説明

アクリル樹脂成型品及び照明カバー

【課題】真空成型、圧空成型、プレス成型などの延伸を伴う成型によっても、優れた低表面エネルギー性と帯電防止性を発揮する樹脂成型品及び照明カバーを提供する。
【解決手段】アクリル樹脂成型品は、アクリル樹脂からなる基材に表面機能層が積層されたアクリル樹脂シートを、延伸して成型して成ることを特徴とする。表面機能層は、撥水基を有するアクリル樹脂(A)と針状の導電性金属酸化物(B)とを含み、針状の導電性金属酸化物(B)の含有量がアクリル樹脂(A)の固形分100質量部に対して10質量部〜150質量部である。このアクリル樹脂成型品を照明カバーに用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂によって形成されたアクリル樹脂成型品及び照明カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂をあらかじめシート状に形成した樹脂シートを延伸し成型して樹脂成型品を得る方法が知られている。成型方法としては、真空成型、圧空成型、プレス成型などが挙げられる(特許文献1参照)。このような延伸して得られる樹脂成型品においては、埃や異物の付着を低減させるために、帯電防止性を付与することが知られている。帯電防止性を付与するには、例えば、特殊な界面活性剤(特許文献2、3参照)や、4級アンモニウム塩などのイオン性材料(特許文献4参照)を樹脂材料の中に添加する方法が取られている。さらに、樹脂成型品への耐汚染性に関して、埃等の静電的な汚れだけではなく、親水系の汚れや油類等の疎水系の汚れも含めて汚染を低減するために、帯電防止性に加えて、撥水性を樹脂材料に対して付与する技術が検討されている(例えば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−192990号公報
【特許文献2】特開2008−231240号公報
【特許文献3】特開2008−201036号公報
【特許文献4】特開2009−51983号公報
【特許文献5】特開2009−155499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、撥水性樹脂に、界面活性剤や4級アンモニウム塩などのイオン性材料を添加すると、撥水性の機能が低下してしまうといった問題が生じる。
【0005】
そこで、これら撥水性等の低表面エネルギー性の機能の低下を招かずに帯電防止性を付与する方法として、導電性の微粒子を樹脂に複合化する方法が考えられる。しかし、樹脂組成物を延伸して成型する成型品に対して導電性物質を適用しようとしても、延伸時に導電性のパスが切断されてしまうため、帯電防止性を維持することができない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、真空成型、圧空成型、プレス成型などの延伸を伴う成型によっても、優れた低表面エネルギー性と帯電防止性を発揮するアクリル樹脂成型品及び照明カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、アクリル樹脂からなる基材に、撥水基を有するアクリル樹脂(A)と針状の導電性金属酸化物(B)とを含み、針状の導電性金属酸化物(B)の含有量がアクリル樹脂(A)の固形分100質量部に対して10質量部〜150質量部である表面機能層が積層されたアクリル樹脂シートを、延伸して成型して成ることを特徴とするアクリル樹脂成型品である。
【0008】
第2の発明は、上記構成のアクリル樹脂成型品において、アクリル樹脂(A)の撥水基が、下記の式(1)で示されるジメチルシロキサン基、及び、フルオロアルキル基から選ばれる少なくともいずれか一方であることを特徴とするアクリル樹脂成型品である。
【0009】
【化1】

【0010】
(nは2以上の整数を示す)
第3の発明は、上記構成のアクリル樹脂成型品において、表面機能層側の表面は、表面抵抗率が10〜1013Ω/□であり、かつ、水の接触角が90°〜120°であることを特徴とするアクリル樹脂成型品である。
【0011】
第4の発明は、上記構成のアクリル樹脂成型品を用いた照明カバーである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成型によって延伸された後も、表面機能層が優れた低表面エネルギー性と帯電防止性を発揮することにより、防汚染性に優れたアクリル樹脂成型品及び照明カバーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の照明カバーの実施の形態の一例を用いた照明器具を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
アクリル樹脂成型品は、アクリル樹脂からなる基材に表面機能層が積層されたアクリル樹脂シートを成型して形成される。
【0015】
基材に用いるアクリル樹脂としては、アクリル樹脂であれば特に制限されるものではないが、例えば、メチルメタクリレート単独、あるいはこれとメチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート等のアクリレート類との共重合物を用いることができる。アクリル樹脂は、透明性、耐光性の点で良好である。アクリル樹脂の基材としては、ガラスキャスト製法、連続キャスト製法、押出し製法等のシート成型方法により得たものを使用することができる。
【0016】
