分が0〜50質量%含有されることが好ましい。
【0029】
さらに、好ましくは、アクリル樹脂(A)が50質量%以上である。アクリル樹脂成分が多くなると、より高温・高湿下での寸法変化が抑制され、偏光板として用いた時の偏光板のカールやパネルの反りを著しく低減することができ、上記物性を長時間維持することが可能となる。
【0030】
本発明に係るアクリル樹脂含有フィルムは、ヘイズを低くし、プロジェクターのような高温になる機器や、車載用表示機器のような、高温の環境下での使用を考慮すると、その張力軟化点を、110〜145℃とすることが好ましく、120℃〜140℃に制御することがより好ましい。
【0031】
又、本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが好ましい。より好ましくは120℃以上である。特に好ましくは150℃以上である。尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0032】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、フィルム面内の直径5μm以上の欠点が1個/10cm四方以下であることが好ましい。更に好ましくは0.5個/10cm四方以下、一層好ましくは0.1個/10cm四方以下である。
【0033】
かかる欠点頻度にて表される品位に優れたフィルムを生産性よく得るには、ポリマー溶液を流延直前に高精度濾過することや、流延機周辺のクリーン度を高くすること、また、流延後の乾燥条件を段階的に設定し、効率よくかつ発泡を抑えて乾燥させることが有効である。
【0034】
欠点の個数が1個/10cm四方より多いと、例えば後工程での加工時などでフィルムに張力がかかると、欠点を基点としてフィルムが破断して生産性が著しく低下する場合がある。
【0035】
また、欠点の直径が5μm以上になると、偏光板観察などにより目視で確認でき、光学部材として用いたとき輝点が生じる場合がある。
【0036】
さらに、目視で確認できない場合でも、該フィルム上にハードコート層などを形成したときに、塗膜が均一に形成できず欠点(塗布抜け)となる場合がある。ここで、欠点とは、溶液製膜の乾燥工程において溶剤の急激な蒸発に起因して発生するフィルム中の空洞(発泡欠点)や、製膜原液中の異物や製膜中に混入する異物に起因するフィルム中の異物(異物欠点)を言う。
【0037】
また、本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、JIS−K7127−1999に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が、10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。
【0038】
破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を大きくするには異物や発泡に起因するフィルム中の欠点を抑制することが有効である。
【0039】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの厚みは20μm以上であることが好ましい。より好ましくは30μm以上である。
【0040】
厚みの上限は特に限定されるものではないが、溶液製膜法でフィルム化する場合は、塗布性、発泡、溶剤乾燥などの観点から、上限は250μm程度である。なお、フィルムの厚みは用途により適宜選定することができる。
【0041】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、その全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。また、現実的な上限としては、99%程度である。かかる全光線透過率にて表される優れた透明性を達成するには、可視光を吸収する添加剤や共重合成分を導入しないようにすることや、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散や吸収を低減させることが有効である。
【0042】
また、製膜時のフィルム接触部(冷却ロール、カレンダーロール、ドラム、ベルト、溶液製膜における塗布基材、搬送ロールなど)の表面粗さを小さくしてフィルム表面の表面粗さを小さくすることや、アクリル樹脂の屈折率を小さくすることによりフィルム表面の光の拡散や反射を低減させることが有効である。
【0043】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、透明性を表す指標の1つであるヘイズ値(濁度)が0.35%未満であることが好ましい。また、液晶表示装置に組み込んだ際、環境変動に対する、安定性の観点から、当該フィルムを60℃、湿度90%下に100時間放置した場合、放置前後におけるヘイズ値の増減幅が0.1%以内であることが、輝度、コントラストの点からも好ましい。
【0044】
かかるヘイズ値を達成するには、ポリマー中の異物を高精度濾過により除去し、フィルム内部の光の拡散を低減させることが有効である。
【0045】
尚、上記アクリル樹脂含有フィルムの全光線透過率およびヘイズ値は、JIS−K7361−1−1997およびJIS−K7136−2000に従い、測定した値である。
【0046】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、上記のような物性を満たしていれば、光学用のアクリル樹脂含有フィルムとして好ましく用いることができるが、以下の組成とすることにより、加工性、耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。
【0047】
〔アクリル樹脂(A)〕
本発明に用いられるアクリル樹脂(A)には、メタクリル樹脂も含まれる。樹脂としては、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、およびこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが好ましい。2種以上を併用して用いることができる。
【0048】
これらの中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
【0049】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムに用いられるアクリル樹脂(A)は、フィルムとしての機械的強度、フィルムを生産する際の流動性の点から重量平均分子量(Mw)が80000〜1000000であることが好ましい。
【0050】
本発明のアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶剤:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0051】
本発明におけるアクリル樹脂(A)の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系およびアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。
【0052】
重合温度については、懸濁または乳化重合では30〜100℃、塊状または溶液重合では80〜160℃で実施しうる。さらに、生成共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いることもできる。
