説明

アクリル樹脂積層体

【課題】耐衝撃性、耐候性、耐磨耗性、及び耐熱性に優れた樹脂積層体を提供する。
【解決手段】少なくとも片面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板と、エチレン含有量が55〜90質量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが、前記表面硬化層を介して積層されている樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル系樹脂板を用いた耐衝撃性に優れた樹脂積層体に関し、より詳細には、耐衝撃性、耐候性、耐磨耗性、及び耐熱性に優れた樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界において環境問題(二酸化炭素排出量削減)が大きな問題となっており、軽量化のニーズが高まる中で、窓用素材をガラスからメタクリル系樹脂板またはポリカーボネート樹脂に変更する検討がなされている。また、建材用ガラスでは耐衝撃性、安全性向上、表示窓保護板では軽量化のために同様の検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−112514号公報
【特許文献2】特表2009−541099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐衝撃性の強いポリカーボネート樹脂板を車両用グレージング材、建材用ガラス、表示窓保護板として使用する試みがなされているが、ポリカーボネート樹脂は耐候性が低く、また表面が柔らかいために傷付き易いという問題を有している。この問題を解決するため種々のハードコート処理が検討されているが、コストが非常に高く、ブツ等の欠陥を生じ易いため実用的ではない。また、ポリカーボネート樹脂を射出成形する場合、歪が生じやすく非常に高価な射出圧縮成形機を用いる必要があることも実用的でない一因である。
対してメタクリル系樹脂板は樹脂材料の中でもとりわけ耐候性、透明性が良く、窓用材料としての基礎的な必要性能を有している。しかし、ポリカーボネート樹脂板に比べ、メタクリル系樹脂板は割れ易く、耐衝撃性の点で劣っている。耐衝撃性を改良する検討としてメタクリル系樹脂板の間にポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の中間膜を積層して耐衝撃性を上げる検討がなされているが性能として不十分であった。(特許文献1、2参照)
【課題を解決するための手段】
【0005】
メタクリル系樹脂板の耐衝撃性性能が不足している課題を解決するため、鋭意検討を重ねて本発明に至った。
すなわち本発明は、少なくとも片面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板と、エチレン含有量が55〜90質量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが、前記表面硬化層を介して積層されている樹脂積層体である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により得られた積層体は、メタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体シートとの間の接着力が改良され十分な耐衝撃性を持たせることができ、さらに耐磨耗性、透明性に優れ、車両グレージング材用樹脂積層体、建材ガラス用樹脂積層体、表示窓保護板用樹脂積層体に好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
メタクリル系樹脂板は、公知の押出し成形法、またはメチルメタクリレートを主成分とするラジカル重合性単量体、または前記ラジカル重合性単量体の一部が重合した(共)重合体混合物を鋳型に流し込んで重合するキャスト重合法により作製することができる。好ましくはキャスト重合法により作製されたメタクリル樹脂であり、キャスト重合法を用いることにより軟化温度の高いメタクリル系樹脂板が得られる。
【0008】
本発明で用いられるメタクリル系樹脂板とは、メチルメタクリレート単独あるいはメチルメタクリレート50質量部以上と他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との(共)重合体からなる樹脂板である。
【0009】
メチルメタクリレートと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、単官能のものとして、例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2− ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸などの不飽和酸類;スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどが挙げられる。多官能単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。また、上記メタクリル系樹脂板は、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位を含んでいても良い。なお、(メタ)アクリとは、「アクリ」及び/又は「メタクリ」を意味する。
【0010】
本発明で用いられる片面、または両面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板は、表面硬化層を有さないメタクリル系樹脂板の表面に硬化性組成物を塗布し、またはそのようなメタクリル系樹脂板を硬化性組成物に浸け込み、次いで熱または紫外線(UV)で硬化することによって得る方法、鋳型に硬化性組成物を塗布して熱またはUVによって硬化した後に、その鋳型を用いてメタクリル系樹脂板のキャスト重合を行うことで得る方法、等が挙げられる。なお、鋳型の表面を転写し、ブツ等の欠陥を生じにくい後者の方法がより好ましい。