アクリル樹脂の基材には、必要に応じて、性能を損なわない範囲で、公知の方法で種々の公知の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、染料・顔料等の着色剤;顔料や光拡散剤の分散性を改善するための展着剤や分散剤;アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル類を主成分とするコアシェル型グラフト構造を有するゴム状重合体等に代表される耐衝撃性改質剤;ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール類、ベンゾエート類のような耐熱安定剤・耐候性改質剤;ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、トリアジン類、マロン酸エステル類、サリシレート類、シアノアクリレート類、オギザニリド類のような紫外線吸収剤;リン酸エステルのような難燃剤;パルミチン酸、ステアリルアルコールのような滑剤;有機系及び無機系の抗菌剤;帯電防止剤等が挙げられる。なお、これらは必要に応じて複数を併用することもできる。
【0017】
アクリル樹脂の基材を製造するにあたっては、まず、アクリル樹脂などの各成分の所定量をヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合装置で機械的に混合する。次に、一軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー等を用い、200〜260℃の温度で十分に溶融混練する。その後、造粒してペレット化することによりアクリル樹脂ペレットを製造する。このようなアクリル樹脂ペレットは公知の一般的方法で製造することができる。そして、このアクリル樹脂ペレットをシート状に成形することによりアクリル樹脂の基材を得ることができる。成形方法としては、特に限定されるものではなく、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形等の公知の方法を用いることができる。
【0018】
アクリル樹脂からなる基材の厚みとしては、特に限定されるものではないが、例えば、0.1〜3mmにすることができる。基材の厚みがこの範囲であると、成形性に優れる。
【0019】
アクリル樹脂シートは、このようにして得たアクリル樹脂の基材の表面に、表面機能層が積層されて形成される。
【0020】
表面機能層は、撥水基を有するアクリル樹脂(A)を含んでいる。撥水基とは表面自由エネルギーが特に低い官能基のことであり、以下に示すようなフルオロアルキル基、フルオロアルキレン基、アルキル基を例示することができる。
【0021】
(官能基) (構造式) (表面自由エネルギー)
フルオロアルキル基 CF− 6.7mJ/m
フルオロアルキレン基 −CF− 18mJ/m
アルキル基 CH− 24mJ/m
なお、上記の構造式はそれぞれ炭素数が1のものを例示しており、CF−はパーフルオロメチル基であり、−CF−はパーフルオロメチレン基であり、CH−はメチル基である。
【0022】
このような化学構造を保有している分子鎖が樹脂成型品の最表面層に局在化することによって、高い撥水性や低付着性、易除去性を発現することができるのである。撥水基は、アクリル樹脂の側鎖として有していることが好ましく、それにより、撥水性をより発現することができるものである。
【0023】
また、撥水基としてジメチルシロキサン基を有することも好ましい。ジメチルシロキサン基を有する場合も表面自由エネルギーを低下させることができる。
【0024】
撥水基としては、より具体的には、樹脂の分子骨格に上記の式(1)で示されるジメチルシロキサン基、又は、フルオロアルキル基を有していることが好ましい。nは1以上の整数であり、上限について、特に制限ないが、実用上、好ましくは160である。nが160以下であると、硬度等の塗膜物性が良好である。ここで、撥水性を高める点から、フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基(全ての水素原子がフッ素原子に置換されたアルキル基)であることが好ましい。なお、これ以降、フルオロアルキル基又はパーフルオロアルキル基を表す場合、これらをまとめて「(パー)フルオロアルキル基」と表記する。
【0025】
撥水基を有するアクリル樹脂(A)は、(A−1)撥水基を有し、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、(A−2)撥水基を有さず、炭素−炭素二重結合を有するモノマーとを、共重合してなるアクリル樹脂であることが好ましい。すなわち、表面機能層は、(A−1)と(A−2)のモノマーが共重合した撥水性のアクリル樹脂(A)を主成分の一つとすることが好ましいものである。
【0026】
(A−1)成分である、撥水基を有し、炭素−炭素二重結合を有するモノマーとしては、(パー)フルオロアルキル基を有するモノマーや、ジメチルシロキサン基を有するモノマーを用いることができる。
【0027】
(A−1)成分であるモノマーが(パー)フルオロアルキル基を有するものである場合、モノマー成分としては、(メタ)アクリレート系モノマー又はビニル系モノマーが好ましい。(メタ)アクリレート系モノマーとしては、具体的には、例えば、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロポリエーテル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、ビニル系モノマーとしては、具体的には、例えば、トリフルオロメチルビニル、パーフルオロエチルビニル、パーフルオロエチルエーテルビニルなどが挙げられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0028】