【0053】
この分子量とすることで、耐熱性と脆性の両立を図ることができる。
【0054】
本発明のアクリル樹脂(A)としては、市販のものも使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80,BR83,BR85,BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0055】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムにおいては、本発明のアクリル樹脂(A)は、一種以上使用されるが、この場合、いずれのアクリル樹脂(A)の重量平均分子量も80000〜1000000である。
【0056】
〔セルロースエステル樹脂(B)〕
本発明のアクリル樹脂含有フィルムにおいては、本発明のセルロースエステル樹脂(B)は一種以上使用することができるが、そのうち少なくとも一種は、アシル基の総置換度(T)が2.00〜2.99、アセチル基置換度(ac)が0.10〜1.89であって、アセチル基以外の部分が、3〜7の炭素数で構成されるアシル基で置換されており、その置換度(r)が1.10〜2.89で、重量平均分子量(Mw)が75000〜250000であることが望ましい(以下、セルロースエステル樹脂(B1)と略す)。
【0057】
セルロースエステル樹脂(B1)以外のセルロースエステル樹脂(B)(以下、セルロースエステル樹脂(B2)と略す)としては、アシル基の総置換度(T)が1.00〜2.99、アセチル基置換度(ac)が0.10〜2.99であって、アセチル基以外のアシル基の置換度(r)が0〜2.89のものを選択することができる。
【0058】
セルロースエステル樹脂(B1)とセルロースエステル樹脂(B2)とは、100/0〜50/50(質量比)の割合で使用することができる。
【0059】
セルロースエステル樹脂(B1)および(B2)は、1種以上使用してもよい。
【0060】
本発明のセルロースエステル樹脂(B)が、脂肪族アシル基とのエステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
【0061】
本発明において前記脂肪族アシル基とはさらに置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
【0062】
上記セルロースエステル樹脂(B)が、芳香族アシル基とのエステルであるとき、芳香族環に置換する置換基Xの数は0または1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1又は2個である。
【0063】
また、アクリル樹脂の含有質量(A)とセルロースエステル樹脂の質量(B)の比(A/B)は、70/30〜95/5であること望ましい。
【0064】
更に、芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えばナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリンなど)を形成してもよい。
【0065】
上記セルロースエステル樹脂(B)において置換もしくは無置換の脂肪族アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の少なくともいずれか1種選択された構造を有することが本発明のセルロース樹脂に用いる構造として用いられ、これらは、セルロースの単独または混合酸エステルでもよい。
【0066】
本発明のセルロースエステル樹脂(B)において、炭素原子数2〜7のアシル基を置換基として有するもの、即ちセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、及びセルロースベンゾエートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0067】
これらの中で特に好ましいセルロースエステル樹脂(B)は、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0068】
混合脂肪酸として、さらに好ましくは、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルであり、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有するものが好ましい。
【0069】
アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することが出来る。
【0070】
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
【0071】
本発明のセルロースエステル樹脂(B1)の重量平均分子量(Mw)は、75000〜250000のものが好ましく、100000〜240000のものが更に好ましい。
【0072】
〔アクリル樹脂(A)およびセルロースエステル樹脂(B)以外であってアッベ数が30〜60の樹脂〕
本発明に用いてもよい(A)、(B)以外の樹脂は、アッベ数が30〜60の樹脂である。この範囲のアッベ数の樹脂を使用することにより、フィルムの波長分散特性を本発明の好ましい範囲、即ち
|Ro(480)−Ro(630)|≦5nm
|Rt(480)−Rt(630)|≦5nm
の範囲内に制御することができ、液晶表示装置として用いた際に、液晶ディスプレイの色抜け、着色等いわゆるカラーシフトを抑え、全方位で高いコントラスト比を得ることが可能となる。
【0073】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの物性を損なわない範囲であれば、種々の樹脂を使用することが可能である。
【0074】
具体的には、メチル(メタ)アクリレート−スチレン樹脂(スチレン比率50質量%を超えるもの)、スチレン−無水マレイン酸、スチレン−フマル酸、スチレン−イタコン酸、スチレン−N−置換マレイミド等の不飽和基含有二価カルボン酸誘導体とスチレン、α−メチルスチレン、核置換スチレン等の芳香族ビニル化合物との共重合体、インデン−スチレン樹脂、インデン−メチル(メタ)アクリレート樹脂等のインデン共重合体(アクリレートとの共重合体にあっては、インデン比率50質量%を超えるもの)、オレフィン−マレイミド共重合体、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、オクタアセチルサッカロース等が挙げられる。
【0075】
特に、メチル(メタ)アクリレート−スチレン樹脂(アッベ数:35〜52)、インデン−メチル(メタ)アクリレート共重合体(アッベ数:34〜51)、インデン−クマロン共重合体(アッベ数:35〜40)などが、本発明の効果を発現し易く好ましく用いられる。市販品として、KT75(電気化学工業(株)製メチルメタクリレート−スチレン共重合体、アッベ数46)を使用することができる。
【0076】
尚、アッベ数の測定に関しては、公知の方法で測定を行った。すなわち、アッベ屈折率計を用いて、フラウンホーファーのC線(656.3nm)、D線(589.3nm)、F線(486.1nm)におけるそれぞれの屈折率、nc、nd、nfを測定し、下記式より算出する。
アッベ数(νd)=(nd−1)/(nf−nc)