【0011】
硬化性組成物としては、紫外線等の活性エネルギー線の照射や加熱等により、硬化するものであれば、特に限定されるものではなく、なかでも(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物が好適なものとして挙げられる。なかでも、光硬化性組成物が好ましく、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と光重合開始剤の使用が、紫外線等の活性エネルギー線の照射により高い硬化性を示し、硬化速度が良好であるため、より好ましい。
【0012】
光重合開始剤は、特に限定されるものではなく、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等を挙げることができる。上述した光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
光重合開始剤の添加量は、重合性化合物100質量部に対し、0.1〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部以上であると、硬化性組成物の硬化性が向上する。一方、10質量部以下であると、硬化後に形成されるハードコート被膜の着色が発生しない傾向がある。
【0014】
硬化性組成物中の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物の含有量は(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物の含有量が30〜80質量部、(メタ)アクリロイル基を1個または2個有する(メタ)アクリレート化合物の含有量が20〜70質量部であることが好ましい。(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物の含有量が80質量部以下であれば、硬化性組成物を硬化させる際の収縮率が小さく、表面硬化層にクラックが発生しにくくなる。また、該表面硬化層を有する積層樹脂板に反りが生じにくくなる。さらに表面硬化層とメタクリル系樹脂板の密着性が良好となる。(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物の含有量が30質量部以上であれば、表面硬化層の耐擦傷性が良好となる。
【0015】
重合性化合物の具体例について、以下に示す。
アクリロイル基を1個または2個有する(メタ)アクリレート化合物として、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートが挙げられる。また、3量化により得られるポリイソシアネート(例えば、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)と、活性水素を有するアクリルモノマー(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)とを、ポリイソシアネート1モル当たりアクリルモノマー3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート、トリス−ヒドロキシエチルイソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート、公知のエポキシポリアクリレート、公知のウレタンポリアクリレート、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸等の多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸とから得られる、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するエステル化物が挙げられる。上述した重合性化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
硬化性組成物には、目的に応じて従来から使用されている種々の添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば界面活性剤、レベリング剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、難燃剤、可塑剤等を挙げることができる。添加剤の添加量は、得られる硬化膜の表面硬化層の物性が損なわれない範囲内で適宜選択できる。
【0017】
以上の方法で得られる本発明の片面または両面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板としては、例えば「アクリライトMR」(商品名、三菱レイヨン(株)製)が挙げられ、アクリライトMRを用いることが好ましい。
【0018】
本発明で用いられる少なくとも片面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板の厚さは、用途に応じて適宜選択できるが、通常0.5mm〜10mmのものが使用される。また本発明によるメタクリル系樹脂板の表面硬化層の厚さは、一般に1μm〜100μm、好ましくは5μm〜30μmの範囲にある。
【0019】