(A−1)成分であるモノマーがジメチルシロキサン基を有するものである場合、モノマー成分としては、ラジカル重合性ポリジメチルシロキサンを用いることができる。より詳しくは、直鎖状ポリシロキサン鎖の片末端にラジカル重合性不飽和結合部分を有するものを用いることができる。
【0029】
そのようなラジカル重合性ポリシロキサンとして、下記の式(2)で示される単量体を用いることができる。
【0030】
【化2】

【0031】
式(2)中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基を示す。mは2以上の整数を示す。
【0032】
式(2)のRとしては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)、又は炭素数3〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)を挙げることができ、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、mは、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。mの上限は、特に制限ないが、実用上、好ましくは160である。mが160以下であると、硬度等の塗膜物性が良好である。
【0033】
ラジカル重合性ポリシロキサンとして、下記の式(3)で示される単量体を用いることもできる。
【0034】
【化3】

【0035】
式(3)中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜10の炭化水素基を示す。pは2以上の整数を示す。qは0〜10の整数を示す。
【0036】
式(3)中のRとしては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基)又は炭素数3〜10のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基)を挙げることができ、好ましくは水素原子又はメチル基である。また、pは、好ましくは10以上の整数、より好ましくは30以上の整数である。pの上限は、特に制限ないが、実用上、好ましくは160である。qは、好ましくは3である。pが160以下であると、硬度等の塗膜物性が良好である。
【0037】
ラジカル重合性ポリシロキサンを用いる場合、撥水性や低付着性、易除去性をさらに向上させるため、もしくは耐薬品性や耐光性を向上させるため、フッ素を含有し、炭素−炭素二重結合を有する成分であるフルオロオレフィンをさらに重合させても良い。フルオロオレフィンとしては、例えば、フッ化ビニリデン、ヒトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン等が挙げられる。これらのフルオロオレフィンは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記の(A−1)成分は、一種を単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0039】
(A−1)成分の含有量は、(A−1)成分と(A−2)成分とを共重合してなるアクリル樹脂(A)を基準(100質量%)としたときに、50〜95質量%の範囲であることが好ましい。(A−1)成分の含有量が50質量%未満であると、溶剤への溶解性が低くなるおそれがある。また、(A−1)成分の含有量が95質量%を超えると、コーティング皮膜がもろくなるおそれがあり、急激な温度変化などにより容易にコーティング皮膜に亀裂が入り、防湿性、絶縁性、耐酸性を維持することが困難になるおそれがある。以上の観点から、アクリル樹脂(A)中の(A−1)成分の含有量は、60〜85質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0040】
(A−2)成分である、撥水基を有さず、炭素−炭素二重結合を有するモノマーとしては、(メタ)アクリレート系モノマー、スチレン系モノマー、オレフィン系モノマー、及びビニル系モノマーが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレンなどが挙げられる。また、オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。また、ビニル系モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0042】
上記の(A−2)成分は、一種を単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
(A−2)成分の含有量は、(A−1)成分と(A−2)成分とを共重合してなるアクリル樹脂(A)を基準(100質量%)としたときに、5〜50質量%の範囲であることが好ましい。(A−2)成分の含有量が5質量%未満であると、コーティング皮膜がもろくなるおそれがある。また、(A−2)成分の含有量が50質量%を超えると、溶剤への溶解性が低くなるおそれがある。以上の観点から、アクリル樹脂(A)中の(A−2)成分の含有量は、10〜40質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0044】
(A−1)成分と(A−2)成分とを重合させる方法としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の方法を用いることができる。すなわち、炭素−炭素二重結合を重合させる適宜の方法を用いることができる。また、アクリル樹脂(A)は、その重量平均分子量が50,000〜800,000の範囲であることが好ましい。重量平均分子量は、例えば、標準ポリスチレン換算によるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によりされる。(A−1)成分と(A−2)成分は、ランダム状に共重合していてもよいし、またブロック状に共重合していてもよい。