樹脂(A)、(B)と混合可能な樹脂を選択するには、予め相溶性試験を行うのが好ましい。具体的には、例えばそれぞれメチレンクロライド100mlに溶解した樹脂(A)、(B)および「その他の樹脂」の5%濃度の溶液を混合して濁度を測定し、および目視で混合状態を観察することにより相溶性試験とすることができる。この試験により簡易的に樹脂の選択が可能となる。
【0077】
〔偏光子との密着性改良剤(C)〕
本発明では、偏光子との密着性を高める手段として、偏光子との密着性改良剤(単に、密着性改良剤ともいう)を加える必要がる。特に構造的な限定はないが、具体的には下記構成を有する化合物を用いることが好ましい。
【0078】
代表的には下記一般式(1)で表わされる部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーと少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーを共重合させてえられる重合体を用いる。
【0079】
【化3】

【0080】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい脂肪族基、置換基を有していてもよい芳香族基、または置換基を有していてもよい複素環基を表すが、R、R、及びRの何れか二つが互いに結合してそれらが結合している窒素原子、或いは窒素原子及び炭素原子と一緒になって、5〜7員の環状構造を形成する。)
さらに好ましくは、N−ビニル−2−ピロリドンをモノマーとして含有して重合した高分子化合物をアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムに対して1.0〜10.0質量%含有する。より好ましくは、3.0〜5.0質量%である。
【0081】
本発明で使用するN−ビニル−2−ピロリドンをモノマーとして含有して重合した高分子化合物は、アクリレートモノマーとのコポリマー又はブロックポリマーであることが好ましい。本発明に係るアクリレートモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル類、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、クロルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシベンジル(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。又、特に好ましいものとしては、メチル(メタ)アクリレートモノマーを挙げることができる。
【0082】
N−ビニル−2−ピロリドンをモノマーとして含有して重合した高分子化合物の具体例としては、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・メチル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・エチル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体等を挙げることができる。好ましくは、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・メチル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・エチル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、ビニルピロリドン・2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート共重合体等であり、特に好ましくはビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体である。
【0083】
【化4】

【0084】
【化5】

【0085】
共重合体は前記一般式(1)で表されるエチレン性不飽和モノマー同士の共重合体でもよいが、それ以外のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が好ましい。
【0086】
例えばメタクリル酸及びそのエステル誘導体(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アクリル酸及びそのエステル誘導体(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコールエトキシレート、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和化合物等を挙げることが出来る。これらは1種単独で、または2種以上混合して、前記分子内に前記一般式(1)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーと共重合させることができる。
【0087】
これらエチレン性不飽和モノマーの中、アクリル酸エステル、またはメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)が好ましく、メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルが更に好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0088】
これらを組み合わせた共重合体としては、下記構成のものが好ましい。
【0089】
【化6】

【0090】
(式中、Lは窒素原子を含むヘテロ環を有する有機基であり、LはL以外の有機基を表す。Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。m、nは正の整数であり、m+nは10〜200である。)
特には前記一般式(A)のLが、ピロリドン骨格を有した一般式(B)で表わされる下記のもがよい。
【0091】
【化7】

【0092】
(式中、R’は炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。m、nは正の整数であり、m+nは10〜200である。)
例えば、下記の如きものが挙げられる。
【0093】
AMP1:AM−1とMMAの質量比20:80の共重合体Mw=22000
AMP2:AM−1とMMAの質量比40:60の共重合体Mw=9000
AMP3:AM−1とMMAの質量比50:50の共重合体Mw=38000
AMP4:AM−1と酢酸ビニルの質量比50:50の共重合体Mw=28000
AMP5:AM−2とMMAの質量比20:80の共重合体Mw=12000
AMP6:AM−2とMA質量比50:50の共重合体Mw=30000
AMP7:AM−2とスチレンの質量比60:40の共重合体Mw=7000
本発明に用いる前記密着性改良剤の化合物(ポリマー)の重量平均分子量(Mw)は1000〜70000の範囲内であることが好ましい。より好ましくは2000〜50000の範囲内であり、特に好ましくは3000〜30000の範囲内である。また前記ポリマーの重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比は1.5〜10.0のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.5〜5.0である。
【0094】