エチレン含有量が55〜90質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートは、本発明のメタクリル系樹脂板との接着性が良好で、さらに透明性が良好である。エチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチレン含有量が90質量%以下であればメタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体の接着性が良好となり、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートの透明性が良好となる。エチレン−酢酸ビニル共重合体中のエチレン含有量が55質量%以上であればエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートの強度が上がる。上記エチレン含有量のより好ましい下限は60質量%、より好ましい上限は80質量%、更に好ましい下限は65質量%、更に好ましい上限は75質量%である。メタクリル系樹脂板との接着性が良くない場合には、積層体に物体が衝突し積層体が破壊した場合、メタクリル系樹脂板の破片がエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートから剥離し周辺に飛散する恐れがある。エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートの透明性が良くないと積層体の透明性が悪くなり、したがって窓材として用いた場合、視界が悪くなってしまう。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート自体の強度が低いと、積層体に物体が衝突した場合、ちぎれ、メタクリル系樹脂板と一体となって飛散する恐れがある。
【0020】
さらに、これらエチレン−酢酸ビニル共重合体に、該メタクリル系樹脂板に一般に用いられる紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、連鎖移動剤、赤外線吸収剤、着色剤、接着力調整剤等各種の添加剤を含有させてもよい。メタクリル系樹脂板との接着性をより向上させるために、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体はシランカップリング剤等の接着力調整剤を含有することが好ましい。
【0021】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートの厚さは、0.1〜1mmが好ましく、更に好ましくは0.2〜0.5mmである。
【0022】
本発明の樹脂積層板は、メタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが表面硬化層を介して積層されたものであるが、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートのメタクリル系樹脂板が積層されていない側にさらに表面硬化層を介してメタクリル系樹脂板が積層されてもよい。さらに本発明の樹脂積層板は、(n+1)枚のメタクリル系樹脂板と、n枚のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが、交互に積層されてもよい。但し、nは1以上の整数を表す。
【0023】
特に車輌グレージング、建材ガラスに使用する場合は両表面がメタクリル系樹脂板であり内層にエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートを有する3層以上の積層板が好ましい。この場合、メタクリル系樹脂板としては0.5〜10mm、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとしては0.1mm〜5mmのものを使用することが好ましい。また、メタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが表面硬化層を介して積層されたもののエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート側に、ガラス、ポリカーボネート樹脂等を積層することもできる。
【0024】
特に表示窓保護板に使用する場合はメタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートの2層の積層板を用い、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート側でガラスと接合し、表示保護板とすることが好ましい。この場合、メタクリル系樹脂板としては0.5〜1mm、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとしては0.1mm〜0.4mmのものを使用することが好ましい。
【0025】
積層板の両表面は用途にもよるが、表面硬化層を有していることが好ましい。車輌グレージング、建材ガラス、表示保護板において、露出している面に表面硬化層を有していると傷がつきにくく、美しさをたもつことができる。この場合、積層させるメタクリル系樹脂板としては両面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板が好ましい。
【0026】
本発明の積層体を得る方法としては、例えば熱プレスまたはオートクレーブによる接着方法が挙げられる。熱プレスによる接着方法は、あらかじめシート化したエチレン−酢酸ビニル共重合体をメタクリル系樹脂板間に挿入して仮止めし、この重ね合わせたものを加熱することでエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートを軟化させ、さらにプレスにより加圧することで一体化するものである。オートクレーブによる接着方法はあらかじめシート化したエチレン−酢酸ビニル共重合体をメタクリル系樹脂板間に挿入して仮止めし、この重ね合わせたものを真空バックに封入して真空ポンプで減圧にした後、オートクレーブで加圧・加熱することで一体化するものである。
【0027】
積層体間に入った気泡を抜け易くするため、熱プレスのプレス板間が真空にできるもの、または真空バックを用いたオートクレーブによる接着方法が好ましい。加熱温度は80℃以上であればメタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとの接着力が良好となり、150℃以下であればメタクリル系樹脂板の表面状態が良好となるため、80℃〜150℃で加熱することが好ましい。加熱時間は少なくとも熱がメタクリル系樹脂板を通してエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートに十分伝わる時間を選択する必要がある。メタクリル系樹脂板の厚さが2mmの場合は10分以上の加熱が必要である。加圧時の圧力は通常0.01MPa〜1MPaである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されない。