【0045】
表面機能層は、撥水基を有する針状の導電性金属酸化物(B)を含んでいる。導電性金属酸化物(B)は、樹脂層として形成される表面機能層に導電性を付与するための物質である。アクリル樹脂成型品にあっては、導電性金属酸化物(B)により導電性が付与され、帯電防止効果が向上するものである。導電性金属酸化物(B)には、通常、微粒子が用いられる。この導電性金属酸化物(B)はフィラーとしての機能を有してもよい。
【0046】
ここで、針状とはアスペクト比(長軸と短軸の比)が高い材料のことであり、一般的には長軸が短軸の10倍以上となる材料を言う。針状の金属酸化物を用いれば、球状のものよりも少ない添加量で表面抵抗が下がり、かつ延伸時にも球状に比べて通電パスが確保されやすい。すなわち、針状であれば、もともと長軸方向で粒子が交差して接触する可能性が高くなるのに加え、延伸された際にも、球状のものに比べて長軸方向で接触する可能性が高くなるのである。
【0047】
このように、アクリル樹脂成型品にあっては、導電性金属酸化物(B)を配合することにより、帯電防止性が向上し、表面の汚染を有効に防止できる。導電性金属酸化物(B)を配合しないと、アクリル樹脂成型品の樹脂表面に汚染物質が斑に付着してしまうことになる。
【0048】
導電性金属酸化物(B)としては、例えば、非酸化金属がドープされた金属酸化物を使用することが可能であり、好ましいものである。非酸化金属がドープされた金属酸化物の具体例としては、例えば、アンチモンドープ二酸化スズ、アルミドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、アンチモンドープ酸化チタンなどが挙げられる。これらの中でも、アンチモンドープ二酸化スズ、アルミドープ酸化亜鉛が好ましく、アンチモンドープ二酸化スズがさらに好ましい。これらの導電性金属酸化物(B)は一種単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0049】
導電性金属酸化物(B)の含有量は、撥水基を有するアクリル樹脂(A)の固形分100質量部に対して10〜150質量部である。導電性金属酸化物(B)の含有量がこれより多くなると、成型時に表面にブリードアウトしてしまい表面物性が悪くなる。一方、導電性金属酸化物(B)の含有量がこれより少なくなると、帯電防止性が十分に発現せず、汚染物質が樹脂成型品の表面に付着してしまう。
【0050】
上記の範囲で導電性金属酸化物(B)を配合すると、アクリル樹脂成型品における表面機能層側の表面抵抗率を10〜1013Ω/□にすることがより可能となる。すなわち、表面抵抗率は、導電性金属酸化物(B)の種類や量に依存することになるが、配合量を上記の範囲に設定することで表面低効率を好適な範囲にすることができるものである。
【0051】
そして、アクリル樹脂成型品においては、表面機能層側の表面の表面抵抗率が10〜1013Ω/□になることが好ましいものである。この表面抵抗率は、より好ましくは10〜1012Ω/□である。表面抵抗率が1013Ω/□以下であると、汚染物質が塗膜表面に容易に付着しにくい。一方、表面抵抗率が10以上であると、塗膜表面の汚染物質を拭き取りやすいとともに、表層に酸化物がブリードアウトして、表面物性が悪くなるのを抑えることができる。
【0052】
ここで、表面抵抗率は、JIS K 6911−1995に基づく値である。表面抵抗率は、例えば、ハイレスタUPMCP−HT450型(ダイアインスツルメンツ製)によって測定される。
【0053】
表面機能層は、撥水基を有するアクリル樹脂(A)及び導電性金属酸化物(B)を含む樹脂組成物をアクリル樹脂の基材に塗布することにより形成される。ここで、樹脂組成物には、フィラーや溶媒などが配合されていてもよい。溶媒を配合すれば樹脂組成物を塗装しやすい粘度に調整することが可能である。
【0054】
表面機能層の塗布方法としては、特に限定されるものではないが、スプレーコ−ティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法を好適に利用することができる。
【0055】
また、シート状態(アクリル樹脂シート)での表面機能層の膜厚(塗布膜厚)としては、特に限定されるものではないが、5〜50μmの範囲であることが好ましい。表面機能層の膜厚が5μm以上であると延伸後の膜厚が十分であり撥水性を維持することができる。一方、表面機能層の膜厚が50μm以下であると成型時に追随でき、ワレ等を抑えることができる。
【0056】
こうして表面機能層が積層されたアクリル樹脂の基材が、アクリル樹脂成型品の前駆体であるアクリル樹脂シートとなる。つまり、アクリル樹脂シートは、成型品の前駆体シートとなるものである。
【0057】
アクリル樹脂成型品は、このアクリル樹脂シートを延伸して成型して得られる。すなわち、アクリル樹脂シートは少なくともその一部が延伸して成型される。成型方法としては、適宜の方法を用いることができ、例えば、真空成型、圧空成型、真空圧空成型、プレス成型する等の熱成型方法により、アクリル樹脂シートを所定の形状に成型することができる。
【0058】
成型の際の延伸倍率としては、アクリル樹脂シートの平面での直角な2軸方向にそれぞれ1.2〜2倍であることが好ましい。この範囲の延伸倍率であると成型性を維持し、表面機能層にワレが生じる等が生じにくい。
【0059】