なお、Mw及びMw/Mnは下記の要領で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより算出した。
【0095】
測定条件は以下の通りである。
溶剤:テトラヒドロフラン
装置:HLC−8220(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel SuperHM−M(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
注入量:10μl
流量:0.6ml/min
校正曲線:標準ポリスチレン:PS−1(Polymer Laboratories社製)Mw=2,560,000〜580迄の9サンプルによる校正曲線を使用した。
【0096】
本発明に用いる前記ポリマー中の分子内に一般式(1)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーの割合は、得られる共重合ポリマーと透明樹脂との相溶性、フィルムの透明性や機械的強度に対する影響を考慮して選択される。好ましくは共重合体中に前記一般式(1)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーが5〜80質量%、更に好ましくは10〜50質量%含有される様に配合するのが好ましい。
【0097】
本発明に用いられる前記分子内に前記一般式(1)で表される部分構造を有するエチレン性不飽和モノマーは市販品として入手または公知の文献を参照して合成することが出来る。
【0098】
〔酸化防止剤〕
本発明に用いる酸化防止剤は、下記一般式(4)で表される少なくとも1種が選ばれる。
【0099】
【化8】

【0100】
一般式(4)中、Rはアルキル基を表し、R、RおよびXは、それぞれ水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環オキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アシル基、アシルオキシ基を表す。mは0〜2の整数を表す。R、RおよびXは互いに同一でもよいし異なっていてもよい。
【0101】
上記アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、t−ブチル、シクロヘキシル、t−ヘキシル、t−オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ベンジルなどの直鎖、分岐、または環状のアルキル基を表す。
【0102】
上記アルケニル基は、例えば、ビニル、アリル、2−ペンテニル、シクロヘキセニル、ヘキセニル、ドデセニル、オクタデセニルなどの直鎖、分岐、または環状のアルケニル基を表す。
【0103】
上記アリール基は、例えば、フェニル、ナフチル、アントラニルなどのベンゼン単環や縮合多環のアリール基を表す。
【0104】
上記ヘテロ環基は、例えば、フリル、ピロリル、イミダゾリル、ピリジル、プリニル、クロマニル、ピロリジル、モルホリニルなどの窒素原子、硫黄原子、酸素原子の少なくとも一つを含む5〜7員環からなる基を表す。
【0105】
中でもヒンダードフェノール系の化合物が好ましく、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなど挙げられる。
【0106】
特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。また例えば、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。
【0107】
本発明の酸化防止剤の添加量は、アクリル樹脂含有フィルムに対して0.01〜5.0%が好ましく、0.1〜1.0%がさらに好ましい。これらの化合物は、アクリル樹脂含有セルローストリアセテート溶液の調製の際に、アクリル樹脂、セルローストリアセテートや溶剤と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0108】
〔アルコールと溶剤〕
本発明のアクリル樹脂含有フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な溶剤は、アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、偏光子との密着性改良剤、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることが出来る。
【0109】
例えば、塩素系有機溶剤としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
【0110】
ドープには、上記有機溶剤の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させる。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶剤系でのアクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)の溶解を促進する役割もある。
【0111】
ドープ組成物としては、特に、メチレンクロライド、及び炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶剤に、少なくともアクリル樹脂(A)と、セルロースエステル樹脂(B)と、密着性改良剤の3種を、計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
【0112】
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることが出来る。これらの内ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。
【0113】
〔その他の添加剤〕
本発明のアクリル樹脂含有フィルムにおいては、組成物の流動性や柔軟性を向上するために、可塑剤を併用することも可能である。
【0114】
可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、あるいはエポキシ系等が挙げられる。
【0115】
この中で、ポリエステル系とフタル酸エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。ポリエステル系可塑剤は、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル系の可塑剤に比べて非移行性や耐抽出性に優れるが、可塑化効果や相溶性にはやや劣る。
【0116】
従って、用途に応じてこれらの可塑剤を選択、あるいは併用することによって、広範囲の用途に適用できる。
【0117】
ポリエステル系可塑剤は、一価ないし四価のカルボン酸と一価ないし六価のアルコールとの反応物であるが、主に二価カルボン酸とグリコールとを反応させて得られたものが用いられる。代表的な二価カルボン酸としては、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸、フタル酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0118】