実施例および比較例で用いた評価、試験方法を以下に示す。
(1)耐湿性試験
50℃95%に設定した恒温恒湿槽において試験片を2日間保持した後、メタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが剥離しなかったものを「○」、メタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが一部でも剥離したものを「×」とした。
(2)接着強度試験
積層体のメタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートの末端の一部が剥離した試験片の剥離したエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート部分を引張試験機(オリエンテック社製、商品名RTE−120)に備えられたチャックで固定し、さらに別のチャックで積層板本体を固定した。そして、フィルム(エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート部分)を180°方向へ100mm/minの速度で引張り、そのときの剥離強度を測定した。
(3)光学特性評価
ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、商品名HM−150)を用い、全光線透過率とヘーズ値を測定した(JIS K 7361−1、7136準拠)。
(4)耐磨耗性試験
荷重:500g、磨耗輪:72±5IRHDの硬度を有するゴム輪、回転速度:60rpm、試験回数:500回の条件でテーバー磨耗試験(東洋精機製作所社製、テーバー磨耗試験機)を行い、試験前後の曇価を(3)光学特性と同様に測定し、Δヘーズ(試験後の曇価−試験前の曇価)で表される数値を求めた。
(5)耐衝撃性試験
積層板を100mm×100mmに切り出し、23℃または−20℃で24時間以上保持した後、該積層体の4辺2cmを挟んで固定する冶具に取り付け、1.04kgの鋼球を高さ1mまたは0.5mより該積層体の中心に当たるように自由落下させた。割れた破片が飛散しない、および鋼球が貫通しないものを「○」、割れた破片が飛散する、または鋼球が貫通するものを「×」として評価した。
【0029】
実施例1
TAS(コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合混合物)(大阪有機化学工業(株)製)35質量部、C6DA(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート)(大阪有機化学工業(株)製)30質量部、M305(ペンタエリスリトールトリアクリレートM−305)(東亞合成(株)製)10質量部、M400(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートM−400)(東亞合成(株)製)25質量部およびDAROCUR TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド)(チバ・ジャパン(株)製)2質量部からなる光硬化性樹脂組成物をSUS板(30cm×30cm)に滴下し、その上に厚さ20μmのポリエチレンテレフタレート製の2軸延伸フィルム(ダイヤホイル社製)を配置し、JIS硬度40゜のゴムロールでしごき、光硬化性樹脂組成物層の厚さを15μmに設定した。その後、PETフィルムを剥離し、18℃の雰囲気下で10分放置した後、出力120W/cm2の高圧水銀灯下30cmの位置を、光硬化性樹脂組成物の塗布面を上にして2.5m/分のスピードで2度通過させ硬化させた。この様に処理した2枚のSUS板を硬化被膜形成塗布面が内側になるように間隔(2.44mm)を置いて対向させ、周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、注型重合用のセルを作製した。このセルに、メタクリル酸メチル重合体(分子量(Mw)240000)20質量%とメタクリル酸メチル80質量%からなるシラップ100質量部と、重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシピバレート0.22質量部とからなる樹脂原料を注入し、82度の水浴中で30分、次いで、130度の空気炉で30分重合した。冷却後SUS板を剥離することにより両表面に硬化膜を有する厚さ2mmのメタクリル系樹脂板を得た。
次に、この両面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板2枚とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート「S−LEC EN−UT 0.4mm」(商品名、積水化学工業(株)製、エチレン含有量67質量%)とを、メタクリル系樹脂板、S−LEC EN−UT、メタクリル系樹脂板の順で積層させて仮止めした。次いで、真空バックに封入して真空ポンプで減圧にした後、オートクレーブに入れ、0.08MPaに加圧し、その10分後に昇温を開始して系内を80℃に加熱し、47分後に加熱を停止した後、冷却することにより積層体を作製した。耐湿性試験の評価結果を表1に示す。
また、両面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート「S−LEC EN−UT 0.4mm」(商品名、積水化学工業(株)製、エチレン含有量67質量%)、厚さ250μmのPETフィルム(東レ社製、商品名 ルミラーS10)とをメタクリル系樹脂板、S−LEC EN−UT、PETフィルムの順で積層させて、上記同様に積層体を作製し、接着強度試験を行った。なお、PETフィルムは、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートと一体として同じチャックに固定して測定した。接着強度の評価結果を表1に示す。