アクリル樹脂成型品においては、表面機能層側の水の接触角が90°〜120°であることが好ましい。水の接触角度がこの範囲になることで優れた撥水性を実現できるものである。
【0060】
アクリル樹脂成型品においては、撥水性と導電性を両立するために、撥水性を損なわず導電性を付与することが可能なe(電子)をキャリアとする導電性金属酸化物(B)を用いている。このため、他の導電性付与材料のように撥水性を低下させるようなことを抑制することができる。
【0061】
また、一般的な球状の金属酸化物を用いた場合、延伸を伴う成型時に、導電パスが切断されてしまい、表面抵抗が高くなってしまう。しかしながら、上記のアクリル樹脂成型品においては、針状の導電性金属酸化物(B)を用いることによって、延伸時の導電性を確保することができるものである。
【0062】
また、アクリル樹脂成型品においては、撥水基を有するアクリル樹脂(A)により形成される表面機能層が最表層として配置しており、アクリル樹脂の基材ではなく、この表面機能層に、導電性金属酸化物(B)を配合するものである。このため、着色性がほとんどなく、透明性を有しており、光の透過性を必要とする用途に特に好適に用いることができる。
【0063】
アクリル樹脂成型品の用途としては、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂によって形成されたアクリル樹脂シートを延伸して製造可能であり、撥水性と導電性を必要とする用途に適用可能である。例えば、半導体用トレーや照明カバーなどが挙げられる。特に、上記のアクリル樹脂成型品は、表面機能層及び基材の両方にアクリル樹脂を用いており、耐光性に優れているので照明カバーが好適である。
【0064】
一般に、照明カバーには、光源の光を拡散させるために光拡散剤が添加されることが多い。そこで、上記のアクリル樹脂からなる基材及び表面機能層においては、そのどちらか一方に、又は両方に、光拡散剤を添加することも好ましい。光拡散剤としては、照明カバー用の樹脂材料に添加可能なものを使用することができる。
【0065】
そのような光拡散剤としては、有機微粒子や無機微粒子を用いることができる。有機微粒子としては、例えば、架橋スチレン系微粒子、架橋又は高分子量アクリル系微粒子、架橋スチレン−アクリル系微粒子、架橋スチレン−ブタジエン系微粒子、架橋シリコーン微粒子、架橋シロキサン系微粒子、架橋ウレタン系微粒子、メラミン系重合体等が挙げられる。無機微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、マイカ、酸化セリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、結晶形シリカ、不定形シリカ、ガラスフレーク、ガラス繊維、ガラスビーズ、クレー等が挙げられる。また、これらの無機微粒子に表面処理を施したものを用いてもよい。これらの光拡散剤を少なくとも1種類以上、すなわち1種又は複数種を組み合わせて樹脂材料に添加することができる。アクリル樹脂成型品を照明カバーとして用いるためには、可視光線の透過性を損なわずに適度な光拡散性を付与できるものが好ましく、そのような観点から、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、架橋シリコーン微粒子、架橋シロキサン系微粒子が好ましい。
【0066】
光拡散剤の配合割合は、アクリル樹脂の固形分100質量部に対して0.1〜15質量部であることが好ましい。光拡散剤の配合量が0.1質量部未満では、隠蔽性が低く、適度な光拡散性が得られなくなるおそれがある。また、光拡散剤の配合量が15質量部を超えると、樹脂組成物及びその成形体の色調が不透明な白色となるおそれがあり、照明カバー等の光透過部材として使用できなくなるおそれがあるので好ましくない。
【0067】
照明カバーは、例えば、ランプを覆うように装着されるものであることが好ましい。このとき、発光部を全部覆って装着されても、発光部の一部を覆って装着されてもよい。ランプを覆う形状にするためには、アクリル樹脂シートの基材側(表面機能層とは反対側)の表面から押圧して延伸し、照明カバーを成型することが好ましい。このように成型すると、成型品の外表面に表面機能層が配置されることになる。また、照明カバーは、乳白色で光の拡散を伴うことにより、ランプからの光を和らげ、ランプイメージを和らげるタイプの照明カバーであることが好ましい。
【0068】
したがって、照明カバーは、全光線透過率が30%以上であることが好ましく、全光線透過率が40%以上、70%以下であることがより好ましい。全光線透過率が40%以上であれば、暗くなりすぎず、適度にランプからの光を和らげることができる。また、全光線透過率が70%以下であれば、ランプからの光を和らげることができつつ十分な明るさを得ることができる。
【0069】
このような照明カバーは、各種照明器具、例えばシーリングライト、ペンダント型ライト、流し元灯、浴室灯、シャンデリア、スタンド、ブラケット、行燈、ガレージライト、軒下灯、門柱灯、ポーチライト、ガーデンライト、エントランスライト、足元灯、階段灯、誘導灯、防犯灯、ダウンライト、ベースライト、電飾看板、サイン灯等用のカバー、自動車、自動二輪車等を初めとする車両用灯具向けのカバー等に好適に用いることができる。特に、カバーが器具本体に挟持される構造を有するシーリングライト等に好適に用いることができる。上記のアクリル樹脂成型品は適度の強度と柔軟性とを持つからであり、強度により耐衝撃性を高めつつ、柔軟性によって挟持される部分に嵌め込むことができるものである。
【0070】