特に、アジピン酸、フタル酸などを用いると可塑化特性に優れたものが得られる。グリコールとしてはエチレン、プロピレン、1,3−ブチレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキサメチレン、ネオペンチレン、ジエチレン、トリエチレン、ジプロピレンなどのグリコールが挙げられる。
【0119】
これらの二価カルボン酸およびグリコールはそれぞれ単独で、あるいは混合して使用してもよい。
【0120】
このエステル系の可塑剤はエステル、オリゴエステル、ポリエステルの型のいずれでもよく、分子量は100〜10000の範囲が良いが、好ましくは600〜3000の範囲が可塑化効果が大きい。
【0121】
また、可塑剤の粘度は分子構造や分子量と相関があるが、アジピン酸系可塑剤の場合相溶性、可塑化効率の関係から200〜5000mPa・s(25℃)の範囲が良い。さらに、いくつかのポリエステル系可塑剤を併用してもかまわない。
【0122】
可塑剤はアクリル樹脂(A)を含有する組成物100質量部に対して、0.5〜30質量部を添加するのが好ましい。可塑剤の添加量が30質量部を越えると、表面がべとつくので、実用上好ましくない。
【0123】
本発明のアクリル樹脂(A)を含有する組成物は紫外線吸収剤を含有することも好ましく、用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、2−ヒドロキシベンゾフェノン系またはサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類を例示することができる。
【0124】
ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。
【0125】
また、特に薄い被覆層から基板層への移行性も小さく、積層板の表面にも析出しにくいため、含有された紫外線吸収剤量が長時間維持され、耐候性改良効果の持続性に優れるなどの点から好ましい。
【0126】
分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、さらには2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の分子内にヒンダードフェノールとヒンダードアミンの構造を共に有するハイブリッド系のものが挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。これらのうちでも、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2−ベンゾトリアゾールや2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が特に好ましい。
【0127】
さらに、本発明のアクリル樹脂含有フィルムに用いられるアクリル樹脂(A)には成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するために各種の酸化防止剤を添加することもできる。また帯電防止剤を加えて、アクリル樹脂含有フィルムに帯電防止性能を与えることも可能である。
【0128】
本発明のアクリル樹脂組成物として、リン系難燃剤を配合した難燃アクリル系樹脂組成物を用いても良い。
【0129】
ここで用いられるリン系難燃剤としては、赤リン、トリアリールリン酸エステル、ジアリールリン酸エステル、モノアリールリン酸エステル、アリールホスホン酸化合物、アリールホスフィンオキシド化合物、縮合アリールリン酸エステル、ハロゲン化アルキルリン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合ホスホン酸エステル、含ハロゲン亜リン酸エステル等から選ばれる1種、あるいは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0130】
具体的な例としては、トリフェニルホスフェート、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、フェニルホスホン酸、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0131】
〔製膜方法〕
以下、本発明のアクリル樹脂含有フィルムの好ましい製膜方法について説明する。
【0132】
1)溶解工程
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、に対する良溶剤を主とする有機溶剤に、溶解釜中で該アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、密着性改良剤、その他の添加剤を撹拌しながら溶解しドープを形成する工程である。
【0133】
アクリル樹脂(A)、セルロースエステル樹脂(B)、密着性改良剤の溶解には、常圧で行う方法、主溶剤の沸点以下で行う方法、主溶剤の沸点以上で加圧して行う方法、特開平9−95544号公報、特開平9−95557号公報、または特開平9−95538号公報に記載の如き冷却溶解法で行う方法、特開平11−21379号公報に記載の如き高圧で行う方法等種々の溶解方法を用いることが出来るが、特に主溶剤の沸点以上で加圧して行う方法が好ましい。
【0134】
ドープ中のアクリル樹脂(A)と、セルロースエステル樹脂(B)、密着性改良剤の溶解中またはその後のドープに添加剤を加えて溶解及び分散した後、濾材で濾過し、脱泡して送液ポンプで次工程に送る。
【0135】
濾過は捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることが好ましい。本発明における製造方法では、微粒子分散時に残存する凝集物や主ドープ添加時発生する凝集物を、捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間10〜25sec/100mlの濾材を用いることで凝集物だけ除去出来る。
【0136】
主ドープでは微粒子の濃度も添加液に比べ十分に薄いため、濾過時に凝集物同士がくっついて急激な濾圧上昇することもない。
【0137】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの製膜方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制などの観点から溶液流延法による製膜を用いる。
【0138】
図1は本発明に好ましい溶液流延製膜方法のドープ調製工程、流延工程及び乾燥工程を模式的に示した図である。アクリル樹脂微粒子仕込釜41より濾過器44で大きな凝集物を除去し、ストック釜42へ送液する。なお、43は送液ポンプである。
【0139】
その後、セルロースエステル樹脂が溶融されている主ドープ溶解釜1へ、ストック釜42よりアクリル樹脂微粒子添加液を添加する。次に主ドープ液は主濾過器3にて濾過され、これに密着性改良剤及びその他添加剤液が16よりインライン添加される。なお2、5、11、14は送液ポンプ、4、10、13はストックタンク、6は濾過器、8、15は導管、12、15は濾過器、17は添加口、20は合流管である。
【0140】
多くの場合、主ドープには返材が10〜50質量%程度含まれることがある。返材にはアクリル樹脂微粒子が含まれているため、返材の添加量に合わせてアクリル樹脂微粒子添加液の添加量をコントロールすることが好ましい。
【0141】