【0030】
実施例2
実施例1と同様に作製した表面硬化層を両面に有しているメタクリル系樹脂板2枚とエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シート「S−LEC EN−UT 0.4mm」(商品名、積水化学工業(株)製、エチレン含有量67質量%)とを、メタクリル系樹脂板、S−LEC EN−UT、メタクリル系樹脂板の順で積層させて仮止めした。プレス板内を真空にできる熱プレス機「NIC200ラミネートプレス機」(商品名、日精樹脂工業(株)製)を使用して、100℃で15分予備加熱後、さらに5分100℃を保持しながら1MPaでプレスした後、冷却することにより積層体を作製し、光学特性評価、耐磨耗性試験、耐衝撃性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0031】
比較例1
表面硬化層を有していないメタクリル系樹脂板を作製したこと以外は実施例1と同様にして2種類の積層体を作製して、耐湿性試験、接着強度試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0032】
比較例2
片面のみに表面硬化層を配置したメタクリル系樹脂板を作製し、硬化層がない面がエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートを介して積層される様に配置した以外は実施例2と同様に積層体を作製して、光学特性評価、耐磨耗性試験、耐衝撃性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0033】
比較例3
メタクリル系樹脂板の厚さが4mmであること以外は実施例1と同様に表面硬化層を両面に有しているメタクリル系樹脂板を作製した。得られた表面硬化層を両面に有しているメタクリル系樹脂板の光学特性評価、耐磨耗性試験、耐衝撃性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0034】
比較例4
メタクリル系樹脂板の厚さが4mmであり、かつ表面硬化層を形成しないこと以外は実施例1と同様にして、表面硬化層を有していないメタクリル系樹脂板を作製した。得られた表面硬化層を有していないメタクリル系樹脂板の光学特性評価、耐磨耗性試験、耐衝撃性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0035】
比較例5
実施例1と同様に作製した表面硬化層を両面に有しているメタクリル系樹脂板2枚を、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートを介在させずに直接重ねて、光学特性評価、耐磨耗性試験、耐衝撃性試験を行った。評価結果を表2に示す。
【0036】
評価
上記で作製した各積層体について、上記の評価、試験方法に従って評価した。結果をまとめて表1、2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
上記の実施例1より明らかなように、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートに表面硬化層が接する場合、接着力が非常に高くなり、ひいては耐湿性、耐衝撃性に著しく優れる。
実施例2より得られた積層体は耐衝撃性、耐磨耗性、透明性に優れ、車両グレージング材用樹脂積層体、建材ガラス用樹脂積層体、表示窓保護板用樹脂積層体に好適なものであった。
以上より、実施例1または2が車両グレージング材用樹脂積層体、建材ガラス用樹脂積層体、表示窓保護板用樹脂積層体として優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明による樹脂積層体は、車両グレージング材用樹脂積層体、建材ガラス用樹脂積層体、表示窓保護板用樹脂積層体などとして、広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に表面硬化層を有するメタクリル系樹脂板と、エチレン含有量が55〜90質量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが、前記表面硬化層を介して積層されている樹脂積層体。
【請求項2】
前記表面硬化層が、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリレート化合物単位30〜80質量部と、(メタ)アクリロイル基を1個または2個有する(メタ)アクリレート化合物単位20〜70質量部とを含む、請求項1記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記メタクリル系樹脂板の両面に表面硬化層を有する、請求項1記載の樹脂積層体。
【請求項4】
(n+1)枚のメタクリル系樹脂板と、n枚のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂シートとが交互に積層された(但し、nは1以上の整数を表す)、請求項1記載の樹脂積層体。
【請求項5】
車両グレージング材用である、請求項1記載の樹脂積層体。
【請求項6】
建材ガラス用である、請求項1記載の樹脂積層体。
【請求項7】
表示窓保護板用である、請求項1記載の樹脂積層体。

【公開番号】特開2013−91201(P2013−91201A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233671(P2011−233671)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】