図1に、照明カバー1が用いられた照明器具Aの一例を示す。この照明器具Aは、家屋の天井4などに設置される平面視円形のシーリング型ライトであり、発光体となるランプ2と、ランプ2を保持し天井4に取り付けられる器具本体3と、アクリル樹脂成型品によって形成された照明カバー1とを備えている。
【0071】
照明カバー1は断面略倒C状(すなわちグローブ形状)に形成され、ランプ2を覆って器具本体3に下方から取り付けられている。照明カバー1においては、ランプ2とは反対側の外表面に表面機能層が配置されている。照明カバー1の上端部には、器具本体3に引っ掛けるための係合部11が設けられている。図示の形態では、係合部11は周の内側に向かって突出して形成されている。この係合部11は、照明カバー1の全周に亘って設けられていても、一部の周に設けられていてもよい。
【0072】
器具本体3には、照明カバー1の係合部11と係合する被係合部31が設けられている。図示の形態では、被係合部31は周の外側に向かって突出して形成されている。また、器具本体3には、被係合部31よりも器具本体3の外側よりの位置で、下方に向かって突出して形成された支持部32が設けられている。この支持部32は、照明カバー1が位置ずれしたりがたついたりしないように、照明カバー1を外側から支持するものである。被係合部31及び支持部32は、器具本体3の全周に亘って設けられていても、一部の周に設けられていてもよい。
【0073】
照明カバー1を器具本体3に取り付けるにあたっては、まず、照明カバー1の上端部を支持部32の内側に挿入し、次に、係合部11を被係合部31に係合させて載置する。このとき、例えば、器具本体3の被係合部31の一部を係合部11の形状よりも大きく切り欠いて切欠部を設けた構造のものを用いてもよい。この場合、この切欠部から係合部11を挿入して照明カバー1を器具本体3側(上方)に押し込み、回転させて、係合部11と被係合部31を係合させて載置することができる。このようにして、器具本体3に照明カバー1を取り付けることができるものである。
【0074】
そして、このような照明カバー1にあっては、外表面が表面機能層となっているので、撥水性のような低表面エネルギー性と帯電防止性が向上し、防汚染性が高いものである。また、アクリル樹脂により形成されていることにより、耐光性が向上し、好適な光透過性が得られるものである。なお、本願において低表面エネルギー性として、撥水性を中心に述べたが、撥油性も含まれる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例によって具体的に説明する。
【0076】
(実施例1)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製FS−6130 固形分10質量%)100質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫の水分散液(石原産業製 FS−10D 固形分20質量% ;水ゾル)70質量部を添加して、塗料を調製した。なお、このパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂は、モノマーとして、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと撥水基を有さない(メタ)アクリレート系モノマーとを含んでこれらが共重合して形成されたものである。また、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は140質量部である。
【0077】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板の表面に表面機能層が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0078】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0079】
(実施例2)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製FS−6130 固形分10質量%)100質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫の水分散液(石原産業製 FS−10D 固形分20質量%)10質量部を添加して、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は20質量部である。
【0080】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板の表面に表面機能層が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0081】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0082】
(実施例3)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製FS−6130 固形分10質量%)100質量部に、長軸5.2μm、短軸0.27μmの針状アンチモンドープ酸化錫被覆の酸化チタン(石原産業製 FT−3000 固形分100質量%)10質量部を添加して、3000回転のディスパーにて20分間攪拌し、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は100質量部である。
【0083】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板の表面に表面機能層が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0084】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0085】