返材とは、アクリル樹脂含有フィルムを細かく粉砕した物で、アクリル樹脂含有フィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトしたアクリル樹脂含有フィルム原反が使用される。
【0142】
また、予めアクリル樹脂とアクリル樹脂微粒子を混練してペレット化したものも、好ましく用いる事ができる。
【0143】
2)流延工程
ドープを送液ポンプ(例えば、加圧型定量ギヤポンプ)を通して加圧ダイ30に送液し、無限に移送する無端の金属ベルト、例えばステンレスベルト、或いは回転する金属ドラム等の金属支持体31上の流延位置に、加圧ダイスリットからドープを流延する工程である。33は剥離位置を決めるロールである。
【0144】
ダイの口金部分のスリット形状を調整出来、膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いられる。金属支持体の表面は鏡面となっている。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。或いは複数のドープを同時に流延する共流延法によって積層構造のフィルムを得ることも好ましい。
【0145】
3)溶剤蒸発工程
ウェブ(流延用支持体上にドープを流延し、形成されたドープ膜をウェブと呼ぶ)を流延用支持体上で加熱し、溶剤を蒸発させる工程である。
【0146】
溶剤を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/又は支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱方法が乾燥効率が良く好ましい。
【0147】
又、それらを組み合わせる方法も好ましく用いられる。流延後の支持体上のウェブを40〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。40〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0148】
4)剥離工程
金属支持体上で溶剤が蒸発したウェブ32を、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。金属支持体上の剥離位置における温度は好ましくは10〜40℃であり、更に好ましくは11〜30℃である。
【0149】
尚、剥離する時点での金属支持体上でのウェブの剥離時残留溶剤量は、乾燥の条件の強弱、金属支持体の長さ等により50〜120質量%の範囲で剥離することが好ましいが、残留溶剤量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易いため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶剤量が決められる。
【0150】
ウェブの残留溶剤量は下記式で定義される。
残留溶剤量(%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
尚、残留溶剤量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0151】
金属支持体とフィルムを剥離する際の剥離張力は、通常、196〜245N/mであるが、剥離の際に皺が入り易い場合、190N/m以下の張力で剥離することが好ましく、更には、剥離できる最低張力〜167N/m、次いで、最低張力〜137N/mで剥離することが好ましいが、特に好ましくは最低張力〜100N/mにて剥離することが望ましい。
【0152】
本発明においては、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
【0153】
5)乾燥及び延伸工程
剥離後、ウェブを乾燥装置内に複数配置したロール36に通して搬送する乾燥装置35、及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター延伸装置34を用いて、ウェブ32を乾燥する。
【0154】
乾燥手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウェーブを当てて加熱する手段もある。余り急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。
【0155】
高温による乾燥は残留溶剤が8質量%以下くらいから行うのがよい。全体を通し、乾燥は概ね40〜250℃で行われる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
【0156】
テンター延伸装置34を用いる場合は、テンターの左右把持手段によってフィルムの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御出来る装置を用いることが好ましい。
【0157】
また、テンター延伸乾燥工程において、平面性を改善するため意図的に異なる温度を持つ区画を作ることも好ましい。また、異なる温度区画の間にそれぞれの区画が干渉を起こさないように、ニュートラルゾーンを設けることも好ましい。
【0158】
尚、延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施することも好ましい。また、二軸延伸を行う場合には同時二軸延伸を行ってもよいし、段階的に実施してもよい。
【0159】
この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。即ち、例えば、次のような延伸ステップも可能である。
・流延方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
・幅手方向に延伸−幅手方向に延伸−流延方向に延伸−流延方向に延伸
また、同時2軸延伸には、一方向に延伸し、もう一方を張力を緩和して収縮させる場合も含まれる。同時2軸延伸の好ましい延伸倍率は幅手方向、長手方向ともに×1.01倍〜×1.5倍の範囲でとることができる。
【0160】
テンターを行う場合のウェブの残留溶剤量は、テンター開始時に20〜100質量%であるのが好ましく、かつウェブの残留溶剤量が10質量%以下になる迄テンターを掛けながら乾燥を行うことが好ましく、更に好ましくは5質量%以下である。
【0161】
テンターを行う場合の乾燥温度は、30〜150℃が好ましく、50〜120℃が更に好ましく、70〜100℃が最も好ましい。
【0162】
テンター工程において、雰囲気の幅手方向の温度分布が少ないことが、フィルムの均一性を高める観点から好ましく、テンター工程での幅手方向の温度分布は、±5℃以内が好ましく、±2℃以内がより好ましく、±1℃以内が最も好ましい。
【0163】
6)巻き取り工程
ウェブ中の残留溶剤量が2質量%以下となってからアクリル樹脂含有フィルムとして巻き取り機37により巻き取る工程であり、残留溶剤量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることが出来る。
【0164】
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0165】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムは、長尺フィルムであることが好ましく、具体的には、100m〜5000m程度のものを示し、通常、ロール状で提供される形態のものである。また、フィルムの幅は1.3〜4mであることが好ましく、1.4〜2mであることがより好ましい。