(実施例4)
撥水基としてジメチルシロキサン基を有するアクリル樹脂(東亞合成製GS−101 固形分45質量%)22質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫のメチルエチルケトン分散液(石原産業製 FSS−10M 固形分20質量%)70質量部を添加して、塗料を調製した。なお、このジメチルシロキサン基を有するアクリル樹脂は、モノマーとして、ジメチルシロキサン基を有する(メタ)アクリレート系モノマーと撥水基を有さない(メタ)アクリレート系モノマーとを含んでこれらが共重合して形成されたものである。また、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は140質量部である。
【0086】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板の表面に表面機能層が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0087】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0088】
(実施例5)
撥水基としてジメチルシロキサン基を有するアクリル樹脂(東亞合成製GS−101 固形分45質量%)22質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫のメチルエチルケトン分散液(石原産業製 FSS−10M 固形分20質量%)10質量部を添加して、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は20質量部である。
【0089】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板の表面に表面機能層が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0090】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0091】
(比較例1)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製FS−6130 固形分10質量%)100質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫の水分散液(石原産業製 FS−10D 固形分20質量%)100質量部を添加して、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は200質量部である。
【0092】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板に塗膜が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0093】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0094】
(比較例2)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製FS−6130 固形分10質量%)100質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫の水分散液(石原産業製 FS−10D 固形分20質量%)3質量部を添加して、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は6質量部である。
【0095】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板に塗膜が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0096】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0097】
(比較例3)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製FS−6130 固形分10質量%)100質量部に、粒子径0.01〜0.1μmの球状アンチモンドープ酸化錫の水分散液(石原産業製 FN−100D 固形分30質量%)33質量部を添加して、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は100質量部である。
【0098】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板に塗膜が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0099】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0100】
(比較例4)
撥水基としてパーフルオロアルキル基を有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製 フロロサーフFG−4010:固形分5質量%)200質量部に、4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂(コルコート製 121X−9 固形分10質量%)10質量部を添加して、塗料を調製した。