【0166】
本発明のアクリル樹脂含有フィルムの膜厚に特に制限はないが、偏光板保護フィルムに使用する場合は20〜200μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、30〜80μmであることが特に好ましい。
【0167】
〔偏光板〕
本発明に用いられる偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。すなわち、本発明のアクリル樹脂含有フィルムの裏面側に接着層を設け、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、貼り合わせることが好ましい。
【0168】
また、必要に応じてコロナ処理などの表面処理を行うこともできる。表面処理することにより、偏光子との接着性を改善することができる。もう一方の面には該フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。
【0169】
例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KV8UY−HA、KV8UX−RHA、以上コニカミノルタオプト(株)製)、シクロオレフィンフィルム(例えば、ゼオノアフィルム(日本ゼオン社製)、ARTONフィルム(JSR社製))等が好ましく用いられる。
【0170】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0171】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0172】
上記接着層に用いられる接着剤としては、接着層の少なくとも一部分において25℃での貯蔵弾性率が1.0×10Pa〜1.0×10Paの範囲である接着層が用いられていることが好ましく、接着層を塗布し、貼り合わせた後に種々の化学反応により高分子量体または架橋構造を形成する硬化型接着剤が好適に用いられる。
【0173】
具体例としては、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、水性高分子−イソシアネート系接着剤、熱硬化型アクリル接着剤等の硬化型接着剤、湿気硬化ウレタン接着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレート等の嫌気性接着剤、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、アクリレートとペルオキシド系の2液型瞬間接着剤等が挙げられる。
【0174】
上記接着剤としては1液型であっても良いし、使用前に2液以上を混合して使用する型であっても良い。また上記接着剤は有機溶剤を媒体とする溶剤系であってもよいし、水を主成分とする媒体であるエマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型などの水系であってもよいし、無溶剤型であってもよい。
【0175】
上記接着剤液の濃度は、接着後の膜厚、塗布方法、塗布条件等により適宜決定されれば良く、通常は0.1〜50質量%である。
【0176】
〔液晶表示装置〕
本発明のアクリル樹脂含有フィルムを貼合した偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することが出来る。本発明に係る偏光板は、前記粘着層等を介して液晶セルに貼合する。
【0177】
本発明に係る偏光板は反射型、透過型、半透過型LCDまたはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。特にIPS方式との組み合わせが好ましい。
【0178】
特に画面が30型以上、特に30型〜54型の大画面の表示装置では、画面周辺部での白抜け等もなく、その効果が長期間維持される。また、色ムラ、ギラツキや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【実施例】
【0179】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0180】
〔アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム作製〕
〈フィルム1の作製〉
(ドープ液組成1)
ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製) 70質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート;アシル基総置換度2.75、アセチル基置換度0.19、プロピオニル基置換度2.56、Mw=200000)
30質量部
メチレンクロライド 360質量部
エタノール 15質量部
ポリビニルピロリドンポリマー(Mw=22000、AMP−1) 3.5質量部
上記組成物を、加熱しながら十分に溶解し、ドープ液を作製した。
【0181】
(アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製膜)
上記作製したドープ液を、ベルト流延装置を用い、温度22℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100質量%になるまで溶剤を蒸発させ、剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
【0182】
剥離したアクリル含有樹脂のウェブを35℃で溶剤を蒸発させ、1.6m幅にスリットし、その後、テンターで幅方向に1.1倍に延伸しながら、135℃の乾燥温度で乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は10質量%であった。
【0183】
テンターで延伸後、130℃で5分間緩和を行った後、120℃、140℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径15.24cmコアに巻き取り、アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム1(以下、単にフィルム1と略す)を得た。
【0184】
ステンレスバンド支持体の回転速度とテンターの運転速度から算出されるMD方向の延伸倍率は1.1倍であった。
【0185】
表1に記載のフィルム1の残留溶剤量は0.1質量%であり、膜厚は40μm、巻長は4000mであった。
【0186】
〈フィルム2の作製〉
上記フィルム1の作製において、酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)を含み、かつ使用する溶剤組成を下記に変更した以外は同様にして、アクリル含有樹脂フィルム2(単にフィルム2と略す、以降も同様に略記)を作製した。
【0187】
(ドープ液組成2)
ダイヤナールBR85(三菱レイヨン(株)製) 70質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート アシル基総置換度2.75、アセチル基置換度0.19、プロピオニル基置換度2.56、Mw=200000)
30質量部
メチレンクロライド 324質量部
エタノール 36質量部
ポリビニルピロリドン・酢酸ビニルコポリマー(Mw=20000、第一工業製)
3.5質量部
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール 0.5質量部
上記組成物を、加熱しながら十分に溶解し、ドープ液を作製した。
【0188】
〈フィルム3〜23の作製〉
上記フィルム1の作製において、使用する溶剤の組成比と酸化防止剤の使用有無について、表1〜表3に記載のように変えた以外は同様にして、フィルム3〜23を作製した。
【0189】
〔評価方法〕
得られたフィルム1〜23について、以下の評価を実施した。測定方法は、以下の通りである。なお、特に指定のない場合は、23℃、55%RHの雰囲気下で行った。
【0190】
(Ro、Rtの測定方法)
アッベ屈折率計(4T)を用いてフィルム構成材料の平均屈折率を測定した。また、市販のマイクロメーターを用いてフィルムの厚さを測定した。
【0191】
自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下、該当する波長におけるフィルムのリターデーション測定を行った。上述の平均屈折率と膜厚を入力し、面内リターデーション(Ro)及び厚み方向のリターデーション(Rt)の値を得た。
【0192】
これにより、アクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム1〜16の全てが、|Ro(589)|≦5nm及び|Rt(589)|≦5nmにあることを確認した。
【0193】
(偏光子密着性評価)
作製したフィルムを偏光板用保護フィルムとして使用し、公知の方法により偏光子フィルム及び偏光板用保護フィルムから偏光板を作製した後、偏光子フィルムと偏光板用保護フィルムとの間に強制的な剥離力を加えて、剥離のし難さを目視検査にて判定する。
【0194】
○良好、△普通、×不良、××甚だ不良
(ヘイズ:コントラストに影響の大きい透明性評価)
上記作製した各々のフィルム試料について、フィルム試料1枚をJIS K−7136に従って、ヘイズメーター(NDH2000型、日本電色工業(株)製)を使用して測定した。
【0195】
(イエローインデックス(YI)値)
上記作製した各々のフィルム試料について、フィルム試料1枚をASTM E313に従って、分光測色計(CM3700d、コニカミノルタセンシング(株)製)を使用して測定した。
【0196】
可視光(380nm〜780nm)に対するフィルムの透過率を測定し、
YI=100(1.28X−1.06Z)/Y
なる式に基づき算出した。ここにおいてX、Y、Zは国際CIE規格に定められる光の3刺激値である。
【0197】
また、試料作製直後のYI値を基準として高温高湿環境下保存後(60℃、90RH%;100時間保存)後の増加(ΔYI)は0.10以下であることが望ましい。
【0198】
【表1】

【0199】
【表2】

【0200】
【表3】

【0201】
本発明内の実施例1〜11は、いずれの特性も良いことがわかる。
【符号の説明】
【0202】
1 溶解釜
3、6、12、15、44 濾過器
4、10、13、42 ストックタンク
2、5、11、14、43 送液ポンプ
8、16 導管
10 密着性改良剤及びその他添加剤仕込釜
17 添加口
20 合流管
21 混合機
30 ダイ
31 金属支持体
32 ウェブ
33 剥離位置のロール
34 テンター延伸装置
35 ロール乾燥装置
36 ロール
37 巻き取り器
41 アクリル樹脂微粒子仕込釜
42 ストックタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの面内方向、及び厚み方向の位相差値が、|Ro(589)|≦5nm及び|Rt(589)|≦5nm)であり、偏光子との密着性改良剤を含有するアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法であって、下記1又は2の何れかの条件を満たす溶剤を用いドープを調液後、溶液流延により製膜することを特徴とするアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
1.溶剤中のアルコール量が溶剤全体の4質量%以上8質量%未満である
2.溶剤中のアルコール量が溶剤全体の8質量%以上20質量%以下であり、かつ、酸化防止剤を含有する
【請求項2】
前記密着性改良剤として、下記一般式(A)で表わされる共重合体を用いることを特徴とする、請求項1記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【化1】

(式中、Lは窒素原子を含むヘテロ環を有する有機基であり、LはL以外の有機基を表す。Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。m、nは正の整数であり、m+nは10〜200の範囲の整数である。)
【請求項3】
前記一般式(A)のLが、ピロリドン骨格を有した一般式(B)で表わされることを特徴とする、請求項2記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。R’は炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。m、nは正の整数であり、m+nは10〜200である。)
【請求項4】
アクリル樹脂の質量(A)とセルロースエステル樹脂の質量(B)の比(A/B)が、70/30〜95/5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムの製造方法により作製されたアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルムであって、アシル基の総置換度(T)が2.00〜2.99であり、アセチル基置換度(ac)が0.10〜1.89であり、該セルロースエステルのアセチル基以外の部分が、3〜7の炭素数で構成されるアシル基で置換されており、その置換度(r)が1.10〜2.89で、重量平均分子量(Mw)が75000〜250000であることを特徴とするアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム。
【請求項6】
前記酸化防止剤として、下記化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項5記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム。
〔2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]又はトリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4ヒドロキシフェニル)プロピオネート]〕
【請求項7】
高温高湿環境条件下(60℃/90%RH、100時間保存)でのフィルムのYI値増加(ΔYI)が、0.10以下であることを特徴とする、請求項5記載のアクリル樹脂含有セルロースエステルフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23522(P2013−23522A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157619(P2011−157619)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】