【0101】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板に塗膜が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0102】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0103】
(比較例5)
撥水基としてパーフルオロアルキルキを有するアクリル樹脂(フロロテクノロジー製 フロロサーフFG−4010:固形分5質量%)200質量部に、カチオン系界面活性剤(日油製 LD−204 固形分100質量%)0.5質量部を添加して、塗料を調製した。
【0104】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板に塗膜が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0105】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0106】
(比較例6)
撥水基をもたないアクリル樹脂(DIC製 アクリディックA−190:固形分50質量%)20質量部に、長軸0.2〜2μm、短軸0.01〜0.02μmの針状アンチモンドープ酸化錫のメチルエチルケトン分散液(石原産業製 FSS−10M 固形分30質量%)40質量部を添加し、さらにMEK(メチルエチルケトン)を100質量部添加して5分間攪拌し、塗料を調製した。なお、アクリル樹脂の固形分100質量部に対する導電性金属酸化物の配合量は120質量部である。
【0107】
この塗料を、乾燥膜厚が5μmになるように、板厚2mmのアクリル樹脂押出し成型板(スミペックス ES055 全光線透過率36%)の表面に塗布した。これにより基板に塗膜が形成されたアクリル樹脂シートが得られた。
【0108】
得られたアクリル樹脂シートを400mm×400mmのサイズに裁断し、圧空成型機を用いて、図1に示したようなシーリングライトグローブ形状に成型した。形状付与後、成型機金型内で110℃、10分間保持した後、冷却することにより、照明カバーを作製した。アクリル樹脂シートからグローブ形状に成型した際の延伸倍率は、平面での直交する2軸方向に平均1.5倍×1.5倍であった。
【0109】
(評価)
実施例1〜5、比較例1〜6で得られたアクリル樹脂成型品(照明カバー)について、次の項目の評価を行った。なお、水接触角と表面抵抗については、アクリル樹脂シートについても評価した。
【0110】
(評価方法)
(1)(3) 水接触角
協和界面科学社製の接触角計(DM500)にて、水を試料表面に滴下した際の接触角を測定した。
(判定基準)
90°以上:○
90°未満:×
にて判定した。
【0111】
(2)(4)表面抵抗
ダイアインスツルメンツ製の表面抵抗測定器(ハイレスタUP MCP−HT450型)によって印加電圧100Vで測定した。この表面抵抗率は、JISK 6911−1995に基づく値である。
(判定基準)
1×1014Ω/□より小さい:○
1×1014Ω/□以上:×
にて判定した。
【0112】
(5)全光線透過率
日本電色工業製のヘーズメーターにて全光線透過率を測定した。
(判定基準)
40%以上:○
30%以上40%未満:△
30%未満:×
にて判定した。
【0113】
(6)表面硬度
JIS K−5600−5−4に準じて塗膜表面の硬度(鉛筆硬度)を測定した。
(判定基準)
H以上:○
F以下:×
にて判定した。
【0114】
(結果)
結果を表1に示す。
【0115】
比較例1は、水接触角が小さいため撥水性が十分でなく、また硬度が十分でなかった。比較例2,3は表面抵抗が高く、帯電防止性が十分でなかった。比較例4は、撥水性と帯電防止性がともに十分でなかった。比較例5,6は撥水性が十分でなかった。
【0116】
それに対し、実施例1〜5は、撥水性、帯電防止性に優れており、また、光透過性、硬度も良好であった。
【0117】
【表1】

【符号の説明】
【0118】
A 照明器具
1 照明カバー
2 ランプ
3 器具本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂からなる基材に、撥水基を有するアクリル樹脂(A)と針状の導電性金属酸化物(B)とを含み、針状の導電性金属酸化物(B)の含有量がアクリル樹脂(A)の固形分100質量部に対して10質量部〜150質量部である表面機能層が積層されたアクリル樹脂シートを、延伸して成型して成ることを特徴とするアクリル樹脂成型品。
【請求項2】
アクリル樹脂(A)の撥水基が、下記の式(1)で示されるジメチルシロキサン基、及び、フルオロアルキル基から選ばれる少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル樹脂成型品。
【化1】

(nは2以上の整数を示す)
【請求項3】
表面機能層側の表面は、表面抵抗率が10〜1013Ω/□であり、かつ、水の接触角が90°〜120°であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアクリル樹脂成型品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル樹脂成型品を用いた照明カバー。

【図1】
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【公開番号】特開2011−194683(P2011−194683A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63187(P2010−63187)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】